か細いが確かに息を吹き返した瞬間に、遠坂真は膝を着く所であった。
「~~~~~~はぁーーー!」
物凄く長い間息を止めていた感覚に思わず人生最大クラスで息を吐いてしまう。
その事実を隣のセイバーに苦笑で、笑われるがもういいだろう。
何せ、死に抱かれる運命であった女性の命を救えたのだから少しは許して欲しいというものだ。
大体、今回は蘇生としては比較的最も楽なタイミングであった。
まず第一に間桐桜は心臓を貫かれたとはいえ肉体的には未だ死んでいないという状態であった。
更には致命傷は心臓の一撃のみだ。
ならば、方法は貫かれた心臓を元の場所に戻しつつ死ぬ前に治療を完成させれば成功。
前提条件がベリーハードではあるが、それを補う鞘があった為、可能だった。
元手があるならともかく無い以上、破格の道具さえあれば問題無しという事だ。
だが、それでも流石に初めての連続だったからドッと疲れてしまったが、それは普通に仕方がない。
「……さて」
桜さんはか細うが呼吸を行い、生を留めている。
セイバーはそんな桜さんの為に鞘に魔力を供給し、安定させようとしながらも一切の警戒を怠っていない。
ライダーは桜さんの手を握り、心底ほっとした顔で桜さんの顔を見ている。
アサシンは……恐らく森の中にいるのだろうけど、手を出せばセイバーがこの状況でも対処出来ないとは思ってはいないだろう。
奇襲されると分かっている暗殺者は最早、己の手腕を活かせれない。
詰みだ。
だから、決着をつけよう。
どんなに盆暗で意識が欠けようとも、少なくとも今の自分は遠坂の魔術師なのだから。
「……シン?」
騎士の少女の呼びかけをあえて黙殺する。
下手に振り返って、自分が今、どんな表情を浮かべているのか指摘されるのは少し嫌だ。
「……」
山の翁の名を襲名している一人の暗殺者は自分がどう足搔いても勝つ事は不可能である事を悟った。
真っ当な英霊ならばここからの逆転劇を狙う為に不退転の覚悟を決めるのだろうが、暗殺者であるハサンにはその手のご都合主義とは縁が無い。
此度は間違いなく私の不覚……死んだ者として後を考えなかった私の不手際……
心臓を潰されて蘇るというのは普通ならルール違反そのものだが英霊が言う言葉ではない。
依頼された仕事を達成できなかったのならばこれは自分の落ち度なのだ。
口惜しいが……敗北を認めるほかあるまい。
ここから少年を狙う事は可能ではあるが、今だのセイバーからの威圧がここにまで届いている。
姿や居場所を捉えられなくても私は防ぐことが可能だぞ、と。
見事としか言いようがない。
「ならば、私も山の翁に連なる者。職務を貫いて果てるこそが道理であろう」
これが他者の失敗による終わりならばアサシンはここまで潔くは無かったのだろうが、今回の落ち度は正しく己の責だ。
口惜しさは当然あるが敗者の責務故、それを一切口に出さず挑もうとし
──己の肉体に鋼の感触が通るのを認識した瞬間に霊核を完全に断ち割られる怖気の走る感覚を脳が表現した。
「─────」
暗殺者は驚愕の表情のまま、即座に砂に帰った。
霊核が無事ならば致命傷でもサーヴァントの肉体は崩壊しない。
正しく即死の一撃であったからこそアサシンは一切この世に何も残さないまま座に帰還を果たすことになった。
それを成したの夜の暗闇で姿を黒く染めた二人組であった。
一人は暗闇のシルエットの中、剣を握り、呼吸だけを漏らす姿。
もう一人はシルエットの中では特に特徴は無いが……気配だけが何故か酷く重苦しい姿の存在であった。
重苦しい姿の人物は今の光景に納得したような仕草をする。
「アサシン、ハサン・サッバーハに連なる真明と推測するが、早めに脱落してくれて助かる。個人の戦力は低いが、あのレベルの霊格であの少年の魔力貯蔵量ならば二重契約をしかねない。あのセイバーを相手に背後も気にしなければいけないというのは避けたいものだからな」
