真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~   作:クーロン

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スイマセン! 旅行行ってて遅れました!

実はこの小説って書く前に、ある程度は、こんなことを書きたい、と思って書いています。
で、その間を縫うように作られていってるのですが、大体ここらが最初に考えられていたシーンの最後あたりになります。もっとも、書いている途中でそれは増えていってますが。

ですが、製作前の構想のラストってことで魏ルートラスボス戦(?)といった雰囲気になっていたら良いな、と個人的には思っています。


拳虎

 私が持っているのは、木刀一本だけだ。

 そして、相手は武神。

 剣は持っていた。

 それを使えばよかったか?

 私は一瞬だけそう思ったが、やめた。

 それではダメだ。ダメなのだ。

 これは続きだ。

 独歩が呂布に敗け、城を出て行く前にやったアレの続きだ。

 アレはなんだったのだろうか。

 組手か。試合か。それとも決闘だったのか。

 分からない。

 上手く言えないのだ。

 これだ、と言ってもモヤモヤが残る。

 この三つの全てと言ってもだ。

 かといって、全部違う、と言っても答えではない気がする。

 きっと、いつまでも答えは出ないのだろう。

 

「独歩。最初に言いたいことがあるが……いいか?」

「おいおい。始めようってのに、水差すんじゃねえや」

「……すまん」

「ハァ……言うな、とは言ってねェだろうが。そんなところで切られちまったら気になるじゃねえか」

「なぁ、独歩」

 

 弱々しい声だった。

 なんとなくだが、そんな気がした。

 

「……私はお前が好きだ」

「照れるねェ……。こんな親父が趣味かァ?」

「そういう意味じゃない」

「だろうな」

「……誰とでも素手で、どんな武器を持っていようとタメを張るなんて誰でも出来る事じゃない」

「――」

「私はお前が好きなんだ。だが……本気でやる。最高の一撃を出すし、急所を狙う。それも……殺すつもりでだ。相手が誰でも」

「春蘭よォ……ソイツは俺もだ。加減抜きだ」

 

 なんと冷めた声だ。

 だが、不思議と温かみも感じた。

 殴ってくるのだ。本気で。

 ありがとう――

 そう、言いたくなった。

 

「もういいか?」

「ああ……もういい」

 

 私はそう言い、息を吸った。

 必ず、どちらかが死ぬという闘いではない。

 それは分かっている。

 だが、命をかけてやるのだ。

 眼球をえぐりだすのも、股間を蹴り潰すのも、心臓を抉るのも勝負のうちだ。

 それも分かっている。

 予感していた。

 いつか、独歩とこういう闘いをするのだと。

 いつから予感していたのだろう?

 初めて立ち会った時か。組手の時か。独歩が呂布に敗けた後か。

 それとも、あの流星を見たときか。

 それが確信になったのはいつだ。そして、信じられないとも思うのは何故だ。

 震えている。

 震えているが、恐怖ではない。

 恐怖であっても違う。

 それを超えた何かがある。

 私はもう一息吸った。

 もう来る。

 本気でこい。

 なぁ、独歩。

 私も本気でやるから……本気で。

 

   壱

 

 いつの間に始まったのだろう。

 どっちが先に仕掛けたのか、記憶に無い。

 交代交代に打ち続ける。

 綺麗なものだ。

 独歩の拳での一撃一撃が迫る。

 しなやかで、力強く、無駄がない。

 これは見えていた。

 前は見えなかったが見えるようになり、そして見えなくなった。

 今は見える。

 そして受けている。

 どうだ。

 だが、これだけじゃない。

 この程度では終わらない。

 私は木刀を振った。

 横なぎに一閃。

 独歩は頭を落として、それを避けた。

 上手く避けられた。

 皮一枚の差でだ。

 来る。

 拳。

 違う、蹴りだ!

 拳を払うように動いた右手はそのままで、木刀を持っている左手で蹴りを受けた。

 木刀を縦に構え、独歩の脛に当てる。

 それが外れた。

 偽か!

