真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~   作:クーロン

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 二人は切り合っていた。

 だが、音はしない。

 するのは刃が空気を切り裂く音だけだ。

 相手の振ったのを避け、その隙に斬りつける。

 それを避ける。

 その繰り返しだ。

 沙和は無用に近づかなかった。

 相手の動きが分からない。

 剣を持ち出してはいるが、常に剣の間合いから、さらに一歩踏み込もうとしているのだ。

 拳の間合いに来るのだ。

 何かある。

 沙和はそれを確信していた。

 本部が着ているのは、道着に袴だ。

 袴を穿いて刀を振るのは絵になるが、本部の着ている道着はミスマッチだ。

 剣道着は袖が短い。

 それに対し、本部が着ているのは長い。

 まるで、掴んでくれ、とでも言いたげな袖だ。

 ――投げ……?

 沙和の脳裡によぎった。

 打撃を専門にする人間はよく知っている。

 彼女の親友の凪。そして愚地親子。

 そこに共通することにも気づいている。

 打撃をするのならば、手は丸いはずなのだ。

 手の甲がふっくらとしている。

 それに対し、本部はどうだ。

 丸みというのはあまり感じられない。

 打撃という印象はない。

 ならば投げか。

 沙和が投げにまで行き着いたのは、こういう理論からだ。

 考えたのは一瞬。

 その一瞬の間で、沙和の首元に刀の峰が触れていた。

 金属の冷たさが首から体内へ広がっていく。

 

「どうも……荒事は苦手のようで……」

 

 本部はそう言い、刀を引いた。

 刀を鞘に納め、右手で持つ。

 

「悪いことは言わん。他の人と交代した方がよいでしょう」

「……ふぅ~ん」

 

 沙和は闘いが嫌いだ。

 少なくとも、自分が強くなることには興味がない。

 自分を強くするよりは、綺麗に、可愛く着飾る方が好みだ。

 闘うということは、それと真逆にある。

 血、傷、腫れ、骨折を化粧と服のように美しいとは思えない。

 自分より強い者との闘いを心の底から望んで立ち向かっていくことを、尊敬は出来てもやりたいとは思わない。

 範馬勇次郎に指名されなかったときはどこかほっとしたし、花山薫と闘うのは怖かった。

 闘うのは厄介事だ。

 相手がその気でないのなら、それでもいい。

 それでも頭にくることは頭にくる。

 真っ向から弱いと言われ、去ってもいいと言われる。

 相手の闘う気は既に萎えている。

 こうなって言われておいて、黙ってその言葉に従える程、かよわい少女ではなかった。

 

「ちょっと……ほんのちょっとカチンときたの」

「ほォ……」

 

 本部が左手に、刀をまた持ち替えた。

 そしてズルリと刀を抜いた。

 さっきと同じように鋭い光をしている。

 沙和の剣も同様だ。

 片刃で細身の剣。

 闘い方も、刀身をぶつけ合って、鍔迫り合いをして勝つ闘い方ではない。

 素早く斬り、力勝負はしない闘い方だ。

 それではダメだ。

 沙和は思った。

 それでは駄目なのだ。

 それでさっきはやられている。

 踏み込まなくてはならない。

 沙和は息を吸い、剣を構えた。

 

「しゃぁっ!」

 

 可愛げのない掛け声。

 それと共に右手の剣を振る。

 本部は剣を合わせない。

 避けてから刀を振った。

 望むところだった。

 沙和はそれを左手の剣で抑えた。

 はじめて金属同士がぶつかった音がした。

 隙は一瞬だ。

 左手で本部の刀を抑えている隙に、右足は踏み込む。

 剣で突き刺しに行く。

 だが、右手を突き出したところで、身体がガクッと傾いた。

 さっきまで視界にいた本部が落ちて、代わりに空が飛びこんでくる。

 衝撃。

 

「足元が留守になってるようじゃダメでしょう」

 

 本部の右足が、沙和の左足にかかっている。

 大内刈り。

 柔道ではそう呼ばれる技であった。

 組むことなしに投げることができたのは、沙和の体重移動に合わせて本部が軸足を刈り取ったからだ。

 沙和の目の前に日本刀が突きつけられる。

 

「認めるよな……? 二刀流を分かっていない以上、勝ち目は薄く……」

 

 本部は刀を下げない。

 沙和の目の前に刃を晒したまま言う。

 

「二刀流の難易度は一刀流に比べはるかに高い。宮本武蔵いわく、二刀流は左右偏りなく使うことが肝要とある。その境地に至るのは並みの才能では足らぬ。そして両方が太刀……これも悪い。片方は小刀の方がいいでしょう」

「……」

 

 沙和は黙っていた。

 下手に口はきけない。

 相手に自分の命をゆだねている状況なのだ。

 ――どうしたら勝てるの?

