「ちょっとーーー? まぁだボーっとしてるのーー?」
友人の声に私は現実に戻る。
あ、と声を漏らすと自分が空港の道の真ん中で呆然と立って非常に邪魔になっている事に気づき、慌ててその場から荷物を持って移動する。
そこで一息を吐いて友人に礼を言う。
「別にいいけど……どうしたの貴女。やけにさっきからボーっとしているけど…………ははぁ」
友人の厭らしい笑顔に思わず何よっと身構えると
「貴女、さっきのカップルがそんなに気になってるの?」
一応、間違ってはいない図星にむむぅ、と唸るけど真実なのでそうよ、と渋々頷く。
「まぁ、分からないでもないわー。女の人の方はあんなに小柄でお人形さんみたいだったのに、何か凄い包容力がある感じで何か凄い大人に見えてギャップが凄かったものね。イギリス人……かな? もうほんと、アニメから出てきた完璧美少女って感じだったわねーー」
確かに、とは思う。
見た目は穏やかそうで且つ小柄な女性の方だったのに、中身はまるでそれを裏切るかのような器の大きい人だと思った。
清涼で暖かくて、人々を理想郷に導いてくれるようなとっても強くて立派な人。
この人についていけば大丈夫だ、と思えるような根拠のない確信──カリスマというのはああいう人を言うのだろう、と思った。
「男の子の方は…………高校生くらいかな? まぁ、女の子の方が完璧過ぎて余り感想が生まれなかったけど……でも後、数年くらいしたら普通に格好良くなりそうな子に見えたくらいかな? 将来有望系っていう奴かな?」
少々失礼かもしれないけど、確かにそっちもそうだった。
赤みがかかった女の私から見ても鮮やかに見える髪を遊ばせて、しかし男性としての骨格と顔つきで搭乗手続きをしている子だった。
特徴的ではあるけど女の子に比べたら普通の男の子にしか見えない子である。
でも
「ようやくあんたもファザコンから脱却したんならいい兆候だぁね。流石に彼女がいる子は感心はしないけど似たような子がいたら紹介しようじゃないか…………」
謹んでお断りしながら、私は歩を進める。
あの子と私は関わる事は無い正しく赤の他人であるのだろう。
きっとこれから先、余程の運が無い限り出会う事は無い。
だから、この感覚もただの感想に成り下がるのだろう。
だからこそ、私は今しか得れないこの感覚を心で形にした。
……女の人はとても広く、立派で、包むような暖かい風のような人だった。
そして
……男の子はきっと弱くて、小さくて、それこそどこかにいてもおかしくはない子だったけど…………
けど
────あの子はずっと歩き続けるのかしら?
そんな意味も分からない感覚を、両儀未那はもう会う事はない子を見てそんな勝手な事を思った。
「所で凛」
「え? 何よ士郎。今は少しでも聖杯戦争の情報を集めなさいよ。良い情報があったら携帯でも人でも何でも使ってあの子に届けなきゃいけないんだから」
「いや、それは当然なんだが……お前、朝一にどこにかけた?」
「………………とりあえず真っ先に一番嫌な所にかけて嫌な事を先に終わらせたわ……………………」
「…………今の反応で大体理解したが、その、良かったのか凛?」
「? 何よ? 心配しないでも貸しなんて作らないよう過去の嫌がらせの内幾つかを帳消しにするようにしたから迷惑はかからないわよ?」
「そんな事をしていたのか…………いや、そうじゃなくてだな。もしも────」
「────シン。起きてください」
「んっ…………んぅ?」
肩を揺さぶられて起きる視界にドアップで美少女の顔が映される。
その事に理性は未だ睡眠している為、本能が綺麗で可愛い顔だなぁ、と素直に思うのだが、何にも動かない。
流石に寝ぼけていても相手の顔も存在も忘れる程ボケたわけじゃないが、どうしてセイバーが自分の顔を覗きに来て起こしに来たのかという疑問があって
