真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
これも、この駄文を読んで下さる方々のおかげです。今後とも、よろしくお願いします。
今回は武神のターンです。楽しんで頂けたら幸いです。
「残念ながら、まだ情報はないわ」
「そうか……。ありがとうよ華琳」
質素な部屋だ。派手な装飾品は全くない。
だが、この部屋の主はそれに似つかわしくない。
部屋の主は、どこか気品のある金髪の少女だ。
その部屋に、男性が居た。
顔面は傷だらけ、スキンヘッドで、眼帯をした男性だ。
愚地独歩である。
独歩は華琳に調査の結果を聞いたが、内容はあまり良いものではなかった。
「貴方がいた辺りでコレだから、もっと遠くにいるかもしれないわね……」
「そこら辺はお前さんに任せるぜ。ちょっとぐれえ遅くなろうが、烈と克巳なら死にはしねェ」
独歩はそう言ってクク……と笑った。
二人の心配はしていないのだろう。
そして、華琳に背を向けて、独歩が部屋から出ようとしたときに外から声がした。
「どっぽー! ボクの相手の時間に……って流琉! 何でボクの口を塞ぐのさ!」
「失礼だって季衣! “さん”とかつけないと!」
「だって、独歩はいらないって言ってたよ」
声の主は最近、新しく入ってきた二人組だった。
二人とも背は低い。
片方はピンクの髪で、もう一人は緑だ。
許楮と典韋だった。
「ほら、呼ばれてるわよ。独歩」
「ああ。分かってるぜ」
ありがとよ、と華琳に礼を言い、独歩は部屋から出た。
部屋の外には季衣と流琉がいた。
二人はケンカ、というよりはじゃれている感じだった。
独歩はその中に入っていった。
「季衣、稽古つけてくれってか?」
「うん! 勝負だ、独歩!」
「季衣! だからぁ……!」
「気にすんな。少年部のガキ供の方がもっと生意気だぜ。一々こんなことで、目くじらたてねェよ」
独歩は人懐っこい笑みを浮かべた。
流琉はでも……と渋っていたが、季衣も独歩も、気にしたふうはない。彼女は説得するのを諦めて、二人について行った。
行き場は普段から使っている修練場だ。
昼時の今なら誰もいないだろうが、先客がいた。
「遅いぞ独歩!」
「春蘭かァ……」
そこには春蘭がいたのだ。
すでに軽く汗をかいている。アップは済ませてあるのだろう。
その片手には木剣が握られていた。
「確かよォ……お前さん、今は軍の鍛錬じゃねえのか? 秋蘭が昨日そう言ってたぜ?」
「何!? 確か明日だったような……」
「「春蘭様……」」
先客はいない、と独歩が思っていたのはこの理由があった。
ちょっと冷めた三人分の視線が春蘭に集中した。
春蘭は気まずいのか、汗の質が変わったようにみえる。
全員が無言だった。
この中で口を先に開いたのは独歩だった。
「ま、これについては黙っててやるからよ。さっさと行ってきな」
「むぅ……!」
「んな反応してもダメだ」
春蘭もマズイ状況だ、というのは理解しているのだろう。
ちょっと唸ったが、諦めて出て行った。
どこか、しょんぼりとした感じで、とぼとぼと出ていった。
よほど楽しみにしていたのだろう。
修練場に残った三人は、苦笑いをして見ていた。
「ったく、アイツは物忘れが激しいな」
「まあ、春蘭様だし」
「季衣!」
俺よりヒデエ。
そう言って独歩は笑った。
壱
しばらく経っても、独歩のもとに克巳と烈海王の情報がくることは無かった。
届くのは別の情報ばかりであった。
黄巾賊。
これが情報の大半だった。
明らかに三国志の序盤での話である、黄巾の乱だ。
これにより、華琳の仕事に賊退治が増え、中々情報収集は出来なくなっていた。
しかし、独歩は別に気にしてなかった。
気になったのは寧ろ、目の前に居ない二人でなく、目の前の二人だった。