 沙和は黙って、そのことを考えていた。

 やりづらいと思っている。

 懐に入ってもキツイ。技術の闘いで斬りあってもキツイ。

 どうしたら勝てるのか。

 答えは二つあった。

 少なくとも沙和にある答えは。

 一つ。

 数で囲み倒す。

 既に城内に乗り込んだ兵は多いはず。

 それがここに来るまで待ち、その数で倒すのだ。

 これはマズイだろう。

 沙和はそう思った。

 その手を使ってしまえば、凪の顔をまともに見れなくなる気がした。

 ならばもう一つの手だ。

 本部から刀を取り上げ、そうしてから勝負するのだ。

 どうやって取り上げるのか?

 分からない。

 刀を巻き込み、弾きあげるのか。

 手を強く打ち落とさせるのか。

 それとも掴んでしまうか。

 でも、それしかない。

 取り上げるのだ。

 

「もう意地を張らんでもいいでしょう」

「べーっ」

 

 沙和は赤い舌をチロリと出した。

 右手で刀を叩き、転がって逃げ、立ち上がる。

 傷はつかなかった。

 逃げ出して即、構える。

 

「試合だったら敗けてても、勝負には敗けてないもんねー」

「ほォゥ……」

 

 沙和は意地悪く笑う。

 本部は真顔だ。

 茶化しておきながら沙和は考えていた。

 どうやって武器を離させるのか。

 技術は厳しいだろう。

 相手も相応の技術を持っているのだ。

 壊せるか?

 沙和は自分にそんな力がないことは分かっている。

 それでもだ。

 勝算のある方へ突っ切るしかない。

 美しさなど欠片もない、泥くさい闘いにだ。

 

   壱

 

 沙和は剣を振り続けた。

 汗が流れ、息が切れる。

 剣先が乱れ、そこに一撃を受けそうになりもした。

 それを逃げるようにして避ける。

 剣は何度も本部の刀を叩いた。

 そのたびに二人の得物が悲鳴をあげる。

 本部は時折、片手を刀から放し、沙和の腕を掴みに来た。

 それは徹底的に嫌った。

 掴まれたらどうにもならない。

 投げと固め技から逃げる術は詳しくない。

 沙和はそうならないようにしてきたのだ。

 急に何とかしろ、と要求されて何とかできるはずがない。

 近寄らずに刀を剣で叩き続けた。

 

「随分と面倒な手を……」

「嫌だったら刀を落としてね~」

 

