真・恋姫†無双~怒気ッッ グラップラーのいる三国志ッッッ~ 作:クーロン
雪蓮は陣に、オリバと渋川と共に戻っていた。
道中、雪蓮は無言であった。
口を開いたら、何が出るのか分からなかった。
渋川と闘いたい、という気持ちか。それとも、合気のタネを聞こうとする、弱い気持ちか。
威勢のいい言葉か、恐怖の混じった言葉か。
「ジイさんよ、流石にやりすぎだったんじゃねえか?」
「いやいや。あの嬢ちゃんを、ちょっと揉んだだけじゃ」
「あれがかよ」
対照的に、後ろの二人は明るかった。
オリバは、堂々と葉巻を吸っていた。
渋川も久々に闘えたからか、笑みがあった。
ただ、雪蓮だけが黙っていた。
「……もう、着くわ。着いたらすぐに軍議よ」
雪蓮は後ろを見ずに、そう言った。
陣に入り、中央の天幕に行くと、すでに軍議の用意は出来ていた。
地図の置かれた卓が天幕の中央に置かれ、その周りには諸将と軍師がいた。
卓の右には、蓮華、思春、小柄な黒髪の少女。
左には、祭と緑の髪をした少女。そして、雪蓮と蓮華を、幼くしたような少女。
卓の手前には、冥琳が居た。
雪蓮は、卓の奥へと回った。
渋川は雪蓮の後ろに立ち、オリバは卓を囲む蓮華と思春の間に立った。
「……始めるわよ」
雪蓮は静かに口を開いた。
それを聞き、冥琳が地図を指差した。
全員の目が、卓に移った。
「さて、これが賊の籠る要塞の地図だが……」
「守りは固いだろうな……」
地図を見て、オリバが口を開いた。
その一言により、全員が意外そうな目で見た。
「オリバ、軍略が分かるのか?」
「私の蔵書には、その手の本も含まれているからね」
「おデブちゃん、と思うていたが……」
「オイオイ、ジイさんよ。俺の体は筋肉だぜ?」
蓮華の問いに、オリバは笑って答えた。
渋川に対しても、軽く流した。
地上最自由ことミスター・アンチェイン、ビスケット・オリバ。
彼はアリゾナ州立刑務所で生活しており、そのあだ名通り、法律や刑務所という鎖に縛られていない。
世界一厳しいと言われるアリゾナ州立刑務所――ブラックペンタゴンにだ。
その方法は極めて単純であった。
まずはその筋力だ。
女性のウエストどころか、丸太並みに肥大し、散弾を耐える、よくよく鍛えこまれた巨大な筋肉がその我儘を可能にしていた。
そして、もう一つの手段が、規格外の知力であった。
それ故、オリバは策を思いついていた。
「火……が手っ取り早いだろうな」
「偶然ね。私も、それを提案しようとしていたわ」
「そうかい。どうだ、冥琳よ。
「……だろうな。思春、明命! いけるか?」
「はっ!」
「はいっ!」
オリバの隣に居た思春と、小柄な黒髪の少女が返事をした。
それを聞き、渋川は訝しんだ。
「ほォ……そのお嬢ちゃん達で大丈夫かのう? キツイ仕事じゃろうに」
「ええ。我が軍の誇る隠密です」
「じゃあ、そいつ等に任せるぜ」
「前線は私と祭ね。穏と冥琳は指揮、蓮華と小蓮は本陣の守備を。オリバとおじいちゃんは、二人の護衛を……」
「お待ちください、姉様。私も前線に」
「シャオも~!」
「ダメよ。まずは見ていて、戦の雰囲気に慣れなさい」
孫権と孫尚香、蓮華と小蓮が布陣に反対したが、雪蓮は首を横に振った。
冥琳の立場もまた、反対であった。
雪蓮と冥琳に反対され、二人は引き下がった。
「他に異論はないか?」
「すいませ~ん。異論というより質問ですが~」
手を挙げたのは、緑髪で小さな眼鏡をかけた女性であった。
陸伯言、真名を穏といった。
「蓮華様と小蓮様の護衛ですが、渋川さんの実力は分かりますけど、オリバさんはどうでしょうか~? 見せかけだけ、ということも……」
「私の力か。なら、試してみるかい?」
オリバはにっ、と笑った。
自信に満ちた笑みであった。
同時に、誰であろうが相手になる、と言ってる表情であった。
「オリバ。ケンカはダメよ」
「そうかい? まぁ、戦の前だ。蓮華の言う通りだな」
「いや、腕相撲ならどうじゃ? 手っ取り早いじゃろう」
「オイオイ、祭よォ……相手になりやしねえぜ?」
「分からんぞ? 弓を扱うには、意外と力が必要じゃからな」