「────あ」
そこで思い出した。
「ご、ごめん、セイバー。もう着いたのか?」
「ええ。もうドイツです」
それを聞いて思わず、速攻で体を起こすとどうやら現在は乗客が準備をして降り始めている所であるようだ。
慌てて自分も荷物を纏めて降りる準備をし始める。
「ま、まさか着陸の時も起きれないとは………! これが母の呪い………!」
「──と、言うよりは疲れていたのでしょう。席に着いた途端、ぐっすりと眠られました」
セイバーの言葉の裏の意味を理解して頬を掻く。
この少女は厳しさを感じるレベルで優しい。
決してセイバーは俺に辛く当たりたいわけではないのは分かっている。
彼女は常に何時、降りても構わないと暗に告げているのだ。
この程度で音を上げていればここから先は持たない。だから、何時でも諦めて、平和な家に戻ってもいいのだ、と。
だから、敢えて厳しく語るのだ。
いざという時は己が泥を被ろう、と。
有難い事だ、と思う。
セイバーは間違いなくサーヴァントとして見るならば当たりのサーヴァントだ。
戦闘力的にも、人格的にも。
だからこそ、セイバーにばかり負担をかけるのはいけないな、と己の中の甘えを自制しながら
「そろそろ行こうかセイバー。やらなきゃいけない事が山積みだ」
真と一緒に飛行機なるものから降りたセイバーはそのまま空港の喧騒の中、少年の隣を歩く。
「シン。このまま確かイギリスに向かう為の飛行機というものを待つのでしたね?」
「ああ。まぁ、ライダーに任せたから少し待たなきゃいけないけどな」
ああ……とその頃のライダーの苦悩を察して遠い目になる。
サーヴァントは現代の知識を聖杯に教えられるのだが、教えられるのは知識だけだ。
現代というモノに対して一切の経験がない我々はそういったものには弱いのだ。
目に浮かぶようだ。
様々な機械や意味が分からない言語によって視界を真っ黒にしながら、しかしサクラの為に…! と奮い立って孤独な戦いに挑んだライダーの姿が。
思わず眼尻からこぼれそうになる涙を抑える。
…………見事な忠義だライダー。怪物であるのが勿体ないくらいの十分な戦果です…………!
だけど自分の番が来た場合はどうにかして回避しないといけない、と思うと汗を流してしまいそうだ。
「セイバー。待っている間、暇だから何か買い食いしようぜーー? 海外とか俺も初めてだから何か適当に美味しそうなのを漁ろう」
「無論、私が否定するわけがありません」
衛宮家……じゃなくて遠坂家に比べれば多少見劣りするかもしれないが、それでも己の直感がこう告げている──ここにも舌を満足させる飯があると。
王は腹の満足を知らぬ、と叫んだのは誰だったか。そこのマスターである。
「しかし、何も証拠などがあるわけでもないのに英国を目的地にしましたが……」
「ん? ああ、まぁ、確かにかなり適当な感じではあるんだろうけど………まぁ一番可能性があるのがイギリス…………………というよりロンドンだからロンドンに向かっているだけだしな。駄目だったらまた何かそこで考えていくさ」
「……まぁ今の時点では確かにそれがベターな選択肢ではあると思います。何せこの世界で間違いなく魔術師が最も多くいるのは時計塔があるロンドンでしょうから」
だろ? と歩きながら告げる少年に己も頷く。
実際問題、あの謎の男の消息は不明のままだ。
最悪、まだ冬木にいる可能性もあるのだが、ある程度それとなく街を見回ったがそれらしい痕跡は無かったから恐らくいないとは思われる。
だから、本当に必要最低限の情報──あの男が聖杯戦争のマスターである事からマスターを減らさなければいけないのならばその多くが存在しているのはロンドンだ、という消去法から目的地を定めたのだ。
