真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~   作:クーロン

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範馬

 一戦目が終わり、互いの陣が慌ただしくなった。

 両者とも酷いケガをしていた。

 

「詠ちゃん、包帯!」

「それより先に刺さってるのを抜かないと!」

「私がやろう」

 

 烈海王はそう言い、どこに持っていたのかピンセットで刺さっていた金属片を抜き始めた。

 その間に月と詠は薬を持ってきた。

 まず、腹に薬を塗り、上体を二人で起こして清潔な布を傷口に当ててから包帯を巻いた。

 白い包帯がすぐに赤くなった。

 金属片がとられた傷口にも薬を塗り、包帯をした。

 処置は出来るだけやった。

 後は花山次第だ。

 そうなれば不安はない。

 花山薫という漢のタフネスは全員が知っていた。

 

「つ……疲れたぁ……」

 

 詠はそう言い、地面に座り込み視線を地面に落とした。

 その隣に月が座り込んだ。

 変に急いでいたワケではないが、顔には汗が浮き出ていた。

 今になって誰かに任せればよかったか、と思った。

 思って、すぐに考えるのを止めた。

 下手な人間では下手な処置をしていただろう。

 処置だけ自分達でして、花山を支えるだけは別人で良かっただろうとも思ったが、やめた。

 考えれば考えるだけ疲れる。

 

「……向こうは……まだやってるね」

「え?」

 

 月がそう言ったのを聞き、詠は視線をあげた。

 敵陣では慌ただしく兵がバタバタと動いていた。

 その敵陣側で焔耶は桔梗を険しい目で見落としていた。

 信じられない、という気持ち。

 やってくれたのか、という気持ち。

 様々な感情が混ぜこぜになっていた。

 強敵だ、と桔梗は何度か言っていた。

 その言葉を疑っていなかった。

 同時に、こっちが勝つという自信はあった。

 あったのだ。

 だが今、桔梗が倒れているのを見て、その考えが揺らいでいる。

 

「……なんじゃ、やらんのか」

 

 治療を受けている桔梗が目を合わせぬままに言った。

 

「いえ……やらないというわけじゃあ……」

「ならば、なぜいつまでもワシを見ている」

「……桔梗様がこのようなお姿になるとは思っていなかったので……」

「だからなんじゃ。怖気づいたか?」

「いえ」

「なら、やりたいようにやればいい」

 

 桔梗はそう言い、プイとそっぽを向いた。

 焔耶は一息吐いてから武器を握り、確かめるように二回ほど振った。

 そうしてから敵陣に向かって歩みだした。

 

「次は私だ」

 

 焔耶が言った。

 

「選ぶ相手は?」

「この中で一番強いヤツだ」

 

 愛紗の問いに、そう答えた。

 桃香側の陣は色めき立った。

 そう言われて反応したのが何人もいる。

 強いんだ星人たちはそう言われては、黙ってはいられない。

 そういう習性がある。

 

「……と、いうことらしい。さぁ、誰が出よう?」

 

 星が言った。

 気が付けばその周囲に強者が集まっていた。

 愛紗、鈴々、恋、翠、紫苑。

 そして刃牙に烈海王。

 花山に関しては起き上がっていたのを、月と詠が腕に必死でしがみついて抑えていた。

 集まった面々から不穏な雰囲気がわき上がった。

 

「さて、この空気をどうしようか」

「どうしようも何も……誰が出るかを決めるだけの話じゃないのか」

「その割にはみなさん、随分と……」

 

 星、翠、紫苑から不穏な空気が一層と強みを増し始めた。

 それを愛紗はどこか冷めた目をして見ていた。

 

「やめろ! 仲間割れでもする気か。で、鈴々は何しに行く気だ」

「離すのだ愛紗! は〜な〜せ〜!」

 

 鈴々は愛紗に肩を掴まれ、ジタバタとしていた。

 勝手に出ようとしたのを愛紗に見つかり、捕まってしまったのだ。

 ある程度は暴れたが、愛紗が離すつもりがないのを悟り、鈴々は大人しくなった。

 

「我々はこのために呼ばれました。出るとしたら私か刃牙さんが妥当では」

「妥当ではないな。向こうは一番強い者を所望しているのだ。要求されたのを出すのが筋だ」

「なるほど。では、星さんは誰が相応しいとお思いですか」

「相応しい者がいるとしたら、この場にいる全員が闘い、勝ち残った者だろう?」

 

 星はそういい、笑った。

 それに翠が賛同した。

 