 本部がぼそりと呟いた。

 沙和は笑顔で返した。

 そして叩き続ける。

 時折、手を狙って切りつけた。

 沙和は逆に切られることは考えてない。

 沙和の剣の鍔は手を包むようになっている。

 肘のあたりを切ることはできても、手元は出来ない。

 適当な距離をとり、斬りあう。

 本部が一歩よれば、沙和は下がる。

 逆に本部が下がれば、沙和はでた。

 その中で本部は自身の腰に意識をやった。

 腰には鎖分銅がある。

 鎖分銅で相手の足を捕まえれば、それで一気に寄れる。

 だが、この状況で片手を腰に回す余裕もない。

 一太刀――

 一太刀浴びせれば、その隙ができる。

 なら、どこで斬るのか。

 普通に前に出ても沙和は下がってしまう。

 ならば、だ。

 釣るのがよい。

 本部はスッと半歩下がった。

 沙和は本部が下がった分、前に出てくる。

 ここだ。

 本部はここで出た。

 横薙ぎの一閃。

 沙和は一瞬驚いた顔をした。

 だが、反射で上半身ごと横になるようにして、左から右にそれを流す。

 流してから地面を強く踏み、上半身を起こしながら左手で上へ斬りつける。

 本部は顔をそらしてよけた。

 インファイト。

 ここで下がる足はない。

 本部は両手で。沙和は右手で。

 突きを放った。

 ギリギリのギリギリで二人は身体を反らし、それをよけた。

 避けると同時に、二人とも下がった。

 同じ避け方。

 それでも技量の差というものは出る。

 沙和の剣は本部の髪を切った。

 本部の刀は沙和の額の薄皮をかすかに抉った。

 三日もすれば、こんな傷は本人しか分からない程度に目立たなくなる。

 そんな傷が今では大敵になる。

 傷口から血が出て、ぷっくりと丸くなっていく。

 それが限界に来れば、血は下へと流れ出す。

 そして目を侵すだろう。

 本部はその手応えを感じて下がったのだ。

 

「……」

 

 沙和は鋭い目で本部を睨みつけた。

 

「ここで退くと……言いなさんな」

「言わないよ……」

 

 穏やかな声だった。

 両方ともだ。

 これ以上はない。

 沙和はそう思った。

 本部も思った。

 沙和の額の血の球から線が這い出す。

 真っ直ぐ落ち、鼻で分かれて目に入っていく。

 微々たる量だ。

 だが、これがもう少したてば目を開けていられなくなる。

 ――そうなったら……

 沙和の脳裡に一瞬だけ、光景が浮かんだ。

 目を瞑るのと同時に、振り落とされる刀。

 それが自分をから竹割にし、切れ間からうどん玉のように脳が零れ落ちる。

 不思議な感情だ。

 そんな光景が過っておきながらも、沙和の心は平静だった。

 一点の波紋のない水面のようだ。

 

「ジャッッ」

 

 本部が斬りこんでくる。

 沙和は右の剣を当てた。

 悲鳴。

 左手で本部の足を刺しに行く。

 左の剣も長い。

 若干刺しづらいが、それでも出来ないことはない。

 それが防がれた。

 避けられたのではない。

 剣の先に何かが当たった。

 いや、本部が腰をあてに来たというべきか。

 そこにあったのは、鎖分銅だった。

 予想外の硬さで、沙和の左の剣が止まる。

 本部がさらに斬りに来る。

 沙和の右剣を払う。

 ――やっばい!

 沙和は左の剣をひいた。

 剣の刃で受ける余裕はない。

 沙和は鍔で受けた。

 それも束の間。

 本部の切っ先が円を描く。

 そして沙和の剣を巻き上げた。

 

「右利きでしたか……」

 

 本部が言った。

 沙和は飛ばされた剣を追わなかった。

 左手も残った剣の柄を掴む。

 そして何も言わずに袈裟切りにする。

 本部は刃をたてて、それを受けた。

 キリキリと剣が音を立てる。

 

「もう……血が目に溜まりますな」

「知ってるよ」

 

 沙和は剣をひいた。

 強力な一撃のために。

 本部は刀を持ち直し、構えた。

 沙和の剣が空気を切る。

 一撃。

 ひときわ大きな音。

 その音に見合う手応えが、沙和にはなかった。

 本部の刀の刃が落ちる。

 刃が折れたのではない。

 日本刀の最大の弱点である目釘が折れたのだ。

 目釘とは刀の刃と柄を結び、固定する腱である。

 重要な部位であるそれは、竹で出来た釘だ。

 とても脆い。

 日中戦争時でも、故障した軍刀十振りの内、十振りが目釘の故障であったという。

 本部の刀の刃が地面に落ちて乾いた音を立てる。

 好機!

 沙和はそう見て、大きく踏み込んだ。

 好機。

 沙和の剣が突き出される。

 本部はそれに素手で答えた。

 腕を掴み、沙和の身体を流す。

 沙和の足が浮き、急転。

 落ちる。

 受け身はとれなかった。

 

「キツイでしょうな……。柔道なら一本ってところだ。実戦においてもね……」

「ゲホっ! げほっ!」

 

 沙和は咳き込んだ。

 血の味はしない。

 痛いだけだ。

 

「柔道の一本で勝ちが決まるのは、強かに地面に打ち付けられた相手は動けなくなるからだ。そこに踵を落とせば、それで終わる……。頭から落とせば言わずもがな……」

 