バスの音を発するのを見る限り男と思われる人物は隣の人物には一切目も向けず、独り言を発していた。
癖のある長髪のみを暗闇の中で示しながら、男は隣にいる凶器を持っているモノには一切視線を向けず、この公園の広場にあるモノ達だけを見る。
男と思われる人物は一切の抑揚も込めずに、その光景に一度鼻を鳴らしながら
「気に入らないが、効果的な代物だ。神秘の終焉の為に精々使い潰させてもらうとしよう」
遠坂真は一切の感情が籠らない瞳で目的がいる場所に歩み寄った。
そこにいるのは取り繕わずに言えば汚い蟲であった。
芋虫のような体でライダーの釘剣によってできた致命傷に震える哀れな蟲。
それだけならばまだいいのだが、その蟲は事も有ろうか
「死ね……ない……ま、だ……………死ね、ない………………」
と人語を理解していた。
誰がこれを且つて間桐臓硯として邪悪を行い、命を貪った怪物だと認識できるだろうか。
「人の命を喰らって得たのがそれか。魔術師ならば自業自得なのだろうけど、お前には自業自得なんて優しい言葉じゃ足りないな」
事実、遠坂真は全くこれっぽっちも同情という感情をこの蟲には抱いていなかった。
まだ大望の為、根源に到達する為にというのならば反吐は出るが理解はできる。
だが、この蟲には生存欲求しかない。
己が生きて、生きて、生きればそれで良し。万事よし。何をしても構わないと何もかもを犠牲にする毒蟲。
両親が情報収集の邪魔をしなければとっとと潰したのに、と思うが今更だ。
「た、たの、む……………儂に、も…………鞘を……鞘を………………」
「……まさか。俺が、お前に、あの鞘に触れさせると思っているのか?」
彼女の穢れなき理想を。
彼女が生涯追い求めた世界に触れさせると。
「お前のような魔術師はどうも勘違いしているようだが──
他の魔術師が聞いたら意味が分からないと返す結論をしかし遠坂真は一切揺らがず無表情のまま告げる。
魔術師からしたら英霊であっても道具である、という認識を持つのが実に普通だ。
しかし、遠坂真は真実、セイバーを道具だと思った事が無いしこれから先も無いだろう。
むしろ、どうして遠坂真は英霊を道具扱い出来る、と疑問を抱く。
あれ程強烈な自我を持つ存在を、道具と認識するのは矛盾だろうに、と。
死しても名を残すような偉業を成した存在を、自分なら御し得ると思えるのならば英霊なんて呼ばずとも十分に大成出来るだろう。
別に媚びろとまでは言わないが、人間関係を悪くすれば何であれ擦れるのは当たり前なのに、という魔術師らしくない常識的な理論で遠坂真は思うが、同時に魔術師には難しいのだろうと思うくらいには理解している。
だが
「寄越…………せ………………鞘を………………儂は……………死にたく……………………」
こうまで傲慢に言われるとその気が無くても踏み潰したくなる。
だが、逆にそこまで執着するのならば一つの意地として咲かせるのも始まりの御三家の一角で元同胞の遠坂家の義理であり、両親の尻拭い担当の俺の役目だろう。
「では問おう。間桐の当主よ」
瞳が再び鋼色に輝く。
瞳が機能しているかも定かではない蟲にしっかり視線を固定しながら
「永遠を得て、それで何を掴もうとした。何を望もうとした──その執着に、一欠けらでも願いを残しているか?」
鋼の色をした魔力に晒され間桐臓硯は生存本能すら跳ね除けれれ己という人生を掘りぬかれる感覚を得ながら、意識は過去に飛び始める。
永遠を何故求めた? それは根源を……………魔術師としての当然の悲願を叶えようと…………
己の肉と力で根源に至り、全てを手にする。
それこそが己が望んだ願いのはずだ。
それの何が間違っているという。
魔術師が根源を目指す為に他者と物を利用する。
実に当然の事だ。
その為に人の命を喰らい、生きて生きて生きて──────────────────生きて……………どうするというのだ?