 独歩の右手が動く。

 そんな気がした。

 狙いは顔面だ。もっと言ってしまえばアゴだろう。

 私は屈んでよけた。

 髪が拳圧で巻き上がる。

 おお。

 凄まじい拳だな。

 虎を殺した、というのも分かる気がする。

 だが、私は虎よりも強い。

 この程度では終わらん。

 蹴り。

 私が放った。

 独歩が教えてくれた、足への蹴り。

 足をあげて、独歩は受けた。

 有効打にはならないな。

 だが、これはただの起こりだ。

 左手で握っている木刀の柄で、独歩のアゴを叩く。

 常人であればアゴが吹っ飛ぶ。

 本当にアゴが取れるのだ。

 そうなって死んだヤツもいる。

 これをどう受ける!?

 何かが木刀の刃を叩いた。

 独歩の左手が丸を描いていた。

 廻し受けか!

 刃が落ちて柄が上がり、私の一撃は独歩の目先を掠めるようにして、飛んで行った。

 独歩は一歩下がっていたのだ。

 そうじゃなければ、顔面に当たっていた。

 おしい。

 次は独歩の番か。

 拳の間合いか?

 違う。

 ならば蹴りだ。

 来るか?

 いや、間合いを詰めて来た。

 拳だ。

 違った。

 蹴りが――

 足をあげて受けた。

 スネが痛む。

 独歩の番はこれで終わりだ。

 次は私の番だ。

 だというのに、何故、拳がきている。

 交代交代に打っていたハズだろう?

 ズルいぞ。

 柄で拳をついた。

 どうだ。

 いくら拳が強くても、これはキくだろう。

 これで交代だ。 

 木刀の影から、独歩の喉へと右手がのびる。

 貫手だ。

 それを独歩は廻し受けで叩いた。

 またコレか。

 そう何度も廻し受けをされては厄介だ。

 いや、こんなことを考えている場合じゃない。

 さっきはズルいことをされた。

 こっちもやり返してやろう。

 お前に番はやらない。

 蹴りを――

 

「ジャッッ!」

「ひゅっっ!」

 

 独歩と同時に息がクチビルから漏れた。

 やった技も同じだ。

 中段の蹴り。

 うかがうような蹴りじゃない。

 独歩も私も腕で受けた。

 重い痺れが腕を這い回る。

 独歩の顔に笑みが浮かぶ。

 そうか、独歩も楽しいのか。

 私もだ。

 私も楽しい。

 何が楽しい?

 ただ、どこまでも純粋な強さというのを比べあうことが、だ。

 そこには年齢(とし)も、武器も、性別も関係ない。

 関係するのは強さを作るものだけだ。

 私はそう思う。

 

「シィッッッ」

 

 独歩の息が荒く吐かれた。

 これも見える。

 私は木刀で受けた。

 同時にそよ風が私の頬を撫でた。

 

   弐

 

 華琳は見ていた。

 右の拳が動いた。

 春蘭はそれを受けた。

 だが、同時に独歩の手刀が、勢いよく春蘭の右頬を撫でたのだ。

 撫でると言うよりは刎ねるようだった。

 剃刀のように鋭い。だが、軽くはない。

 鉈のように重い。だが、鈍くはない。

 独歩の手刀のイメージが、華琳の中で、知るはずの無い日本刀と重なった。

 

「親父……ホントにヤル気じゃねぇか」

「でしょうね。じゃなきゃ、春蘭が浮かばれないわ」

「……まさか、お前の中で終わり扱いになってんのか?」

「言い方が悪かったわね」

 

 華琳はそう言い、視線を春蘭に向けた。

 春蘭は顔を地面につけ、うつ伏せに倒れていた。

 

「もう終わりか。寂しいじゃねェか」

 

 独歩はそう言い、春蘭を見下ろした。

 

   参

 

「もう終わりか。寂しいじゃねェか」

 

 そんな声が聞こえた。

 終わるものか。

 こんな簡単に終わってしまったんじゃあ、意味がない。

 まだやっていたい。

 ああ、クソ。

 身体が動かない。

 クソ。

 あそこで痺れているのは、誰の足だ。

 これは誰の腕だ。

 重いものが身体に乗っているのだったら、それは力で除ければいい。

 だが、それはこういう問題じゃない。

 クソ。

 

「仕舞いだな」

 

 そう言う声が聞こえた。

 クソ。

 動け。

 動けっ。

 動け!

