Fate/Heterodox Tale   作:今日は晴れ

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「偽典序章」
tale 01 「始まりの邂逅」


 

 01

 

 

 脈絡というものが存在せず、いささか唐突で申し訳ないないが、私こと、いや、普段の一人称は俺だから俺こと、ということになるのか、なるのかな?

 まぁ、いいか。俺こと十二月 久連(しわす くれ)は現在、絶体絶命の命の危機に瀕している。

 うん、我ながらに唐突だとおもうが、現実である為に他の言い方がなく、そんなテンプレートアンドチープかつ曖昧な描写な描写で申し訳ないが、受け入れてもらうしか他にない。

 

 時間は普通の高校生だったら学校が終わって運動部系の部活のある奴は準備体操を終えて練習を始め、部活のない奴だったらつるんでゲーセンでそこそこ金を消費してきたであろう逢魔刻の夕暮れ。

 場所はもしも事件でも発生したら「閑静な住宅街で……」などとワイドショーで報道されるだろう家が立ち並ぶ場所から自転車で約10分の距離の商店街、普段であれば店の従業員しか使わない路地裏、7月の下旬ということもあり、節電なんて知ったこっちゃない、とばかりに稼働中のエアコンの室外機が乱立するようにそこらかしこにおかれて、気温を更に上昇させている。

 地面は整備されておらず、土がむき出し。しかも昨日の晩に雨が降ったためか、尻もちをつく形なので両の掌とズボンとパンツがあるのに尻に湿った何かが侵入してきて実に不快だ。

 

 もしも、ここまで説明したのならどっかのちょっとやんちゃな兄ちゃんかヤのつく職業の方に絡まれでもしたのか? と思うだろう。ある意味においてそれは正解だが、そんな普段であればそれはそれで命の危機となる人たちとは一線を、色々な意味でましだと思える人物に絡まれていた。いや、絡まれているんじゃない、遭遇してしまった。

 

 尻もちをつく形となった俺の目の前に女性が立っている。年は俺と同じかちょっと上、格好は半袖の白シャツに下は濃藍色のスキニーという格好、体のラインを表す格好のためか、女のプロポーションの良さが一目でわかる。

 それとなによりも三つ網にして腰まである金髪と俺を見下ろす紫色の瞳、それが相まって尚更整った顔が強調され、美しさがさらに上のものに見える。その美しさがイメージさせるのは、上品な清楚な美しさ。

 町中ですれ違っただけでも普段であれば、彼女の瞳とか、日本人にはない肌の白さとか、清楚な美しさなのにシャツの上からものすごく強調している暴力的な胸とか、外国人でもこんなに大きい物を持った人はなかなかいないだろう、殺人敵な胸とかに視線が無意識で追いかけてしまうのだろうが、今は彼女が手にしている物とその先に固定されていた。

 

 

 

 ……いや、ごめんなさい、こんな状況でも視線は半分くらい彼女の胸をロックしてました。本当に最低です、ごめんなさい。でもね、弁解させてもらうとあんな凶器(乳)に視線を持っていかれない男なんていませんよ。

 

 まぁ、若干わき道にそれ、さらに個人的な性癖を暴露したような感じがあるがとにかく話を戻すと、女性の手には、ファンタジー映画の中でしかお目にかかれない銀の装飾が施された西洋剣が握られている。その剣先は一人のサラリーマンが壁に寄り掛かって胸に剣を突き立てられていた。

 この状況でも十分異質で、というよりも、殺人現場なのだが、俺はこの現場に遭遇し驚きのあまり声が出ずに腰を抜かしている。だが、殺人という幾分現実的な出来事よりもその剣先では現実とは思えない異常が起こっていた。

 

 最初に学校から家まで近道しようと路地裏を通って、角を曲がったらこんな光景が広がっていた。

 

 そして、案の定、腰を抜かしてしまったのだが、その際に剣を突き立てられていたサラリーマンがいかにもメタボリックシンドロームです。ダイエットしないと十年後には死にますよ、なんて医者から死刑宣告をくらいそうな路地裏の道幅の半分を奪っていたファットマンだったが、みるみる内に肉が削げていく。

 肌の色も出血死ですらもっと時間がかかるというのにあっという間に土気色に変色する。

 木乃伊ができる過程を早送りで見せられているようだった。眼球が枯れ目は伽藍となって、血と肉がなくなり、日上がっていく死体。

 日が沈みかけ、あたりは薄暗くたまに橙色の光がさす、室外機が稼働しネズミが残飯をあさるために駆ける現実的な、どこまでも現実的な光景のなかにある、異常な風景。

 

