真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
オリバは勇次郎からの手紙を読み終えると、それをたたんで机の上に置き、部屋をでた。
普段と変わらない雰囲気。
そして宮殿にいる使用人、衛兵に何を言うでもなく街に出た。
街は賑わっている。
戦とは無縁になっている賑わいだ。
人ごみの中をオリバが通る。
道行く人は岩のような巨体に、ぎょっとしたような反応をして道を開けた。
オリバの行く先は酒場だ。
飲みに来たのではない。
買いに来たのだ。
「よォ。頼んであった酒を取りに来たぜ」
入口から入り、軽く挨拶をする。
店の中の人影は少ない。
中にいる人のほとんどは従業員である。
店主は驚いた顔をしてオリバを見たが、オリバが、用意できてないのかい、というとすぐに酒の入っている大樽を奥から持ってきた。
大人三人では足りぬ。
五人でやっと持ち上げる重さだ。
本来ならば牛車か馬車に運ばせる。
えっちらおっちらと従業員達が樽を運び、オリバの目の前にドンと置いた。
オリバはそれを、軽々と持ち上げた。
力みなど一切見れない。
「代金は城に請求しな」
オリバはそうとだけ言い、樽を担いで店を出た。
大きな樽でもオリバの前では小さく見える。
それでも威圧感は相当なものだ。
行きの時にはギョッとしていた反応が、今では恐ろしいものを見たように目を逸らして、オリバから離れていく。
オリバは岩そのもののようであった。
岩にぶち当たった流れは真っ二つに裂けてしまう。
裂け目をオリバは歩いた。
鼻歌でも歌っていそうな軽い足取り。
その裂け目を目指して、来る者があった。
馬に乗っている。
重いものは一切身に着けず汗だくだ。
ただ早く、ここに着くように意識を集中させていたのだろうか。
息を切らせながら裂け目を、オリバの横を通って城に向かっていく。
「
オリバはそう呟き、ほんの少しだけ城への足取りを速めた。
城につくとオリバは、まず蓮華の所に行くように衛兵に言われた。
オリバは彼らの目の前に担いでいた酒を置き、それを蔵に持っていくように言ってから蓮華の所に向かった。
兵はきょとんとした顔をし、無理だ、と言ったがオリバはそれを封殺した。
力はオリバの方が圧倒的に上であった。
兵は諦め、三人でヨロヨロと運んだ。
オリバはみない。
酒樽を預けると、すぐに蓮華の所に行った。
いるのは王座の間だ。
蓮華は手紙を手にし、その後ろには思春がいて、鋭い目でオリバをジロリと睨んだ。
オリバはそれを気にせず、気さくに片手をあげて挨拶をした。
「どこ行ってたのよオリバ。さっき姉様から早馬が来た」
「知ってるぜ。さっきすれ違った」
「北の情勢は知ってる?」
「ああ」
「なら話は早い」
今現在、オリバの立場はかなり奇妙なものになっている。
孫呉の形としては内政と勢力拡大、防衛に分かれており、雪蓮が戦闘での頭、蓮華が内政での頭となっていて、雪蓮の下に冥琳、穏、祭といった将がつき、蓮華の下には思春、明命といった将がついている。
こうやって分けたのはいいが、蓮華側は知将というのが少ないのだ。
だが蓮華に不満はなかった。
蓮華は内政をしっかりと一人でやったが、回転の効率自体はよくなかった。
一人でやり方を考え、人選、実行の計画、ゴーサインとやっていれば当然と言えば当然の話なのだろう。
そこでサポートに回ることになったのがオリバだった。
知識はあった。
それを使うこともできた。
そういう事情があり、オリバは蓮華側の重鎮になっているが、オリバは人の下に立っている性分ではない。
呼ばれたりすれば行きはするが、興味がなければやらない、というワガママも言った。
自分のワガママを言い、
それがオリバの立ち位置だ。
思春はそれを苦々しく思っていた。
だが替えのきかないことも分かっている。
彼女に出来ることは睨むぐらいだ。