 そう言って本部は、沙和が持っている刀を足で抑えた。

 沙和の咳はすぐにやんだ。

 落ち着かせるように深呼吸をする。

 

「やっぱり……こうするしか、なかったのかな……」

 

 沙和がボソリと言った。

 本部は怪訝な表情を浮かべたが、周りを見てその意味を理解した。

 すでに周りには魏兵が多くいて二人を取り囲んでいた。

 

「……もう、終わりにしよ? それとも二人で死ぬ?」

 

 狂気めいた問い。

 本部はムッとした表情をしたが、足を沙和の剣から退かした。

 

「ここまでですか」

「そうだね」

 

 沙和はそう言いムクリと起き上った。

 

「あ~よかった。下手したらオジサンと心中するところだったの。まだ若いのに、そんな死に方したくないもんね~だ」

 

   弐

 

 戦が終わり、その次に何があるか。

 魏軍の中枢である稟と風は城内に入っていた。

 西涼軍は全員無力化してある。

 そして、真桜は城壁の修復をし、沙和は傷の手当てをしている。

 もっとも傷といっても、布で額を抑えていれば五分とかからずに血は止まるだろう。

 沙和は傷の手当てを理由に休んでいるだけだ。

 眠りこけている。

 精神をかなりすり減らしていたのだろう。

 

「……ここか」

 

 稟が扉の前で呟くように言った。

 馬騰の近衛兵が言っていた馬騰の部屋の扉だ。

 物音はしない。

 

「自害しちゃってるでしょうね」

「だろうな……」

 

 風の言葉に稟は同意した。

 頭が生きているのであれば、もっと抵抗は激しかったはずだ。

 部屋の向こうはどうなっているか。

 毒を飲んだのならまだいい。

 問題は喉を突いていた場合だ。

 香を焚いていてもいなくても臭いがキツイ。

 稟は部屋の中に血か強烈な香の臭いが立ち込めているのを覚悟し、扉を開けた。

 部屋を開け、まず目に入ったのは仰向けに倒れた馬騰の死体だった。

 喉や胸といった急所に刃はない。

 

「毒を飲んだか……」

 

 稟はそう呟き、馬騰の死体により、その体に触れた。

 微かに温もりが残っている。

 

「う~ん……毒じゃないと思いますよ」

「どこかに血がついているか?」

「ええ。足元に」

 

 風はそう言い床を指差す。

 赤い液体がそこにある。

 稟は視線を移した。

 そして、指先で触れた。

 ニチャと粘り気がある。

 

「間違いなく血だな……」

「でしょう? そして毒を飲む器もなく……」

「同時に刃物もない……」

 

 違和感。

 稟はとある答えに行き着いた。

 ――殺された……?

 ありえない、と思ったがそれしか答えが見つからない。

 戦の最中に誰にも気づかれず、大将のもとに潜入して始末するなどありえない。

 裏切りか、とも思ったが、それもないと稟は思った。

 

「馬騰は素手相手に殺された……?」

「この状況では、それが一番あり得ますね」

「御免っ!」

 

 稟はそう言い、馬騰の服の襟に手をかけた。

 そして胸をはだけさせる。

 

「おおっ」

 

 風が感嘆するような声をあげた。

 馬騰の左胸には二人の推理を裏付けるように痣があった。

 

「おっきな痣ですね~。風の手よりも大きいです」

 

 風はそう言い、痣の上に拳骨を置いた。

 痣はその小さな拳の一回り二回りよりも大きい。

 稟は冷や汗を流した。

 どんな人間がやったのか、考えずにはいられない。

 考えるのはすぐにやめた。

 それよりも、遺体を丁寧に埋葬し、華琳に報告するのが重要だと考えたのだ。

 言い知れぬ恐怖を感じながら。

 

   参

 

 医療技術が進歩していない時代での治療は、迷信めいたものが非常に多い。

 馬の糞、女の陰毛を灰にしたもの、黒焼、ミイラ、砂糖。

 そのようなものが薬と信じられていた。

 当然、薬効はない。

 そう信じられているものを、やっておくことで精神的主柱としたのだろう。

 

「ぐっ……」

 

