真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
今回で花山薫の闘いに決着をつける気だったのに。
「まだやるか……」
喧嘩師――花山薫。
彼のファイトスタイルは単純明快であった。
天性の常人を超えた力を持つゆえ、己に鍛錬する資格なしとし訓練の一切を拒絶して、ただもって生まれた身体のみを武器に闘う。
敵の攻撃は一切避けず。
それが――花山薫。
「まだやります」
武将――凪。
彼女のファイトスタイルも単純明快であった。
ただ、日々の鍛練を積み、己の拳足と氣をもって相手と闘う。
いかなる敵相手でも、全力で。
それが――凪。
「真桜、沙和。……休んでいてくれ」
「そうしたいんやけどなぁ……」
「休んでも、いられないの」
凪がそう言うと、二人は落ちていた剣を拾って凪の隣に立った。
「確かにウチは武器は壊れたけど、まだピンピンしとんねん」
「それに、凪ちゃんだけ、戦わせるわけにはいかないの」
「真桜……沙和……。ありがとう」
三人分の視線が、花山薫を捕えた。
だが、花山薫の片眉はピクリとも動かなかった。
「三人でやる気か」
「そうだ。主命もある……私達はどんな手を使ってでも、勝つ」
それを聞き、花山薫はそうかと言った。
そして背中を見せて、その場に胡坐をかいた。
三人の目に、ズタズタに切り裂かれた入れ墨が飛び込んできた。
巨大な鐘を担いでいる、怒髪の男の入れ墨だ。
「何のつもりや」
真桜が抑揚もなく言った。
「女叩く趣味は無ェ。が……こっちも退く気は無え」
花山薫は振り返らずに言った。
「殴りてぇなら、好きなだけ殴ったらいい。ぶった切りてぇなら、好きなだけ切ったらいい。……終わったなら言いな」
「…………」
凪は何も言わず、唇を噛んだ。
弐
「刃牙君……どうしたの?」
「桃香。あの闘い、止めた方が良いかもしれない」
刃牙は花山薫を眺め、そう言った。
桃香は少しだけ考え、納得いったような顔で言った。
「ひょっとして、あの人って刃牙君の友達? このままだと友達が……」
「まぁ、確かに花山さんには世話になったよ。だけど……」
「だけどって私、何か変なこと言った?」
刃牙は首を横に振った。
「俺は花山さんの心配はしていない。気にかけているのは、あの三人の方だ」
「え? でも、まだ一発も叩かれていないよ。だから、私はこっちが勝つと思うな」
「それは、花山さんが叩かなかったからだ」
「でも、あれって叩けなかっただけじゃないの? 両手ふさがったし……」
「そんな訳がない。花山さんは強いから」
「でも、ならあの三人の何が気になるの?」
「優しく振り下ろされる剃刀の方が、人を深く傷つけることがある……」
刃牙は呟くように言った。
桃香は、ワケが分からない、というように首をかしげた。
「もし、本気でやれとか言ったら……花山さんは本気をだすよ。花山さんは優しい人だから、相手の傷を知って、本気をだす……」
参
「ふざけるな花山薫っ!」
私は大声で言った。
「私は武人だ! 無抵抗の人相手に、そんなことは出来るものかっ!」
この人は本当に、気遣って言ったのかもしれない。女だから、という理由で。
それとも自分の生き様なのかもしれない。
だが、その言葉が何かを傷つけた。
武人の心か、魂か。
それとも、もっと抽象的で大事な何かかもしれない。
ただいえるのは、深く深く傷ついたのは確かだ、ということだ。
「闘え……っ! 相手になれ! 花山薫!」
ただ、勝てばいいのなら、こんなことは言わない。
頭のいい人なら、このまま倒しに行くだろう。
だが、そうすることは私の心が拒む。魂が拒む。
真桜と沙和も同じなのか、何も言わなかった。
「…………」
花山薫は背を向けたまま、何も言わない。
たまらない。
それが、たまらない。
「本気を出せっ!」
私は叫んだ。
腹の底から叫んだ。
「本気で闘えっ! 花山ァァッ!」
私がそう言うと、花山薫が動いた。
速くも無く、ゆっくりでもない動きだった。
そして、私達の方を向いた。
「手加減しねえぜ」
「かまわない」
そう答えると、花山薫の両腕が上に昇って行った。胸より高く――
そして、頭の位置まで。
「変な構えなの……」
「油断は出きんで」
「真桜、沙和。下がっていてくれ。……私が最初に打つ」
脇腹がガラ空きになった、異様な構えだった。
それが、守りは一切考えなず、ただ、相手を殴る事だけを考えた構えだ、ということはスグに分かった。
気付くと同時に、背筋に太く、真っ黒な影が走った。
「来いっ!」
私は大声で言った。
同時に、花山薫の上体が動く。
間違いなく、殴ってくる動きだ。
そう見せかけての、蹴りが……。いや、違う。そんな小細工をするような人間じゃないだろう。
克巳さんが、鍛錬という行為が女々しく思うほどの戦いをするのだから。
一呼吸。
そして――来た。
拳だ。
下から腹へと、突き上げてくるような拳だ。
避けはしない。真っ向から……!
