真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
やっとジャックとか書ける……
明命は暗闇の中にいた。
あの大声で意識を切り裂かれ、眠りについたのだ。
身体は酷く重い。
自分の身体が泥人形のように感じる。
夢を見る余裕もない。
どうやっても起きない猫のように、眠りについていた。
明命は訓練が終わって城に着いてから、鎬紅葉の診療室に運び込まれ、そこで横になっている。
紅葉は明命の胸に聴診器を当て、心拍数の確認を取った。
「……異常なし。その内に目を覚ますだろう」
つぶやくように紅葉は言って明命に背を向け、自分の机に向かった。
机の上にはカルテや治療の依頼書が積まれている。
そして、その中にある一枚のカルテに目を通し始めた。
壱
「あらら。気絶した明命を連れてきたって言うから、勝ったかと思ったのに……ププ」
「クク……ヒデェ落書きだぜ」
「随分とヒドイ目にあったようで……」
城の王座の間。
そこで雪蓮、オリバ、渋川剛気は祭と穏の帰りを待っていた。
対工作兵訓練を行っていた三人の帰りは遅く、三人が戻ってくるまで、雪蓮は不安そうな表情をしていた。
だが、二人が帰ってきたという報せを聞いて不安が晴れ、そして、二人の姿を見て――正確には、胸に書かれた落書きを見て、堰が切れたかのように笑い出した。
「ゴメ……抑えられな……ククク……ププ……っ!」
「雪蓮。あまり笑っちゃいけねェぜ」
「そう言うオリバも笑っているじゃない」
雪蓮はそう言い、
あ~あ
と、一息吐いた。
そして、右手で笑い涙を拭い、祭と穏に向かい合った。
「ゴメン。久々にツボに入っちゃった」
「策殿。わしも早く、この落書きを落としたいのじゃ」
「分かっているわ。で、その状況なのに、こんなことをしている理由は……」
「うむ。良き人材を偶然見つけた」
祭はそう言い、後ろの扉の方を向き
入れ
と言った。
扉を開けて入ってきたのは、頭にバンダナを巻いた男だ。
ヒゲどころか、眉も無い。
そのせいか非常に若く見える。
樹海で死闘を繰り広げたガイア――で、あるかに思われた。
「あの……急にそんなこと言われても、困るのですが……」
男から出て来た言葉に、一番驚いたのは祭であった。
穏も、
アレ?
と言いたげな表情で男を見ている。
どんな性格なのか、ということは祭と明命程に詳しくないが、それでもオカシク思った。
祭は、スマン、とだけ言い、男の腕を引いて、部屋から一度出た。
「おぬし、何を急にへたれておる」
「いや……だっていきなり、知らない人に連れられて、知らない所に来たら、どうすればいいのかわからなくなるって……」
「わしの名前……言ったはずだが? それにどこに連れていくかものぅ」
「すいません……ホントに分かりません」
そう答えられ、祭は
――どういうことか
と思った。
意味が分からなかった。
確かに、ガイアを連れてきたハズであった。
だが、今の男にはその雰囲気が無い。
そして、記憶もないと言うのだ。
祭は確かに、ガイアを連れてきている、と思っている。
同時に、この男が嘘を吐いているとも思わなかった。
頭を悩めていると、扉の向こうから雪蓮の声がした。
「なんじゃ、策殿」
「入りなさいって言ってるのよ。事情は、さっきオリバから聞いたわ」
「オリバはコイツのこと知っておるのか?」
「ああ、知ってるぜ」
「むぅ……」
祭は不思議に思いながらも、再び部屋に入った。
穏の表情は、疑問が解けたのか穏やかだ。
「オリバ。わしにも説明してくれるか」
「そいつがガイアってのは間違いねえ。俺もツラは知ってンだ。だが、今のソイツはガイアじゃねェ」
「説明になっておらん。意味が分からんぞ」
「解離性同一性障害。平たく言っちまえば、多重人格障害だ。で、そいつはガイアのもう一つの人格ってわけだ」
「そうなのか」
祭は男の方を見ながら言った。
「はい。ボクはノムラと言います。ガイアは今、ボクの中で眠っている状態です」
「なら、ガイアの時の記憶は……」
「ありません。ボクの記憶の中で一番最近のものは、訓練中に鏡を拾ったことぐらいしか……」
「わし等と同じじゃのう」
「ガイアになって居た、ということは……何らかの危険を感じ、ノムラと交代していたってことだろうな」
オリバはそう言い、祭を見た。
「とうに分かったわ。つまり、また何かがあれば、こやつはガイアになる、ということじゃろう」
「御明察。私もそう言うふうに説明されたわ」
雪蓮はそう言い、視線をノムラに向けた。
「で、ノムラはこれからどうするつもり? ウチに仕官して、安全な寝床を手に入れるか。それとも、また樹海に戻って生活するのか」
雪蓮の目は真っ直ぐにノムラを見ている。
ノムラは少しだけ考えると、口を開いた。
「ボクは衛生兵なので、樹海で生きていくのは……。お世話になります」
ノムラはそう言い、お辞儀した。
弐
明命が目を覚ましたのは、診療室に運び込まれてから五時間後であった。
もぞもぞと布団の中で動き、一度身体を反らせ、起きた。
「起きましたか?」
「紅葉さん……ですか?」
「はい」
紅葉はそう言い、席をたった。
そして、明命が寝ているベッドの枕元に来て、口を開いた。
「気分はどうですか」
「まだ少し……クラクラします」
「吐き気は」
「ありません」
「骨折のような痛みは」
「それも……ありません」
「退院です」
紅葉はそう言い、再び自分の机についた。
「え……? もう、いいんですか」
「はい。異常が生じたら来ればいいんです。いや……私じゃなくて、他の医者でも構いません」
「はぁ……」
明命は気の抜けたような返事をして、何の気なしに紅葉の机の上に視線を移した。
その態度を見て、紅葉はパンパンと手を叩いた。
明命はその音に気を取られ、視線を紅葉に向けた。
「机の上の書類は見ないでください。患者の容体というのは立派な個人情報ですので」
紅葉はそう言った上に、読んでも分からないとは思いますが……、と言った。
事実、その書類は日本語と英語で書かれていた。
一部は読めるのだろうが、英文は読めないであろう。
「ああ、そうだ。明命さんにお見舞いが来ましたよ」
紅葉は思い出したかのように言った。
「お見舞い……ですか?」
――祭さまでしょうか?
