真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~   作:クーロン

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なんとか収集ついた……
この話は、一応前回にくっつけようと思っていたのですが、どうも長くなりそうだと思ったのでやめていました


白光

「……恋は……まだ……」

 

 恋は苦しそうに言った。

 胸を抑え、息は絶え絶えだ。

 実際、胸の骨はボロボロになっていた。

 だが、一抹の幸運か――

 勇次郎の一撃を防ぐ際に、胸にあった武器が真っ先に受け、それにより心臓への一撃の衝撃が分散されたのだ。 

 もっとも、それのせいで、肋骨と胸骨がボロボロであるのだ。

 

「その通りだ」

 

 勇次郎が言った。

 

「お前は負けたと思っていねェ。そうである以上、決着はついちゃいねぇ」

「……でも、これ以上やったら、恋は負ける。だから、退く。……今日だけは退く」

「ああ。死にかけをブッ殺したところで面白くねえ」

「…………勇次郎は、恋の骨を折っただけ。恋を殴っただけ」

「恋殿! 馬を持ってまいりましたぞ!」

 

 陳宮はそう言って、恋のすぐ後ろまで馬を連れて来た。

 

「まだ敗けてない……恋はまだ、敗けていない」

 

 恋は、うわ言のように呟いていた。

 もう、眼の焦点は勇次郎に合っていない。

 

「……次は……恋が……勝つ……っ!」

 

 恋はそう言い、馬に乗った。

 だが、自分で操る気力は無い。

 すぐに馬の首にもたれかかった。

 その代りに陳宮が、素早く恋の後ろに乗り、馬を操った。

 馬は直ぐに駆け出し、あっという間にその影が小さくなった。

 

「逃げやがったか……」

 

 勇次郎は笑みを浮かべ、そう言った。

 それと同時に、一人の少年が勇次郎の背後に近づいた。

 

「親父ィ……やりすぎだぜッッッ」

 

 背後から近づいたのは、勇次郎の息子――範馬刃牙だった。

 左足で飛びながら右足をしならせ、勇次郎の頭を叩いた。

 だが、叩いた瞬間に、勇次郎は刃牙の右足首を鷲掴みにした。

 刃牙が鷲掴みにされた、と認識した瞬間に一気に引き抜かれた。

 刃牙の身体が、宙で一回転した。

 そして、おもいきり、背中から地面に叩きつけられた。

 その瞬間に、ごう、と空気の塊を刃牙は吐き出した。

 内臓が、押しつぶされるような感覚を感じた。

 

「愚か者がァッッ! 向かってくる者には、一切の加減をするなッッッ 闘争(たたかい)の基本だッッッッ」

 

 刃牙が感じたのは、余りにも大きい差だった。

 カマキリを下し、オリバを下して、少しは差が埋まっているかと思っていた。

 だが――ここで感じたのは余りにも大きい壁。

 どうしようもない、壁。

 

「跳ねっかえるにしても実力を知れいッッッ」

 

 勇次郎はそう一言だけ、吐き捨てた。

 

「これ以上は興味がねェ。帰らせてもらうぜ」

 

 勇次郎は、そう一言だけ言った。

 そしてただ一人、歩いていった。

 

   壱

 

「夏候惇の治療を最優先させろッ! 負傷した将を、全員を私の所へッッッ」

 

 連合軍の陣では、紅葉の指揮が飛ぶ。

 全員を治療する用意が出来ていたため、搬送はかなりスムーズにいっている。

 そして、現代の天才外科医としての面目が躍如していた。

 

「兄貴ッッ 夏候惇の治療の準備は整ってるぜッ」

「分かった昂昇! 誰か針をッッ 麻酔の後、心臓マッサージをしますッッ」

 

 紅葉がそう言うと、兵士の一人が駆け寄り、紅葉に針を手渡した。

 紅葉はそれを片手に、春蘭に歩み寄った。

 だが、針を春蘭に刺そうとした瞬間に、彼女に反応があった。

 

「おい……」

「驚きましたね……あの一撃を食らって息があるとは。この世界の女性達は、相当心臓が強いのでしょうか……」

 

 紅葉は興味深そうに言った。

 春蘭は咳き込み、血を少し吐き出してから言った。

 

「服の下に……胸当てを着けていたのだ……」

「へぇ」

「独歩に言われていたのだ……死ぬな、と……」

「愚地さんがですか」

「ああ……」

 

 それを聞くと、紅葉は白衣のポケットに手を突っ込んで、眼帯を取り出した。

 

「愚地さんから預かった眼帯です。愚地さんが“しばらくの間、これを使っておけ”とおっしゃっておりました」

「独歩が……」

 

 紅葉はそう言い、ぽっかり開いた春蘭の左目の部分に、独歩が使っていた眼帯を巻きつけた。

 

「……紅葉」

「なんでしょう」

「独歩の右目は……大丈夫なのか……?」

「ええ。もう塞がってました」

「そうか……」

 

 春蘭はそう言い、安堵したような表情をした。

 紅葉は、春蘭の怪我は最悪の箇所で完全骨折である、と判断して他の怪我人達を見た。

 

