レッジェ・スペーランツァ   作:三代目盲打ちテイク

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第1話 駄目人間

 随分と昔のことを思い出した。それもこれもきっとそこらじゅうに貼ってある将軍様の絵姿のせいだろう。やだやだ。もうそんなことなんて思い出したくもないわけで、いわば黒歴史な訳で。

 だから、いい加減自分というものを思い出す為に自分の生活習慣を思い出すことにする。寝て、食って、娼館行って、また寝て食う。良し、大丈夫だ。

 

 そんなことを思っていると起き出してきた大家と遭遇する。その視線は絶対零度もかくやといった具合だ。そりゃそうだろう。

 働かず昼ごろに起き出して、朝帰りして夜まで寝て。起きて、ご飯食べて、また寝て、昼ごろ起きる。やってることは娼館に行って女抱くか書店に行ってエロ本仕入れてくるか。そんな人間をどう思うだろうか。

 

 同居人にはダメ人間と言われた。大家にはろくでなしと言われた。表の友人には甲斐性なしと言われた。言われて当然だろう。

 そんな俺は、今日も今日とて朝帰りであった。大家は何か言いたげであるが、さっさと戻れと言わんばかりに睨んでくるのでさっさと暗い我が家に入ると、ひとりでに火気灯が付いて廊下を明るく照らす。

 

 そこには、火気灯をつけた奴がいる。可愛らしい同居人だ。

 

「うおーい、ティ帰ったぞぉ」

「また、朝帰り? うわ、お酒くさ~。もう、良い年した男だからって毎日毎日娼館に通ってたらダメでしょ」

「いやー、これは付き合いとかがね、俺にもあるわけでね」

「働いてない無職の駄目人間に付き合いなんてあるの?」

 

――ぐさっ

 

 いや、そりゃそうだと言わざるを得ないのだが同居人である未だ幼さの残るが可愛らしい少女に言われたらダメージがデカイに決まっている。

 男の子っていう生き物は何歳になっても女の子にいいかっこしたいのだ。もちろん、限度はある。だから、ほら、そんな厳しい目はやめて謝るから。

 

「はい、ないです、すみません。だって、キャシーちゃんが良い女でさぁ」

「子供の前で娼婦の話やめてよねって言わなかったっけ」

「っと、すまんすまん。お前一応まだ10歳だっけか。しっかりし過ぎで忘れてたわ」

「そーです。だから、そんなお話はやめてよねアラン君」

「以後気を漬けまーす」

 

 気を付けてもどうせまた忘れて話をするかもしれないが、今だけは敬礼でもなんでもしてティの機嫌を取るに限る。なにせ、アパルトメント二階の角部屋201号室の支配者は彼女だ。

 名義上は俺の部屋だが、それでも支配者は彼女だ。炊事洗濯、全ての家事は彼女がやっていて家計管理も彼女がやっていればそりゃ支配者と言っても良いだろう。むしろ俺の方がおまけだ。

 

 だから、いつ追い出されても仕方ないからここは誓っておく。まあ、すぐに忘れて、どうせまた同じことを繰り返すだろう。なにせ、今の(・・)俺は駄目人間でろくでなしで甲斐性なしだそうだから。

 そんな誰もがきっと見捨てる男ナンバー1に燦々と輝き続ける俺であるが、彼女の方はそれほど嫌がってもいない。

 

 こんな駄目人間にも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。というか同居してるからいい加減追い出されると思っているのだが、追い出さず言えばお小遣いすらくれる。

 とんだダメンズ好きだというべきか。健気ととるかは人それぞれだろう。

 参考までに俺はティをダメンズ好きだろうと思っているからさっさと矯正しておかないとあとが怖いと思っている。のだが、それをやると今の自分の生活がやばいので悩んでいたりしているとんだ屑である。

 

「なんか変な事考えてない?」

「何も考えません誓って」

「そーお?」

「そーですハイ。ワタクシ、アラン・チューリングはティに隠し事なんてしません。だから、エロ本とか隠さずに本棚に突っ込んであるし、居間で堂々とで見てるからな」

「それは少しはかくしてほしいんだけど」

 

