咲のラストを本気で予想しました
咲への作品愛が込もってます!
原作の伏線っぽい描写も拾ってます
評価もらえると大変嬉しいです

1 / 1
第1話

福与「決まったぁぁ~!!清澄高校宮永咲選手の四槓子が炸裂し、清澄高校初出場にして全国初優勝!」

小鍛冶「宮永選手、見事です。素晴らしい試合でした。序盤は大星選手とネリー選手のトップ争い、中盤は高鴨選手の脅威の追い上げムードが漂うなか、オーラスに一気に流れを引き寄せました。」

福与「清澄高校の控え室にて、部長の竹井選手と中継でーす!竹井選手おめでと~!」

 

勝った。宮永咲は充足感に浸ると共に、緊張の糸が切れたように椅子の背もたれに体重を預けた。集中しすぎたのか、頭がぼうっとする。他家の選手を見る。ネリーは、こちらを睨みながら小声で何かを呟き、席を立って卓を後にした。次は負けない、と聞こえた気がした。穏乃は目が合うとすぐ立ち上がって、握手を求めてきた。「いい試合でした!」と元気な声で言い、卓を離れた。去り際、一瞬目に涙を浮かべたように見えたが、気のせいだろうか。

淡はというと、机に突っ伏してなかなか起き上がらない。ドアの外からざわざわ人の声が聞こえる。選手以外は試合会場に入らないマナーになっているのだ。会場から出た咲に、どの局がまずインタビューするか、競っているのかもしれない。落ち込んだ他校選手と、部屋に二人きりの状態に、咲は淡に声をかけてあげるべきか、かけるとしたら何と言ったらいいのか悩んだ。淡を目の前におろおろとしていると、会場のドアが開き、照が入ってきた。咲の心臓が高鳴る。咲が「お、お姉ちゃん、あのね」と声をかけるが、照は咲を無視する。

「淡、大丈夫?」「うん、ごめんテル、負けちゃった。みんなで優勝しようと思ったのに」「しょうがないよ。淡は頑張った。みんなの所に戻ろう?」

照が淡に声をかけ、手を繋ぐと淡はようやく立ち上がる。二人で卓を離れようとする。

「待ってお姉ちゃん!」咲が少し青ざめた顔で、照を呼び止める。

「お姉ちゃん、ごめんなさい!あのね、わたし、昔家族麻雀でわざと何度も負けたりしてて。お姉ちゃんそれに怒ったんでしょ?ごめんなさい!わたしも全力で打って勝てない相手がいることを知って、お姉ちゃんにどれだけ酷いことしてたかようやく気づいて。上手く言えなくてごめんなさい、でも反省してるから、また一緒に暮らそう?」「違う。あなたは。咲は、勘違いしている」「勘違い?お姉ちゃん教えて、許してくれるなら、何でもするから」「違う。よく聞いて。あなたは、、私の妹じゃない。みなも」

みなも?咲はその聞きなれない言葉を頭の中で反芻させると、頭の回転が徐々に鈍くなってきた。めまいがする。視界が左右に激しく揺らぐ。遂には立てなくなり、床から見上げる雀卓と誰かが自分の名前を呼ぶ声を最後に、咲の意識は消えていった。

 

咲の高校が勝ったか。宮永界は、ぬるくなった缶ビールに口を寄せながら、自宅のリビングでテレビを前に、ほぼ無感動にそう思った。テレビでは今、咲と同じ高校でインターミドルチャンピオンだった選手とその父の抱擁が写っていた。父と娘、か。咲は本当に自分の娘なのか?そもそも娘とは何を定義にするのか?そのような疑問がふと頭に浮かんだが、忘れるようにビールを胃に押し込んだ。

