安寧の日常
他に
しかし自分の感覚か。もしくは単に物の価値を理解していない馬鹿だからか。自分にはここは何もかも無いと判断するレベルに何もかもが有り過ぎるのだ。
人間が無限という言葉を比喩に使う事は出来ても認識して使う事は出来ないのと同じだ。
だからきっとここは無限と0の極致なのだ。
窮極的に矛盾な表現だが、自分なりの解釈でもっとも分かりやすい例えはこれじゃないか───
「───」
気を抜いてしまった。
一瞬、正しく無限と0をぶつけられたかのような情報量に自我が崩壊しかけるのを辛うじて阻止する。
何度も来ているが故の油断か。
ここは当たり前に自分が生きて呼吸が出来る大地ではない。
むしろここは永久不断の廃絶世界。
空は押し潰れ、大地は死に、空気は崩れてる。
生物はここにはいられない。
生物はここでは生きれない。
何せここには全てがあるのだ。
全てという事はそこには死もあるという事で。
それを証明するかのようにそこには門番のようにただ佇んでいる死神が立っている───
「 」
人間の言語野で定義をするというのなら灰色の襤褸のマントで体を覆ったナニカ。
全身を覆ったその不吉さを更に醸し出す為かのように中身が見えないそれからは眼光のみが覗いていた。
「 」
その光からは良く使われる定型文である死ね、という殺意は感じられなく───消えろというもう一段上の破滅のみを望んでいた。
マントの中にいる存在は嘘偽りなくこちらの消滅を望んでいる。
可能ならば今、直ぐにこちらに近付いて存在を抹消したいと切に願っている。
ならば何故動けないのか。
実に簡単な話───まだ自分は
到達していないのに何故視えているのかというまたもや矛盾の話になりそうだが───もう既に接続は断たれたようだ。
視界が一気に安定しなくなる。
今まで見ていた荒涼とした灰色の砂漠は最早ノイズの世界に変貌している。
視界が崩壊したならばもう
そのままここから離れようとする意識が最後に捉えたのはやはり最後までこちらを強烈な視線で見てくる灰色のナニカであった。
望み通り消え去ろうとしている自分に対してそれは満足していないと言わんばかりに変わらぬ視線を送り続ける。
「 」
常人が受けたならばその期待に応えてしまいそうになる死神の目線に、俺は消え去る意識で鼻を鳴らす……ようにしてみた。
言われずとも消えるし、好き好んでここに来る気はない
───少なくとも今は
その思念を残し、強烈さを増した光から逃げるように魂の接続がブツン、と途切れた。
連続的に且つリズム良く、しかも煩く鳴る音の塊を起きた直後の反射神経は見事に使命を果たした。
寝起きとは思えない見事な速度と力が籠った裏拳。
実に見事なくらい丸く固まった拳の塊は狙い通りに音を鳴らしている物体───俗にいう目覚まし時計に直撃した。
とてつもなく最高の形で直撃した目覚まし時計は勿論、その打撃を受けて吹っ飛ぶのを堪える力などない為に吹っ飛ぶ。
その吹っ飛ぶ先を見ぬまま殴った手が先に強烈な痛覚信号を発する。
「つぉ……! あぐっ」
呂律の回らない舌が痛みに反応した言語を出そうとするがただの呻き声にしかならなかった。
しかも吹っ飛んだ時計は壊れたかと思えば健在であると言わんばかりに鳴り響きっぱなしである。
あ、これ、親父か母さんかのどっちかの仕業かは知らないが強化してるなちくしょう、ととりあえず悔しい思いを感じながら
「……何だ。今日も生きてる」
余人が聞いたのならば自分は死の病を患っているのかと言われそうだが別にそういうわけではない。
実に健康的な身体と精神を持っている。
その事を聞いたら周りの人の反応は様々だろうけど、結論は大袈裟という反応だろう。
その事をよく理解した上で彼は苦笑しながらそう思った。
そして同時にこうも思った。
ま、別にどうでもいいか、と
何故ならこれが俺の───遠坂
ふわぁあ、と欠伸を盛大に洩らしながら洗面所で顔を洗う。
