真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~   作:クーロン

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すいません。花山vs凪以外は、闘いの中のワンシーンを切り取る、ということでこの長坂四戦は進みます。
決着まで、となるといつまでかかるか分からないので……。
その分、独歩ちゃんの闘いは激闘と言えるものにするつもりですので、どうか御容赦を!


長坂四戦・戦烈

 凄まじい技術、としか言いようがなかった。

 流琉は力を込め打っている。

 多少の余裕は確かに残してあるが、それでもこのようにされるものではない。

 烈海王は流琉の全ての攻めを、いなし、相殺していった。

 ――一手御指導を

 それは言った。確かに言った。

 だが、それは目上の人間に挑むときの前口上みたいなものだ。

 本気で指導されようなんて、思ってはいない。

 実際はどうなっているのか。

 その光景は、指導員が子供に教えているかのようだ。

 二人の身長差がそれをさらに助長させている。

 ――ジャックさんと比べて遜色ない!

 流琉は心の中で想った。

 裏を言えば、季衣と二人で闘えば問題ないだろう。

 だが、それは出来ない。

 これは一騎打ち、一対一を前提として始まっているのだ。

 それを無かったことにして、二対一にすることは沽券にかかわる。

 つまりは、だ。

 ――ジャックさん並みの人を……一人で倒さないといけない……っ!

 流琉はそう思い、武器を振った。

 もはや蹴りも無かった。

 烈海王は大きく間合いを詰め、円盤と持ち手をつなぐ紐を指に引っ掛けた。

 そこを中心にし、円盤がクルッと回る。

 そして、流琉に向かってきた。

 流琉は考えた。

 ――避ける? 武器を放したら、完全に不利! 受けるしか……!

 自分の武器の質量は知っている。

 だからこそ、避けられない。

 この武器から手を放せば、避ける行動はとりやすくなる。

 だが、避けてからが問題だ。

 この勢いのまま吹っ飛んだ武器を、すぐに取りに行けるか?

 それは無理だろう。

 取りに行くにしても、相手を睨んだままで、ゆっくり後ずさりながらになる。

 その手はマズイ。

 相手は間合いを保ったままにする。

 そして、とる瞬間に――

 それが流琉が一瞬のうちに思い浮かべたプランだった。

 避けるという選択肢は無い。

 流琉は武器の持ち手を左手で握り、右手で顔を守るように、武器に対して手のひらを見せた。

 そして、骨の芯にまで響くような衝撃があった。

 

 みしり

 

 と鳴った。

 痛み。

 そして、スゥとかかっていた力が抜ける。

 慣性が抜けたのだ。

 流琉は円盤を抑えきっていた。

 

「吩ッッ」

 

 声がした。

 武器の向こう側からだ。

 ――来る! 追撃が……っ!

 武器の重みを受けた右手は動かない。

 まだ痺れは残っている。

 素早く動かせない。

 武器は持ったまま、覚悟を決めた。

 同じく攻撃を受けるにしても、覚悟があるのと無いのではかなり違う。

 気が抜けているところになら例え、ジャブ一発でもK.O.をとれることがあるのだ。

 だが覚悟を決めている相手では、倒れない。

 プロレスラーがタフな理由もそこにある。

 衝撃。

 武器の上から。

 烈海王が武器ごと蹴ったのだ。

 鋭い弧を足が描いていた。

 

「ふぅっ!」

 

