Fate/Heterodox Tale   作:今日は晴れ

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tale 02 「慢心の報い」

 01

 

 7月26日 午後6時56分

 

 東京都新宿区、旧都庁につながっている地下道は現在、戦場と化している。

 

 柱の陰に隠れる久連とアサシンを狙った飛翔物――地上に通じる旧都庁出口側の外から放たれた一撃は、全ての柱を抉りながら前進し、僅か5秒たらずで地下道を廃墟とした。

 

 通路にはウインドウのガラス片、柱の建材、柱そのものや天井の材などもはがれおち、あたりに錯乱している。

 

 廃墟となった地下道をアサシンは襲撃者のいる出口側に駆けていた。

 

 本来であればありえないことである。駆けるべき方向が違う、この場合は駅側に、つまり撤退が望ましい。

 

 その理由として、この場所から襲撃者のいる出口まで約100メートルほどの距離がある。しかもその距離において襲撃者の姿は通路にはいない、出口の外から狙っている。また相手に有利な条件も多い。さっきの一撃で通路内は蛍光灯が半分以上割れ、光量が半減したがまだ照らすには十二分の明るさがある。それに比べ、外はもう暗い。  明々とした場所から暗闇を見るのと、暗闇から光の射す場所を見るのでは話にならないほど後者に分がある。更に通路は一直線、どうみてもこの通路は狙撃にお誂えの場所。

 

 しかし、アサシンは撤退できない。撤退できない理由があった。それは、マスターである久連のことである。

 

 確かにそれまでアサシンと久連に襲いかかった飛翔物は恐ろしい。常人の目と脚力であれば、一方的な空間ごと抉る撃を回避することも、また範囲外まで逃げることすら不可能であろう。そもそも常人であれば襲撃者の姿は見えず、一方的に狙撃を受けるのみ。

 

 だが、常人であればの話。

 

 アサシンは常人ではない。いやその前提すら間違っている。人という常識の形を採りながらその身は、人々の信仰や過去の偉業などの神秘がその身に組みこまれたものだ。その身体能力は常識という理から外れている。アサシン単体ならば、更に、アサシンの奥の手を使えばいともたやすく離脱できるだろう。しかし、人である久連も離脱しなければならない、となれば話は別だ。

 

 アサシンの奥の手を使い、久連が全力で走ったとして、何十メートルかは距離を稼ぐことが可能である。あの柱をなぎ倒した攻撃も、一撃程度ならば弾いて防ぐこともできると判断した。

 しかし、今は通路の中程、駅側まで100メートルもあり、やがて敵もこちらの所在を把握して先ほどの攻撃を連続で、もしくはあれを上回る物を放たれば、さすがにマスターを守りながら撤退することは不可能だった。

 

 よって、アサシンができる戦略は一つのみ。

 

 前進突撃―全力を持って敵がいる出口側に向かって駆ける。

 確かに、こちらは前進中に敵の攻撃にさらされるだろう。しかし、勝機は、いや、生存確率は、久連の連れての撤退よりも高い。

 

 もしも敵を攻撃できずとも、撤退さえしてくれればそれでいい。

 それに遠距離からの攻撃ということは、敵は『アーチャー』だ。

7騎中、最も遠距離攻撃に特化したサーヴァント。他のクラスとか一線を画する能力を有している。

 特殊な攻撃方法、サーヴァント戦はサーヴァント同士がぶつかり合い、どちらか片方を打ち破るのが一種のセオリーだがアーチャーはそれができるほどの力を有していない、接近戦を不得意とするサーヴァントだ。しかし、弱者というわけではない、むしろ7騎中もっとも有利なクラスである三騎士になるほどの上位クラスのサーヴァントと言っても過言ではない。

 

 マスターであろうとサーヴァントであろうと真っ向から勝負を挑んでも対峙した者の知覚外から一方的な攻撃を与え勝利を収める。それがアーチャーの戦法であり、この奇襲もアーチャーとする判断材料の一つ。だが、接近に持ち込まれる前に相手のサーヴァントを倒す必要がある。

