真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
徐州の街を二人の男が歩いていた。
赤髪の青年と禿げた頭で無精ヒゲを生やした男だ。
華佗と愚地独歩だ。
「呂布はここにいるのか?」
「ンなこと分からねえよ。ただ、可能性は高いってだけだ」
独歩はそう言い、道のド真ん中を歩いて行く。
そして、辺りをキョロキョロと見渡した。
「独歩。誰か知り合いでもいたか?」
「いや……向こうがよォ、ズイブンと騒がしいじゃねェか。こりゃあ喧嘩でもやってんじゃねえか?」
独歩はそう言うと、人混みの中心――騒ぎの中心へと向かって行った。
「オイ、待て! お前の口利きで、城に行く予定じゃ……!」
「ンなこと後でイイんだ」
背中を向けたままの独歩の一言は、この騒ぎの中でも、しっかりと通った。
そして、スルスルと人混みの中に入っていく。
「俺も追わないとダメか……」
華佗はそうつぶやき、独歩を追って、歓声と悲鳴が混じっている人混みの中に入っていった。
人混みの中心部に向かうにつれ、どこかに傷や刺青を入れたガラの悪い男達が増えていく。
――何の人混みだ……?
華佗は一瞬、そう思った。
だが、おそらく独歩の言った通りだと思った。
原因は喧嘩なのだろう。
そして、中心に着いた。
そこには、既に愚地独歩の姿がある。
「独歩……お前に先に行かれたら……!」
「細けぇこと言ってンじゃねェや。……当たりを引いたぜ」
独歩はそう言い、中心を指差した。
地面には血だまりができている。他には木材やガラスの破片が散らばっている。
そして、その上で闘っている赤毛の少女と、フンドシ一丁の大男が華佗の目に入った。
壱
壊れてしまった。
今まで、どんな敵とも闘ってきて、どんな戦場も一緒に潜り抜けて来た武器が壊れてしまった。
恋の手に握られているのは、ただの棒であった。
ここに到り、今、恋は花山薫という人間と、真っ向から向かい合うことになったのだ。
恋にとっては、武器というのが己の精神の拠り所であった。
いや、何か武器を愛用して闘う人間は、全てそうなのかもしれない。
そういう人間が武器を放棄し、素手で何者かに相対する時、常日頃から素手を信条とする人間とでは当然、気負いが違う。負い目が違う。
いざ刃物を失くすと、自分の力では勝ち目を呼び込めないのだ。
恋の歯がかちかちと鳴る。
花山薫は右手から血を流しながら、無言で迫ってくる。
「まだやるか……」
花山薫が言った。
そして、拳が吹っ飛んでくる。
ぞく……と、恋の背中に真っ黒い影が走った。
「っ!」
もう、なりふり構っていられない。
恋は花山の拳を避ける――などという行動ではなく、花山薫の拳から避難した。
自分の脚力のみを頼りに、一気に花山薫の腰へと走り、抱きしめた。
頭は花山薫の右脇の下へ。両手は、ももを抑えるように組まれている。
そこから決して逃げない。必死で、全力で花山薫の腰に抱き着いた。
真っ向から、恋は逃げた。勝ち目が大きい持久戦に走ったのだ。
一般的に人間の血液の量は、その人の体重の約7~8%と言われている。
花山薫の体重は166キログラム。つまり、血液の総量は11600ミリリットルから13200ミリリットルであると推測される。
通常、失血で死に至る場合は、総血液量の三分の一を失った頃合いから『死』がそろりそろりと忍び寄る。そして、二分の一を失うのを待たずして死ぬ。
だが急激に抜かれた場合、三分の一の失血を待たずとも、死に至ることすらある。
それだけではない。
失血死の前に、衰弱がある。
貧血が起きれば、意識は朦朧とする。そして、力も入らなくなる。
恋はそれらに自分の勝利を賭けた。
そうなるまでの時間稼ぎに必死になっていた。
そして、腰の辺りというのは非常に攻撃しずらいのだ。
拳を打とうにも、威力わ出すための十分な距離がない。
更に、さらされるのは人体前面と比べて急所の少ない背中だ。その
一筋縄ではいかない。
膝で蹴ろうにも、抱き着き方次第では、ももを大きく動かせずに威力がでない。
それを、恋は狙っていたわけではなかった。
ただ、必死だった。
必死に勝つためのベストを選択していた。
しかし――この策にも欠点が存在する。
欠点とは言えない欠点だ。あくまで、常人が相手ならば。
だが、今の相手は花山薫だ。花山薫なのだ。
恋は見た。
見たのは影だった。花山薫の左手の影。
それが恋の首へと伸びていく。
――まさか!