 流琉は武器を抑えたまま、それを受けた。

 重い一撃であった。

 烈海王の体格はジャック・ハンマーより小さい。

 むしろ、格闘士(グラップラー)としても小さい方だ。

 身長は176センチ。

 愚地独歩で178センチ、克巳は186.5だ。

 さらに言ってしまえばジャック・ハンマーが213センチ、ビスケット・オリバが180センチあまり、範馬勇次郎が推定190センチ。

 範馬刃牙と渋川剛気は176センチよりも小さいが、上を見ればこれだけいるのだ。

 体重に関しては筋量で105キロと増やせているが、身長はどうにもならない。

 身長というのは闘争において、重要なファクターである。

 身長が高い方が腕が長い。つまり、リーチがある。

 その利点は、柔道のように襟をとれば、さらに顕著だ。

 奥襟をとられ、手首をおとされるだけでも、かなり動きづらくなる。

 そして体力はすぐに削られる。

 打撃でも利点は多い。

 考えてみてほしい。

 小兵が上に向かって打ち込むのと、巨人が下に向かって打つのと、どっちの威力が大きいか。

 技術力でひっくり返すことも出来るが、同じ技術力を持つもの同士ならば、当然、巨人が強いに決まっている。

 流琉も背は低い。

 そんなこと分かりきっている。

 だが、今受けた一撃は――さながら、ジャック・ハンマーのような大男が放った一撃のように重かった。

 膝を曲げ、烈海王の左足を上に逃がす。

 烈海王の蹴りは、十分な衝撃を武器に与えてから、流琉の髪の毛を擦りながら吹っ飛んでいった。

 蹴りの風圧が流琉の頭を撫でる。

 

「やっ!」

 

 足は動く。

 流琉は大きく踏み込んだ。

 左肘を曲げて突き出す。

 肘先は鋭い刃となり、烈海王の腹に伸びる。

 いない。

 褐色の肉が、流琉の目の前から消えていた。

 ――退いた!? 違う! 上!

 頭の上から大気を裂く音がする。

 流琉の耳はそれを敏感に感じ取っていた。

 受けない。

 相手が何をするか分からないのだ。

 そうである以上、右腕から痺れが取れない今は真っ向から受けてはマズイ。

 流琉は退いた。

 同時に頭上から、凄まじい勢いで落ちてくるものがあった。

 烈海王の踵だ。

 烈海王は左足が着地すると同時に、流琉の目線よりも高く跳ねた。

 そして、踵落としを放ったのだ。

 それだけじゃ止まらない。

 流琉を追うように、右足が伸びた。

 蛇の頭のようだ。

 靴先が寸分違わず、流琉の首、肩、水月に向かって行く。

 流琉はそれを左手で捌いた。

 同時に、右手の力を抜いてブラブラと振った。

 骨の中の痺れがジワジワと抜けていく感覚がある。

 徐々に捌く手に右手が加わっていく。

 その間に流琉は考えた。

 ――この武器じゃ……キツイ。変に間合いをとると、敗ける

 流琉の武器は重量と、怪力で振るう速度で相手を叩き潰すものだ。

 当然、ある程度の隙は前提として、流琉の闘い方の型が出来ている。

 対烈海王を考えると、それがまずい。

 その強靭な脚で、一気に踏み込んでくるのだ。

 少なくとも、円盤より内側にだ。

 流琉自身もある程度は間合いの調整は出来る。

 だが、それは短かったのを追撃に伸ばすくらいだ。

 振り回しているのを急に短くする――円盤までの紐を短く持ちかえる――のは、普通に武器を振るうよりも負担は遥かに大きい。

 それどころか、威力を殺してしまうこともある。

 それは避けたい。

 なら、どうするか?

 寄るしかない。

 それが流琉に浮かんだプランであった。

 クリンチ――

 ボクシングで、そう呼ばれる形に持っていくしかない。

 対ジャック・ハンマーでは用いなかった。

 用いたところで、身長差があり過ぎるからだ。

 50センチも60センチも70センチも違う身長差があるのに、クリンチしても意味は無い。

 腰に抱き着いても、足の力でこらえられるかもしれない。

 流琉は力に自信はある。

 流石にジャックが平然と立っている、ということは無かっただろう。

 だが、仮にバランスを崩せても、無防備な頭を狙われる。

 それが烈海王とならどうか。

 手を伸ばせば、頭にまで手が届く。

 これは大きい。

 頭を見下ろせても、手が目を塞げば簡単には打たれない。

 クリンチだけじゃ終わらない。

 そこで力勝負を仕掛ける。

 どのような勝負でもいい。

 握力で潰しにかかってもいい。押し倒して、マウントポジションをとってもいい。

 純粋な力では、簡単には敗けない。

 少なくとも身長差が闘争に絡んでくる、今の状況よりはそれがいい。

 問題があるとしたら、この作戦では“武器が邪魔だ”ということだろう。

 ――どうする……?