 

 前述したように、アーチャーの弱点は接近戦である。生前よほど接近戦を得意としていた英霊でなければその攻撃方法を召喚に際しクラスの制約に当てはめられ、持ち合わせない者が殆ど。つまり近づけられれば手の打ちようがなく、一転して狩り取られるのはアーチャーの首ということになる。

 

 よって、アサシンは駆けている。敵が焦りのあまり、無茶苦茶な戦法を取らず、冷静であればある程、接近されればされるほど撤退が望ましいと考えるだろう。

 

 だが、それまでに最善手は打ってくる。いや撃ちこんでくる。

 

 百メートル、常人であってもそれほどの距離でもない。それにアサシンの脚力であれば道に多くの遮蔽物があろうとも5秒足らずで走破する。しかし、狙撃を受けている、となれば話は変わる。

 

 まだ、二十メートルほどしか進んでいなかった。

 

 瓦礫を乗り越え、平坦な道を走り抜け、たまに身を隠せる場所があればそこを選択し、身を置く。

 

 障害物というものは時と場合によれば頼もしい味方にも、恐ろしい敵にもなる。

身を敵から隠匿し自らを狙う飛翔物から守る盾とすることができる。しかし、その障害物に足を取られそれが隙となると、戦場では死に直結する。

 

 だが、アサシンはあえて隠匿する影として使い、盾としては利用していない。身を隠しても一瞬、呼吸を整えるために隠れる態度。

 

 アサシンは分かっていた。もしも、二撃目の攻撃、全ての柱を抉った攻撃をもう一度放たれれば、今度は遮蔽物に阻害されず、隠れた障害物ごとアサシンを撃ち抜くだろう。

 

 だから、常に走っている。仮にその隠匿に意味を持たせても、フェイントをかけるためにタイミングを遅らせることのみとしていた。

 

 明らかな遮蔽物なども隠れずに素通りしたり、隠れたりとフェイントをかける。かく乱のため、アーチャーにパターンを読ませない、文字通り先手を打たせない、否撃たせないように、接近するためだ。

 

 狙撃を受けているならば、上記のように一度でも先が読まれ、そこを狙い撃ちされたら終わり。だから不規則な移動こそが重要なのだが、アサシンの中には疑問があった。

 

 二撃目から、もう10秒も経っている。しかし、次の攻撃が飛んでこない。

 初撃から二撃目まで5秒足らず。もしも先ほどの一撃の反動が大きく、まだ次弾を放てないというのならばある種納得もできるが、サーヴァントの攻撃としてあまりにもお粗末すぎる。

 

 ためしに、地面を踏みしめ、跳んだ。それまでと比較にならないほどの跳躍。

 

 一気に10メートルは稼ぐことはできるだろう。しかし、

 

 通路の途中、天井から落下し杭のように突き刺さっている、天井板の建材を空中で蹴り、真横に軌道を修正する。

 直後、アサシンが何もアクションを起こさなければ進んでいた空間を、何かが抉る。それはアサシンが蹴った崩落していた天井板の脇を通り過ぎた時、先ほどとは違い、天井板を巻き込むことなく後方に流れていった。

 

 ちなみに、その中でもコンマ何秒ではあるが、僅かに音が遅れているのをアサシンの聴力は聞き逃さない。

 

 やはり、だ。

 物陰に隠れ、呼吸を整えながらアサシンは思案する。

 

空中では本来方向転換など不可能、よってそれを狙い一撃を放ったのだろう。が、あまりにもお粗末すぎる攻撃

 

 確かにあの一発が当たっていればそれなりにダメージがあったが、それなり、決定打となる一撃どころか支障なく行動できる攻撃。常人であれば認外の脅威なのだろうが、アサシンはその飛翔物が、楕円形の物、本来神秘を込められていない物に神秘の塊であるサーヴァントに、己が武器することによって昇華されていることも見ることができた。

 

 敵は攻撃する気がなさすぎる、まるで接近を許すどころか、接近戦に持ち込もうとしているとも思える。

 