「ピンポン」チャイムの音がする。界は、少し悩んで、インターホンに応じることにした。

「どちらですか」「◯◯新聞社の西田順子と申します。お話よろしいでしょうか」

◯◯新聞社といえば、麻雀TODAYの。こんなに早く、優勝高校の選手の父にインタビューか。ご苦労なことだ。

「西田さん、悪いが今は感動を共有したい気分じゃない。一人で静かに感じたくてね。遠路はるばる申し訳ないが、また今度にしてくれないか」「いえ、今日来たのは、××年に起きた軽井沢の火事の件です」

界は予想に反したこの記者の言葉に、少なからず衝撃を受けた。刹那、頭に浮かんだのは、何故今、あの事件について聞くのかという疑問、この女が全て知っているのではという恐怖、自己保身。だが疑問と恐怖はすぐに消えた。自己保身への期待も消えた。咲があれだけ活躍したのだ、過去に注目しない記者がいないとも限らない。洗いざらい話すべきところか。界はそう思い、西田を招き入れることを決めた。

 

「宮永界さん。夜分遅くに失礼します」西田順子は、界に招き入れられ宮永の家のリビングのダイニングテーブルの椅子に座った。

「申し訳ない、調度お茶を切らしていてね」「いえ、お構い無く」界も席に着いた。テレビでは、決勝戦終了後のハイライト中だ。中堅戦で竹井選手がハネ満を和了したところであった。

「記者の方でしたら、調度今は忙しいところでは?」界は探りを入れてくるように聞いてきた。

「決勝戦の取材は、今日は後輩に任せているので」西田は、すうと深呼吸した。

「先ほど申した通り、今日は××年に起きた軽井沢の火事の件で来ました」「あれは、大変な事件でしたよ。何せ、義父から譲り受けた別荘が燃えてしまったのだから」「その真相を確かめに来ました」界は視線を反らし、沈黙した。西田は話を続けることにした。

「今から話すのは、私の調べた内容から導かれる仮説です」

 

一方。宮永照は、咲、淡、須賀京太郎、荒川憩、埴渕記者とともに、試合会場の建物内にある保健室にいた。咲が倒れた連絡は清澄高校部員に伝わったが、マスコミ対応に追われ、唯一インタビューを受けない須賀が様子を見に来たという。荒川は、ベッドに横たわる咲の様子を確認し、口を開いた。

「うん、脈も安定しとるし、今は疲れで寝とるだけやと思うね。このまま安静させておけば、そのうち目が覚めるはずやで」「ありがとう、さすが医者の娘」「チャンピオンの頼まれごとやもん、断るわけないやん」

宮永照がほっと胸を撫で下ろした。

「埴渕さんってゆうたっけ?保健室まで誘導してくれて助かったで」「ええ、こんなこともあろうかと、調べてあったので」「さすが大人はちゃうわー」咲が安全だと分かり皆安心したのか、談笑ムードが漂うなか、突然淡が口を開く。

「テルー、ところでさっき言ってたみなもって何?」照は一瞬だけ淡と目を合わせると、周りを見渡した。皆が照の様子を疑問に思うなか、須賀京太郎だけは顔色に緊張が見られた。照は、彼が事情を知っていると確信した。

「須賀くん、久しぶり」「あ、ああ照さん。まだ長野にいた時でしたからね」「前みたいにタメ語でいい」「いや、そういう訳には」照ねえ、とか呼ばれてたのにな。照はふと昔を懐かしんだ。だが、今は郷愁に浸っているところじゃない。

「須賀くんはみなもと咲の事情を知ってるはず。須賀くんが分かることだけでいいから、話して欲しい」須賀京太郎は驚愕した顔を見せた。

「そうか。照ねえも、もう」あ、昔と同じ呼び方。「うん」「分かった」須賀京太郎はそう言った。

「みんな。これは宮永家に起きた、悲劇の話だ」

 