 そして、あまりに血と肉が削がれすぎたために遂に形が崩れ、何百何千という細かな枯葉のような破片に砕け散り、その上に着ていた左胸に穴が開いたスーツが落ちた。

この場に居合わせてから時間にしてまだ10秒も経っていないというのに人一人が完全に消え去る。何も知らずに一分後にこの路地を通ったらスーツが道に落ちている、という小首をかしげる状況となっていただろう。

 

 だが、そのスーツを着ていた人間が葬り去られる現場に我、遭遇。

 

 これが剣を握る女性にばれていないのなら大分ましだが、最初に角を曲がって腰を抜かした時、女と目があい現在進行形でその眼光が俺を捕らえている。サラリーマンが完全に消え去ると、剣を二三度確認し俺に視線を戻すが、忌々しげに、本当に憎たらしいものを見たような表情を浮かべ、顔をゆがませる。

 

 その顔があまりにも恐ろしく、命の危機とは別にそんな表情を浮かべる女性から逃げたくなった。思わず、尻もちをついた状態で手の力だけで後退する。

 だが、そのまま後退し続けることはできなかった。背に何かがぶつかる感覚。そのぶつかった物は熱風を吹き出し、無駄に重低音で、それでいて耳障りな駆動音を立てていた。つまりエアコンの室外機。そんな分かり切っていることだったのに、思わず視線をずらしてしまった。

 目に入るのはもう製造されて何年も経っているだろう古い型で、ファンが無理やり電力で廻されているぼろぼろな室外機。

 

 時間にして一秒もなかったはずだが、僅かな時間といえども目を離したのはこの状況では致命的、ファンブル的行動に他ならなかった。

 顔を戻す。と、まず目に映ったのは、銀の装飾が眩しい剣と紫色の瞳

 

 女性がしゃがんで俺と同じ視線で眺めている。目の前に先ほどまで幾分か距離があったというのに、どんなことをしたのか一瞬で距離が埋まっていた。

 一瞬の空白、しかし、その紫色の瞳が自分に向いていること、そして、訳のわからないどうやって瞬間移動としかいえない跳躍を成し遂げたのか、パニックに陥り、結果として

 

 「う、うああああああああああああああ!!」

 

 我ながら情けない叫びを上げながら拳を振るった。

 だが、なんでもないように剣を持っていた右手ではなく、左手でいとも簡単に、まるでそこに拳が叩きこまれることが事前に知っていたかのように受け止めた。

 

 

 暑さのあまり汗がとまらない、なんて今の季節は当たり前だったが、冷や汗が滝のように流れる。俺よりも線の細い女が拳を受け止めたことも衝撃だったが、それ以上に、右手の拳は万力で固定されたかのように動かすことができず、そればかりか右手を締め付ける力が徐々に、しかし確実に強まっていく。右手を潰そうとしているかのように、その握力はとても人間のふるうものとはかけ離れている。

 

 このままじゃ、潰される――脳裏に右手がズタズタになるイメージがわき上がったが、絶妙なタイミングで手が離された。

 

 手に止まっていた血液が流れ込み、感覚が戻るのにかゆみに似た痛みが走るがそんなことはどうでもよかった。ただ、目の前にいる女性は視線を合わせて、安心しろ、といった風にはにかむ。

 

 「御安心してください」

 

 美しいソプラノ歌手のような、澄んだ響きを持っていた。その声を聞くだけでも安心できる。そのまま、左手を俺の額に伸ばす。

 

 「手荒なことで申し訳ありませんが少々記憶をいじらせてもらいます。命を奪うことはいたしませんので……」

 

 だが、スピーカーホンのような幾重にも重なり合った声が女性の声を遮った。

 

 <<あら、だめよセイバー。目撃者は消さないといけないでしょう>>

 

 擦れ擦れで、雑音が混じっている、正直聞こえずらい声だったのに、その意味は頭の中に浸透する。

 

 セイバーと呼ばれた女性は驚愕といった表情で、声の主がどこにいるのか知らないのか立ちあがって、最初にサラリーマンに剣を突き立てていた場所に戻り、あたりを見回しながら声を荒げた。

 

 「し、しかし、この少年はたまたま通りかかっただけです! マスター! それにもう糧ならばこれ以上は必要ないかと」

 

 その声を途中で切り、再び耳障りな声が響く。

 

