Fate/Heterodox Tale   作:今日は晴れ

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tale 03 「決意の決闘」

 

 01

 

 旧都庁、12年前ならば頭の前に旧がつかなかったが、今はこの一帯すべての建物の頭にそのまま放棄されたため旧がつくか、建て直したので新がつく。

 

 旧都庁、いや、戦中に丸の内にあった都庁の場所に戻ったから旧・旧都庁になるのか……どうでもいい。

 

 旧都庁に通じる通路を抜けると、そのまま都庁に直行しているわけではなく、広場がある。広場の名前がどんな名前か知らないが旧がつくんだろうな、ずっと前に来た時、12年前より前から記憶にあるからそうだろうな。

 

 その広場でアサスィを御姫様だっこしたまま俺はその広場に立っている。周りは暗闇、たまに街灯があるが、それでも薄暗い。

 さっきの通路内の声が指定したのもこの場所。指令内容は、そのまま歩いてここで待機しろ、逃げたら問答無用で撃つ。

 アサスィ抱えたままにげることはできない。だから、こうしてアサスィを抱えたまま立っていた。

 

 暗闇の中、一人の男が歩いてくる。

 

 目の前、ブーツの踵に鋲でも仕込んでいるのかとても靴音とは思えない、一歩一歩ごとに金属音がやけに響く。

 一瞬、暗闇の中から現れたその人間を見た時、その男を見た時、こいつがサーヴァントかと疑うほど、歪な、おかしな格好、と言いますか、町中でこんな奴がいたら九分九厘職質を掛けられる。もしも今まで職質を受けたことがないというなら、警察が無能と昨今のワイドショーが訴えるのも納得してしまいそうになる格好。

 

 身長は165ほど、ひどく幼い顔立ちだが、なぜか強面の印象を与えてくる。左右の目の大きさが極端に違うからかもしれない。

 左目は目薬をさすように極限まで開かれ、右目は、まるで狐面をつけているかのように細く、不機嫌そうな、怒っているようなイメージ、だからこそ強面と印象を受けているのかもしれない。

 一番の特徴は、真夏だというのに、足元まで隠す裾の長い、月や星々の光を一心に受けていると錯覚するほどの黒の下地に左肩から左腕には銀の刺繍で虎が、右肩から右腕には金の刺繍で龍が見事に描かれているコートを羽織り、頭は連獅子に登場する赤頭のように腰まである長髪を赤に、いや、どんな趣味をしているのか問い詰めたい、真紅に染め上げた髪をした男がいた。

 

 それだけでも歪な格好だったが、手には、左手には肩に担ぐように長物の日本刀が、右手には朱色の鞘が握られている。ヘルプミーおまわりさーん!! 地方の中学生が修学旅行で、大方、東京タワーのお土産コーナーあたりで買った模造刀もってあるいてますよー!!

 

 普段だったらそんな叫びを上げてしまう格好。

 

 ……しかし、あれだな、俺がセイバーと対峙した時と、さっきアサスィのもとに走った時に分かったことだけど、命の危機に追い込まれれば追い込まれるほど、ハイテンションになるらしい。

 

 そういえば体育祭のときもこんなテンションであんなことになってしまったっけ

 

 そうあれは入学したてのピカピカの新年生、まだ夏も始まっていない桜の花が散って新緑が萌えるころに……

 

 「おい、どうでもいいけどなんで遠い目をしてんだ?」

 

 現実逃避しようとしたけど無理だった。

 

 「とりあえず、そいつはそこに置け」

 

 そういって、広場の隅においてあるベンチを刀の切っ先で指し示す赤頭さん(仮名)。

 

 ま、仕方ないか。

 

 赤頭さんのサーヴァントは遠距離攻撃得意そうだから狙撃されないか不安だけど、その気があったらもう俺はアサスィともどもハチの巣だろう。言われた通り、アサスィを広場の隅においてあるベンチに寝かせる。

 

 その際、アサスィの顔をもう一度眺める。少々顔が戦闘で生じた埃とかで白い肌が煤けてしまっているように見える。

 服装は召喚時の格好だったから、この格好はいささか寒い。真夏とはいえ、腹を出していたら風邪をひきそう。……霊体が風邪をひくかどうか、といいますか、ウィルスが霊体に作用するほどだったら、ウィルスそのものがすごいけど、ま、腹を冷やすことは駄目だ。そう判断して上着、俺が着ていた半袖のパーカーを毛布代わりにかぶせた。

