真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~   作:クーロン

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前回の後書きで書いた、軽い質問にお答えいただき、誠にありがとうございます
もう、ためらわずに闘いを書いていこうと決意いたしました。
それでは、今回もまた、範馬勇次郎大暴れ回ですッッ


強さ

「堪能させてもらった……この時代の天下無双をッッ」

 

 恋の胸に、勇次郎の拳が深々と刺さる。

 恋の胸には戟が巻き込まれ、柄の形にくぼみが出来ていた。

 恋の眼球は完全に裏返り、口は半開きになっていた。

 勇次郎が一呼吸して拳を抜くと、そのまま前のめりに倒れる。

 再び、地に伏した恋はもう、痙攣すらしていなかった。

 凄惨な光景であった。

 虎牢関は戦場であったハズだが、異様な沈黙に包まれていた。

 

「れ……恋……殿……恋殿ォ……」

 

 その中で、陳宮がただ一人、恋のもとに寄ってその体をさすった。

 それでも、恋は動かない。

 勇次郎は二人を一瞥し、そして、今度は連合軍の方を向いた。

 

「堪能はしたが、折角、有名どころが集まるまで待ったんだ……これで帰るってのは、ちぃっともったいねぇ……」

 

 ニィ……と、勇次郎が笑みを見せた。歪んだ口から、白い歯が見えた。

 連合軍の軍師は、明君は悟った。

 この連合の裏……黒幕を。

 ――この男が! この男が、董卓をエサに……!

 そう、悟るのと、勇次郎が言うのが同時であった。

 

「劉備ッッ 曹操ッッ 孫堅ッッ 今から言うヤツのガンクビ揃えて、ここに連れてこいッッッ! なまっちょろい闘争(たたかい)しかしない貴様らに、真の闘争というのをみせてやるッッッッ!」

 

  壱

 

「劉備ッ 今から言うヤツを連れてこいッッ! 関羽ッ! 張飛ッ! 趙雲ッ! 馬超ッ! 黄忠ッ!」

 

 勇次郎が言うのと同時に、真っ先に刃牙が歩み出した。

 

「刃牙君!? 何で刃牙君が……!」

「闘う……いや、ケンカする」

「だからなんで……!」

「何でも何もないよ。俺と親父は親子だ。親子が、ささいな行き違いでケンカをする……それのどこがオカシイってんだい!?」

「刃牙さん、戦いを挑まれたのは私達です!」

 

 勇次郎の所へ行こうとする刃牙を、愛紗が止めた。

 

「だけど、愛紗。正直、親父には何人がかりでも、逆立ちしたって勝てやしない。俺だってそうさ……。だけど、俺達は親子だ。父と子だから……やらないと」

「刃牙さんの言う通りです。範馬勇次郎から逃げる……これは、恥ではありません。中国武術現役最強にして最高峰である我師、郭海皇ですら……」

「貴様等は……私達を、バカにするつもりかぁっ!」

 

 愛紗は叫んだ。魂のこもった叫びであった。

 青龍偃月刀を握る手は白くなっている。

 

「烈! 貴様は私に勝ったからそう言うのか!」

「いえ。それに、あの闘いに見る程、わたしと愛紗さんとの間に差はありませんッッ あの結果はただ、愛紗さんが中国拳法を知らなかっただけの事です」

「なら何故だっ! 私は武人だ! 武人なのだ……っ!」

 

 愛紗は歯を軋ませて言った。

 身体は震えている。だが、その震えを隠そうともしなかった。

 

「桃香お姉ちゃん。鈴々、行ってくるのだ」

「鈴々ちゃんっ!」

「さて……せっかく呼ばれたのだ。私も同席させてもらおうか」

「星ちゃんまで! さっきの戦い見て恐くないの!? 殺されちゃうかもしれないんだよ!?」

「死にません。私は……私達は、桃香様の理想を叶えるまで、死にません」

 

 愛紗が言った。

 決意のこもっている眼で言った。

 

   弐

 

「曹操ッッ 貴様は夏候惇に夏侯淵ッッ 許褚ッ! 典韋ッ! 張遼のガンクビだッッッ」

 

