真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~   作:クーロン

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今回は花山さん&烈さんの話です


徐州にて

 花山薫編 花山組

 

 城下町の一角。

 豪邸、というほどではないが、それなりに大きい家であった。

 外観については特になにかあるでもない。

 一つ特筆するのであれば、門のところに大きく『花山興業』と書かれた看板があるぐらいだ。

 内装は地味、というより武骨だ。

 玄関から入り、一番最初にある部屋にある家具は大きな色気のない机に、革の椅子。

 一応、来客用としての小さなテーブルと椅子もある。

 この時代に、皮の椅子を作るとなると、どれ程の費用が必要か分からないが、何故かタダでそこに置かれていた。

 そして、壁には何故か堂々と刀剣が飾られ、更に筆で書かれた侠客という字が額縁にいれられていた。

 それ以外にも、花山組と書かれた提灯や神棚といったものもある。

 

「いかがでしょうか、組長。徐州一の組として、恥ねぇものに仕立て上げやした」

「…………こいつでいい」

「ありがとうございやすッッッ!」

 

 花山薫がそう言うと、男はいい顔をして大声で礼を言って帰った。

 

「向こうと大して変わらねえな……」

 

 花山薫はそうつぶやき、持っていた煙草に火をつけた。

 

   壱

 

 桃香の勢力は反董卓連合の功により、平原から徐州へと移った。

 そして、そこで新たに内政を行っていた。

 民を苦しめず、自分たちが成し遂げたい事を……。

 だが、それゆえの問題が起こっていた。

 

「移民……かぁ……」

 

 桃香はつぶやくように言った。

 

「ええ。ここが住みよいところだ、ということが世に広まっているのでしょう」

 

 愛紗が言った。

 内容だけであれば良いことだ。

 だが、愛紗は複雑な表情だった。

 

「しかし、それゆえ問題が……。居住区や雇用、徴税の他にも……」

「ヤクザ絡みのケンカが多いんでしょ? 原因も分かりきっているし」

「詠ちゃん……言い方……」

 

 詠と月が言った。

 どうしてヤクザ者が多く集まるのか、という原因はここにいる全員が分かっていた。

 

「身体のどこかに刺青をいれる、というのが連中の流行だとか。そうして、他国から大勢来るというのが……」

「一応、背中はダメとか決まっているみたいです」

「なんでアイツが、この国で一番の問題になってるのよ……」

 

 詠はそう言い、溜息を吐いた。

 

「う~ん……じゃあ、今度刃牙くんに何か言ってもらおっか」

 

 桃香は苦笑いしてそう言った。

 

「あ、それでしたら……」

「どうしたの、月ちゃん」

 

 月は小さな声で言った。

 

   弐

 

「まったく……何かと思えば、月が花山の所に行くなんて……」

「ごめんね詠ちゃん。花山さんに、これを届けようと思っていたから」

 

 そういう月の両腕には、白い服が収まっていた。

 

「どうしたのよ、その服」

「洛陽で花山さんが戦ったとき、それまで着ていた服が、ダメになっちゃったんだって。だから、その服と同じようなものをつくってみたの」

「大きさは大丈夫なの?」

「うん。一度、測ったから」

「じゃあ、あとはアイツの居場所か……。ボクは知らないんだけど……月は知ってるの?」

 

 詠がそう言うと、月は首を横に振った。

 

「ううん。でも、多分大丈夫」

 

 月はそう言い、たまたま近くにあった店の店主に話しかけた。

 人のよさそうな店主だ。

 月が花山薫の特徴を言うと、すぐに誰の事か分かったのか、ああと言った。

 だが、同時に眉間にシワを寄せた。

 

「その人なら知ってはいるが……お嬢ちゃん」

「どうかしましたか?」

「ありゃあ、筋者(ヤクザ)だぜ? アイツが来てから、妙に変なヤツが増えたんだ。近寄るのはやめときな」

 

 店主がそう言うと、月はムッとした。

 その顔のまま言った。

 

「花山さんは、優しい人です」

「とは言ってもなぁ……ソイツの周りがな」

「周りが何かありましたか?」

「刺青を入れたヤツとか、妙に傷をもったヤツとか集まっているしな……。まぁ、気ぃつけた方がいいぜ」

 

 店主は向こうだ、とだけ言って、他の客のところに足を向けた。

 月は頭を下げ、礼を言った。

 そして、詠の顔を見て言った。

 