余り褒められた手法では無いが、情報が聖杯戦争のバーサーカーのマスターで、外人で男である事くらいしか情報が無いのならば責められる事ではない。
「……恐らく時計塔は正しく戦争の真っただ中っていう状況になっているのは理解している。地獄である事は確かな事なんだと思う」
「同意します──だから正直、私は貴方もロンドンに入る必要はないと思います」
「それも駄目だっていうのも分かってるだろう?」
理解が及んでいる事に喜ぶべきか、残念を感じるべきか。
だが、確かにそうだ。
離れたらロンドンの戦火からは離れられるだろうけど、逆に私からの庇護下からも離れるのだ。
令呪があるとはいえそれは余り得策ではない。
何より離れれば離れる程、魔力供給にも難が出る。
やはり、マスターとサーヴァントは傍にいる事で一番力が発揮されるのだ。
かと言ってそれが全部正しいわけでは無いのだが。
「……敢えて言いますが、単独行動は避けてください。この旅の間ずっとです。何があっても離れないように」
「おいおいセイバー。そんな事を言い出したら寝床とかどうするんだ。まさか同じ部屋にするなんて──」
「同じ部屋にしますが?」
何故か動きを止めるシン。
別におかしなことは言っていないのだがそういえばシロウも同じ言葉を放った時に同じような反応をしましたね、と思い出すが、今は別にどうでもいい事だ。
「嫌とは言わせませんが?」
「い、いや待て! それは思春期高校生には中々辛いものがあるのですが、そこら辺の配慮というか辛さを理解して欲しいんだが! セイバーさん! 流石に目の前に金髪美少女が寝ていたら据え膳食わぬは男の恥という日本の男の魂が叫ぶのですが!?」
何を言っているのかさっぱり分からない。
日本語を扱えてもやはり理解出来ない事はあるものだ、と思いながら
「命の危険とそれとどちらを取るのですか?」
「くっ……!」
そこまで呻く事だろうか。
男の子供のそういった事には疎い事は承知だが、多少くらいは知っている。
「それに────私のような貧相な体は余り殿方には好かれませんよ」
何か凄い眼差しでこちらを見てきた。
そ、そういう事か……!
真はセイバーの自分に対する評価が少ない理由を理解した。
てっきり自分が子供だからここまで無防備なのかと思ったがそれだけでは無いのだ。
自分に対するスタイルの評価が低いからこんな風に自分はそんな目で見られないと思っているのだ。
んなわけねーだろうが……!
この少女の評価問題をどうにかする手段を考えたが貴様では不可能よ、と脳内諸葛凛が判断を下す。
これが女に対する絶対的経験値の無さ……!
天才でも出来ない事が多過ぎないだろうか。
いや、別にそっち方面で天才になんてなりたくないが、別にどうでもいいか。いや良くない。
「耐えろ俺の思春期……!」
とりあえず完全論破された俺に待つのは究極の地獄だ。
男ならば誰しもが苦しむ生き地獄。
もしかしてマスターとサーヴァントが余り上手く行かない理由の大半はこれが原因なのでは無いだろうか。間違いでは無い気がする。
「最後の確認ですが………あくまで目的は桜の治療の為に、あの正体不明の魔術師の追跡ですね?」
「ああ。セイバーに何も返せないけど………俺は生憎聖杯に興味も無ければ他の参加者を蹴落とす事にも興味はない。他の参加者が争っていようが手出しする気も無ければ勝利する気も無い。勿論、降りかかる火の粉は遠慮なく吹き飛ばすけどな」
あくまで聖杯戦争は二の次だ。
この戦争の真意とか商品とかは実にどうでもいい。
桜さんさえ救えれば他は勝手にしてろ、が方針である。
「あーー何か間違いとかあったら聞くから遠慮なく聞くけど……?」
「いえ。お互いにこの聖杯戦争における目的がない以上、ベストだと思います────ただし、最悪、生きて帰る事だけが目的になる事も承知して貰います」