 森の中で翠は呻いた。

 ジャックに噛まれた傷口に馬の小便をかけている。

 消毒と傷口の泥を洗い流すためだ。

 逃げている今、水は貴重だ。

 飲むのに使われるべきで、傷を流すのには向かない。

 小便自体には雑菌は含まれていない。

 だが、含まれている尿素は時間がたつとアンモニアに変質し、刺激臭をだす。

 それを気にする時間はない。

 翠の周りには蒲公英と少数の精鋭が残っているだけだ。

 他は討ち死にか降伏したのだろう。

 その状況で、翠は適当な二人を城にむけた。

 今は彼らが帰るのを待っている。

 森に入り、やったのが夕方だ。

 無事ならばそろそろ帰ってくる。

 

「お姉さま……これからどうするの?」

「母様の仇をとる。あの金髪の巨漢もブッ倒す」

 

 翠が低い声で言った。

 

「……こんなボロボロの状態で?」

「このまま引き下がれるか……っ! あの金髪だって今はボロボロだ」

「その前に敵兵に……」

 

 蒲公英が呟くように言った。

 翠は持っている槍に目を落とした。

 折れてしまい、まともには使えない槍だ。

 命を預けようにも、これでは心もとない。

 翠は歯をギリっと鳴らした。

 

「叔母様は……出陣()る前に、死ぬなって言ってた……」

「……」

 

 蒲公英が言った。

 翠は折れた槍を、ただ見つめていた。

 

「退こう……。ここはいったん、逃げよう」

「どこへ逃げるってんだよ……」

「東西北は、どれもダメだから……南……益州……」

「……」

「すぐ近くの川を通って、南に行こう」

 

 翠は両手で顔を覆った。

 最善が何なのかは分かっている。

 それでも意地が最善の言葉を阻む。

 ――くそっ

 翠は心の中で毒づいた。

 

「……退こう」

 

 仇も取れず、決着もつけられずに死ぬなど耐えられない。

 親が死んだのに、何もしないのは耐えられない。

 翠はごちゃごちゃに混ざっている感情を必死で抑え込んで言った。

 

「道は……?」

「たんぽぽに任せる……」

「なら、まずは川に行こう。そこで水をしっかりと……」

 

 翠はそうとだけ言って黙った。

 折れた槍を握っている両手が震える。

 消毒した左手からは、また血が垂れ始めていた。

 

   肆

 

 とんでもないものを受け取った。

 男はそう思っている。

 その男はただの行商人である。

 乱世で行商する、ということは危険と常に隣り合わせだということだ。

 日が出ている内はいいが、落ちれば危険がある。

 獣、盗賊。

 そんなものが、ケチなものに見えるぐらい怖いのに出会った。

 黒い服に肌。獅子のような髪。

 まぎれもない強者。

 その男から行商人は手紙を受け取った。

 失くすなど万が一にでもあってはならない。

 懐に入れ、常にあることを確認している。

 行先は江東。

 渡す先はビスケット・オリバと書かれている。

 行商人に読むことはできないが、誰に渡せばいいのか、ということは言われている。

 オリバに渡せ――

 そう言われた。

 行商人は漢中を出発し、川を下り江東へ向かった。

 船の上でも心は休まらない。

 江東に入り、オリバという人間を探した。

 オリバという男は長沙にいた。

 本拠地建業から離れ蓮華が治めている土地だ。

 行商人は城の兵に手紙を渡し、引き返した。

 兵は手紙を城の中にいるオリバに渡した。

 黒い肌。

 鉄球が入っているのかと思ってしまうほど丸い。

 筋肉で丸いのだ。

 肌には血管が浮かび、その筋肉の圧力を高めている。

 

「ユージロー・ハンマからか……」

 

 手紙を送ってくるなんて、礼儀正しいじゃねえか。

 オリバはそう思いながら、手紙を開いた。

 

「ほォ……」

 

 オリバは手紙を眺めると、楽しそうに笑みを浮かべた。




刀の目釘って、刀が出てくるマンガでもいじられることが少ない気がするんですよね。
思い浮かぶので……るろうに剣心とシグルイですかね。
もっとも、るろうに剣心は最も空気を読んだタイミングで折れて、シグルイではまったく読んでないタイミングでしたけど
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