Fate/Heterodox Tale   作:今日は晴れ

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書きなおし、再度投稿になります。


tale 04 「――夢のあとで」

 00

 

 夢を見ている。

 

毎度のようにこの夢にはひどく、現実感というものがない。

 

 でも、だんだんと分かる。その夢を見ている時は、ひとつかふたつ、分かることがあるが起きてしまうと全て忘れてしまう。

 だけど、そのほかのことを、なにかひとつでも、砂の一握ですらつかもうとすると、霞のように飛散していく。

 

 

 確かなことがある。この夢から覚めてしまえば全てを忘れてしまうというのに、夢を見る度、どんな夢だったのか思い出ということと、夢の中で誰かが泣いているということ。

 

 そして、今回も、近くで声が、耳のすぐそばで声が聞こえて、ひどく温かいということはその人に抱きしめられているんだろう

 

 その人に泣いてほしくなんてないのに、いつもの夢の通り、その人はぼろぼろと涙をこぼして俺を抱きしめてくれた。

 

 そして、俺の願いも変わらない。

 

 泣かないで

 

 それが俺の願い。でも、そう言いたいのに、話すことができない。ただ泣いているその人に抱きしめられていた。

 

 泣かないで

 

 そう願うのに、もしもその人が泣きやんでしまえば離してしまうかもしれないから

 

 だから、何も言えない。

 

 

 たくさんのことを泣いている人に話したい。こういうことがあったと言いたい。なのに、何も言えない。

 

 そうやって、まわりの靄とも霧ともつかないものが濃くなっていく。また何も言えずに、俺もその人に抱きしめられたまま………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手が、俺の首を絞めあげる。

 ぎりぎりと、誰かの爪が首の皮膚を裂いて、血が締め付けている指を伝って流れおちていく。

 

 世界は一変していた。

 

 その人は、今まで泣いていた人じゃなかった。

 誰だかわからない、だけどあの人であるはずがない。

 

 世界は一変していた。

 

 世界は白い砂ではなく、対象的な、否、対極に位置するような薄暗い世界。

 ごみごみとして、猥雑で吐き気のする異臭が鼻孔を穢す。

 

 世界は一変していた。

 

 俺の首を締め上げるやつは口角をつり上げ、真っ赤に燃えるような舌をのぞかせていた。

 その表情は笑みだった。

 

 世界は一変していた。

 

 笑っている。

 嗤う。哂う。さも楽しくて仕方ないと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 首を締め上げながら、そいつは嗤っている。心の底から楽しそうに、これがなによりの娯楽と言わんばかりに

 

 あまりのことに思わずそいつを突き放そうとしたが、それはかなわない。なぜなら俺は

 

 

 

 

 生まれたばかりの、無力な(何もできない)赤子になっていた。

 

 

 

 

 やめて、たすけて

 

 必死に叫ぶ。助命を請う、死にたくない、そう叫ぶが、きりきりと指が首に食い込み、肉を抉って、流れ出る血が増えていく。

 首を絞められ呼吸ができず、ならばいっそのこと、死んでしまえばいいのか、とすら思えるが、しかし、皮膚を破る痛みが意識を手放そうとしてくれない。

 この締め上げる手から逃れることも、死という安息を得ることも、できない。

 

 怖い、恐い

 

 なぜ、こんなことになったんだ。

 この間まで、安心できたのに、夢の中は安堵と安楽の場所であったはずなのに。

 

 うすれゆく意識のなか、もうろうと、頭が動く。最期の願望を思い抱く。

 

 

 ―――――ああ、こんな絶望があるなら / こんな思いをするくらいならば

 

 ――――安心できた場所に戻りたい / 何も思わなければよかった

 

 ―――あの安らかな場所に / 何も考えられない場所に

 

 ――胎盤(おかあさん)のなかに戻りたい

 

 

01

 

 ……………………………ああ、夢か。

 

 ぼんやりと、風邪をこじらせ、熱にうなされたときみたいな気持ち悪くてだるいまま、なんとなく目を開けてみると部屋の中が薄暗い。今の時間は判断がつかないけど、暗いから昼ということはないだろう。夜ならもう朝まで眠りたいし、夜明けならもう少し惰眠をむさぼっても罰が当たらない。

 

 手探りで俺にかかっていたなにか、多分手触りと大きさからいってタオルケットを、少し体を動かすとなぜか体中のあちこちが痛いから、痛まないようにゆっくりと、体に負担にならないように毛布にくるまる。なんかやたらこのタオルケットはごわごわして煙草と埃のにおいが俺の眠りを妨げるけど、体をこれ以上動かすのが億劫なので我慢する。

 煙草の匂いが気になる。でも、睡魔を倒すまではいかなかったようで、そのままぼんやりと、頭の中に靄がかかるように、ゆっくりとまどろみたかった。けど……なんか、すっきりしない、それがどうしようもなく気持ち悪い。

 

 変な夢を見たせいだろう。夢の内容はおぼえてないが、寝ていたというのに起きた途端、疲れが押し寄せるなんてきっと嫌な夢に決まっている。だからもう一度寝なおしたかった。でも、眠れない。

 頭の片隅に何かが引っ掛かる。なんだか重要なことを忘れてるような?

