真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
小鹿に、自然では決して聞くことのないライオンの雄叫びを聞かせると、恐怖からパニックに陥るという。
マグナムの轟音はライオンの雄叫びであった。
城門が開き、堀を渡る橋が繋がれる。
何事、と侵攻軍は思った。
さっきの轟音、そして敵が門を開くという異常事態。
降る、というワケではないらしい。
そんなことは見ればわかる。
「突撃!」
城から出てきた軍団の将が叫ぶ。
城兵は轟音が起こることを知っていたのだろう。
最初、音が鳴った時はうろたえこそしたが、今では落ち着いている。
紫苑が駆け出すのと同時に、兵が走る。
「狼狽えるなぁっ! 迎え撃て!」
愛紗が叫んだ。
そして馬の尻を足で叩き、城兵に突っ込んでいった。
「愛紗に遅れちゃダメなのだ! 鈴々たちも行くのだぁ!」
鈴々も叫ぶ。
そして愛紗と同じように突っ込んでいく。
二人に従って突撃する兵士は少ない。
半自失という状態だ。
相手が突撃を仕掛けてきていることは分かっている。
後ろに本陣があることも分かっている。
それでも敵兵を見送ってしまう。
「突っ込んでくる敵には構わないで!」
紫苑が言う。
愛紗と鈴々の斬撃が城兵を数人斬った。
それでも城兵はひるまずに突き進んでいく。
――マズイっ!
愛紗は思った。
敵はこのまま本陣に突撃する魂胆であると見抜いたのだ。
本陣の前には、たんぽぽが率いる軍団があるが、数は突撃する城兵が多い。
さらにたんぽぽは新参でもある。
うまく本陣と連携が取れるのか、ということに関しては疑わしい。
――退くか
だが、同時に城は空いている。
この機を逃すという手はない。
「鈴々! お前は城攻めを続けろ!」
「ヤダ! 鈴々が桃香おねえちゃんを助けるのだ!」
「ワガママを言うな! 城攻めはお前の方が向いている!」
「むぅ……」
鈴々は頬を膨らませた。
だが、それ以上は何も言ってこない。
納得はしているのだろう。
「ほかの門の攻め手が門を破ったのなら、お前もこっちの敵を抑えにこい」
愛紗はそうとだけ言い、馬を走らせた。
「関羽隊! 本陣と城兵を挟むぞ! 私に続け!」
「鈴々の隊はこのまま城攻めなのだ!」
愛紗と鈴々は指揮を下し、愛紗は後ろへ、鈴々は前へと駆け出す。
恐慌状態であった兵も少しづつ持ち直している。
このまま落ち着いて攻めればいい。
二人はそう思い、焦る気持ちを押さえつけていた。
壱
「門ヲ開ケナ」
「はっ!」
ストライダムは北側にて恋と翠の部隊に奇襲をしかけた。
結果は成功と失敗で半々といったところだ。
銃声で混乱させることには成功した。
だが、指揮官の暗殺には至らなかった。
――マグナムでの狙撃には無理があったな
ストライダムはそう思い、隠していた馬に乗り城まで戻ってきたのだ。
兵士はまだ、少数が北側に残っている。
見捨てたわけではない。
暗殺の成否に関わらず、銃を撃った後はゲリラ攻撃の部隊は他のものに任せて、ストライダムは城に戻ることになっていた。
指揮官不在の城で指揮をせねばならないからだ。
門が馬一頭分がくぐれるぐらい開く。
ストライダムはそれを素早く通り抜けた。
門はすぐに閉じる。
「東門、西門ともに陥落の危機! ご指示を!」
「攻メ手モヤルジャネエカ」
ストライダムはそう言うと、ふむ、と考えた。
「サッキノ銃声デ、敵ハ異常ヲ感ジテイルハズダ。東門ニハ偽報ヲ流セ」
「内容は……?」
「敵大将、劉備ヲ仕留メタ」
「……成功するでしょうか」