 <<いいけど、この方法だって貴女の我儘なんだから、今以上に我儘をいうならもっと効率のいい方法を取らざるを得ないけど、いいの?>>

 

 「なっ!! マスターそれでは話が違うのでは!!」

 

 声を荒げながら女が抗議する。

 

 <<ええ、セイバー、貴女との約束は守るわ。けどね私の力量を知っているでしょう?そんな簡単に解けてしまうようなものに頼ることはできないし、私としても遺憾だけど、こんなことが二度とないように効率のいい方法が一番最善ということになってしまうわね……>>

 

 驚愕していた女性はあきれたように、口をあけ、抗議の声を出そうとしていたのか、しかし諦めたように顔を俯かせると今度は俺の顔を見る。その表情は苦悶というものが浮き出ていたが、もう一度視線を先ほど枯葉となった遺体に向け、こちらに戻す。傍目からみても何かを決心したことがわかる表情

 あ、助からないわこれ

 

 02

 

 「……恨んでくれていいです。貴方にはその権利がある。しかし、この……」

 

 そんな物騒なことを言い、剣を構えながら近づく。

 逡巡しているためか、それとも心の中で未だに踏ん切りがつかないためか、その足取りは実にゆっくりとしたもの。俺の顔を、さっきとまった冷や汗が流れるがゆっくりと、一筋。まるでその足取りに合わせるように流れる。

 

 ふざんけな畜生。

 

 今日の刑事ドラマの再放送が混浴風呂殺人事件シリーズだから路地裏を近道しただけでなんでこんな目にあわなくちゃいけないんだよ。

 

 正直言って、みっともなくともかっこわるくともいいから生きたい。生き恥をさらしても生きたい。死ぬのなんてどっかの会社勤めて定年迎えた後にぼちぼち考えればいい問題だ。なんで若さ爆発、といったこの年でそんなことを考えなくちゃいかんのか。

 

 まだ四月に華の高校生になったばっかりだ

 夏休み目前にして死ねるか、こちとらまだ童貞だ、彼女いない歴=年齢なんだよ

 輪島からまだAV貸してもらってないんだよ、やっと順番回ってきて次が俺なのに

 

 汗がだらだらと流れる。

 いっそのこと、あんたと一発やらせてくれたら殺されてもいい、なんてトンデモ提案を真面目に考察していた。もう思考がどうやったら生き残れるかから、どうやったら満足に死ねるか、にチェンジしている。

 ……まぁ、あの兵器(乳)を揉めたら悔いはないかもしれないが、そのあとに待ってるのが死なんて、とてもじゃないが受け入れられない。

 

 と、そのとき、尻もちをついた拍子に落とした、本来は学校指定の学生鞄でなくちゃいけないが、あまりに指定鞄の容量がないために普段通学で使っているスポーツバックが目に入る。

 そうだ、あれを今日は持ってきちゃったんだ。

 

 脳裏に浮かぶのは、百均で売ってる安っぽいペンケース。

 普段だったら成功確率も低いし、はたしてうまくいくかどうかわからないが、そこに望みがあった。

 少なくとも今のままではただ殺されて、さっきのサラリーマンのように枯葉になるのはごめんだ。

 左手をそっと体の後ろに隠すように、ばれないように、拳一杯に土を掴む。

 

 チャンスは一度

 

 女は徐々に近づいてくる。一歩一歩ゆっくりと。

 本人にその気はないのかもしれないが、それが余計恐怖をあおる行為とは知らないわけではないだろうが、結果的に恐怖が俺を縛り付け、逃げる気力を失わせているのだから

 

 女の顔には憐憫とか本当は殺したくないんだよ、なんてそんな表情だったが、決して足を止めることはしないし、剣を放すことも無い。

 

 そして、脚を止めた。

 

 距離にして、二メートル、だが、そこが剣を振るうにはベストの位置らしい。

 

 「どうか安らかに」

 

 剣を両手に持ち替え振りかぶる。一瞬、頂点まで達した時、ほんの一瞬だったが、動きが止まる。

 

 そのときを まっていた

 

 左拳に握っていた土を、女の顔めがけ、投げつける。

 いつもの練習のおかげか、手首を動かすだけのフォームでも昨日の雨で湿っていた土は塊となって飛ぶ。

 

 通常の人間ならば怯むくらいはするだろうし、うまくいけば眼つぶしとなって逃げることも可能だろう、が、それは『通常の人間』に限った話だ。

 