「それがいい! 一番分かりやすい決め方だ!」

「それはやめろと言ったはずだ!」

 

 愛紗が怒鳴る。

 今、誰が強いのか闘って決めるのは無益だろう。

 正直な話、出るのは誰でもいいのだ。

 一番強いのが誰なのか、というのは後日でいい。

 これが道理だ。

 それは全員が分かっている。

 だが、道理が常に通じるとは限らない。

 道理を超えるのがある。

 

「愛紗は他にみんなが賛成する、いい方法があるのだ?」

「そういうワケではない。ただ仲間割れをだ……」

「ないのなら闘えばいいのだー!」

 

 鈴々は掴まれたまま、再びジタバタとしだした。

 愛紗はため息をつき、桃香が一触即発の雰囲気を何とかしようと輪に入りかけたとき、恋が動いた。

 刃牙の背中をトン、と押したのだ。

 

「……出るのは刃牙がいい」

「刃牙か……推薦がでたぞ。どうする?」

「あたしは刃牙がどれくらいか知らないんだけど、強いのか?」

「刃牙は範馬勇次郎の子だ」

「ああ……」

 

 翠は愛紗の言葉に納得したようだった。

 

「じゃあ、誰が一番強いかは置いといて……出るのは刃牙君でいい?」

「オレ? いいぜ」

 

 桃香がそう言ってまとめにかかる。

 全員が納得したという雰囲気ではないが、異論はなかった。

 刃牙は少しストレッチをしてから、焔耶のいる方に歩いていった。

 全員がそれを見送る。

 しかし、刃牙が焔耶の真正面に出る頃に、翠は愛紗に耳打ちをしていた。

 

「勇次郎の強さは分かっているけどよ……刃牙自体は強いのか?」

「少なくとも、私は敗けた姿を見たことがない」

「へぇ……」

「付け加えるならば、刃牙さんは地下闘技場におけるトーナメントの優勝者です」

 

 烈海王が二人の話に入った。

 

「烈海王……とかいったよな。もしかすると、あんたは刃牙に敗けたのか?」

「はい。私は準決勝で負けました。刃牙さんは、決勝では貴女の腕に噛み傷をつけたジャック範馬と闘い、勝利しました」

「……そうか。あんな化け物に勝ったのか、刃牙は」

 

 翠はそう言い、刃牙の背中を眺めた。

 同時にジャックについても思い出した。

 威圧感、闘いぶり。

 まさしく化け物だ。

 獣の牙のような歯が脳裏に蘇る。

 

「刃牙はどうやってジャックに勝った」

「興味がおありですか」

「……少しは、な」

「背中に鬼の貌を発現し、フロントネックロック……平たく言えば、首絞めで勝利しました」

「鬼の貌か」

 

 そう、翠はつぶやいた。

 範馬勇次郎の背中にも、それがあったと聞いている。

 刃牙も化け物か、と思った。

 自分も、だとも思った。

 他人から見れば十分に化け物だ。

 翠がそう考える裏では、星が恋に耳打ちをしている。

 星は恋に囁くようにして言った。

 

「なぁ恋よ。おぬしはよかったのか、刃牙を推薦して」

「……なんで」

「何で、もなにも無いだろう。私は恋がそんなに潔いとは思っていない。正直な話、無理矢理後ろから斬りかかって最強を示しにくる方がらしい」

「……それじゃダメ」

「ほう」

「奇襲じゃなくて……全部で勝たないと」

「なるほど。で、それは推薦したことに関係があるのか」

 

 恋は頷いた。

 

「……みたい」

「……」

「外から見たとき、刃牙がどう見えるのか、知りたい」

「そうか。やる方がいい、と思うのだがな」

「……そうかもしれない」

「それに、長坂でも刃牙が闘うのを見たのだろう?」

「……うん」

「それでも見にまわるのか?」

「うん」

「そうか……」

 

 星はそう言い、視線を刃牙の方に向けた。

 既に闘いは始まっていた。

 

   壱

 

 焔耶の前に現れたのは小柄な少年だった。

 さっき闘っていた喧嘩師とは随分と違う。

 同じのは身体だ。

 身体が傷だらけ、ということが同じだ。

 

「お前が相手か」

「ああ」

「ほう……」

 

 焔耶は名前を聞こうかと思ったが、やめた。

 後でいいことだ。

 今やるべきことは……。

 焔耶は自身の武器である金棒をしっかりと握った。

 

「しぃぃぃっ!」

 

 金棒がゴウンと唸る。

 刃牙はその一撃を避けた。

 焔耶は追う。

 