   弐

 

「では、皆さんの所にカルテ、診療録は行き渡ったでしょうか」

 

 二時間後。

 鎬紅葉は書類を持って、軍議の場に居た。

 だが、軍議といっても、集まっているのは桃香に白蓮、華琳に独歩、冥琳にオリバ、蒲公英に本部、ストライダムと、負傷者の仲間及び関係者だ。

 それぞれの前にはカルテ――診療録が置かれ、怪我の内容と箇所、治療についてが書かれていた。

 

「では、まずは劉備軍の怪我と、治療から」

 

 紅葉はそう言い、咳払いをした。

 

「関羽。胸骨骨折、肋骨の完全骨折が五ヶ所。幸いにも内臓には刺さっていませんので、致命傷はありません。現在、胸の部分をバンドの代わりに、包帯で固定してあります。しばらくの間は、呼吸する時に痛みを感じるでしょうが、二週間程でかなり楽になるでしょう。

張飛。頭蓋骨にヒビが入っています。そのため、頭を冷却し、包帯を巻いてあります。しばらくの間、運動を絶対にさせないよう、監視をお願いします。それ以外にも、頭の内部をやられている可能性がありますから、目が覚めたら、軽い検査を行います。

趙雲。膝、完全骨折。腹部をたたかれましたが、内臓破裂はありません。当然、しばらくの間は絶対に安静です」

 

 紅葉は、次のカルテを手に取った。

 

「孫策。顎にひび割れ骨折。頭部の骨折はありませんでしたが、脳への損傷が分かりませんので、目を覚ましたら検査を行います。

甘寧。張飛同様、頭蓋骨にひび割れ骨折。原因は裏拳でしょう。治療内容も張飛と同様です。当然、目が覚めたら、脳への損傷を把握するための検査を行います。

黄蓋。内臓は無事です。破裂している可能性も考えておりましたが、杞憂でした。ですが、胃液が逆流したのか、食道及び、口内が荒れています。そして、内出血もしています」

 

 紅葉はそれだけ言い、次に華琳を見た。

 

「夏候惇。胸当てのおかげで、関羽と較べ軽傷です。胸骨、肋骨にヒビが入っています。最後の一撃で胸当てが割れて、胸部の肌に切り傷が出来ています。左目に関しては治療不能です。ただ、目は脳に非常に近いため、左目の周囲を消毒しました。現在は、愚地さんの眼帯を着け安静にしています。

夏候淵。こちらも内臓破裂はありません。ですが、要安静には変わりません。黄蓋さんと同様、内出血をおこしています。

許楮。外傷はありません。ですが、脳に傷を負った可能性がありますので、目を覚ましたら検査を行います。しばらくの間は、頭を冷やし続けるよう、お願いします。

典偉。左手のひらを骨折しています。あとは外傷はありませんでした。ですが、投げられた時の前後で頭を打った可能性がありますので、再検査を行います。

で、張遼さんについても……」

「ええ。私が治療を受けさせたのだから、一緒に聞くわ」

「分かりました。

張遼。後頭部にコブが出来ています。あと、鼻の骨が折れていますが、命に別状はありません。一応、脳については再検査を行います」

 

 そう言って、紅葉は残った二枚のカルテを手に取った。

 

「馬超。頚椎に軽い捻挫がありました。今は首を固定し、冷却しています。命に別状はありません。

黄忠……は、必要でしょうか。ストライダムさん」

「いや、いい。この診療録(メディカルレコード)を見れば大体分かる。アゴにも別状ないようだ」

「はい。その通りです」

 

 ストライダムは英語で言った。

 そして、紅葉も英語で答えた。

 

「以上で個々の症状の説明を終わります。全体としましては、二週間は安静にし、私の指示通りの生活をして頂きます。食事に関しては、烈さんが少林寺に伝わる薬膳料理を作る、とのことなのでそれを食べてもらいます。では、質問がある方は」

 

 紅葉はそう言ったが、この軍議の参加者は何も言わなかった。

 紅葉は全員を見渡した後、口を開いた。

 

「では、最後に私から。今現在の治療環境ですが、お世辞にも良いとは言えません。第一に治療用に清潔な布や、人肌程度の湯を安定して手に入れることが非常に難しいです。可能な限り、なるべく早く後方に送るか、洛陽へいくことをお勧めします」

 

 紅葉はそう言い、お辞儀をして天幕から出た。

 

   参

 

 紅葉が出た後も、誰一人として口を開かなかった。

 天幕の中を、静寂が支配していた。

 その中で、桃香が乾いた口を開いた。

 

「……刃牙君のお父さん……範馬勇次郎って何なんですか……?」

「とんでもないヤツだったな……。呂布に圧勝して、星達……あの面子相手に大暴れって、一体どうなってるんだ……」

 

 白蓮の声は暗い。

 

「地上最強の生物といわれている男だ。俺もいっぺんヤり合ったが、てんで相手にならなかったぜ」

 