 

 ……アサスィ連れてこのまま逃げてしまいたい。でも今度は問答無用で狙撃される。だから、覚悟を決めて、立ちあがった。

 

 振り向くと、こっちを赤頭さんが見てる。

 

 丁寧にまってくれる赤頭さん。でも暇なのか、持っている抜き身の刀の峰で肩をぽんぽんと叩いていた。

 

 ……怖ぇ……

 

 

 そんな赤頭さんの様子を観察していると不機嫌極まりない声で、

 

 「早く準備しろ」

 

 そう急かされてしまった。

 

 そんなに焦んなくてもいいじゃないですか、そもそもどっからどう見ても貴方たちの勝ちなんですけどね、この状況。そう反論したかったが、待ってもらっている身としては応じるしかない。

 

 ポケットの多い、カーゴパンツのポケットから針を取り出す。いつも使っているのは違い、長さ15cm直径2mmの針

 

 両手の人差指と中指の間に針を握りしめる。まだ、あれは使えないから俺がつくった針だけど、威力は保証できる。

でも、右手の針を握った指の間から痛みが生じる。じーんと低周波による火傷のようなにぶい熱を発するような痛みだ。昨日壁殴ったり、アサスィ止めるのにナイフ掴んで怪我したりしたから、地味に痛い。一応治癒魔術はかけているけど、半人前以下の俺では治癒魔術なんて本当に焼け石に水くらいの効果のほどしかない。それと、全身さっきの全力で通路をかけた時にスライディングしたりこけたりと散々な目にあったから擦り傷だらけだけど、動くには問題ない。

 しかし、手の怪我だから、威力を増すためよりも使いやすいように、いつもよりも短く、そして細い針を使わなくちゃいけない。

 

 左手には針を1本、右手には針を5本握りしめる。次弾装填用の針

 

 回路を起動。いや、アサスィが現界しているからいつも少なからず起動はしていたが、それとは別に本線を開く。

 臨界、あれ? 臨戦だっけ? ……あ、臨戦か。とにかく臨戦態勢

 

 そんな俺を見て、いや、俺の手に握られた針を見て少しばかり驚いたような赤頭さん

 

 「お前さん、面白い得物つかうな」

 

 「……本当なら使う以前に、戦いたくなかったですけど」

 

 しかし、赤頭さんは不機嫌そうな表情から口の端を持ち上げ、不敵な笑みを作る。

 

 「そう言いなさんな、せっかくの戦いだ……アーチャー、分かってんだろう?」

 

 虚空を見つめ、それから一言二言呟くが、満足そうに頷き刃の切っ先を俺に向ける。さも楽しそうに、笑う。

 

 アーチャー、それが赤頭さんのサーヴァント。

 アーチャー(弓兵)。アサスィの説明だと、遠距離に特化した攻撃を持つサーヴァント。はたして赤頭さんがいった、分かっている、とは何だろうか? 戦いの邪魔をするな、ということかそれとも、もしも赤頭さんが負けそうなときは俺を狙撃して殺せ、ということか、どっちだろうと、殺されることは間違いないらしい。

 

 「ひとつ、お尋ねしてもよろしいですか?」

 

 尋ねられるとは思っていなかったのか、すこし興が削がれたように顔をゆがめる。刀の切っ先を下に、おろした。顎をしゃくり、無言の許可を赤頭さんは出す。

 

 「なんで、俺と戦うんです? 貴方はあのままでも勝てたはずじゃないですか?」

 

 その疑問に納得したように頷き、もう一度、笑みを作った。

 

 「別に、お前さんと戦ってみたくなっただけだ」

 

 本当に素敵な、赤子のような純粋に楽しくて楽しくてたまらないといったことを目の前にした人の純粋な笑みを浮かべる。

 

 ……へぇ、つまり戦いたいから戦うって人種(バトルジャンキー)の方か

 

 バトル漫画とかでありふれてるけど、こういう人現実で初めて見る。

 

 ……やばいな、そういうことに共感できないな。

 