「じゃあ、詠ちゃん。行こうか」

「本気なの!?」

「詠ちゃんも知ってるでしょ? 花山さんは優しい人だって」

 

 だから大丈夫。

 月はそう言って、店主が指差した方に向かって歩き出した。

 詠は小さく溜息をついてから、微笑みを浮かべて月のあとを追った。

 

「そりゃあボクだってアイツが、変なヤツってことは知っているけどさ」

「あんなに強いヤクザなのに、優しい人だから……ね」

「でも、周りが良い人とは限らないじゃないの」

「見た目だけじゃ分からないよ。花山さんとかそうだよ」

「初対面じゃあ、見た目だけしか判断材料がないわよ」

 

 二人でそんなことを話しながら、指差された方へと歩いていった。

 しばらく歩いていると、それらしき家が見えてきた。

 門に大きく、花山興業と書かれた看板が掲げられている家だ。

 五十人近くの男達がその家の前で列を作り、頭を下げていた。

 

「え……? 何があるっていうのよ!」

「詠ちゃん! しーっ!」

「だあってろテメェ等! 組長が出入りに向かわれるんだ!」

「出入りぃ!?」

 

 二人の近くにいた男が怒鳴りつけると、詠は驚いたような声をあげた。

 意味が分からなかった。

 ただ、普通に意味が分からなかった。

 戸惑っていると、家の門が開いた。

 そうして出て来たのは、花山組組長――花山薫であった。

 

『組長ォ! よろしくお願いしやす!』

 

 男たちの声が揃った。

 花山薫は気負うでもなく、悠々と男たちの列の中を進んでいった。

 白い服で身を包み、胸の部分に金バッチをつけている。

 そして、ちょうど月と詠の前で、二人が居ることに気が付いた。

 

「……用事か」

 

 抑揚のない言い方だった。

 

「えっと……これを届けに。あと……」

「……悪いが、それはあとだ。三十分したら帰る……」

 

 花山薫は月の話を切って、近くにいた男に目をやった。

 

「客だ……中に入れてやれ」

「分かりました」

 

 花山薫はそう言い、二人に背を向けた。

 

   参

 

 花山薫が去ると、二人はすぐに家の中へと案内された。

 中に入り、まずは内装に圧倒された。

 迫力のある部屋だった。

 城の内装とまるで違う。武人の部屋ともまるで違う部屋だった。

 例えるのであれば、それこそ侠客の部屋だ。

 花山薫に命令された男は、二人を家の中に入れ、二人を来客用の椅子に座らせて茶をいれた。

 だが、やったのはそこまでだ。

 あとは何もせず、何も言わずに立っていた。

 耐えがたい沈黙だった。

 

「なによこの部屋……」

「あはは……」

 

 小さな声で詠が言った。

 月は小さな声で笑うしかなかった。

 そうして、再び沈黙が訪れた。

 月はその沈黙に耐えられなかったのだろう。

 一度だけ咳払いをして、男の方を向いた。

 

「あの……出入りってなんですか?」

「これは部外者に言えることじゃ、ありません」

「じゃあ……花山さんは、何しに行ったんですか?」

「それも言えません。組の面子に関わる話です」

 

 冷たい態度だった。

 男は短く話を切って、自分から話そうとはしなかった。

 そのまま時間が過ぎていった。

 花山が行った、三十分後。

 門の開く音と、扉が開く音がした。

 男はその音が聞こえると、すぐに頭を下げた。

 

「お帰りなさいませ、組長」

 

 男はそう言い、部屋から出て行った。

 

「……何の用だ」

「えっと……まず、この服です」

 

 月はそう言い、持っていた服を花山薫に手渡した。

 花山薫は不思議そうな顔をして受け取った。

 

「何の服だ」

「最初、出会った時に花山さんが来ていた服を、真似て作った服です」

「そうか……」

 

 花山はそうつぶやき、服を広げた。

 月が言った通り、確かにスーツを真似て作られた服だった。

 ボタンはないが、代わりに紐で結ぶつくりだ。

 大きさも、ちょうどよさそうであった。

 

「コラ花山ぁ! せっかく月が作ったんだから、他に言うことあるでしょ!」

「詠ちゃん……別に、そんな……」

「礼を言う……ありがとよ」

「え……?」

 