春蘭と季衣のことであった。
二人は戦から帰ると、まずは独歩に戦果を教えに来た。
勇ましい報告だった。
敵の真ん中で戦ったが、独歩の訓練のおかげか、無傷だった。
賊の頭を簡単に討ち取った。
敵に突撃しても、今なら死ぬ気がしない。
本当に嬉しそうに独歩に話した。
だからこそ、独歩は不安になった。
不安から秋蘭、流琉に、戦場での二人をどう思っているのか聞いても、素晴らしい働きだった、ちょっと心配だけど……という返事だった。
だからこそ、独歩は憂いていた。
「華琳よォ、春蘭と季衣の言葉は本当かい」
「ええ。二人の武は頼りになるわ」
華琳の執務室に独歩は行った。
独歩は、二人に釈然としないモノがあった。
いや、もしかしたら、武官の四人全員にかもしれない。
「武かァ……」
「ええ。何でもかんでも突撃、というのは勘弁してほしいけどね」
「なァ、そいつはホントに武か?」
「え……?」
華琳は独歩の質問に戸惑った。
独歩はしっかりと華琳の目を見て口を開いた。
「武って字の由来ってのはなんだァ?」
「矛を持つ兵が歩く姿が元よ」
「なら、何で“止”って字が中に残ったんだろうなァ。足という字の下に近い、“少”でも良かったハズじゃねえか」
「独歩、それはまるで、子供が親を困らせようとしてるみたいよ」
「いいからチョット真面目に考えてみな」
そう言われ、華琳は真面目に考えてみたが、答えはでなかった。
今まで教わったことでもなければ、考えたことでもなかった。
華琳が沈黙している間に独歩は答えた。
「武ってのは、確かに人をぶっ壊すモンだが、矛を止めるって意味も持っちまったんだよ。敵を殺すじゃねえ、生き延びるためってのが、武の本質ってモンだ。」
「でも、それは通用しないわ。殺さないと殺される。それが現実よ」
「分かってるぜ。だけどよォ、敵に突っ込む特攻は武の姿として、本当に正しいか? 敵を殺せれば武として万々歳か? 胸を張って武と言えるか?」
華琳は答えられなかった。
答えるわけにはいかなかった、のかもしれない。
自分は敵を斬るための武を磨いてきたし、磨かせてきたのだ。
今更、否定は出来ない。特攻を諌めることは出来ても、後者は否定できない。
今、華琳は窮していた。
「なら、独歩はどう思うの?」
華琳は、うつむいて言った。
せめて、軽くでも反撃したかった。
「武の本懐は、鮮やかに敵をしとめることじゃねェ。たとえみっともなくとも勝つことだ」
「不意討ちもまた武、とでも言いたいのかしら?」
「そうだ」
華琳は皮肉交じりに言った。
だが、独歩は強く肯定した。
「おかしいわよ……! そんな誇りのない武に何の価値があるってのよ!」
「武ってヤツは元からズルいんだ。正々堂々に誇りはねェ。お前さんは目の付け所を間違ってんだよ」
「元からズルい? そんなワケが……!」
「あるぜ。鍛えなくったって、技を使わなくたって、強いヤツはいる。ソイツにどう追いつき、闘って倒すか、生き残るかが武だ」
独歩の目は、どこか別の所を見ているかのようだった。
華琳は、誰の事を考えているのかは分からない。だが、知ってる人の中にそのような人がいるのだろうとは、想像がついた。
「まァ、今俺が言いてえのは誇りじゃねえ。俺が言いてえのは、武で大切なのは生き延びること、だ。それがあの二人に見えてんのかってな」
それを華琳の口から春蘭と季衣に言っちゃあくれねえか、と独歩は言った。
だが、華琳は首を振った。
死ねと言いたいわけではない。
「それなら独歩の口から言うべきよ」
「俺から?」
華琳はええ、と答えた。
「あの二人、意外と独歩のことを尊敬してるのよ。だから、独歩の口から言って」
「おだてるねェ。お前さんの方が尊敬されてんだろうが」
「でも、武に関しては貴方が上よ」