 そして、視線が下がり、俺の得物の針をみる。笑い声を止めると、同じ変わることがない笑みを浮かべたまま一言。

 

 「さぁ、はじめっか」

 

 一つ、こんな命と命のやり取りをやる殺し合いの最中だって言うのに、俺の中で冷静に辺りを見回す俺が、さっきの疑問点を解決した。

 

 この人の笑みに、戦いに臨むって言うのに、戦いの相手はどう見ても格下な俺なのに、その笑みには、いたぶるように、憐れむようなものが感じられない。

 

 そうか……どうりでこの人はにやついてはいるがどうもチンピラみたいな感じがしないわけだ。今も浮かべている笑みに卑屈さがない。そして、浮かべる笑みが変わる。にやつく笑みから獰猛な獣を想定させる笑みに変わり、左手にもった刀を逆手に持ち替え下段に、右手に持った鞘をだらりとさげたまま、腰を入れ構える。

 

 「――sechst und acht―Gros zwei」

 

 唱えると、赤頭さんは消えた。

 いや、視界の中で陽炎のようなものが一瞬、僅かに捉える。だから反射的に後ろに飛びのこうとしたが、だめだ、飛びのいただけじゃ、間に合わない――そう飛びのいたと同時に直感が告げる。

 

 

 視界の端に捉えたのは、なにか、理解する前に、思いっきり、エビ反りに仰け反る。

 

 直後、顔面が位置した場所を通り過ぎるなにか。

 

 そして、真っ赤な頭の誰かが、刀を振り下ろしていた。

 

 ギラリ、と猛禽類を思わせる瞳が俺を射ぬく。赤頭さんの口が動き、言葉を紡ぐが、それは何を言っているのか、どんな部類の魔術を行使しているのか、分析する暇はない。

 

 

 そのまま赤頭さんは逆手で左手に持った刀を下段から掬い上げるように刀を振るう。

 

 「Spillage―――」

 

 後ろに飛びのきながら刀の間合いから逃げ、起動していた回路の魔力を更に針に流しこめる。この間は失敗したが、成功する。右のこめかみがうずくが、無視。どうやら切れてはいないみたい。

 左手の指に挟んだ針に魔力を流し、左手を、手首のみを軽く振るうように投げる。

心配はしていたが、怪我の所為で精度と速度は低下していないらしい。不幸中の幸いだった……そもそも、怪我は自業自得だけどね。

 

 狙いは胴体、左肩鎖骨と肋骨の中間部分

 

 これを正直回避されるとは思わない。この間は、セイバーは人じゃなかった。だから回避された。だけど、この人はサーヴァントじゃない、身体強化の魔術を使おうとも、サーヴァントを使役する魔術師ともいえども人間、同じサーヴァントを召喚した俺も人間だから分かる。

 

 母の言葉を借りるならば、魔術師は学者であって、戦士じゃない。魔術とはあくまでも手段、目的ではなく手段。もしも目的のためであれば、別な手段があればすぐにでも魔術を捨てるだろう。戦闘に関しても副次的産物の集合体。

 つまり、まともな戦闘訓練を受けた者などいない。だけど、俺は、母の教えは戦闘に特化したもの、勝ち目は十分にある、十分にあったはずだ。

 

 だけど、この赤頭さんも“普通の”魔術師じゃなかったらしい。

 

 真紅の髪がルビーを連想させる長髪の男は駆けた。左肩に針が突き刺さるが、一瞬の制止。だけど、それでも止まることなく駆けた。

 

 「なっ!!」

 

 嘘だろ、おい!! いくら俺が半人前とはいっても二秒から三秒ほどのラグがあるはずなのに、なんで動けるの!?

 左手に持ち替えようとしていた針の右手が止まってしまう。戦闘中の停止、それは最悪の悪手だと気づいた時は、視界が空を向いていた。

 

 そのまま、アッパーをくらったように下から顎に突きあげる衝撃と全身を包む浮遊感。上を向いた顔をそのまま、眼の奥がちかちかするが、それでも、なんとか目だけを動かすと、すぐ顔の下に、自分じゃない膝が目に映った。

 そうか、顎を膝で蹴り飛ばされたのか。

 

 ああ、中学の時、不良の友人が言っていたことが本当だと実証された。

 