 花山薫は短くそう言い、服をたたんだ。

 そして、口を開いた。

 

「で、用事はこれだけじゃねえんだろ?」

「そうね。色々あるわよ。まず……」

 

 詠は一息吸って、机を叩いて言った。

 

「なんでアンタが、ヤクザの親分なんてやってるのよ! 城に住むのかって聞いた時も、こっちにすると言って、結果これじゃない! それに、アンタのところに集まり過ぎよ! なんで他国からも来てるのよ! 街の治安が乱れると、ボク達の仕事が増えるのよ!」

 

 詠は大声でまくしたてた。

 花山薫は何も言わず、聞いていた。

 詠はあらかた言い切ったとき、ぜえぜえと息切れしていた。

 

最初(ハナ)っから、堅気で生きる気はねェ……。それに、ヤクザがお上の世話になるわけには、いかねえだろうが」

「アンタの周りはなんなのよっ!」

「舎弟になりてェと言って、勝手に集まってきただけだ」

 

 花山薫は片眉動かさず、淡々と詠の質問に答えた。

 詠は最初は大声で話していたが、だんだんと声が小さくなっていった。

 

「はぁ……もう少し自分から話しなさいよ。疲れちゃったじゃない」

「……もういいだろ。帰んな。ここは、お上の世話になってる人間が……いる場所じゃねえ」

 

 花山薫はそう言って席を立った。

 

「……すいません」

 

 花山薫が二人に背を向けたときだった。

 月が小さな声で言った。

 花山薫が振り返った。

 

「出入りってなんですか……?」

 

 花山薫の指が、一瞬だけピクリと動いた。

 月はそれを見ていたが花山薫から目を、そらさなかった。

 そして、観念するかのように花山薫は再び席についた。

 

「……どこから知りてぇんだ」

「最初からでもいいですか?」

「ああ……。ここにある組ってぇのは、一つじゃねえ」

 

 花山薫は静かに話し始めた。

 

「その中で今、ウチの組が一番成長している……」

「はい」

「それで他の組と摩擦が出来てんだ。そして、末端のモン同士で小競り合いも起きている」

「抗争寸前よね、それ」

「……その通りだ。だが、実際にはねえ」

「本当ですか?」

「まあ、本当にやりでもしたら、愛紗や星が割って入るでしょうね。事態を収めるために」

「詠の言う通りだ……」

「やっぱり花山さんも、国相手にケンカは出来ませんよね」

「構わねえ……」

 

 花山薫がそう言うと、二人の顔色が変わった。

 驚きに満ちた表情だった。

 だが、花山薫は気にもかけずに話し続けた。

 

「喧嘩してぇなら、いつだってやりゃあいい。こちとら喧嘩師。いつだってたぎってる。好きな時にやったらいい」

 

 そう、堂々と言い切った。

 二人は完全に面食らっていた。

 

「えっと……抗争する気満々って……こと?」

「でけえ騒ぎにする気はねえ。だが、なっちまったらその時だ」

「ホントに止めなさい!」

 

 詠は机を叩いて叫んだ。

 だが、花山薫には意に介したふうはなかった。

 平然としていた。

 

「アンタの一言で、ホントに抗争始まってもオカシクないのよ!」

「詠ちゃん……はら、花山さんは大きくする気はないって言ってるから……」

 

 月は詠の服の袖を引き、止めた。

 

「……話がそれたな」

 

 花山薫は頭を掻いて、そう言った。

 

「で、それのケジメをつけに行ったってだけだ」

「ケジメをつけるって……何をしたのよ」

「組の喧嘩自慢同士の一対一(タイマン)……言っちまえば決闘だ」

「はぁ!?」

「え……?」

 

 二人はまた、面食らったような表情をした。

 もう、このいさかいが穏便に済むことはないと思ったのだ。

 

「抗争が始まるわね……街に被害がでたら、ボク達の仕事が増えるのに……」

「穏便に済んでるじゃねえか……」

「どこが!?」

「抗争しねえで解決したからな」

 

 詠は溜息を吐いた。

 もう今日で何回、溜息を吐いたのか彼女自身も分からなかった。

 

「月……これでいいか」

「え……あ、はい」

 

 月は一瞬だけ戸惑いながらも、答えた。

 

「……なら、帰んな」

 

 花山薫はそう言って席を立った。

 

