真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
身体が泥のように重かった。
くたくただった。
どれだけ闘っていたのか、それとも闘っているのか。
一時間か二時間なんて時間じゃない。
一日中か一か月、それとも一年。
生まれた時から闘っているのか。死ぬまで闘うのか。
分からない。
分からないまま、恋は闘い続けた。
相手は真っ暗な影だ。
打っても打っても消えない影。
何故、闘っているのかも分からない。
何も思い出せない。
夢なのか現実なのかも分からない。
目覚めていたとしても、何も見えない。
永遠に――
いや。
人の命は永遠ではないのだから、この闘いもどこかで終わりが来る。
なら、死ぬまで闘い続けるのか。
――それでもいい
恋はそう思った。
倒す。
倒される。
それが無限に続いていく。
恋は立ち上がりたくなくても、立ち上がる。
どうすれば楽になるのか、ということも分かっている。
倒されたら、そのまま寝てしまうことだ。
でも、立ち上がる。
何のために?
分からない。
倒されるため? 敗けるため?
違う。それは違うとは分かっている。
なら何故か。
分からない。
それでも、闘う。
恋は黒い影と闘い続けた。
腕は折れて、肺が真っ赤になるまで熱くなった空気で一杯になり、心臓は潰れている。
――もう……楽に……
楽になりたい。
恋はそう思った。
闘う。
楽になるため、闘う。
そして、死ぬ。
――それで……
ずん……と、恋の眼の前の闇が引き裂かれた。
「キャオラッッッ」
声がした。
聞いたことがある。聞いたことがある、この声は。
そして、凄まじい拳圧が恋を叩く。
今までの敵じゃない。新しい敵だ。
また、闘うのか。
――闘わなくちゃ……
恋はその拳を受けた。
熱い。そして豊穣で、厳かで――。
こんなのを貰うだけじゃいけない。
自分も返さないと。
だが、拳が動かない。身体が動かない。
――アレ……?
なんということか。
急に、動かなかったハズの身体が軽くなる。
立ち上がっていく。
立ち上がったその前に、誰かがいた。
顔は分からない。
それでも、さっきまでの影とは違う。
影が突いてくる。蹴ってくる。
恋はその一撃一撃をさばいた。
そして、カウンターの一撃を打つ。
ダメだ。
当たる前に落とされた。
蹴りを打つ。
下から蹴り上げるような蹴りだ。
これも避けられた。
打つ。
落とされる。
――ダメなの……?
これも、どれも。
また受け流された。
なら、どうしようか。
ああと。ううん。うむむ。えーっと。
影の右腕が引かれる。
そして、放たれた。
「呂布ッッッ」
その言葉とともに放たれた。
誰だろう。その人は誰だろう。
どうでもいい。
それよりも、この一撃の方が……。
右拳が恋の人中に刺さる。
なんと、気持ちのいい一撃だ。
なんと、気持ちのいい一撃だ。
その一撃で、恋の身体が粉々に砕け散った。
恋はそこで倒れ、仰向けになって気を失った。
そう思っていた。
――アレ?