オリバの笑みは挑戦的であった。
それが、祭に火をつけた。
祭は肘を曲げ、右腕を立てた。
それに対し、オリバは人差し指を突きだした。
「さて……それは、どういう意味かの?」
「
「それで儂に勝つ、と言うつもりか? オリバ」
オリバは口角を吊り上げた。
祭はそれを見て、オリバの人差し指を鷲掴みにした。
握って倒そうとした瞬間、祭の頭に、浮かんだイメージが、巨木であった。
何年も風雨にさらされ、苔むした巨木の……。
「――――っ!?」
「どうだい……?」
「意外とやるのォ……ッッ!」
「まだイケるぜ……?」
オリバの指は、鋼鉄の棒のようであった。
いくら倒そうとしても、指は折れず、一分たりとも動かなかった。
だが、祭の腕も同様であった。
オリバ相手に、引けをとらなかった。
時間が経っても、拮抗状態に変化は無かった。
3分、5分と経過していく。
変化は無かったが、違いはあった。
オリバは余裕そうな表情をみせ、祭は額に汗を浮かべていた。
息も抜けない状況であった。
そして、このような時ほど、決着はあっけない。
祭が呼吸をした瞬間、叩きつけられたのだ。
「わたしの勝ちだな」
「随分と力が強いの……」
「ああ。バカ力だけが自慢だ」
「よく言うわい」
もう、説明は要らない。
護衛にも、問題は無い。
この戦での、孫呉の方針が決まった。
壱
「では、私達の策ですが……」
義勇軍の陣でも、朱里が中心となり、軍略を練っていた。
烈海王は彼女の背後に立ち、刃牙は天幕の入り口に立っていた。
愛紗、鈴々、桃香、雛里は卓を囲んでいた。
「やはり、名を上げる戦果をあげるために、愛紗さんと鈴々さんを前線へ……」
「だが、それでは防衛が……!」
「それでしたら、私と刃牙さんにお任せ下さい」
「任せられるか?」
「ええ。私では、戦での指揮は出来ませんから……」
愛紗の不安は当然のことであった。
だが、烈海王の提案で、それも晴れた。
「お任せします」
「明白了」
烈海王と愛紗は互いに向き合い、包拳礼をした。
弐
「よし! 行ってくるぞ、独歩!」
「ボク達で全員ぶっとばしてくるよ!」
「お前等よォ……オイラは、何て言ったか忘れたのかよォ……。悲しいぜェ、オイラは……」
「死なんから安心しろ!」
「ハァ……秋蘭、オメェには苦労をかけるなァ」
「いえ。独歩殿は、安心して私にお任せください」
華琳の陣でも策が決まり、すでに出陣を始めていた。
出るのは、春蘭、秋蘭の姉妹に季衣。そして……。
「凪……。お前、無理をする必要は……ッッッ」
「いえ! 大丈夫です、克巳さん! 今は動きたい……戦いたいんですっ!」
「元気やなぁ……」
「ホントに元気なの~」
凪、真桜、沙和の三人が出ることになった。
流琉は本陣防衛。独歩と克巳は華琳の護衛。指揮は桂花と華琳で両翼を固めてある。
名を上げるための、最高の布陣であった。
「親父ィ……いいのかよ、アレ?」
克巳は独歩に聞いた。
独歩は笑みを浮かべて答えた。
「いいじゃねえか。本人がやりてえ、って言ってんだ」
「確かに元気そうだし、大丈夫よ。何か吹っ切れたんじゃあないかしら」
「ほらよ。華琳もそう言ってやがる」
「あら。私は独歩を信用して言ったのだけど」
独歩は腕を組んで、クックと笑った。
華琳も、クスリと笑みをうかべた。
「それに、克巳も言ったことあるじゃねえか。花山とやり合った後によォ」
アレと同じだよ
独歩はそう言った。
「闘うことがいいってか……」
しみじみと克巳は呟いた。
仮に、自分と同じことを凪が考えているなら、それは止めようがなかった。
克巳は黙った。
華琳はその姿が気になった。
「ねえ、独歩。花山って誰よ」
「喧嘩師ってとこだな」
「喧嘩師……。随分と野蛮ね」
華琳は花山の存在が気にはなったが、今はこんなことを考えている場合ではない、と思い、花山という人間の事をを脳内から弾き出した。
そうこうしている内に、準備は整っていた。
「華琳様。指揮を……」
「ええ、分かってるわ桂花。全軍進軍開始!」
その一声が口火のようであった。
砦の一角から、煙が上がった。
参
――成功しました!