「あの、もう一ついいですか……?」

「……なんだ」

 

 月の質問に、花山薫は背を向けたまま答えた。

 

「ケガ……していませんか?」

「当たり前だ」

 

 そう答え、花山薫は部屋から出て行った。

 

   肆

 

「あ~もう! アイツを街に出したのが間違いだったわ!」

「本当にヤクザやってたもんね……」

 

 花山邸から城への帰り道。

 二人は話しながら歩いていた。

 

「こんなことになるって分かっていたなら、アイツを城にいさせたのに!」

「そうしても、すぐに出て行きそうだけど……」

「まったく……。勝手に喧嘩しているし。結局、アイツも何も変わらないヤクザだったってことね……」

「……それは違うと思うよ」

 

 月は言った。

 

「花山さんが出来るやり方で、一番なんとかなる方法を……自分の仲間が傷つかない方法を、やったんだと思う」

「……なんでそう思うのよ」

 

 詠は訝しむような目で言った。

 

「詠ちゃんだって知ってるでしょ?」

「……何をよ」

「花山さんが優しい人だって」

 

 月はそう言った。

 

 

 烈海王編 筆は非力にあらず

 

 

「急にお休みになっても……」

「なにしてようか、朱里ちゃん」

 

 突然の話でした。

 徐州に来てから、内政でやることが多く休まずに政務に励んでいましたが、桃香様が急に『今日は休んでいいよ。二人の仕事は私達がやるから』と仰って、私達の書類全部を取り上げました。

 『最近、ずっとお仕事しているんだから、今日はゆっくり休んで』と仰っていたので、今日は休みになるんでしょうが……。

 

「お出かけしようにも……」

「おっかない人が最近、増えてきたって……」

 

 そう言い、私と朱里ちゃんは一緒に溜息を吐いた。

 なんでおっかない人が増えたんだろ……。

 新しく来た、花山さんが原因らしいけど……。

 

「それに、星さんが言ってたんだけど……」

「どうしたの?」

「人攫いに袋詰めにされて、街からどこかに売られちゃうって……」

「雛里ちゃん……それ、からかわれているよ」

「え……?」

 

 人攫いに関しては嘘だったみたい……。

 でも……。

 

「それでも、おっかない人が多いんだよね……?」

「うん……どうしよっか」

 

 私達は一緒に考えた。

 普通なら、二人で行けば大丈夫って思うんだろうけど、おっかない人が多いとなると、やっぱり怖い。

 二人だけじゃなく、愛紗さんや鈴々ちゃんみたいな人が……。

 

「あ!」

「ひゃぁっ! 急に大声ださないでよ……」

「ゴメン、朱里ちゃん。ちょっと思いついちゃったから……」

「思いついたって、何を?」

「二人でお出かけするのが危ないなら、誰か一緒に来てもらえばいいと思って」

「でも、愛紗さんに星さん。鈴々ちゃんもお仕事があるよ……あ」

 

 朱里ちゃんもそこまで言って思い出したみたい。

 

「烈さんを探しに行こう」

「うん。いこう」

 

   壱

 

 烈さんを探しに、私達はまず中庭に行った。

 ここで鍛錬をしているんじゃないか、と思ったんだけど……。

 確かに人はいたけど……。

 

「何やってるんだろ……」

 

 朱里ちゃんがつぶやいた。

 中庭にいたのは刃牙さんでした。

 何かを待っているのかな……?

 そう思った時、何かつぶやきました。

 

「親父……イクぜ…………」

「え……?」

 

 同時に、景色がユラリと動いた。

 意識しなかった。

 私は意識しないで、つぶやいていた。

 刃牙さんの父親って……!

 

「はわわわわ! ひ……雛里ちゃん……っ!」

「あわわわわ! し……朱里ちゃん……っ!」

 

 どうしよう……!

 今、範馬勇次郎が戦いなんてしたら……!