 一度呼吸を整えるため、タイルがめくれあがり、壁のようになっている物陰に隠れる。

 

 アサシンはもてるだけの、宿っているだけの思考を巡らす。しかし、妥当な答えが見つからない。

 

 考えはいくつかが浮かんだ。

そのうちの一つ、あの攻撃はアーチャーだとこちらに誤認させるためのブラフ。攻撃を行っているのは魔術師のクラスである『キャスター』か魔術師であるマスターの攻撃。

 しかし、即座に否をだす。

 

 あの攻撃は明らかに物理的物質に魔術的神秘がこめられているが、それを魔術師であるマスターが行うにはいささか度が過ぎている。それにキャスターであっても接近戦が不得意であることには変わりない。

 サーヴァント戦においてのセオリーの例外がもう一騎、キャスターのクラスであり、魔術師の陣地でもある工房を制作し、自らを有利な状態において戦闘を行い、基本は穴熊の戦略をとる。やはり接近戦を苦手としている。仮に出口に罠を仕掛けていたとしても、無論認識阻害の魔術は使用しているだろうがここは人々が往来する通路、何かの拍子に衆目にさらされる危険も考慮すれば不可能に近い。

 

 他にもいくつか考えがあるが、どれも否としか言いようがなかった。

 

 そんなことを考えていると、気配がする。空気が歪むような、前方から威圧感が感じられる。つまりこれほどまでとは比べ物にならないほどの威力がこめられていることがわかった。

 

 これから放たれる一撃で勝負を決めようというのか。

 

 全てを吹き飛ばし、巻き込む一撃でアサシンを、いや、その後ろに隠れているマスターを殺すつもりなのか。

 

 アサシンは軽く、皮肉るように笑みを作った。

 

 確かに、自分が回避してもマスターである久連が巻き込まれれば、あの軟弱なマスターには耐えきれない。マスターという現界への寄代と魔力源を失えばアサシンは消滅するしかない。

 

 だが、そんなことをさせるものか。

 

 アサシンは手に、骨董品のようなランタンが召喚される。ガラスも煤で曇りきっている中に灯った火はあたりを照らすことも、そもそも光源にはなることには不可能だ。

 

 そのランタンから、黒煙が立ち込め、それは瞬時に通路内を曇らせる。

 

 アサシンは軽く、つぶやく。まるで囁くように、歌うようにつぶやく。

 

 「『■■■■』」

 

 それがアサシンの奥の手の名称。

 

 聖杯戦争にまぬかれる英雄の魂――英霊には、その英霊たる証拠、生前の偉業がある。

サーヴァントは自力のみで聖杯を手に入れるのではない。奥の手と呼べるものが存在する。

 

 自らの英霊たらしめている功績そのもの、「偉業を物質化した奇跡」

 その名は、宝具

 

 発揮すれば不利な状況ですら逆転させる、身体能力のみならず、サーヴァントに許されたもう一つの人類では打倒不可能としらしめる要因。

 しかし、相対した相手に自らの偉業を知らせるために真名を暴露させてしまう――自らの弱点をさらすことに他ならない、諸刃の剣。

 だが、あえてそれを使用した。

 

 

 自らを守るためではなく、マスターを守るために。

 

 

 ランタンから伸びた黒煙は後方にその煙を立ち込めさせる。濃霧、いや壁そのもののように後方を遮断する。

 無論、敵も宝具を使えばこの黒煙を晴らすこともできるだろう。だが、これも宝具だ。完全に威力を消失させることは不可能だろうが、幾分和らげることができる。結界としての効力を持つ漆黒の霧。

 しかし、この黒煙の結界も本来の使い方ではない。

 

 外部からの侵入を防ぐための遮断、それとこの立ち込めた煙は毒ガス、一般人が吸い込めば即座に呼吸困難に陥り、肌は焼けただれる。魔術を解析する魔術師であれば防ぐ手段もあるだろうが、それでもダメージを受け続ける。サーヴァントには未知数ではあるものの、何らかの効果はあるだろう。

 