 

 どうでもいいかもしれないが、どうしてもそのことが頭のなかでちくちくと刺激して安眠できない。

 

 …………なんだっけ?

 

 眠りたいのにすっきりしないと眠れないから記憶の中から安眠の妨げになってる案件をひっぱりだす。

 

 電撃から貸してもらうAVは……………………………まだ借りてなかったな

 

 家電に貸してたお笑いのDVDは………………………………返してもらってたな

 

 優等生に貸してもらった銀英伝のビデオは………………………巻数多すぎてまだ見てないな

 

 いや、貸し借り系じゃないか……

 じゃあ、おばさんの家にお邪魔するのは……あれ? そういえば今日何月だっけ? 

 あれ? 何か、こう、重要なことが………………あ

 

 夏休み突入まで二日前のできごと、聖杯とか、学校の連中に追われたこととか、そして、脳裏に浮かぶのは、倒れ、壁にもたれ掛かる白と黒の少女、それと馬鹿みたいに紅い髪で刀もってる不審者。

 

 そうだ、俺は戦いに負けて……

 

 「アサ……!!」

 

 意識にかかっていた靄なんて自分の声で完全に飛散して頭が覚醒した。

 

 だけど、起き上がれない。さっき毛布にくるまった時とは比較できないくらい体の節々が痛み、特に筋肉とか内蔵とかが破裂しまいそうで、ぎゃあああああああああ!! な状態。

 大声を上げながら、転がってしまいたいけど、転がることどころか、さっきの声を出したせいでもう痛みが苦しい。

 全身がひどく痛みを発して、特に右肩がひどい。でも、無視して……いや、無視できないから、痛みが引くのをまって、左手で右肩を押さえながら上半身だけでも起き上がる。

 ……やっぱり、いつものようには無理、だから、毛布を手繰り寄せた時みたいに爆発物を移動されるかのように上半身をゆっくりと起こす。

 首が回らない、首を動かそうとすると首だけじゃなく、頭蓋骨にまでひびが入ったように痛む。

 

 だけど、とりあえずは眼で確認できる場所だけを眺めた。

 

 俺が寝てる場所は、見知らぬ部屋だった。

 

大きさは学校の教室の半分くらい、部屋の隅には書類と思われる紙がこぼれたダンボールが積み重なって塔ができあがって、更にその隣とかには足の無くなった机とか椅子とかきちんと積まれている。

 

 部屋の暗さからして、てっきり夕方か明け方かと思ったけど、窓にはブラインドがかかって日を遮っていた。だから正確な時間は分からない。

 壁際に置かれたスチール製の書類棚の中身は空で、観音開きになっている扉のガラス戸のガラスが割れている。そんな倉庫というよりも粗大ごみの集積場みたいな部屋で、中央には応接間にあるような小さなテーブルが置かれ、そのテーブルを挟んで二つのソファアが置かれて、片方のソファアに寝ていた。

 

 テーブルの上には煙草の吸殻であふれている灰皿とテーブルのすぐわきとかには空のペットボトル、コンビニ弁当とかがつまったゴミ袋が転がっている。それが異臭をあたりに散らしてる……ゴミ出しはちゃんとしろ、そう部屋の主にいいたい。

 汚れた部屋で、俺が寝ていたソファアを観察してみるけど、やっぱり部屋と同様、安っぽい合成皮が破け、中身のバネとか綿とかをさらしている。

 

 それと、俺がみの虫のようにまるまっていたタオルケットもぼろぼろで、元々は赤系の生地だったんだろうけど薄いピンク色に脱色して、何か所も穴があき、端なんて糸がほつれていて、修繕するより新しいものを購入した方が安上がりだ。どう見ても耐久年数という寿命を超過している。

 

 もう一度部屋の中を確認してみるが、積まれた書類や書類棚のなかには埃がたまって、最近はつかわれた形跡がなく、放置されている。

 このテーブル周辺を除いて廃墟といって差し支えない。

 あたりを見回して改めて隅に置かれた壊れた机とか、段ボールにはいった書類とか、本来あるべき場所、眼を凝らして観察すると、日焼けしてない何かが置かれてた床、そういうのを見てみると、こういう場所ってドラマとかで見たことがある感じがする。たしか……

 

 「……事務所?」

 

 疑問形なのは今までこういう場所に来たことがないのと、さらにここは残骸ともいうべき場所だったから。

 ブラインドで窓から光がさえぎられているけど、僅かに光が漏れていた。その漏れた光、窓の向きが西か東かわからないが、オレンジ色ということは朝日か夕陽か、どちらか。

 エアコンとかの空調機能設備なんかはこの部屋にない、が、不思議と汗がでることはなかった。

 

 しばしの間、ここはどこなのか漠然と考えていたが、でも、今はそんなことを考えてる場合じゃないことぐらいわかる。

 

脳裏に浮かぶのは赤頭のあの不審者とベンチに寝かせたアサスィの姿

 

……とりあえず、最初に

 