「東門ハ本陣トノ連携ヲトリズライ。銃声ト合ワセテ不安ヲ煽レバ、コッチノモノダ」
「……やってみます」
馬に乗ったままストライダムは指揮を下した。
命令を受けた兵は東門へと駆け出した。
続いて西門の兵が指揮を仰ぎに来る。
「西門ニハ私ガ直接行ク」
ストライダムはそう言い、馬を走らせた。
北門から西門までは、それなりに距離がある。
だが、馬を全力で走らせればスグにつく。
しっかりと守備兵が仕事をしているのなら、陥落はしてないはずだ。
必死で駆け、西門につく。
大きな喧噪。
敵兵は入り込んできていない。
――間ニ合ッタナ
ストライダムはそう思い、城壁の上につながる階段を登った。
戦況は間違いなく不利だ。
この階段は天国への階段になるかもしれない。
「守リ切ッテルナ」
「今のところは! ですが……門はすでに閉じて、いて……」
「突撃シタ奴ガ全滅スルカモシレネエッテカ」
「……」
「持チ場ニ戻レ」
「はっ」
ストライダムは冷めた声で言った。
兵はそれに従い、小走りで戻っていった。
ストライダムは一度、迫ってくる敵を見下ろした。
苛烈な攻めだ。
敵の数こそ少ないが、この勢いでは自軍がどれほど耐えられるのか。
ストライダムは敵を見下ろしたまま、無言で腰にあるマグナムを持ち、弾を込めて、トリガーに指をかけた。
――紫苑よ。互いに幸運を祈ろう。こいつはオレからの餞別だ
迫る敵兵に狙いをつけ、撃った。
獅子の咆哮。
迫る敵兵の一人の胸に穴が開き、吹っ飛んでいった。
弐
再度の銃声。
予定にはなかった。
紫苑はこれを手向けだと思った。
新たな主君に使える手向けか。
戦勝への手向けか。
それとも黄泉路への手向けか。
どれかは分からない。
これから決まるのだ。
馬と書かれた旗が紫苑の目に飛び込んでくる。
西涼の兵が侵攻軍にいることは知っている。
――敵本陣との連携は甘いはず……
紫苑の思考がまわる。
本陣の前に陣取っているとはいえ、この西涼兵が最近になって知った新しい主君に、必死になるとは思えない。
わざわざ噛む必要はない。
蜂の巣をつつく必要はない。
「このまま敵陣を突っ走るわ。ついてきなさい」
紫苑の指揮が水のように、軍にしみわたっていく。
「みんな! ここは止めよう! 少し待てば、前線と挟めるよ!」
本陣を守る最後の砦である、たんぽぽの指揮がとぶ。
槍を構え、一人で飛び出した。
兵たちもそれに続く。
兵の大多数は歩兵だ。
――くる!
紫苑は身構えた。
身体の筋がビクンと動いた。
――敵兵はどう思っている!?
重要な点はそこだ。
決めるとしたら、本陣に突っ込んでの短期決戦。
ここで止まるわけにはいかない。
――うまく指揮系統を混乱させれば……
西涼兵は新しい指揮官より、馴染みある指揮官を重視するだろう。
目の前の敵将にケガをさせれば、本陣のことよりも、将のケガを気にするはず。
紫苑はそう思った。
弓矢を構え、引き絞る。
放った。
「たぁっ!」
「将軍!」
「大丈夫!」
たんぽぽは声をあげ、矢を叩き落とした。
近衛兵が心配して声をかける。
西涼兵の意識がたんぽぽに向いた。
二の矢!
紫苑はすぐさま矢を引き放った。
たんぽぽは身体を左に傾け、それをよけた。
残心。
すでに紫苑は三の矢を握っている。
速射。
身体を傾けた先に、さらに放つ。
――うわ……
たんぽぽは手綱を握る手に思い切り力を籠め、自身の身体を引き上げた。
こらえた。
たんぽぽの意識が、自身の体幹にむく。
弓の連撃を掻い潜り、たんぽぽはかなり紫苑に近づいている。
時間的に、矢を放てるのはあと一回というところか。
弓は構えてある。
――ここで!