 勇次郎の言葉に、真っ先に反応したのは春蘭であった。

 

「貴様ぁっ! 華琳様にそのような口のきき方……! 許せんっ! 行くぞ季衣!」

「はいっ! 春蘭様!」

 

 大剣を握りしめ、春蘭は勇次郎に向かって歩み出した。

 それを、愚地独歩が止めた。

 

「春蘭待ちなァッッ!」

「なんだ! 独歩、私に黙っていろと言うつもりかぁっ!」

「ああ、そうだ」

 

 独歩がそう言った途端、華琳の陣中はざわめきたった。

 春蘭は、独歩を刃物のような目で睨みつけた。

 

「何を考えてる、独歩!」

「オイラァ、言ったよな。武ってのは、生き延びるためのものだってよォ。勝てる相手としか喧嘩しねェ…………って」

 

 独歩は一息して、言った。

 

「おめェじゃ無理なんだよォッッ!」

 

 張り裂けるような声であった。

 だが、春蘭の刃物のような眼光は変わらない。

 

「それがどうしたっ! 私は華琳様があのようなヤツに、いいように使われるなど我慢出来んのだ!」

「おい、落ち着け春蘭ッッ!」

 

 いきり立つ春蘭を、今度は克巳が止めた。

 

「お前、相手が誰か分かってるのかッッ!? 範馬勇次郎はな、親父ですら敵わなかったんだッッッ」

 

 克巳の言葉に春蘭は、いや、それだけでなく諸将が反応した。

 諸将は驚いたような目で、独歩を一瞥した後、範馬勇次郎を見た。

 

「愚地克巳。詳しく教えろっ! どういうことだ! さっさと教えろ!」

 

 春蘭は克巳の胸倉を掴んだ。

 そして、秋蘭、季衣、流琉、凪、沙和、真桜が克巳を見た。

 

「親父は、地下闘技場って所で勇次郎(アイツ)と闘った。結果は親父の敗け! しかも、右目を奪われ心臓も止められたッッッ!」

「独歩が……っ」

 

 春蘭は克巳の胸倉を離した。

 そして、刃物のような眼光が変わっていく。決意を込めた目であった。

 

「……分かった。行ってくる。行くぞ、季衣」

「分かりましたっ!」

「姉者、私もだ」

「あ、季衣待ってよ!」

「おい……ッッ」

「黙りなさい愚地克巳っ!」

 

 克巳が止めようとしたら、華琳がピシャリと言い放った。

 

「範馬勇次郎の実力は、ここにいる皆が理解(わかって)いるわ! だけど、この戦はもう、個人が国に対して売ったケンカになった! 国は弱い庶人の盾であり、矛である! 個人の暴力から逃げた国では、民が安心して暮らせないっ!」

 

 華琳は王として言った。凛とした姿であった。

 

「凪、沙和、真桜! あなた達三人は本陣の防衛! 春蘭、秋蘭、季衣、流琉! あなた達に命じるわ! 全員と協力し、巨凶、範馬勇次郎を討てっ!」

 

   参

 

「孫堅ッッ 貴様が連れてくるのは、黄蓋ッ 甘寧ッ 孫策ッ 人数不足だ、貴様もこいッッッ」

 

 雪蓮は、勇次郎を睨んだ。睨み、笑みを見せた。

 

「祭、思春、行くわよ」

「雪蓮嬢、お止めなさい」

 

 渋川が言うと、雪蓮は渋川の方を向いた。

 渋川の方を向いて、何も言わなかった。

 

「聞きなさい。かつて範馬勇次郎は、腕に憶えのある者すべての標的でした。それが、今じゃあ挑む人間は、その息子の刃牙とジャックだけになった。どういうことだと思いますか」

「強すぎるんでしょ? 違う?」

「その通り。で、どうするおつもりですかな?」

「挑むわ……範馬勇次郎に」

「おい雪蓮! 渋川老が止めた意味を分かっているのか!?」

「分かっているわ。でも……闘わないといけない」

「だが……!」

「オイオイ冥琳。ホントはお前さんだって、分かってるだろ?」

 