眠気MAXのテンションを冷たい水で顔を洗う事によって眠気のテンションを少し下げる事に成功。
なぁに、母さんには負けるさと思いつつタオルで顔を拭いてそのまま廊下に出る。
純和風の廊下から欠伸をもう一度かましながらこの家の中心地に向かう。
まぁ、要は洋風に言うとリビングである。
ま、和風なのでリビングはおかしいかと思いつつ目的の扉……襖だから扉違うが実にどうでもいいので遠慮なく横に引く。
廊下よりも光に満ちている故に一瞬目を細めつつ、そのまま中に入り
「おはよう、真」
長身の男性がそれを迎え入れた。
褐色の肌に白髪の頭をしているが顔立ち自体は普通の日本人である男。
見た目の年齢は20代後半くらいなのだが実際の年齢は30~40代くらいのはずなのだがまぁ、そこはセンスの無い服装の下に隠された年齢にはそぐわないレベルで鍛え上げられた肉体の恩恵という事にすればいい。
男性は普通の笑顔を浮かべ、厨房で料理をしていたのでエプロンを装備し、且つ着こなしている。
名を遠坂士郎。
……一応、俺の父親である。
「……はよう」
過去のあれこれや思春期やらでついぶっきら棒に対応してしまう。
そしてそれを毎回苦笑で見送るのが親父の朝の習慣になりつつある。
「今日は早い日か。出来ればもう少し起きるリズムが安定すればいいんだが……そこら辺は本当に凛に似たな」
「……その件の母さんには負けるから別にどうでもいい。それに朝の眠気は人類最大の敵だ。勝つ為には魔法クラスの奇跡が無いと勝つのは難しいものだ……」
「随分と壮大な話になっているがとりあえず凛を起こしに……む。いや丁度来たか」
親父の声に五感を少しだけ尖らせると確かに廊下から足音が聞こえる。
ただまぁ、普通なら歩く音というのは個人差はあれど均等なリズムで聞こえるものだと思うのだが、その足音はまるで酔っ払いの千鳥足のようなランダムなリズムでここを目指している。
毎度恒例なので自分は無視してお茶を入れ始める。
そうしている間に襖が開いて……まぁ、陳腐な表現で語れば絶世の美女が現れたというのだろう。
スラリとした手足に負けないレベルの長くて綺麗な黒髪を自由に靡かせ、スタイルはうん、胸に関してはノーコメントだがそれ以外はオールパーフェクトと言える体型。
当然、顔も父と同じで年齢にそぐわないレベルの若々しさなのだが……その顔が残念ながら美女という雰囲気を台無しにするくらいに筆舌し難い顔になっている。
それにやはり習慣となった苦笑を父は顔に張り付けながら母の方に向かう。
「ほら、凛。顔が毎度ながら恐ろしい顔になっているぞ。顔は洗ってきたか?」
「……んぁ。ちゃぁんと……洗ってきたわよぅ……」
「そうか。なら水を入れてくるから座って待ってろ」
「ん……」
あ~~、暑い暑いと俺は手で団扇を作ってパタパタと自分に振っておく。
この家にいると毎日糖分過多で甘い物を食べる気が起きなくなってしまうマイナスがある。
恐らく失敗すると体重が酷い事になる。
女性には地獄のような場所だろう。
俺も実は自分の健康状態を疑っている。
糖尿病とかになってないだろうな……と思いながら、目の前にボケーっとした母が座る。
「……ん。おはよ、真」
「おはよう、母さん」
こちらの挨拶でようやく少しだけ頭が回りだしたのか。
母さんはようやくちゃんとした表情───苦笑だが。それを浮かべて会話を切り出した。
「私相手にはちゃんと挨拶出来るのにまだ士郎にはちゃんと出来ないのあんたは。士郎、言ってたわよ? 真が俺と会話する時、私と話している時と違って固くなってるって」
「む……」
事実である。
完全なるこちらの落ち度だから何一つ言い返せないものではあるのだが……かと言って素直に話す気が一切無いのが困ったものなのである。
というか素直にそうなれるのならば目の前の母親の苦笑は無い。
「男は皆、マザコンってよく言うけど……困ったわ……私の美女パワーに息子の心を奪ってしまうとはね……」