 流琉は思った。迷いがあった。

 魔拳の懐に素手で潜り込む――

 それは、どれほど恐ろしいことか。

 生半可では――いや、かなりの使い手でも、ただでは済まないだろう。

 

「叭ッッ」

 

 拳の一撃!

 崩拳であった。

 流琉はそれを右手でいなして避けた。

 ――どうする? 季衣なら……!

 一瞬だけ脳裏に浮かんだ、官渡の戦い。

 そこで季衣はどうしたか?

 それを考えた時、流琉には迷う気持ちが消え失せていた。

 

   壱

 

 まずは、勇気をもって武器を捨てなければならない。

 話はそこからであった。

 流琉は、いとも簡単に武器を手放していた。

 一歩踏み込み、蹴り。

 烈海王は受けなかった。

 避けた。

 そして、蹴りを放った。

 本来ならば拳が来るはずの位置に、足が来ている。

 ぞくりぞくり

 ――アレに突っ込むんだ……

 流琉は不思議と、達観していた。

 ――避けれる!? 分からない……。出来なきゃ死……

 頭が沈む。

 毛ほども無駄のない動き。

 まるで、残像でも残りそうな動きで流琉は避けた。

 だが、それは烈海王に見破られていた。

 覚悟と共に、全身をぶつけるタックル――それは、烈海王に届かなかったのだ。

 頭に衝撃。

 烈海王が親指の関節で、流琉の頭を打った。

 狙いすましたように入った。

 不思議な一撃であった。

 軽く衝撃が脳髄を通っただけ、だというのに目の前が真っ白になる。

 真っ白な光に包まれ、何も見えなくなる。

 その光の中で流琉は手を伸ばした。

 二度、右手が空を切る。

 そして三回目で、何かが触れた。

 

「捕まえました……」

 

 つぶやくように流琉が言う。

 何を掴んでいるのかは分からない。

 だが、やることは分かっている。

 流琉は手に力をこめた。

 

「ほう……」

 

 流琉の右手が握っているもの――それは、烈海王の左手であった。

 がっつりとレスリングのように、指を絡めて力を込めてきた。

 烈海王はそれに答えるように、力を込めた。

 純粋なパワー勝負だ。

 互いに動きを止め、握り合う。

 

「ああああああああっ!」

「ぬぅ……ッッッ」

 

 握りながら流琉は叫んだ。

 爪先が烈海王の手の甲に食い込んでいく。

 烈海王も負けじと押し返す。

 流琉の白い手の中にある骨が鳴った。

 

「かあああああああッ!」

「吩ッッ」

 

 力がぶつかり合う。

 もう、耐久力だけの勝負ではない。

 わずかに力が上回れば、それで勝ちになるような勝負。

 敗れたのは烈海王であった。

 

「ぬんッッ!」

 

 流琉の視界が、グルリと回った。

 烈海王が投げたのだ。

 背中から地面につき、仰向けに倒れた。

 

「小さい身体をした少女とはいえ……流石は中国武術に名を残す者。あなどっているつもりは無かったが……これほどとは」

 

 烈海王は仰向けに倒れている流琉を見下ろしながら言った。

 流琉は目蓋を一度二度パチパチと開閉し、身体のバネを使って跳ね上がった。

 

「やっと治った……さっきは、私の頭に何をしたんですか?」

 

 流琉は頭をグリンと回してから、烈海王に聞いた。

 