 知らんな。そもそも性欲なんてものはあって当然のものである。それをやれ悪いものだからとかで隠すとかおかしいだろう。

 いけませんとかいうお母さんだって一度はエッチなことしてるに決まっているのだ。それが、子供にはするなとか、いけませんとか。そうやって抑圧するから性犯罪が起きるのだ。

 

 その点、俺はオープンである。欲望に忠実にエロ本を堂々と買って本棚に収め、好きな体位とかシチュエーションとか相手のキャラとかのランキングをティにも見えるように壁に貼りだしている。

 娼館にはほぼ毎日通う。資金はもちろんティからもらっている。だから、性犯罪など起こり様がない。

 

「だから、俺は何もやましいことなんてしてない」

 

 隠すのはやましいと思っているからだ。やましいと思っていないのなら隠す必要はない。それに誰でも通る道。早いか遅いかだ。

 知っておいて損ではないし、将来の為にもなる知識だ。ただし一部以外はほとんど参考にならんから自分で楽しむ用なのでそこを間違えてはいけない。

 

「はあ」

 

 そこまで配慮しているというのに、ティは盛大に溜め息を吐く。本当10歳児には見えない。実は中身子供じゃなかったりしてな。

 

「とりあえず、はい、お水。いつもより酷い妄言とかは酔ってることにしてあげる」

 

 実にできた10歳児でお義父さん感激。お義父さんじゃないけど。お父さんでもないけど。

 渡された水を飲む。それでだいぶ落ち着いた。そういうことにしておく。

 

「落ち着いた?」

「イエス・マム」

「もう一杯?」

「……冗談だって。水代だって高いんだからそんなにいらねぇって」

「一番高いのは火気代だからね? アラン君を夜遅くまで待ってるおかげで今月も大変なんだよ?」

「待たなくていいてのに」

「それならどこへ行くかくらい言って行ってほしいんだけど。ごはんがいるかもわからないから二人分つくるし。それは朝ごはんにできるから良いけどさ」

「悪い悪い」

「もー、本当にそう思ってる?」

 

 思ってる思ってる。

 そう言いながらティの脇をすり抜けて部屋に上がって今の古びたソファーにだらしなく寝座って無線通信によるラジオの火源をつける。ちょうどやっているのは朝の情報番組。

 

 そんな駄目人間っぷりに。溜め息一つ吐いて昨日のごはんを温めにかかるティ。優しい同居人を持って俺は幸せです。

 

「ごはん、食べるよね?」

「おーう、いただくいただく」

 

 他にも何か言っているようだが、それらを右から左に聞き流しながら、情報番組へと耳を傾ける。

 ノイズに塗れながら陽気な音楽が流れパーソナリティーが他愛もないことを喋る。情報番組であるのだが、そのパーソナリティーは朝一のニュースをお似合いの甘い声で垂れ流す。

 

『ハローハロー、ご機嫌なあなたも不機嫌なあなたも私にハローハロー。マグノリアのラジオ放送一ご機嫌な情報番組へようこそ。こんなご時世だからこそ、陽気さを忘れてはならないと私は思っています。

 ――ああ、心にもないことを言ってしまいました。本当はそんなこと一つも思っていません。あ、プロデューサーがうるさいのでニュースいっちゃいまーす。

 さて、本日の朝いちばんはやっぱりこれでしょう。独断と偏見で私が選んだニュースです。あ、また怒ってる。プロデューサー、あんまり怒るとハゲますよー。

 さあ、ハゲそうなプロデューサー気にせず朝一番のニュースをごしょうかーい。今日の朝一はこちら。快進撃トーマス・エジソン! みんな大好き私大嫌いな提唱者トーマス・エジソン氏が率いる部隊が東部で活躍をあげています。流石ですねー、憎たらしいですねー。あの勇者(ばか)死なないですかねー。ああっと、プロデューサーがまた怒ってる。カルシウム足りてませんよー』