恋は思った。分かった。花山薫の狙いがだ。
左手の握力で、恋の首を握り潰すつもりでいるのだ。
出来るのか? 出来るのだろう。なにせ、花山薫だ。
恋は両腕を腰から離し、一気に飛び退いた。
もう、安全地帯といえる所など、どこにもない。
花山薫は無言で恋に歩み寄ってくる。
右手から流れ続ける血が、太い線を作っている。
「はぁっ! はぁっ!」
恋は息切れしていた。
疲れてはいない。疲れてはいないが、息切れをしていた。
緊張感に押しつぶされていた。
自分の心の拠り所となる武器は壊され、相手は不死身の大男。
――こんなに弱いの……?
武器を失くし、丸裸となると自分は勝てないのか。
恋はそう思った。
――克巳にも、素手じゃ勝てな……か……っ…… ? !
一瞬、意識が途切れた。
花山薫が何かしたのだ。恋は、詳しいことは一切分からなかった。放たれたのは拳か、蹴りか。
恋は背中から地面に叩きつけられ、そこで再び目覚めた。
すぐに立ち上がり、下がる。
とにかく距離をとらねばならなかった。
下がったことで、心に少しだけ余裕ができ、視界が広くなった。
――あ……
わずかな広がりだった。
その中に、ぎりぎり、とある物が入った。
折れた戟の刃だ。
柄は自分が持っているが、折れた刃は花山薫が捨てていた。
それが今、花山薫の踵から、五百ミリリットルのペットボトル一本分の距離をとって、転がっている。
恋は覚悟を決めた。
勝つための覚悟だ。捨て身の覚悟だ。
少しでも身体を軽くするため、只の棒となった戟の柄を捨てた。
そして、走り出した。
ブン
と、鳴った。
花山薫の拳だ。
恋は身体を屈めながら走った。
胸が地面と擦れそうな程に屈んで走った。
――まだ、元気……なの……?
恋は驚いた。
巨拳が巻き起こした風が、恋の身体を叩く。
その風は、さっきよりも強くなっている気がした。
拳は当たっていない。
恋は屈んだ体勢のまま花山薫の横を走りきって、そして、すぐ近くに落ちていた戟の刃を右手で掴んだ。
掴みどころはよくない。刃の部分を握っていた。
右掌が裂け、パックリと割れた傷口からタラタラと血が流れ出している。
恋は一瞬だけ、左手に持ち替えてから、安全な部分を右手で握った。
花山薫が振り向く。同時に恋も振り向く。
花山薫の表情は変わらない。
武器を使う、という行為に思うことはないようだ。
「けぇぁっ!」
恋は叫んだ。
もう、ためらいはない。
武器を取り戻し、少しだけ余裕ができていた。
「おきゃあっ!」
恋は飛び上がり、花山薫の顔面に刃を振り下ろした。
頬が割れピンク色の肉が、その裂け目から見える。
そして、その裂け目が膨らんできた血で埋められていく。
巨拳が轟音をあげ、下から振り上がりながら、恋に襲い掛かる。
左の拳。
恋は手にしていた刃でそれを受けた。
なんという衝撃か。
恋はその一撃で上へ、そして家の壁へと吹き飛ばされていた。
もし、腕で受けていたら、一撃で恋の骨が折られているだろう。
その一撃を受けた刃も無事では済まない。その証拠に、刃にはヒビが出来ている。
そして、その一撃で恋は吹き飛ばされているのだ。
背中から壁にぶつかれば、それで大ダメージを受けてしまう。
もう、恋は覚悟を決めていた。
壁に激突する痛み、衝撃への覚悟だ。
激突――
内臓が押しつぶされ、肺から空気が押し出される。
そして、背中から
メリッ
と、音がした。
家の壁に使われている板が、悲鳴をあげているのだ。
その音が聞こえたのは一瞬だった。
次に聞こえたのは、板が割れていく音だ。
一発――
花山薫の一撃の衝撃で、壁が破壊されたのだ。
壁の向こうは無人だった。奥の内装を見る限り民家である。
壁の手前や周囲は、土埃が巻き上がってよく見えない。
花山薫は無言で土埃の中へと踏み出した。
ジャリジャリと、砂が混じっている地面を踏みしめる音がよく聞こえる。