「いやぁ……毎朝物凄い表情で起き上がってくる母の顔を見れば例えそれが百年の恋であっても冷めると思うんだけど……」
「それが正しかったら今頃私は離婚しているわけだけど?」
「いや……親父は……変態だから」
「まぁそこは否定しないけどね」
「聞こえているぞーー! 後、凛も否定してくれないか……」
厨房から聞こえる声は二人で同時に無視した。
その事実に父は自分の家庭内ランキングの低さに硝子の心が罅割れた。
母さんへの水のみを持って自分は厨房にとぼとぼ戻っていく。大丈夫……答えは得たよ……などと何やらぶつぶつ言っているが何時も通り狂ったのだろう。
なら後は母さんに任せる。
「で、今日はあんた早いのね……」
「……」
母さんが言っているのは起きる早さの事だろう。
確かに自分の平均は母さんと同時か、少し遅いくらいである。
とは言っても体内時計などと何とか言われているが起床なんてランダムだ。
だから別に母がそこまで気にする事ではないとは思うが
「あんた、早い時は絶対に寝惚けてないわよね───悪夢を見て覚めたのを繰り返しているみたいに思えるわよ、それ」
その言葉に俺は溜息を吐いてお茶の追加を入れるのみである。
確かにそれが一度や二度の出来事ならただの偶然と言えるかもしれないが、ずっと繰り返していれば最早異常と言われても仕方がないだろう……ああ、でもそういえば───自分は何時からあれを見始めたっけ?
「───そりゃ人間、生きてたら悪夢なんて何回でも見るだろ?」
「───あんた。今日、ちゃんと鏡は見た?」
唐突な指摘に意図を理解出来ない。
別に女ではないので鏡で悦に入るナルシストでもないので自分はそこは基本的にはおざなりである。
ちなみに顔は二人からは私と士郎を足して割った感じ、と常々苦笑されており、髪の色は赤色であり、少し伸ばしている。
昔は何故こんな色なんだと思っていたが、聞いてみたら親父の昔の髪色がこれだったという事らしい。
髪に関してはそんなに伸ばすつもりは無かったのだが何か母が「やだ……何、この髪質……流石は私の息子───伸ばしなさい」という家族内ランキングナンバー1の一声による運命決定であった。
解せぬ。
まぁ、別にそこは実にどうでもいいんだが……とりあえず指摘されたので思わず手元にあるお茶を見て今の自分の表情を見てもまぁ、やはり理解不能という感情しか張り付いていない。
それをとりあえず目線で語ると母は溜息を吐くだけ吐き
「曖昧な表現でわざと語るけど───何時も酷い顔よ」
その事にへぇ、そうだったのかぁ、とそれだけを思い
「成程……今の女を捨てたとしか思えない母の表情を見た後なら説得力はあるな」
瞬間、背後に盾が現出した。
一体誰がそれの正体を想像出来ようか。
花びらの様に美しい形と輝きを発する七つの花弁。
トロイア戦争において大英雄の投槍すらも防いだとも言われる一つ一つが古の城塞に匹敵する宝具───
普通の魔術師が卒倒するような光景が障子を守る為に貼られているのを見ると卒倒どころではないかもしれないが。
だが憐れかな……ここではこれくらいの神秘が使い捨てになる事なんて日常茶飯事なのである。
「言ったわね……その口に免じて母の愛を受け止めなさい……!」
母が台詞が終えた直後に母の指先から黒い弾丸のようなものがガトリングガンのように発射される。
何の躊躇いもせずに息子よりも障子を守る父も父だが、何の躊躇いもせずに致死レベルのガンドを撃ちまくる母もどうなのだと嘆息しながら───魔術回路を開く。
魔術回路を開くイメージは個々によって違うという。
例えば母は心臓にナイフを刺すイメージ。
父は撃鉄を落とすイメージらしい。
ならば自分はそういった部分は父から受け継いだのだろう。自身の魔術回路を開くイメージは引き金を引くイメージであった。
カチッ、とトリガーが引かれる。