克巳さんから習った技で……。いける。
膝をあげると同時に、肘を落とす。
――蹴り足挟み殺し
極まったっ! 挟んだ!
「がぁっ!」
その瞬間だった。
そう思ったのと同時だった。
何か、私の腹で爆発した。
何をした!?
花山薫は私に何をした!?
それを知る前に、私の膝が折れていく。
初めて感じることだった。
頭を打たれて、気が遠くなったことはある。
頭から意識が、フワリと抜けていった。
だが、こんなことはなかった。
腹を打たれて、そこから意識が抜けだそうとしているのだ。
身体を鎧化する硬気功で、固めているにも関わらずだ。
ちょっとの間があった。
自分の意識も、身体も宙にいる時間。
どん、
それを感じていたら、何か壁にぶつかった。
ほんのり温かい壁だ。
「凪ィっ! 危ないで!」
真桜の声が聞こえた。
それと同時に、何かが壁の上から近づいてきた。
そして、私の後ろ髪を鷲掴みにした。
次に立たされた。
沙和か? いや、沙和はこんなに荒っぽくしない。
なら……
ごう――
そんな音が聞こえた。
「げええええっ!」
また、腹で爆発が起こった。
だが、今度は爆発の正体が分かった。
拳の一撃だ。
鎧ごと、身体も内臓もぶち抜くような一撃だ。
「げほっ! げっ……ハァ……ハァ……がっ! がっ!」
拳が入ると同時に、酸っぱくて黄色い臭いが私の鼻を刺した。
黄色い胃液が地面に迸り出た。
「げほっ! ごほっ!」
吐いた。
「こんの……っ!」
「やぁぁぁあっ!」
真桜と沙和の声だ。
それが聞こえるのと同時に、花山薫の背から血が流れ出した。
斬ったのか。
それでいい。
だが、花山薫は下がる気でいない。
まだ戦う気だ。
だから、下がってくれ。真桜、沙和。
一発でも叩かれたら、大変なことになる。
私は心から、二人に退いてくれと願った。
だが、二人は下がらない。
「凪ちゃん! 今の内なの!」
「ここはウチと沙和に任せて、凪は退くんや!」
…………
「早くするの!」
「さっさとせぇ!」
私は、立って下がった。
二歩……三歩。
肆
「花山薫! ウチ等を無視すんなや!」
真桜は剣を構えて叫んだ。
「凪ちゃんの代わりに、沙和達が相手になるの!」
沙和も剣を構えて叫んだ。
「……オメェさんたちも、本気でいいのかい」
両腕を下げ、抑揚もなく花山薫が言った。
「本音は嫌なの。だけど……」
「凪が、ああ言うた時から覚悟出来とるよ。それに……」
真桜と沙和は一呼吸だけ吸い、言った。
「凪のことブッ飛ばされて、黙ってられるかい」
「凪ちゃんブッ飛ばされて、黙ってられないの」
全く同じタイミング、同じ抑揚で二人が言った。
それを聞き、花山薫の両拳が上がっていく。
間違いなく、本気の構えだった。
「行くで、沙和」
「りょーかい」
真桜は花山薫の右へ、沙和は左へ行った。
そして、大きく気合を吐き出して斬りかかった。
だが、その剣は鷲掴みにされた。
兵の剣の切れ味は、沙和が使っていた剣の切れ味より、遥かに劣るのだろう。
花山薫の手のひらから、新しく血が流れることはなかった。
そして、金属がへし折れる音が聞こえた。
だが、二人の攻勢はそれで止まらなかった。
「狙いは~?」
「足や!」
二人の足がしなり、花山薫の両足に蹴りを入れた。
一瞬、花山薫がよろめいた。
「今や凪ィィっ!」
「今なの凪ちゃんっ!」
よろめいた瞬間に、二人の声が重なった。
「ありがとう! 真桜! 沙和! 氣をしっかり練れたぞ! 猛虎蹴撃っ!」
凪の声だった。