 

「あああああ………」

 

 木刀を地面に突き立て、それを杖にして立ち上がる。

 このまま終わるのは耐えられない。

 まだ足元がフラフラする。

 それでも立った。

 

「オオゥ……立ち上がれたじゃねェか。手を貸そうかと思っていたんだがなァ」

「抜かせ」

 

 長く話す余裕はない。

 私は両手で木刀を握り、構えた。

 まだ、やれるか?

 考えるな馬鹿。

 やれるのだから、今、こうしている。

 スゥと息を吸う。

 少しの間で良い。

 この僅かな休憩が取れただけで十分だ。

 

「かぁ!」

 

 声をだし、木刀を振る。

 休みたいという気持ちはある。

 だが、独歩に攻められては休めない。

 ならば攻めながら休む。

 これしか手がない。

 木刀が独歩の顔面をかする。

 少し驚いた顔をした。

 ふふん。

 この程度で驚くな。

 まだまだこっからだ。

 さっきの表情はよかった。

 通用している、ということが分かった。

 私の技が独歩に通用している。

 それだけで、不思議と力が湧いてきた。

 身体の底からコンコンと力が湧く。

 見ろ。

 もう足が震えていない。

 それどころか木刀の鋭さが増していく。

 まだだ。

 まだ上があるはずだ。

 振る。

 振る。

 振る。

 クソ。どれも避けられた。

 なら、次はどうなる?

 来る!

 拳だ。

 どっちから来るか、なんてものは分からない。

 だが来ることだけが分かる。

 む?

 なんだ、これは。

 目の前から私の身体を通り抜けるように、白い光がある。

 そこを独歩の拳が通り抜けた。

 まただ。

 私がどんなことになっているのか。私はどんな領域に踏み込んだのか。

 分からないが、さっき倒れたことで何かが変わったらしい。

 次だ――

 次に拳か蹴りが来たら、反撃する。

 動いた!

 それと同時に、木刀の柄で独歩のアゴを叩いた。

 独歩の身体がグラリと揺らいだ。

 

「しぇあああああっ!」

 

 叫んだ。

 喉が裂けそうなぐらい、大声で。

 どうだ、独歩。

 やられっ放しでいるわけじゃないぞ。

 これでさっきの分は返した。

 これからだ。

 こっからだ。

 

「あああああ!」

 

 私だって立てたのだ。

 独歩も立ち上がれるだろう?

 起き上がれ。

 これで終わっては寂しい。

 頼む。

 なんだっていうのなら、手を貸してもいい。

 今だけだ。

 後になれば、もう立つな、と心から願うことになる。

 だが、今だけは別だ。

 独歩の身体が動いた。

 そうだ。

 立ってくれ。

 ユラリと巨体が動いた。

 足元の土と小石を踏みしめる音がする。

 そして、ユラリと独歩は立ち上がった。

 

「効いたァ~」

 

 独歩はそう言い笑みを見せた。

 

「まさかあんなタイミングで貰っちまうなんてなァ……」

「…………」

 

 何も言わなかった。

 さっきのアレを言ったところで、信用されないだろう。

 それに、今も出来るか分からないのだ。

 言って何になる。

 

「アレを何発もされちゃよォ、こっちが不利だわな」

 

 そう出来はしないだろう。

 私はそう思う。

 だが、独歩がどう思っているのかは分からない。

 

「なァ春蘭。オイラも武器を使わせてもらうぜ」

 

 独歩はそう言い、私の方に向かって歩み出した。

 間合い。

 あの光は見えない。

 そして――独歩の拳が動いた。

 何も変わっていない。

 そんな印象だ。

 ならば何故、武器なんて言葉を……?

 私は右手の方に持ち替えていた木刀で、独歩の拳を落としに行った。

 刃は使わない。

 柄で叩く。

 そして、柄と拳が交わった。

 

   肆

 

「……独歩は武器を隠し持って……いや、ないわね」

 

 華琳は独歩の全身を見て、言いなおした。

 服には不自然なふくらみがない。

 ドスやナイフ一本ですら持っている風ではない。

 

「親父の武器は……五体そのものだ」

「だろうな……。戦い方が武器を使う人間のソレではない」

 

 秋蘭はそう言い、自分の弓を強く握った。

 

「なら、何で今更になってそんな宣言をしたのかしら?」

「そうか。お前等は見たことないんだよな、親父の本気」

 