「徐州を併合した曹操が南下を始めた」
「徐州だけじゃねえ。涼州も獲りやがったぜ」
「そうなのか?」
「俺が知らねえことはねえよ」
「信用してもいいのか?」
「疑うのならそれでもいい」
「いや……信じよう」
蓮華はそう言い、手にしていた手紙をたたんで思春に渡した。
「で、だ。南下している魏軍に対抗する姉様のため援軍を出そうと思っているのだが、オリバはどの程度送るか?」
「やりようによるだろ。水上戦なら兵より船を送る方がいい。地上戦なら送らねえほうがいい」
「ワケは?」
「オイオイ、本気で言ってるのかよ」
オリバはそう言って笑った。
「地上での白兵戦は、数で考えたら勝ち目は無え。質でもだ」
「呉が劣ると言いたいのか」
「お世辞を言ってもらいたかったかい?」
「……続けてくれ」
蓮華はいきり立った表情を抑え、オリバに言った。
彼女自身も正論だと思った。
身も蓋もない言い方にイラッときただけだ。
「水上戦になればそれが逆になる。こっちは船に慣れてるし、船も多い。使えるやつもだ。長江を渡るヤツを叩きのめすのが定石だ」
「それでは長江の向こう岸は守れん」
「くれてやればいいじゃねえか」
「人に何かをやるか……そんなことを言う人間だったの……オリバ?」
「俺個人の問題なら言わねえよ。コイツは国の立ち回りの問題だ。守りきれねえのなら諦めるべきだろう」
蓮華の素がでた。
オリバは鼻でフッと笑った。
「勝てぬ……とは分かったが、土地を簡単にくれてやるのはいい気分じゃない」
「何事もガマンってヤツだ」
「……貴様はどの口で言うのだ」
思春が言った。
蓮華も同じことを思ったのか苦笑いをしている。
ガマンなど、オリバとはあまりに無関係な言葉だ。
――そんな言葉を知っていたのか……
それが二人の、率直な感想だ。
「分かった。なら長沙の軍船の八割とそれを動かすのに必要な数の兵を建業に送ろう。思春。指揮は任せたぞ」
「はっ」
「ついでに明命も建業に行かせた方がいいぜ」
「分かった。明命には軍を持たせず、個人的に行ってもらおう」
「分かってるじゃねえか」
「それは私から明命に伝えます」
「頼んだわ、思春。で、オリバは亞莎と私と一緒に江陵に移って守りを固め、魏軍が襄陽から南下してこないように……」
「おう、それがだ」
「オリバ……この緊急事態に何だ」
水を差すオリバ。
蓮華はため息を吐き、部屋を出ようとした思春の足も止まる。
そしてドアに手をかけたまま、オリバの方を振り向いた。
「何だよ。随分と過敏に反応するな……」
「いや、急に何か……」
蓮華が言った。
なんとなく嫌な予感がした。
「有朋自遠方来。不亦楽ってやつだ。俺は江陵には行けねえんだ」
「友人が来るっていうことね。この緊急事態に何を考えている……っ!」
最初は穏やかだった言い方に怒気が絡む。
戦がすぐ目の前に迫っているのに、国家の一大事を前にこの言い方だ。
蓮華の立場からしたら怒りは当然だろう。
「仕方ねえだろう。用事が無ければ、俺も江陵に行くんだがな」
「優先順位を考えろ! だいたい誰だ! こんな時期にお前の所に来る友人というのは!」
「オーガだ」
「は?」
蓮華が間の抜けた声で言う。
思春も思いがけない名前を言われ、一瞬、頭の回転が止まった。
「範馬勇次郎から手紙が来た。こっちに来るってな」
「……」
「それの相手をしなきゃならねえ。……聞いてるかい?」
「……ああ」
蓮華は俯き言った。
俯き、まぶたを右手で抑え、何度か揉んだ。
そうして怒りを抑える。
なんで今まで言わなかったのか、なんで勝手に来ていいと言ったのか、そういう理不尽への怒りを抑え込んでいた。
「言っておくが、来るって知ったのは今日だぜ。しかも、大まかにはそっちに行くっていう内容しかねえ」
「言うな……言わなくていい」
蓮華はそう言うと深く息を吐いた。
「……私は残りの兵をすべて率いて江陵に向かう。オリバはここに残れ。思春と明命はさっきの命令通りだ」