 そんな感じに頭の中を整理していたとき、ガリャリと音が耳に入った。場所は俺が上体を起こしたために死角となった場所、すなわち真後ろ、その音と記憶の中で一致するものがある。ドアノブをひねった音だ。

 

 その予想は当たっていた。現に音の方角を見ると、一人の男が扉を開き、入ってきた所だった。

 

 半袖短パンで、俺の記憶違いじゃなければ、現在は7月で、温暖湿潤気候に属する日本の東京は真夏だっていうのにその上から黒のジャケット――肩のあたりから派手な刺繍が入っている、俗にいうスカジャンを羽織った、身長は160もないだろう小柄と評される体格。

 一見すると少年のようにも見えるが、不機嫌そうに、何か嫌なことでもあったのかむくれている表情の、頭を刈り上げている男は青年といわれる年齢の方が適切なんだろうしこの予感は当たってると思う。右手にはなぜかチアガールが持つような赤いポンポンをもっている。

 

 「なんだ、起きたのか?」

 

 その人は起きていた俺に気付き、開口一番にそんなことを尋ねた。だけど、不機嫌そうなのは変わらず、だから、ふくれ面が素の表情だとわかった。

 

 誰だったかな? とそれまで考えていたことが頭から離れて疑問が浮かび、顔をかしげる。

 

 その様子で俺の疑問もつたわったのか、入ってきた人は口角をつり上げ、オレだよオレといって、手に持っていた赤いもの――赤く染め上げられた毛玉――ウィッグを、頭にかぶる。そして、左目は文字通り目一杯にまで開き、右目は極端に閉じられた。左右で極端なまでに非対象の顔と赤い頭。

 

 ………………………………………………………猛烈に右肩がうずいた、というより痛む。

 

 痛みでその男――赤頭さんに俺が何をされたのか、思い出された。

 思わず、反射的にズボンのポケットに手を突っ込んで中の針を掴もうとした。けど、手は空を切る。思い出せばあの戦闘で針を無くしているし、その前にズボンを履いていなかった。

改めて自分の格好を確認してみれば、上半身は裸で肩に包帯をまき、下半身はパンツ一丁。

 つまり、対抗できる手段など持っていない。しかも、無理に動こうとしたために包帯が巻かれた肩がひどく痛み、さらに抑えようとしてバランスを崩してソファアから転倒。

 

 コキリ、って不気味すぎる音を出した。右肩がひどいことになったのは見ずとも分かる。だって痛いんだもん、どれくらい痛いかっていうと、ソファアとテーブルの小さな隙間で呻き声をあげて転げまわるくらい。

 

 コントみたいだったが、この間、赤頭さんが入ってきて、わずか5秒。

 

 痛みで涙が止まらなかった。それでも赤頭さんから目を離しちゃならないと考えがよぎり、痛みをこらえて顔をあげれば、うわ、こいつ何自爆してんの? 的に蔑む視線を俺にくれていた。

 

 もうどんなに体面を取り繕っても無駄だろうが、目尻にたまった涙を拭うと、まだソファアとテーブルの隙間に挟まったまま、赤頭さんの視線を真っ向から見つめ返し、

 

 「……アサス……あの子をどうしたんだ?」

 

 そう虚勢を張りたかったが、最後は蚊の羽音のようにしぼんでいく。なぜって、その赤頭の視線が鋭いものに変わって、ああ、これが蛇に睨まれた蛙ってやつか、と思うほど、三白眼を凶悪なものに変化していき、あっけなく俺の虚勢という砂の城は崩れ去った。

 

 「敬語」

 

 はい?

 

 すみません、ごめんなさい、どうやって謝るべきか思案していると、赤頭さんはやたらドスの効いた声でつぶやく。

 

 「最近の若い奴はなっちゃねえな、敬語もまともに使えねえときてやがる」

 

 特大級のためいきを吐き、そう悪態をついた。

 

 ……つまり、敬語を使えと?

 

 「……。あの子をどうしたんですか?」

 

 恐る恐る尋ね直すと、赤頭さんはしばらく考えるようにじっと俺をみて、

 

 「及第点だな」

 

 えらく靴音を立てながら、向かいのソファアに座った。

 

 ……質問には答えてくれないんだな。まぁ、仕方ないか。

 体の節々と右肩が痛むからゆっくりと起き上がって、俺もソファアに腰掛けた。

 

 「今はとりあえずこれでも飲め」

 

 そういって差し出されたのは一本の缶コーヒー、でもコンビニで見かけるような銘柄じゃなくて、知らない、聞いたこともないメーカーのコーヒー缶だった。

 

 いや、別にそういったところの、大手メーカーの奴しか飲まないって決めてるわけじゃないからいいけどでも……

差し出されたコーヒーを繁々とラベルを見つめ、ある事実に気がつく。

 

 「俺、ブラック飲めないんで」

 

 コーヒー缶には無糖と書かれていた。俺はブラックが飲めない。いや、飲めないこともないけど正直お断りしたい。だって毒とか入ってたらいやだし。

 だから、適当な理由も見つかったことだし、お返ししようとしたが、赤頭さんはにっこりと満面の笑みを作ると、

 

 「贅沢いうんじゃねえ、飲め。もしくは死ね」

 

 おい、選択肢が存在しないなんてレベルじゃねえ!