「───」
先程まで感じていた苦痛の波が引いて、余計に血の気が引く感覚が全身を襲うが、思考は止まらない。
そもそもとして
無論、魔術師として己が代で辿り着きたいという欲求はあるが、不可能である事を悟ったのならば後に継がせれば──いや、そうだ。それは駄目なのだと気付いたのだ。
最早、マキリの魔術師は己の代で魔術師としての限界に辿り着いたと自分は悟ってしまったからだ。
悟ってだから自分は無我夢中に根源に辿り着く事を夢想して、その為に己の人生の延命を考えて──────────────先程、自分は一体何と答えた?
”まだ死にたくない。故に死を克服する。それだけの面白味は無いが──しかし人類共通の願いを持っているだけじゃよ”
この願望に間違いはない。
自分は死にたくない。
何故なら死ねば根源に辿り着けず という理想にも辿り着けない。
間違ってはいない。
間違ってはいない。
間違っているのはそれが
聖杯に告げる願いは不老不死であってどうする。
あくまで不老不死は手段であり、目的では無かったはずだ。
目的は根源に辿り着く事で………そして…………そして…………………そして………………………………………
「あ、あ、ああ………………!」
思い出してはいけないと本能が吠える。
思い出せば矛盾によって己の
生命本能による忘却機能を、しかし鋼の瞳は一切許さない。
今更理解できた。
あの瞳の色は罪人を処刑するギロチンの色だ。
報いを受けさせる為の人類が生み出した報復と断罪の色なのだと。
よって罪はここに。
間桐臓硯という命の原初が口から吐き出される。
「儂は………………………私は、この世から……………悪を……………………………」
廃絶する為に魔道に身を捧げた───────
かつて若い時に燃え上がっていた理想を、しかし口に出した事こそが最大の致命傷となるのだと魂が悲鳴を上げる。
何故ならそこにいる少年はそうか、と真摯に受け止めながら、眼光の鋭さは一切陰りが見えないからだ。
「その理想の善悪を語る口は俺には無い。それこそ英雄となれば別なのだろうが────でも、
かつての盟友の血を受け継ぐ少年はわざとらしく周りを見た。
そこにはただの公園と──孫娘に迎えた少女と英霊達だけがあった。
孫娘に迎えた少女は心臓の辺りを血に染め、頭髪は心労と魔術による影響で白に染まりつつある。
セイバーはこちらを見ていないがライダーは桜が無事である事を理解したのか。
こちらに視線を向けている。
一切の情が含まれていない視線を。
そして自分も体の至る所を血に染めた少年は無表情のままこの場を一言で表現した。
「
少年は一切の虚飾を認めずに口を動かす。
「セイバーとライダー? 違うな。彼女達は俺達の都合に呼ばれただけの言うなれば部外者だ。まぁ、それが己の欲求で他の人に迷惑をかけたのならば別だけどな。なら、俺か? それは否定しない。正義に味方になるつもりもなければ悪の体現者になるつもりもないが、まぁ、人並みに悪さくらいはしているしな。で、最後に桜さんだけど──」
最後のみ一切の感情を含まずに
「───言わなくても分かるよな」
正義でも悪でもない。
「あ、ああ………」
己の生涯の意味が全て反転する。
慎二や桜にした事、それ以前の雁夜にした事、それよりも前の前も。
他にも様々な悪事の数々を前に自分が浮かべていた表情はなんだった。自分は何の感情を持って彼らと対峙していた。
ああ、本当は分かっている! 知っている!
自分は酷くご機嫌に唇の形を三日月に歪めて───
過去の己の姿をまるで目の前にいるかのように再現させられ、己の力で首を搔きむしりたくなるような息苦しさを覚えて──────唐突に全てが終わった。
そこにあるのは魔眼を閉じた少年だけであった。
「……嗚呼」
成程、そういう事か。
さて、どこまでが現実でどこまでが幻だったのか。
ただ一つだけ確かなのは自分は確かに悪の廃絶という理想を求めた愚か者であった、という事だけだ。
「……………酷い裏切りだ間桐臓硯」
確かにその通りだ。
悪党が最後の最後に無様を晒すなぞ正義の味方からしたら酷い裏切りだろう。
怪物は最後まで怪物のままでいるのが義務であるのに、無様にヒトだった頃を思い出すなんて恥晒しにも程がある。
ああ、でもここまで恥をさらしたのならば一つだけ知りたい事がある。
恥の上塗りを承知で、掠れた声を吐き出す。
もうとっくに死の領域に入っている魂を魔術刻印が無理矢理繋ぎ止めているからこそ出来る猶予を一つの疑問に使い潰す覚悟をして
──儂はどこで間違えた───?