「……はっ」
「命令されなくてもそのつもりだ」
オリバがそう言うと、蓮華は顔をあげてオリバの方を向いた。
「勇次郎は任せていいか……?」
「オイオイ。どういう面してんだよ」
蓮華の顔は、部下に死ねと命じる大将のそれである。
オリバはそれに笑って答えた。
壱
建業――
孫呉の実質的な首都といっていいだろう。
長江の水運を利用した貿易で国は富んでいる。
文化も栄えた。
国力は順当に伸びていっている。
曹魏についでの二位だ。
その建業の城の王宮に冥琳は明命からの報告を受けていた。
隣には渋川剛気がいる。
「……分かった。蓮華様は江陵に行き、こちらには思春の軍船がくるのだな」
「はい。……で、オリバさんは……」
「言わなくていい。長沙で範馬勇次郎と酒でも飲むのだろう。……下手に刺激をするな」
「ですが、もしこっちに来た場合は……」
明命が不安そうに言う。
だが、冥琳はどこか達観している雰囲気だ。
「その時は曹魏との三つ巴に持ち込むまでさ。うちだけが被害を受けるのは割に合わん」
「止めるのは無理でしょうか……?」
「頼めるか? 渋川老もいかがでしょうか」
「勘弁してもらいたいのう」
冥琳がそう言うと、明命は千切れそうな速度でブンブンと首を横に振った。
渋川は笑みを浮かべて言った。
「だろう? 止められない以上は、もしそうなったら範馬勇次郎を魏軍にけしかけるしかない」
ついでに曹操を仕留めてくれたらいいのだがな。
冥琳はそう言って笑った。
明命は気の抜けた返事をした。
「こちらには後継者になる蓮華様がいる……国自体は守れるかもしれん」
「……ところで雪蓮様は?」
明命は範馬勇次郎の話を切り、雪蓮の話を切りだした。
「雪蓮は墓参りだ。御先代のな」
「え……? 一人で、ですか?」
「雪蓮はそう言っていたがな。私がこっそりガイアをやった」
「ガイアさんですか」
明命は安心したように言った。
ガイアの腕は知っている。
少なくとも、孫呉で一番よく知っているのは彼女だ。
同時に、その恐ろしさも、だ。
「裏切り……とかはありませんか?」
明命は呟くように言った。
腕を信用はしている。
だが、これはそのこととは別問題だ。
「ガイアは傭兵として孫呉が雇っている状態だ。決して裏切らんとは言えないが……雪蓮を殺ったところで利益はないだろう」
「……」
「雪蓮の首を持ってくる、とれる傭兵など誰も雇えん。それどころか、曹操なら殺しにかかってもオカしくない。その首は明日は我が身だ。そうなったらガイアはどうする? 野盗しか道はないだろう」
「理屈としては……」
それは分かっていることだ。
それでも怖さがある。
明命にとって、ガイアとはそういう男だった。
「……で、だ明命。ここからは戦の話だ」
「はっ、はい!」
「この策はガイアと二人でやってもらうものだ。頼めるか?」
「……はいっ!」
「そうか」
冥琳は一度咳払いをしてから、明命に言った。
「明命。この戦、長期戦と短期戦、どちらが我らに有利だと思う?」
「えーっと……短期戦じゃないでしょうか……?」
「正解だ。こっち側のに時間を食って、その間に西涼の軍が襄陽に入り江陵に行ったら抑えきれん。勇次郎の行動がどうなるにせよ、短期が最上だ」
「……」
「その短期決戦のためには水上で決戦するという手があるが、曹操はそれはしない。この戦での目的は長江を国境とすることにある。それに魏軍は水上戦の練度は低い。敗けたいと思ってないのなら、決戦は無い。なら、どうやって短期で決めるのか。……兵糧を断つしかない。兵糧は陣に持ち込んでいるのと、もう一つ……どこかに、ため込んでいる」
「そのどこかを……」
「ああ。ガイアと突き止め、焼き払ってもらいたい」
「目星がついている所はありますか?」
「合肥……だろうな。徐州から合肥を中継して、前線というところだろう」
「……わかりました」