気絶したと思ったのに、眼があいていた。
その先に、誰かいる。
刃牙だ。
――あ……
そうだ。そう言えば、闘っていたんだ。
「刃……牙……」
恋は言った。
いや、こんなことが言いたいんじゃない。
他に何か……。
「ありが……と……」
口から出て来たのはその言葉であった。
何で、そんな言葉が出たのか。何で、その言葉だけが頭にあったのか。
分からない。
まるで分からない。
それでも、恋の心は澄んでいた。
清流のように。
そして、そのまま気持ちよく眠りについた。
壱
病室からほど近い一つの部屋に、三人の男が集まっていた。
範馬刃牙、烈海王、愚地独歩の三人である。
花山薫は隣の病室に残ったまま、月と詠と話している。
茶や机なんていうものはない。
あるのは椅子だけという簡素な部屋だ。
三人ともそこに腰かけ、話していた。
「で、愚地さんはこれからどうするの? もう、呂布も叩いたし、ここじゃすることないよね?」
刃牙が言った。
「オウ。それよ。帰っちまってもいいんだけどよォ……ヤリ残したこともあンだよ」
「やり残したこと、とは?」
「決まってるじゃねェか。喧嘩だよ、喧嘩。せっかく、この時代に来たんだ。蜀の五虎大将軍とかともやり合ってみてェンだ。……まぁ、それだけじゃねェんだけどよォ」
「じゃあ、他の事って……?」
「一つ、向こうでの喧嘩を途中で放っぽり投げちまってるんだ」
「愚地氏でしたら、帰って続きをやりそうなものですが」
「普通の喧嘩ならそうなんだろうよ」
「ならば、普通の喧嘩ではないと?」
「その通りだぜ。朝にツラ合わせて飯食って、時間指定して『さあ、やるか』って喧嘩じゃねえんだ。
「ならば、その時まで……」
「オイラはこっちにいるさ。まぁ、話して分かってもらえねえのなら、闇討ちでケンカだけでもして、こっから逃げていくってェのもアリだ」
「フツーに国際問題になるよね……それ……」
「刃牙。おめぇの言えた事じゃねェだろうが。知ってるぜェ……アメリカ大統領を誘拐したってよォ」
「あ……。やっぱ、こっちでもニュースになってた?」
「当然のことです。少なくとも愚地氏は海外にも神心会の支部をお持ちですから、海外だけで報道されたとしても、知ることが出来ます」
「ま、あの嬢ちゃんなら邪険にすることもねェだろうよ。それにズット城にいるワケじゃねえ。適当に山籠もりして、居るとしても週に二日ってェとこか」
独歩はそう言い、椅子から立ち上がった。
「じゃ、オイラはここの君主様とチッコイ軍師様に話をつけてくるぜ」
独歩は扉を前に、刃牙と烈海王に背を向けたまま言い、部屋から出た。
部屋には二人だけが残っている。
「で、烈さんはこれからどうするの」
「これから……とは」
「呂布とまた闘うのか、っていうこと」
刃牙がそう言うと、烈海王はアゴを触って考え出した。
弐
刃牙とのリアルシャドーで決着が着いた後、恋の容体は回復していった。
まるで、今までの憑き物が落ちたようであった。
心拍数も呼吸も平常に戻り、暴れることも無くなった。
「…………」
外の木陰の下で、恋は右腕に小鳥を乗せたまま、ボーっとしていた。
左腕は添え木で固定され、包帯でグルグル巻きにされている。
正確に言えば、ただ、ボーっとしているのではない。
小鳥が飛ばないよう、腕をちょっと下げたりしているのだ。
これは、鳥が飛ぶ前に軽くジャンプする、という習性を利用した中国拳法の鍛錬法である。
飛ぶ前にわずかに腕を下げることで、鳥を羽ばたかせないことができる。
それを成功させるには、並はずれた集中力と反射神経が必要である。
だが、恋はそんなものを養おうとはしていなかった。
ただ、何も考えない時間が欲しかった。
誰のことも、闘いのことも考えない時間が。
「チッ チチッ」
鳥がさえずる。
恋はそれを黙って見ていた。
何も考えず、それを見ていた。
恋の肉の中には、何も残っていなかった。
敗北感も、悔しさも、リベンジしようという気持ちすらも。
「チチチッ」
「あ……」
何の拍子か、小鳥は飛び立った。
そして、そのまま恋の頭の真上にある枝にとまった。
恋は小鳥が飛び立ってから、枝にとまるまでをを見上げていた。
そして、枝にとまっているのを数秒、見上げてから、眼線をしたにずらした。
不思議と、心の中は平穏なままだ。
何もこみあげてこない。
まるで、広い海のようだった。
見えるのは海と空だけ。
ただ、一人。
潮は引き、満ちていく。何度も、何度も。
恋はその中にクラゲのように浮いて、漂っているようなものだ。
いや、波、そのもののようなのかもしれない。
――可愛かったな……
ようやく、そのことが浮かんだ。
――何が……可愛かったんだっけ……?
――犬だ……
――でも……殺した……
――誰が……?