 喧嘩っ早く、人の話を聞かず、本を貸すとお菓子の食べカスとかで汚していた、その友人曰く、「喧嘩とかで殴られても殴られてスローモーションで動いているときとかって痛くない」

 

 本当に痛くないわ、痛みが遅れてんのかもしれないけど、本当にスローで動くんだなぁって実感中。

 

 しかし、目の前、その前、俺を蹴りあげた赤頭さんが更に高い位置に、俺に覆いかぶさるように左手に刀をぶら下げたまま、右手に持った鞘の鐺を俺に向けて構えを作る。

 

 右手に持ったままの針に魔力を込めようとするが、体が意識に追い付いてない。

 

 詠唱のために口を開こうとするが顎に力がはいらずに開くことすらできない。俺の右肩、奇しくも俺が針で狙った場所の左右逆だが、同じ場所に鐺が当てられ、そのまま地面に叩きつけられた。

 

 02

 

 地面にたたきつけられ、まず五感の内最初に脳内に届いた知らせは痛覚じゃない、体の内側から何かが砕け散る音と、外部から金属の物、持っていた針が撒き散らされる音を伝えた聴覚だった。

 

 一拍の間をおいて神経、全てが悲鳴を上げる。

 

 声も出ない、というか呼吸ができない。呼吸をしようとすると肺と口蓋が痛む。叩きつけられ受け身を取れなかったために背中の痛みも無視できない。特に、右肩の痛みが半端ない。息ができない、動けない、右腕に力を入れると、いや、血が巡るだけで鞘の圧迫された箇所が破裂しそうな痛み。

 

 何分経ったろうか、この地面に寝転んで、まだ一瞬しか経っていないのか、それとももう夜が明けてしまうほどの時間が経っているのだろうか

 

 そのまま、気絶してしまいそうになる。だけど、そんな俺を覗き込む者がいた。

 

 それは、赤頭さん。さきほどとは違い、笑みは浮かべていない。赤頭さんの左手には鞘に収まった刀が、右手には、血で濡れた針が握られている。あれは、俺が撃ちこんだ針か?

 眼球だけを動かすと、無防備だ。先ほどとは違い、四肢に込められた異常なまでの力は無く、自然体であって、魔力のかけらも感じない。魔術を解除したんだろう。

 右手の感触を確かめるが、一本だけ、針が残っている。右手に握っていた針に無理やり回路を起動させ、魔力を流し込もうとするが、それよりも速く、赤頭さんは右肩の傷を負った部分に赤頭さんの持っていた針を投げる。俺ほど正確とはいかないし、二、三ミリめり込む、というよりも刺さる程度で何もしなくても抜けてしまう投げ。だけど、赤頭さんは足を振り上げると、俺の右肩を思い切り踏みつけた。

 容赦なく、右肩にめり込む針

 

 「ああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 強烈な痛み、混濁していた意識がはっきりと戻る。だけど、できることがない。

 出来ることと言えば、みっともなく悲鳴を上げるしかなかった。

 

 「起きろよ」

 

 刀で肩を叩き、満面の笑みを浮かべ赤頭さんはいった。

 

 「話は聞かせてもらった。お前さん、無関係な他人を巻き込みたくないんだってな」

 

 痛みに叩き起こされた恐怖で思考の大半を支配されているがそれとは別に頭が働く。痛いからこそ命が惜しくなり、頭が動くのかもしれない。

 

 なんで、その話を知っているのか、疑問におもったけどすぐに答えが出る。それと、さっき、不自然なまでに通路に人がいなかったわけも。

 大方さっきの通路には何らかの魔術的な、人払いの施工がされていたのか、滅多に人が通らないから、施術は簡単だろう。

 しかも、自らが仕掛けた結界内なら盗聴ぐらいならば簡単にできる。だからアサスィと通路の会話を聞いて……

 

 とか、そんな現状より、血が右肩から流れ出てるだけの感覚がひどく不気味だ

 ああ、くそ、血が流れ出るだけで痛みがないなんてもう二度と味わうことがないとおもってたけど、三日もしないうちに再来するなんて

 

 「それに、願いを持たないって話も聞いたけどよぉ」

 

 俺の右肩を踏むつける脚の力を更に強め、赤頭さんは吐き捨てるように言う。

 

 「お前は馬鹿か?」

 

 笑みを崩し、眉間のしわを更に深くしながら

 

 「聖杯ってのはなんでも叶っちまうんだ、それを捨てるなんざぁ馬鹿のやることだ」

 

 やっぱり、願いを持たない俺って異端なんだろうかな?