「雪蓮とガイアが戻るまで待機だ。必要な部下がいるようなら言ってくれ」
「隠密の精鋭を五名ほど……お願いできますか?」
「分かった」
あまり多くなると、こういう敵地での行動はやりづらい。
それでも人数は必要だ。
そのための五人である。
「ほかの方は……?」
「祭殿は前線で船団を指揮している。穏はそれの補佐。鎬紅葉には軍医としての同行依頼をしている最中だ」
冥琳がスラスラと居場所を言う。
孫呉の構えは万全である。
待つのは敵船団のみ。
冥琳はそう思い、部屋から外を見下ろした。
少し待った。
十分ぐらいだろうか。
桃色の髪をした褐色の女性が馬に乗って帰ってきた。
その隣に迷彩服、バンダナの男が歩いている。
「どうやら、ガイアをつけたのがバレたみたいだな」
冥琳はそう言い、フウと息を吐いた。
弐
「せっかく一人で静かに墓参りしていたのに台無しじゃない。母様に報告する以前に、ガイアの殺気が漏れているんだもの」
「それらしいものを漏らしたつもりはなかったが……」
「雰囲気が何となく変わればわかるわよ」
「油断したなガイア。うちの主君の勘は獣以上だ」
雪蓮は王宮に入り、冥琳の顔を見るなりそう言った。
「しかし雪蓮。お前がちょっと出ている間に、色々と動いたぞ」
「ん?」
「まず、オリバのいる長沙に勇次郎がくる」
「ふぅん。私がそっち行っちゃダメ?」
「ダメだな」
冥琳が流すようにして言った。
雪蓮はちぇっと唇を尖らせていたが、それは冗談だ。
勇次郎と闘う気はない。
「で、それ以外は?」
「……勇次郎を流せるのか」
「オリバが何とかしてくれるんでしょ? 信用してあげなきゃ」
「……まあオリバが何とか出来なかったら、滅びるだけだがな」
「他は?」
「ああ。思春が率いる船団がこっちに来る。少なくとも曹魏との水軍戦には勝ち目が出てきた」
「それはもとからでしょう」
「物量に押されなければな」
「なら、どんな物量でも勝てるようになった……と」
「うむ」
冥琳は答えた。
雪蓮はしっかりとした答えに、ニッと笑みを浮かべた。
「そして、私たちが正面の敵を食い止め、蓮華様が江陵で南下する別働隊を抑えている間に、明命とガイアが敵の兵糧を焼き払う」
「別働隊が来るの?」
「可能性はある。もっとも、その別働隊は西涼にいるがな」
「そう」
「曹操の目的は、一気に孫呉を落とすことではない」
「でしょうね。河北を制圧し、徐州を落として、そのまま孫呉を落とすなんて兵の疲労も尋常じゃない……」
退く理由が出来たら退くだろう。
だが、次はどうなるのか。
兵の疲労もぬけ、別働隊も合流した時は……。
雪蓮はそれを口にしなかった。
「……明命、ガイア。早速だが敵の兵糧を焼きに行ってもらおう。警備は厳重なはずだ。それでもお前ら二人ならやってくれると信じている」
冥琳が二人に言った言葉はそれだけであった。
参
暗闇の森の中。
ガイアと明命はそれに紛れていた。
部下の五人は二人組と三人組で、少し離れている所からついてきている。
連絡はすぐに取りあえる。
一番前にガイアと明命は出ている。
「城はすぐ近くです。さらに音を落としていきましょう」
明命はガイアにだけ聞こえる声で言った。
ガイアはハンドサインで部下にも音を落とすように告げた。
人の気配が闇の中に溶け込んでいく。
森を抜ければ城がある。
森の中からもかがり火の光が見えた。
まばゆい。
大勢で警備しているのだろう。
すでにガイアと明命は合肥城の足元にいる。
城門は固く閉ざされ、城壁の上にはかがり火。
それをグルリと囲む堀の幅は広く、深い。
月の光、かがり火でも底は見えない。
深さは分からないが、幅は10メートルぐらいか。
進入路は無いように見える。
「飛び越えよう」
明命は無言でこくりと頷いた。
そのまま走る。
音は立てない。
そして、堀の縁のあたりで、二人は同時に踏み切った。