 しかし、これは長時間使用不可、その代償として、煙の向こうにいる久連は驚いていることだ、一気に魔力を持っていかれて。宝具は確かに強い。しかし、その代償として通常とは比べ物にならないほどの魔力を消費する。

 

 もしも、最初、100メートルの距離をこの煙で覆うとしようとしていたなら不効率であり膨大な魔力を消費し久連が干からびていたし、何かしらの想定外のことが起きれば対応などできない。

 

 だから、近づくまでの間、久連がいる場所を隔離するために使わせてもらう。

 

 立ちあがり。右手に握っていたナイフを逆手に持ち替え、左手のナイフをケースに収める。

 正面にいる敵を見据える。

 

 暗がりの中から狙いを定めているだろう敵に向かい、呼吸を整え、地面を蹴った。

 

 02

 

 加速、加速、加速

 

 アサシンは、右手にもったナイフすら本来ならばナイフケース納めてしまいたかったが、それでは攻撃に転換できない。そのため、最小限度の装備、右手にもつナイフを持っていたが、それですら重く感じる。

 

 最小限度の動作で瓦礫を飛び越え、平地を駆ける。敵に動きを読まれても構わない、それ以上の速度で駆ける自信があった。

 

 そして、敵にも動きがある。

 

 空気が張り詰める。

 

 空白

 

 瞬息、弾指、刹那、どの時間単位が正確であったろうか、その時間、アサシンは自らに向かい飛来する物を見た。

 

 人間であれば、視認どころか、瞬きのために目を閉じもう一度瞼を開ければ、自らの身がえぐれ、文字通り半身になっていることだろう。

 

 しかし、再度、言う。アサシンは人ではない。その身はエーテルで構成され、偉業を成した霊魂やその偉業に対しての人々からの信仰が形となった物

 

 だから、視認することができた。そして、その一撃の脅威も判断することができる。

 速すぎる。今はまだ距離がないため、その攻撃の衝撃波が遅れてはいないが、コンマいくつかもの遅れがあった。

 

 その衝撃波に巻き込まれ、瓦礫が再び舞い上がるが、その衝撃波を産み出す飛翔物が当たった箇所は消滅していた。抉られるのではない、正真正銘物質がこの世から消失している。

 

 いくら神秘を秘めている身といえども、いや、神秘を秘めている身だからこそ、あの一撃に触れた瞬間アサシンは消滅する。

 

 だが、アサシンは怯むどころか、加速する。そして、転がっている巨大な観葉植物の植木鉢を乗り越える際、その鉢を蹴り、跳び上がる。

 

 正確に記すならば、飛翔する。

 

 無論、アサシンの背には翼など生えてない。しかし、明らかに重力に逆らい、飛翔した。

 

 壁に向かい、工事途中で廃棄された金属板がしきり板のように区切られた壁に向かう。その距離も、15メートルほど離れているというのに飛翔した。しかし、このままでは頭から壁に激突する。

 

 だが、その直前、体を壁と並行に、まるで壁が地面となるようにし、走り幅跳びの選手が着地の際のように脚を地面に突き出すように姿勢を取る。しかし、その体制は走り幅跳びではなく、まるで獲物を狙う猛禽類を想定させていた。

 

 そのまま、右足を壁に衝突させるように、着地。その際、簡単に組み合わさっていた壁板が外れ、倒れかけるが、もう一歩、左足でその倒れかけた壁を蹴り、何事も無かったかのように隣合わさっている壁のプレートに着地。

 

 距離にして僅か2メートル。だが、その間、二枚のプレート板を走った。

 

 重力というものが彼女には作用していないのか、壁を走る。

 

 その間、通路の真中を敵の放った一撃が通り過ぎていった。アサシンにかすりもせずに通り過ぎる。しかし、その一撃を外したことで投石者が責めを追うというのもいささか無理な話。少なくともアサシンが跳び上がるまでの通路は瓦礫で埋め尽くされ、もしも左右によけたとしても致命的な一撃を与えて巻き込んでいた。最善手と呼ぶにふさわしい一撃であった。

