Fate/the Atonement feel   作:悪役

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誘いの風

 

荒涼の砂漠

 

崩れ落ちそうに霞んだ空

 

先の見えない砂嵐

 

そして

 

 

灰色の襤褸を纏った死神

 

 

眼光は

        ひたすら

                  消えろ、と

 

煩わしくなった怒りが全てを切り落とした。

 

 

 

 

 

 

目覚めるとそこは自分の部屋であった。

自分の部屋の天井。

逆のその事実が恐ろしい程に怒りに直結する。

一切の寝ぼけが存在しない体を直ぐに起き上がらせ、乱暴に服を着替える。

そして速足で目的の場所に向かう。

寝た時はそこにいたはずなのに自分の部屋で寝ていたという事はそこに運ばれたという事だが、逆にそれが自分の無能振りに拍車をかけて苛立ちが増す。

途中、何か制止の声が掛かった気がするが全く耳に入らない。

そしてそのまま目的の襖を前にして躊躇わずに開き

 

 

 

寝ている桜さんの汗を拭く為に上半身の服を脱がせている母さんとライダーの光景が眼球に直撃した。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

背後からあーー、という無念の声が聞こえるが何故耳に無理矢理入れなかった糞親父。

しかし、眼球は諸に二人より桜さんの上半身に狙いを定めてしまい、逸らす気が起こらない。

 

 

それはもう実にむしゃぶりつきたくなる山脈であった。

 

 

周りに意外と巨乳の女子がいなかったんだな、と真は深く頷く。

既にライダーは開けたのが俺だと気付くとおや、と頷くだけに止め、母は殺意の波動に目覚めており、つまり死は目前だ。

故に遠坂真はここで狼狽える事はない。

自分はこの手の事で途中でわざとらしい咳払いをして逃げたり、男としての本能を誤魔化す程格好悪い男になったつもりはないからだ。

故に遠坂真はふっ、とニヒルに一つ笑い

 

「───通りで母に母性を感じなかったわけだ。まさか妹に分け与えていたとは……」

 

その数秒後、割愛するがとりあえず父の悲鳴が上がる。

自分では無いのは何時も通りである。

だが、しかしそんなギャグパートの中でも俺は喉を搔きむしりたくなる程の後悔が溜まり続けていた。

汗をかき、苦しそうに呻く桜さんの真白の肌を見る。

そこにはもう傷は無い。

治療はした。

でも、それでも思わずにいられない。

何が天才だ。

天才であるならばもう少しそれらしく完璧に桜さんを救わないかこの糞遠坂真が。

結論を言えば結局、遠坂真は間桐桜さんに対して何も出来ず、救う事など出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

「全裸……!?」

 

全員でハモッて叫んだツッコミは一切の誇張の無い事実だ。

 

 

 

その男は全裸であった───

 

 

鍛えに鍛え上げたと鋼の肉体は惜しげもなく晒され、上半身だけならば少年漫画で押し通せたのだが如何せん下半身までも完璧に晒されたら何一つとして擁護できないのである。

勿論、ご都合主義でおかしな光やら湯気などが湧きたったリしないので諸丸見えである。

この世で最も見たくない物が全く隠されずにぶらりと揺れる様に遠坂真は所構わず吐きたくなる気持ちを一切覚える余裕なんて無かった。

何故なら遠坂真は今、力と意思を失った女性を支え、治療している最中であったからだ。

もう傷は治療した。

鈍痛はあるだろうけど、目覚めてもいいはずだ。

でも動かない。

逆に何かに魘されるように息を荒げ、苦しそうに汗を流すだけ。

その理由を遠坂真は気付いている。

セイバーが全裸に抑えられ、ライダーは桜の事を気にして動けずにいる中、一人、全裸の奥にいる人間が血に濡れた手の中にあるものを興味なさげに、しかし確かめるように見ているのを俺は知っている。

だから周りの全部を無視して俺は憎悪をしっかりと乗せた声を紡ぐ。

 

「それを返せ」

 

「……」

 

こちらの乗せた感情を理解していないわけでもないだろうに、その男は知るかクソ、と言わんばかりの瞳をこちらに向け、本当にどうでもいいと言うような表情で

 

「疑問だが……わざわざこうして危険を承知で手に入れた物をただで渡すような者を何と言うか知っているか」

 

