Fate/Heterodox Tale   作:今日は晴れ

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幕間
「まだ見ぬ共演者」


 01

 

 「ねえ、きいてる? おねえさん!?」

 

 呆然と、薄い膜につつまれていた女性店員は、はっと現実に返った。

 目の前には不機嫌な顔をした客の顔があった。それですぐに持ち直したのか、注文ですね、と確認を取る。

 

 「じゃ、もう一回だけど、きんきんに冷えたビール二つと鳥の軟骨、それと枝豆ね、お願い!」

 

 客はそれで機嫌を直したようで、大輪の笑顔を見せたが、その顔を見た途端、店員は再び夢の世界の中に戻りかけた。それでも、独り言のように注文を確認し、判別不可能な文字を注文票に書き込んだのは単に職業使命に則ったものであり、賞賛されるべきだろう。最も、厨房にオーダーを伝えるために去っていった足取りは夢遊病患者のように頼りないものではあったが。

 

 現在23時34分。

 

 仕事帰りのOLやサラリーマンでごった返した居酒屋でも一区切りし、そろそろ厨房の火を落とす時間であったが、ここは新宿。まだまだ客の足は衰えず、和風をイメージした店内には座敷席とテーブル席、丁度半々に店の内部が分かれているが、客の入りは上場であり、全体の7割ほどの席が埋まっていた。しかし、テーブル席の一角、いや、一区間だけがスポットライトに当てられたかのように人がいない。

 

 その理由は、その客を見ればわかる。

 

 二人が向きあうようになっているテーブル席の片方にその客は座っている。

 

 ベージュのスキニーと白と青の格子模様のTシャツの上に派手なオレンジ色の半袖ジャケットを羽織っている格好であったが、体のラインが出る服装のため、いかにスタイルがよいのかを強調していた。シルエットとしては細い。だか、痩せすぎ、というわけではなく、むしろ健康美に溢れた肢体を強調させていた。

 

 しかし、何より目をひくのはその美貌であった。

 

 桃色に染まった髪を三つ編にし、腰まで垂らすが、髪は上等な絹のように光沢としなやかさをもっておりそれだけでも目を奪われる。そして、顔立ちは更に素晴らしい。すらりと伸びた鼻梁はそれだけでもどの彫刻家もぜひモデルに、と頭を下げんばかりに完璧な曲線を描き、古今東西の宝石よりも煌めく瞳はどの夜景の星空の輝きよりも眩さを放っている。それらがすらりとしまっていく顔の中に収められており、なんともいえない可憐さと露わにしていた。

 

 その瞳に映った店員が見惚れるほど、その人物は美しかった。

 

 よって、近寄りがたいのだ。

 自分よりも数段上、例えそれが手の届かないと分かっていながらもあるのと、初めから届かない雲上の存在だと認識しているか、していないかでは大きく異なる。

 

 過ぎることにより、近づいてはならない美、それを客たちは本能的に理解しているため、近寄る存在はおらず、自然と独りになっていた。

 

 だが、向かい席の椅子に一人の男が腰掛ける。

 

 座っていた人間とは対照的な男だった。

 中肉中背、黒のスーツを着込んでいる。特徴と言えば、それだけだ。

 

 他にも外見を述べよ、と言われれば、髪と瞳の色は黒、年のころは分からないが、30手前か20中程、と答えられるが、なんとも、印象にかける人物だった。

 

 もしも、この人物が店に入ってきた、それだけなら仕事帰りのサラリーマンだと誰もが思うだろうが、座った席が問題なのだ。カウンターに座らず、テーブル席、それとビールを二つ注文したということは、連れがいることだが、その連れが釣り合っていない。方や優美の塊のような人間と、どこまでも十人並みのため彩光に欠く人間。どこまでも釣り合っていない。

 

 本来なら、奇異の目でみられるはずの組み合わせであったが、しかし、異常はここからだった。

 

 不意に、隣の席に二件目なのか、ほどよくできあがって、顔が赤く染まったサラリーマン三人組が座る。

 それまで誰も手を加えてはならないと、口外せずとも暗黙のルールのようになっていたのに、それが破られた。

 

 それを皮切りに、店内の人の出入りも通常通りとなる。再び騒がしく活気づく。

 

 あれほど、あの二人に注目していたというのに、それがないほど、各人、自分たちの食事であったり、たわいない会話に戻っていった。

 

 そうして、ある席が注目を集めていたとは思えないようになってから、ビールがなみなみつがれたグラスジョッキの大が二つ運ばれた。店員が変わったのは、彼女がグラスを一回落としてしまい、休憩したためだ。

 

 一つ、各々がジョッキを持つ。

 