「そうかい……」
「後、明後日にはまた出陣だからそのあとでお願いね」
気に負って死なれては、独歩も困るでしょう、と華琳は言った。
独歩は分かったと言って部屋を出た。
弐
独歩は帰ってきたらこの話をするかと考えていたが、出陣前日、問題が起こった。
兵糧不足だった。
華琳が指定していた量の半分しか無かったのだ。
華琳はその担当者を呼び出した。
その場には愚地独歩も居合わせた。
担当者は猫の耳を模した頭巾をかぶっていた。
性格はキツそうな、新しく文官として採用された少女だ。
名前を荀彧といった。
士官募集でやってきた文官で、秋蘭も才能を認めている。
曹操には文官が足りなかったこともあり、迎え入れられた。
だが、担当した仕事でこれでは、その才も無意味だ。
呼び出した側の華琳からは苛立ちが読み取れた。
結果としては、兵糧を新しく仕入れる時間もなく、出陣になった。
出陣した理由としては、荀彧が理由を説明できたからだ。
――自分の策の通りに出来たら、この量で十分だ――
荀彧の言葉を要約したら、このことだった。
独歩は近くでこれを聞き、戦場までついて行くことにした。
策が気になるのではない。気になるのは武官だ。
この場で四人が、どうするのかを見たかった。
「どうかしら荀彧」
「上々です。精鋭というだけあり、予想以上に上手くいってます」
「そう」
独歩は本陣から真っ直ぐ、戦場を見ていた。
独歩の目には、夏候惇の旗と許楮の旗が、敵陣深くに切り込んでいる姿があった。
「荀彧よォ……ありゃあ、お前さんの指示か?」
「話しかけないでよ片目! アンタからは加齢臭がするのよ! このハゲダルマ!」
「ハイハイ、でどうなんでぇ」
「……管轄外。あの二人の判断よ」
独歩が凄むと、荀彧は直ぐに答えた。
虎殺しの圧には勝てなかったのだろう。
それを聞き、独歩は黙りこんだ。
その目には、勝ちどきをあげる旗が目に入ってきた。
参
戦には勝った。内容としても快勝だ。
独歩も動く必要はなく、本陣から眺めているだけでよかった。
荀彧の策は上手くいった。
だが、たった一つだけ不幸があった。
食料が切れたのだ。
不幸中の幸いか、切れたのは陳留手前であったため、大事にはならなかった。
「うぁ~! 腹が減ったぞ!」
「僕も……」
「ったくよォ、原因は季衣が食い過ぎたからじゃねェか。ま、帰ったらソバ茹でてやるぜ。城にも連絡してあるからスグだ」
「愚地殿、そのような事をせずとも、休まれては……」
「とは言ってもよォ秋蘭。結局何もしてねえから、俺ァ疲れちゃいねえのさ」
「守りに流琉を残して正解だったわ。ねえ桂花」
「え、ええ……」
「そう縮こまらなくていいわよ。皮肉のつもりじゃないわ」
陳留に戻り、軍は休息ということで解散。独歩達は城に戻った。
城に伝令がいってたのか、食事の用意はできていた。
だけど、独歩はまず厨房に向かった。
「流琉、ソバの用意してあるかい」
「愚地さん、そこに」
「ありがとよ」
湯を煮立たせ、ソバを入れる。
独歩の目は、懐かしそうな目だった。
「愚地さん。何かありましたか?」
「いや、なんでもねえや」
――帰ったら、おソバゆでたげる
肆
飯の後に独歩は春蘭と季衣を、独歩の部屋に来るよう呼びつけた。
時間は特に指定せず、飯の後に二人揃って来いとだけ言ったのだ。
「独歩、私たちに話というのは何だ?」
「ボク達、何かやった?」
「まあ、そこに座れや」
二人は椅子に座り、それを確認して独歩は話しだした。
「戦……見てたぜ。あれを見た限りで言うが、今までの話は全部ホントみてえだな」
「うむ! 今まで疑っていたのか?」
「いや、違ェ。疑いたかった」
「疑いたかった? どういうこと、独歩?」
「お前さん達は、武ってのを勘違いしてんだよ。武で大切なのは、生き延びる事だ」