 

 でもその笑みの下で、マジで飲まねえとぶっ殺すぞ、と如実に物語っていた。

 仕方なく、プルタブを上げ、一口。

 

 

 

 

 

 …………………………ツッゥ!!

 

 

 

 

 

 

 思わず吐き出しそうになった。それはこれがブラックだからとか、そんな問題じゃない。これ、本当にコーヒー? これが率直な感想にして疑問だ。

 中に入っていた物は、なんというか、液体と表すること自体は憚られる。どろりと、水分過多の泥水といったものなんてまだまし、ヘドロのようなコーヒー、もしくはヘドラだ。

 

 吐き出しそうになった。いや、今も吐き出したい。含んでいた口内の軟肌がどんなに不節制な生活をとってもこうならないだろうほどただれている。だけど、目の前の赤頭さんはもう一本同じ銘の缶コーヒーをポケットから取り出すと、うまそうに飲んでいる。

 

 半ばその光景に驚愕する。が、もしもこれをうまそうに飲む人の前で吐き出せばどうなるか、考えるまでもない。今は持っていないけど、あの戦った時に持っていた刀で切り刻まれる。

 

 

 切り刻まれるのがましか、このヘドラを飲んだ方がましか、後門の狼前門の虎、だったが、痛いのが嫌だから、コーヒーをすすることにした。これは最高級のふかひれスープ、ふかひれでとろみがついているから飲みづらいだけ、と魔術が伴わない自己暗示をかけつつ、飲む。

 

 

 ……ごめん、やっぱりふかひれの味はしない。

 

 前におばさんに連れて行ってもらった最高級の中華料理店で食べたふかひれとは似ても似つかない、というかふかひれとあの店のコックさんに失礼だ、あの店、まえにバラエティー番組で三ツ星料理店として紹介されてたし、あの三ツ星レストランに失礼すぎる。

 

 だから、泥水の方がまだましなコーヒーをすする……あれ? なんだろう、眼から熱いものが。

 

 そんな味覚を考えないように思考で頭の中をいっぱいいっぱいにして、コーヒーを飲む。しばらく俺と赤頭さんのコーヒーをすする音しか部屋にはなかった。

 

 02

 

 「そういやよ」

 

 やっと缶の中身が半分になってきたところで、話しかけられた。

 

 赤頭さんをみると、空になったのか、缶の上辺をもって底を円を書くように回している、手元を見ていた。

 

 「おめえさん、あのサーヴァント、あの娼婦も裸足で逃げるようなのは自前か? ロリコンかおめえ」

 

 ゴフッ

 

 「うわ汚ねえ! てかもったいねえ! 吐くんじゃねえ!」

 

 

 思わず、口内に残っていたヘドラを吐き出してしまう。だって俺はロリコンじゃねえ。てか、変な所に入った。

 

 ゴフッゴフッ!!

 

せき込みながらも、しっかりと首を横に振って、

 

 「ち、違いますよ! 誰がロリコンですか!! 俺は普通に巨乳派だし、アサスィは幼すぎるでしょうが!」

 

 俺はノーマルだ、ノーマル! 確かに少し性癖はアブノーマルだという自覚はあるけどノーマルだと言えるんだからノーマルだ!

 

 だけど、そんな必死な申し開きに対し、赤頭さんは

 

 「必死に否定する所が怪しいな」

 

 じっと、俺の顔を、いや、審議する裁判官のように俺を見定める。だが、そんなことに飽きたのか、缶を置くとソファアに体重を預け、両足を組み、天井に視線を投げる。

 

 「ま、いいわな、お前さんがロリコン、マゾヒストの巨乳派っていう三重苦でも関係ねえし」

 

 「いやいやいやいや、俺どんだけやばいんですかそれ」

 

 正直三重苦ってレベルじゃない、あとロリコンで巨乳派ってなんなんだろうか、ロリと巨乳は相容れないものだ。

 

 「てめえがロリコンだろうがショタコンだろうがなんでもいいが……」

 

 よくないです。

 

 「どっちにしろ、教えてやるよ。さっきの質問の答えでもある。お前さんのサーヴァントがどうなったのか? ってよ」

 

 へらへら笑いながらさも愉快だと言わんばかりに赤頭さんは俺に尋ねた。俺も動きが止まり、それをみた赤頭さんはさらに笑う。

 あの子の、アサスィがどうなったのか、それを教える、と赤頭さんはいった。それは俺の動きを止めるに十分すぎるものだった。

 

 「安心しろ、ちゃんと生きてる……英霊が生きてるって表現はおかしいか……ただ暴れられると手が出せねえから抑えられるように特別な処置を施した別の場所(ビップルーム)にいる」

 

 ……それはよかった。

 

 それで言葉を飲み込んだ。最悪の事態は回避されたらしい。

 でも、ただいるだけなら問題じゃない、肝心なのは、

 

 「で、アサスィの怪我は……でっ!」

 

 肝心なのは、アサスィの具合。俺の見た限り、アサスィは怪我らしい怪我を負ってはいなかった。ただ細かいかすり傷や埃なんかで汚れていたけど。だから、あの後大丈夫なのか。