 冥琳は雪蓮を止めようとしたが、オリバが横から口を挟んだ。

 

「ここで逃げたら、将来に必要なものを、大切なものを失うってよ。コイツは名を得るために出た戦だ。ソイツで逃げちまったら、この戦が無意味になっちまう」

「分かってるじゃない、オリバ」

「だが、雪蓮が死ねば孫家はどうなる! 危ない橋を渡る必要はないっ!」

「死なないわ。……生きて、帰るわ。ダメだったら、みんなで蓮華をお願いね。行くわよ、祭! 思春!」

「待て雪蓮っ! 最後まで人の話を聞け!」

 

   肆

 

「ジャックさん! 何を勝手に輿を下ろそうとしているのです! 早く持ち上げなさい!」

「勇次郎ガ目ノ前ニイルッテノニ、黙ッテロトデモ言ウ気カヨ……ッッ 麗羽ノ頼ミデモ、コイツハ聞ケネェッッ!」

 

 ジャックは担いでいた輿を地面に降ろし、勇次郎の所へ向かおうとしていた。

 だが、二人の少女に抑えられていた。それで、勇次郎の所に突っ込めずにいた。

 

「ジャックの兄貴ィ! ちったぁ落ち着けって! アレは化け物だって!」

「ジャックさぁん! そんな興奮しないでください!」

 

 麗羽の腹心である、猪々子と斗詩であった。

 猪々子は横からジャックの腰を抑え、斗詩は羽交い絞めにしていた。

 それでも、ズルズルとジャックは前に進んでいく。

 

「ああもう! 皆さん! ジャックさんを取り押さえなさい!」

 

 麗羽が言うと、周りにいた兵がジャックに纏わりついてきた。

 腕に、足に、首に纏わりついてくる。

 

「ガァァァァアッッッ!」

 

 ジャックは暴れた。

 腕を、足を無理やりに振り回していた。

 それでも、数の暴力には敵わない。

 次第に、ジャックの巨躯が前のめりになっていく。

 そして、地面に両膝を、胸をついた。

 

親父(チチ)ヨ……俺ダッテ……俺ダッテ出来ルンダッッ! オオォォォォォォオッッッッ!」

 

 ジャックは、吠えた。

 眼に涙をたえ、吠えた。

 

   伍

 

「関羽ってのは、あんたであってるか?」

「ああ。お前は……」

「あたしは馬超。この戦には母上、馬騰の名代で来たんだ」

「馬超……確か、西涼のところのヤツかー?」

「ああ。あんたは……?」

「鈴々は張飛なのだ!」

「ん、分かった。よろしくな」

「馬超……ヤツは強いぞ」

「分かってる。本部にも散々言われた」

 

 馬超はそう言って、笑った。

 

「でも……アイツと()りたいんだ」

「奇遇だな。……私もだ」

「鈴々もそうなのだ!」

 

 愛紗も、そう言って笑った。

 その時、星は黄忠と話していた。

 

「ほう、得物は弓矢か……。狩りにはピッタリですな」

「ですが、相手は鬼。通用するかどうか……」

「通用するだろう。万が一があっても、協力すれば問題あるまい」

「ええ……。では、行きましょう」

「ああ」

 

 五人は勇次郎の所へと歩き出した。

 その先で、鬼は笑っていた。

 向かって行く途中で、同じ方に向かう人が増えていった。

 最初に四人加わり、次に三人加わった。

 見据える先に居るのは、ただ一人、範馬勇次郎のみ。

 

「ちぃっと人数足りねえみてぇだな」

 

 勇次郎は不満そうな表情で言った。

 

「ごめんなさいね。母様はもう、亡くなっているからこれないのよ」

「それで少ねぇのか。で、あと一人は」

「ウチや。……背中向けてケンカ売るって……嘗めとんのか」

 

