真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~   作:クーロン

2 / 75
これが第二話となります。今回はタイトル通りの二人が出てきますッ


武神と達人

「雪蓮……で、お前の計画はどうなった」

「え~と……妥協、かしら?」

「まぁ、策殿の策を実行するのは無理じゃな。誰もおらん」

 

 流星が落ちた場所へと、馬を駆けて三人の女性が向かった。

 着いたそこは、何かが空から落ちてきたなどとは思えぬほどに静かだった。

 落ちたような痕跡もなく、静かなだけ。

 

「無駄足か……。帰るぞ、雪蓮」

「え~。冥琳、もうちょっと探してみないの~?」

「お前の仕事が終わっていれば別にいいのだがな」

 

 雪蓮と呼ばれた女性は、冥琳と呼ばれた褐色の肌をしたメガネの女性に引っぱられた。

 孫策は口で文句を言うが、抵抗はしない。

 ここには誰もいない。外れた、自分の運が悪かった、と思っていた。

 

「待たれよ……策殿。誰かおる」

「ええ。祭の言うとおりみたいね」

 

 そんな状況だったが、祭と呼ばれた女性が妙な雰囲気に気づく。

 ――静かすぎるのだ。

 まるで、誰かが意図的に気配を殺しているかのようだ。

 気づいてしまえば強烈な違和感しかない。

 

「そこね……。出てきなさい! 逃げられるなんて思わないことね!」

 

 孫策が草木が茂る森へ剣を向ける。

 そこだけ並はずれて静かだからだ。

 まるで空気が止まっているかのようだ。

 そして、剣が向けられた先からガサリと音をたてて一人出てきた。

 

「ほう……お若いヒト、なかなか優秀じゃな」

「……ありがとうね、おじいちゃん」

 

 出てきたのは、べっこうの眼鏡をかけ、和服を着て袴を穿いた小柄の老人だ。

 身長は小、中学生ほどしかない。

 身体も細いため、体重もあまりないだろう。

 実際に身長は百五十五センチ、体重は四十七キロと、この場では最も小柄だ。

 頭の天辺は黒髪だが、横と後ろは真っ白だ。

 顔には深くしわが刻まれている。

 しかし、身のこなしが、ただの老人ではないと言っている。

 

「おじいちゃんは何をしているのかしら?」

「む……? ワシは鏡を触っただけじゃ。そして気付いたら、ここに居ったのじゃ」

 

 ここがどこか教えてくれんか? と聞く老人には危険性は感じられない。

 さっきまでの不気味さは嘘みたいだ。

 

「ここは江東よ。近くの村なら……あっちね」

「聞き覚えないのう……。礼を言う、お嬢ちゃん」

 

 ペコリと頭を下げ、老人は指された方へ歩き出す。

 完全に背を向けており、さっきまで隠れていた警戒心は無くなったのだろう。

 

「あ! おじいちゃん! どこ行くの?」

「はぁ? スマンのォ。歳をとると耳が遠くて……」

 

 老人はクルリと向きをかえ、孫策と向き合った。

 

「ここがどこか分からないなら、私の所に来ないかしら?」

「雪蓮! 素性も分からない人を……」

「分かるわよ。この人は……達人よ」

 

 それも武芸の、と孫策は加える。

 老人には三百六十度、どこからでも一分の隙も無かった。

 間違いなく、上の方の強者か達人だ。

 それで孫策の悪い癖がでた。

 

「はて……」

「とぼけなくていいわ。一戦……頼めるかしら?」

 

 ――武人が強い人と、達人と戦いたい。

 そこに理由はいらない。

 孫策は目の前の老人、いや、達人相手に昂ぶりを隠せずにいた。

 

「なんじゃお嬢ちゃん。決闘をやりたかったんかい。やりましょうか、決闘」

「御老人! 雪蓮もやめろ! 剣を捨てて……」

「ごめんなさい。剣は使わないけど、やるわ」

「冥琳。あきらめた方がよいぞ。こうなると策殿は止まらん」

「はぁ……。全く……」

 

 眼鏡をかけた女性が孫策を止めるが、止まらない。

 孫策は老人と向かい合った。

 風は向かい風。

 老人のいる方が風上だ。

 風がピリピリした空気を運ぶ。

 殺気に気圧されたのか、虫はピタリと動きを止め、鳥は逃げ出す。

 