 すぐにその飛翔物もアサシンの背後で勢いも失せ、黒煙の壁にぶつかり消失する。最初からアサシンのみを狙った一撃だった。

 

 しかし、安堵するのは早すぎる。その一撃を避けようとも、衝撃波が襲う。

 

 神秘を纏わない攻撃にはサーヴァントは原則として傷を与えることができない。しかし、神秘を秘めた攻撃によって生じる、衝撃。これも立派な攻撃だった。

 

 何もしなければ、何の行動も起こさなければ、アサシンの華奢な体、白い肌はずたずたに引き裂かれてしまう。

 

 最初の一撃で、この通路を廃墟に変えたが、その際に壁や天井、あらゆる場所に亀裂が走っていた。しかも、飛翔物の過ぎ去った線上にはない箇所に、深い亀裂が走っている。

 

 あれをくらえばひとたまりもないだろう。

 

 アサシンは壁を蹴り、前方に進む。左手でナイフケースからナイフを抜き、前方に放つ。強大な壁となってせまりくる衝撃波に。

 

 幾分かナイフによって削がれるものの、それは迫りくる津波に建てられた一本の灯台のようなものだ。防波堤ではなく灯台。威力は減退されてもそれは所詮一部。しかし、いくら減退させても相殺は不可能。

 ここでアサシンの命運は尽きた、否尽きた、はずだった。

 

 

 迫りくる衝撃波を、右手で持つナイフで一閃。衝撃波を叩き斬る。

 

 本来衝撃波というものは叩き斬るなど不可能。相殺させる、というのが正しい表現なのかもしれない。だが、アサシンは一閃、自らに襲いかかるその衝撃波を、まるで質量をもつバターのように切り裂いた。

 

 しかし、更なる方向転換は不可能であったのか、数メートル進み、そのまま、着地する。

 

 再びの衝撃にかき回されたあたりは物音が絶えずやかましい。

 最初に衝撃を防ぎ、地面に金属質な音をたてながら滑るナイフを確認。そのナイフが転がった瓦礫の上まで瞬時に移動し、拾い上げるとそのままケースに収めた。

 

 アサシンは現在、自分が立つ場所を確認する。

 距離にして、宝具を発動した場所から、僅か30メートル。もともと、20メートル進んでいたため、残り50メートル

 

 あと一息。駆ければ一息だ。

 

 あたりを見渡すが、地下道には先ほどと比べ物にならないほどの埃が立ち込めていた。しかし、視界がゼロというわけではなく、30メートル程度ならば見通すことが可能なほど。

 

 右手に残ったナイフを納めようとする。アサシン特有のスキル「気配遮断」を用いれば視認と聴力以外自分を発見することはできなくなる。しかし、それは戦闘態勢に入ってしまえば極端に低下する。ナイフを持っているだけでは低下はしないものの、動きを阻害するかもしれない。そのため、余計なナイフを――

 

 だが、その手を止め、構えなおす。

 

 前から、何かが近付く気配がする。先ほどの衝撃であたり一面に埃が立ち込めて視界がほぼ見渡せない状態だが、何かが放たれた。

 もしも、さっき、この惨状を作り出した一撃と同じ物であったなら予測することは可能だが、回避は不可能、しかし、あのような威力の攻撃は何度も行えないことが分かっている。

 

 二段構えだったのか

 

 威力の大きな攻撃でそちらに注意を払わせ、その後にモーションも少なくて連射可能な攻撃を放つ。初撃のような攻撃であってもこちらは満足に動けなくなる。その後にもう一度さきほどのような大きな攻撃で葬り去ればいい。

 

 しかし、それは間違いだ。アサシンは内心ほくそ笑む。

 

その魔弾が仕留めようとしているのはアサシン。7騎のサーヴァントの内もっとも気配を読むことに卓越したサーヴァント。すでにその気配を察している。

 

 その魔弾も初撃と三撃目の中間ほどの威力の物だと仮定しているが、その程度ならばナイフで弾くことも防ぐことも可能。

 

 と、アサシンはその時になって、前方から接近するもう一撃を見た。

 先ほどの一撃とは違い、いや、今までの物と比べてもひどく遅い。衝撃波も纏っておらず、完全にただの弾いや、球だ。

 

 右手に握っていたナイフを納めるべきか考えるが、何があるのか分からない。そのため右手にナイフを握ったまま、地面を蹴って、再びの飛翔。

 

 あの一撃は簡単に、すれ違うようによけることもできる。そもそも、あのまま仁王立ちしていても当たらない。焦るあまり、次弾を出鱈目に撃ってしまったか?

