Fate/the Atonement feel   作:悪役

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何かサイトの問題か。
最新話の更新がおかしな事になっているのでもう一回再投稿です。


役者は舞台の上に

 

 

セイバーは空中、直線、左右から走る矢を視線と気配で確認した。

空中から14、直線から20、左右合わせて28。

合計で62本の矢に背筋が震える。

何故ならこれら全ての矢が並みの英霊所か大英雄ですら容易く殺せる矢の群れだ。

剣術以外でスキルや宝具で防御手段がない自分にとってはこれは最早死の雨だ。

そんな矢の雨がただの牽制(・・)として放たれているのが中々に絶望的だ。

 

直感が現実に未来の自分を投影する。

 

そこに映るのはこの雨に剣術で対処した場合、その隙を狙って頭蓋、心臓、両腕をわずか4射だが、だからこそ今までの牽制とは格が違う四つの矢で己が絶命する未来だ。

その直感を疑うことは無い。

何故なら相手は正真正銘のギリシャ最大の英雄(・・・・・・・・・)

それぐらいは軽く出来ると思うくらいが当たり前なのだ。

だからこそ、自分はこの何もしなければ全て直撃する攻撃を、剣を使わずに防ぐしかない。

不可能に思える戦術を、しかし少女は一瞬で実現する。

 

「おぉ………!!」

 

声に魔力が宿る。

アルトリア・ペンドラゴンの肉体にある竜の因子から生まれる咆哮は正しく竜の咆哮(ドラゴンブレス)

生前とほぼ一切変わらぬ魔力供給を受けているからこそ出来る戦法を、しかしセイバーは一切出し惜しみ無しに使用する。

セイバーを中心に40m程の距離を風の咆哮によるドームが包んでいく。

その激しさに死の運命を運んでいた矢は叩き落される。

その範囲には岩のような巨人も含まれていたのだが、当の本人は叩きつけられる暴風に

 

「ほぅ………」

 

と感嘆の吐息を吐くのみ。

その威風も足も一切怯まぬ姿を見せるのみ。

風と言ってもその強さは地面のコンクリートを剥がし、街灯を軽く吹き飛ばす程の強さにも関わらず、男にとっては少し天気が荒れたなとでも言わんばかりの態度であった。

そしてそれは当然だ。

何故なら本命の風の一撃は己の咆哮に乗ったのではないかという風に一瞬のタイムラグの無しに、間合いを零とした少女の一撃こそが肝要だったからだ。

弓兵としては間違いなく致命の距離。

ロングレンジを持って、敵を圧倒するのがアーチャーのクラスとしての戦法だ。

近寄られた時こそが死の運命であるのが弓兵。

しかし、それを男はコンマ一秒以下の速度で弓を消し、虚空から取り出すように手に掴んだ岩を削りだして作られただけのような巨剣を持って、容易く打ち崩した。

一際大きい破壊音と衝撃波がバスターミナルを蹂躙する。

衝撃波によって生み出された煙が晴れた後に、その場にいるマスターが見たのは

 

「うわぁ………」

 

「っ………」

 

まるで隕石が落ちてきたのではないかと思われるクレーター。

深さで言えば20m程はあるのではないかと思われるクレーターの中心点で二人の大英雄は鍔迫り合いをしていた。

 

「つぅ………!」

 

「────」

 

セイバーは苦痛を吐き、アーチャーは息を止めて力を入れる態勢。

力関係は見るまでもなくアーチャーの方が有利を示している。

遠距離を主流としているアーチャーがセイバーに筋力で勝つというのは聊かおかしな光景だが、その鍛え上げられた巌のような肉体と見た目は少女でしかないセイバーの姿を見れば当然と言えば当然の結果ではあるのだろう。

しかし、セイバーは一切気と魔力を抜かず、むしろ込める。

すると

 

「…………」

 

鍔迫り合いの中、少しずつセイバーの足が下がっていたのが止まる。

拮抗したのだ。

その事実にアーチャーは少し目を細め

 

「見事」

 