自分の人生はどこで間違えた。
人には到底届かない目的を抱いた事か。
聖杯戦争などとそんなシステムを生み出してしまった事か。
それとも不死を望んだ事か?
心当たりが多過ぎて定まらない。
それとも全てが間違っていたのか。
その事に、少年は無表情のまま首を振る。
「目的の正否なんて命題の否定何てする柄でもなければ俺にも分からない。でも敢えて言うなら────個人で救えるような世界ならそんなのどうしようもないんだろうな」
どうしようもない、と諭すような言い方をしながらどうしようもないというその現状にそれこそ酷い裏切りだと言いたげな言い方であった。
「言いたいことは分かるさ。個人で救えるのが駄目ならば集団で挑めば成功するのか、と言われたら
はぁ、と大きな溜息に全てのどうしようもなさを乗せながら
「善意は疑われ、悪意は否定される。だからあんたは個人で挑もうとしたんだろうけど───ここで奇跡に縋ったらそれこそ今までの歴史が無価値になる」
そうして少年はこちらに視線を向ける。
どうしようもない、と嘆きながらもそのどうしようもなさを肯定し、挑むという意思を決して内から漏らさないように強がりを維持しながら
「人間には価値は無い。でも今まで積み上げてきたものには価値があると思いたい。神も奇蹟も神秘も否定した先が自分達の自滅であったとしても、その選択の全てが無価値だったとは思えない。ま、全部受け売りで俺が出した答えには程遠いが」
「────」
それはきっと間桐臓硯には一生届くことが出来ない一つの想いだろう。
最早、怪物に堕ちた間桐臓硯にはその想いを共有することは叶わない。
救いの無い世界を見て否定しようとした間桐臓硯には救いの無い世界を見て挑もうと思う遠坂真と同じ想いを抱く事は無い。
だけど、それでも─────そんな生き方をこそ本当は目指すべきだったのではないかという焦がれが己にどうしようもない痛みを植え付ける。
悪性であったものが善性に変生する事など出来ない。
何故なら善性を抱いた悪性はその時点で罪悪感の炎に包まれる。
赦しは未来永劫与えられない。
でも、それでも
「嗚呼………………」
苦笑。
その笑みに納得の響きを表現させながら
「儂は………生き汚さ過ぎたのぅ……………」
己のどうしようもない
それこそが間桐臓硯の遺言であり、どうしようもないちっぽけな呪いであった。
「………どういうつもりだライダー」
真は目の前で釘剣に貫かれた間桐臓硯を見ながら殺意すら込められた視線を騎兵に向ける。
逆手に握り、死に抱かれる寸前だった蟲に止めを入れる筈だった刃はライダーに何時でも向けれるくらいには殺意が高まっている。
「俺が、この老害を殺すのを邪魔したのか? それとも俺が手を汚すのを止めた何て綺麗事を言うつもりじゃないだろうな…………!」
「いえ」
たった二つの音でこちらの殺意を受け流すライダーの表情は全て無に染まっている。
「止めなかったら貴方は正しく間桐臓硯を殺したでしょうし、貴方が何かを殺す事に私は一切関心ありません」
ですが、と区切りの言葉にしかし唯一そこに無以外の感情を乗せ
「貴方はサクラに手を伸ばした」
「───」
思わぬ所で出された名に一瞬、口ごもっている間にライダーが畳み掛けるかのように言葉を飛ばしてくる。
「サクラは優しい女性です。貴方の手が血に染まろうが気にするような人ではないでしょう。ですが、貴方が自分のせいで人を殺したとなると悩んでしまうような性格です──殺すのならばサクラに関係ない所で行って下さい」
「………ちっ。全く以て桜さんの味方の鏡だよ、あんた」
ほんの少しでもエゴでも語られたらぶっ殺してやろうかと考えていたが、そこまで桜さんの事を考えていたのならば舌打ちするしかない。
「んっ………」
すると小さいが唸りの声が聞こえる。
桜さんの声だ。
即座にライダーが駆け寄るのは流石だが、苦笑しつつこちらの傍に寄るセイバーの空気を読む力も大したものである。
そこまで完璧だと思わず俺でいいのか、という考えが生まれるてついセイバーの方に視線を向けると苦笑のまま首を横に振られてしまう。