 私の頭の中を、虎牢関の戦いが過った。

 同時に起こりうる最悪の事態を想像してしまう……。

 このことを誰かに伝えようにも、声が出ない。足が動かない。

 あわわわわ……

 

「二人とも。何をしている」

 

 ポン、と頭に手が置かれた。

 

「烈……さん……?」

「は……範馬……!」

「範馬? ……刃牙さんなら、そこにいるが……」

「違います! 勇次郎が……」

 

 朱里ちゃんがそう言うと、烈さんはクスッと笑いました。

 落ち着き払った態度でした。

 

「現実にはいない。二人が言ってるのは、具現化されたものだ。よく見るといい」

 

 烈さんはそう言い、刃牙さんを見ました。

 刃牙さんは戦っていました。

 何もいない、宙に向かって戦っていました。

 

「独闘……およそ、全ての格闘技に取り入れられている一人稽古だ。ですが、刃牙さんのそれは、常識のレベルを超えている」

「一人……稽古……」

 

 朱里ちゃんは噛みしめるように言った。

 そして、一息だけはいた。

 

「そういうことだ。慌てることはない。で、二人はここで何をしていたのだ」

「えっと……お休みをいただいたので、街に出ようと思っていたんです」

「そうか。確かに、二人は働きづめだったらしいな……。今日はゆっくり休むといい」

 

 烈さんはそう言い、背中を向けて歩き出しました。

 まだ話は終わってないのに……。

 

「待ってください。だけど、最近になって街におっかない人が増えたって話で……」

「ふむ……」

 

 朱里ちゃんが声をかけると、烈さんは止まりました。

 よかった……。このまま行かれていたら、また探さないといけなくなっちゃうところだったよ……。

 

「だが、街には花山氏がいる。抑えてくれると思うが……」

「いえ。あの人の周りに集まっているみたいで……」

「それなら、なおさらだ。安心して行くといい」

 

 烈さんは、微笑みを浮かべて言いました。

 それでもやっぱり、怖いものは怖い……。

 そんなことを思ってる間に、烈さんはまた、勝手にどこかに行こうとしていた。

 

「烈さん……まだ……」

「どうした?」

「えっと……あの……」

 

 引き止めはしたけど、ここからどうしようか……。

 一緒に行く理由がなにか……。

 なにかないかな、と私が思っていると、朱里ちゃんが口を開いた。

 

「でも、買い物もするので、烈さんも来ていただけると……」

「わたしは、荷物持ちをすることになるのかな?」

「いえ! そういうワケでは……!」

「いや。二人では色々買うと、持ち帰るのが大変だろう。付き合うぞ」

 

 烈さんは、嫌そうな顔ひとつしないでそう言いました。

 なんとか予定通りになってよかった……。

 

   弐

 

「なんということはない。普通の街ではないか」

 

 烈さんは街の光景を見て、そう言いました。

 確かに街中は賑わっていて、普通の人達しか目に入らない。

 刺青をいれた人や、おっかない人も居ない。

 ……でも、人ごみに入ると分からない。

 景色も見えなくなっちゃう……。

 

「というワケだ、雛里。そろそろ、わたしの服から手を離してもいいと思うが……」

「あ……すみません……」

「謝る事ではない。では……買い物があるのだったな。何を買うのか、教えてくれ」

「えっと……まず、筆と墨に……あとは本ですね」

「そうか。場所は知っているのか?」

「はい」

「昼ごろになったらどうする? 人通りが増えるぞ」

「えっと……前、朱里ちゃんと一緒に行った良いお店があるので、そこでお昼にしましょう」

「分かった」

 

 烈さんは短く答えました。

 そして、朱里ちゃんと私は手をつなぎ、烈さんはその後ろを歩きながら、近くにある目的のお店に行った。

 筆と墨を置いてあるお店に。

 道はまだそこまで混んでいなかったから、そこにはすぐに着いた。

 

「えっと……これでいいかな……」

「雛里ちゃ~ん。墨は買ったよ~」

「うん。私も筆、いいのが見つかったよ」

「次は……本屋か。近くにあるのか?」

「普段行くところは、近くにありますが……」

「そこには行かないのか?」

「はい。最近になって新しい本屋さんが出来たらしいので、そこに行こうかと思っています」

「分かった。場所は知っているのか?」

「それが……噂で聞いたことがあるだけで……」

「なら、聞きながら行くしかないな」

 

 私がお店から出ると、外では朱里ちゃんと烈さんが話をしていました。

 新しいお店の場所は分からないから、三人で探すことになるんだろうなぁ。

 

「よし、行くか」

 

 烈さんはそう言い、歩き出しました。

 そして、すれ違う人に声をかけて本屋さんを探し続けた。

 

「結構、話題になっている場所のようだ。みな、場所を教えてくれるぞ。こっちだそうだ」

 