「ああ、そうかい」

 

ガリッと歯が軋む音が口内で響くがどうでもいい。

言外に馬鹿か、と言われたこと自体はどうでもいいが、返さないというのならば遠慮なく腕事千切ればいい。

そうして立ち上がろうとするが

 

「っ……!」

 

ガクリ、と左足が折れ、左腕がぶらんと垂れ下がる。

やはり左半身に一切力が入らない。

アヴァロンの出力による影響だ、と頭が結論を出す。

肉体に溶けているのを集めて形にするという宝具を投影する親父に比べればマシな所業とはいえそこら辺普通の俺の回路にはかなり負担がかかり過ぎたのだ、と。

半日はこのまま死んだままだと検証が勝手に終わるのを感じると自身に怒り狂ってガントでもぶちかましたくなる。

 

「引けるかよ………!」

 

桜さんが折角ハッピーエンドに向かえると言うのにそれを横から下らなさ気に一切の頓着もせずにこちらを見る腐れ野郎に全てを台無しにされて何が遠坂家の後継者だ。

天才の性能というのはこういう時に使うモノだろう、と思い、イカレ狂った魔術回路に弾丸を装填をしようとし

 

「シン………!」

 

唐突に前方から砲弾のように自分に突撃してくる影が真正面から激突してきた。

咄嗟に桜さんを庇って激突を受け入れるが、直ぐに相手がセイバーである事に気付く。

何を、と言う前に唐突な寒気が全身を刺したと思ったら、耳が破裂したのではないかと思うような轟音が空間を揺るがす。

それはさっきまで自分がいた場所で、小規模のクレーターが軽く出来上がっているのを見ると軽く人間二人が死ねる暴力であった事を悟るとぞっとするが、今はそれよりも

 

「今、何をしたんだ……」

 

セイバーの顔色を察するとセイバーも理解していない。

恐らく直感スキルで嫌な予感を察知しただけだから何が起きたかまでは読めないのだろう。

俺も多少の魔力の流れを感じたが、中身が全く読み取れない。

とりあえずクソ厭らしい魔術であると脳内に刻み込んでおく。

ちなみにあっちの全裸の能力とは思わない。

クラスなんて見た目と顔を見れば一目で分かるバーサーカークラスだろうし、全裸であれ程の聖剣を握る男の英雄なんて分かり易すぎる。

故にバーサーカーではない。

マスターの方だ。

思考、才能、本能全部が撤退を推奨するが、全て無視する。

理由も理解も追いついていないが、少なくとも今、あの男が握っている物は桜さんが生きるのに必要不可欠の物だったのだ、というくらいは理解出来る。

だから引く事なんて出来ない。

その意思を即座にセイバーに伝えようと口を開き

 

「──っぎ!?」

 

セイバーに喉を締められて、何も発する事が出来ない事を悟った。

思わずセイバーの顔を見るとセイバーは恐ろしい程真剣な顔色で

 

「──貴方が大体何を考えているかは知っています。しかし、私はサーヴァントです。ただでさえ半身が使えない貴方を危険な目には合わせれません」

 

全て見抜かれていた事を悟るが、そんなのはどうでいもいい、と心が叫ぶ。

ここに、今、自分の腕の中で苦しそうに息を吐く女性がいるのだ。

そんな光景を見るのは嫌なんだ、苦痛なんだ、怒りが募るのだ。

別に人助けが趣味だとかそうしなければ生きていけないなんていう病的な理由は無い。

これは一般の感性だ。

目の前で誰かが苦しむのを見て気分がいいなんて思えるような破綻した精神性を持っていないのだから当然の感情だ。

だから見捨てるなんて選択肢を取るなんて最もくそくらえ(・・・・・)なのだ。

だから念話で止めろ、と叫ぼうとするが

 

 

「恨み言は生き残った後に聞きます……」

 

 

その言葉と共に意識は落ちる。

それが自分のあの時の最後の記憶であった。

 

 

 

 

 

 

 

はぁーーー、とその後大きく息を吐く。

遠坂真が次に起きた時はもう家に着いて自分らの治療などを行っていた時であった。

その時に説明してくれたのは家に着いてきたライダーだったが、何でも俺達の撤退に対してあの男とバーサーカーは特に何もせずに見逃したという事らしい。

下手に英霊二人を相手して藪を突きたくなかったか、あるいは俺ら程度なぞどうでもいいと思われていたか。

家に運び込まれた俺は直ぐに桜さんの治療に協力した。

両親達が何か言っていたりしていた気がするが全く脳に入っていないのを見るとその時の自分はまるで聞く気が無かったか、それともつまらない内容だったのかもしれないと思っていたのだろう。

