真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
色々と展開を忘れかけてました!
魏軍の侵攻先は徐州のみではなかった。
徐州に兵を向けるのと並行し、西涼にも向けられていたのだ。
魏軍は多勢であった。
中央に真桜、沙和。知将に稟と風。
ジャックもいる。
騎兵は少ないが、それ以外のものは多い。
歩兵には槍と戟を持たせている。
槍兵には馬を突くように命じ、戟には足を切り落とすように命じている。
弓兵、弩兵は最も多い。
背中に背負った矢筒にはギッシリと矢がつまっている。
馬には長い杭を積んだ荷馬車を引かせていた。
この杭は馬防柵として使われる予定だ。
つまり、対騎馬を考えている編成であった。
これに対し西涼軍は奇襲と夜襲で対抗した。
西涼側の方が無勢である以上、正攻法での勝利は期待できない。
勝算がある方法は、相手を奇襲と夜襲で疲れさせて、そうして打ち破ることであった。
そうくることは魏軍側も理解している。
魏軍側はジワジワと場防柵で囲まれた陣を移動させながら進み、それに備えた。
だがそれだけでは弱い。
あいてはただ突撃するだけでなく、火炎瓶のようなものを陣に投げ入れてきたり、馬防柵を倒して杭を割るといった対策を用いてきたのだ。
魏軍にはもう一つ、押しの一手が必要だった。
そしてその一手のため、侵攻軍の中心となって指揮をしている稟と風は、とある人たちを呼び寄せた。
自分たちの策を預け、実行するために……。
壱
……そのハズだった。
あくまで策の実行のため、この人たちを呼んだのだ。
「だーかーらー! あの舞台はちぃ達が歌うためにつくらせたのっ! それを横から使わせろってどういうことよ!」
「悪ィがあそこの舞台がある土地の権利を持っているのがオレなんだ。最近になって買ったんだよ。そこを使わせろっていうのなら、オレの許可を取るのが筋だろうが」
「なら使わせなさい!」
「断るぜ。人を集めてプロレスやれる広さと柔らかい土があるのは、あそこぐらいだ」
陣幕の中で言い合いが起こっていた。
一人は青い髪をした少女だ。
背は低く、身体は細い。
顔は子供っぽく、愛嬌のある顔だといえる。
その隣では桃色の髪をしているのと、メガネをかけた少女の二人が立っている。
桃色の髪をしている少女は言い合いを抑えようとしているのか、それとも入っていくことができないのか、オロオロとした様子だ。
メガネをかけた少女は、言い合いに疲れたかのようにため息を吐いた。
それに対しているのは長身の男だ。
髪は黒いが、数本白髪も混ざっているように見える。
身体は衰えてきているとはいえ、太い。
特徴的なのは顔だ。
シルエットであれば、アゴが印象に残るだろう。
顔にはシワがよっている。
それを塗りつぶすように、バツ印の大きな傷が男の顔にはあった。
それが言い合っている二人の特徴だ。
言い合いをしている少女の方は地和といった。
黄巾の乱を起こした張三姉妹の次女であり、今はアイドルのようなことを生業にしていた。
桃色の髪をしているのは、その姉の天和。メガネをしているのは妹の人和である。
男の方の名は猪狩完至という。
最初は公孫賛の領土で団体の事務所をつくりプロレスをしていたが、それが袁家に併合、次に曹魏に併合されるにつれて営業範囲を広げてきた。
今でも団体の営業や、自身が出向いてプロレスをやっている。
で、その二人が言い合っている理由は何なのか。
原因の発端はある意味、稟と風の押しの一手の策であった。
「取りあえず、どっちが策を実行してくれるのか決めてもらえません? 私たちとしてはどっちでも構わないのですが」
自身の眉間を揉みながら稟が言った。
稟と風、二人の考えた策は、娯楽で相手を骨抜きにするということであった。
そのために娯楽で生計を立てている、猪狩と張三姉妹が呼ばれたのだ。
だが、蓋を開けてみれば、協力しあうとか、相乗効果というものはいっさいなく、場所の取り合いによるプロレスラー対アイドルというあまりにもあんまりな抗争が起こっていた。
「だったらコイツ黙らせてくれねえか? そうすりゃあ円満に決まるぜ」
「呼びつけておいて帰れっていうのは無いわよね?」
「はぁ……」
稟はため息を吐いた。