そして、花山薫の背に真っ赤な炎が迫った。
その炎は真っ直ぐに――
「凪、手応えはどうや?」
「ありだ」
「はぁ~本当に恐かったの……」
凪は確信していた。
二人の蹴りでよろけたのだから、限界は近いハズだと。
そこに、全力の氣弾。
倒れないハズが無い。いや、倒れるしかないのだ。
だが、花山薫は倒れない。
城門に背を向け、三人の前に立っていた。
その両目は三人を睨んでいる。
「スマン……花山薫はまだヤル気だ」
凪は息を吸い込み、それを呼気と一緒に吐いた。
かあああああああああっ!
凪は、自身の体内に強い力が生まれたのを感じた。
息を吐き出すと共に、その力が膨れ上がっていく。
しいいいいいいいいいっ!
呼気の音が高くなる。
高くなっていく。
高くなっていく。
いいいいいいいい……っ!
凪が行った。
がら空きの腹へと、一撃。
だが、それはフェイントだ。
本命は足での攻撃。
拳を下に振り抜く反動で、足を高く上げる。
花山薫の顔面に届くように。
右足は上に。そして、左足は地面を蹴る。
凪は鉄甲を通して、肉を蹴り潰す感覚を感じた。
だが、同時に掴まれた。
花山薫の両手に掴まれた。
ぐしり
ありえない音だった。
鉄が泣き叫ぶ音だ。
鉄が潰れる音だ。
凪はそれを聞くと同時に、自身の背に蟻のようなものが這っている感覚を味わった。
一匹二匹ではない。何万、何億の蟻だ。
――マズイっ!
凪は本能的にそう感じた。
「おきゃあっ!」
凪は短く叫び、左足も地面を蹴り、花山薫の顔の方へ持っていった。
そして、左足を花山薫の右肩に絡ませ、自分の上体を引き上げた。
凪にとって、拳で打ちやすい位置に、花山薫の頭がある。
「かぁぁぁぁっ!」
凪の背中にある寒気は消えない。
その寒気を消すように、夢中で花山薫の頭に、拳を振り下ろした。
こめかみ、脳天、鼻、後頭部。
だが、右足から花山薫の両手は離れない。
そして、
ぐしゃり
という、金属が潰れる音がした。
それはつまり――金属を潰す握力が、右足に直でかかるということだ。
そして、かかった。
「ひっ……!」
凪は見た。
自分の右足のふくらはぎが膨らんだ光景を。
疑いたい光景だった。
だが、しっかり見てしまったのだ。
短い悲鳴が口からこぼれた。
「沙和ぁ!」
「分かってるの!」
真桜と沙和は叫ぶように言った。
そして、真桜は花山薫の右足を蹴り、沙和は全身をぶつけた。
花山薫の巨体が揺れる。倒れて行く。
凪は花山薫の頭を両手で鷲掴みにした。
そして、倒れて行く勢いを利用し、強かに地面に後頭部を打ちつけた。
しかも、倒れて行く先には石がある。
凪は、それも無意識に利用していた。
「凪! 無事か!?」
「はぁっ……はぁっ……!」
「凪ちゃん! どうしたの!?」
凪は何とか、怪物じみた握力から逃れたが、自分の体温が急激に下がっていくのを感じていた。
恐怖。
恐怖が凪の全身で暴れまわった。
力の抜けた足腰を奮い立たせ、立ち上がった。
そして、右足で何度か地面を強く踏んだ。
――大丈夫。大丈夫だ。
そう思い、大きく息を吐いて言った。
「真桜、沙和。もし、次また闘うことがあったら……絶対に掴まるな。大変なことになる」
凪の声は震えていた。
「どういうことや……?」
「話している場合じゃないの! まだ……!」
沙和が言った。
花山薫に目を向けると、既に立ち上がろうとしていた。
脅威のタフネスであった。
「なんで……まだ立つんや」
真桜は呟くように言った。