 それを証明するように、女は慌てたようすもなく、幅のひろい剣を盾のように土が顔に飛来する射線を隠し、土を剣で受け止める。僅かな、ほんの僅かな、本来でいえば隙ともいえない空白を産み出しただけだが、この行為はその空白を作りたかっただけ

 

 思い切り、脚に残っていた力で女を避けるように、地面と室外機を蹴ってスポーツバックが転がっている場所にむかって飛ぶ。

 

 だが、逃げるんじゃない、野球の試合でベースに選手がスライディングするようにスポーツバックを掴む、そのまま寝転んだ体制のまま、鞄のチャックを最速の速さでおろした。右手人差し指の爪が引っ掛かってしまい、ほんの少し剥がれたが、そんなことはどうでもいい。鞄の中に手を突っ込み、手探りでだが安っぽいビニールでできたペンケースはすぐに見つかる。

 もともと教科書の類を学校に置きっぱなしにしていたのが功を制した。というよりもノートが数冊と体育の授業で使う着替えと体操服しかはいっていないので、見つかりやすいといえば見つかりやすいのだが。

 

 その間に剣を持った女性は、殺気に満ちた、いいや、殺気というものにまみれ、他の情を一切削ぎ落した表情で剣を構え突っ込んでくる。

 

 ほんの少し、あと少し時間を稼ぐために手を突っ込んだままバックを投げつけるが、一閃

 

 剣を軽く振るい、バックを真二つに

 

 バックは中身をぶちまけながら宙を舞う。

 しかし、動きは剣をふるったために止まった。それは今の俺にとって万金を積んでも買えない時間

 

 ビニールでできたペンケースのチャックをおろす時間も惜しい

 ペンケースを握った右手を地面に叩きつけ、その衝撃で中身が安いビニールを破って露出した。

 それは、針の束。数にして十一本

 

 長さ、16.5cm 直径3mmほどの銀針、医療用の物とも、無論裁縫用の物とも違う、一見すると針というよりも杭といったようにも見えるが、杭にしてはあまりに短い。その針を三本とりだし、一本ずつ指の間に挟む。

 

 長い練習のおかげで、もたつくことなく時間にして1秒にも満たない時間で取り出せたのは僥倖だった。

 

 即座に“回路“を起動させる。

 回路の起動には人それぞれがイメージを持つらしいが、俺のイメージはせき止めていた河の水が流れ出すイメージ

 

 その流れ出した魔力―水を針に込める。否、流し込む。

 

 「Spillage―――」

 

 しかし、成功したのは人さし指と中指の間に挟んだ一本だけ、他の二本は中程から折れた。流す魔力が強すぎたせいだ。こめかみに激痛が走るが、無視できる痛みであったため、根性で押し通す。

 

 そのまま、針を投げつける。軽く、左手を振るう動作だったが、この女がどれだけ剣をふるっているか分からない、しかし、それと同じように俺がどれだけこの針を武器となすために鍛錬を行ったか、分からないだろう。その針は正確無比にして最短の軌道で女に向かう。

 

 狙うは、左胸。

 

 ……いやあれだよ、決して乳がゆれるから、胸を狙ったわけじゃないよ

 

 この路地裏は時間として日が沈みかかり、さらに構造として入り組んでいる、という二つが影響し、薄暗い。

 銀製ということで光に反射しないか僅かばかり不安要素があるが、この薄暗さと針の速度にかける。

 

 しかし、そんなことはどうでもよかったらしい。

 

 突っ込んでくる女の左胸に確かに針が刺さろうとしていた。

 このまま、女の胸に針が刺さる

 

 

 

 ――はずだった。

 

 シャツに針が振れた瞬間、消えた。

 

 「なっ――」

 

 言葉を失う。

 

 

 そのまま、突っ込んできた女は剣を振るわず、寝転ぶ体制で針を投げつけた俺を蹴飛ばす。

 

 思い切り蹴られ、何の冗談かまるでスーパーボールのように跳ね、そのまま一台の室外機にぶつかり止まる。

 

 右手に握っていた針の束が、あたりに散らばる。

 

 肺の中の空気が押し出され、ひどい痛みで一瞬意識が飛びかけるが、ここで意識をとぶ、ということは死ぬことと同義

 

 なんとか意識を戻すため、左手に握っていた折れた針―それを見つめ、ほんの僅かに迷いがあったが、その時間すら惜しく―握りしめていたために落とさなかった一本の針の片を手に突き刺す。