「いかがしたお嬢ちゃん。油でも切れましたか?」

「……ちがうわよ。それに私には孫策って名前があるわ」

「ほォ……聞いたことあるような、無いような……。スマンの、歳をとるとどうにも……」

「おじいちゃんは? 流石に自分の名前は……ねぇ?」

「カッカッカッ、そこまで老いとらんぞ。さて……名前でしたな。ワシは渋川剛気じゃ」

 

 ――渋川剛気(しぶかわごうき)――

 孫策の前に立ったのは、渋川流柔術の総帥にして、合気を使いこなす『近代武道の最高峰』とまで称えられた人間だった。

 

「さ……始めましょか」

 

 達人、渋川剛気は孫策の目へ、眼鏡をふわりと投げ捨てた。 

 

   壱

 

「妙な場所(トコ)来ちまったな……」

 

 荒野に一人の男が立っていた。

 身長が百七十八センチ、体重は百十キロ。

 常人にとっては大きい部類だが、その人が空手家であることを考慮(かんが)えると、そこまでではない。

 しかし、その男には周りを圧倒するような何かがあった。

 巨漢の風格がある。

 ――愚地独歩だ――

 

「克巳も烈もいねぇか……仕方ねえ。どっかの町に行けば帰れんだろ」

 

 ――先に帰って待ってるか。

 そう思い、独歩は歩き出した。

 だが、止まった。

 前から三人組みが来ていた。

 ――克巳と烈か? あと一人は分からねえが。

 独歩はそう思ったが、違う。

 前から来る三人組は、剣を持っている。

 

「おい、デブ! 速くしやがれ!」

「ゴメンなんだな! でも……」

「でもじゃねえ! 官軍に捕まるぞ!」

 

 お互いに言い合っているようだ。

 独歩に聞こえるのは、風が三人組にとって追い風で、独歩は風下に居るからかもしれない。

 それでにおいも流れてくる。

 汗の臭いに、脂のにおいに金属臭――血の臭い。

 独歩が警戒したのは、それだけではない。

 ――剣を、既にどこかで抜いた!

 剣からの臭いは血のりではない。

 本物の血だ。

 独歩と三人組の間合いが縮まっていく。

 

(カァ)ッ」

 

 その声に、三人組の動きが止まる。

 独歩の大声に三人が圧された。

 

「な……なんだテメェ! 急にデケエ声出すんじゃねえ!」

「ぶっ殺すぞ!」

「じゃ……じゃまなんだな!」

 

 一瞬ひるんではいたが、そう言うと三人は素早く連携を組み、中央にリーダー格を残して左右に広がった。

 三人組は逃げるためには邪魔だ、殺すべきと思ったのだろう。

 その瞬間だった。

 独歩は前に出たのだ。

 ――広がるというのは最悪の手段だった――

 空手の場合、間合いがあるのなら最初の攻めは蹴りが主流だ。

 何故なら、蹴りの方がリーチがある。

 大きく踏み込んで拳で攻めるなど滅多にない。

 その大前提と、相手が攻撃でも受けでもない行動をして出来た隙を突く、意表をつく動きだ。

 ――行動のあとは、すぐに次の行動には移れない――

 その隙を独歩はついた。

 リーダー格の男が剣で防ごうとした瞬間、独歩の正拳が顔にぶち込まれていた。

 リーダー格の男は無言のまま仰向けで、後方に飛んだ。

 地面に仰向けで叩きつけられていた。

 口は開きっ放しで、鼻血を吹き、眼をむいたまま気絶していた。

 顔は血で赤く染まり、口の周りには欠けた歯が散らばっている。

 

「「~~~~~~ッッ」」

 

 残りの二人が衝撃に浸っていられるのも一瞬だった。

 ノッポの男の前に独歩の回し蹴りが目前に迫っていた。

 筆舌することの出来ない、強烈な蹴りがノッポの男に入った。

 独歩の踵が腹筋を打ち抜いた。

 それを見て、残りの男の動きが止まった。

 ノッポの男は体を曲げ、血と胃液が混じった液体を口からこぼしていた。

 辺りに酸っぱい臭いがする。

 

「わわわ……」

 

 残された太り気味の男はわなわな震えていた。

 彼には愚地独歩が片目の鬼に見えていた。

 

「はひぃぃ……」

 

 膝がすくみ、履物が濡れていく。

 失禁したのだ。

 

「待て賊共!」

「おっと、誰か来たようだな」

 