花山薫の身体に限界が近いのは間違いない。
あのまま寝ていた方が、楽なはずだ。
「何で、そんな力が……何であるの」
麗羽、美羽の軍を相手に大暴れ。
一撃必殺である氣弾をマトモに食らう。それも三発も。
城門の瓦礫に、押しつぶされる。
顔面への蹴り。頭部へ鉄甲をつけた両手で連打される。
そして、後頭部を石にぶつけられる。
人間が倒れるのに、十分すぎる。
それでも、花山薫は何も言わずに立ち上がるのだ。
「何となく、克巳さんが言ってたことが分かった。確かに、鍛えることが女々しく思う……それ程だ」
ある種、神懸りな力だ。
義理? 人情? 責任? 約束?
そんなものだけじゃ、この力は出ない。
なら、何か。
何からこの力が出ているのか。
「花山薫っ! 何がお前を支える!」
凪が言った。
「…………」
「花山薫っ! 答えろ! 何が……っ!」
凪はそこまで言って気付いた。
花山薫が、何か言っていることに。
「…………たった一夜の…………宿を貸し………………一夜で……亡く……なる……」
伍
『ていッ』
『こッ こやつ何故に倒れぬッッッ』
『おのれヤクザふぜいがッッ』
一六一六年(元和二年)如月
この日、花山家は山賊により、一家惨殺の憂き目に遭う。
『もうよい。既に、こときれておる……』
だが、その日。
偶々、花山家に一夜の宿を借りていた旅の博徒が、花山家の幼子である花山弥吉を背負い、その上に鐘をかぶせ、我が身を盾にし弥吉を守り抜いた。
その漢は全身を刀で斬られながらも、鐘を背負い、立ったまま絶命したと言われている。
氏名、享年。共に明らかならず。
だが、この名もなき博徒は、漢の
陸
たった一夜の宿を貸し
一夜で亡くなるはずの名が
旅の博徒に助けられ
たった一夜の恩返し
五臓六腑を刻まれて
一歩も引かぬ〝
とうに命は枯れ果てて
されど倒れぬ〝侠客立ち〟
とうに命は枯れ果てて
男一代〝侠客立ち〟
花山弥吉
漆
「……詠ちゃん」
「どうしたのよ月。奇跡的に連合軍が来ていないから、このまま民に紛れて……」
「あれ……あれって……!」
淡い青色の髪をした少女が、くずれた城門を指差した。
それにつられ、緑色の髪をした少女も、城門を見た。
「そういうことなんだ……。バっカじゃないの……。ボク達、アイツに何もしていないのに……」
「なんで……」
二人の少女の目に飛び込んできたのは、入れ墨。
鐘を担いだ怒髪の漢の入れ墨だった。
捌
「凪ぃ……三人や。三人で倒すで」
「ああ」
「行くの」
三人は決意をこめた声で言った。
そして、真桜と沙和は足元の剣を拾った。
「……男…………一代…………侠客……立ち…………」
花山薫の構えは変わらない。
両拳が頭の高さまである。
もう、お互いに小細工はない。
ただ――真っ向からぶつかり合う。
それだけだ。
「呼ォォォォ……」
凪が空手の息吹をした。
それと同時に、彼女の中にプツプツと闘志が湧いてきた。
「カッッッ」
凪が短く切り、踏みだした。
花山薫へ、真っ直ぐ最短コースで。
同時に、花山薫の足が伸びてくる。
蹴りだ。
空手やムエタイのような蹴りじゃあない。
技術のある蹴りじゃあない。
ヤクザキック、ともいうような蹴りだ。
それが凪に当たった。
当たった瞬間に身体から、ごうと息が逃げ出した。
だが、凪は両腕を腹に刺さった足に手を回した。
背中に肘や拳が降ってくる。
くむうっ
かっ
すふぅ
殴られる時に吸って吐くので、呼吸の音がオカシイ。
「ぬがっ」
凪から、うめき声が漏れた。