 

 ずぶずぶと親指の付け根の肉に沈む針、あふれだす血

 

 ――ッ、ああ、くそ、痛い

 

 背中にじりじりという打撲の痛みよりも血が流れる掌の痛みがより鮮明な痛みとして伝わり、そのおかげで意識を奪われずに済んでいる。だが、動けない。体中の暴走したかのように痛みを訴えていて、仰向けの体制を変えることすら叶わず、腕をあげるようにするだけで精いっぱいだった。

 

 顔を上げ、命を奪おうとする女を見る。

 

 だが、俺に興味を失ったようにすでに見ていない。じっと剣を握っていない左腕に持つ、さきほど俺が投げた針を見つめていた。

 

 「マスター、これは?」

 

 あたりを見回しながら、尋ねる。

 

 <<うん、どうもなにかの礼装みたいね>>

 

 どこからかスピーカーホンの人物は見ているのだろうが、しげしげと針をその場で見ているように分析している。だが、俺に興味を失ったわけではない、俺の運命を決める言葉を発した。

 

 <<まぁ、その礼装はあとで調べるとして、その子も魔術師だったみたいね。ちょうどいいわ、これで問題ないでしょ?>>

 

 そして俺にとっての死刑宣告

 

 <<やっちゃって>>

 

 

 先ほどと違って素直に女は頷き、針をポケットにしまうと、剣を両手に持ち替え、一瞬で、ためらいをもって俺を殺そうとした時とは違い、俺の前に現れる。

 何の感慨もない、無情の顔

 

 さっきと違う点は他にもある。その眼には逡巡とかいう物は一切なかった。いいや、憐憫や同情といった感情もない、一切の感情のこもっていない瞳で俺を見下ろす。逃げようと、動かない体を無理に起こそうと力をこめる。

 

 ―――ああ、くそ、くそったれ

 

 直後、体の中に響く、腹の皮と肉を切り裂く音

 

 下を向くと、腹に、右わき腹に剣が刺さって、血が流れでている。痛覚はない。ただ、血が流れ出して行く感覚はあるのが不気味で、それが流れだす度に寿命が減っていくのが否応なく、逃れたくても逃れることのできない現実だと実感させる。

 

 悪態をつきながら、混乱した頭でひとつの答えを出す。

 

 ―――死にたくない

 

 剣が抜かれ、もう一度、女が振りかぶった。ああ、そうか、これはあくまでも動きを止めるための、血抜きのようなものか。もう助かる見込みがない、と実感させ逃げる気力も失せさせるためか

 

 ―――生きたい?

 

 打撲の痛みと血が流れでたためか意識が飛びかけている証拠か、それとも恐怖のためにおかしくなったのか、声が頭の中に響く。美しい、声変期を終えたばかりのような少女の声。

 しかし、その声が幻想だったとしても、剣を振るおうとしている女をしっかりと睨みつけながら、その声にしっかりと答えた。

 

 ――――――――――ああ、生きたい。

 

 女が剣を振りかぶる。俺の頭を両断するために

 

 

 ―――じゃあ、契約だね。マスター

 

 そして、その剣は俺の頭をしっかりと狙い、振り下ろされ

 

 

 はじかれる。

 

 

 03

 

 キンと貴金属同士がぶつかり合った美しい音、しかし、その後に聞こえたのは美しさからかけ離れた衝突音、それはすぐ顔の傍から聞こえた。

 

 俺の顔のすぐそばに刺さったのは、頭をかち割ろうとしていた剣の剣先

 

 剣が刺さってしまったことによって異常音を出していたが、やがて停止する室外機

 

 

 女は何が起こったのか、理解できないように、しかし、イレギュラーな事態が起こったことを理解し、距離を取る。刀身が半分以下になってしまった西洋剣を捨てることはせず、両手で握りしめ構えを造る。

 

 俺と女が立っていた丁度中間地点、その地面に黒い光が輝いていた。いや、地面に視線を落とすと、地面には紋が―複雑な紋が刻まれ、その紋を描く線が紅く発光。風がとぐろを巻いていた。徐々にその風は強くなり、さきほど両断されたバックの中のものや、放置されていた枯葉となった遺体と衣服が風に舞う。

 

 小規模な暴風が吹き荒れ、おさまった時、その中心、複雑な陣のなかには、一人の少女がいた。

 

 たまたまだろうが入り組んだ路地裏でも、時間によっては一日の間に僅かな時間日が差すことがある。

 