――恋……が……
恋の頭の中に、口から血を流して、死んでいる犬の死に顔が浮かんだ。
「うああ……」
範馬勇次郎。
恋は、そのことも考えていた。
憎かったかもしれない。
いや、今も憎いのかもしれない。
分からなかった。
少なくとも、嫉妬はしていた。
それは分かっていた。
あの強さに嫉妬していた。
だけど、そうだとしても、こんなことをする必要はあったのか。
闇討ちのようにケンカを売って、勝って――
分からない。
あると言えばあるのだし、無いと言えば無いのだろう。
――決着……つけれなかった……な……
でも、そのことに悔いはない。
体力も、肉体も、心も全部使った。
それで敗けた。
だから悔いがないのだろう。
なら――
「あああああ……」
自分が愚地独歩にケンカを売った意味はあったのだろうか。愚地克巳にケンカを売った意味はあるのだろうか。花山薫にケンカを売った意味はあるのだろうか。烈海王にケンカを売った意味はあるのだろうか。
何故、何度も闘わなくてはいけなかったのだろうか。
そして、あの犬を殺した意味はあるのだろうか。
あると言えばあるのだし、無いと言えば無いのだろう。
結果として刃牙と闘い、今の自分があるのだ。
今の、自分が。
「うああああああ……」
気が付けば、恋は泣いていた。
何が悲しいのか、分からぬまま泣いていた。
参
「なぁ、烈」
「なんでしょう」
「そう言えば……お前はまた、呂布と戦うのか?」
「刃牙さんにも聞かれました」
城の中庭にある休憩所。
そこに、七人の男女が集まっていた。
烈海王、花山薫、愛紗、星、月、詠、音々音の七人である。
烈海王は愛紗の質問に、一口茶を飲んでから答えた。
「彼女が今も武人であれば、それもありでしょう」
「既に武人ではない……と言いたいみたいだな」
「そのつもりです」
「天下一の武人、呂奉先は死んだ……か……」
「私はそう見ています。武人ではない以上、挑んでもよい理由はありません」
愛紗は
そうか……
とだけ呟いて、茶を啜った。
「でしたら、なおさら誰かが近くにいた方が……」
「そうですっ! だから、ねねを放すのです!」
月が言うと、音々音もそれに同調した。
だが、音々音の服の襟は、花山薫が指でつまむように掴んでいるため、音々音はそこを動けなかった。
「ボクもそう思うけど? でも、花山がわざわざ城に来て、ボク達をここから恋の所に、行かせないようにする理由もあるのよね?」
「行って……何を話すってんだ……」
花山薫はそうとだけ言い、口を閉じた。
その言葉の続きは、星が補足するように言った。
「敗者にかける言葉など、この世のドコにも存在しないぞ。少なくとも、私達は慰めなど言えんな。あのような闘いをしたら、誰に対してであろうとな……」
星はそうとだけ言い、酒を自分の杯に注いだ。
「どうだ、花山。お主も飲むか?」
「……貰っとこうか」
花山が答えると、星は、花山の茶が入っていた湯呑に酒を注いだ。
それを見て、詠は机を叩いて立ち上がった。
「なに酒を飲んでるのよ! それだけで納得できるワケが」
「ない、とでも言いたいのか?」
星はそう言い、湯呑の上で徳利を振った。
酒は既に無くなり、一滴もたれない。
「なくなったな……。花山、お主は今、酒を持っているか?」
「ねェ……」
「話を聞きなさい!」
詠が怒鳴った。
星は小さく溜息を吐き、言った。
「つまり、詠はこう考えているととってもいいか? 敗者になったからこそ、声をかけて励ますべきだ、と」
「放っておくよりは、ずっとイイと思うけど」
詠の言い方は、どこか棘のある言い方であった。
だが、星はそれを気にせずに言った。
「では、どう言うつもりだ? いいところだった、とか、あそこでアレが決まっていれば、とか言うつもりか?」
「この次やればいい、とかもあるわよ。そんな言い訳より、次のことを考えさせた方が……」