「っていうか! なんでいい年しているオッサンがワガママいうのよ! 少しは大人になって帰りなさいよ!」
「そりゃ出来ない相談だ。こっちには生活がある。オレだけじゃねえ、オレの下にいるレスラーとその家族のもだ」
「ちぃたちもよ! だから邪魔しないで、別のところですればいいでしょ! それなら何も言わないわよ!」
「その理由はさっき言っただろうが」
ため息を吐き、少し目を離した間にも言い合いは加速する。
お互いに生活がかかっているのだから、仕方がないといえば仕方がない話なのだろう。
「も~なんでもええけど……早う決めてくれへんと、工作部隊が仕事できんねん」
真桜が面倒そうに言った。
この戦での予定だと、工作隊も要である。
その総指揮は彼女に一任されていた。
陣を馬から防ぐための馬防柵の設置というのは勿論だが、猪狩と張三姉妹の手助けも今だけは工作部隊の仕事になっている。
そのため、この言い争いに決着がつかない限りは下手に動けない。
もし下手に動き文句が出たら、ただでさえ忙しい仕事が増えるのだ。
そのようなことになれば、工作部隊にとっては、やってられない、と思うのが当然だ。
「それにこっちにはいいレスラーが手に入ったんだ。簡単には譲れねえよ」
「ソレハ俺ノコトカ……?」
「いいじゃねえか。ジムを貸してやったりしたんだ。少しは俺にも協力しやがれ」
「シコルスキーヲブチノメシタノデ、イイダロウガ」
「トドメはガイアだろうが」
猪狩はそう言い、金髪坊主頭の巨漢を親指で指差した。
巨漢は今は服を着ているが、その下はトランクスと傷だらけの肉体だけしかない。
ジャック・ハンマーだ。
ジャックは舌打ち交じりで猪狩に言うが、猪狩は受け流すように答えた。
「取りあえず、問題を一個一個整理してからこれからの行動を決めましょうか~」
殺伐とした空気の中、のんきに風は言った。
「とりあえず、各陣営一人ずつ代表を決めましょう」
かけていたメガネを持っていた布で拭きながら稟が言う。
その言葉を聞き、猪狩はジャックを片手で制した。
「ジャック。下がってな」
「俺ハヤルトハ言ッテネエ」
もう一方では地和の代わりにメガネをかけた紫の髪をした少女――人和がでてくる。
「話し合いで決着をつけるのだから、ここは私が席についていいわよね」
「おねがいね~」
桃色の髪をした少女――天和は間延びした声で妹を送り出した。
弐
猪狩が持っている土地は交代して使うこと、張三姉妹が使うときには曹魏側が使用料を払うことに決め、なんとか言い合いを収めて計画を進めた。
それでも不満は残っている。
そうして、舞台、リングが作られる予定の土地ではそれがぶつかり合っていた。
「リングの広さだけどよ、もうちょい狭くしてもいいぜ」
猪狩はこう言った。
「う~ん……これじゃ踊ったりするのには狭いし、広くしてもいいよ」
それに対して天和はそう言った。
工作部隊はそれに黙って従って動いた。
これも立場が弱い人間の悲哀か。
広げていると猪狩に怒鳴られ、狭くしようとすると今度は人和から嫌味を言われていた。
「いい加減にしてくれへん……!」
工作部隊の指揮官である真桜はコメカミに血管を浮かべ、何かをこらえていた。
「仕方ねえだろうが。見てくれるお客に、いい加減なリングでやるプロレスで、金をとるわけにはいかねえだろう」
「それに対しては同感ですね。いい加減な舞台ではダメです」
猪狩と人和が言う。
真桜は疲れたようにため息を吐いた。
「それでも妥協はしてくれへん? 両方立てるっちゅうのは無理やで」
「断るぜ」
「無理です」
二人の声が重なる。
真桜はもう一度、たまった疲れと一緒に、ため息をついた。
参
なんとかワガママの妥協を引き出し、策を実行。
効果はあった。
二組の興業は盛況した。
それと同時に、奇襲夜襲の数も減ってきた。
元々、策を実行する前からも西涼兵にも疲れはあったのだろう。
それが娯楽という休憩で一気に噴き出したのか。
山登りで一度足を止め休憩すると、歩き続けていた時よりも、次の一歩が踏み出せなくなるような感覚か。
その間に魏軍は休んだ。
安心して眠り、気力を高めた。
そして進撃。
城まで目と鼻の距離。
そこまで来て陣を立てた。
西涼勢は対抗するかのように軍をだした。
大部分が騎兵である。