そして治療は当然出来たのだ。

傷の治療は。

なのに起きない、目が覚めない。苦しそうに息を吐き続ける。

そこでまた俺は疲労で意識を落としたのだ。

 

「何が天才だ……」

 

母親のアッパーで追い出され、家の庭に通じる廊下で座り込んでいる俺は正しく負け犬だ。

この身に宿る魔術回路は間違いなく天才と言える回路なのだろう。

大抵の魔術はそんじょそこらの魔術師ならば専門としている魔術師より高い成果を出せるだろうし、専門の宝石魔術ならば出来ない事を探す方が難しい。

あんたなら冠位(グランド)も夢じゃないわ、とかいう母さんのぼやきも血反吐を吐く努力をすれば達成する事が可能なレベルの素体であると自他共に思っている。

だのにこれだ。

大事な人一人すら助ける事が出来ない天才なんて滑稽すぎて殺したくなる。

 

「……セイバー。いるんだろ?」

 

「……」

 

根拠もない言葉ではあったが、それでもセイバーは何時の間にか直ぐ近くに姿を現していた。

呼んどいて何だが、セイバーの方に顔を向ける気力が湧かない。

失礼な奴だな、と自分に苦笑していると

 

「マスターの命に背いたことについては如何なる罰も受けるつもりですが」

 

「………………は? あ、いや、そういや俺、そんな風にテンパっていたな…………」

 

恥の上塗りとは正しくこの事だな、と思いながら

 

「…………あれはセイバーのせいなんかじゃないさ。頭に血が上った馬鹿が現状を理解せずに夢見たことをほざいていただけさ。セイバーに悪い所なんて何も無い」

 

「──ですが、貴方にとって桜は大事な……いえ、率直に言えば好きな人だったのでは?」

 

「初恋の人だったよ」

 

セイバーの率直な言葉に俺もさらりと流す。

ガキの頃の想いだ。

直ぐに相手が大人だったり、自分が子供だったり、成長していく中で育む事の無い想い、いや思いだったが、桜さんに初恋をした事は恥じる事なんかではなく誇る事ではあった。

ただそれだけだ。

両親のに比べると正しくおままごとのような思いだったのだろう。

 

「だとしてもあのまま突撃していれば結局、犬死してただけだ。セイバーは悪くないよ」

 

「──貴方も悪くありません」

 

想定していた言葉では無かった分、隠す演技をできなかった。

あーーー、と頭を搔いてどうしたものか、と思う。

そういや人生経験云々とかも普通に考えて俺より上だった。

見た目がそんなに変わらない分、そこら辺を理解して接していなかった俺が全て悪い。

 

「やだなぁ、セイバー。スキル読心術とか編み出さないで欲しい所だ」

 

「貴方達はそこら辺が分かり易いのです」

 

達と言われた。

一緒にされるのは流石に心外なのだが、何を言っても意味がない気もするから息を吐くだけに留めておく。

 

「………別に親父みたいに救いたいとかじゃないさ。ただまぁ、こんな無駄に性能がいい体があるのに何やってんだよっていう自己嫌悪? みたいなもんだよ」

 

天才がどうして色々と優遇されるか。

簡単だ。

他の人よりも色々と出来るからだ。

だから優遇されるのに結果はこの様だ。

才が無い親父よりも酷い結果だ。

自分はあの場にいた誰にも届いていなかったのだ。

間桐臓硯の生き汚さにも、間桐桜のずっと耐えてきた強さにも、あの謎の魔術師の悪辣にも感じる合理性にも、当然他の英霊達の必死さにも。

どれにも一切届いていなかったのだ。

ただ己の自儘な思いと我儘だけを吐く口先だけの糞餓鬼だったのだ。

反吐が出る。

 

「…………」

 