「うっ………む…………」
痛い所を突かれたがその通りだ。
何も達成せずに徒労に終わるという可能性もあるのだ。
現実はゲームや漫画みたいに物語がちゃんと正しく終わりまで通じるわけでは無いのだから。
まだまだ甘えているな、と耳が痛くなるような静けさの中、己を戒めながら、しかし納得する。
もしも足搔いてもどうにもならなかった場合は即日本に帰って鞘を試す。
何かあった場合は責任を取らなければいけないな、と思うが仕方あるまい。
「後は………あの男がロンドンにいてくれればなんだが………」
ロンドンを目的地にしたのはいいんだが、正直ロンドンに本当にいるのか? と問われたら半分以下と答えるしかない。
何故ならロンドンはこの聖杯戦争の規模が正しければ、正しく戦争の中心地になっているはずだ。
今の所は特にニュースなどには流れていない感じだが、隠蔽も何時まで発揮するのかの状況になってないとおかしいはずだ。
魔術師が多くいるって事はマスターも必然的に多くいる筈なのだから。
故に、そこは間違いなくこの戦争において最大の特異点のような感じになっているはずだからマスターも自然と集っていると思うのだが
「…………」
最大のネック────あの男はそんなのに釣られるような魔術師だろうか。
いや、そもそもとして………あの男が本当に聖杯を求めて参加したような
真っ当なマスターであって欲しい。
それならば思考を読むのは簡単だからだ。
だが、自分のようなイレギュラーケースのマスターの場合、あの男が本当に何を狙って行動しているかを読むのは現時点では不可能に等しい……否、不可能だ。
せめて名前さえ判明していたら、と思うが、仕方ない。
まぁ、そうは言ってもこの聖杯戦争は余りにも範囲が広い為、マスター一人に会うのはイギリス以外ではかなり至難だとは思う。
そんな風に何か色々と考えていると頭が痛くなってきたから何か甘い物を食べようか、とセイバーに提案しようとして、思って視界を頭の中ではなく現実に焦点を当て
「───────────あ?」
自分が今、
自分らの目的は英国に行く為に乗り継ぎの飛行機に乗る事。
その為の待ち時間で何かを食べようとは思ったが外に出てまで食べるつもりなどは毛頭なかった。
観光の為に来たわけでは無いのだから当然だ。
だから、外に出るつもりは無かった。
なのに自分は今、わざわざ空港前のバスターミナルまで歩いている。
思わず、セイバーを見るとセイバーも自分の現状に気付いて周りを見回し
「シン!
「はぁ………!?」
慌てて指摘された内容を確認すると余りにも伽藍としたバスターミナルである事に今更気付く。
そういえば空港を歩いている時は普通に様々な声が飛び交っていたはずなのに、途中から耳が痛くなるほどの静けさがあった事を思い出す。
馬鹿か俺は…………!?
魔術師の癖に周りの異常を見逃すなぞどうかしている。
否、今は己を責めている場合ではない。
こんな風に人払いの、しかもかなり腕が立つ結界を張った後に俺とセイバーを狙う相手なんて決まっている。
魔術回路に魔力の弾丸を叩き込み、身体に強化を施し、セイバーに十分な魔力供給を施している最中に
「初めましてお兄ちゃん」
とてつもなく無邪気なのに、どこか寒気を誘発させる、正しく妖精のような言葉に思わず振り返るとそこには
妖精は見かけの年は自分と同じか少し上かと思われる見かけで、しかしその姿は最早常軌を逸した雪と人が混ざり合って生まれたような美しい冬の妖精のような肌と髪を纏わせ、色鮮やかに笑っている。
──何て奇跡。あれに比べたら自分も他の人間も、余りにも不純物が多過ぎる。
そんな奇跡を支えるように、しかし台無しにするような隣の巨人がいなければ、少女の魅力に捉われるだけだったかもしれないが、不可能だ。