 

 でも、おでこに激痛が走る。おごごご、と呻きながら額を抑え悶える。

 痛みが退いたから、顔をあげれば、赤頭さんはジャケットのポケットから煙草の箱を取り出し煙草をくわえ、取りだしたジッポで火をつけていた。

 

 ……なにされたの? 俺。

 

 状況がわからず、少しでも状況収集に励んでいると、赤頭さんは咥えた煙草を吸い殻で一杯になった灰皿の上にさらにつっこみ、火を揉み消し、紫煙を吐く。

 

 「おいおいおいおい、質問する順番が違ぇぞ。サーヴァントのことよりも、まずは自分の状態、次にここはどこなのか、だろうが」

 

 …………確かにそうだ。

 

 考えてみるけど赤頭さんの言ってることは正しい。自分がどういう状態で、ここがどこなのかも分かっていない状況だ。アサスィを云々以前に自分のことを尋ねるべきだろう。

 

 「……ここはどこなんですか?」

 

 なにから尋ねるべきか、自分の状態か、それともどこなのか、次々と浮かぶ疑問ばかりだったけど、ここがどこなのか、所在を尋ねることにした。赤頭さんは怪訝そうに片方の目を細め、ガンをつける。なにか癪にさわったんだろうか? 内心心臓がどくどくと鼓動が激しくなる。で、赤頭さんは舌打ちを一つして、大げさにため息をつく。

 

 

 「ヤクザが経営してるビルの五階だ。場所は昨日戦った所から歩いて20分ぐらいの場所にある。それでこのフロアは、なんでも、もとはよくわかんねぇ会社の事務所が入ってたらしいが、2か月前に家賃も払えなくなって夜逃げして、そのまま。整理するにも残された備品を売っぱらうにも、そっちの方が金かかるからほったらかしにされて、ここを使わせてもらってる」

 

 だけど、そんな心配をよそに、赤頭さんはそういって、全く同じ銘柄のヘドラコーヒーの缶を開け、口をつける。

 

 それにしてもやくざが経営しているビル、一般的にいえばヤクザビルとか。

 

 ……怖ええ……!! 

 

 見過ごせないけど見過ごさないと到底自我を保てないような単語がごまんとでてきたよ。怖えよ。

 

 「それでお前さんは普通にしてれば全治半年の重傷、なんつっても、右肩の筋肉が抉れて、肩関節では骨折箇所が4か所って状態だ。むしろ、半年は不幸中の幸いだな。怪我に比べて半年は軽すぎる」

 

 ぐびぐびとコーヒーを飲みながら俺が求める内の質問、俺の状態についても説明してくれた。

 

 普通であればもう真っ青になるだろう惨状な、自分の怪我だったけど、それを聞いて、驚くほど冷静だった。

 

 やっぱり頭のどっかであの怪我は重傷だってことぐらい分かってたからか、ああ、やっぱり肩の肉抉れたか、って、ほどにしか思わなかった。けど、それにしては、さっき体を起こした時とか、転がった時に感じた痛みが少なすぎるような気も……なんでだ?

 

 視線を右手に落とし、試しに掌を握り、開き、そんな動作を繰り返すが、少し、右肩が痛むだけで、それ以上の痛みはなかった。いや、あれ? 右手の……腫れが治ってる?

 

 冬木市に調べたあと、あまりの惨状に学校で、胃の内容物をトイレにぶちまけ、そのあとむしゃくしゃして壁を殴ったから右手はパンパンに腫れていた。でも……

 

 右手を見てみたが、腫れがすっきりと治まり怪我なんてしていないようだった。

 

 「ただし」

 

 新しい疑問、というか怪現象に頭を悩ませていると、声がかかる。無論、声の主は赤頭さん。

 再び視線を上げると、赤頭さんは左胸のポケットから何かを取り出した。

 

 ……なんだろう? 小さな、ビー玉、かな? ちびっこい、赤い球体のものが赤頭さんの掌にある。

 

 「感謝しろよ、オレがとっておきの宝石を使って治療したから軽い打撲程度で治まったんだしよ」

 

 宝石、という単語、それから思い出せることがあった。それは赤頭さんと戦った時、正確に言えば、俺がけちょんけちょんにやられた直後のこと。

 

 俺の顎を赤頭さんが抑えた途端、光を放ち、それで驚くほど痛みが引いたことを思い出した。

 

 前の戦闘で、赤頭さんが治療を施してくれたことがあった。なんらかの魔術手段であることは確実だけど、それがなんの魔術なのか分からなかった。でも、とっておきの宝石を使って、と聞いて、なるほどと、合点できた。

 

 宝石魔術

 

 一般的にとてもポピュラーな部類の魔術、母の日記でも触れられていた。

 宝石とは年月を経て作られた地球、いわばガイアの物質でありその結晶でもある。そして、古くから栄華を極め富の象徴でもあり、早い話、人の想念を集めやすい品でもあるのだ。故に、曰くつきなどになって一人の魔術師の手に触れられていなかったというのに立派な魔術礼装になったなど、逸話も多い。