 克巳はそう言い、息を吸った。

 

「親父が今まで教えていたのは、あくまで競技としての空手だ。いや……競技空手の中で実戦でも使える技術を教えていたってトコだろうな」

「なら、ここからは競技ではなく……」

「ああ。武道としての空手だ」

「独歩殿も人が悪い。あれだけ教えておいても、まだ隠し事を残していたとは……」

 

 秋蘭が言った。

 

「隠し事なんて、そう大きなものじゃない。教えてくれって言えば、親父も教えてくれるはずだ。ただ、誰も出来ねえだろうとは言うと思うけどな」

「だから言わなかった……ということか」

「ああ。親父の言う武器ってのは、鍛え上げた拳足そのものだ。拳ってのは鍛えると鈍器になり、その上に刃物がある。親父が言う武器ってのは、それだ」

 

 克巳はそう言い、春蘭の顔に視線を向けた。

 

「春蘭……こっから先は地獄だぞ」

 

 カランと渇いた音がした。木刀が地面に落ちた音だ。

 春蘭は左手で右手の甲を抑えていた。

 額にはあぶら汗が浮いている。

 

「……折られたわね」

 

 華琳がつぶやいた。

 

   伍

 

 激痛。

 それが右手の中で出来た。

 確かに、柄で独歩の拳を叩いた。

 だが、柄が敗けたのだ。

 柄にヒビが入り、逸れた。

 そして勢いのまま、独歩の拳が私の右手を打ったのだ。

 激痛。

 右手では握ることも出来ない。

 

「……折れちまったなァ」

「……そうだな」

 

 私は左手で、右手の袖を掴んだ。

 力を入れると布が裂ける音がする。

 

「今、倒そうと思わんのか?」

「やっちまってもいいが……それじゃ面白くねェだろ?」

 

 独歩はそう言い、その場に座った。

 正座だ。

 待つつもりか。

 そうか。それでもいい。

 私は力を入れて、袖を切りつづけた。

 そして、完全に切ってから、木刀を拾い、それを右手に巻きつけた。

 強く縛る。

 木刀を握るのが出来ないのなら、右手に固定するしかないのだ。

 独歩は正座したまま、それを見ていた。

 

「……出来たぞ」

「もうちょい待つかと思ったが、そこまででも無かったなァ」

 

 独歩はそう言い立ち上がった。

 膝についていた砂が、パラパラと落ちる。

 それを軽く払ってから構えた。

 

「きなァ」

「私から行かねばならんか?」

 

 独歩はニヤリと笑みを浮かべた。

 そうか。

 なら、入り込もう。

 気負わず――思わず――

 ただ水が流れるように。

 

「しぇららららっ!」

 

 そうは思っても、恐い。

 ずるいぞ。

 本当にずるい。

 あんなことが出来るのなら、教えてくれたっていいだろう。

 狂ったように叫んで入る。

 もういい、考えるな。

 ここまで来たら考える必要は無い。

 振れ。

 叩け。

 やることはそれだけだ。

 考えはいらないだろう?

 闘いの中へ、踏み込むだけだ。

 

   陸

 

 どれほど時間が経ったのだろうか。

 陽が落ち始めている気がする。

 わからなかった。

 疲れと痛みはある。

 多分、闘っている分だけある。

 それが一瞬の間に出来たのか、それとも、何刻をかけて出来たのかは分からない。

 不思議だった。

 闘っている相手は誰だ?

 ああ、そうだ。独歩だったな。

 独歩はどうだ?

 いくつか痣がある。

 誰がやったのだ!?

 私か!?

 拳が来る。

 それを避けた。

 独歩には疲れきった様子がない。

 多少、汗が流れて息が荒くはなっているぐらいか。

 そういえば、年はどれぐらいだったか?

 若くは無かったはずだ。

 まだ持つのか。

 だが、次の一撃で疲れがもっと出てくるかもしれない。

 そう思い、何度も叩いた。

 叩いた?

 そうか、やはり私が叩いていたのか。

 拳が痛い。

 明日はどうなっているのか?

 いや、そもそも明日というのがあるのか?

 勝ちたい――

 心からそう思う。

 どうすればいい?

 こうして木刀を、拳を、蹴りを当てれば倒せるのか?