それと同時に、二人が動いた。
真桜と沙和だった。
剣を花山薫に振り下ろした。
花山薫は、その剣を鷲掴みにして、力任せに振り回した。
「んにゃっ!?」
「ひゃあぁっ!?」
その力につられ、二人の身体が地面から引っこ抜かれた。
さらに引っこ抜かれる瞬間、剣が折れた。
まだ、それだけの力が花山薫にはあった。
「凪ちゃん!」
「頼んだで!」
宙で、二人が叫んだ。
「分かってる!」
凪は答え、花山薫の足に回していた両手を離した。
そして、氣を拳と脚に固めて、気合を吐き、打った。
「しぁぁぁあっ! 人中! 天突! 水月! 金的!」
正中線上の急所に、狙いを絞った連撃であった。
全て、どれか一つでも、もろに食らえば悶絶するような急所だ。
それを四連――正中線四連突きだ。
だが、花山薫はそれじゃあ止まらない。
まだ闘えるのだ。
互いに闘える、互いに闘う意思がある以上、闘いは終わらないのだ。
異形の拳が動く。
振り下ろすように動く。
固められた握力――
巨体ゆえの体重――
異常な脚力によるスピード――
全てが噛みあった、とてつもない破壊力をもった一撃が、凪に迫った。
真っ直ぐだ。
ためらいなどなく、気持ちいいくらいに真っ直ぐだった。
しかし、かわしようがない。
真っ直ぐで真ん中だった。
もし、これがもう少し左右にずれていたら、かわすとか、いなすとかの行動が出来ただろう。
だが、真っ直ぐで真ん中すぎた。
凪は受けた。
その一撃は、凪の胸あてを、一撃でぶち抜き――
「――――」
凪はうめき声ひとつ出せなかった。
代わりに、口から、鼻から血がでた。
呼吸が出来なくなり、視界がぶれた。
そして、凪はそのまま地面に落ちていった。
「凪ちゃん!」
「沙和! 余所見してる場合やない! 来るでェ!」
真桜がそう叫ぶのと、まったく同じタイミングであった。
花山薫の巨体が、二人に迫っていた。
「こわ……っ!」
沙和の口から、一言だけ漏れた。
その一言を言い切る前に、次の攻撃が来ていた。
真正面から、何か、太いものがきている。
脚だ。花山薫の脚だ。
それが、真桜に向かってきた。
真桜に剣はない。
頼りになるのは、己の身体のみであった。
覚悟と共に、息を吸った。
腕をクロスさせ、受けた。
その瞬間、衝撃が腹を突きぬけた。
腕を通り抜けて、なんて衝撃ではない。
まるで、腕が急所にでもなったかのような衝撃だった。
真桜は脚にのまれ、そのまま真後ろに吹き飛んだ。
「真桜ちゃんっ!」
沙和が悲痛な声で叫んだ。
沙和は一瞬だけ、吹き飛ぶ友を見たが、すぐに花山薫に視線を向けた。
ヤクザに怯える少女の視線ではない。
闘争の覚悟を決めた、武人の目だ。
「やぁぁぁあっ!」
手に武器は無い。
だが、手がある。拳がある。
沙和は右拳を固め、思いっきり花山薫の腹を打った。
だが沙和は、素手の闘いが得手ではない。
素手での闘いが不得手な者が、百キロ以上差があるモノを、思いっきり殴ったらどうなるのかを彼女は知らなかった。
もし、沙和が冷静であれば、深く考えずとも理解しただろう。
だが、友人二人を叩きのめされ、冷静でいれるハズがなく――
ぐじりっ
そんな音が聞こえた。
沙和の右手首が外れる音だった。
滑らかであった手首に、骨の形がくっきりと浮き出ている。
「ああああああああ!」
沙和は叫んだ。
悲痛な声で叫んだ。
額にはプツプツと脂汗が出てくる。
寒気が止まらないのに、汗が出てくる。
「……終めェだな」
花山薫が呟いた。