紫苑は指を離した。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。
紫苑の指から放たれた矢は、まっすぐたんぽぽの乗る馬に向かう。
たんぽぽの乗っている馬の額に矢が突き刺さる。
馬はバランスを崩して倒れる。
たんぽぽ巻き込まれるように落馬する。
「わわっ!」
『将軍!』
周りの兵がたんぽぽに向かう。
「さあ、このままいくわ!」
紫苑はそう言い、さらに馬を加速させる。
兵の意識がたんぽぽに向いた瞬間だった。
一呼吸で並び、次の瞬間には抜き去る。
「やられた!」
たんぽぽが言うが、もう遅い。
城兵は既に抜き去っていて、本陣に肉薄しようとしていた。
参
「桃香様! 敵が来ちゃいます!」
朱里が言う。
だが、桃香は本陣で椅子に座ったままだ。
「……刃牙君か烈さんにいてもらった方がよかったかな」
「言ってる場合じゃないですよぉ……」
「後ろに渓谷がありますから、そこに弓兵を分けて迎え撃って……」
朱里が策を献じるが、桃香は動かない。
「ここは退いた方がいいかと……」
雛里も言う。
分かってる。
それは桃香も分かっている。
「ここで退いちゃったら、全軍の士気が下がっちゃうんじゃない?」
「背に腹は代えられません……」
「ちょっとこらえれば、愛紗ちゃんか鈴々ちゃん、たんぽぽちゃんと挟める……」
「それは否定しませんが、こっちは寡兵です……。数で押されたら……」
「私が……討ち取られるかもって……」
桃香の声は震えていた。
そして、ゆっくりと右手を腰の剣にのばしていく。
「……なら、敵を桃香様に近づけないように、包囲する方針でいきましょう。援軍が来れば数は足ります……」
「まずは突撃をしっかりと受け止めて、そして挟み……」
雛里、朱里と方針を打ち出していく。
桃香はそれを黙って聞いていた。
「……それでいこう」
桃香は言った。
指揮を下す。
兵はそれを飲み込み、一丸となる。
本陣を守る兵は侵攻軍一番の精鋭だ。
そして桃香のために命を投げ捨てるような兵でもある。
一筋縄ではいかない。
肆
突撃が止まった。
覚悟はしていた。
ここで止まるのではないか。
紫苑は考えていた。
同時に敵のことも考えていた。
――ここまでは及第点……
兵はよくできている。
練度、忠誠心ともに申し分ない。
この兵の質から大将がどういう人間なのか想像がつく。
だが、止まっている場合ではない。
想像で終わってはいけないのだ。
前へ、前へ行かねばならない。
紫苑は腹を決めた。
「単騎で行くわ。指揮をかわって」
紫苑は傍らにいる兵に、そう声をかけた。
兵は、「は?」という反応をしめしたが、紫苑は聞かない。
馬を駆けさせた。
「はっ!」
単騎駆け。
邪魔する者には、矢が刺さる。
誰にも邪魔させない。
弓矢、剣。
この二つで陣を裂き、桃香の元にまで迫る。
紫苑に向けられる兵の表情が必死になっていく。
――近い!
敵大将が近い!
そう思うと、身体の底から体力がわいてくる。
そして、真っ直ぐ先に桃色の髪が見えた。
傍らに立つ二人の少女は、その軍師だろう。
「見つけましたっ!」
桃香も紫髪の、血に濡れた淑女を見た。
――本当に、刃牙君か烈さんがいて欲しかったなぁ……
ちょっぴり弱音が出そうになる。
だが、今更遅い。
どうにもならない。
闘うしかない。
両手で剣を握り構える。
――剣の一発ぐらいなら耐えれる!
剣は来る方向さえ分かれば、抑えられる。
力不足で何発も耐えられないだろうが、それでも一発ならなんとかなる。
「覚悟っ!」
弓矢を構え、桃香に矢尻を向ける。
桃香の身体に、初めて巨大な殺気が叩きつけられた。
――弓!? それはヤダなぁ……
どこか余裕があるような考えが頭をよぎる。
現実逃避のようなものだ、と桃香自身思っている。
――どう受けるの!? それともよける!?
剣が線、面のようなものなら、弓矢の攻撃は点のようなものだ。
点を受け止められるとは思わない。
出来ることとしたら、頭と胸を守るぐらいか。
避けてもその先に矢が来るのではないか。
敵将は弓の名手だったはずだ。
――私の逃げる先ぐらい読んでいるよね……
そう思った。
桃香も腹を決めた。
少しのケガは気にしない。
致命傷は受けない!