一言告げた。

鍔迫り合いをしている中では余計な一言ではあったのかもしれないが、これもまた英霊としては仕方がない事なのかもしれない。

男は3騎士で召喚されたらそれこそ神話に描かれるような武人の側面が強く押し出される。

その側面が己が告げる言葉を止めさせる事が出来ないのだ。

しかし、受けたセイバーもその言葉に一切気は緩めないまま、力を込め続け

 

「っ、有り難い言葉だ……! ギリシャが誇る大英雄、ヘラクレス(・・・・・)に言われるの、なら、私も────捨てた物ではないらしい!!」

 

最後の咆哮で剣に力を籠めると見せかけて、片手を柄から話してそのままアーチャーの、ヘラクレスの胴体にボディブローを放って一撃を入れる。

与えた衝撃に、しかし手指を痛める反動を受けたのはセイバーであり、アーチャーは受けた衝撃を逃がすだけで、痛痒は一切感じていないようにしか見えないようだ。

 

「………やはり神の祝福(呪い)はアーチャーになっても健在ですか」

 

「無論。前回貴殿と渡り合った私はバーサーカーだったらしいが、かと言って同一と思われるのも聊か不満だな」

 

思うわけがない、とセイバーは思う。

こんなの前回のヘラクレスが行ってくるはずがない。

前回のヘラクレスとて決して弱かったわけじゃない。

むしろバーサーカーであってもその狂気にあっても衰えない技量、力、宝具に、こちらはほぼ手も足も出なかったような状況に陥り掛けもしたのだ。

それが狂気を外した瞬間にこれだ。

超精密且つ豪快な矢に、戦闘判断を過たない判断力と技術、そしてバーサーカーの時と変わらぬ耐久力と性能。

自分の円卓にも正しく最強という言葉を得るに相応しい騎士がいたが、さてそんな彼でも今のヘラクレス相手だとどうなるのか、と半ば現実逃避染みた思考をしながら剣を構える。

 

「…………マスターの願いに安全、更には過去の私の騎士達の誇りも乗っていると思えば、サーヴァントというのもまた中々重労働ですね」

 

こちらのぼやきに、アーチャーが苦笑を浮かべ、こちらの言葉に合わせた。

 

「かの常勝の王と誉れ高き円卓の騎士の刃の重みを踏破出来るというのならば、確かにサーヴァントになるというのも中々捨てがたい…………が、今は一介のサーヴァントでは無くマスターの願いを叶える道具故に。その試練、即座に踏破させて貰おう」

 

何時の間にか岩の剣を消して矢を構えるアーチャーの姿が一瞬、数倍くらいに巨大に見える錯覚を得ながら、宣言通り一切手を抜かぬという気迫を感じ、己も不退転の覚悟を身に宿し

 

「────」

 

アーチャーの視線がこちらから外れ、別の所に向かうのを悟る。

先程よりも冷たさを感じる視線に、何が起きたかを悟るが、そちらに視線を向ければやられる感覚を身に受け止めて、歯を噛む。

 

シン……!

 

何が起きたかは明白だ。

マスターが、シンが動いたのだ。

 

 

 

 

 

 

一歩前に進んだ後に感じ取ったのは己の脳が一欠けらも残さず吹き飛んだ感覚であった。

先程のように全ての急所を吹き飛ばす丁寧さを消した絶殺の一撃。

首から上が吹き飛んだ人体に生き残れる術がないと体が誤認しそうになって、即座に死の幻覚から現実に戻る。

 

「……かっ……!」

 

吐きそうになる喉と死の感覚によって一瞬暴走した回路が肉体を傷付けて、最も繊細な魔眼から血が零れる。

しかし、血涙を流しながらも前に進むのを止めるわけにはいかない。

何故ならセイバーが命を懸けている。

なら、命を懸けさせている俺が命を懸けないのは正しく甘えた行為だ。

セイバーに命を懸けさせたんだ、なら次は俺の番。

 

投影開始(トレース・オン)

 

錬鉄の詠唱で生み出された宝石の双剣を取り出して、銀の少女に刃を向ける。

その瞬間に叩きつけられた幻覚は先程の比では無かった。

五体は一瞬で粉砕し、意識が正しく吹き飛ばされる。

5秒くらい死を感じていたが、しかしもうそれは流石に慣れた(・・・)