 独歩は追手が来たのを確認し、三人組を預けようとしたが、止めた。

 来たには来たのだが異形だった。

 全員が馬に乗り、武器を持っている。

 ――まるで大昔に来ちまったみてえだ。

 独歩はそう思った。

 カメラの気配は感じられない。

 日常的に馬や武器を大勢で持つのもありえない。

 妙な空気を感じた独歩は一旦隠れ、様子を伺うことにした。

 

「よし! この者共を捕えよ!」

 

 指揮をとっているのはオールバックの髪型の女性だ。

 傍らには水色の髪をして片目を隠した女性もいる。

 この二人に指示され、兵は三人組を捕えた。

 

「しかし姉者……ヒドイ有様だな。特にこの男は、歯だけではなく、鼻の骨も折られたのではないか?」

「気にすることではないだろう。早く華琳様に引き渡して褒美を……」

「目的は太平要術だが、確かにそうするべきだ。送れ」

 

 はっ、と答え、何人かの兵士が動いた。

 仕事でなのか、賊は捕えられた。

 ――取り敢えずは役人みてえだな。

 そう判断し、独歩は出ることにした。

 

「嬢ちゃん達は役人かい?」

「む? 何だ貴様は!」

「姉者、落ち着いてくれ。たしかに私達はそうだ。陳留の刺史、曹操様の配下だ。貴方は?」

 

 ――曹操だぁ? 確か、三国志の……

 と、独歩は思ったのだが、同姓同名なだけだと結論付けた。

 役人なら近くの町を知ってる筈、と思い自己紹介をして聞いた。

 

「俺は神心会の元館長、愚地独歩だ。で、近くに町はあるか? 家に帰りてえんだが、迷っちまってな」

「華琳様のいらっしゃる陳留が一番近いぞ」

「姉者……真名で呼んでは誰か分からん」

 

 ――真名だぁ? 初めて聞くもんだな。

 独歩は疑問を持ったが、町に行きつくことが先決と思い、二人に着いていくことにした。

 

「で、愚地殿でよいか? 随分と珍しい姓だからここで切っていいのか分からんが……」

「ああ。確かにあまり聞かねえ名字だろうな。それで合ってるぜ」

「そうか、了解した。ちなみに私は夏侯淵だ。それでこっちは姉の夏候惇だ」

「愚地。まずは本隊と合流するから私たちについて来てくれ」

 

   弐

 

「すごい怪我ね……」

 

 本隊の中にいる金髪の少女は、縛られた賊を見てそう呟いた。

 やったのは誰だろうか? どんな武器を扱う豪傑だろうか? そしてどれ程の美女だろうか?

 そのような期待をしていた。

 

「華琳様、ただいま戻りました」

「賊は既に……」

「ええ、秋蘭。既に届いたわ」

 

 夏候姉妹は独歩を外に置き、まずは曹操に報告をした。

 独歩は外で考えていた。

 ここはどこなのか? 気づいたら知らない場所に来てるなど、SFもいいとこだ。

 克巳と烈はどこなのか? 合流しようにもヒントがない。

 最も、合流などしなくても彼等は生き抜くだろうが……。

 考えにふけっていると、唐突に怒声が響いた。

 

「早くしなさい! まだ遠くには行ってない筈よ!」

「も、申し訳ありません! 今すぐ行ってきます!」

「姉者!」

 

 怒声の後、夏侯惇は直ぐに飛び出してきた。

 夏侯惇は、独歩には目をくれずに馬に乗り、駆け出した。

 夏侯淵も夏侯惇の後ろから出て来たが、独歩に事情を話す余裕を持っていた。

 

「愚地殿。すまないが一つ聞きたい。姉者は先に行ってしまったが、愚地殿なら見ただろう。賊をあのような状態にしたのはどのような……」

「あれは俺がやったぜ。で、中で何があったんだい?」

「――ッッ そうか……」

 

 別に大したことではない、とだけ言って夏侯淵は中に戻った。

 しかし、またすぐに出て来た。

 

「何人かは姉者を呼び戻してくれ。そして愚地殿、我が主である曹孟徳様がお呼びだ」

 

   参

 

 独歩は曹操のもとに呼び出された。

 このような形でなければ、面会など有り得なかっただろう。

 何故なら曹操の居場所の周りはしっかり固めているのだ。

 おそらく、ここを力技で通ろうとするのは『地上最強の生物』ぐらいだろう。

 