ところでこの時代において麻雀は、単なる知能スポーツの範疇を越えており、世界の流れすら左右する存在である。すなわち、政治や経済の分野において、互いの利害が合わず何らかの方法で優劣をを付けなければならない場合。こと政治では領土問題など、本来なら戦争により決着を付けなければならないような場合に、麻雀の勝ち負けをその代替とすることが、世界的に公然の秘密とされていた。つまるところ、政界や企業内において麻雀が強い人間が出世するのは当然の帰結であった。麻雀の強さは遺伝すると言われている。代々裏社会の数々の大舞台で素晴らしい結果を残してきた宮永一族は、大阪の愛宕家や鹿児島の神代家と並び、日本国内で地位を確立させていた。

閑話休題。

 

西田が、宮永家で界に仮説をぶつけた。

 

表向きの情報では、宮永さん、あなたが所有者になっていた軽井沢の別荘にて深夜、一階リビングのタバコの不始末で火災が生じました。あなた、元奥さん、ご長女の宮永照、二女の宮永咲、そして、あなたの義理の姪にあたる宮永みなもが寝ていた。二階で寝ていたところ、足が悪いみなもが逃げ遅れて焼死した、とされていますね。しかし、不自然な点が見受けられ、学校や病院へ調査しました。すると、ある仮説が浮かんできました。咲は、みなもと火事を機に入れ替わったのではないか、と。火事で焼死したのは、咲の方であったと。みなもさん、咲さんとかなり仲が良かったそうですね。顔もそっくりだったとか。車椅子で生活するうちに内向的な性格になったみなもと、同じく内向的な咲とは性格が合ったのでしょう。みなもは火事で生き延びたことがわかった直後、そんな咲の死を受け止められなかった。自分が宮永咲だと思い込んでしまった。解離性障害の一種でしょうか。あなたは燃え盛る別荘を前に、そのみなもの様子に気付いて、計画を思い付いた。咲は宮永本家の大事な跡取りの一人ですからね。みなもはその時、二階から飛び降り足を複雑骨折していた。あなたは自身の車で病院へ連れていき、手術を受けさせた後、髪を染めさせた。声質が変わったのは、肺を吸い込んで火傷したためと妻と照には説明した。咲の見た目になったみなもは、しばらくは自然と車椅子で過ごすことになった。その後、iPS細胞の研究が進み医療レベルが急激に上がったことで、みなもは足の手術と声質の整形手術を受け、歩けるようになった。須賀京太郎くん。幼なじみだそうですね。彼はたまたまこのことに気付いてしまった。あなたは彼にこの話を伝えたところ、人の良い京太郎は、手術後のリハビリをかなり手伝った。懸命なリハビリの結果、みなもは歩けるようにはなったが、走ろうとすると未だに足に痛みが生じることが多くあり、それがきっかけに、火事がフラッシュバックすることもあるようです。そして、現在もみなもは、自分が咲だと思い込んでいる。

 

須賀京太郎は、西田記者が宮永家で話したのとほぼ同時刻、同じ内容を保健室で話した。これまでの胸のつかえが取れたような気分を感じた。

「須賀くんありがとう」「照ねえ」「でも、思っていたことと違う」「え」京太郎は、界から聞いた事実をありのまま伝えたはずだった。まさか、自分の知らない真実があるのか?

「そこからは、私が変わるわ」「ええと、あなたは記者の」「埴渕です。私と先輩の西田で、宮永咲の周辺の調査をしたの。最初、京太郎くんが話してくれた内容同じ仮説に至った。でも、更に掘り下げて行くと、より真実に近づけた」京太郎は、埴渕のただならぬ言葉に緊張した。真実を知ることへの恐怖。しかしそれ以上に、真実を知りたいという要求が上回った。教えて欲しい、京太郎がそう口に出そうとした瞬間、「教えて」照が先に声を上げた。「多分、私と同じ」埴渕は頷く。「私達なりに近づけた真相を話すわ」

 

宮永家にて。西田は、仮説を界に伝えた。

「どうですか、界さん」界は沈黙。重い空気が、宮永家のリビングを支配した。

「ここまでが最初の仮説。だけど、私達は更に調査した。すると、ある一つの真実から、この仮説はガラリと姿を変えた」

 