その後にダムの門が開かれるかのように魔力の水が魔術回路を通る感覚とイメージを抱きながら母のガントを防ぐ術を考える。
防ぐ手段は幾らでもある。
何なら躱すというのも有りと言えば有りだがそれでは魔術回路を開いた意味がない。
ではどうしようかと考えると手元にあるお茶をふと見た。
……何かしょうもないけどそれこそあれのせいでテンション低いからこれでいいか、と思い───お茶をとりあえず噴水のようにぶちまける。
中空に浮く液体は当然、そのままだと重力に引かれてテーブルに落ちるし何よりも母のガントを防ぐ事なんて当然出来ない。
だから自分が手を伸ばし、その水に
即興の魔術故に詠唱も即興の言葉を脳内から捻り出す。
「
言霊を聞き届けた水分は既に理から外れた動作を行っていた。
法則もなく飛び散っていたお茶の欠片が唐突に収縮したのだ。
それも間違いなく元々あった量よりも多くなって、円形の盾のような形になってガンドを迎えた。
均衡するかと思えたものは意外にもあっさりとガントは盾をあっさり撃ち抜き───しかし貫かない。
「ちょっと待ちなさい! そこのインチキ息子!」
母の痛烈な叫びを耳にして、うむと無視する。
ガンドは何も知らない一般人が見たらまるで黒い弾丸のように見えるだろうけどその本質は呪いだ。
指を向けた相手を呪うというのが本来のガンドなのだが母はそこら辺、天才なのでこういう形で発言しているが結局の所、呪いという本質からは外れておらず弾丸ではない。
だからこのように水の中で呪いを循環させていたのだが
「あ、駄目だ」
やはり即興故に許容量の問題が起きそうである。
今にも飽和して幾つか突破しそうである。
まぁ、そりゃあ
「
と逆にこっちから自壊させた。
結果は速やかに。
呪いごと水……残念ながらお茶なのだが。まぁ、お茶以外の水分も使ったので水でいいだろう。
とりあえず水の盾は呪い事己を四散させ───掃除の邪魔だから飛び散らないように蒸発させた。
その頃には俺は今度こそちゃんとお茶を入れて飲んでいた。
目の前にガクガクブルブル震える母がいたがお茶が美味しいので無視して3杯目を……
「ちょっと! そこの先天的インチキ息子!」
「実に母にだけは言われたくない称号だけど愛らしく無視しても?」
「却下よ却下! あんた! さっきのまた新技っていうか作り出した魔術でしょ!? 何時考えたの!」
「いや即興で」
「カーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
母が実に愉快な叫び声を上げるのを愉悦にして父に飯の催促を目線で促す。
すると父も苦笑を深めてお皿を持ってくる。
父得意の和食にいい具合に腹を空かせていたのでよっしゃと内心でガッツポーズ。
「明らかにお茶よりも多い水は……空気中からも取ってきたわね……更には水という属性を利用した浄化能力でガンドの呪いを解呪しようとしてた……でも即興だから許容量を甘く見積もってたのを逆に自壊させる事によって呪いも一緒に破壊したって事ね……ああもう一瞬でどれだけ意味付けしてるんだか……!」
故に母の小言も無視した。
いやだってしゃあないじゃん。天才なんだし。いっそナルシストの意味で使えた方がマシなくらいに。
行ってきまーす、と微妙に気が抜けた声に行ってらっしゃいと夫婦一緒に声を揃えて送り出した後、私と士郎は机を挟んでお茶を飲んでいた。
「お疲れのようだな、凛」
「まぁね……って言いたい所だけど私だけがこうも疲れてるのはあんたが親子のコミュニケーションを取らないからでしょうが」
私の私的に心当たりしかない馬鹿は視線を逸らしている。
ガンドぶちかますぞ? と笑顔を振り撒くと本人は戦争いけない、暴力反対などと言ってくるのでとりあえず許した。
「それにしても頑固頑固。絶対に頑固な部分はあんたに似たわよ。私じゃあそこまで馬鹿みたいに頑固にはなれないわ」