「華琳様。愚地独歩殿をお連れしました」

「ありがとう、秋蘭。あとは春蘭が帰ってきたら、ここに通して」

「御意」

 

 スッと頭を下げ、夏侯淵は出た。

 ここに居るのは護衛の兵と曹操、独歩だけだ。

 

「愚地独歩……でよかったかしら?」

「ああ。スマンが一つ聞きてえことがある」

「ええ。いいわよ」

「ここはどこなんか、だ」

 

 曹操は独歩に、鎌よりも鋭い視線をぶつけている。

 独歩はそれを意に介したような態度はない。

 左目で真っ直ぐに受け止めていた。

 

「陳留……とは聞いた筈ね。なら、ここは漢だ、と言えばいいかしら?」

 

 ――漢ってことは、昔の中国か。

 独歩は、面倒なことになったと思った。

 雰囲気からしても悪ふざけやドッキリ、撮影ではないと分かる。

 しかし、同時に面白いと思っていた。

 何故、曹操が女なのかなど、どうでもいい。

 昔に、本で読んだ英雄達と喧嘩ができる。

 思っていた。

 武将が出る本や小説を読むたびに、一度でいいからこいつ等と喧嘩してェ、と。

 

「私からもいいかしら?」

「いいぜ」

「あの賊をやったのはアナタかしら?」

 

 曹操の目に一層と鋭い光が混じる。

 興味に研がされた鋭さだ。

 

「ああ。その通りだぜ、嬢ちゃん」

「ふぅん……」

 

 曹操は薄く笑った。

 

「華琳様! 急にお呼び戻しなるとは、いかがなさいましたか!?」

「来たわね、春蘭。春蘭にしか頼めないことがあるの」

「はっ! 喜んで!」

「素直ね」

 

 曹操は独歩を一瞥し、夏候惇に向かっていった。

 

「愚地独歩と戦ってちょうだい」

「はっ!」

「面白れェ……」

 

 その一言を聞き、独歩は大蛇のような笑みを浮かべた。

 

   肆

 

 ――勝てる

 武器の大剣を片手に、夏候惇はそう思った。

 今まで、曹操の敵をこの剣で切り伏せてきた。

 これを片手で振り回すにはかなりの膂力が要る。

 このような物を片手で振り回す人間は強そうに見えるだろう。

 夏候惇は事実、強い。

 子供の頃から、剣一筋に打ち込んできた。

 頭が足りずとも、この力で何とかしてきた。

 成長し背も、体重も、力も増した。

 そして、妹の夏侯淵以上の力を付け、曹操配下に実力で並ぶものはいない。

 

「呼ォォォォォ……」

 

 向かいの片目は気合を入れ、準備も万端だ。

 夏候惇は剣を握った。

 剣を握る両の掌、それにはおそらく、リンゴを無造作にクラッシュさせるだけの握力がある。

 

「はぁぁぁぁぁ……」

 

 曹操の前でやる試合で、敗けたことはない。

 無論、喧嘩も。

 否――苦戦の経験すらない。

 自分より強い男など見たことない。

 

「始めっ!」

 

 夏侯淵の声が通る。

 試合開始になった。

 

「素手で春蘭に挑む。その度胸は評価できるわね」

 

 夏候惇相手に、独歩は素手を望んだ。

 しかし、それでありながら夏候惇には全力で挑ませた。

 武器を使え、と。

 

「華琳様……何故、姉者と愚地殿に試合を……」

「簡単な話しよ。私はただ、あの男の武を知りたいのよ。これからの乱世に対応するため、一人でも優秀な人間は欲しいわ」

「そうでしたか。ですが、姉者には……」

「勝てるかどうかは怪しいわね。まあ、善戦してるようなら雇うわ」

 

 ちょっと試合から目を離し、談笑。

 二人が目を離していたのは、ほんの少し。

 あくまで数秒だった。

 その間に、何かが地面に倒れる音がした。

 

「あら? もう終わったのかしら?」

 

 意外に早く、あっけない結末だった。

 

「「ッッ――――」」

 

 夏候惇が倒れ伏す結末は。

 

   伍

 

 夏候惇は完敗した。

 始まると、独歩は接近し、蹴りをしてきた。

 夏候惇は県の腹で受けようとした。

 しかし、受けられなかった。

 腹部に、もろに入る前蹴り。

 内臓が潰れそうな強烈な一撃だった。

 だが、夏候惇はそれには倒れず、果敢にも剣を振った。

 左胸を袈裟切りにするコースだ。

 だが、それは振り切られなかった。

 次の攻めは、独歩の方が早かった。

 拳。

 拳。

 肘。

 足。

 指。

 拳。

 連打だった。

 その尽くが急所の要所を狙ってきた。

 人中。

 舌根。

 稲妻。

 伏兎。

 章門。

 天倒。

 夏候惇はその全てをその体で、もろに受けた。

 ――嘗めていた。自分は武器があり、相手は素手だとっ

 ――嘗めていた。相手は中年だとっ!