 宝石とはそれほど思念やらが宿りやすいものであるが故、本来ストックできるはずもない形のない魔力も宿りやすく、とどめ、ストックすることが可能。そればかりか、魔力を貯め、それを使うことによって本来どれほど魔術回路を回しても足りない、とんでもない大魔術の行使も可能とする、例えば、骨折して全治半年のけが人の治療、とか。

 

 あの戦いのあと、してくれた顎の治療も本来、赤頭さんがよっぽど優秀な魔術回路を持って、治療に特化した魔術師じゃない限り無理だ。

 

 即効で痛みが引くなんてことはありえない。しかし、もしも、赤頭さんが俺の思った通り優秀な、魔術回路と治療に特化した魔術師であっても、骨折ばかりか、俺の、右手の腫れまで治すことなんて無理だ。

 

 だから、この痛みの少なさの理由がわかった。つまり、宝石の魔力でブーストし、赤頭さんは俺を治療してくれた、だから少しの痛みを残して満足に動けるようになった。

 

 でも、疑問が一つ解決したことによって別な問題が浮上した。そして、その問題は、 俺に非情に汗をかかせるのに足りる問題だった。

 

 

 

 ――治療費、請求されたらどうしよう。

 

 

 宝石魔術は確かに便利で、使い勝手もよく、万能性は数多の魔術系統といっても随一だ。

 

 しかし、なぜそこまでの利便性をもつ宝石魔術でも、全ての魔術師が宝石魔術を使用しないのか、その万能性の中に弱点らしい弱点は確かに存在する。

 

 それは魔術系統の持つ弱点ではなく、宝石をしようするということ。そして、宝石は使用するたびに消えていく、消耗品の使い捨てってことだ。

 

 もう一度、宝石は富の象徴なのだ、つまり、非常に、高価だっていうことだ。

 

 つまり、高すぎるために、コスパが優れない、むしろ劣悪といってもいい。そんなコスパがやばい魔術よりも人の死体いじったり、動物を育てたりした方が何倍もマシ、らしい。

 

 母の日記でも、余ほど切羽詰まって採算度外視に追い込まれた魔術師が使うくらいで、無論母の同僚で使っている人はいなかった。

 

 ちらり、と確認してみるが、赤頭さんの手の中には小さく、ビー玉くらいになった赤い玉が握られている。あれは俺を治療するために使用したとのことだ……とっておきを。

 

 次に思い出すのは、やくざビルという単語……つまり、話を総合すると内蔵とられて山奥に埋められる?

 

 

 ……死にたくねぇ

 

 そんな思いがよぎる。

 こんな所でしにたくなんてない。

 

 「く、くくくくっ」

 

 思考ががんじがらめの袋小路に行きあたっていると、そんな声が聞こえた。なにがおかしいのか、小さくなった宝石を掌で転がして遊びながらくっくっく、なんてつりあがった口の端から笑い声を洩らす赤頭さん。

 

 「お前はこの宝石が駄目になるくらい使ったんだけどな、姉貴じゃなくてオフクロの、一級品を完全に使いきっちまった、ってのに」

 

 ご家族のことは、知らないがそんな一級品が使われてる時点で弁償できない。

 

 「……ってのに、お前、さっきのあれはなんだよ、ソファの間に挟まるって」

 

 げらげらと腹を抱えて赤頭さん赤頭さん……そんなに面白かったのか、俺のあれ………駄目だ、傍からみたら面白い。

 

 「にしても、お前は馬鹿だな」

 

 そんな唐突に、ひとしきり笑ったあと、目尻にたまった涙を拭いながら今度は俺を馬鹿にしてきた。

 

 「お前どうせあれだろ? 『人殺しは問答無用でいけないことです!』とか素で言っちまう奴だろ?」

 

 ……はい、その通りですね。

 

 「悪いですか? 人を殺すのはいいことなんですか?」

 

 さっきまでの冷や汗と焦りまくった思考回路が面白いほどひいて、今度は逆に馬鹿って言われたことと、自分の考えが真っ向から否定されて腹がたってきた。だから、声にすこしばかりいら立ちが含まれている。仕方ないだろう。笑われた後、いきなり馬鹿だって言われたんだし。

 

 「いや、そりゃあ、人は死なねぇに越したことはねえけどよ、今回ばかりは、お前さんの現状はそうも言ってらんねえぞ」

 

 その時、赤頭さんの纏っていた空気が変わる。

 

 ぞくり、と背筋が凍り、肌が粟立った。

 

 03

 

 両目を細め、あの時と、俺とやりあったときと同じ空気を纏う。

 声色、姿、表情、全て変わらないというのに、一瞬にして空気が変わった。

 

 体から殺意、といったものが放たれていない。しかし、それ以外はあの時、新宿で戦った時のままだった。

 

 いら立った思考が一瞬で冷や水を浴びせられたように収まっていく。いまコーヒー缶を持っていなくてよかった。持っていたら、握る手が震えて、それが悟られていたことだろう。それぐらい、俺は、この人を恐怖していた

 