 独歩が答えた。

 その声は沈んでいる。

 

「人間……で合っているのか」

「鬼、と呼ばれておるがな」

「それが、これから私達の道を阻むのでしょうね……。一つだけ聞くわ。勇次郎相手に、貴方達の国はどう戦っているのかしら?」

「闘ってねぇぜ。むしろ、膝を折った」

「「「……っ!」」」

 

 オリバのその一言に、三人が反応した。

 桃香、華琳、冥琳の三人だ。

 

「残念ながら、勇次郎は権力や国力でどうこう出来る相手じゃねぇ。国はその存在をひた隠し、なるべく触れねえようにしているのさ」

「化け物ね……」

「同感だ……」

 

 そういって、冥琳と華琳は考え出した。

 だが、策でどうこう出来る相手じゃないと思ったのか、考えるのをやめた。

 

「マダ、問題ガアル」

 

 ストライダムがそう言った。

 三人の目が、ストライダムを向いた。

 

「オーガノ成長ハ、止マッテイナイ。今現在……コノ瞬間モ成長シテイル」

 

 三人は、唇を噛んだ。

 一瞬だけその耳に、鬼の笑い声が聞こえた。

 

   肆

 

「恋殿! ここなら連合軍相手でも、簡単に見つからないですぞ!」

 

 恋の呼吸は荒い。

 ボキボキに折れた肋骨の影響か、呼吸するたびに全身に鋭い痛みが走った。

 恋はなんとか、馬から降り、その場で仰向けに倒れた。

 陳宮は自分の服を切り、それを包帯代わりに恋の胸に巻き始めた。

 

「……ねね……」

「しゃべらないでくださいっ! すぐに治療を……!」

「……くやしい。負けたのが、悔しい……っ!」

 

 恋は左腕で、自分の目を隠した。

 だが、その腕の下から雫が零れだしていた。

 

「……次は……次は勝つ……! ……でも、このままじゃ、勝てない……ッッ」

「…………」

 

 陳宮は、黙々と巻き続けながらも、恋の言葉を聴いていた。

 

「……だから……やりたいことが、ある。ねね……」

「ねねは恋殿について行くのですぞ! いつまでも……どこまでも……っ!」

「……ありがと」

 

   伍

 

 豪華な部屋だ。

 広く、そして王座とも言うべき椅子が置かれてある。

 今、その椅子には一人の少女が座っていた。

 淡い青色の髪をし、王侯貴族のような服の少女だ。

 そしてその少女に、緑色の髪をした眼鏡をかけた少女が駆け寄ってきた。

 

「月! 今、霞が寄こした兵から聞いたわ!」

「詠ちゃん……なにがあったの?」

「恋が……負けた。……生死も不明よ。霞も、あの範馬勇次郎というヤツと闘って、負けたらしいわ。こっちも生死不明よ」

「そんな……っ」

 

 緑色の髪の少女の言葉を聞き、淡い青色の髪をした少女は絶望したような表情になった。

 緑色の髪の少女は、歯噛みした。

 そして、言った。

 

「月。もう、ここに居たって連合軍相手にはどうしようもないわ。向こうの将も、勇次郎に潰されたみたいだけど、数が違いすぎる。涼州まで、逃げるわよ」

「でも、連合軍は追ってくると思う……。この戦で、何人も将軍が殺されちゃってるから、なおさら……」

「月まで死ぬ必要ないじゃない! 下手したら、明日にでもここに連合軍が来るわよ!」

「それでも、もし涼州まで逃げたら、今度は故郷の皆まで巻き込んじゃうよ」

「だからって……!」

 

 詠と呼ばれた少女が、そう言った瞬間だった。

 凄まじい音がした。

 天井が砕ける音だ。

 同時に、眩い白光が二人を包んだ。

 

「何よ!? まさか、もう連合軍が……!」

 

 詠と呼ばれた少女は身構えた。

 だが、戦のような喧騒は聞こえない。

 それが逆に不気味であった。

 その部屋は、さっきの騒動で蝋燭は消えてしまっていた。

 外は夜になっていたのか、天井に出来た穴から星や月の光が注ぎ込まれていた。

 その光が、この部屋の唯一の明かりだ。

 その光の下に、人間がいた。

 

「月、動かないで」

「詠ちゃん……」

 

 詠と呼ばれた少女は、月と呼ばれた少女を庇うように前に立った。

 この人間の正体と真意が分からない以上、そうするしかなかった。

 

「……っ!」

 

 光の下にいた人間が、動いた。

 白い服を着た巨躯の男だ。

 眼鏡をかけている。

 だが、特筆すべき箇所はそこではない。

 一番の特徴は顔だ。

 大きな切り傷がある。

 二本の刀傷が、右頬で重なっている。

 さらに、拳にはいくつもの裂傷があった。

 そんな侠客(おとこ)だった。




やっと! やっとッッッ あのお方が降臨なされましたッッッッ 今まで待たせてしまい、申し訳ございませんッッ

それでは、次回『侠客立ち』をお待ちくださいッッ
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