それは貴方がやるべき事だ、と。
「………」
思わず頭を搔く。
こういうのは俺ではなく親父とか母さんとかセイバーがやった方が様になるのだが、セイバーは拒否、二人は呼んでも間に合わないのだろう、と思い桜さんの傍に近づく。
するとそのタイミングで桜さんの目が開かれる。
「………………え?」
何故目を開けているのだと言わんばかりの疑問の表情に苦笑しながら、敢えて何も語らずに自分はただ手を差し伸べて
「───帰りましょう」
桜は自分が何故生きているのかの疑問などの困惑に包まれながらも、その不器用な言葉と手を見てしまう。
一言帰りましょうで手を差し伸べるなんて不器用にも程がある。
そこまでバラバラに両親の性質を手に入れているのを見ると呆れるべきか微笑ましく思うべきか。
自分が倒れている間に得た負担もあっただろうにそれらを一切口にも顔にも出さずに家に帰ろうだなんて。
ついライダーの方を見るとライダーは黙ってこちらを見るだけであった。
だけどライダーが何も言わずに静観しているという事はこの従者は本当に珍しく他人を信頼しているというと思ってもいいのだろうか。
「───私、貴方の命を狙ったんですよ?」
だから漏れたのはそんな臆病にも似た罪の告白。
一度死んだのに全く変わらない。
こうして罪を告白しても得れるのは自分は罪を吐いたんだという勝手な自己満足しか得れないのは分かっているのに、実に汚い大人だ。
でも
「それが本当なら大変ですね。貴女には全くその手の才能がない。ちゃんとライダーに遊び何てせずに一撃で頭を吹き飛ばすくらい言っとかないと」
かなり際どいブラックジョークを笑って吐く少年につられて笑みを浮かべてしまいそうだ。
「私……………………蟲に犯されて処女を失ったんですよ?」
とてつもなく重く、汚れた言葉だな、と自分でも思う。
でも、ある意味でこれは希望だ。
いっそここで引かれたり、気持ち悪いものを見るように見られた方が逆に全てに諦めが付ける。
それなのに
「なら──奪われた分は別の幸福で埋めましょう。幸いその手のプロがうちであかいあくまとしてよく降臨しているんで」
少年の瞳も表情も一切陰りは落ちず、下に見る事も無かった。
嗚呼、とある意味で酷い裏切りを感じながら涙さえ浮かべながら最初から思っていたことを口に出してしまった。
「どうして…………? どうしてそんなにまでして私を助けようとしてくれるんですか?」
最初にこの台詞を言った時の彼の反応は覚えている。
『やっぱり覚えていませんかねぇ? ……あーーいや、いいや。うん。ここで何か言うと押し付けのようになってしまいますし。馬鹿な小僧が馬鹿をしているで納得していてください』
やっぱり覚えていませんか、だ。
どう見てもそれは彼が覚えるような何かが私とあったのだ、という事。
でも、私はもう衛宮邸に通うのは二人が時計塔に行った以降は行ってないのだ。
彼と私の接点など無いのだ。
それを指摘すると少年はあーーー、と頭を搔いて困ったような表情を浮かべる。
誤魔化そうとする気満々な感じだったがこちらの表情を見て、何か納得したのか諦めたかのように溜息を吐き
「………昔、一度。看病に来てくれたの覚えていませんか桜さん」
「看病………?」
「ええ。まぁ、今思い返すと別に大した風邪でも無かったし、大騒ぎするような内容じゃなかったんですけど、その時、まぁ色々と家はごたごたしていてその影響で両親が家にいなかったんですよ。で、それで母が知り合いに色々と電話しまくってお鉢が回ったのが桜さんだったらしいですけど」
そこまで言われてあっ、と泡が浮かび上がるように記憶が再生される。
そういえばそんな事があった。
いきなり姉の電話があったかと思ったら風邪で寝込んでいる息子を頼めないかとだけ伝えられ、切られたのだ。
当然、行くのに悩んだが最後には行ってしまったのだ。
鍵は未だ先輩から合鍵を預けられていたので普通に入っていると勿論、そこには……確か小学4年生か5年生頃の彼が寝込んでいたのだ。