 烈さんがそう言い、指差しました。

 指差す方を道なりに行くと、それらしいお店がありました。

 

「ここだそうだ」

 

 烈さんはそう言い、お店の中に入っていきました。

 

「雛里ちゃん。私達も行こ」

「うん……」

 

 本屋さんの中には、たくさんのご本が積んであった。

 特に欲しいものは考えていなかったけど、目の前にすると、買いたくなるようなものも多い……。

 色々と目移りしながら見ていると、懐かしい気分がするものを見つけた。

 

「朱里ちゃん! 水鏡先生の書いたご本がある!」

「え!? あ、本当だ……」

 

 朱里ちゃんは懐かしそうに、そのご本を読み始めた。

 私はそれを横から読んだ。

 その中には、私達が水鏡塾で習ったことが書いてある。

 全部、覚えていることだけど、本当に懐かしいな……。

 

「朱里ちゃん。買お」

「……うん!」

 

 本を閉じ、手で抱えて店員さんの所へ持って行こうとした時だった。

 烈さんが既に、店員さんに本を渡していた。

 

「欲しい物が見つかったのか?」

「はい! 烈さんもですか?」

「ああ。で、欲しいのはそれか? その本の代金も払っておこう」

「大丈夫です。私達もお金を持っていますから」

「気にするな。もののついでだ」

 

 烈さんはそう言って、朱里ちゃんが持っていたご本のお金も払いました。

 

「そう言えば……烈さんは、どんなご本を買ったのですか?」

「わたしは武術の本だ」

 

 烈さんは二冊の本を受け取りながら答え、その本を私に手渡しました。

 中身を見ると、たしかに武術のことが書いてあります。

 

「北派と南派の本と、ちょうど二冊あったからな」

「う~ん……なんて書いてあるのかは分かりますけど……朱里ちゃん、ここがどういうことか分かる?」

「私達には使えないよ。烈さんだから分かるんだよ」

「確かに使いこなすのは難しいだろう。だが、知っておくと役立つ知識も多いだろう。興味があるようなら、読んでみるといい」

 

 烈さんはそう言い、私達の本も持って本屋さんの外に出ました。

 

   参

 

 いつの間にか正午になり、街には人通りが多くなっていました。

 だから、私達は近くの喫茶店に寄りました。

 外にも机が出ているお店で、おいしいお茶とお菓子を出してくれました。

 机には四人分の椅子があって、そのうち一つに荷物を置いて座った。

 

「烈さん、さっきのご本をもう一度見てもいいですか?」

「ああ。まずは、こっちの本がいいだろう」

 

 烈さんがそう言って朱里ちゃんに渡したのは、北派のご本でした。

 朱里ちゃんは真剣な目でそれを読んだ。

 私も横からそれを読んだ。

 そこには、人の絵が書いてあり、そこに矢印が入って身体をさしていました。

 人中、水月、喉仏、舌根……。どんな意味だろう。

 私がそう思っていると、朱里ちゃんもやっぱり意味が分からなかったのか、顔を上げて烈さんに聞いた。

 

「こっちの方が分かりやすいのですか?」

「いや。わたしの技術――白林寺は北派のものだからな。こっちの方が説明しやすいだけだ」

「すいません……その北派と南派って、何が違うのですか?」

 

 私がそう聞くと、烈さんは

 フム……

 とだけ唸って、答えました。

 

「違いは色々ある。簡単に大きく言ってしまえば、手技か足技かということだ。北派は足技。南派は手技だ」

「あの……私達が足技を覚えても、人を蹴れるとは……」

「朱里。それは違う。足技といっても蹴るだけではない。技の使い方を決め、急所を狙って踏むのでも十分だ」

「急所と言いましても……」

「難しい話ではない。例えば、後ろから拘束された時に相手の足の甲を、踵で踏むだけでも十分効果はある」

「私達にも使えるのでしょうか……?」

「ああ。使える。使える技術でなければならない」

 

 烈さんはそう言うと、お茶を一口だけ飲みました。

 そして、私達の目を見て言いました。

 

「女、子ども、老人……弱者に使えぬ武術に意味はない」

「誰か、そう言っていたのですか?」

「私の師、郭海皇が仰っていたことだ」

「烈さんの先生って、どんな人ですか?」

「二人いる。一人目は劉海王。そして郭海皇だ」

 