お前等は、死ににいってるみてェだ。
独歩はそう言い、しっかりと二人を見据えた。
指導する立場から言ってるのではない。武神・愚地独歩として言葉にしている言葉であった。
「独歩。勘違いしてるのは、独歩の方だ」
春蘭も武人として、将として口を開いた。
やはり、独歩を見据えている。
そして、重くしっかりと口を開いた。
「私は華琳様のためになら、死んでもかまわん。覚悟なら、とうに出来ているのだ。私の武は華琳様の敵を斬る武でいい」
「死んだら終わり、とは思わねえのか?」
「華琳様が生きるのなら終わらない」
「へぇ……季衣はどうだい」
独歩は季衣を見た。
季衣はまだ幼いが、それでも独歩を見て、答えた。
「ボクも……華琳様のためなら……華琳様なら今の世の中を変えれるだろうから……」
弱々しいが、それでも自分の意志で、誰にも強制されずに、呑まれずに季衣は言った。
独歩はそれを聞き、フゥーと、若干大げさ気味に溜息を吐いた。
どこか、父親みたいだった雰囲気は完全にない。
それでも、優しく言った。
「一つ言っておくぜ。俺はお前らに、人をぶっ壊すだけじゃねえ、生き延びるための術を教えてんだ。そこは
春蘭と季衣は深くうなずいた。
伍
その日からは、独歩の周りが色々と変わってきた。
まず、独歩の所に来る人が減った。
忙しいのか、来る気が無くなったのかは分からない。
そして、城内の雰囲気だ。
賊の行動がさらに大きくなったらしく、文武官共に、暇な時間というものが無くなった。
何故なら、賊の報告への対処が格段に増えてきたからだ。
その中で、大きな動きがあった。
村落へ賊軍三千が向かっているというものだ。
当然、そこへは軍を向かわせるべきだが、いかんせん賊の動きが予想より素早い。
更に、連日の討伐で兵には疲労がたまっている。
まともに編成して行くのでは間に合わない。
そのことから、華琳は秋蘭に流琉と共に、先遣隊として出向くように命じた。
陳留には桂花を残し、本隊に華琳を始め春蘭、季衣。そして、独歩。
連れて行ける兵が少ない以上、苦肉の策だった。
本隊はなるべく速く、しかし疲労はたまらぬようにした行軍だった。
対して、秋蘭と流琉はなるべく早く着くように、そして守るようにさせた。
おそらく、今はもう着いているハズであった。
陸
「夏侯淵だ」
「典韋です」
作戦通り、秋蘭と流琉は目的地に着いていた。
しかも、タイミングもベスト。
賊の到達前で、体勢を固めるだけの余裕はあった。
更に、幸運にも、義勇軍を指揮できる人間もいたのだ。
「楽進です」
「李典や」
「于禁なの」
「宜しくたのんだ。指揮してたのは三人だけか?」
「いえ。もう一人……」
「村人の避難、終わったぜ」
丁度よく、一人の男性が入ってきた。
年齢はまだ若く、髪は短い。
身体の肉付きは、空手家にとっては理想的といえるものだった。
足腰にも上半身にも、程よく肉がついていた。
「どなたでしょうか?」
「愚地克巳だ」
この言葉に、秋蘭と流琉は反応を示した。
「では、愚地殿の養子……?」
「え? ひょっとして、親父のこと知ってんのか?」
「ああ。私の姉が世話になっている」
秋蘭はご無事ですよ、と答えた。
克巳は、心底安心したような顔をした。
秋蘭は話しが逸れたことに気付いたのか、咳払いをし、再び三人の方を向いた。
「では策だが、本隊も今、こちらに向かっている。それまで堅守し、私達の本隊が来たら挟撃をしてくれ」
漆
「銅鑼を鳴らせ! 鳴らしまくれ! 先遣隊に援軍の到着を知らせるのだ!」
「上手くいってるわね……」
本隊も村落の近くまで来た。
村落が陥落したような雰囲気はない。
賊は数では勝っているものの、押し切れていない。
なら、こちらが更に数で押したらどうなるか?