「たぁっ!」

 

 野球の強振のように金棒を振る。

 刃牙はそれを跳ねて避けた。

 加えて上空から蹴りをあびせる。

 焔耶は肩でアゴを守り、蹴りを受けた。

 受けたからには、機会がくる。

 金棒を刃牙に向かって思い切り振り上げた。

 空を切った。

 刃牙は放った蹴りの勢いで、後ろに下がっていた。

 ――身軽なヤツだ

 焔耶はそう思った。

 それに加えて、だ。

 蹴りを受けた肩がジンジンと痛む。

 しっかりと受けた気でいたが、結構深くにまで衝撃がきている。

 一番強いの、と注文されて出てきただけのことがある。

 

「ふぅ……」

 

 刃牙は地面に着くと一息ついた。

 

「どうやら技よりも、力が自慢ってとこらしい……」

「ああ、力も自慢だ」

 

 焔耶はそう言うと、一気に刃牙に肉薄した。

 剣道のように、金棒を大上段に構え、一気に振り落した。

 刃牙はそれを右に避けた。

 そして、蹴りを放つ。

 

「ぐぅ……」

 

 焔耶は足を上げて受けた。

 それでもうめき声が漏れた。

 適度に脱力していた足での蹴りだ。

 足の中の骨、筋肉だけでなく肌も痛む。

 焔耶はくすぐったがりだ。

 神経が過敏といってもいいだろう。

 対武器では役に立つ。

 少し当たったと感じてから避ければ、大きな傷を負わなかった。

 武器での切り合いには過敏になるのはいいが、鞭打に近い攻撃は大敵である。

 少し当たったと思ってからでは、もう遅い。

 刃牙という相手との相性に関しては、最悪だと思った。

 

「痛がってる場合じゃないぜ……」

 

 声が聞こえた。

 同時に風を切る音。

 焔耶は刃牙のパンチを金棒で防いだ。

 ――この間合いだ! 武器は使えん!

 一先ず武器から手をはなし、足払いをした。

 足を蛇のように絡め、一気に刈り取る。

 わずかに刃牙の重心が動いた。

 焔耶は両腕を刃牙の首に絡めた。

 そして、腕の馬鹿力を利用して一気に頭をぶつける。

 単純な頭突き。

 これが刃牙の顔にあたり、鼻から派手に血がでた。

 まだ終わらない。

 首に絡めていた右腕をほどき、金棒に手を伸ばす。

 掴んだ。

 そして、刃牙の胴体にめがけて振った。

 今度は手応えがあった。

 刃牙の小柄な体が吹っ飛んだ。

 

「……どうだ? 力以外もあるだろう?」

 

 焔耶はそう言い、刃牙の方に一歩寄ろうとした。

 突如、雷撃。

 膝から痛みがきた。

 どうやら、連撃の最中に狙われて、やられていたようだった。

 

「……くそっ」

 

 一言、焔耶は吐き捨てた。

 刃牙は既に立っていた。

 鼻血を吹きださせてから少しすると、血は止まった。

 

「武器はあてたのだが……」

「当たった瞬間、当たる方向に飛んだ……腕が片方、外されたんで簡単だったよ」

 

 あっけらかんと刃牙が言った。

 ――くそ

 焔耶は心の中で吐き捨てた。

 

   弐

 

 刃牙対焔耶

 恋はこの闘いをじっ、と見ていた。

 恋の中には、まだ闘いへの想いがあった。

 だが、同時に嫌になってしまった気持ちとか、どこか闘いを以前よりずっと冷めた目で見ている自分がいるのも知っていた。

 長坂から今に至るまで、強者とか闘いが心に響かないのだ。

 闘いたい、とも思っているはずなのに。

 この感情をどうやって整理したらいいのだろうか。

 整理の仕方は何となく分かっている。

 多分、闘いだ。

 それも正真正銘の敗北を喫した闘いの相手を、相手取っての闘いだ。

 恋は何となく、という次元でそのことに気が付いていた。

 だから見ている。

 長坂では刃牙がスピードタイプの霞と闘うのをみた。

 今は、パワータイプの焔耶と闘うのを見ている。

 二つのタイプに対して、どうやるのかを見て、考えることで対策が出来るようになってくる。

 恋はそれを必要としていた。

 そして、それを得ようとする執着には、どこか狂気が見え隠れしていた。

 

「ふぅん……」

 

 刃牙対焔耶の闘いは徐々に終局に向かいつつあった。

 恋はずっと身じろぎせず、じぃっと眺めていた。

 だが、それが急に後ろを振り向いた。

 