決して両親を恨んでいるとか、疎ましく思っているわけでは無いがそれでも自分は余りにも恵まれて甘やかされている人間であったという事なのだろう。

当然だ。

普通の魔術師がこの家を見たら誰もが口を揃えて魔術師とはとてもじゃないが思えない、と告げるのだろう。

これ程、幸福な形で魔術を学んでいるのは世界広しとは言えど中々いないのだろう。

それがいい事なのか悪い事なのかはさておくが、だからこそ遠坂真には才能はあっても経験値が余りにも足りていない。

別に魔術師っていうのは争う事が本業じゃないのよって母ならそう言うし、俺も別に争いたいわけでは無いから同意なのだが、こんな事に巻き込まれた場合、俺は対応は出来ても先を生めないのだ。

無論、これは両親を恨むものではなく甘えに甘えていた自分を恨むものだ。

こんなんだから何にも出来ないのだ、と思うが、自己嫌悪には生産性がない事くらいは理解している。

だから、ふぅ、と溜息を吐いて処理をしていると

 

「……こんな時に言うのも何ですが──これから先はどうするので?」

 

セイバーから実に当然の疑問が来た。

本来ならば遠坂真の聖杯戦争はここで終了だったはずだ。

間桐家を滅ぼして、後は出来る限り他のマスターと接触を避け、また何時もの日常を続ける。

それで俺の非日常は終了のはずだった。

だが、事態は斜め左辺りに吹き飛んだ。

 

「……一応聞きたいんだが、全て遠き理想郷(アヴァロン)で桜さんの治療は無理なのか?」

 

「……可能かどうかならば恐らくは可能なはずです」

 

ですが

 

「鞘はあくまで私の宝具です。全てに対応出来る宝具ではありません」

 

「……適応した俺らが例外だった場合、サクラさんの肉体がどう変質するかが分からないか……」

 

それでも生き残れるのならばすべきかもしれないが、そうではない最善の方法があるのではないかと思うと躊躇われる。

だが、そうであっても親父も母親も、そしてセイバーもこう言いたいのだろう。

 

 

そこまでする義理も義務も無い、と。

 

 

桜さんの体が今、どんな風になっているのかは知らない。

分かるのはあの男が何かを奪い取ったからこそ正常に働いていた肉体のシステムが崩れたのだ。

そして崩れた機能を直すには代わりの物で埋めるか──奪われたものを取り返すかだ。

奪ったバーサーカーのマスターの男がどこに行ったかなぞ不明だ。

冬木にいるかも分からなければ国内にいるのかどうかすらも謎だ。

だが、一つだけあの男について知っている事がある。

 

 

あの男が聖杯戦争のマスターで(・・・・・・・・・・)ある(・・)、という事だ。

 

 

目的は聖杯そのものなのか、その過程なのか、もしくは別であるのかは分からない。

だが、しかしどんな目的であってもマスターである以上、狙うは敵マスターだ。

ならば、多少の絞り込みは出来る筈。

 

「はン」

 

口が横に開くのを自覚する。

既に自分の思考回路が定まっているのを理解する。

ああ、でもそうだ。

その準備をする為の準備というか、少しストレス発散と死体蹴(・・・・・・・・・・)りと墓石蹴り(・・・・・・)をしとかないと桜さん我慢しそうだよなぁと思い

 

「セイバー」

 

近くにいる少女に声をかけ、笑みを浮かべる。

そしてそのまま本当に何とも無い事を告げる。

 

 

 

「少し、外に出るのに付き合ってくれないか?」

 

 

 

 

「凛! 何時の間にか真がいないぞ! セイバーの姿も無い!!」

 

「何ですって!! あの馬鹿息子…! この危険時に金髪美少女とデートか………! 後で超殴るけど相手がセイバーなら文句はないわ……! 流石は私の息子………いい出汁出てるわ……! ──ちょっと士郎。何、あんた地味な格好でカメラとビデオ? だっけ? を装備しているのよ──その役目は私のよ寄越しなさい」

 

「悪いが聞けない相談だ凛! 父として息子の幸福を見守ると俺はお前と真に対して誓ったんだ……! その為には俺は何だってする! 今日こそ俺は真に"父さん"って言われるような善行を積むのだ!」

 

「うっさい馬鹿士郎! 息子は母親に懐くって統計では出てるらしいのよ! 見た目だけはムサイマッスル褐色親父よりも見た目完璧なビューティフルマザーの方が何事も許されるのよ! この見せ筋バトラー!!」

 

「言ってはならない事を言ったな凛……!」

 