と、明命は思った。
そうじゃないとしたら、穏か。
取り敢えずは、訓練を行った人だと思った。
「いいえ。ノムラさんからです」
「ノムラ……?」
明命はその名前をもう一度、今度は脳内で反芻した。
――誰でしょうか?
記憶に無い。
誰の事なのか、まったく分からない。
「簡単に言ってしまえばガイアさんから……」
「え?」
明命は猫のように目を丸くし、気の抜けた声で言った。
何でノムラなのか、何でガイアがいたのか、何で来たのか。
まるで分からない。
「まあ、そのことだけ言っておきます。どういう事かは……後でノムラさんから聞いて下さい」
紅葉はそう言うと、自分の机の上の書類に目を通し始めた。
明命はベッドから降りて、自分の足で歩き出した。
バランス感覚はいい。
左右のどちらかに、体重が多く乗っているということもない。
そして、真っ直ぐ歩ける。
そこで明命は、脳に異常はない、ということが実感できた。
参
明命が起き、ノムラを探し始めた頃。
ノムラは祭に連れられ、新兵の訓練所に来ていた。
祭は明命に落書きされた服を着替えてある。
そして、ノムラは自衛隊の迷彩服のままだ。
「で……ボクに何をさせようと……」
「単純な話じゃ。キッチリと兵の指揮ができる人間というのが、ウチには少ない。で、お主の指揮力はどれぐらいか、見ておきたいと思うてな」
祭はそう言い、新兵に視線を移した。
その新兵達は、お世辞にはガラが良いとは言えない人間達であった。
数としては百人程。
一応は、前にいる二人に視線を向けてはいるが、ダルそうな目をしている。
訓練なんてやりたくねえ、とその目は強く語っている。
「出来るか?」
「ボク……衛生兵なんですが……」
「前はどうだったか、なんて気にもせん。今、出来るかじゃ。やる事と言うても、気をつけ、や、やすめ、程度でもよい」
「ハァ……」
ノムラは軽く返事をして、一歩だけ前に出た。
「えっと……ボクが君らの訓練を……」
ノムラの声は次第に小さくなっていく。
大勢の前で話すというのは、馴れないと大変なことだ。
ノムラは馴れていないのだろう。
兵も言うことを聞かず、気の合う者同士で雑談をしている。
ノムラは何度か、言うことを聞かせようと試みたが、それでも誰も動かない。
――やはり、今のガイアでは無理か
祭はそう思った。
今のガイアでは、身のこなしとかは良いのかもしれない。
それは引き継いでいても、指揮能力まではない。
指揮能力が無い人間が指揮をしようとするのであれば、それは信頼を積み重ねるしかない。
新参であるノムラには、それが無い以上、指揮できないのは当然のことだろう。
仕方がない。
それに外見も災いしているだろう。
見た目が若い……というより、顔に何も生えていない顔が少年に見えるので、兵に嘗められているのだ。
――まあ、予想していた通り……じゃな
祭はそう思い、ノムラと訓練を交代しようと、口を開こうとしたときであった。
ノムラの身体がブルリと震え、目の色が変わった。
――お?