花山薫が二歩だけ歩いた時。
土埃の中でギラリと何かが光った。
それが間髪いれずに、回転しながら投げつけれた。
戟の刃であった。
風を斬る音をあげ、それが真っ直ぐに花山薫の腹へと飛んでくる。
避けなかった。
ざぶり、という刃物が肉を切り裂く音と、刺さる音が混じった音がした。
土埃が地面におさまっていき、花山薫の方を向いて、何かを投げ切った体勢の恋が現れる。
「……まだやるか」
花山薫は腹に刺さった刃を引き抜き、それを投げ捨てた。
腹はおさえない。
ぱっくりと割れた傷口から、とめどなく血が流れる。
「……もう終わり。恋の勝ち。……お前は死ぬ」
恋はそれだけ言った。
そして、花山薫に背を向けて走り出した。
途中、戟の柄を拾い、そのまま一目散にその場から走り去った。
「花山さん!」
「花山! アンタ何やってんのよ!」
誰かの声が聞こえた。
しかし、花山は誰の声か分からなかった。
目の前はユラユラと揺れ、地面が傾いていく感覚がした。
失血による症状だ。
そして、そのまま意識が薄れていった。
弐
「花山さん!」
「花山! アンタ何やってんのよ!」
月と詠は叫んで、花山薫の所へと走り寄った。
「華佗。急患だぜ」
「分かってる!」
その二人の背から、二人の男の声がした。
後ろにいたのは、赤毛の男と禿げた男だ。
華佗と愚地独歩であった。
「誰……アンタたち」
「俺は医者だ。
華佗はそうとだけ言い、花山薫の傷口を見た。
そして、表情をゆがめた。
「ヒドイ有様だな……」
「……治せますか?」
「……腹はとにかく、右手は保証できない」
月の表情は沈んでいる。
華佗はそれを見て、安心させるような声色で言った。
「当然、全力は尽くす。死なせはしないさ」
「……お願いします」
「組長! 手首の方を……!」
「それだけじゃ不十分だ! 消毒用の酒も持ってきてくれ!」
月は小さな声で言い、華佗に頭を下げた。
そして、華佗は針や糸を懐から取り出した。
手早く酒を傷口にかけた後で、腹を止血し、そして花山組の男が持って来た花山薫の右手を骨、血管、神経、筋肉、皮膚の順に縫合していく。
独歩はその近くで何も言わず、とある物を見ていた。
花山の腹と右手を切った刃である。
独歩はそれを荷物の中に入っていた布で包み、二人の少女を見た。
「オメェ等は花山の知り合いか?」
「はい……。あの……花山さんの、お知り合いですか?」
「オウ。愚地独歩ってんだ」
「で、花山に何の用なのよ」
「今は花山に用は無ェ。だが、他のヤツには用があンだよ」
「他の人って、誰の事でしょうか?」
「オメェ等は知らねえかもしれねえが……範馬刃牙と烈海王ってヤツは知ってるか?」
「……何? あんたって……あの二人の知り合い?」
「知ってんのか? まあ、そういうトコだ。で、知ってんならよ、どこにいるのか教えてくれねェか」
「二人ともお城にいますよ」
「城かァ……ってことはよォ、向こうに行けばいいのか?」
独歩はそう言いながら指差した。
「はい。そうです」
「分かったぜ。華佗よォ! オイラは先に城に行ってんぜ! オメェの事もきっちり話を通しておく!」
「分かった!」
華佗は手術の手を止めない。止めないまま答えた。
「教えてくれてありがとよ。じゃあな」
独歩はそう言い、荷物の中に布でくるんだ刃を入れた。
詠はそれを見ると、何かが気にかかった。
「その布……何が入っているのよ」
「コイツか?」
「そうよ、それ」
「犯人の凶器だ。ま、見せられる物じゃねェ」
「花山のケガの方が酷いわよ」
「……それも道理だ。血塗れのままってェのは悪いがな」
独歩はそう言い、刃を包んでいた布をとった。
その刃を見て、月と詠は息を飲んだ。
「やっぱり刺激が強かったかァ?」
「……いえ……どうってことないわ」
「…………」
「……そうか。それじゃ、俺は城の方へ行ってくるぜ」
独歩はそう言い、刃を再び布に包んでから荷物に入れた。