確かに些細だが繋がりは合った。
でも
「………
「ええ、
風邪で寝込んでいる所を看病しただけでここまでしたのか、という問いをそれだけで十分だった、と彼は笑った。
「あの時作ってくれた飲みやすかったシチューの味を今でも覚えています。すっごく美味しかったです。うん、だから俺が命を懸ける理由には十分でした」
「──」
余りに些細で小さな事。
でも、少年はそれで十分だったと。
それだけで自分の人生を賭ける価値はあったのだ、と。
桜はかつてこんな風に人を尊んだ思い出を思い返した。
究極の献身の人。
自分に帰る望みを持たず、他人の幸福が全てであった男の人。
余りにも正義という名の天秤に成り過ぎていた人は人というよりロボットのような物ではないかと疑いそうになる人だった。
家に通っている間に見た魔術の修行内容もあの人は毎日毎時間ずっと自分の手首を斬ろうとしているのではないかというモノであった。
どうしようもなく危うく、どうしようもなく鉄のような人だった。
そんな人とは似ているようで根本が逆のような少年だ。
この少年はきっと理想何て追いかけていない。
この子は本気で、さっきの事を理由に戦ったのだ。
「さぁ、帰ってとっとと母とついでに親父をぶん殴ってストレス発散しましょう。お腹も減ったからご飯も作りますよ。うちの洋食は現在は俺なんで満足させられたらいいんですけどね」
そうして彼はやっぱりこちらに手を指し伸ばす。
蜘蛛の糸みたいにか細くは無いが、力強さも感じるような手では無いのに、きっとこの手は折れないんだろうなと自然と思え、無意識の内に私の手が上がり────
背中から肉を切り抉られるような激痛が桜の全てを支配した
目の前で桜さんの体が倒れてくる。
血しぶきを上げ、こちらの体を濡らして倒れていく体を呆然としながら受け止めながらも唐突な幕引きに脳内の思考が何もかもを考え────即座に魔術刻印と回路を起動しながら
「セイバァーー!!!」
抱き留めて無事に動く腕に刃を作り、怒りの声に呼応したセイバーが右から自分を追い抜き、ライダーも勝手に左から追い抜き、怒りの形相を隠さずに釘剣を構える。
何故ならそこに桜さんから
見たこともない奴だしどうでもいい。
即殺す。死ぬまで殺す。
英霊二人の攻撃に耐えられる人間はこの世に存在しない。
サーヴァントなら別だが、マスターとしての目がサーヴァントでは無い事は少なくとも告げている。
同時にこんな時ですら冷静に情報を得ている思考に対する怒りも殺意にぶち込んで作った刃を投げる。
正面と左右による同時攻撃。
どれを取っても音速突破の攻撃を三つ同時に対処するなぞ現代の魔術師には何を代償にしても即興では不可能な詰みの攻撃。
しかし忘れるなかれ。
今、遠坂真が英霊を刃に攻撃をしているのならば敵対者にも同様の備えがあるというのは実に当たり前の流れだ。
自分が投げた刃が砕け散り、ライダーの釘剣が粉微塵に砕かれ、セイバーの聖剣が防がれる。
必殺の流れは正しく刹那の瞬間に文字通り断たれた。
これらの攻撃全てに対処できる存在など決まり切っている。
だから、思わずサーヴァントか!? って反射的に叫ぼうとした自分に暴力的な視覚情報が反射神経を凌駕して思わず、セイバーとライダーもハモッて叫んだ。
「全裸…………!?」
西洋剣を片手に握って、鍛え上げた体を無駄に晒し、見たくもない物体を揺らす英霊であった。
一見コントのように喜劇じみているが、しかしこれこそが遠坂真の日常の終末であった。
全裸出せたーーーー!! あ、これうちのスカイプに降臨している総長です!!
ようやく出せましたよFate………多分、この後はうたわれに戻ると思いますけど、肩が粉砕しているからまた時間がかかるかもしれませんSigh……
相方もパソコンを自爆させられましたのでどうか気長にお付き合いをよろしくお願いします……
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