その雰囲気は、祭が初めてガイアを見た時と同じであった。
「気をつけィッッ」
エネルギーの塊のように発せられた声。
それは、新兵たちに叩きつけられた。
新兵の足が、一糸乱れずに動く。
そして、直立。
新兵たちは何が起こったのか分からなかった。
気が付けば、気圧されて動いていた。
「ハハ……聞き分けがイイな……。で、次は」
「や……休めでよい」
「休めェッッ」
その一言で、新兵たちは休めの体勢をとった。
新兵から、ビシッ、という音が聞こえそうな動きだ。
「で、これで終わりかい?」
「うむ」
祭は平然と答えながらも、驚いていた。
もし、気の抜けている時にこの声を聞いていたら、自分もかしこまっていたのではないか。
祭はそう思い、それは無いと言い切れなかった。
急に言われれば、前後不覚のまましていただろう。
そう思った。
――超軍人ガイア……名に偽りなしか
祭はそう思った。
「これで終わってもいいのか」
「いや……別の日に正式な訓練を行うつもりじゃった。で、今日はお主の力試しに用意したのじゃが……このまま正式にやってみるのも面白いかもしれんのぅ」
「なるほど。今日から世話になるんだ……ちょっと、やってみせてやろう」
ガイアはそう言い、さらに一歩前に出た。
兵の目はその動きを見逃さなかった。
緊張が、パリリと静電気のように走る。
「兵の指揮は初めてではない……訓練をしたこともある……。わたし流の訓練方法……新兵たちにしっかりと教えてやろう」
目の前にいる人間に語りかけるような声量で言う。
それでも、百人ほどの新兵はそれを聞き逃さなかった。
たった一人を前にして、のまれているのだ。
そして、始まった。
肆
「渋川老」
「おお、蓮華嬢ですか。どうかしなすったか」
蓮華は廊下で、背後から渋川剛気に声をかけた。
その手には木刀が握られている。
渋川はその声に反応し、背中越しに蓮華を見た。
「一つ頼みごとがあり、探していました」
蓮華は真っ直ぐ渋川剛気を見ている。
「今日は思春が、水軍の調練に出ていますので……」
「ワシに相手してもらいたい……と」
「はい」
「そうですかそうですか……なら、場所はどこか床が柔らかい所にでもした方がええじゃろ」
「となれば……外の草の上でしょう」
「石があれば大事になるのじゃが……まあ、ええでしょう。優しく尻から落とせばいいだけのことじゃ」
「……こちらです」
蓮華はそう言い、渋川に背を向けて歩き出した。
黙々と歩き、普段から思春と稽古をしている場所にまで来た。
その近くに蓮華の言う場所があった。
「ここかのう」
「はい」
蓮華は短く答え、木刀を地面に置いてから渋川の方を向いた。
渋川は置かれた木刀を一瞥し、再び蓮華に視線を向けた。
「どういうおつもりですかな」
「一度、合気を受けてみようと思っただけです」
「ほう」
「お願いします」
蓮華が構える。
素人の構えではない。
ある程度は素手での打撃の心得があるのだろう。
「ところで……何故、合気を受けようと」
「渋川老の合気は、姉様ですら突破口が見えなかったと聞きます。そのような技術……正直、信じられません。ですから、一度受けて考えてみたいと思っています」
「なるほどのう。ですが……分かるかどうかは微妙じゃな」
「そうかもしれません。ですが……行きます」
蓮華は構えた拳で突いた。
その瞬間に足が地面から離れ、グルリと地面が回った。
地面と空がドロドロに混ざる。
そして、尻から緩やかに落ちていった。
「信じる気にはなりましたか」
「…………」
蓮華は唖然とした。
――投げるのなら、ここではない。ここは避け……
そう思っていた。
だが、自分は今、投げられた。
驚いていた。
唖然としたままであったが、さっき、自分に何が起こったかは分かった。
――私が放った拳の力に、相手の力が加えられ……!
そう思いながら、地面に両手を押し付けて立ち上がった。
「ほう、タネを掴みましたか」
渋川がそう言うと、蓮華は小さく笑みを見せた。
ガイアの二重人格の元ネタって漫画でも紹介されたビリー・ミリガンなんでしょうかね?
その場合だと、記憶とかの話がややこしくなるんですよね……
どうも、取り調べの時のことを調べると、ビリー自体は他の人格が出ている時の行動を知らず、何があったのか分かっていない。つまり、他の人格の存在を知らないんです。
ですが、他の人格の中には多重人格を知っていて、取り調べを行った警察官に論理的に説明できたアーサーという人格があり、「教師」という人格は全ての記憶を覚えていて、他の人格も把握しているんです。
今では教師が他の人格を統合していて、以前のように、危ないところでは空手の達人のレイゲンが出る、ということは無いらしいです。でも、弱い統合……って話もあるんだよな……
それがガイアの場合ではどうなるんでしょうかね?
原作16巻を読む限りでは、ガイアはノムラの時の記憶はないんですよね……。他の隊員に刃牙が敵だということを確認した、と思われるシーンがありますし。
となると、ノムラという人格の存在にも気付いていない可能性も高い。
そして、ノムラはガイアの時の記憶を持っているのでしょうか?
でも、持ってるとしたら刃牙との闘いであっさり負けないでしょうし。しかし、ガイアという人格をうっすらと知っているような発言もある……
人格の交代の条件も分からないんですよね。
戦闘がトリガーであるにしたら、VSシコルスキーで最初っからガイアであった理由が説明できますが、VS刃牙での説明が出来ない。
危機がトリガーなら、VS刃牙でのノムラからガイアの説明がついても、VSシコルスキーでの説明がつかない……。
考察の余地がありすぎて、メンドクなってきた……