剣を左手での片手もちに変えて、額と左胸を守る。
右胸は右腕で守る。
紫苑は額に向けていた矢先を腹に向け直した。
わずかに遅れ。
「はぁぁぁっ!」
後ろから殺気。
紫苑はとっさに後ろを向き、矢を射った。
黒髪の女性は矢を切り落とし、紫苑に迫っていく。
一閃。
紫苑は剣でそれを受けた。
「愛紗ちゃん! 助かったぁ……!」
「申し訳ございません! この者にしてやられました!」
つばぜり合いをしたまま、愛紗は視線をチラリと桃香に向けてから言った。
ケガは見えなかった。
――間に合った!
一瞬の安堵。
紫苑はその緩みを逃さなかった。
青竜偃月刀を弾いてつばぜり合いをやめ、馬を寄せる。
懐に密着されれば、長い得物は不利になる。
愛紗はそれを嫌がり、偃月刀を振り下ろす。
紫苑の寄る速度が弱まる。
「かっ!」
「しぃっ!」
愛紗は息を吐き、武器で急所を攻める。
こめかみへの打。
首への斬撃。
肩口への打。
みぞおちへの突き。
寸分と狂わない。
――厄介ですね……
うまく懐に入ることができない。
紫苑が下がった。
愛紗が振る偃月刀の切っ先を紙一重で避け、弓矢を構える。
「たんぽぽ! やれっ!」
「はい! たぁあああ!」
紫苑が下がり、意識が愛紗だけに向いた瞬間。
愛紗が叫び、紫苑の横から、ドンと衝撃がきた。
紫苑の後ろに周っていたたんぽぽが槍を捨て、馬にまたがっている紫苑に飛んで体当たりしたのだ。
たんぽぽは小柄だが、それでも不意打ちだ。
紫苑の体幹が崩れ、馬から落ち、地面に組み伏せられた。
愛紗は仰向けの紫苑の眼前に、偃月刀の刃先をさらす。
「……意外と、卑怯な手も使うんですね」
「一騎討ちでなら、いくらでも潔くなろう。お前に、素手で立ち向かってもいい。だが、今は別だ……桃香様に危険が及びかねない以上、手段は選べんのだ」
愛紗が言った。
「……」
「武器を手放して」
たんぽぽが言った。
紫苑は息を吐き、剣と弓をはなした。
愛紗は地面に降り、手でその二つを抑えた。
それを確認してから、たんぽぽは紫苑の上からどいた。
侵攻軍の兵がゆっくりと紫苑を囲んでいく。
紫苑は立ち上がり、周囲を見渡した。
そして桃香を見た。
「……劉備さん。一つお聞きしたいことがあります」
「……なんでしょうか」
「桃香様。あまり近寄りすぎないでください」
「大丈夫」
愛紗がそう言って止めようとしたが、桃香は事もなげに近寄った。
兵の囲いが一面だけ解かれる。
「質問の前に一つ。私の首はどうなっても構いません。ですが、城内外の兵、民の命はお助けください」
「約束します」
「ありがとうございます」
紫苑はそう言って一息吸った。
「では聞きます。劉備さんは益州を獲って、何を目指すのか」
「みんなが笑って暮らせる世です」
「ならば、なぜ戦をするのでしょう」
「この理想は……私のワガママです。そしてワガママを通すのには、力が必要です」
「事実ですね」
「益州を平定できれば、力が手に入ります」
「……。仮に平定したらの話です。仮に戦が終わったとしても、戦の傷は大きいはずです。みんなが笑って暮らせる世は叶わぬのでは」
「数世代後ならどうでしょう? 私が理想のためにできることは、乱世を収めて、その傷跡を癒すことだと思います。……私からも聞きたいことがあります」
「なんなりと」
「黄忠さんは、戦をすれば民が悲しむからという理由で、現状を見過ごし、自分の地位を維持することが正しい事と思いますか。蚊トンボのように、風に吹かれるままでいることが正しいと思いますか? 行動しなければ何も変わらないでしょう」
「意外と、意地が悪い事を聞くのですね。返す言葉もありません」
皮肉で言っていることは分かっている。
今現在の益州、紫苑のことを言っているのだろう。