西田が、さらにもう一つの仮説を界にぶつけた。

 

宮永さんは当然ご存じでしょうが、宮永みなもは、父母からDVを受けていましたね。みなもの母は、宮永さん、あなたから見ると奥様の妹に当たります。良家によくある政略結婚で、親の決めた相手と結婚し、みなもを出産する。しかし、親への反発心から離婚してしまう。それが原因で、みなもの母は事実上、宮永本家と絶縁してしまいます。母はやがて再婚するも、再婚相手に選んだのはかなり素行の悪い男で、まだ小さいみなもにしつけと称して暴力を振った。足と喉を悪くしたのは、この暴力によるものですね。みなもの母は見て見ぬふりをした。やがて、役場の措置により、ある夏休みにあなたがたの一家が一時的にみなもさんを引き取ることになった。それが、××年の火事の引きがねになりました。

 

みなもから見てあなたたち宮永家は、なんと幸せに見えたでしょう。特に、年齢が近く見た目も似ているのに、環境がまったく異なる宮永咲は。人生を入れ替えたい。そう思っても、仕方がないはずです。みなもは、咲と実際に入れ替わる計画を立てた。咲を殺害し、火事を起こした。あなたとみなもは利害が一致したはず。何故なら、宮永本家は一族に麻雀の実力者を求めていた。あなたにも、咲を鍛えるよう義母からかなりプレッシャーがあったと聞きました。咲に比べて麻雀の強い才能を持ったみなもを手元に置きたい。あなたは、みなもの計画を察した。家事現場から逃れて意識を失ったみなもの身柄を、あなたは引き取り、ある人物に協力を仰いだ。当時、来日していた魔女。FIMAバロンドール史上最多取得記録保持者、ニーマンに。あなたはみなもに、咲の記憶を植え付けることにした。演技ではいつかボロが出る。記憶が植え付けられてしまえば。自分がみなもだと忘れ、咲だと心から思い込めば。入れ替わりは確実になると思ったのですね。記憶の植え込みは上手くいったが、やがて奥様も照も、違和感に気づいたはずです。そして、あなたがしたことを察し、離婚した。つまり今、全国大会の優勝校の大将のあの少女は、身体は宮永みなもであり、宮永みなも自身の意識は奥深くで眠っている。魔女ニーマンに植え付けられた、宮永咲の偽りの記憶を持った意識が、表面に出ている状態である。宮永さん、それが真実ではないでしょうか。

 

西田は調べた事実から導かれた仮説を全て、言い終えた。西田は界の表情を見た。界は虚ろな目でテーブルの上を見つめていた。何を考えているのか。テレビは大会の中継を終え、CMが流れていた。二分ほどたっただろうか。界が、ゆっくり口を開いた。

「このことは公表するのかい」「正直いいます。まだ決めかねています」「そうか」界が天を仰いだ。

「好きにしてくれ。俺はあんたが来たとき、遂にあの火事が明るみに出たと恐怖し、自己保身を考えた。だが、冷静に考えると。離婚し、宮永の後ろ楯を失い、会社内での地位が地に堕ちた俺に、守るべき自分などいないことに気づいた。今まで俺を次期社長と呼びおだてたやつらは、気づけば周りから消えていたよ。もういいんだ」界は早口でそう言い、テーブルの上のビールを飲み干した。

「用は済んだろう。出来れば消えてくれ」「失礼します」西田は席を立ち、玄関に向かった。去り際、界に声を掛けられた。

「ああ、西田さん、すまん。咲、いや、みなもと呼ぶべきか。あいつは俺かみ育てたと思えないくらい、まっすぐだ。俺のことはどうでもいい。記事にするしないは、あいつのことを考えてやってくれ。まあ、俺が意見できる立場じゃないか」界は自嘲ぎみに、最後の方は独り言のように言った。