「いや、あの強気っ振りは凛だろ。弱気を強気で押し退ける様はもうそっくりだ。血は水よりも濃いと言うが凛と真は正しくその言葉の体現者だろう」
何よ、何だとお互い言い合うが不毛の争いであるとは理解しているしお互いこの程度の会話はお遊びみたいなのと理解し合っているので遠慮はない。
故にこの光景をスイーツ(笑い)と言って常にこの光景を見た後にあからさまな疲れた顔をして二人から離れてコーヒーを求める息子の姿があるのだが二人は全く気にしていない。
だがその応酬も二人同時に吐いた溜息で終了する。
「いい加減、弱音を吐いてくると思ったんだけどねぇ……朝早く起きる時、取り繕ってはいるけど───まるで自殺しそうな表情を浮かべているのに。やっぱり無意識みたいだけど」
「かと言ってこちらから聞き出そうとすればさっきみたいに煙に巻かれる、か……歯痒いとは正しく今の状況だな」
結論から先に言わせてもらえば、つまり二人は実に親らしい問題に頭を抱えていたという事になる。
それすなわち───息子が悩みを抱えているようだが相談してくれないという親馬鹿精神に基づくものである。
まぁ、しかし言い訳を許されるなら私達二人は当然、子供の教育という事に関しては初心者だ。
子供は真しかいないので当然なのだが……まぁそれ以上の問題があると言うべきか。
「私達……あの年代の時に親いなかったものねぇ」
二人で同時に苦笑する。
あの子も今や高校生。
よく言われるが、子供の成長を見ていると本当にあっという間に月日は流れる。
子供がお腹の中にいると判明して私は出来るだけ冷静にはしていたが内心びくついていたのに、今ではもう自分よりも背丈が高くなっている。
まぁ、そこで問題がこれだ。
私と士郎はあの年代より以前から親がいない。
別にそれで自分は不幸でした、なんて言うつもりはない。
これは不幸自慢ではなく単純な事実として私達は親というものがこういった時にどうしてくれたという経験が無いのだ。
敢えて士郎の側だけで言うなら今もうちの息子が通っている高校で英語教師をやっている体力に関しては年齢詐称教師なのだが……実に参考にしていいか解らない。
そしてそうなると私の場合は後見人であったあの外道神父になるのだが……絶対に無理。不可能。アウトオブ眼中。
「もういっそ頭の中を覗いてやろうかしら……!」
「凛。それは家族でも犯罪行為だと思うんだが」
「ばれなきゃいいのよばれなきゃ───って言いたいけど士郎ならともかくあの子じゃ弾かれるのがオチね。私と士郎の子だからそういった部分はどうなるやらって思ってたけど……」
士郎という突然変異と私という天才が混ざり合った結果が突然変異の天才という事になってしまったという事になるとは。
今の時計塔でもあそこまでの天才はいないのは確かだ。
魔術に愛されているというより愛され過ぎた結果がうちの息子。
もしかしたらあの子の代で
まぁ、そこの辺りはどうなるかは不明だ。魔術師らしくそこは長い目で進んでいくしかないのだが
「……既にこの状況が魔術師らしくないけどね」
魔術師とは程度は違えどその志はただ一つ。
根源への到達
それしかないし、それのみが全てだ。
様々な魔術系統がこの世界にはあるがそれら全てがただ根源へ。ただ魔法へ。ただ『 』へ。
最早、目的というのもおこがましい。
これは生態だ。
人間が呼吸をし、食物を食べるように魔術師は根源を目指す事を生態に取り入れた生き物。
正しく究極の人でなしの生物なのだが……まぁ習慣とは恐ろしいものだ。
その魔術師の生態を超えるレベルの理想を目指した馬鹿が近くにいると感染されてしまうようだ。言い訳にも使える夫に内心で微笑する。
そうしているとこちらの内面に欠片も気付いていないであろう彼は顰めた顔で如何にも言い辛いんだがという顔をしながら
「その……もしかしてだ───真は魔術が……好きではないと思っているとかはどうだ」
これも普通の魔術師の家庭では殺されても文句は言われない言葉だが、そこは他所は他所。うちはうちで。