何故ならもう隣の巨躯の男はもう何一つとして語れる言葉がない。
あれは駄目だ。もう無理だ。あんなの不可能だ。
あれは最早英雄と言うには余りにも何もかもを超越している。
彼岸の彼方なんてモノの遥か先。
一つの神話に置いて最強という単語を思うがままに扱った一個人だけで神話を創生できる怪物。
あれに敵うなんて思う事こそが間違いだ。
嵐と直面している殺せるなんて思うのと同じくらいの筋違い。
だから、脳が、本能が、全てが自然と少女の方に意識を集中しようとした瞬間
「──────」
口の中から矢が生えた。
違った。
実際は口の中に矢が刺さり─────それと同時に心臓、右腕、左腕、右足、左腕、脳、右目、左目に矢が全く同時に刺さった。
刹那における絶命。
全ての傷にて未だ負傷の反応が起きないまま、遠坂真の意識が全てが細切れにされ────
「シン!!!!!」
気付いたら床に思いっきりダイブしたみたいな態勢になっている自分とセイバーがそんな自分の正面に立っていた。
「え…………? あ、が?」
恐る恐る体を見回すと目も見えているし、腕も足も口も問題がない。
脳は真っ先に催眠されたかと結論を出そうとするが
「もう、アーチャー。過保護過ぎよ」
呆れたように無邪気な声で文句を言う銀の少女の呟きに絶望する。
今のは魔術所か殺意ですらない。
ただの警告だ。
今、アーチャーと称された英霊は単に少女の方を殺そうとするとお前はこうなるぞ、とむしろ
それだけで自分の心は9回ほど殺されたような感覚に襲われたのだ。
「シン! 落ち着いて! まずは呼吸を正してください!」
既に鎧と刃を具現化している少女は、しかしこちらを見る余裕が一切ない。
当然だ。
あの男から目を話す愚を犯せるなんて思える人間がいるのならばそいつもあのアーチャーの同類だ。
故に負け犬のように息を荒げ、餌付きそうになる喉の調子を可能な限り改め、雑になった回路の調整を正しく整える。
瞬間的に心が冷えるのを本気で有難く思い、立ち上がる。
へぇ、とほぅ、と感心する吐息が少女と男の方から聞こえるが構いやしない。
立ち上がれたのならば、何でも出来るのだ。
「凄い凄い。アーチャーの威圧を受けて立ち上がれるなんて! アハト爺もあっという間に蒸発したのに」
「…………随分とアインツベルンのホムンクルスっていうのは嫌味な性格をしているようだなぁ」
あら? と知っているのみたいな顔で首を傾げられるがそれくらいは知っている。
両親にも語られた事はあるからだ。
「冬木における御三家の一角だろ。錬金術の大家だって聞いたけど…………今は知らん。ご丁寧に挨拶でもしに来てくれたのか?」
「似たようなものかしら──ああ、でも一つ訂正をするならば────もうアインツベルンは滅びたの」
眉を多少、動かすレベルの情報ではあっても滅茶苦茶驚く情報というわけでもなかった。
目の前にいる英霊なら現代の魔術師などあり得ないことおされない限り勝てるはずがない。
しかし、その反応に興味を抱いたのか、少女はふぅん? と面白い物を見るかのように目を細めながら
「そこは何か言わないの? 人形如きが魔術師に逆らうなんてーー! とか」
「裏切られたくなかったのならば裏切られない環境作りをするべきだろうよ」
もしくは最初からそんな自我を生むような真似をしなければいいのだ。
例えその自我がどんなに薄く、儚いモノであっても自我がある以上、その存在は人間が出来る事は何でも出来るのだから。
そう言い返すと少女は何が嬉しいのか、ぱぁっと笑顔を浮かべて手を合わす。
「そう! そうよね! その意見はとっても大賛成! でもすっごく魔術師らしくない言葉ね」
「よく言われる」
質問に答えたのだから俺の質問に答えて貰ってもいいだろうと思い、こちらも口を開く。