「分かりました」西田はそう言い宮永家を後にした。

 

西田は歩きながら考える。向こうはどうなってるかな。埴渕から、咲が運ばれて埴渕も真実を公開することにしたとメールが来ていたが。西田はイヤホンを付け、埴渕に持たせた盗聴機が拾う、埴渕のいる保健室の様子を盗み聞くことにした。どうやら、埴渕も真実を明かし終えたところらしい。

 

「以上が、私と先輩記者の調査で出た結論です」

 

荒川憩は、埴渕記者が出した結論に驚いた。皆も同じだろうと周囲を見る。しかし、宮永照だけは、何か考えるような表情をしていた。思うところがあったのだろうか。

「荒川さん。もう一つお願いがある」憩が照の表情を観察していると、突然照がそう言った。

「な、なんや」「宮永みなもの記憶を戻して欲しい。あなたなら出来るはず」私の力。今この場では、照か私しか知らない。他の皆は照の言葉にまた驚いていた。

憩の力は、キズを癒す力。麻雀では、カンチャンやペンチャンなど、一般に愚形の所に調度良いツモをすることができる。その力で、他人の心や身体のキズも癒すことが出来るのだ。

「出来るかもわからんが、照はそれでええの?みなもの記憶を戻して。真実を知ることが、必ずしも良いとは限らないで」「構わない。それでも知りたい。みなもと話したい」憩は悩んだ。みなもの記憶を呼び戻すべきか、照のために本当に良いのはどうか。憩は決断した。

「分かったで」憩はベッドで眠る咲に手のひらを当てた。咲が、暖かい光に包まれる。皆は緊張した面持ちで、憩を見ていた。咲がゆっくりと目を覚ました。憩には、みなもを復活させた手応えがあった。周りも、咲の身体から発する雰囲気が変わったことから、本当にみなもに意識が切り替わったことを感じ取った。

「名前、聞いてええか」「うん。あたしは、宮永みなも」

照が身を乗り出した。

「みなも。久しぶり」「て、照ちゃん?」「怒らないから教えて。あの日の真実を。あの火事の日の真実を」みなもは困惑し、数秒間うつ向いた。そのあと、決意を決めた表情で顔を上げた。

「分かった。信じてくれなくてもいい。全部話す」

 

しつこいようだけど、あたしにも信じられないことが起きたから、信じてくれなくてもいい。あたし宮永みなもは、宮永家に憧れていた。この家に生まれたかったと思ってた。でもそれは、咲ちゃんも同じだった。あたしがあの夏の日、宮永家に預けられた時に咲ちゃんとお互いの不満を話し合った。それがすべての始まり。結果、それが咲ちゃんの人生を壊してしまった。咲ちゃんは、麻雀が下手なのをすごく悩んでいた。特にお母さんからはかなり怒られて、照ちゃんと比較されては、ひどい言葉で怒られてたらしい。あたしが人生を入れ替えないかと言ったら、咲ちゃんはすごく乗り気になった。そこからは、計画を練った。火事を起こし、咲ちゃんが二階から飛び降り足を骨折させる。あたしは、声の違いは肺を吸い込んだからと言えばいい。家族を逃がすのは咲ちゃんの役目。そんな、今にして思えばバカみたいな計画だけど、二人は本当に出来ると思ってた。楽しかった。そして計画の時。火事を起こし、あたしは部屋で咲ちゃんが家族を逃がして、二階の集合場所へ来るのを待った。だけど、咲ちゃんは来なかった。まさか逃げられなかったかと慌てたとき、咲ちゃんの声が聞こえた。周りを見たけど、誰もいなかったのに。咲ちゃんはあたしにこう言った。「私は迷っちゃって助からないから、みなもちゃんは逃げて。私の代わりに生きて」って。すごく迷ったけど、火が迫ってきて部屋にいられなくなり、あたしは二階から落ちた。そのあとのことは、よく覚えていないの。ごめんなさい。