 

 相変わらず言ってることが酷い。だが、この放送は真実のみを語る。軍のプロパガンダとか、そう言った政府とか軍部の思惑が多分に入った思惑で肥え太った情報をこの放送は流さない。

 そんなんで良く今のご時世放送を続けられるなと思うが、あのニコラ・テスラとかトーマス・エジソンの発明がこの放送の始まりなのだから、誰も手が出せないというわけだ。

 

 どちらもこの国にて並ぶものがいない英雄(ばけもの)だ。だから上層部も何も言えないわけ。英雄が作り上げた放送の第一号を潰すとか国民感情最悪過ぎる。

 それくらい頭の固い政治家様は良くわかっている。というか国民感情を重視して票を稼がなきゃいけない政治家だからこそわかっているだろう。

 

 それに問題はないのだ。どうせ、入ってくる情報は勝利だけ。ならばそのまま好きにさせておいた方が良い。

 

 なにせ、彼らに並ぶ英雄がまだ各地にいるわけだからだ。西部のエリファス・レヴィ、北部のエルヴィン・シュレーディンガーに、南部のヴェルナー・カール・ハイゼンベルク。どいつもこいつも先に挙げた二人にならぶくらい英雄してる。

 あとは中央に残ってるガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートン。そんなものだろうか。知っている限りではということになるが。

 

 だから、規制しなくても勝利の報道とかそういうのばかりだ。10年前の地獄を生き残った提唱者たちだからそれも当然のことと言えば当然のことなのだが。

 

『いやー、本当、提唱者様万歳。ああ、すみません、これプロデューサーが言えって言いました。私、そんなこと一切思ってませーん』

「本当提唱者様様だな」

 

 提唱者。軍のエリート。花形。かつて世界が滅んだ際に世界を今の形にして救った勇者だとかいろいろと言われている。特に10年前から、エリートだ英雄だとかそのいう気運は高まっていると言えた。

 なにせ、10年前、反証者とかいう連中からこの首都を救った英雄様がその提唱者だからだ。

 

 ニコラ・テスラ。このマグノリア最強の男と称される将軍だ。俺とは真逆だ。あの時助けてくれたことを今でも覚えている。

 だからこそ、色々なことをして今こうなっているわけなのだが。

 

「できたよー」

 

 わざわざ火気加熱機で加熱してくれた昨日のごはんを持ってきてくれるティ。それで可愛らしいエプロンでも着けているなら絵になるのだが、着けてるのは丈夫さが売りの実用性しか考えられていない可愛くもなんともないエプロン。

 丈夫で買い替えなくていいからと購入したものでもう長いことつかっているのだが、もっと可愛いの買えばよかったのにと思うばかりだ。

 

 それを言えば、フリルが何の役に立つの? と言われた。いったい誰のせいでこんな実用性を重視するようになったのやら。お婿さんの貰い手がなくなったらどうするのやら。

 

「はいはいっと、そこ置いといて」

「もう、一緒に食べるのが決まりでしょ」

「わかってる、今ニュース聞いてるところなんだ」

 

 甘い声を堪能してからじゃないと一日が始まったって思えないからな。どうせすぐに寝るけど。

 

「またその番組? あまり評判良くないよ?」

「真実しか言わないから評判は割といいと思うぞ」

「そうなの?」

「そーなの」

「じゃあ、勝ったのは本当なんだ」

「そりゃ勝つだろ。特に東部は最強の提唱者であるテスラ将軍と並ぶエジソン様だからな」

 

 負けるわけがないだろう。あのテスラ将軍の力を俺は生で見ているのだから。それに並ぶエジソン様の力は容易に想像がつくし、あの将軍に並ぶ男が負けるとか想像できない。

 