火を放ったのは、孫呉の隠密である、思春と明命であった。
彼女らは、与えられた任務をこなし、賊は混乱。
あと残された任務は、可能であれば大将首を取るだけであった。
「明命! 向こうを頼んだ! 私はこっちを探す!」
「はい! 思春さんもご無事で!」
策は単純であった。
可能ならこの混乱にまぎれ、このまま大将の暗殺をする。
明命は駆けた。
真っ直ぐ、敵陣の中央へ。
明命は、孫呉の中で、一番の俊足を誇っていた。
そして、隠密ゆえの身のこなし。
追いつける人間は居なかった。
弓、剣、槍をかいくぐり、敵陣へ……
だが、その足が止まった。
目には、男の背が映っていた。
大きい男であった。
髪は、炎と共に揺らめいていた。
服は黒く、火中で浮き上がっていた。
右手は、何かを鷲掴みにしていた。
その男が、くるりと振り返った。
――至近距離でチーターに出くわしたカモシカは、身動きがとれなくなるという……。
絶対に逃れられぬという絶望からパニックに陥るためといわれるが……ここに居合わせた人たちの状態は、まさにそれであった。
明命の全身にある六十億の細胞は、逃げろと命令した。
動悸がする。息が荒くなる。寒くもないのに、冷や汗が垂れる。
そして、男と目があった。
「――――っっ!」
明命は、絶望的状況に全身がすくんで固まってしまった。
ただ、目があっただけなのは理解している。
それでも、身がすくんでいた。
「クス……クスクス……こんなトコに、女がきやがるか」
男はクスクス笑っていた。
動いてはいない。
明命にとってのチャンスは、ここしかなかった。
息を一気に限界まで吸い、走り出した。
男に向かったのではない。逃げたのだ。
一刻も早く、逃げ出したかった。
「~~~~っ!」
「チッ。逃げちまった……かァ」
明命は後ろを見なかった。
ただ、駆け抜けた。
心臓が潰れる程に、走った。
明命の頭の中には、一つしかなかった。
――早く、雪蓮様に伝えないと! 鬼の存在を!
肆
「何だ!? 急に……!」
「春蘭様!? 大丈夫ですか!?」
「ああ……もう、大丈夫だ。もう、この馬は落ち着いた」
「姉者! 止まってくれ! 後続部隊がついて来れてない!」
燃え盛る砦。
その中では、異常なことが起こっていた。
秋蘭はそれを伝えるため、足を止めさせた。
「凪たちの部隊か。何があったのだ?」
「分からん。だが、急に馬が暴れて、大多数が落馬した。それで遅れがでている。こっちもさっきのことで、かなり怪我人がでた」
「う~ん……馬術が下手、ってことじゃないの? 訓練足りなかったのかなぁ……」
「いや。それはないだろう」
「そうだ! 我らが華琳様のため、鍛えに鍛えた精鋭だぞ!」
季衣はそう言ったが、秋蘭は首を振った。
騎兵には、しっかりと訓練をさせていたのだ。率いていたのは精鋭だ。
「妙だな……本当に妙だ」
秋蘭はそう呟いた。
伍
「鈴々! もうすぐ敵陣だ! 油断するな!」
「愛紗もなのだ!」
愛紗と鈴々は馬を降り、階段を駆けていた。
登り切った先には、大将が居る。
そう思って駆けていた。
伏兵がいるのでは。途中に罠を張っているのでは。
そう思い、警戒しながらも駆けていた。
しかし、何もない。
誰かいる気配もない。
妙な雰囲気であった。
二人は登るほどに警戒心を高め、登り切った。
その先もまた、妙であった。
「な……っ!」
「全員、やられているのだ……」
凄惨な光景であった。
目が抉られた死体。アゴが吹き飛ばされた死体。開放性骨折した死体。縦圧縮された死体……。
「まだ新しい死体か……」
愛紗は一つの死体に寄り、地面に滴る血に触れた。
血は愛紗の細い指に絡みついた。
ヌルヌルと絡む血は、周りの炎の影響もあるのか、まだ温かった。
「愛紗! これ……!」
鈴々に呼ばれて行くと、彼女は一つの死体を指差していた。
首のない死体であった。
身なりは、周りの死体よりは豪華であり、これが大将であると推測できた。
「愛紗……どうするのだ?」
「事実を伝えるしか……ないだろう……!」
陸
「何で、ここにお前がおんねん……っ!」
「アンタ……! 何をしに来たのよ! 霞から、アンタの話は聞いたわよ!」
「いや、お前等に、土産を持って来ただけだ」
イ~イ土産だぜ。
そう言い、黒服の男は袋を投げた。
それは、董卓軍軍師、賈駆の目の前に落ちた。
賈駆が袋に手を伸ばしたが、それを張遼が止めた。
――ウチが開けるで
そう言って、袋に手をかけた。
中から出たのは、一個の首であった。
「黄巾の頭の首だ」
黒服の男は笑った。
「……で、これを此処に持って来た理由はなによ」
「華雄に頭下げる……ってワケやないやろ?」
「ああ。交換条件ってヤツだ。お前等は黄巾の頭の首を取り、この乱で第一の功をあげた」
「アンタのおかげでね」
賈駆の言い方は刺々しかった。
だが、男には気分を害した様子は無かった。
むしろ、機嫌よさそうに笑っていた。
ニヤニヤと笑っていた。
「それでだ。俺のこの手柄と引き換えに、お前等は洛陽に行け」
「飲まない、と言ったら?」
「それでもいいぜ。
鬼はニヤリと笑い、髪が炎のように逆立った。
本日、刃牙vs恋姫の地上最強決定戦を書き終えましたッッッ
一応、誤字脱字のチェックを入れてから投稿するので、多分明日の今頃には投稿できますッッッッ