 ――嘗めていた。自分の方が強いとっ!!

 確かに、武器があれば有利である。だが、油断によりその有利は消える。

 ――もう嘗めない。

 そう思った頃には夏候惇の目の前は真っ暗だった。

 

「姉者ぁっ!」

 

 夏侯淵は血相を変え、夏候惇の所へ走り寄った。

 曹操は独歩を睨みながら、歩み寄った。

 

「まさか……。愚地、アナタは武器を隠して……!」

「使ってねえぜ。いいか、嬢ちゃん。俺は空手家だぜぇ」

「……他にも何か言いたそうね」

「おうよ。美意識だ」

「美意識?」

 

 独歩は自分より背の低い曹操を覗きこんで口を開いた。

 

「常日頃ケンカの練習ばかりしている空手家は、肉体自体がすでに武器。だから武器(もの)を携帯しちゃあいけねェ。例外といったら、偶々手にしていた物だけだ。たとえ一握りの砂、一本のエンピツであろうとも、武器として戦う以前に手にしたなら、武道家の誇りは崩れ去る。そして、気の遠くなるほどの永い時間をかけ、執念をもって鍛錬の日々を経て、拳は『鈍器』から遂には『刃』と化す。唐と呼ぶ唐手から空の空手へ。手に何も持たぬことを旨とする道―――だから空手だ。武器なんざァ……最初(ハナ)っから持っちゃいねェぜ」

 

 最後に、武器なんざァ使わねェ、とだけ言い残して独歩は足を外に向けた。

 曹操は独歩ををひきとめた。

 ――逃せない! こんな人、逃がすわけにはいかない!

 曹操の期待以上だった。

 愚地独歩は強く、自分の道に誇りを持つ人だ。

 

「愚地独歩……アナタ、私の所に来てくれないかしら……?」

「はァ?」

「この、曹孟徳の覇道のため、力をかしてくれないかしら?」

 

 アナタ以上に強い男なんていないでしょうし……と曹操は続けた。

 

「おだてるねェ。あいにくだが、俺より強いヤツなんて普通にいるぜ」

「まさか……」

「いや、いるぜ。俺の養子(ガキ)の克巳。地上最強の生物、範馬勇次郎。その息子(ガキ)の範馬刃牙も強くなってきてんな。それに烈海王も中々のモンだ。そして……渋川剛気だ」

「……本気かしら?」

「おうよ」

 

 愚地独歩の顔は真剣だ。

 曹操は背に嫌な寒気を感じた。

 この男以上に強い男がいる、という言葉に恐ろしさを感じた。

 ――今のままでは、優秀な武官も文官も足りな過ぎる!

 

   陸

 

「ハァッハァッハァッ……」

 

 一瞬で空と地面が混じった。

 そして、自分は寝ていた。

 ――なんなの?

 孫策は混乱していた。

 この小さい老人の闘い方が分からない。

 自分が最初に殴りかかっても、自分が倒れてしまう。

 ――関節の構造と言うより人体の持つ反射に、つけこむような……。

 

「強いわね……おじいちゃん」

「カッカッカッ! もう、何十年と達人と呼ばれとるんじゃ。簡単には負けんぞ」

 

 ――達人かぁ……

 初めて会った。

 本物の達人に。

 闘える達人に。

 保護されていない達人に。

 

「さて、どうするかの?」

 

 気付けば、孫策は小さな老人に孫策は見下ろされていた。

 ――拳で殴りかかると、投げられる……

 孫策は冷静に考え、策を練った。

 ――攻められると投げられるなら……

 

「堪能したわ、達人技。でも……おじいちゃん。このまま、私が攻めなかったらどうかしら?」

 

 孫策は立ち上がり、脱力。

 腕をおろし、拳に力はない。平手だ。

 