「魔術がねぇ……」
遠坂真
遠坂家の7代目であり恐らくこれから先、息子以上の傑作は天文学的な確立に成り得るレベルの最高傑作。
天才という言葉しか当て嵌められないから天才と言っているが何なら怪物、化物、異形、異常とも例えてもいい。余り気分が良くないから例えないが。
ともあれ、こと魔術に関して言えばこのまま成長すれば間違いなく時計塔の歴史を塗り替えるレベルには成長すると親馬鹿目線を抜きでそう言える。
でもそれは本人が望めばの話、という事になる。
「嫌い……ってわけじゃあないとは思うわ。あんたみたいに捻くれてないから嫌いなら嫌いではっきりさせるわ、あの子は。でもそうね……嫌いって言うほど淡泊じゃないけど……好きって言えるほどの情熱があるかは謎ね」
楽しんではいる、とは思う。
楽しんでなければ何故わざわざ今朝のような新しい魔術を構築しようとする。
楽しみが無く、嫌悪しているのならばそもそも私が教えた障壁を普通に貼ればいい。
なのにわざわざ創作したという事は創作する手間を惜しまなかったという事だ。
だから楽しんではいると思うけど……魔術に人生を捧げるほど愛しているのかと問われれば不明だ。
何時も覇気がない顔をしているせいでやる気は無いようには確かに見える。
「理由が見つかってないのかもしれないわね」
「理由?」
「そ。理由。人生の指針───あんた風に言えば理想って言ってもいいわね」
ちょっと皮肉を口にすると士郎は面白いくらい効果的な顔になってくれるのね微笑しながらごめんごめんって言い、話を続ける。
「えーと……それはつまり自分がどうしたいのかっていうのが分からないって事か?」
「ありがちだけどね。でもある意味で魔術の才能が有り過ぎたからかもね。だってあの子、願って叶うものを地で行ってるもの。勿論、真が努力しているからこそもあるけど逆に言えば多少努力をすれば達成出来るもの。あの子が必死こいてたのだってあの礼装作った時くらいだったし」
凛は脳内であの万能礼装の姿を思い描いて溜息を吐く。
あの子、一体何と戦うつもりかしらと見た当時は思ったけど……ああ、でもそういえば───真が珍しく本当に子供らしい笑顔で完成した時は喜んでたっけ。
思わず士郎と一緒に頭を撫でても何時もなら振り払うのを素直に受け止めて笑っていた。
もしかして……否、もしかしなくても───そういった笑顔を見せてくれたのはそれが最後だったのではないだろうか……?
「───凛?」
「……何でもないわ」
色々と考え過ぎたかもしれない。
思考の冷却にお茶を飲む事にしてとりあえず頭と話題を切り替える。
「それにしても私も士郎も変わったものねぇ。子供産まれても我が道進むと思ってたんだけどね。お互い」
「む……まぁ、確かに。でも凛。それはお前にだけは言われたくはない」
べっ、と舌を出して返答すると士郎はやれやれ、という顔をする。
そういう仕草だけは変えれなかったわー、と苦笑する。
「ま、あんまり好きじゃない言い方だけど……ある種のゆとりって奴ね。何せ士郎みたいに理想を持っているわけでもないし、私みたいに鍛錬を見てくれる人がいないわけでもないし───私達みたいに人生に衝撃を与えるようなイベントがないものね」
「……」
沈黙と同時に笑うべきか苦笑するべきかを悩んでいる旦那を見て、私も似たような顔をしているのだと思う。
「今、思い返すと私達本当によく生き残れたと思わない?」
「それについては全面的に同意だ。今でもふと思い返すと死ぬしかない状況しかないのに不思議な事にこうして生きている」
かつての戦いの記憶───聖杯戦争。
過去の英雄を七騎召還して最後の一人まで殺し合うバトルロワイヤル。
当然はルールは神秘を隠匿する事のみを忘れなければ基本無法。
そして英霊はクラスという枠に嵌められて召喚する。
そして私達が経験した聖杯戦争ではどの英霊も規格外であったのは確かだった。