 赤頭さんは煙草の箱からもう一本、煙草を一本くわえ、指先を軽く振るうと指先に火が灯る。

 煙草に火をつけ、一服。

 

 煙草をすった、それだけなのに、いまだに警戒は解けなかった。

 

 それにきがついた赤頭さんは俺をみて笑う。あの時と同じ獰猛にしてしなやかな獣を思い描かせる笑みで。

 

 「そう緊張するな、とって喰っちまうわけじゃねぇよ」

 

 紫煙を吐き出し、かっかっかと好々爺のように笑うが、何一つ警戒を解く安心材料にはならなかった。

 

 そんな俺をみながら、ま、いっか、と呟くと相も変わらない雰囲気をもったまま、煙草を灰皿に押し付け揉み消す。

 

 「お前、聖杯にかける願いがねえって言ったけどよ、もったいねえなぁ」

 

 バニラの香りが口から漂うが、思いを吐き出すかの如く述べる。

 

 「どんな願いも叶っちまう、たとえ一生を千回繰り返しても遊んで暮らせるだけの金、どんな無茶やっても死なねえ不死身の体、手放しちまった幸せのやり直しでも何でも、だ」

 

 そんなことをいう赤頭さんは俺を見ていなかった。俺と赤頭さんの上に漂う煙に投げかけるように、じっと、しかし一点をみることはなく、過去に思いをはせるような口調、まるで自問自答するかのように。

 

 その表情に少しばかり以外に思う。この人は、後悔がないように感じられるのに、その表情には後悔、というものがにじみ出ていた。

 

 

 どれくらいそうしていただろうか、漂っていた煙が半分以上霧散し、立ち込め、消えない臭いだけがこの部屋で紫煙の存在の証を示しているようになった時、赤頭さんはやっと俺の存在を思い出したかのように、現実に戻った。

 

 「お前、今回の聖杯戦争にどうやって参加した?」

 

 ?

 

 「なにがです?」

 

 参加したって、アサスィ召喚したんですけど?

 

 「だ・か・ら! お前さんがこの聖杯戦争に参加した経緯だよ!!」

 

 さっきと打って変わって、すげぇイライラしてます! 不機嫌です! って、言わんばかりに眉間にしわをよせ、睨みを効かせる。吸っていた煙草を強引に灰皿に押し付け、そのため、灰皿に積み重なってできていた煙草の塔が机の上にこぼれた。だけど、それに構わないように、新しい煙草を取り出すと火をつけ咥える。

 

 だから、素直に話した。この前、セイバーのサーヴァントに路地裏で襲われ、アサスィを召喚したこと、聖杯戦争のことはアサスィから聞いたこと、それで、調査のために新宿を訪れ、戦闘になったことを軽く説明した。

 それと、灰皿の煙草を、足元に転がっていたビニールに収めて、綺麗する。

 

 「……お前、巻き込まれた系じゃないかとは思ったが、的中するとは……つまり、何も知らないってことか?」

 

 空になった灰皿に煙草を押し付ける。再び煙草を取り出して吸いながら、呆れたように、いや呆れたんだろうな、赤頭さんの咥える煙草が一気に根元まで灰になる。

 

 「ええ、まぁ……はい」

 

 罵倒され、呆れられ、それでも何も知らないのは事実だし、肯定することしかできない。妙に悔しいが、でも偽っても始まらないので、頷いた。

 

 「じゃあいいことを教えてやる、お前さんで最後だ、お前さんが最後のマスターで、あのアサシンが最後のサーヴァントなんだよ」

 

 「え? そうなんですか? 6人目じゃなくて?」

 

 最後? だって、あのセイバーのマスターは俺を6人目だって……

 すると、赤頭さんは目を細める。

 

 「どこ出の情報だ?」

 

 「え、えっと、セイバーのマスター? かな?」

 

 思わず反射的に情報を言ってしまった。言ってしまった後で、また、あの衝撃が額に来るんじゃないかと、額を隠す。しかし、赤頭さんは、視線を落とすと口元を隠しながら何かを考え込んでいる。

 

 「……セイバーのマスターか」

 

 じっくりと、何か思案にくれているようで、到底話しかけらなかった。

 

「……それは追々考えるとして、お前、令呪見せてみろ」

 

 「令呪?」

 

 「左手の物騒なもんだよ!」

 

 令呪はアサスィから説明を受けているから知ってはいるが、何を言われても戸惑いはある。だからオウム返しで質問したが、よほどいらいらしているのか、怒鳴るのが早くなってる。が、ともかく、これ以上怒られるわけにもいかないので、こっちも素直に、左腕、その甲に刻まれた令呪を見せる。

 

 左手に刻まれている真紅の紋様。2つの線の端と端を結び作られた楕円形の外周を、囲むように大きな円が描かれている。

 

 「お前さんのはサンカクの令呪だな?」

 

 確認するように、赤頭さんは俺の令呪をじっと見る。

 

あれ? でもこれ……

 

 「三角? これ楕円形ですけど?」

 

 どこをどう見ても三角形じゃないけど、これ

 

じっと観察するけど、構成された令呪には三角形はない。

三日月の線が端と端を結んでその外を更に大きな円が囲んでいる。三角形がどこにあるのか、じっと考えていた時、おい、と呼ぶ声が聞こえた。顔をあげると、

 