 

 それにしては、あまりにもおざなりすぎるし、今までの攻撃が正確すぎる。

 では、なぜ、この攻撃だけ?

 

 思案しながら、なんの苦労もなく、アサシンはその球をかわす。飛翔しながらかわした。もうすでにその球に興味を失っていたため、アサシンは見逃していた。それが光を纏っていることを。

 

 そして、その球は、その一撃に変化が訪れる。

 

 完全に回避した一撃は、アサシンの後方にて不可思議な軌道を描いた。その光球は空中にて大きく湾曲し、アサシンの背後から襲いかかった。

 

 

 

 アサシンはそちらを、後方を一度だけ見る。疑問が晴れず、確認のために一瞬だけ視線を向けただけだったが、その軌道を見て浮かべたのは、驚愕より疑問の顔

 

 光球がアサシンに襲いかかる。とっさに、空中だというのに、アサシンは体をひねって回避しようとしていた。

 

 しかし、それは、得物に襲いかかる猟犬のようにアサシンが動けば猟犬も方向を変える。

 

 アサシンの背に牙を立て襲いかかり、大きく湾曲しながら進んでいたため、背から左わき腹に食らいつく――アサシンのわき腹に光球がめり込む。

 

 勢いがすさまじく、アサシンが出口方向に跳躍していたが、光球という力を受けたため、無理やりな方向転換を受ける。

 

 左わき腹にめり込んだ光球はアサシンごと、右側に大きく舵を切り、シャッターの下りていた、しかし、二撃目の衝撃を受け、横一文字に切り裂かれたシャッターに叩きつけられた。

 

 アサシンはそれでも意識があったのか、立ちあがろうとするが、腰のパレオのようなナイフケースが光となって消滅し、手に握られていたナイフが消滅すると、アサシンもその場に顔を地面につける。力なく横たわった。

 

 アサシンのわき腹にめり込んでいた光球が地面に転がる。それはやがて纏っていた光が失せ、それは楕円形の、ルーローの三角形の形をした、拳大の石だった。

 

 最後の気力で持っていたのか、しかし、やがて20メートルの地点に置かれて黒煙を吐いていたランプも消失し霧もたちどころに飛散した。

 

 03

 

 何が起こったのか、理解が一切追い付いていない。

 

 いきなり、ひどい虚脱感が襲い、もしも立っていたら倒れていた。その虚脱感が魔術の練習で針に魔力を込めすぎて一時的な魔力不足の時に似ていた。いや、いつも現状、魔力が減り続ける状態、アサシンに魔力を供給しているのだから。そして、魔力が急激に減ったってことは、唯一の供給元であるアサシンが何かを使ったのか、そうわかったが、何かできるわけではなく、瓦礫から顔だけを僅かに出口方面を覗う。

 

 巨大な、黒い壁ができていた。いや、カーテンのように壁を構成している材質が蠢いている。だからあれの正体が何なのか、俺にははっきりしなかった。しかし、何度か、その壁がこちら側に崩れ、そして元通りになる。

 

 だから、俺を守ってもらっているものなんだろうな、ということは何となく理解していたが、その壁が突如として飛散した。

 

 壁の向こう側は、めちゃくちゃになった光景は変わらない。

 それどころか、前よりも悪化してる。しかし、靄のような埃がまってあたりを白くしていた。

 

 うわ、ひどいなこれは……そういえば、アサスィは?