セイバー───気高く清廉とした理想の騎士、アーサー王。
アーチャー───慇懃無礼な錬鉄の英雄……英霊エミヤ。
ランサー───ルーンを修め、因果逆転の槍を持った不敗の英雄、クーフーリン。
ライダーに関しては実は真名は最後まで分からなかったが何故かそこまで実力を発揮する事がなく落命。
キャスター───神代の魔女。魔術ならば現在の魔術師では勝つ事が絶対不可能な魔術師、メディア
アサシン───架空の英霊。しかし極めた剣術が魔法に届いたとんでも剣士、佐々木小次郎。
バーサーカー───ギリシャ最大にして最強の英霊、ヘラクレス。
番外───第四次の生き残りのアーチャーにして人類最古の英雄王、ギルガメシュ。
よくよく考えればどこも狂ったキャスティングだ。
どこに当たっても最悪だ。
強いて言うならライダーの強さの部分が謎だった所か。何せ怪我もしていた士郎が恐らく手を抜いていたんだろうけど耐え抜いていた。
まぁ、でもその部分は恐らく魔術師ですらなかった慎司がマスターだったからだとは思うからノーカンだと思われる。
でもまぁ、最悪だとは言ったが先に言ったような問題を各陣営抱えていたわけだが。
セイバーは士郎のせいで魔力供給に問題を抱えていたし。
アーチャーはもう最後まで秘密主義で自分勝手に動き回りまくったし。
ランサーはマスターとの不仲の上に最後は裏切られる終わりを迎えたし。
ライダーは先に言ったように。
キャスターは比較的問題は抱えてはいなさそうだったが……まぁ強いて言うならマスターが魔術師では無かった、という所。
アサシンはそもそも門番から離れる事も出来ない。
バーサーカーはここも問題は無かった所だと思うけど……やはり挙げるならバーサーカーというクラスになった事が問題な気がする。
そしてギルガメシュに関しては……これは実はそこまで直接対決をしていないから情報源は士郎からになるのだが……最初から乖離剣とやらを出されていたら問答無用で敗北していたのにというのを見ると慢心が強かったらしい。
こうして普通に考えてみるとどこも問題だらけだ。
きっと昔の聖杯戦争でもそうだったんだと思うけど……ああでもロードエルメロイ二世の話を察するとあの人のチームが魔力を除けば全聖杯戦争中最高のチームだったんじゃないかしらって思える。
士郎とセイバーの二人も相性は良かったけど供給の問題を考えてみると少なくともちゃんと補給していたエルメロイ二世の方がマシっぽいし。
「どいつも癖が強かったわねぇ……」
「全くだ」
「あら? 自分の事も入れているのに他人事?」
「……」
一気に不機嫌になる士郎に弱点は相変わらず変わらない事に喜ぶべきか悩むべきかを考えるがまぁ、そこは置いておく。
「有り得ない話だけどどこもかも問題が無くなっていたらどうなっていたかしら」
「少なくとも冬木が地図から消えるな」
「……」
「……」
全くもって何一つとして冗談にならない結論に二人して沈黙する。
二人が思い返すのは各自の宝具。
星が鍛えた神造兵器。
原初の地獄を生む対界宝具、乖離剣。
無限の剣を内包した固有結界。
因果逆転の呪われた朱槍。
などなどと確かにどれもこれもが規格外であったのを思い出すと本当に冗談にもならない事実である。
とかまぁ、考えていたら色々と話が逸れた。
とりあえず綺麗に纏めるならば
「子育てって難しいわねぇ……」
時たま本屋に寄って目にちらつく思春期の子供に対する親の接し方なるものを見ると思わずレジに持っていく衝動を抑えている事は秘密である。
いや、本当に自分って変わるものね
こうして再び悪役とクロの狂った渇望が流出される。
言い訳許されない究極の行い、合作2作目が今、行われた……!
この悪役! クロに石が幾ら投げられても覚悟は出来ている!!
というわけでFateの新作、よろしくお願いします!!
感想……も第一話ですが良ければお願いします!