 

 「でも、気にいった」

 

 皮肉るような憐れむような、いままでの笑みと違い、様々な感情が混じり合った笑み

どうでもいいけど、よくコロコロと表情が変わる人だなぁ。あと気に入ってるんなら足をどけてほしい。

 でも、もう一回眉間のしわを深くする。

 

 「てめえに願いがあってもなくてもそんなことかまわねぇ、いや、あのメスガキとの話から、強いてお前さんの望みをあげるなら『無関係な連中を守りたい』か?」

 

 うん、大正解ですね赤頭さん。だから足どけて

 

 「でもな自分のサーヴァントとはいえサーヴァント、英霊だぞ? え・い・れ・い……それに令呪使わずに従えようとするなんて、しかも人殺すな、更に無関係な人たち守りたい、だなんて聖杯戦争、いや、神秘の流出のためなら人殺し上等な魔術の大前提真っ向否定じゃねえか。俺を笑い殺す気か?」

 

 カラカラと笑い声を上げる。どこに笑いのつぼがあるんだろう?

 

 「馬鹿だなぁ、お前特上級の大馬鹿だ」

 

 でしょうね。このままじゃ、きっと母の日記にあった“執行者”って化け物な人たちと一戦交えることでしょうな

 

 「でもな、気にいっちまった、お前さんみたいな大馬鹿が俺のドストライクなんだよ」

 

 悪いですけど、俺に男色の趣味はない、といいますか、さっきからこの人一方的に大声あげてるだけ、傍から見たらきっと変な人だ。

 

 「だけど、気に入ったから言わせてもらう」

 

 鞘に収まったままの刀の先をベンチで寝ているアサスィに向け、

 

 「おめえさんじゃねぇ、おめぇのサーヴァント、ありゃアサシンか?」

 

 あの子が俺のサーヴァントじゃなったらどうだっていうんだ? 嘘つくべきか正直に答えるべきか頭痛までしてきた頭で考えるが、嘘ついたメリットが見当たらない。だから、頷こうとしたけど、痛くて、さっき悲鳴上げたけどそれ以上の痛みだったから無視できた。でもこの痛みは無視できなくて、通常だったら七転八倒

 

 「お前は気に入ったから見逃してやる。でも条件だ。おめぇ令呪持ってるだろ?」

 

 そんな俺の現状を察してくれたのか、それとも無言を肯定と受け取ったのか知らないが、令呪で何かを命じるか……

 

 そして一言。

 

 「アサシンに自害を命じろ」

 

 そういった。

 

 03

 

 「手前の考えを理解してねぇぞありゃ。大体なんだ? 精神が狂ってるサーヴァントだなんて、理解する気ゼロだ。それにお前さんを殺す気満々みてぇだな。お前さんは気に入ってるから、自害命じた後は危害加えることはしねえ。なんだったら今すぐ強制(ギアス)やったっていい」

 

 強制―魔術師に置いて絶対に順守すべきことを魂に縫い付ける最上の呪い。その行為を、強制を掛けた行為を禁止する呪い。おいそれと自らと他者にかけていいものじゃない、つまりそれくらい俺は評価されたってことか

 

 でも、そうか……理解した。この人も聖杯を欲している一人なんだな。

 

 だったら、俺の答えも決まっている。

 でも、顎が痛み、うまく言葉を発せない。でもしゃべる、答えなんて決まってるんだから。

 

 しかし、恥ずかしいかな、呼吸するだけで精一杯の顎では言葉にならない呼吸音が虚しく響くだけ。

 

 それにじれったくなったのか、赤頭さんがコートのポケットから何かを取り出すと、そのままそれを握ったまま俺の口を押さえつける。俺に押さえつけた手を噛まれないようにするためか、口元に押さえつけられた。それがやたら冷たく、そして硬い、何かの感触。

 

 そして、赤頭さんが何か呟くと、視線のなか、下半分、つまり俺の口元を押さえる赤頭さんの手の中から眩しい光が漏れた。

 