 

 そんなことをいっても、俺の目で見たわせるわけがない。とりあえず、平坦な場所を探すがいない。逃げられたのかな、よかっ…………

 

 煙が晴れて、より遠くまで見えるようになった。その奥、壁際、シャッターが下りている前、黒いなにかが横たわっている。それは、黒い物だということ、黒に混じって白い何かが横たわっていた。それは人間だった。その人物を俺は知っている、銀の髪とアイスブルーの瞳を持つ少女が倒れていた。

 

 アサスィがやられた。その事実がはっきりとする。

 

 ここでアサスィの言葉が蘇る。つまりサーヴァントはサーヴァントにしか倒せない。

つまりアサスィが破れた。敗北だ。しかも、敵がまだ生きている、その事実、更に、敵は遠距離攻撃の手段を持っている。

 

 よって、小学生でも導き出される合理的な答え、今も狙撃されて殺される危険大。すなわち逃げろ。

 

 

 

 

 

 

 ――頬を風がなでる

 

 その感覚で我に返った。

 

 気がつくと、駆けていた。

 

 というか、頭のなかで合理的な選択肢を出した時、逃げろという答えを導いたとき、命の危機とかあとから分かった、いや走っている現状で理解した。

 

 母から受け継いだ魔術刻印が光り、起動し、俺の代わりに術を行使していた。だから、でかい瓦礫があればそれを飛び越え、平坦な場所だったら駆ける。なんというか、今の光景を陸上部の連中が見たらそのままスカウトされそうな身体能力だ。

 

 

 アサスィが倒れてる旧都庁出口に向かって、駆けていた。

 

 

 アサスィがいる場所まで柱の数をみて約60メートル。ただ全力で駆けていた。

 

 「おおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああ!!」

 

 最早名前でも何でもない、咆えずにはやってられない。

 力の限り叫ぶ。自分でも敵に位置を知らせるだけだと分かっていたが、戦争映画でよく敵陣に突撃する兵士が絶叫するが、あの雄叫びは恐怖をまぎれされるためらしいけど、本当に恐怖が幾分か軽くなる。

 

 撃たれるのではないか、という恐怖で脚は鈍り、狙撃から身を防ぐための場所を探すために目は身を隠す場所を無意識に求める。

 

 だけど、さっきのやつが襲いかかれば同じだ。全部の弾を目でとらえることすらできなかった。

 

 狙われれば、それで終わり。それに立ち止まればもう脚が震えて動かなくなるだろう。さっきの戦いで漏らさなかったのが奇跡だ。ああ、我ながら小心者万歳だ。小心者万歳!

 

 ……なんで、叫んだんだろう。

 

 そんな変なテンションになっていた時、すぐ傍を、放置された改修工事現場と通路をしきっているベニヤ板のような、元は白かったんだろうけど長らく放置された所為でベージュ色になった金属の壁を切り裂いて何かが後方に流れていった。

 

 なんで、こんなことになってるんだろう。

 

 すごく短い距離だというのにランナーズハイにでもなっているのか、全てが他人事のように思える。

 

 あ、そういえば、冷蔵庫の中に先輩が修学旅行で買ってきてくれたチョコレート食べるの忘れてた。なんかすごいカラフルで食欲がなくなる色だったから食べなかったけど、食べとけばよかった。……でもなんであんなにブルーハワイも真っ青な青色なんだ? なんであんなカビが生えてもそんな色にはならないぐらいの紫色なんだろ?

 

 ああ、くそ、ちくしょう、こんなことならアサスィに見つかった時にでも本棚のエロ本全部処分しとけばよかった。今日の朝が燃えるごみの日だったからばらばらにして袋に入れればばれなかったのに、なんで、くそ!