「何を言っても届かんよ」
星はそう言い、手元の酒を一気に飲んだ。
そして、空になった杯を、音を立てて机に置いた。
「あれは……ホンモノの勝負だ……。戦での一騎打ちでも、あれ程の勝負にはならん。真に闘い、真に比べあい、真に敗けた者にとって……敗北は死ぬのと同じくらいに……いや、それ以上に苦しいぞ。我らは、何かの片手間に強くなろうとしたのではない。そうである以上、あの闘いでの敗北は、全人格、全人生の崩壊にも等しいこと」
「言い訳すりゃあ……それだけ、みじめになるだけだ……」
花山の湯呑も、いつの間にか空になっていた。
そして、それを置いて言った。
「慰めなんざ、敗者のためには無ェ……」
「あるとしたら、その言葉を口にする者のため……といったところか。詠よ。ここまで聞いて、まだ行くつもりか? 呂布が余計に辛くなるだけのことに」
「…………」
「そうした方がいいだろう」
詠は無言で、座った。
「そして、今の彼女には、武の道を行くものとしての心がありません。敗北への悔しさも、敗北で生まれる感情を背負う心もありません」
「そうなってしまえば……武人として死んでいる、という表現が適切に思えるな」
烈海王が言った。
愛紗もそれに同調する。
「もっとも、恵まれた死に方である、とは思いますが」
「何が言いたいのですか……?」
月が聞いた。
「単純なことです。不意を突かれて囚われ、首を切られるよりも……老いで闘えなくなるよりも……あの闘いで本当に敗け、武人として死んだ方が救われているとも言えます。私は寿命や老いに敗け、無念の内に死ぬ武術家も見てきましたから」
「オメェ達に出来るとしたら……アイツ自身を受け入れる場を用意するってェことだ……」
花山はそう言い、音々音の服の襟を
「少なくとも、あの闘いについて呂布と話せるのは……たった一人だけ、ということだ」
愛紗は飲んでいた茶を机の上に置いて、言った。
「範馬……刃牙……」
「そういうことだ」
音々音がつぶやくように言った一言に、星が答えた。
「かといって、刃牙さんから話に行ったところで、意味はありません。あの闘いについては、彼女が敗北を正面からすべて受け入れて……それからです」
烈海王はそう言い、残っていた茶を全部飲み干した。
肆
徐州のとある山。
そこにある山小屋の中に、愚地独歩が居た。
持っている荷物は小さい。
山籠もりして生活する上で、最低限の荷物であった。
明りに成り得るものは蝋燭ぐらいだ。
今は夕暮れでまだ明るいが、その内に暗くなる。
山小屋のドアから、コンコンと音が鳴る。
「オウ、誰だ」
「俺だ」
「華佗か……入んな。鍵なら開いてるぜ」
独歩はそう言い、持っていたナイフを放した。
それと同時に、華佗が山小屋に入ってくる。
「……何の刺身だ、それは?」
「熊の刺身だ。ブッ倒したのはいいが、どうにも、量が多くてよォ……おめぇも食うか?」
「いや……いい。ここに、俺は飯を食いに来たんじゃないからな」
「仕方ねえ……明日、城の方に持っていくか。で……何の用だ?」
「ここまで一緒に旅をしたよしみで、アイサツに来た」
「おめぇも好きにやるってェことか」
「まぁ、そういうことだ」
「どこに行くんでェ」
「そうだな……まずは、北だな。そして後は、波のゆくさきのように、病人がいるところに行って治すだけさ」
「医者だからそうするか」
「ああ。そっちの方が良い。で、独歩はここでケンカするのか? 武道家だから」
「オウよ。いつでも好きに喧嘩できるよう、城に入る許可も貰ってるぜ」
独歩はそこまで言い、思い出したかのように手を叩いた。
「そういや、こっから好きなトコ行くのに必要なモノはあるか?」
「持ってる。行こうと思えば、このまま行ける」
「ってことは、行くのか」
「そういうことだ。じゃあな」
「おう。じゃあな」