 同時に、急激に痛みが引いて行く顎。

 

 ……“治癒魔術”か、一応習ってはいるけど、俺のは絆創膏貼った方が即効性あるくらいだから、こんなに効くもんだとは思わなかった。

 

 「これでしゃべるやすくなっただろ? 返事は?」

 

 それで足の力を強めるなんてあたり、この人もまともじゃない。

 足で円を描くように回すもんだから、針も回る。つまり傷口を思いっきり刺激する。うめき声っていうか悲鳴しか上がらない。

 

 このままでは会話もまともにできないと気がついたのか、足を軽く浮かせ、針から足をどける。しかし、いつでももう一度踏んで俺の動きを止められるようにしている距離なんだろう

 

 きっと今の俺は憔悴しきった表情を浮かべてるんだろうな、この間、てか一昨日、セイバーに襲われた時のようにTシャツがべとべとだ。背面の痛みもひどいけど、一番は右腕と右肩。特に右肩の鎖骨にでもひびが入っているのか、うまく右腕に力が入らず、力を込める度に激痛が走る。

 

 あー、なにやってんだろ、俺?

 

 ぼんやりと、靄がかかっていそうな思考回路がそんな疑問を提示する。相も変わらず俺の能天気さはここでも健在でしたか、そんなことを、いや、どうでもいいか?

 

 赤頭さんがいらいらしてそうな顔で俺を睨んでくる。じれったくなったのか、まだ一分も経ってないのに、カルシウムが足りないんじゃない?

 でも、先方を待たせているのは俺だし、答えるしかないか

 

 だけど、できるなら満面の笑みでこたえよう。

 

 「いやです」

 

 中学の時にクラスメイトから貸してもらった漫画だったら、だが断るってやつなんだろうけど、俺は別に強い奴にあえてNoということが最も好きなことの一つじゃないから普通に断った。でも、あんなこと人生で言うことなんてないだろうな、言っとけばよかったかな?

 

 あ? と怪訝そうな顔に赤頭さんの表情に代わる前に右手を動かし握っていた針を赤頭さんの右肩に置かれた左足に突き立て、左手で上体を起こしつつ赤頭さんの、俺の左腕と胴体の間に置かれた右足を精一杯の力で押す。

 

 あっけなく倒れる赤頭さん

 

 そのまま、逃げる。いや、逃げられないと悟っているから、アサスィが寝ているベンチを背後に構える。そのまま散らばった針を探すが、くそ、ない。いや、正確にいうと今、赤頭さんの倒れているところに散らばったから方向が逆だ。

 

 そして、打ちつけた頭を押さえながら立ち上がる赤頭さん、いってーって言いながら俺を睨んで、やばい怒らせた。というか、戦うにしても得物がない。

 

 あ、倒れさせるだけなら足に針、刺すことなかった。現に浅かったのかもう抜けてるし、おかげで手元に残った針は…………一本だけあったな

 

 左手で掴もうとするが掴めない。でも、方法は一つある。

 ……ああ、くそ、くそったれ

 

 回路を起動。今度はその魔力の形を変える。

 

 「My fight is deranged―――」

 

 あの赤頭さんと違ってかなりグレードの低い身体強化魔術。でも、これで十分だ。

 

 右肩の針がめり込んだ傷口に左手の親指、人差し指、中指の三本をあてて、ああ、くそくそ、きっと痛いんだろうなぁ……一秒に満たない時間で覚悟を決め、金づちの人間が素潜りをするように、呼吸を止めながら、肉ごと引きちぎり右肩にめり込んだ針を抜く。

 

 「――あ、ぎゃ、ぎいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 肩の中に完全に針がめり込んでいたから抜きだすにはこれしか思いつかなかったとはいえ、肉が引きちぎられる感覚が勝っているため、喰い込んだ針が抜き取られる感覚がひどく不気味としか形容のしようがない。

 

 でも、針の一本を確保できた。

 

 その代わり、右腕に本格的に力が入らなくなっちゃったけど、もともと利き腕の左手だけで戦うことしかできないから、いいか。

 肩で息をしながら、左手のなかの針を確かめる。手の中で肩の肉片の生温かい感触と針の金属特有の感触が気持ち悪い。

 

 魔力を針に込めようとしたけど、あれ? なんか魔力がこめられてる?