「………魔眼を使いたくなりますね……む?」

 

 

 

 

 

セイバーが真の後に付いていった先は十字の石の群れであった。

 

「ここは……」

 

聖杯の知識が告げる。

ここは墓場なのだと。

十字の型の石は宗教による象徴である墓場は見ただけで死者である自分ですら寂寥感を生み出してくる。

 

……まぁ、今の私は少々微妙な立ち位置な気がしますが……

 

エクスカリバーは使えるし、自分がセイバーである事は自覚しているが、それ以外の宝具を所有していない。

確か最後の記憶はベティヴィエールに聖剣を預けようとした時だったのだが、その時に呼ばれたから魂が召喚されてしまった、という感じなのだろう。

英霊というのは時間軸を超えるものではあるのは知っているが、こうも連続で召喚され、しかもその先が先程召喚された世界から10数年経った世界だ。

死ぬ直前であってもつい時間の流れというものを考えずにいられない。

だが、今は自分の無情について考えている時では無いだろう。

 

「……墓参りでしょうか?」

 

「ああ、そんな高尚な事をする気は無いよ」

 

ヒラヒラ、と手を振って笑って拒絶するその表情は両親に似ているようで似ていない。

士郎はそんな自然な笑みを浮かべる事は無かったし、凛は猫を被ったり勝気な笑顔を浮かべる事が多かった。

この少年はそういったのとは無縁な普通の笑顔を浮かべる少年だ、と思う。

それがどうしようもなく惨たらしく感じる。

己の体がまるで生前のように振舞える感覚から彼がどれだけの才能を擁しているのか嫌でも理解出来る。

なのに、彼の心はそんな才能を裏切るかのような当たり前の少年の形だ。

酷い話だ。

魔術師では無いセイバーでも魔術師の在り方は知っている、

根源に辿り着く為ならばどんな陰惨な手段でも嬉々として扱い、人間性を簡単に捨てなければいけない外道になる事だ。

勿論、セイバーにその在り方を責める権利は無い。

後悔は無くても、自分の手がどれ程血に濡れているかなど今更教えられるまでもなく知っている。

だから自分には魔術師を嫌う事は出来ても責める資格は無い。

その上で少年を見て、余りにも痛ましく思うが、現実の彼はそんな事を特に気にせずに

 

「悪い。連れてきてなんだけど俺一人で行かせてくれるか。勿論、視界に入る所にいてくれて構わない」

 

「……分かりました。この距離ならば一息で行けるので問題は無いでしょう。鞘もあるので防御に関しては完璧ですしね」

 

「ああ。じゃ、直ぐ終えて墓を砕いてくるよ(・・・・・・・・)

 

「ええ──────────え?」

 

思わず頷いてしまったが聞き違いかと思って問い返そうにも既に少年は目当ての墓石に向かっている。

 

「……いや、まぁ、流石に比喩か冗談ですよね?」

 

 

 

 

遠坂の墓石に立つと途端に機嫌が下降していくのを真は察するが止める気も無かった。

 

「確か時臣爺さん………だったっけ」

 

爺さんと言いながらも一切の情が含められていないな、と他人事のように思うが別にどうでもいい事だ。

 

「見事な手腕だったなぁ、あんた。桜さんは見事にイカレタ爺に悪辣な形で改造されて性能が劣化し、ただの間桐の胎盤になるレベルまで落ちてたよ。あんた見事に桜さんの尊厳も能力も全て地に落としたよ。誇れよ糞爺。あんたの無能のツケは見事に全部桜さんが背負ってくれたじゃねえか」

 

おや、めっちゃ勝手に口がすらすらと動いてしまう。

魔術の詠唱ですらここまですらすらと囀った事があっただろうか、と思うが、それこそ本当にどうでもいい事だ。

 

「あんた知ってるか? 桜さん。恐らく綺麗な黒髪をしていただろうに今はすみれ色……に変色したと思われる髪がくたびれた白髪になってるんだぜ? 化粧しても目の隈を隠せてないし、体何てズタボロだ。そしてあんたが期待したであろう魔術なんて知ってるか? あの爺、そこまで本気で学ばせてなかったんだぜ」

 