「恋殿? いかがなさったのです」

「……大丈夫」

 

 隣に座っていた音々音が不思議そうに聞いた。

 恋は一応返事をしたが、そのまま後ろを向いたままだった。

 猫が急に何もないところをじっと見るように後ろを向いていた。

 

   参

 

 刃牙の身体には、少し血がついていた。

 それは鼻血によるもので、返り血ではなく、他のか所からの出血でもない。

 焔耶にも血の跡はない。

 だが、所々に叩かれた跡がある。

 急所付近にはない。

 腕や足が基本だ。

 

「もういいだろ。終わりにしよう」

 

 焔耶は答えなかった。

 ぜいぜい、と呼吸の音だけがした。

 刃牙は無言で一歩ずつ近寄っていく。

 武器の間合いに刃牙が入った瞬間、焔耶が動いた。

 金棒を横薙ぎに振るう。

 刃牙は後ろに引いてそれを避けた。

 焔耶は追って前に出た。

 一気に間合いが縮む。

 予想以上に。

 焔耶が前に出た瞬間に刃牙も出た。

 懐に飛び込む。

 焔耶は掌底で迎え撃った。

 刃牙は掌底の腕をからめとった、

 そこからは、サンボの飛びつき膝十字のような動きだった。

 両足で掌底に来ている腕を挟み、身体ごとねじる。

 その勢いで、焔耶は仰向けに倒れていく。

 足が地面から離れ、踏ん張りが利かなくなり、武器が使えなくなる。

 固められた。

 

「これで終わりだ」

 

 刃牙はそう言い、さっさと固めを解いて自陣の方に帰っていった。

 焔耶の方はぜいぜい、といい仰向けに寝ていた。

 急に顔に影がかかった。

 

「負けたのぅ。互いに」

「桔梗様……」

 

 桔梗が焔耶を見下ろしたままいう。

 

「無事か?」

「桔梗様こそ」

「わしは無事よ。この通り、しっかりとケガの処理をした」

 

 桔梗はそう言い、巻かれている包帯を見せた。

 

「これからは戦後処理というやつよ。焔耶。どうする」

「……お供します」

「それは戦後処理にか。それとも今後ともか」

「今後とも」

「分かった。では、何とかしてくるか」

 

 桔梗はそう言い、桃香の陣に向かっていった。

 

   肆

 

 戦後処理はおそろしく簡単に、そして手早くまとまった。

 ざっくりと中身を言えば、桔梗の勢力が桃香のもとに入ることになった。

 そして、その噂が広まって、益州内の諸侯が次々と投降してきた。

 投降してきた人間の数は、朱里と雛里をはじめとする軍師たちの想定よりも多かった。

 いや、多すぎた。

 違和感を感じた。

 諸侯に一々合わなければならないため、益州の中心である成都に到着するのは予定よりも遅れた。

 成都は防備を固められているか、と思いきや城壁に兵の姿はまばらだ。

 盗賊とかの侵入を防ぐ、最低限の備えしかない。

 侵攻を受けている城の備えではない。

 これを軍師たちは罠と考えた。

 侵攻軍が入ったところで奇襲をするのでは、と。

 これに対し、元益州の将は成都入りを進言した。

 異様だ、と皆が思うのは必然だろう。

 紫苑と桔梗は軍議で質問攻めにされた。

 

「これ以上隠す意味はないでしょうね……」

 

 軍議で紫苑がそう前置きして、益州の実情を言った。

 太守の劉璋は既に亡くなっている、という話だ。

 益州は主なき土地である、と。

 これを聞いて桃香の周囲の人間は納得がいったようだ。

 桃香は成都入りを決意し、入った。

 民は両手を上げて歓迎した。

 城の宮殿には、最低限の掃除ができる程度の人数しかいなかった。

 主ない以上は当然か。

 皆、そう思い宮殿の王座の間に向かった。

 今後の方針についての軍議のためである。

 王座の間には、誰もいないはずだ。

 だが。

 だというのに、王座の間には人の気配があった。

 掃除の人間だろうか。

 否。

 そのように平和的な雰囲気ではない。

 もっと、荒々しい雰囲気。

 桃香は意を決し、王座の間への扉を開けた。

 そこには、やはり人がいた。

 獅子のような髪。

 黒い道着。

 悪魔的風貌。

 

「皆の衆……久しぶりじゃねぇか」

「おやじ……」

 

 範馬勇次郎がそこにいた。

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