紫苑は桃香の言葉に笑みを浮かべて返した。
「黄忠さん、乱世を収めるため、貴女の力をかしてください」
桃香は真っ直ぐな目で言った。
伍
紫苑は降伏した。
民の反応は悪くなかった。
戦が終わったことの安堵がある。
城内。
桃香は防衛軍のもう一人の指揮官と、そこで会っていた。
「こちらはアメリカ軍大佐、ゲリー・ストライダムさんです。今回の戦の策は、彼がたてました」
「あめ……りか? 刃牙君たちがいた世界の国……の名前?」
「ソレデアッテル。正確ニハUnited State of Americaダガナ」
「えっと……」
「ストライダムさん。あまり、困らせるような言葉は言わないでください。私だって慣れてないんですから」
紫苑は微笑みながら言った。
「ヨロシク」
「えっと……よろしく」
ストライダムが右手を差し出した。
握手しよう、ということなのだろう。
桃香は恐る恐る手を握った。
ストライダムの顔も傷だらけで恐ろしいが、花山ほどではない。
桃香はそれを思い出し、手を握った。
「ストライダム、でいいんだよな? 一つ聞きてえんだけどさ、あたしと恋を襲った音と球は何だったんだ?」
翠が言った。
「何故……私ニ聞クノカネ」
「あんな物、誰からも聞いたことがないからさ。本部からも聞いたことがなかった。唯一分かるのは、お前らの世界のものだろう、ということぐらいだ」
「フム……」
ストライダムは頷き、紫苑の顔を一瞥した。
「説明するべきだと思うわ。妙なものを持っている、というのはそれだけでも不気味よ。疑われて暗殺、なんてこともあり得るわ」
「……ダロウナ」
ストライダムはそう言うと、腰からマグナムを抜き出した。
「拳銃ダ。引キ金ヲ引クト、弾ガデル」
ストライダムはそう言って翠の目の前に、トリガーの側をむけた。
「持ってみるか……ってか」
翠はそう言い、ストライダムからマグナムを受け取った。
ストライダムがしていたように握る。
ズシリと重みが腕に伝わった。
「珍しい物だな……翠、次は私に持たせろ」
星が翠のマグナムをまじまじと見ながら言う。
武官の興味はマグナムに向いている。
愛紗の視線はストライダムの方を向いているが、それでもチラチラとマグナムに視線が向く。
「引き金を引くと弾がでる、と言ったな。危険ではないか」
愛紗が視線を戻して言った。
「弾ハ俺ガ持ッテイル。拳銃ノ方ハ空ダ」
ストライダムはそう言って、服のポケットから弾を出してみせた。
「残りは何発だ」
「コノ二発ダケダ。最初ニ六発アッタガ、ココニ来テ虎ヲ仕留メルノニ一発。紫苑ト桔梗ニ見セタ時ニ一発。コノ戦争デ二発」
「……その拳銃とやらは、私たちの方で預かりたい。いいな」
「高圧的ジャネエカ。……仕方ノナイ話ダロウナ。イイゼ」
「感謝する。コラ鈴々、たんぽぽ! あまり覗き込もうとするな!」
「え~っ! こうでもしないと、星が見せてくれようとしないのだ!」
「星! 何をしてるか!」
ストライダムがそう言うと、愛紗は拳銃の方に視線を移した。
そして覗き込んでも見ようとしていた二人を叱りつけた。
同時にマグナムでワイワイやっている武官たちをまとめにかかる。
「随分と騒がしい方々ですね」
「えっと……ごめんなさい」
「いえ、好ましく思ってます」
紫苑と桃香は武官たちの騒動を見て話していた。
だが、それはすぐに切り上げた。
話すことはこれで全てじゃない。
「次に攻めるところを相談したいんだけど、いい?」
「ええ」
「朱里ちゃんと雛里ちゃんが言うには、成都への道で三つあるらしいの。巴群、巴東、江陽。紫苑さんは、どれが良いと思いますか?」
桃香は朱里と雛里の背に手をまわして言った。
二人は初対面の相手にあがっているようだった。
特に男性に関しては、慣れているのが烈海王だけであり、ストライダム相手に何といえばいいのかで迷っているようだ。