花山薫とて無事ではなかった。
全身から血が流れ、白かったふんどしも真っ赤に染まっていた。
三人に背を向け、城門に向かう足も、どこかふらついている。
そして、崩れた城門の前に再び立とうとした時だった。
「はァ~~なァ~~やァ~~まァ~~」
地から響いてきた声だった。
その声と共に、血塗れの顔で、銀髪の少女が立ち上がった。
凪だ。
「まだ……終わっていない……っ!」
そう。
闘いは終わっていない。
互いが闘える、闘う意思がある以上、終わらないのだ。
「おきゃあああああああっ!」
叫んだ。
凪は、口を開き、ぬるぬると血が絡んだ歯をむき出しにして、叫んだ。
獣の咆哮であった。
狂気が混じった咆哮であった。
叫ぶ口から、血飛沫が飛ぶ。
凪の中で、獣が暴れていた。
自分自身と等身大の獣だ。
勝ちたいという意思でなく、闘いたいという意思が叫び続けていた。
「あああああああっ!」
凪は走り出した。
燃やせるもの全部燃やして走り出した。
食ったもの、脂肪、肝臓にあるグリコーゲンだけではない。
哀しみ、恨み、怒りだけでもない。
体力? 精神?
それだけではない。
燃やせるものは全部燃やすのだ。
嬉しかったことでもいい。楽しかったことでもいい。
子供の時に、野良ネコを見たとかそんなものでもいい。綺麗な花を見たとかでもいい。
全てを燃やすのだ。
自分の、全存在をかけて闘うのだ。
「けぇあっ!」
凪は吼えて、攻撃し続けた。
拳に脚。
全てに手応えがある。
何も考えず、殴り続けた。蹴り続けた。
最早、凪は自分がどこで呼吸しているのか、分からなくなっていた。
酸素が足りない。
だが、それでもよかった。
口で出来ないなら鼻で、鼻で出来ないなら耳で、耳で出来ないなら目で、目で出来ないなら髪で、皮膚で。
それでも出来ないなら胸を斬って、直接肺に空気を入れてもいい。
そんな気分だった。
「けああっ!」
凪は右足で蹴った。
どこを狙った蹴りではない。
花山薫の身体に当たれば、どこでもよかった。
当たった。
感触があった。
同時に、何かに掴まれた。
ぱんっ
そんな音が、右足から聞こえた。
足から鋭い激痛が襲ってくる。
「あ……」
凪は気付いた。
破裂したのだ。
自分の右足が破裂したのだ。
だが、闘志は未だに折れなかった。
自分でも不思議だった。
そして、渾身の力で左拳に氣を溜めた。
「かあっ!」
その拳で、凪は花山薫のこめかみを打った。
だが、激痛で力が抜ける。
こめかみを打ち抜けず、ぶつけて終わった。
しかし、それでも終わらない。
「倒れろ花山ァァァっ!」
拳は花山薫の頭部に触れている。
その状態で撃った。
最後の――氣弾。
花山薫の頭部から、閃光が見えた。
14 花山薫 はなやまかおる
身長 190,5cm 体重 166kg ファイトスタイル 喧嘩
刃牙キャラでも屈指の人気キャラ。名バウト請負人。この小説の感想を見ていただければ、その人気は分かると思います。20件以上は花山さん絡みです。
天性の恵まれた身体と力を持つゆえに、自分は鍛えないでいる。その考えは、『強く生まれちまった者の不文律。小細工までする権利はない』という言葉に強く表れている。
そして、闘いでは相手の攻撃は一切避けず、全て受けきって殴り勝つ。
武勇伝にもこと欠かず、15歳の時に父を殺した富沢会に殴り込み、30分そこらで壊滅させた。ボクシングのチャンプ、二人に殴り勝つ。と、凄まじい。
個人的にベストバウトは、花山薫vsスペック