 そう言う張遼の声は、底冷えするような声であった。

 眼には、ハッキリと怒りの色が浮かんでいる。

 気付けば、勇次郎の背には刃がつきたてられていた。

 勇次郎はそれを知り、笑った。

 たまらない笑みであった。

 白目しか見えない、半眼。その目には喜悦の色があった。

 勇次郎は、ニヤァと笑っていた。

 その笑みを見て、春蘭が口を開いた。

 

「範馬勇次郎、斬る前に一つ聞いておく」

「何を聞こうってんだ」

「愚地独歩の右目……貴様が取ったのは事実かだ!」

「ああ、その通りだッ」

「そうか……」

 

 春蘭は自分の得物をしっかりと握りしめ、勇次郎を睨んだ。

 

「範馬勇次郎ォォ! 貴様の右目は、この私が取るっ!」

 

 春蘭は吼え、睨んだ。

 秋蘭、季衣、流琉も同じ目をしていた。

 

「曹操のところは随分と喧嘩っ早いのね。……悪くないわ。行くわよ、範馬勇次郎っ!」

「先のような闘いを見せつけられれば、血が騒ぐというものよ」

「主命だ……斬る」

 

 雪蓮は、勇次郎に剣を向けた。

 祭は、矢を向けた。

 思春は剣を構えた。

 鋭い殺気が範馬勇次郎を叩いた。

 

「そろそろおっ始めるか……」

 

 範馬勇次郎の足が開く。

 範馬勇次郎の腕が上がる。

 その型はまさしく、範馬勇次郎の本気の型であった。

 

   陸

 

 ベトナム社会主義共和国――ハノイ。

 人口六百万を超える、ベトナムの大都市である。

 そこに住む男が、範馬勇次郎について語った。

 

「範馬勇次郎……ですか……。ええ、よく知っています。私も、アメリカ相手にゲリラ戦をしてましたから……。確か、その頃はまだ十代だったハズです。ええ……間違いなく、地上最強です。

ハイ、あんな人間を知ってしまったら、戦場なんて行けません。

え……? 勇次郎が、ベトナムで何をしていたか……ですか……。

あの人は、遊んでいただけです。戦場なんて、範馬勇次郎にとっては、我々にとっての遊園地みたいなものです。世界最強と言われるアメリカ兵なんて、ほんの玩具みたいに……。

戦車ですか? アハハ。あなた、そんなものと勇次郎は比べられませんよ。勇次郎と比べるなんて、とてもとても……。

え……役職? 範馬勇次郎の……?

勇次郎にそんなもの、与えられる人間は存在しません。強いて言うなら、たった一つだけ、相応しいのがありました。兵士でも、参謀でも、大将でもなく……範馬勇次郎のためにある――勇次郎のための役職――範馬勇次郎っていう、役職が……」

 

   漆

 

 天命、という言葉がある。

 華琳は、雪蓮は、桃香はそれを信じていた。

 現に、彼女達にはそれがあったのだろう。

 それが証拠に、彼女達の元には人が集まっていた。武も、智も。

 だが、目の前の鬼に対して、天命(それ)はあまりに無力であった。

 

「ずっと黙っていられたんじゃあツマラねェ……こっちから出るぜ」

 

 勇次郎は、無造作に踏み出した。

 奇妙な歩行であった。真っ直ぐ、正中線がずれない歩行であった。

 

御殿手(うどぅんでぃ)だァッッ! 打ち込むなァッッッ!」

 

 本部がそう叫ぶのと、鈴々と季衣が勇次郎に打ち込むのは、まったく同じタイミングであった。

 勇次郎の両脇から攻めかかったのだ。

 勇次郎はそれを、かわさなかった。いや、かわすような動きには見えなかった。

 さらに、ぐいと前に出たのだ。

 攻撃のための動きであった。

 勇次郎の手は、鈴々と季衣の頭を鷲掴みにした。

 肉食獣が、獲物に爪を立てるかのように、頭に指が食い込んだ。

 そして――揺すった。

 ただのそれだけである。

 それだけだが、被害は甚大であった。

 頭蓋骨内部では、脳があたかもピンボールのように、内壁で衝突を繰り返し、意識は外へするりと抜けていった。

 この時点で、闘いが始まってから、七秒。

 