まず勝てる。
そう判断し、華琳は片手を挙げた。
「今よ! 我等の土地を汚す賊共を打ち取れ!」
「夏候惇隊! 私に続け!」
「ボク等もいっくよー!」
大多数の兵達が、声高く突撃していく。
先頭を走るのは二人だ。
春蘭と季衣がこの空気を作り出していた。
兵の士気は高い。
「どうかしら、独歩。あの子達への不安は、取り越し苦労だったと思わない?」
華琳は馬に乗ったまま、地面に立ってる独歩に話しかけた。
確かに、二人は心配しなくてもいいように見える。
「そうだといいがな」
「……何か言いたそうね」
「アイツ等、自分よりつええヤツにも、ああかもな」
「あに二人よりも強い人間……呂布のことかしら」
「烈海王のこともだ。あとは化けたら克巳だな」
「……そんなに強いの?」
独歩の言葉は重かった。
華琳は背中に嫌な痺れを感じた。
ピリピリとした痺れだった。
だが、その質がだんだんと変わってきた。
チクチクするような鋭さだ。
華琳は嫌な予感を感じた。
それと、独歩が動くのは同時だった。
「嬢ちゃん! 危ねえ!」
「何っ!?」
独歩は無理やりに華琳の右足を引っ張り、馬から引きずり落とした。
引っぱるのは荒っぽかったが、地面に下ろすのは足からと丁寧だった。
「独歩! 何を……!」
「いいから、俺の後ろにいな!」
独歩は華琳に背を向け、両手を胸の前に出した。
前羽の構え、と言われる構えだった。
そして、片目をグリグリと動かした。
「ひゅ~~」
かつて、地下闘技場で行われた一戦。
愚地独歩対範馬勇次郎、その一戦で使われた技であった。
――散眼
古代インドの僧が四方から飛んでくる矢を払い落とすため編み出した、左右の眼を別々に動かして見切るという伝説の技である。
独歩は右目を失ったが、上手く動かせば見つけられる。
何を見つけるか? 矢の打ち手だ。
陰から華琳の方へ、矢が向けられていたのだ。
そして、矢は放たれた。
意外と数は多い。十人ぐらいが狙っているのだろう。
「くッ! まさか賊がこっちにもいるなんてね……! かかれ!」
華琳は周りに居る兵に指示し、陰に向かわせた。
数は少ないが、鍛錬を積み重ねた精鋭だ。
すぐに陰から、切断音と断末魔が響いた。
「……礼を言うわ、独歩」
華琳は独歩に頭を下げた。
もし、独歩が遅かったら、いなかったら矢に打たれていたかもしれない。
現実にはならなかったが、有り得る話だった。
「礼を言うことでもねえだろうが」
「いえ……王として当然の……って! 独歩! 右腕!」
「あぁ? この程度、気にするもんでもねえや」
「でも、矢が刺さっているじゃない!」
「なぁに、片目で散眼ってのは、ちとキツかったってだけの話だ」
右が上手くいかねえや。そう言って独歩は笑った。
独歩は笑っていたが、痛々しい画であった。
鏃が独歩の太い二の腕に、深々と刺さっていたのだ。
細長い血が、つつつと独歩の右腕を這い落ちていた。
だが、独歩は矢を抜かず、村の方を見た。
「お、終わったみてえだぜ」
「独歩! ちょっと待ちなさい! すぐに矢を抜くから!」
「ンなもん後で問題ねェ。村の様子を見る方が先だろ、華琳よォ。俺は村で適当に処置するぜ」
当の本人は大して気に留めてもいない。
普通に歩き出していた。
かつて、左手を切り落とされた事と比べたら、矢ぐらいは屁でもないのだろう。
「ハァ……ちょっとは気にしなさいよ」
「こんなケガ気にするようじゃ、コッチでやっていけねえぜ」
行こうか、と言って独歩は村に向かった。
捌
村落に入ってからは、大変な騒ぎになった。
武神とまで言われた人間が怪我をしてきたのだから。
「お、克巳。元気そうじゃねえか。今まで何をしてたんだ」
「お、親父ィ! 何で右腕ケガしてんだよ!?」
「貴様、独歩の子だったのか!? それにしては……」
「姉者! そんなことより愚地殿の治療だ! 誰か! 酒はあるか!?」
「秋蘭様! 今、飲むのは……!」
「季衣、お酒は消毒につかうの! 早く探してこないと!」
「激辛の酒でしたらスグに持ってこれます」
「凪ィ! ソイツはアカン! 傷口に唐辛子って何考えとんねん!」