遠坂時臣は本当に在り来たりな魔術師だったらしい。

無論、それは何でも時計塔のロード・エルメロイⅡ世が聖杯戦争のマスターとして感じた感想であり、実際に出会ったわけでもなければ知っているわけでもない所感らしいと母は語っていたが、その割には語っている母はそうだったのだろう、とどこか納得したような感じであった。

その時は何故かは知らなかったが、桜さんの事を知った後ならば分かり易すぎる。

 

「あんたが桜さんをどういう思惑で間桐に養子に出したのかは知らないから、あんたが魔術師の感性しかない人間として一方的な偏見で語らせてもらうけどな……あんた自分の思惑にどうして桜さんが、いやそもそも間桐家が乗ってくると根拠なく思えたんだよ」

 

勿論、その思惑が真実なのかは知らないが、考えられる思惑は桜さんをパイプに間桐家を乗っ取ろうとした、もしくはより強い関係を得ようとした。

聖杯戦争時に遠坂の血脈の者が二人いればその分、勝者になる可能性が高くなるから。

間桐臓硯が余りにも恐ろしく勝てそうにないから人身御供にしたなど考えれる事はたくさんある。

いっそ恐怖などで見捨てるしかなかったのならばクソだがまだ分からない思考では無い。

でも最初に考えたような感じの考えだというなら余りにもおめでた過ぎるんじゃないかと思う。

どうして捨てられた桜さんがあんたの言う事や思惑に乗って行動してくれるだなんて盲目的に信じられるのだ。

いや、そこはまだいい。魔術師としての盲目さなのだと思えば、腸が煮えくり返るがいい。

だが、あんた。あの腐れ切った爺がそんな信用とかまともな考えとかをしているとか思ったのか?

あの一般人が見てもまともそうじゃない、としか言えないような妖怪を、どう見たらこれぞ誇り高き魔道の道を歩む偉大なる先達にして輩、なんて思えるんだ。

 

「真っ当な魔術師からならばアレがそんな風に見えるのか? 俺が魔術師としては欠陥品だから不合理的な感情を優先しているからそう思うだけか? それともあんたには俺にはとてもじゃないが思いつかない凄いアイディアがあったのか?」

 

酷く自分の発言が空しく感じれた。

こうして自分で口に出すと酷く自分が馬鹿らしく見える。

魔術師としても一般人からもはみ出した精神性。

どちらに寄る事も、従う事もしない究極の自己満足の形態。

父のように人を救う事を良しとしているわけでもなければ、母のように人間としての綺麗な形をしているわけでもない。

己の都合のみを優先し、他人の不都合を片っ端から否定するお馬鹿野郎(ドン・キホーテ)

どこにも正しさなんて無い。

救えるモノなんてモノも無い。

きっと救えるのは自分だけだ。

自分の自己満足を達成して救った気になるようなゴミのような悪だ。

そういう意味ならば俺はこの母の方の爺さんも間桐臓硯も責める資格なんて無い。

だから、俺は正義の味方では無い。そんな綺麗なモノになれない。なりたくもない。

でも

 

「あんたの無能を娘に押し付けるなよ。お調子者。自分の娘くらい自分で育ててやるくらいの気概もない低能が魔術師語んな────あんたのそれは魔術師故の合理じゃない。単に魔術師としての才能以外は何とでも出来ると思いあがった傲慢(うっかり)だろ」

 

だからこそ、自分の事を棚に上げて恥知らずな事を思いながら存分に吐いた。

周りが綺麗だからこそ、周りがやらない事をして汚れるには十分の役目だろう、と思い────そのまま強化した足で思いっきり墓を蹴り飛ばした(・・・・・・・・)

強化された足が感じる感触は石を蹴る感触ではなく突き抜ける手応え。

己の回路で強化された手足は容易く鋼すら破壊するのに、ただの墓石なんてそれこそ容易く破裂した。

ぼっ、と空気抵抗に穴をあけた感触までが伝わってきたと思った瞬間に破砕音という轟音が鼓膜に響いた。

横目でセイバーが何事!? という顔をしていたが悪いが無視させて貰う。

そうして出来上がったのはちゃんと遠坂の墓石のみを粉砕できたという調整した破壊になっているのを確認する。

その結果にふん、と鼻を鳴らし去ろうとし──一言だけ振り返りもせずに伝え忘れていたことを告げた。

 

 

 

「少なくとも────母さんは俺の才能から逃げたりなんかしなかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