 この場所は日が沈む時間が偶然そうだったのか、橙色の光が路地裏を照らした。

 

 夕陽は照らす。

 半分以下となった剣を構えた女を、室外機に寄り掛かり腹から血を流す俺を

 

 そして、一人の少女を

 

 

 俺より幼い、といってもそんなに年は離れていない体つき、その体型に反し、露出の激しい服装、上は黒いコルセットのような服に下はビキニのようなパンツをはいているだけ。その恰好には不釣り合いなほど、いくつもの大型の中身の入ったナイフケースが腰にぶら下がってパレオのようだった。

 だが、一番目を奪われたのは、短い銀髪とアイスブルーの瞳を持つかわいらしい少女の顔。

少女は光と風が収まった陣の中にたっている。

 

 アイスブルーの瞳は俺を見つめ、問う。

 

 美しい、突如目の前に現れ俺を救ってくれた少女の、そのすべてが美しい、痛みが全身を襲うなか、確かにそう思った。

 

 「くえすちょん」

  

 少女は口を開く。舌足らずな、なんの偶然か、俺の頭のなかに聞こえた声と同じ声で、尋ねる。

 

 

 

 「あなたがわたしたちのマスちゃ……」

 

 

 あ、噛んだ。

 

 あたりに少し気まずい沈黙が流れ、少女が赤面して、もう一度問う。

 

 「あなたがわたしたちのマスター?」

 

 いや、きりっとした表情で、さっきの第一声無かったことにしたいみたいだけど、無理だ。お嬢さん

 

 あまりにしまらなかったので、ほんの少し、笑ってしまったが、表情筋は動かず、口角が僅かにあがっただけだった。

 

 04

 

 少女は俺がしゃべれない状態だと気がつくと、あたりを見回し、剣を構える女を見つけ、腰にくくりつけられたナイフケースから大型のダガーを取り出し、半身に構える。両手には滑り止めのためか、包帯が巻かれ、左手にはその上に黒の手袋をしていた。

 それに応じるように女も折れた剣を構えなおす。

 

 一触即発という状態、一番知識が足りずに理解できていない俺でもなにか簡単なきっかけがおこるだけで激しい戦闘がおこなわれることぐらいは分かる。

 だが、この空気を壊したのは、一番理解しているだろう、神の目で見通し、この場を理解できた人間が最も理解していなかったようだ。

 

 <<なッ、第6のサーヴァントが、このタイミングで!!?>>

 

 スピーカーホンの女の声が初めて焦った、本当のイレギュラーに接したような声を出す。それまでの差異は、何が起ころうとも勝利を確信し、余裕があったが、逆にその声に余裕といったものは皆無。

 

 スピーカーホンの声はぶつぶつと呟き、ヒステリックな悲鳴とその音声に何かを破壊する音も混じって聞こえた。予想してやる、物にやつあたりでもしたのだろう

 

 スピーカーホンの声とは違い、目の前にいる折れた剣を構えた女は依然として臨戦態勢をとかず、じっとこちらを睨んでいる。

 

 「……マスター、ここは撤退すべきかと進言します」

 

 その声が静かにあたりに響きわたって、ぶつぶつと独り言と悲鳴を繰り返していたスピーカーホンの声は一瞬、静まり、叫ぶ。

 

 <<わ、わかってるわよ!! それぐらい自分で判断できると思ったのよ! セイバー早く撤退しなさい!!>>

 

 一番ヒステリックでやかましい声を上げると電子機器が無理やり電源を落とされたような音を立て、静寂が戻った。

 

 その声を確認すると、女は剣を構えたまま、ゆっくりと後退。剣を持ったまま、背を向け角を曲がり消えた。

 

 

 女が去ったのを見た時、力が抜け、一気に気が遠くなっていく。ふと、ズボンとシャツがべったりと肌に張り付き、気持ち悪く目を動かすと、上下とも前掛けをかけたように紅く色が変わっていた。

 そういえば、わき腹から血が流れ出続けていることを忘れてた。

 手で傷口をおさえようとしたが、すこし、地面から離れただけで、そんな力も失せていく。

 

 少女が顔を覗き込み、なにかをいうが血を流しすぎたためか、聴覚も視覚もフィードアウトしてその意味を理解することができず、意識を失った。

 

 最後に、何かに抱きしめられる感覚が、安心できて混沌としたまどろみは温かかった。




 拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。
 ご意見・ご感想お待ちしております。
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