「軽く親指の関節で耳の下を打った。そうすることで、的確に意識を飛ばせる」

「へぇ……」

「君には上手くいかなかったが」

「それでも、目の前が真っ白になりました」

「そうか」

「あと一つ聞きたいのですが……あなどっているつもりは無かった、と言いましたよね?」

「言ったな。確かに言った」

「なら、私の手が宙を切った時に、なんで頭を打たなかったのですか」

 

 流琉の目が鋭くなる。

 

「私に対して、まだ手加減していますよね」

「さっきの力比べは全力だった」

「あれで全力じゃなかったら、範馬勇次郎並みですよ。で……それまでは手加減していた、ということでいいですか?」

「指導という意味では加減は無い」

 

 流琉は、真面目な人だ、と思った。

 指導という言葉を真剣に受けたのか、と思った。

 だが、それは今はいらないものだ。

 もっと違う形で向かい合ったのなら、教えてもらうのもありだ。

 今は無い。

 

「……全力でお願いします。さもないと、大けがしますよ」

 

 流琉はそう言い、花山と凪の方を一瞥した。

 既に決着がついており、凪も花山も自陣の方に回収され始めている。

 凪の方には秋蘭一人。

 花山の方は恋一人が担いでいる。

 

「そうか……ならば……全力で行かせてもらおう」

「ええ。どんっと来てください」

 

   弐

 

 烈海王は靴を脱いだ。

 流琉はその意味を知らない。

 だが、何となく、という域でマズイと思った。

 確実にさっきよりも強いのだ。

 さっきまでの状態で相手になったか?

 ――なっていた……力で勝負できる

 流琉はそう思った。

 自分に備わっていた力という才能。

 身長、体重という才能は無いが、それでも戦える。

 流琉は獲物に襲い掛かる肉食獣のように、膝をため、身体を小さくした。

 そして、地面を蹴る。

 タックル――

 工夫は無い。

 あるとしたら、両手を顔の辺りに添え、頭を守ると同時に、すぐ掴みにかかれる基礎が工夫だ。

 守りもない。

 腕の骨が盾代わりとしてあるだけ。

 真っ向勝負。

 烈海王の拳が、足が迫る。

 流琉は真っ直ぐ突っ込んだ。

 身体が小さいのが幸いした。

 身体の真ん中に向かって、隙間を縫うようにグイッと体を押し込めた。

 目の前に褐色の腹がある。

 出来ることは、全力の力で押すだけだ。

 身体が小さくて、有利なこともある。

 押し合いになった時、身体が小さい方が重心を安定させやすいのだ。

 膝のタメ、全身の力を総動員させ、流琉は押した。

 いや、押すと言うよりも、下から突き上げるようであった。

 下腹部に手を押し当て、膝を伸ばす。

 単純に、105キロの身体を押し上げられるかの勝負。

 流琉は持ち上げた。

 そして一気に押す。

 ――倒れる!

 流琉がそう思った時、何かが下から

 ぬっ

 と這い出た。

 黒い。

 烈海王の左足であった。

 それは流琉の顔に張り付いた。

 親指と人差し指の間で鼻をつまみ、土踏まずが口を塞ぐ。

 前に出る限り、息が出来ない。

 人間の息止めの世界記録は22分だ。

 だが、動いている時は別だ。

 息を止めていられる時間はもっと短くなる。

 心拍数が高ければ、それだけ酸素を消耗する。

 それでも流琉は前に出た。

 出るしか勝機は無い。

 間合いをとれば、それだけ不利になる。

 烈海王の身体が地面に叩きつけられるとき、何かが流琉の後頭部を叩いた。

 

「かはっ!」

 

 肺の中の空気が一気に漏れる。

 もれ空気はわずかな隙間から勢いよく抜けていった。

 そして、烈海王は受身を取り、足を流琉の顔から外して立ち上がった。

 

「さっきは……何を」

「あの勢いで叩きつけられてはたまらないからな。右足で君の後頭部を叩き、勢いを削った」

 

 ――スゴイ

 素直に流琉は思った。

 技術じゃ敵わない。

 そうとも思った。

 

「本当に強い……」

 

 流琉はそうつぶやき、笑んだ。

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