独歩が軽く手をあげてそう言うと、華佗も手をあげて、山小屋から出て行った。
伍
夜になっていた。
いや、まだ西は橙色の空だ。
しかし、恋の頭の上には星が光っている。
恋は一日を、木の下で座ったまま、泣きながら過ごした。
眼球は真っ赤になっている。
だが、どれだけ泣いても敗北感だとか、悔しさだとかを感じない。
勇次郎に敗けた時とは真逆だ。
恋は自分の肉体から、ごっそりと何かが抜けたことを感じていた。
何で抜けていったのかも分かる。
闘いだ。
恋は刃牙との闘いで、肉体のぎりぎり、精神のぎりぎり、ぎりぎりのぎりぎりを比べあった。
そして、敗けた。
あの闘いは濃密だった。
あの時と比べたら、今の時は極限にまで薄まっている。
あの時が生きていた時なら、今は屍だ。
今の自分はふぬけだ。
「ここにいたんだ」
「……刃牙……」
恋は声がした方を向いた。
そこには、範馬刃牙が立っていた。
ズボンに白い半袖のシャツを着て、何を言うでもなく立っていた。
顔には絆創膏が貼られ、アザが出来ている。
「……やっぱり、抜けきってる」
「なにが……?」
「色々なことが」
恋はその言葉に何も返さなかった。
刃牙の方は見ず、自分の前だけを見ていた。
「呂布。君は……」
「恋……恋で……いい……」
恋は掠れた声で、そうとだけ言った。
「恋は、親父とまだヤルつもり?」
刃牙に聞かれると、恋は無言で首を横に振った。
「もう……いい……。疲れた……」
「ふぅん」
「刃牙は……やるの……?」
恋は俯いたまま、言った。
「やるよ。俺と勇次郎は親子だ。やらなくちゃいけない」
「……ガンバって。恋は……応援してる……」
「……下世話なことかもしれない。余計なことかもしれない。でも……言うよ」
刃牙はそう言い、息を吸った。
「アンタはもう……闘士として終わったよ」
――ああ……やっぱり……
恋は、そう思った。
否定しよう、なんて気持ちは全くなかった。
自分が死んでいる。
闘いの中で生きていた自分が、死んだ。
今までは、その事をどこか、否定をしたかったのかもしれない。
だけど今になって、シッカリとトドメを刺された。
「刃牙……」
「なに?」
「最後……顔だけ見せて……」
恋は小さな声で言い、刃牙の方を見た。
「ひどい顔……」
恋はそうとだけ言い、刃牙から目を逸らした。
「なんで顔を見たいなんて……」
「闘いのコト……あまり、覚えていない……だから、見たかった。恋がどれだけ殴ったのか……」
「そうか……」
刃牙はそう言い、恋に背中を向けた。
「月とか詠が、心配しているぜ。帰った方がいい」
「分かった……でも……もう少し、ここにいる」
恋は下を向いたまま、そう言った。
刃牙の足音が聞こえる。
去っていく足音が聞こえる。
恋の心は軽くなっていた。
刃牙の言った言葉で、何かが吹っ切れていた。
「恋が……死んだ……」
恋はつぶやいた。
その一言が身体に沁みわたっていく。
「闘士として……死んだ……」
心の中にある海にまで、その言葉が深く入り込んでいく。
だが、同時に波間に声が消えていこうとする。
その消えゆく声が、恋を押しとどめた。
「まだ、闘いたい……闘いたいよぉ……」
どこかに残っていた心、言葉。
もっと強くなって、また比べあいたい。
今まで闘った相手でもいい。違ってもいい。
誰でもいい。
老若男女、強いのであれば誰でもいい。
どっちが強いのかを、比べあいたい。
あの濃密な時間を、もう一度過ごしたい。
その思いの、波のゆくさきに流されていくままでいい。
恋は目にたまっていた涙を拭き、立ち上がった。
今回で鬼神辻斬り編はラストとなります。こっから恋がどうするか、っていうのは特に書くつもりはありません。
次回からは孫呉独立編として話を進めていきます。正直、渋川先生や鎬兄弟、そして、我儘を押し通すオリバが書きたくて仕方がないです!