そして、背中を向けて歩き出した。
華佗は懸命に花山薫の治療をしている。額にはジワリと汗がにじんでいる。
月と詠はそれに背を向け、小声で話した。
「……月。さっきのアレ……見覚えあるわよね」
「……うん」
「やっぱり……分かるわよ……ね」
「うん……」
間違いなかった。
二人は花山薫と闘っていた相手が、恋であるという事実を確信した。
参
徐州の城――
そこのとある部屋に、五人の人間が集まっていた。
それぞれが椅子に腰かけている。
神心会初代館長であり、武神とまで言われた男である愚地独歩。
白林寺の出で、二十世紀最後の海王を継承した烈海王。
地下闘技場最年少チャンプで範馬勇次郎の息子である範馬刃牙。
徐州刺史であり、中山靖王の血を引く桃香。
天才軍師として、伏竜とまで言われる朱里。
そうそうたる面子である。
「花山氏が何者かに襲われた……と」
「オウ。ま、実を言うと俺と克巳も襲われてんだ」
「で、愚地さん。その相手というのは……?」
「呂布」
「呂布さんって……確か刃牙君のお父さんと戦った……!」
「そう。親父と闘った人」
刃牙は独歩の顔を見たまま答えた。
「証拠もある。……これを見れば、分かるだろうよ。最悪、関羽や趙雲に鑑定でもさせりゃいい」
独歩はそう言い、布に包んだ刃を荷物から取り出して見せた。
烈海王がそれを受け取り、布をとる。
「……確かに、呂布の武器の刃と瓜二つです」
「で、それが今、ここにあるってェことは、呂布の武器はブッ壊れているってェことだ」
「そりゃあ、花山さんとやったんだ。掴まれたら簡単に壊れるだろうね」
刃牙はしみじみと言った。
彼自身も花山薫の握力というのは、身を持て体験している。
そのことを思い出すかのように言った。
「で、呂布はよォ……俺達を狙ってるんだ」
「烈さん、刃牙さん、愚地さんのこと……ですか?」
朱里が机に身を乗り出しながら言った。
「ああ。だが、下手に闘うとなっちゃあ、誰とでもやる」
「愛紗ちゃんや鈴々ちゃん、星ちゃんとも……ということですか?」
「そうでしょう」
烈海王はそう言い、手元の茶をすすった。
「で、何でそんなことをしているのか……ということは知っていますか?」
「理由としちゃ、オメェの親父だ。範馬勇次郎が理由……というか原因だ」
「親父が……?」
「オウ。だが、別に勇次郎がけしかけたワケじゃねェ。アイツが勇次郎とやりたがっている」
「その練習台にゼヒとも我々を……といったところでしょうか」
烈海王がそう言うと、独歩は無言でうなずいた。
それを受け、烈海王は機嫌悪そうな表情をした。
「あの……烈さん」
「大丈夫だ。朱里が気にすることではない」
烈海王はそう言い、もう一口、茶をすすった。
「ケンカ売られてる……ってことだよね」
「平たく言っちまえばな」
「……みんな、受けるんですか?」
桃香が言った。
「俺らが坊主でもやってりゃ逃げるだろうよ」
「ですが我々は武道家です。それも未熟な。このようにケンカを売られては、逃げることなど有り得ません」
「どっちが
愚地独歩と烈海王の決意は固い。
闘わない、という選択肢は二人には無かった。
「刃牙君は?」
「俺は、別に俺よりも呂布が強くたっていい。だけど……呂布が親父とヤり合うってんなら、狙われるだろうね」
「……だよね」
桃香が言った。
「では、私達は呂布さんがいる、ということを諸将に知らせて……」
「朱里。それは違う。呂布は我々が倒す」
烈海王は朱里を見て、そう言った。
「ケンカを売られているのはわたし達だ。ならば……わたし達が相手をするのが道理」
「ですが、そう簡単には、見つからないのではないでしょうか? 見つけないと、戦いにもなりません」
「……前にじっちゃんが提案した前田光世方式しかないか」
「え~っと……それって、どういうこと?」
「出会えば即闘う、という認識で間違いないかと」