 剣を使えば一発だったろうに。

 でも、それなら独歩も本気できて、こっちの方が先に死ぬかもしれん。

 うん……もしもは無いな。

 もしもなんてことを考えても、どうにもならない。そんなことを考えるぐらいなら闘って、叩いて倒すのがいい。ほら見ろ目の前に拳が来ている。だからこんなことを考えずに叩いているのがいいいや違う叩くのではなくて落としてそして痛やられた打返して血こうほら叩いて右木刀でほら隙に来た避けて打赤いのがどうだ効いたかいやダメかまだ来る空が……

 突き上げの一撃。

 それがアゴをかすった。

 避けていた。

 だが、拳の骨がアゴに引っかかって突き上げたのだ。

 だから今、空を見ている。

 あれ?

 どうなっているのだ?

 立っているのか? 倒れたのか?

 ダメだ。意識がオカシクなっている。

 ガクンと力が抜けるのと同時に下を見ると、まだ足は地面の上にあった。

 よかった。

 これで倒れてなんていたら、もう起き上がれなくなっている。

 でもどうする?

 次が来たら、もう終わりだ。

 それはイヤだ。

 もっとやっていたい。

 もっともっとだ。

 だから倒れられない。

 いや倒れないだけじゃない。

 勝ちたい。

 勝つためにならどうすればいい?

 痛み。

 蹴りだ。

 独歩が足を蹴った。

 ズルいな。

 倒されたら、そこで終わるのに。

 そうされたら、続けられない。

 勝ちたい――

 どうすればいい?

 負けたくない。

 敗けたくない。

 今まで独歩に勝つために鍛えてきたのだ。

 まけたくない。

 頭で思う。

 それだけじゃない。

 額も眼も鼻も頬も口も顎も首も肩も胸も腕も腹も腰も股も腿も脛も足も指も思っている。

 舌も骨も血も思う。

 爪先の先の先。髪の毛先の先の先もだ。

 敗けたくない。

 内臓を吐いても敗けたくない。

 どうすればいい?

 どうすればいい?

 ガリっと体の中で、何かが私を引っ掻いた。

 何か凶暴なものだ。

 それが叫ぶ。

 やれ、と言った。

 指で突け……眼を突け――

 そう言った。

 抉れ。

 何を思っているんだ。

 独歩は片目だ。

 私と同じ。

 残った左目を潰したら、どうなるか。

 想像はつく。

 やれ。

 馬鹿。

 何を甘いことを考えている。

 そういう闘いだったはずだ。

 本気でやる――

 それは、こういう意味だ。

 潰すのが良いのなら、潰す。

 相手の人生など考えることではない。

 そういう闘いだろう?

 やれ。

 いきなり眼を潰せないのなら、まずは金玉をやれ。

 意識をそっちに向けろ。

 蹴り上げればいい。

 当たっても当たらなくてもいい。

 もちろん、当たれば最高だ。

 やれ。

 やるのか?

 逆に言うが、勝ちたくはないのか?

 …………。

 やれ。

 やるんだ。

 

「ひいいいいいいいいいいいい!」

 

 叫んだ。

 まず動いたのは、左拳。

 偽だ。

 それと同時に蹴り上げる。

 男の股を蹴り上げればどうなるか、なんてことは知っている。

 場合によっては血が出て、その中に白い肉片が混ざっていることもある。

 そうなれば立っていられない。

 それどころか、意識を保ってもいられない。

 

「独歩ォ!」

 

 叫んだ。

 蹴った。

 蹴り上げた右足に、独歩の体重がのる。

 重い。

 やった。

 これで突ける。

 

「おきゃぁっ!」

 

 木刀ごと右手で独歩の首をとった。

 そして左手の指で突く。

 外さない。

 残っている左眼を思い切り。

 スマン。

 当たらなかった。

 外した。

 違う。

 激痛。

 防がれたのだ。

 左手の人差し指と中指の間が裂けている。

 そういえば言っていたな。

 ああ、武器を使うとはそういうことか。

 手刀で切り裂いたのか。

 指の間から桃色の肉が見える。

 そこに血が溢れ出す。

 私はそれを見て、呆然としていた。

 

「おい」

 