「鈴々!」

 

 愛紗は叫んだ。

 

「季衣!」

 

 流琉は叫んだ。

 その瞬間、二人のところにおそろしい風圧をもった何かが、吹っ飛んできた。

 それが拳か、足かを判断する余裕はなかった。

 分かったのは、それが自分の肉体に触れればその場で、一瞬で決着がつくだろう、ということだった。

 だが、それは突然、軌道を変えた。

 凄まじい風圧で、上に昇っていった。

 

「イ~イ狙撃をするじゃねえか」

 

 勇次郎の右手には矢が二本、左手には一本あった。

 

「当たると思ったのじゃがな」

「勘がいい……!」

「独歩殿の片目を取ったくらいだ。流石に、これではダメか」

「トーナメントの一件以来、チィッと狙撃には敏感になってんだ」

 

 そう言うと、勇次郎は矢をへし折った。

 

「流琉! 季衣なら死んではいない! まずは目の前の敵を倒すことを考えろっ!」

「は、はいっ!」

「愛紗! 鈴々が心配なのは分かるが、それは後だ!」

「わかっている、星!」

 

 前を見る勇次郎に出来た、一瞬の隙。

 その隙を、背後から二人が突いた。

 思春と馬超であった。

 

「ハァァァァァアっ!」

「ハァァァァァアっ!」

 

 雄たけびをあげ、気を吐き、攻めかかった。

 だが、勇次郎は反応しきった。

 二人の斬撃を避け、思春のこめかみには左拳の裏拳が刺さり、右腕で馬超の首を捕えた。

 思春の眼球はグルリと裏を向いた。そして、そのまま前のめりに倒れて行く。

 

「かはっ……放……せ……ぐっ……」

 

 馬超は槍を片手にもがいていたが、万力のような力で捕まり逃げ切れていなかった。

 その口の両端からは、微かに泡がふきだしている。

 そして、あがいていたはずの手足から力が抜け、手がダラリと下がった。

 明らかに、絞め落とされていた。

 この時点で、闘いが始まって二十秒。

 鬼は四人の猛将を屠り、傷一つない。

 

「コイツで残り九人か……随分と脆弱(よえ)ェ」

 

 そう言い、勇次郎は馬超を解放した。

 馬超は受身もとらず、そのまま地面に落ちていった。

 

「おい! お前等は洛陽まで逃げぇ! 賈駆っちにコイツのこと伝えなあかん!」

『は……はっ!』

「余所見たぁ余裕じゃねえかッッ」

 

 張遼は自軍の兵に退却を指揮した。

 その瞬間に、勇次郎が迫った。

 真正面から、張遼の腹に向かって太い何かが、奔ってきた。

 拳であった。真っ直ぐな拳であった。

 それを張遼は、何とか後退し、避けた。いや、避けるというより避難であった。

 もはや、なりふり構っていなかった。

 

「……恋をあそこまでボッコボコにしただけあるわ」

 

 張遼は勇次郎の右足に向かって、刃を振り下ろした。

 遠慮のない攻撃であった。遠慮をしていたらやられる。

 それが空を切った。

 勇次郎の右足は斬られる前に、上へとあがっていたのだ。

 空を切ったと認識したのと同時に、張遼の意識は刈り取られた。

 他の八人はその刈り取った一撃が、踵落としであったということを、張遼の頭上にある勇次郎の足を見て認識した。

 この時点で、二十五秒。

 

「今じゃっ!」

 

 認識すると同時に、三人が矢を射った。

 だが、それは不発に終わった。

 勇次郎は両腕で、全てを掴んでいたのだ。

 

「てぁああああっ!」

 

 両腕が上がった隙に、流琉が武器を振った。

 低音の風切り音がした。

 その武器は、強烈な圧力を持って迫った。

 

 がっ

 

 とも、

 

 ごっ

 

 とも聞こえた。

 当たった。勇次郎の脇腹にあたったのだ。

 だが、流琉の手応えには異様なものがあった。

 人を殺した感触ではなかった。

 例えるなら――悠久の時を風雨に曝され続け丸みを帯び、その上に皮を被せた巨岩を叩くかのような……。

 

「いい力してやがる。倅以上だ」

 

 流琉の顔へと、勇次郎の掌が近づいた。

 ――平手!?