 

みなもが話し終えたとき。皆が照に注目した。照の頬に、涙が伝っていた。震え声で照は言った。

「みなも。私は信じる。私と咲しか知らなかったけど、咲にはそういう力があった。人に思いを伝えるのが苦手で、言葉に頼らずに思いを届ける力があった。優しいあの子はそれを麻雀には使おうとはしなかった。みなもが聞いたのは、きっと、本物の咲の気持ち」

みなもは安心した顔をした。

「照ちゃん。あたしはもう消えなきゃ。なんとなく記憶があるけど、あたしは本当に咲ちゃんとして過ごしてたんだね。ねぇ、照ちゃんにお願い。咲ちゃんを愛してあげて。あたしが火事から逃げたあと、意識が無くなってから今まで、咲ちゃんから照ちゃんへのすごく強い気持ちを感じてた。咲ちゃんの意識がどうやってあたしの中に入ったか分からないけど。例えにせ物でも、咲ちゃんの気持ちは本物だと思う。照ちゃん、お願い」照はみなもの目を見てゆっくり頷き、「わかった。約束する」という。みなもは微笑み、目を閉じた。再び咲の身体の雰囲気が変わった。目を開けると、元の咲に戻ったと見てとれた。

「咲」「お姉ちゃん、私、寝てる間に遠くで皆の声が聞こえた」「じゃあ、もう知ったんだね」「うん。私は本物の宮永咲じゃなくて、にせ物の記憶だったんだね」咲は暗い表情でうつ向いた。

「お姉ちゃんが、妹がいないって、言ってた意味、やっと分かった。私にはこの世にいちゃいけない存在だったんだ。私はもう、お姉ちゃんとは関わらない」「咲、だめ」照の言葉に、咲は顔を上げた。

「大丈夫、咲。私、本当は最初から、分かってた。あなたが本物の咲でも、みなもでもないことに。意味のない意地を張ってたし、咲とどう顔を合わせていいか分からず、逃げてた」「お姉ちゃん」「でも、もう逃げない。私は咲と向き合う。親なんて関係ない。あなたは宮永咲、私の大事な妹だよ」「お姉ちゃん。ありがとう。大好き」「私も好きだよ、咲」二人は泣き顔で抱擁した。その場の誰もが、姉妹の姿に感動し、気づけば涙を流していた。

「よかったな、咲」と京太郎。「感動したで!二人とも今後も仲良くな」と憩。「仕方ないけどテルは譲るよ」と笑顔の淡。

 

埴渕の携帯に着信がなった。西田からだ。「もしもし、先輩」『話、聞いてたよ。まったく、こんな記事オカルトでとても記事には出来ないわね。困ったわまったく』「先輩、泣いてます?声震えてますよ」『な、、うるさい!』埴渕はくすりと笑った。『しかし、記事にも出来ないならしょうがないわね。あなたも戻って、本社で一緒に大会の記事をまとめましょ』埴渕はあきれ声で、「先輩、まさか忘れてます?私、この場でやるべきことが残ってますよ」と言った。『うん?あ、』「そういうことで。またあとで連絡します」埴渕が携帯を切り、咲に向かった。そう今は、全国大会直後に、優勝チームの大将に独占インタビューが出来る、最高のチャンスだ。

「さあ宮永咲さん!姉妹で仲良くやってるところ悪いけど、インタビューよろしく!優勝おめでとう」咲と照は顔を合わせて、おかしそうに笑った。

「ありがとうございます」「じゃあ、この勝利の喜びを、まず誰に伝えたいですか?」咲は、息を吸って、満面の笑みでこう言った。

「もちろん、私の自慢のお姉ちゃんに!」

 

カン!




※補足
照の「ち‥うん 妹だよ」発言については、『咲は』妹だけど『みなもは』妹ではないという意味だと捉えました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:50文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。