「戦のしやすさで言えば、巴東と江陽でしょうね。ですが、私としては巴群を勧めます。桃香様に、そこの将を引き合わせたいのです」
「なんていう人?」
「厳顔と魏延です」
「良将か?」
拳銃をとられた星が、若干口をとがらせて言った。
愛紗は奪った拳銃を桃香に渡し、厳重に管理するように言っている。
「保証します。私とストライダムさんと共に懇意にしてすし、説得の仕様もあるかと」
「そうか。ならば、その道がいいか」
「問題もあります。二人そろって頑固な面もありますから、一戦は避けられないと思います」
「ならば、なぜその道を」
「二人が降れば、他の城も降るでしょうから。それに一戦といっても、色々あります。一騎討ちとか」
「なるほどな……」
「じゃあ、その道でいこっか」
『御意』
桃香がそう言い、方針が決まった。
だが、それに紫苑は手を挙げた。
「なんだ? これはお前が提案したことだろう」
「ええ。決定に不服はありません。ただ、提案がもう一つ」
「なんでしょう」
「桃香様の陣営に、まだ花山薫がいらっしゃるでしょうか」
紫苑がそう言うと、その場にいる人が驚いたような顔をした。
戦に護衛以外の何の役に立つのか、と思っている。
「なんで、花山さんを?」
「以前、酒の席で厳顔に花山薫のことを話したら、非常に興味を持っていましたので。一騎討ちする際に、力になるかと」
「なるほど……」
「じゃあ、烈さんと刃牙さんも呼びましょうか? この城を抑えたことで、輸送はかなり楽になりましたし輸送役にするのは勿体ないかと」
「そうだな。今回のようなことがあるといけない」
「愛紗ちゃん、ちょっぴり……怒ってる?」
「心配しているだけです」
紫苑の提案に乗っかるようにして朱里がいう。
桃香は愛紗の言葉で、少し顔が青くなった。
「愛紗ちゃんもこう言ってるし……全員集合ってことにしようか」
桃香はちょっぴり青い顔で、そう言って場をまとめた。
陸
「言ワナクテ、ヨカッタノカ」
「何の話です?」
「劉璋ノコトダ」
会議の部屋をでて、廊下でストライダムと紫苑は話していた。
ストライダムは城の物資、治安の確認。
紫苑は娘の璃々の様子をみるため、と言って出た。
「既ニ葬儀モヤッテアル。イツカハバレルゾ」
「最初は言うつもりでしたが……毒気が抜かれてしまいました。言ったところで、軍はまとまったままでしょう」
「ソコマデ認メタカ」
「はい」
「ナラバ、桔梗ノ武器ニツイテハ。銃槍ハ完成シテイルゾ」
「威力はマグナムより劣ってますけどね。弾では貫通はしないでしょう」
紫苑はそう言い、クスっと笑んだ。
「それについては、私達老将から、若い子たちへの最後の試練ってことで」
「酷イ試練ダ」
ストライダムもそう言って笑みを浮かべた。
漆
喧嘩というのは、一種の中毒のようなものだ。
無論、弱い相手ではダメだ。
強い相手が良い。
それと全力で闘う。
これ以上のことはない。
洛陽での大喧嘩。
その話を聞いたときは胸が弾んだ。
そんなことをした者と喧嘩がしたいと本気で思った。
藤色の髪をした女性の元に、紫苑が守る城がおちたと報告が入り、真っ先に彼女が感じたのは高揚だった。
出来るのだ。
胸のすくような喧嘩ができるのだ。
そう思うと、笑みが抑えきれない。
その後ろから、女性が話しかける。
「桔梗様。なぜ、そのように笑みを浮かべるのでしょうか」
「やり合えるからよ」
「劉備軍、とですか。紫苑様の城をおとしたのです。相手はかなり強力かと」
「わかっとる。それで我らがためらうと思ってるのか」
「いえ……そういうわけでは……」
「わかっとる」
藤色の髪をした女性は、どこか上の空だ。
笑みをうかべたまま、自分と同じ喧嘩人を待っている。