 流琉はそう思い、咄嗟に腕で顔を守ろうとした。

 だが、平手の衝撃はこない。

 勇次郎は、左手で流琉の左手と組んだ。

 

「褒美だ。キサマの得意な力で勝負してやろう……」

「痛っ! 痛い痛い痛い痛い!」

 

 流琉は叫んだ。

 もはやそこに将としての姿はなかった。

 ただ、年相応の少女が泣き叫んでいた。

 

「流琉っ! 貴様ぁっ!」

 

 秋蘭はいきり立って、弓矢を構えた。

 その瞬間、何かが飛んできた。

 さっきまで範馬勇次郎と力比べをしていた、流琉であった。

 それに驚き、射るのをためらった。

 ためらってしまった。

 胸で流琉を受け止めるのと同時に、秋蘭の腹に衝撃がはしった。

 重い衝撃だった。

 下に目をやると、太い丸太のようなものが突き刺さっていた。

 勇次郎の足であった。

 秋蘭が、その衝撃の正体は蹴りであったと認識した時には、目の前は真っ暗になっていた。

 この時点で三十五秒。

 一分かからぬ内に三国志を代表する猛将が、半分屠られていた。

 

   漆

 

「範馬勇次郎ォォオっ! 貴様は何故、それほどの力を持ちながら、それほどの強さを持ちながら、民のために戦わんのだ!」

 

 愛紗は叫んだ。

 大声で、叫んだ。

 そうして、斬りかかった。

 

「貴様等は重大な勘違いを犯しているッッ」

 

 勇次郎はそう言い、愛紗の武器の柄を掴んだ。

 そして、地面に叩きつけた。

 

「へぇ……なら、その勘違いってなによ!」

 

 雪蓮が横から、剣を片手に頭から突っ込んできていた。

 

「強さについてだッッッ」

 

 勇次郎の左掌は、雪蓮の頭を鷲掴みにした。

 そして、その頭を地面に叩きつけた。

 だが、雪蓮は受身を咄嗟にとった。まだ、倒れてはいない。

 

「強さがどうしたぁっ!」

 

 春蘭は、範馬勇次郎の右目を狙い、突いてきた。

 だが、勇次郎はためらわず、剣を右手で掴んだ。その手からは、赤い血が滴っている。

 

「自らの意志を――我儘を押し通す力ッッ それが――強さの最小単位ッッッ」

 

 勇次郎は左拳で、春蘭の腹を叩いた。

 入った。

 だが、倒れない。

 春蘭は左手で剣を握ったまま、奇妙な型をとっていた。

 そして、気を吐いた。

 

「呼っ!」

 

 その型は、空手道に伝わる三戦の型であった。

 空手道に古くより伝わり、呼吸によって完成する型である。

 それが完全になされる時は、ありとあらゆる打撃に耐えられると言われる。

 間違いなく、その完成形であった。

 

「ほう!? 随分と曲がった強さですなっ! 耐えるのも強さであるというのに!」

 

 星はそう言い、槍で心臓を狙って突いた。

 勇次郎は槍を軽く払い、右足が、まっすぐ伸びた。

 前蹴りであった。

 

 めりっ

 

 という音が聞こえた。

 星の左ひざがたてた音であった。

 次の瞬間、星は吹き飛んでいた。

 拳の一撃によるものであった。

 

「それらは戯言ッッ! 強き者は耐えぬッッッ」

 

 ここで、一分経過……。

 残るは、五名。

 

「耐えるッ 克己ッ 理想ッ 覇道ッ 再興ッ それらは全て、強さの純度を曇らせる不純物ッッッ」




どうしよ……範馬勇次郎の大暴れが止まらない。
しかも、敗けるとか重大なダメージを負うとか一切想像できないので、余計大暴れする始末

まぁ、仕方ないか。範馬勇次郎だもの
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