 一言だけ声がした。

 そして背中に衝撃があった。

 ああ、倒されたのか。

 独歩の顔が視線の真上にある。

 

「残念だったなァ。オイラの金玉蹴ったって、そんなの効かねえんだ」

「去勢でもしたか……」

「面白いこと言うじゃねェか。これも技だぜ」

 

 独歩は笑っていった。

 

「コツカケって言うんだ。キンタマを体内に収納して、金的から守るってワザだ」

「……なんで、教えてくれなかったのだ」

「教えたって意味ねェだろうが」

「……そうだな。なら、それをしたのか……」

「いや、してた」

「……そうか」

 

 なんだ。

 最初から蹴られることを考えていたのか。

 私は感心するのと同時に、どこか寂しさも感じた。

 

「さて……ところで、まだ決着はついてねえよな」

 

 独歩はそう言い、私の目の前に拳を突きつけた。

 

「春蘭よォ……マジで終わらせちまうぜ……」

 

 独歩はそう言い、拳を引きあげた。

 下段突き――

 試し割とかをするアレだ。

 それを、私の顔面に――!

 拳が落とされた。

 一瞬、脳裏に今までの事柄が浮いてきた。

 走馬灯!?

 マズイ――

 やる気か!?

 顔面を潰されるのか!?

 そう思ったら、急に背中に嫌な汗が流れた。

 身体に残っている体力を総動員して、身体を捻る。

 起き上がれない、などと言う場合じゃない。

 死にたくはないのだ。

 まだやらねばならんことがある。

 抗って抗って死ぬならともかく、何もできずに死にたくはない。

 首をひねり、その勢いで身体を捻る。

 すぐ近くを恐ろしい何かが通った。

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

 恐る恐る横を見た。

 独歩の拳が通る所だ。

 拳は止められていた。

 ただ、地面の直前で、だ。

 それがどういう意味か、私でも分かる。

 立て!

 でなければ、本当に終わってしまう!

 木刀を地面に突き立て、総身の力で立ち上がった。

 ヨロヨロとする。

 それでも立った。

 激痛。

 手の中から、痛みがあった。

 

「続きだ……!」

「ああ。やろうじゃねえか」

 

 クソ。

 休ませてくれ。

 本当なら、そう言いたい。

 また始まった。

 最初に一撃を与えたのは私だ。

 木刀が独歩の脇腹を打った。

 だが、独歩の顔は疲れ切っていない。

 当然、疲れは見て取れる。

 それでも叩いた分の疲れが見えない。

 もう、何発も叩いている。

 十、二十なんてものじゃない。

 むしろ、独歩より私が叩いているぐらいだ。

 なんでそうしていられる。

 あと一発。あと一発ブッ叩けば……。

 

   漆

 

 あと一発。

 こう思って、何度叩いたか。

 なんど、戻ってきたか。

 それでも、もう限界だ。

 何で闘っているのか、誰と闘っているのか分からなくなる。

 痛い。

 身体がそこら中から痛む。

 クソ。

 疲れたな。

 もういいだろう? 休んでも。

 そう言えば最近、好きなものを食べた記憶がない。酒を飲んだ記憶もだ。

 どんな酒がいいだろうか。

 熟成させた老酒とかいいかもしれん。

 それを好きなものと一緒に飲むんだ。

 何故、がまんしていたのか。飲んでおいた方がよかった。

 いまからでもイイだろうか。

 誰と一緒に飲もうか。

 徐州をとったのだ。

 華琳さまも秋蘭も忙しくなる。

 独歩がいいな。

 それがいい。

 話したいことがいくつもある。

 聞きたい事もいくつもある。

 うん?

 なんだ独歩。

 そこにいたのか。

 それに何だ?

 妙な表情をしている。

 疲れているような顔だ。

 そうか、お前も疲れているのか。

 私もそうだ。

 なら、言わなくては。

 独歩。一緒に酒を飲みに行かないか?

 一緒にいい老酒でも飲もうじゃないか。

 いい店を知っている。城にあるのだって悪くない。

 味だけじゃなく、香りもいい。

 今やっていることなんて、後でもいいだろう。

 なぁ、独歩。

 

 なあ……

 

 嘘じゃない。

 私は本当に、そう声をかけそうになったのだ。

 

 みしり

 

 と頭がなった。

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