「攻めないわ」

「そうですかそうですか。理想的な世界です。誰も攻めぬ以上、争いは生まれようもなく……」

 

 腰に手をやり、渋川は歩く。

 あおあいて、孫策の後ろに回り、歩みを止める。

 

「というワケじゃ。今は休むことじゃな、お嬢ちゃん。既にドロドロじゃろう」

「ふふ……正解よ。あ~! 立っているのツライ!」

 

 そう言って、孫策は地面に仰向けに倒れた。

 だが、不思議と話す元気は有り余っている。

 

「ねえ、おじいちゃん。さっきの続きだけど、ウチに来てくれないかしら? 帰り道見つけるまで、でイイから!」

 

 負けっぱなしは悔しいし! と孫策は続ける。

 それを聞いて渋川剛気はカッカッカッと笑った。

 

「ジジイに敗けたのが悔しいかのう?」

「ええ。敗けっぱなしは、ど~にも性に合わないのよね」

「ふむ……じゃ、ちょっくらお邪魔しましょうか」

 

 ――ワシみたいなことを言う娘じゃな。

 渋川はそう思い、単純に面白そうだ、という理由で決めた。

 

「え、本当!? 冥琳! 祭! おじいちゃん来るって!」

「雪蓮!?」

「はぁ……随分と気に入ったみたいじゃな」

 

 周瑜、黄蓋はヤレヤレといった風に歩み寄った。

 孫策は頭が揺れていたのが、嘘のように元気だ。

 

「さて、冥琳! 帰ったらおじいちゃんを歓迎するために……」

「酒はなしだからな。帰ったら仕事をしろ」

「これはこれは……随分と賑やかになりそうですな」

「渋川殿も、いずれは慣れるじゃろう」

 

 ……彼女たちはまだ気付いていない。

 孫策が当初立てていた計画が完全に破綻していることに……

 

   漆

 

「おい! 何だテメー!」

「ここは黄巾の……」

 

 黄巾賊の溜り場。

 普段なら誰も近寄らない場所だが、この日は違った。

 

「エフッエフッエフッ……アハッ……ハハハハハハ! 俺にケンカを売ってきたか!」

 

 ライオンのタテガミのような怒髪をした、黒い拳法着の男が来たのだ。

 極めて悪魔的な風貌だ。

 身体はかなりの筋肉質だった。

 頭に黄色い布をつけた男たちは、その拳法着の男に槍を向けた。

 

「最近じゃあ、俺にケンカ売ってくるヤツが減っちまってんだ! せっかくだ……ちぃっと楽しんでいったらいい」

 

 後日、このような噂が流れた。

 ――あそこには、鬼がいた――




では、再び刃牙シリーズをよく知らない方への解説を
今回からは出て来たキャラの解説になります。

1 愚地独歩  おろちどっぽ
身長 178cm 体重 110kg ファイトスタイル 空手

正直、自分が一番好きなキャラです。もう、初登場の時に惚れました。
ファイトスタイルの空手は文字通り、肉体を武器化し、素手で闘う。※使う技は現代のスポーツ空手であるような技だけではなく、古武道の技も使う。
実力も、刃牙世界最強の範馬勇次郎が、「武神の名に恥じぬ男」とまで認めるほど。
刃牙世界最大の空手道団体“神心会”(門弟100万人)を一代で作り上げた。※ちなみに、神心会は有事の際に、下手な軍隊以上の団結、組織力を発揮した。
……よく考えたら、独歩のカリスマ性って曹操に勝てるんじゃね?
個人的なベストバウトは、地下闘技場編の愚地独歩VS範馬勇次郎


2 渋川剛気  しぶかわごうき
身長 155cm  体重 47kg  ファイトスタイル 渋川流柔術

刃牙世界で達人と言ったら、この人でしょうッッ
「近代武術の最高峰」「歩く姿が武」とまで称えられる。
ファイトスタイルは基本的には守り、相手の力の流れを利用して、相手の力に自分の力を加えそのまま返すカウンター技である合気や、己の何倍もの巨体の相手すら軽々と宙に浮かせ地面に叩き付ける投げ技で華麗に戦う。
闘い方としては、関羽、夏候惇、孫策といった猛将達にとっては相性最悪だと思う……。もう、弓とかでチクチクやるしかないのでは?
なお、警視庁柔術師範としても働いている。
個人的にベストバウトは、最大トーナメント編での渋川剛気対愚地独歩 柔の達人対剛の達人とか、wktk
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。