 

 あと、童貞捨てたかった。いや、いまでもやりてぇ。童貞の男子高校生は皆思ってるよ、くそが、なんで神様は男子高なんておつくりになったんですか? いま神様の元に行ったら、そう小一時間問い詰めることができる気がする。

 

 だったら、アサスィのBカップでもどさくさにまぎれて揉めば良かった。いやでも尻がいいから尻でも触ればよかった。

 

 そういえば、もしも明日があったらアサスィの下着とか俺が洗濯することになってたのか。くそ、先生も先生だ、女性用下着でも洗って、それが引き金になったらどうするつもりだ。男子高校生が飢えた狼に豹変するなんて簡単だ、例え負けると分かっていても挑むのが餓死寸前の狼というもの、まったく、狼が猟銃で撃ち殺され、メスとナイフで解体されるとこだった。

 

 俺の足元にあった巨大な柱片が狙撃され、砕け散る。細かな破片が、左足に刺さり、痛みを訴えるが、小さな破片ばかりで怪我のそんなにひどくない、と言い聞かせ足を止めることができない。

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 もう目じりから涙が止まらない。怖い、怖い、怖い!!

 

 汗も止まらない。でも水分を取らなくて良かった。前にトイレに行っといで良かった。

 

 こけるがすぐに起き上がり、走る、走る、走る。掌がじんじんと痛む。すりむいてめちゃくちゃ痛い。あ、なんでさっき周り右しなかったんだろう、くそ!

 

 ああ、というかさっきから逃げろとか、アサスィのもとにいけとか、矛盾しまくりだろうが!! これが天使と悪魔のささやきなんですか?

 

 そんなことを思っていたら、アサスィが倒れているシャッターまで残り10メートル。

 

 だけど、気がついた。脚が止まらない。うそぉ……

 

 どっかの子供向け映画の主人公じゃないか、俺、裸眼だけど、脚が止まんないなんて。こうなりゃ

 

 「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 自分自身でも意味不明な叫びを上げて跳ぶ。いやスライディングする。顔のまえで両腕をクロスさせ、瓦礫から守るが、肘から手首までがこすれてエライことになってるのは何となくわかる。痛い、痛いけど、我慢

 

 もう、やけだ。起き上がると、アサスィの怪我の具合とか見るが、ああ、もう!!

 

 俺じゃわかんない!

 

 涙が止まらない。とにかく逃げないと

 

 アサスィを抱え、俗に言う御姫様だっこをして……アサスィの太腿柔らかないぁ、運ぼうとした。

 

 <<とまれ>>

 

 声が、通路内に響き渡る。何の因果か、最初に俺を襲ったときと同じようなスピーカーホンのように折り重なった声。違いと言えば、セイバーのマスターが女の声でがさがさの聞き取りずらい声色であったのに対して男の声で重なり合っているだけで普通に聞こえることだろうか。

 

 とまれ

 

 そういわれ、普通だったら止まる奴がどこにいる、と返す所だが、止まるしかなかった。

 

 背筋が凍りつく。

 

 <<そいつなら気絶してるだけだな、当分の間は起きねぇだろうけどよ>>

 

 やけに低くドスの効いた声。チンピラというか、声自体が若いがやけに腹の底に響くように任侠映画の幹部みたいな威厳に満ちた声。だけど口調がどうしてもチンピラっぽい

 

 <<お前さんも怪我してるみてえだが、そん位の怪我なら戦う分には支障ねえだろ?>>

 

 出口側から、こっちにこい、と叫ぶ肉声。そして、向かおうとしていた駅側の照明がすべて落とされ、出口側のみが照らされる。

 

 ああ、戦いに赴く剣闘士ってこんな感じなんだろうね。

 

 

 

 

 不心始章 第二話「慢心の報い」 終

 

 




 はい、いかがでしたでしょうか? 初の戦闘と敗北と次回、主人公久連の初戦闘になります。セイバー戦? あれは蹂躙だ。
 
 しかし、今週末、ついにFGO登場するっぽいですね、スマホ買い換えようかと悩んでます。しかし、ジャックが声付きになるんだろうか? ただし機械音声になりそうですよね、原作の描写からして。
 
 ……声優さん詳しくないのですが、某軍艦をこれくしょんするゲームのひきこもりたい駆逐艦みたいな感じだったら、すばら、いやなんでもないです。

 次回は久連君の初戦闘! 別名「久連死す!」デュエルスタンバイ!
 
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