走り幅跳びの世界記録は1991年、マイク・パウエルの8メートル95だ。
実際は9メートル級の大ジャンプであったとも言われている。
二人の跳躍は明らかにそれを超えていた。
堀を一息で飛び越え、少し余裕を持って向こう岸に着地した。
着地してすぐに、ガイアは振り返り、持っていたロープを対岸に投げた。
こちら側のロープの端を足で、全体重で抑える。
明命は城壁に触れた。
城壁を成す石と石の間には、わずかに隙間がある。
明命は懐から短刀を取り出し、刃を横にして石の合間に突き刺した。
突き刺した短刀の柄に足をかけ、そしてまた短刀を突き刺す。
こうすることで短刀の梯子ができる。
こうして城壁の半分を登ったところで、明命は降りた。
そしてガイアの顔を見て首を横に振った。
――スキマが埋められています
そういう意味を持ったジェスチャーであった。
短刀での梯子は作れない。
彼女一人なら登れるが、部下が登れない。
堀は既に部下四人が渡っている。
残る一人は奇襲成功を伝える伝令役である。
ガイアは明命が言いたいことを理解すると、足元の縄を回収し、おもむろに城壁に歩み寄った。
そして軽く触れた。
指を爪先を石の隙間、へこみに引っ掛けて登っていく。
蜘蛛かヤモリか。
ガイアはするりと城壁を登っていった。
だが、あと一人分の高さを登れば登りきる、というところでガイアは止まった。
理由は分かっている。
警備をしている兵がいるのだ。
ガイアは足と右手で身体を支えたまま、左手で腰にしているナイフを抜いた。
少し間をあけて、また登る。
登りきると真っ先に警備兵の背に回り、敵襲を口にする前に、ナイフをのどに突き刺した。
口は手で押えている。
その下で兵が呻く。
喉を切り裂かれた兵士がビクンと奇妙な痙攣をした。
早業だった。
ガイアはそれに一瞥もくれず、ロープを降ろした。
登り始めてから一分と経っていない。
「手早いですね」
「無駄口をきいている暇はないだろう」
「……そうですね。火も準備できていますしね」
明命もガイアが登りきったのを見てから登った。
そして今は松明を手にしている。
焼き討ちはいつでもできる状態だ。
「行動は個別だ」
「分かってます。混乱させることもやってください」
「わかってる」
ガイアと明命はそれだけの会話をし、中へと入っていった。
合肥城への奇襲、成功す。
肆
――長沙
城はもぬけの殻だ。
そうなってしまった城の王座の間で、オリバは机と椅子をだして酒を飲んでいた。
椅子は二人分だ。
酒は良い。
オリバを酔わせてくれる程アルコールは強くはないが、香りは酔わせてくれる。
一杯飲み、二杯目を注ごうとした時だ。
入口からズチャリズチャリと足音がした。
「よう、オーガ。一日遅刻だぜ。先に飲みはじめちまった」
「気の早ぇヤツだ……」
勇次郎はそう言うと、空いていた椅子に腰をかけた。
椅子からギィと音がする。
勇次郎は手元にあった杯に酒を注ぎ、それを一息で飲み干し、二杯目を注いだ。
「手紙で時間を指定して遅刻はねえだろうが。何してたんだ?」
「益州でチィッと暴れていただけだ」
「ストライダムも可哀そうによォ……」
オリバはそう言い、飲んだ。
「……女にしてやられたか?」
オリバがそう言うと、勇次郎の手の中から、何かが割れる音がした。
「西涼から手紙を出したじゃねえか。そして西涼で戦だ、馬騰が死んだだ、それでも特に何もないなんざオカシイ話だろう。普段のオメェなら三つ巴で大暴れしそうじゃねえか。手紙も出しやしねえ」
「フンッ」
勇次郎は鼻を鳴らし、酒を一気に飲んだ。
アルコール490ミリリットル飲んでも、死なない身体だ。
酔うわけがない。
「感動……努力……勤勉……それらの
「友人といえど踏み込んではならぬ領域がある。わきまえろアンチェインッッ」
オリバはヤレヤレという風な表情を浮かべた。
あとは言葉を交わさない。
勇次郎とオリバは酒を飲み続けた。