 烈さんの先生かぁ……。どんな人なんだろう。

 やっぱり強いんだろうな……。

 そう思うのと同時に、私は烈さんの微妙な表情の変化に気付いた。

 

「烈さんって……元々いた世界に帰りたいって思いますか?」

「……そうだな。だが、まだいい。帰るのは、この世界の強者と闘ってからにしたいものだ」

 

 やっぱり、いつか帰っちゃうのかな……。

 そんな考えが一瞬だけ頭を過ったけど、すぐに捨てた。

 大丈夫。まだ、いるから。

 

「しかし……二人が急に武術に興味を持つとはな……。何かあったのか?」

 

 烈さんはいつの間にかお茶を飲み干し、私達にそう聞きました。

 

「えっと……今まで、学ぶ機会がなかったので……」

「機会というのならば、桃香達と合流してからなら、いくらでもあっただろう。最近になって急に、ということが気になる」

 

 烈さんはそう言い、私達の目を見ました。

 嘘は言わせない。

 そんな感じの目でした。

 私達は今まで何度か、二人で話し合っていたことを話しました。

 

「……軍略や内政だけじゃダメだと思ったんです」

「……虎牢関や黄巾賊の本隊と戦った時、私達は何のお役にも立てませんでした」

「そうか……。だが、二人が何の役に立てない、ということはないだろう」

「ですが……範馬勇次郎のような人が相手になると、軍略でも内政でも戦うことが出来ません」

 

 朱里ちゃんがそう言うと、烈さんは腕組みをして考え始めました。

 困った顔をして考えていました。

 

「烈さんなら、勇次郎に勝てますか……?」

「勝てない、とは言えない」

 

 烈さんはそう言いました。

 だけど、暗に勝てないと言ったということは分かった。

 

「あの人相手では策を使って、全軍で当たって、勝てるかどうかも分かりません」

「否定はしない」

「だから……今まで勉強してきたことで戦えないなら、技術を学んで戦おうと思って……」

 

 私がそう言うと、烈さんはつぶやくように言った。

 

「筆は力より弱し……か」

 

 そう言うのと同時に、誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 

「人斬りだぁッッッ」

「こっちに来るッッッ」

 

 人斬り!?

 その声が聞こえた途端、背筋に寒いものが走った。

 人ごみの中に、大太刀を振り回す男の人が見えた。

 そして、その男の人がこっちに向かってくるのも……。

 

「いい機会だ。雛里、筆を借りる。筆の強さ、というものを見せよう」

 

 気が付くと、烈さんはお買い物の中から、筆をとって道の真ん中に立っていました。

 烈さんに向かって、ベットリと赤い血が付いた大太刀を持った男の人が走ってくる。

 その男の人に、烈さんは筆ひとつで立ち向かいました。

 

「ーーーーッッッ!!」

 

 言葉になっていない雄たけびをあげて、男の人が烈さんに太刀を振り下ろしました。

 そこからは一瞬でした。

 烈さんは筆の毛先で相手の目をこすり、そしてから相手の足をとって、首に一撃を加えました。

 筆で、太刀を持っていた男の人を倒しました。

 ……筆の強さって、こういう意味じゃないと思います。

 

   肆

 

「はぁ~疲れた~」

「うん……あの後、お医者さん探して走りまわったり、男の人を警備の人に渡したり……」

 

 朱里ちゃんはそう言って、部屋の寝床に横になっていた。

 

「ねえ、雛里ちゃん」

「どうしたの?」

「その筆、いいの? もう使えないよ」

「うん。まだ、筆には予備があるから」

 

 烈さんが男の人を倒すのに使った筆。

 その筆は最後の一撃で、毛先が潰れて使い物にならなくなった。

 烈さんはもう一度買いに行くか、と言っていたけど、私は行かなかった。

 行かないでお城に帰ってきた。

 

「多分、烈さんは今頃さっき行ったお店で、筆を買っているんだろうなぁ……」

 

 朱里ちゃんが天井を見ながら言った。

 私もそう思う。

 だけど、新しい筆を買ってもらっても、この筆はとっておこうと思う。

 




途中の中国拳法の話ですが、あれはあくまでいくつかある説の一つです。
一応、刃牙原作での烈海王の技の一つの驚愕の足技も考慮して書いてありますが、中国拳法では実際はこうだ、という話がありましたら、御一報いただけるとありがたいです。
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