「例え、飯時だろうが、寝込みだろうが、女抱いていようがな」
独歩がそう言うと、烈海王と刃牙に視線を向けた。
「誰が先だろうが……誰とやろうが、一切文句なし。……コイツが妥当だろ」
「では……これで」
「試合開始……といったところか」
刃牙がそう言うと、烈海王と独歩は笑みを浮かべた。
そして、三人は席を立った。
「え……? もう行くの?」
「いや、俺はシャドーをやる」
「俺はまず、
「私は外に出ていよう。夜には帰ってくる」
そう言い、三人はそれぞれ部屋を出ていった。
肆
夕方になり、烈海王は華佗、月、詠と一緒になって城に戻ってきた。
身体には傷や汚れといったものはなく、血を流したりも服に着いたりもしていない。
華佗の方には花山薫の手術をしたために付着した、と思われる血が着いていた。
それだけであった。
伍
大体、午後十時をまわった頃。
現代ではまだまだ、大勢の人が起きているが、この時代では全員が寝静まっていた。
だが、とある部屋で一人だけ、今の時間に動き出す人もいた。
小さな人影だ。線は細い。
その影は、寝間着から着替えて靴を履き、部屋から出て行った。
静かにゆっくりと部屋の戸を閉め、軽い足音をたてて廊下を走っていく。
「……バレバレよ月。顔に何を考えているのか、出てるんだもの」
詠はそうつぶやくと、月を追うように着替え、部屋から出て行った。
陸
月夜だ。月は半分ほど隠れ、星が見える。
その下を二人の少女が歩いていた。
二人とも素手である。
恋と音々音だ。
かわす言葉は少ない。
恋が無口という理由もあるのだろうが、それだけではない。
恋の周りにはピリピリとした空気が漂っていた。
理由はいくつもあるだろう。
武器のことや、武器を失くした自分の強さ、花山薫との闘い。
それ以外の理由もあるかもしれない。
「あ……」
音々音が小さな声でつぶやいた。
恋は何も言わない。
二人の目の前にいたのは、よく知った人であった。
かつて、自分たちの君主であった人間――
「月……殿……?」
「はい……。お久しぶりです恋さん、ねねちゃん」
月はそう言い、軽くお辞儀をした。
恋はそれにつられるように、頭を下げた。そうしてから口を開いた。
「詠も……無事……?」
「はい。私達二人とも無事です」
「……よかった」
「私もお二人が無事でよかったです」
月は笑顔でそう言った。
だが、この雰囲気は懐かしい顔と再会し、和やかに昔話に花を咲かす雰囲気ではない。
「……お二人に話があって来ました」
「なんのですか?」
「曹魏でも、花山さんにした事と同じことをした、というのは本当ですか……?」
「……ん」
「やめる……とは考えていませんか?」
「ん、やめない。……勇次郎と闘うまで、やめない」
「最強になるため……ですか?」
「そう」
恋は月の質問を全て肯定した。
月はそれを聞き、少し考えた風にして口を開いた。
「どうしても……やめませんか……?」
「……月。地上最強って……誰……?」
「え……? 私が知る限りでは、恋さん……」
「違う」
恋は静かに言った。
「最強は勇次郎。恋じゃない」
「それじゃダメですか?」
「ダメ。……恋はイヤ。恋が……最強になりたい。……もう、ここから逃げれない。誰が最強か決める世界から……恋は……逃げれない……!」
「……そうですか」
月はそう言い、自分の懐へと右手をのばした。
「……恋さん。一つ、お願いがあります」
そう言いながら、懐から引き抜かれた月に右手には、鞘に収まった短刀が握られていた。
「……今、ここで私と戦って下さい。そして……もし私が勝ったら、もう、こんなことは止めてください」
月は真っ直ぐと恋の眼を見ながら、言った。
どうやら、ハーメルンに挿絵機能が新しく出来るらしいですね。まあ、ウチには関係ありませんが!
俺は駆けませんッッッ 中学の時、美術の成績2は伊達じゃないですよ!