「そっか」

「そうそう。っと」

『――はいはい、プロデューサー、わかってますって。ハァーイ、そういうわけで、今日の朝いちばんこれで終わりです。みなさんもお仕事頑張って下さいねー。もちろん、労働こそが市民の喜びです。ではではー』

 

 そうこう話している間に情報番組が終わった。ラジオの火源を切る。

 

「終わった?」

「終わった終わった。んじゃ、食べますか」

「うん」

「はい、いただきます」

「いただきます」

 

 ああ、すきっ腹に来る。もともとは夕飯だから重いけど。男ならこれくらいは朝から食える。それに美味い。大家に料理修業に出して正解。

 

「ああ、そうそう。俺、今日出かけるから」

「そうなの?」

「そうそう」

「どこに?」

「娼館」

「……はあ」

 

 出かけるときは言ってねと言われたから行ったのに溜め息を吐かれた。

 

「なんだよ。言いたいことがあるなら言えば良いだろ?」

「別に。昨日の今日でまた行くんだなって」

「そうそうキャシーちゃんな新人なのにしまりが良くってな」

「もう! ごはん時にそんな話しないで!」

「おお、すまんすまん」

「もう、まったく」

 

 また忘れてたわ。

 とりあえずさっさと料理を食べ終わることにして、

 

「んじゃ、寝るわ」

 

 そのままソファーで寝る。

 

「はあ」

「幸せが逃げるぞー」

「逃がしてるのは誰のせいかな」

「ぐー」

「はあ」

 

 食器の片づけをするティ。それが終われば、

 

「じゃあ、わたし仕事に行くけど帰ってなかったら鍵締めて、大家さんに預けておいてね」

「ほーい、いってらー」

 

 彼女はお仕事へ。

 

「やっと行ったか」

 

 ティが戻ってこないのを確認して、懐から仕事道具を取り出す。使ったばかりのそれを自分の部屋にある布で磨いていく。

 

「やっぱ報道はなかったか」

 

 磨きながらふと、雑誌がテーブルの下に落ちているのを見つけた。秘蔵のエロ本というわけではなく、三流の女性誌のようだ。

 特集は世界が滅んだ時の事とかいう、かなーり苦し紛れの記事。三流女性誌だからこんなものだろうか。普通もっとおしゃれとかそういうものじゃないのかとも思うが、どうやらそういうのはもっと別の雑誌らしい。

 

 これは噂好きの淑女たちが買うゴシップ誌というやつらしい。

 

「世界は滅んだねぇ」

 

 そりゃ事実だ。世界は一度滅んだ。それは比喩でもなんでもなく事実らしい。らしいというのは当時の事が何もわからないからだ。

 当時というのがいつのことなのかもわかっていない。そういう概念がまだなかったからだ。

 

 世界は一度滅んだ。10年前だとかそんなレベルではなく。形もなにもかもなくしたのだ。比喩でもなく全てが消え失せた。

 

 そんな時、どうにかこうにか世界を元ある形に戻そうとしたらしい。誰がどうやって、何もなくなったところから再生したのか定かではない。

 滅びの前に誰かが対策でも立てていたのかもしれない。そのおかげか、どうにかこうにか世界は存続した。

 

 わかっているのは、どうにかした誰かさんがどういう奴かってこと。どうにかした誰かさんというのは、提唱者だという話だ。失われた法則を提唱し、世界を今の形に変えた。それが元々の提唱者。

 そうもともとだ。今の提唱者は少しだけ意味合いが異なる場合がある。

 

 今の提唱者は、新技術によって創られる強化兵のことでもある。提唱されている法則を引き出し異能として使う強化された兵士。

 敵に対して有効で強大な国家の力という奴だ。一人一人が最新鋭の戦車すら凌駕する。そのおかげで、マグノリアは今日も今日とて平和ということだ。

 

「まあ、平和が一番だ。平和平和。さあ-て、ねるか」

 

 仕事道具の手入れも終了。懐に戻して、ソファに寝転がって今度こそ目を閉じた。

 




ダメダメ主人公。光源氏計画ではないと信じたい。
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