 

 とか、そんなことを思っていると、赤頭さんが抜刀せず鞘に刀を納めたまま肩に担いで俺に、若干驚愕の表情を浮かべながら尋ねる。

 

 「……なんだ、てめぇいかれてんのか? それともマゾか?」

 

 残念、俺はSMよりも和姦のほうが好きだ。いや、SMも和姦なら問題ないのか、まぁ、どっちでもいいか。

 

 「にしても、力がねえ癖に断るかな普通よぉ……もしかしてあれか、自分が平和守んなきゃ気がすめねぇ性質か?」

 

 「……いえ、そんな性癖も、英雄願望ない、です」

 

 若干痛みで息が上がりながらも応えられた。

 

 誰かが平和守ってくれるならそれでいいですし、本来の俺は傷つくことも嫌でたまらない、願いといえば普通に生きたいね。

 

 「じゃあ、なんで断った? あいつさっき言った通り、お前の話しなんて聞かねぇぞ」

 

 あー、右肩がずきずきする。打撃だけじゃなくて、自傷行為の方がダメージでかいなこりゃ。

 

 「……ええ、分かって、ますよ。あの子は決して理解してないでしょうね」

 

 アサスィは破綻していることが、さっきの殺害せよ事件(勝手に命名した)から、しっかりと理解できた。あの子の『願い』がなんなのか俺は知らんが、きっとそのためなら無関係の人を殺戮しても是とするだろう。

 

 「でもね」

 

 あ、足震えてきた。血が足らなくなってるのかも

 

 「そんな程度で諦めたら、最初からこんな馬鹿げた戦いに参加なんてしてませんよ」

 

 どっかの漫画みたいな言葉だけど、諦めたらそこで死だ。もう何もない。それ以上のことが起きることがない。

 

 俺はアサスィとの対話を諦めたわけじゃない。あの子は理解しようとしていた。自分の立場を明確にするということは自分を分かってほしいってことだ。だから、あの子も対話を諦めているわけじゃない。

 あ、そっかだから、令呪使うの嫌だったんだ。

 

 「それと、約束なんです……」

 

 鏡峰先生との約束

 

 きっと、先生は、アサスィのことを見抜いていたんだろう。たぶん幼さからくる破綻か、それとも俺が言った偽りの経歴からくる残忍さだと思ってたんだろうけど、でもアサスィの本質らしきことに気がついたから俺に託してくれた。

 先生は、鏡峰先生はちゃらんぽらんなんかじゃないですよ、俺よりもアサスィに気がついて助言くれたじゃないですか。

 

 「あの子を、俺が――」

 

 とびきりの、虚勢の笑みを浮かべ、構えを作る。左手に針を構え、いつでも放てるように体を構えた。ああ、一回いってみたかったんだよね、このセリフ

 

 赤頭さんは、そんな俺を見て、笑みが消え、その代わりにすっと両目が鋭くなる。そして、

 

 「だったら、やってみろやぁーーーー!!」

 

 そう言いながら、いや絶叫しながら鞘に収まったままの刀を構え、突っ込んできた。

 

 直後、夜の公園に響く打撲音。ふっとぶ俺の意識。

 

 

 

 

 不心始章 第三話「決意の決闘」 終

 

 

 




 いかがでしたでしょうか?
 今回登場したマスターですが、刀、派手な衣装なのに地味な戦術、戦闘狂(バトルジャンキー)と私が好きな要素をてんこ盛りにしたキャラクターです。ぶっちゃけ、独りぐらい刀つかうマスターがいてもいいよね?と、そもそも型月で刀使ったのって式と佐々木ぐらいですけど、もっと刀をフル活用してもいいじゃない!!と思って書きました。気がつけば好きな要素が大分追加されておりました。

 はたしてそんな書いてる奴に愛されたアーチャー陣営と戦った久連とアサシンはどうなるのか、ご期待ください。

 しかし、FGO公開されましたけど、林檎民なのでまだやっていませんが、どうしよう別なお話で何騎か登場させようとしていたサーヴァントが被りました……カエサルとかカエサルとかカエサルとか……あと、おっぱい星人なので、スパイ系アサシンがドストライクです、先生……

 あと、来週から更新が送れます。ごめんなさい。


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