 「どう? うまくいったでしょ?」

 

 最初に口を開いたのは、美を持つ方が、いたずらっぽく笑いながら、そういった。

 

 「キャスター」

 

 陰鬱な声で、スーツの男がそういった。どこか避難するかのような声色だったと、付き合いがあるものなら気づき、この人物も付き合いがある方なのか

 

 「睨まないにらまない! こうしてグラスがジョッキに変わるサービスしてもらったんだし、いいじゃないさ! 魅了の魔術なんて君だってできるんだしね!」

 

 睨む、といったがもう一人の男の顔に変化はなかった。

 しかし、怒気をもっていると察したのか、そうして、隠すかのようにジョッキをあおった。

 

 02

 

 「ふむ……」

 

 十分以上、俗に言うガラパゴス携帯の、店頭に並べられたサンプルとその機能を提示した一覧表を交互に見比べ、にらめっこしている巨漢がいた。

 平凡な日曜日、住宅街の中にある、そこそこの規模を誇りにぎわう家電量販店の携帯コーナーにて唸っている。

 服装はスラックスに白のワイシャツという格好はどこにでもあるものだが、真剣に眉間にしわを寄せ、目鼻の整った美丈夫であるため、悩める姿は絵になっていた。

 

 そうして、一台の携帯を手に取る。

 

 「これにしましょうか……」

 

 誰にいうわけでもなく、独り言をつぶやく。

 

 そうして、恐る恐るといった手つきで携帯を持ちあげて、じっくりとなめるように見つめていたが、決心がつかないのか、二言三言呟き、再び、元の位置に携帯を戻す。

 

 再び、思慮のポーズに戻り、考察を重ねるが結論の出ないまま、そこで固まっていた。

 

 どれだけの時間が流れたか、売り物の時計の長針が半周したところで、一人の女性が近づいてくる。

 

 飾り気のない紺のブラウスにプリーツスカートという格好の、清楚なイメージを見る者に与え、その所作に気品と上品さが醸し出される、一見すれば深淵の令嬢と見間違い、これまた家電量販店にふさわしくない女性だった。

 

 「まだ悩んでるんですか? ライダー」

 

 ライダーと言われた美丈夫は、やっと女性に気がついたのか、ああ、と声をかけた。

 

 「ええ、携帯といってもカメラ機能を優先させたいのですが、中々、これといった物がないもので」

 

 ため息混じりにそう女性に伝える。

 女性も、そうですか、と頷きながら、同じく悩み始める。

 

 二人の、異なった組み合わせが悩める姿はそれぞれ、絵になっていたが、あまりのことに周りから人が離れていった。

 

 そこでようやく、声をかけるべきかかけざるべきか熟考を重ねていた店員は声をかける決心がつき、二人に近づいて行った。

 

 03

 

 闇が広がる。

 

 どれだけの闇が広がっているのか、見当もつかない。

 

 だが、一角を薄明かりがあたりを照らし、その部分だけを光明が照らして、部屋を浮かび上がらせていた。

 

 雑多だった。

 

 あたりは掃除がなされていないのか、埃が表面を覆い、埃のしたには本が積み重なって塔になっている。その塔が、部屋の中に乱立していた。だが、恐ろしいことに本の頂上付近が見えず、塔の中程から再び闇が包み隠していた。この本たちがどれだけの高さがあるのか見当もつかない。光は弱弱しいながらも、成人男性の身長ほどは照らしている。だが、それでも天井まで届くことはなかった。

 

 

 そして、光は部屋だけではなく、一人の女も照らしだしていた。

 少女、と呼んでも差し支えのない外見の女である。暗闇であっても光に反射する黄金の髪と、光にとけるような白い肌を持つ少女。

 本来ならばそれなりに値が張るだろう黒を基調としたゴシックロリータと呼ばれる服を纏っている。だが、所々布が破け、糸がほつれていた。ある意味、この部屋にふさわしい格好であるかもしれない。

 

 笑う、哂う、嗤う。

 

 顔を歪ませ、少女は笑みを作っていた。

 手元にあるのは水晶玉、そこから光が形成され、生成され、そして放出されていた。

 

 その光を見ながら、顔を歪ませていた。

 

 「――」

 

 喜悦に満ち、雄叫びのような歓喜に震えた声を上げる。水晶が一段と強い光を放った。そして、カーテンが閉じるように、光が弱まり、闇が訪れた。

 




 新年、あけましておめでとうございます。

 次の話は、どこかの陣営に搾って話をかいてみたいと思っております。
 ですので、活動報告にてアンケートを実施してみることにしてみました。
 今回の話は、次話投稿の際に削除の予定にしております。

 詳しくは、活動報告にて。
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