「お酒持って来たの!」
「でかしたぞ于禁! 愚地殿! 早く右腕を! すぐに治療します!」
「必要ねェぜ。こんなの
「独歩! 下手すると折れるから、私に任せろ! ふんぬぬ……っ!」
「姉者ぁっ! 頼むからそんなに焦らないでくれっ!」
玖
その日の夜、独歩は村の一軒家に泊まることになった。
怪我している以上、出来るだけ清潔な場所にいる方がいいと、流琉が提案したからだ。
独歩は『別にいい』といったが、春蘭と秋蘭に季衣もそう薦められ、しぶしぶと従った。
「ハァ……あんな騒ぐことでもねェだろうが」
「騒がれるに決まっているでしょ。それに怪我しなくても、一日はここに居なければならなかったわ。賊の動きを見るためにも」
独歩はそう呟き、包帯が巻かれた右腕をさすった。
華琳は直ぐに陳留に帰る予定でいたが、独歩が怪我したこともあり、ここに一日だけ滞在することになった。
それに独歩の怪我だけが理由でなく、村の復興、新しい人材の凪、真桜、沙和の三人の加入、そして愚地克巳の合流があり、四人の荷物をまとめる時間をとるためにも必要なことだった。
「こんなケガ、今までと比べたら問題でもねえ」
「……ねぇ、今まで独歩は何をしてたのよ」
華琳は純粋に気になっていた。
矢が深々と刺さっても、全く動じてなかった。
今まで、相当の数の修羅場を越えて来たのだろうと思っていた。
だが、独歩の答えは予想以上だった。
「中国、アメリカ、イギリスで色々とやり合ったなァ……。イギリスなんてのは紳士の国とか言われながらも、ビル・ライレーってのがいやがった。地下闘技場じゃ範馬勇次郎ってのと闘った。そん時には、敗けてこの目を失った。後は地下闘技場でリチャード・フィルスに天内悠、渋川剛気ともだな。路上ではドリアン、ドイルとアライJrと……」
「呆れたわ……」
華琳は溜息を吐いた。
意味は分からない所もあるが、言葉だけで、独歩の今までが何となく分かってきたのだ。
片目なのも、顔が傷だらけの理由もだ。
「生き延びるためが武、じゃないのかしら?」
「おうよ。だから生きてんじゃねえか」
華琳は再び溜息を吐いた。
「だから、今までと比べたら、こんなもん別に問題ねェ。何だってアイツ等はあんなに騒ぐんだか」
「……ねえ、独歩。多分だけど……みんな、貴方のことを本当の父親みたいにおもっているのよ」
そういわれ、独歩は一瞬目を丸くした。
だが、すぐにクク……と笑い出した。
「そりゃねえだろうよ」
「あくまで多分よ、た・ぶ・ん。面倒をみてくれるし、私達のことを考えて行動してくれる。……父親みたいじゃない」
「そうかい」
「ええ。春蘭と季衣なんて特に」
「そんなこと思われるくらいに、オイラはアイツらの面倒をみてるか」
「みてるわよ」
春蘭があそこまでなつくなんて、思ってもいなかったわ。華琳はそう言った。
独歩は、くくと笑った。
「夏恵が驚きやがるぜ。
「その人は独歩の奥さんかしら? そうね、きっと驚くわよ。……じゃあ、私も陣に戻るわ」
「おお。じゃあな」
独歩は左手を振って見送った。
華琳は振り返って答えた。
「ええ。おやすみなさい」
――義父上
今回は影が薄い克巳でしたが、刃牙知らない方のため、今回も解説をきっちり入れます。
きっちりした解説じゃないかもしれませんが……
6 愚地克巳 おろちかつみ
身長 186.5cm 体重 116kg ファイトスタイル 空手
愚地独歩の養子で5歳の時に独歩に引き取られた。※ちなみに、引き取られる前はサーカスで働いていた。
ベンチプレス300キロ、100m10秒台という規格外の体力の持ち主であり、義父である愚地独歩から「空手を終わらせた男」「空手界の最終兵器(リーサルウェポン)」と言われた。
ファイトスタイルの空手、というのは「気持ちのいいくらい正統派な空手」であるが、同時に他流派の技を学ぶ柔軟さも持っている。
当初は才能を鼻にかけた傲慢な男だったが、地下闘技場での闘いや死刑囚、ピクルとの闘いを経て、愚地独歩が築いた神心会の二代目館長として成長していく……
個人的なベストバウトは……VSピクルかVS花山薫かで悩んでいます。