西涼の土地は漢民族の血だけではなく、五胡や蒙古といった騎馬民族の血も混ざっている土地だ。
そしてその土地柄からか、子供のころから馬に乗ることが多く、騎馬術が鍛えられている。
馬とは相性がいい。
その軍団の大将である馬超――翠は馬術の達人であった。
馬を駆る姿には美しさがあった。
人馬一体という言葉がある。
彼女はそれをよく体現していた。
馬の動きと彼女の四肢の動きは、よく馴染んでいた。
その傍らには従妹の馬岱――たんぽぽがいた。
まだ顔つきも体つきにも幼さがある。
だが、これも成長すれば翠のようになるのだろうか。
この軍勢を魏軍は沙和と真桜の軍が迎え撃った。
歩兵の軍隊だ。
訓練はよくされている。
野戦での大勢はすぐに決した。
歩兵と騎兵とを比べたら、騎兵の方が野戦では強い。
騎馬の強みは機動力である。
それは突撃力の強みでもある。
馬の体重、そして威圧感は、当時では最強レベルの兵器でもある。
それが魏軍に一気に襲い掛かった。
最初は善戦していた。
槍衾をしき、騎馬を攻撃して、その動きを止めていたが続く二陣、三陣の勢いに押されて壊走。
翠は追撃を指揮。
それは馬のいななき、戦場の喧騒の中でもよく響いた。
その指揮に従い、西涼の騎馬武者は攻め立てた。
壊走する魏軍を布のように引き裂き、突っ切る。
その先には敵陣があった。
「突っ込めぇっ!」
翠は大声で言った。
だが、それは策であった。
魏軍の策だ。
魏軍の陣の前には、ぬかるみがあった。
雨が降って出来たぬかるみではない。
策で作ってあったぬかるみだ。
「弓隊……放てぇっ!」
稟が指揮を下す。
「弩兵もですよ~」
風の声もそれに混じる。
そして矢が放たれる。
空を覆う程の矢。
矢の雨とはこのようなことを言うのだろう。
降り落ちた矢は騎馬、兵に刺さる。
翠と蒲公英は槍で払ったが、兵は払いきれなかった。
「二射! 放てっ!」
稟の声が再び響いた。
矢が放たれる。
「ひるむな! つっこめ!」
翠は叫んだ。
そして手綱を馬に叩きつけるようにして、走った。
ぬかるみを超えればそれでいい。
そういう考えからの行動だ。
敵陣の中には弓兵が多い。
陣への突破口を開け、そこからなだれ込めば勝ちなのだ。
必死だった。
翠は自分の意識を、ただ敵陣にだけ向けた。
馬もそれに答えた。
泥を踏みつけて馬は走った。
もう届く。
一息もいらない。
飛んだ。
翠の乗っている馬は、泥を意に介さず、飛んだ。
蹄が魏軍の陣の馬防柵を突き破る。
馬の巨体が木を叩き割る、メキメキという音。
その向こうに男がいた。
「じゃっくさん!」
稟が大声で言った。
それと同時に、翠の目の前にその男がいた。
「来な……」
ジャックが言う。
翠には何て言ったのかわからない。
言語が違う。
それでも意味は分かった。
やるのだ。
今、ここで。
「はぁっ!」
気を吐き、馬ごと突っ込んだ。
ジャックは避けない。
蹄がジャックを襲う。
潜り込んだ。
馬の腹に潜り込み、全力で馬ごと、ジャックは翠を持ち上げた。
フワリとした感覚を翠は感じた。
回転。
地面と空がだ。
衝撃。
翠の顔と髪、服に泥がつく。
ジャックは歩いてきていた。
破られた柵を越え、ぬかるんだ地面にまでくる。
ぐぶぐぶと泥から空気が逃げて、ジャックの足が沈む音がした。
ジャックの足首を泥が包む。
「ソッチノ小セエ方モ来ナ……」
ジャックは掌を上に向け、西洋式のおいでおいでをした。
翠と蒲公英にとって、見慣れぬ仕草であった。
肌の色も見慣れぬ白。
それだけに不気味だった。
「あたし等、二人相手にして勝てると思ってんのかよ」
翠は忌々しそうに言う。
ジャックは薄く笑んだ。
「テメェ等ニ手コズルヨウジャ、父ニ勝テネエ……」
「父親……何をいきなり言うんだよ?」
「オメェハ大勢デヤッテ敗ケテタダロウガ」
そこまで言われ、翠の脳裡に一瞬だけとある男が過った。
黒髪。黒い肌。黒い拳法着。
圧倒的な力。
強さ。
「範馬勇次郎か……っ!」
翠はそう確信し、表情に笑みを浮かべた。
「たんぽぽ! 軍の指揮は任せた!」
「お姉様、一人でやるの!?」
「ったりめーだ! 二人がかりじゃ指揮はどうすんだ!? それに……」
翠はそう言い、槍を頭の上で回した。
「コイツ一人で倒せなけりゃ、勇次郎は倒せねえしなぁ!」