唐突に自分の家の墓を蹴り壊したシンの直ぐ後ろを歩きながら、セイバーは風が吹いてきたのを悟った。

今はもう帰り道。

既に夕闇に街が包まれようとしている。

もう何度もこの街に召喚されたが、何度召喚されてもこの街の生きようとする意思には少し苦笑しそうになるが、今吹いた風は故郷でも吹いた風に似ているような気がした。

何故だろう、という思いが、しかしサーヴァントとしての肉体の反応によって止められた。

 

「──ライダー」

 

目の前に紫色の挑発を遊ばせた騎兵の女が現れたからだ。

直ぐに真の前に出て、何時でも武装化出来るよう心掛ける。

既にエクスカリバーは手に現出している。

鎧が無くても霊核を狙われない限り自分の耐久力では負ける事はないという自負もあるから今の状況でも問題は無い。

今は敵対状態では無いのかもしれないが、それでもつい先日まで殺し合っていた相手に対して友好を抱くほど現代に浸ってはいない。

だから剣を突きつけようとしたのだが

 

「いや、いいよセイバー。俺が呼んだんだから」

 

ひょいっと軽く自分のマスターからの言葉に力が抜けそうになるが、その真意をセイバーは探る。

 

「何故ライダーを……」

 

しかし、探ると言ってもセイバーはほとんどその真意を理解していた。

だがら条件反射で何故、と問うたが、少年の瞳の中にある覚悟は全く変わらなかった為に、セイバーは溜息に近い言葉で

 

「……追うのですか。サクラを救う為に」

 

「まさか」

 

はっ、と笑う少年の笑顔にはそんな正義感ないない、というような感じで

 

「他人の為に動くなんてムズ痒い事は性に合わないよ。単に俺がむかついて苛立ったから仕返しに行く。そういう自己満足だ。桜さんは全く関係ない。ただ、それを行うのに利害が一致したライダーに手伝ってもらおうと思っただけさ。とりあえず出国する為の準備の手伝いを。俺がやるとばれるし」

 

つまりそういう事だ。

シロウやリン以上に捻くれている分、素直な言葉を全く吐かない少年だ、と思い

 

「……もしも私が貴方を止める、と言ったら?」

 

「ごめん」

 

ごめん。

つまり、徹底抗戦をする。

恐らく、その場合は契約を切って、ライダーと再契約をしてあの男を探しに行くつもりだろう。

ライダーがそれを了承するかは謎だが、この騎兵はサクラを救う為ならば例え契約を切ってでも救うのだろうかと経験談から思いながらセイバーは卑怯な言葉を彼に告げる。

 

「──リンとシロウはどうするのですか?」

 

「……」

 

先程まで浮かべていた笑みには謝罪と罪悪感による苦笑だったが、次に浮かべられた笑みは見ていられないくらい笑みとしては崩れた下手な笑顔であった。

分かっている。

いや知っているのか。

この行為が間違いなく二人を傷つける事を知っている。

でも、動きたいのだ。

納得しないから。

目の前の悪が許せないから。

 

「…………貴方は卑怯だ」

 

「知っているさ」

 

ああ、さっきの風がどうしてあんなに覚えがあるものだったのかを思い出した。

あれは旅立ちの風だ。

人を世に誘い、己の足と意思で立って進めという風。

どうしようもなく暖かく、そして冷たいくらいに人の背を押す風だ。

その事に私は自分が間違っているのか、正しいのかを理解出来ないまま、己の意志ががこの夕闇の風の中で片膝を折り、マスターに対して頭を垂れる。

 

「──ならば貴方の意志が折れぬ限り、私が貴方の剣になりましょう」

 

汚名も誹りも穢れも背負う覚悟も私が受け持とう。

例え、戦友の二人に息子を死地に誘った人でなしと謗られようとも──今のこの身は彼の剣なのだから。

そして私の言葉を聞いた彼は微笑のような──哀しむような吐息を吐き

 

 

 

「ありがとう──セイバー」

 

 

 

それだけを私に告げた。

風はやはりどうしようもなく彼の背を押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもですーー。今度は悪役サイドの更新です。
これと次回で日本編は終了です。
やっと悪役も次のステージに上がれます……

感想・評価などよろしくお願いします。
どうか感想を書いて頂ければ相方共々本当に幸いなのでよろしくお願いします。
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