 ばちんっと、それまでで一番いい音が響き、それで俺の額に一番の衝撃が放たれた。

 

 「……、……!!!」

 

 今度も声もなく転がるしかなかった、てか、いてええ。

 

 「三角形じゃねぇぇ! 画数だ! 3画の令呪! つまり3回サーヴァントに命令できるって意味だ!!」

 

 ……へえ、そんな意味が。

 

 ごろごろソファアに転がり、痛みから逃げながら聞くしかなかったけど。てか、俺は何をされているのか知りたい。

 

 「……で、でも、それって当たり前のことじゃないですか? だって、令呪は3……」

 

 「3回いうことを聞かせることができる、ってか?」

 

 へらへらとしながら、赤頭さんは俺の代わりに説明した。

 

 「てめえみてぇな素人が誰から聞いたのか……そっか、あのサーヴァントか、なるほどなるほど、サーヴァントは冬木聖杯の知識は持ってるみてぇだしな」

 

 うんうん、と頷きながらそんなことを言った。事実と合ってるが、その通りだけど、なんだろう、この人一人で頷き、一人で納得するな、この人、変わった人だ。

 

 「なるほど、誤解するわけだ。知識は冬木だしな」

 

 したり顔で頷く。

 

「面白いもの見せてやるよ」

 

 煙草を灰皿に押し付けもみ消すと、赤頭さんはスカジャンを脱ぐ。

 

スカジャンの下に赤のタンクトップを着ていた。肩と腕が見えるが、よく引き締まっている。だけど、気になったのは、

 

 

 

 

 露出した左肩には、紅に輝く紋様、俺と同じ赤だというのに、まるで地平線から昇る暁光をそのまま閉じ込めたような光輝く紋様……

 

 紋様――巨大な円の中に二つの十字が重なりあっている。まるで、古代のギリシャで使われた丸い盾、その盾に二振りの剣が重なりあっているかのようであった。そして、一画は光が失われていた。だが、まぎれもなくそれは最初、光り輝いていただろうものだった。

 

 失われたものも合わせ、5つのパーツで光り輝く令呪……改めて俺の令呪を見る、俺の左手には、3つのパーツで輝く令呪が刻まれていた。

 

 

つまり、赤頭さんの令呪は、

 

 「オレの令呪は5角ある。1画は、まぁ、諸事情が重なって消費しちまったが、5画、あった。例外中の例外、冬木の聖杯戦争から外れたルールの一つだ。どうやら、早く召喚すればそれだけ令呪を多くもらえるようでな」

 

 忌々しげにそう呟く。

 

 「オレは一月前にサーヴァントを、ああ、おめえは知ってるな、あの場所で叫んだし、アーチャーを召喚した。それ以前に確認したサーヴァントは3騎、1騎は確認できなかったが、オレが5人目だと考えれば、配布された令呪の数は合っちまうんだよ」

 

 あの場所とは、すなわち、赤頭さんと戦った場所、その前に、赤頭さんはアーチャーに手を出すな、と言っていたことを聞いていた。やっぱりアーチャーで確定のようだ。

 

 つまり、6人目が4画、それで7人目だと俺が仮定すれば3画だということだろうか?

 

 ……なるほど、だったら俺は最後のマスターだな。

 

 「だから通路にあんなにわんさか仕掛けたるはめになっちまったわけだ」

 

 はぁ、とため息をこぼし、どこかぼんやりと空を見上げた赤頭さん。

 

 「例外が多すぎる」

 

疲れた、疲れ切ったサラリーマンのようにぼやきはじめた。

 

 「何かしでかして一つでもセオリーじゃねえと足元からひっくり返されちまう状況だしな。計200メートルにわたる認識阻害と盗聴なんぞ当たり前の大規模結界。罠の類にも隠密性の高いもので、相手の特性に合われて、逆探知の危険性がない自動式、少しでも有利にことを進められるようにアーチャーと細かい作戦と打ち合わせして構築した自信作。敵の何かを知れれば御の字、だけど、ひっかかったのが」

 

 それでため息混じりで俺を見つめ、

 

 「結界、必要ねえし、召喚したばっかの、情報なんてどこにも転がってねえ奴が引っ掛かるとか」

 

 がっくり、といった様子で項垂れた。

 

 「はぁ……。その、すみません」

 

 その落ち込み用といったら俺が思わず謝ってしまうほど、肩を落としていた。

 

 「あやまんな、オレの方がみじめになってくるから」

 

 項垂れながら手をひらひらとふり、やれやれと赤頭さんはスカジャンを羽織る。もう立ち直ったのか、後悔なんぞなく獰猛な笑みになっている。

 

 

 「……ところでよ、お前さんに提案がある」

 

 

 それと表情も先ほどと同じように笑いながら、

 

 「お前さん、オレと同盟組まねぇか?」

 

 新しい煙草を取り出し、咥え、俺を食わんばかりな笑みを浮かべてそういった。

 

 

 

 

不心始章 第四話「――夢のあとで」 終

 

 

 

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