翠は槍の切っ先をジャックに向けた。
肆
城内。
城壁に囲まれた街、そして奥にまで戦の喧騒は聞こえてきそうだ。
その奥の太守が暮らす建物の一室に、一組の男女がいた。
男は立っている。
女性は横になっていた。
上半身は起こしている。
男の方は中年。
あごに髭が蓄えられていた。
本部以蔵。
それが男の名であった。
実戦柔術、本部流師範である。
女性の方は妙齢だ。
顔色は悪い。
たびたび咳込んでいる。
病にかかっているのだろう。
「曹操の軍がここにまで来たか」
咳を抑えながら女性はそう言い、口元を袖で拭った。
袖が赤くなっている。
本部はそれを、見て見ぬふりをした。
「そのようで……娘さん二人も出陣した」
「勝算はあると思うか」
「厳しいでしょう」
「だろうな……」
女性はそう言い、懐に手を伸ばした。
名前を馬騰といった。
西涼の太守であり、異民族相手に守り続けた歴戦の猛者だが、今は病にその身を蝕まれ、その最期を迎えようとしていた。
「曹操も気が利く人間らしい……こうして死に場所を態々作ってくれるのだ。感謝しなければならんな」
「気弱になりなさるな」
「気遣いはありがたいが……自分の身体の調子は自分がよくわかる」
馬騰はそう言い、懐から抜いた手で、近くの机の上にある水を飲んだ。
「そういや本部。帰る手段は見つかったか」
「まったく見つからんなァ」
「そうかそうか。大損だったな、本部」
「大損とは一体」
「そうだろう? 自分の技術は他人に教え、逃げる機会を逃した。それで自分が欲した情報は手に入らなかった。これは大損だろう」
馬騰は愉快そうに言った。
「それは異なことを。こっちにも得はあったんですから」
「ほう?」
「この技術が役立つ戦場に立てる。これで十分です」
「戦場に立ちたい……か。いいものかね」
「いいことでしょう。自分の持てる技術、一切の制限なく使える。老いて技術が消える前に。それが幸福でないとしたらなんなのか……」
「そうだな……」
馬騰はそう言い、目を閉じあおむけに倒れる。
「本部。お前のいた世界は何度も聞いたな」
「ええ。こっちが話すのを疲れるほど」
「翠もたんぽぽも目を輝かせていた……」
「ええ」
「だが、私はお前たちが不幸に思えた」
「……」
「一体、何人が武に生きるんだろうな。その中で何人が思うことを出来るんだろうな」
馬騰は仰向けで、目を閉じたまま言い続けた。
誰に向けているのかも分からない。
仮に本部がこの部屋から出ても言い続けただろう。
ただ言い続けた。
「自分の覚えた技術を使えずに死ぬ。自分が闘いたい時にスグ闘えない。本気に闘えずに死ぬ。何人がそんな生殺しにあうんだろうな。不幸なものだ……。その分、範馬勇次郎には好感がもてた……。どこまでもワガママな生き方がな。私もああいう生き方をしたかった。今になって夢を見る。自由に馬に乗って駆けたことを、そして闘い、その中で死ぬ。それがもう出来ん……不幸なものだ……」
馬騰はそこまで言い、目を開けた。
「すまんな。最後に色々とぶちまけたくなった」
「いえ。色々と考えさせられました」
「そうか……」
馬騰はそう言い、窓を見た。
上の方だ。
窓から見える空は青かった。
徐々に下へ移す。
壁の色。
草の色。
そして木。
壁。
「本部……」
馬騰は呟くように言った。
「礼を言う……。ありがとな」
「……では」
「ああ」
本部がこの部屋から出る。
元から静かな部屋だったが、それがより静かになる。
馬騰はもう一度、懐に手を伸ばした。
そこには短剣があった。
今度は短剣ごと抜き出し、それを鞘からぬいた。
剣は日の光を浴びてキラキラと光る。
馬騰はそれを冷めた目で見て、再び鞘に納めた。
――自害はしない。毒も飲まない。
闘いの中で死ぬのだ。
馬騰はそれを決意した。
本部の賞味期限ってどんぐらいだろうか?
正直、自分はグラップラー刃牙の2巻あたりだと思ってます。保存料きかせて4巻?
バキでの柳戦のアレは発酵し逆に美味くなった、とか?
で、バキ最終話一歩手前で出て範馬刃牙じゃ影すらなかった本部が、今、刃牙道で復活ッッですからねえ。分からないものです
特訓シーンもいいですねぇ。夜に山籠もりして汗だくで棒を振り回すという、磨きぬいた己の五体以外の何者かに頼みを置く性根が光り輝いてましたね!