「何故、俺がこの日、この時、この場所に来ると分かったんだ?」
確かに自分は予めスケジュールを決めて動いていたし、飛行機などの予約はライダーに任せていた為、魔術師からしてもある意味目立つ行いであったことは事実だろう。
だが、それは日本での話だ。
アインツベルンはドイツにいる魔術師。
日本に土地を持ってはいてもアインツベルン城に魔術師が出入りしていた形跡は無かったと母が言っていたのだ。
ならば、城には9割いなかったはずだ。
なのに自分の動きが読まれたというのはどういう仕掛けだ、と思うが
「ああ。そんな事。とっても簡単な事よ。私の仲間がビジネスホテルに泊まって貴方を監視していただけだから」
「……………」
あーーー、と脳内で間抜け越えを出し、現実で口を横に広げるがあ、うん、成程。
確かにアインツベルン城は調べてはいたが、全ての宿泊施設など探し回ったわけでは無い。
そんな余裕も無かったので仕方がないが、アインツベルン=城に来るという思いこみによって発生した穴に見事隠れてこちらを監視していたという事だ。
正しくこれうっかり。
異常の聖杯戦争において当然でしか考えられなかったこちらの手痛い敗北だ。
「…………OK。自分の間抜け加減は理解した。そして一応聞きたいんだが………………こっちは別に聖杯に興味はない。あるのは聖杯戦争に参加しているマスターだけだから出来れば戦闘は避けたいんだが」
「ふぅん、そうなの」
それでも殺すけど? と言いたげな全くこちらの言葉に興味を抱いていない語調に駄目か、と思う。
「……お前はどうやら真っ当なマスターって事か」
「ええそうよ。でもアインツベルンのマスターって思われるのは癪だから、名乗りを持って貴方の命を砕かせてもらうわ」
そうして彼女はスカートの裾を持って一礼。
完璧な礼儀と淑女の笑みを持って少女は覚悟を告げる。
「私の名前はクラリス。杯の名もアインツベルンの名も捨てたただの
ギシリ、と空間が悲鳴を上げる。
少女の名乗りを持って傍の英霊が戦闘態勢に入るだけで人間である俺は吐き気が込みあがり、魔術回路が破裂しそうになるくらい乱れそうになる。
だが、しかし
「もう逃げれねえんだよ………!」
こちらとて同じだ。
覚悟なんて出来上がって無ければ嘘だ。
両親が望んだ幸福を切り捨ててここにいるのだ。
その為ならば何を用いても目的を達成し、生き残る。
そして
「帰るんだよ……!」
己が行くべき帰る場所に戻るのだ。
念話でセイバーが頷く。
その叫びには同意だと。
つまり、常勝の王が未だ死も敗北も認識したわけでは無いのだ。
ならばまだ絶対の死地ではない。
「勝つぞ、セイバー」
「無論です」
セイバーの炉心が唸りを上げる。
アーチャーの弓が構えられる。
一秒後に世界が割れる未来を誰もが想像し
遠坂真における聖杯戦争が今、正に始まる音が切って捨てられた。
どうも悪役サイド、ドイツ編と言うべきものがここからスタートです。
開幕の懐かしいような、おいおい、と言うような両儀家のマナ君はゲスト出演です。流石にこれ以降出てくるキャラでは無いのでそこはあしからずという事でお願いします。
途中以降すっげぇツッコミ所満載かもしれませんが、試練試練!!
ちなみに入国審査とかはどうしたんだよとツッコミがあるかもしれませんがそこら辺はアインツベルンのホムンクルスが他にもいて、囲んで結界を張り、その影響で真は現実に余り焦点を向けないまま、誘導されていたのでスルーされています。
セイバーは幸運判定をミスりました(うっかり)
さて、アーチャーの正体は誰でしょうか(隠す気ゼロ)。
感想・評価などお願いします! 一つでも応援が増えてくれたらそれだけでやり甲斐が増しますので、どうか恐れずに書いてくれれば幸いです。
あ、うっかりは全て相方のクロのせいなので。