先程軽く暴走したのが逆にいい基準になった。

あの程度の魔力運用とコントロールで暴走するならば、より深く、より精密に、更には大英雄の殺意を受け止めると覚悟を決めればいい。

一瞬、視界が空白になるのは避けれないが、精神が崩壊するのに比べれば本当に安い代償だ。

だから、俺はそのまま白い少女に、クラリスと名乗った女に呼吸を乱しながらも

 

「命を狙ったんだ。その逆も覚悟していないわけじゃないだろ?」

 

 

 

 

 

 

「………」

 

クラリスの心は心底の驚愕と感嘆で埋め尽くされていた。

クラリスは己のサーヴァントがどれ程の規格外な英霊なのかを理解している。

何せこのマスターになる為だけに生み出されたこの筐体(からだ)でも、彼を動かし、ギリギリで宝具の一つか二つを何度か発動できるくらいの燃費とその効率の悪さを凌駕する性能だ

視線、吐息、意志の一つで現代の魔術師や、もしかしたら死徒ですら精神か魂のどちらかが砕けかねない大質量の力だ。

だから、目の前のそれらを全て受け止めて尚、刃を向けているこの少年は規格外だとクラリスは一切の慢心無しにそう結論する。

だが、これもある意味正しい形に収まっただけなのかもしれない。

聖杯戦争は英霊だけの戦いではない、英霊を使役するマスターとの殺し合いなのだ。

だからこそ自分も彼の殺意に応えるのは礼儀であり義務だ。

 

「勿論よ。命を奪いに来たのだもの。例え相手が下衆であっても、自分の命を懸けないつまらない女に成り下がったりはしないわ」

 

その発言と同時に念話が届いてくる。

 

『マスター』

 

たった一言だが、その一言にどんな意思が組み込まれているか読み取れない程、私とアーチャーの関係は生温くも無ければ冷たいだけのものでもない。

言いたい事は解っている。

元々、私は戦闘型のホムンクルスではない。

マスターとしては超1流ではあっても、戦えるかとなるとまた別の話だ。

でも、それを私は否定する。

 

『アーチャー、大丈夫。私は負けないし、負けたくない。だって勝つ為に貴方を呼んだのよ? 大丈夫、私はとっても強いアーチャーを呼んだマスターなんだから信じて?』

 

『────』

 

その沈黙にクラリスは心の中だけで苦笑を漏らしながら、しかし現実に帰還する。

目の前の少年は顔色こそ最悪の色になっているが、その強い目に陰りは無い。

敵だ。

だけど

 

「…………成程。クラリス、か。いい女だ。これで殺し合いじゃなかったら最高だったんだが」

 

「褒めても手は抜かないわ。貴方は今回、最強のマスター──そのつもりで貴方を殺すわ」

 

そうして滑るように手を髪に通す。

すると

 

「…………お?」

 

少年の間抜けそうな声と共に背後に二対の使い魔の鳥に見える物が現れたように見えるだろう。

髪を媒介とした鳥型の使い魔。

顔も存在も知らないこの体の見本となった母……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが使っていた天使の詩(エルゲンリート)だ。

それを二体…………程度で終わらすわけがない。

カッティングするように手を動かし、相手に一切の動きを取らせずに作れる数の最大数────11匹もの天使の詩(エルゲンリート)の生成を終了する。

己自体は大して強いわけでは無い事は認めるが、魔術師自体が最強である必要はない。

魔術師ならばその技を持って、最強の何かで補えばいいだけなのだから。

そうして準備が完了すると少年はすっごく汗を流した顔でえーーと、と前置きを置いてから、わざとらしい真面目な顔で

 

「────その術式。使い過ぎると禿げねえか?」

 

遠慮なく砲撃した。

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

真は格好つけて投影した双剣を躊躇わずに捨てながら即座に逃げた。

酷く間抜けだが、1秒後にさっきまでいた場所が11もの魔力弾で破壊されている光景を見たら、恥など幾らでも捨てれる。

あんなの使い魔というより、ゲームとかアニメで出るような浮遊ピットのようなものだ。

 

「しかも魔力の生成までこなすとか馬鹿か!!」

 

アインツベルンの執念の完成品と言うと少女は嫌な顔をしそうなので言わないが、本当に馬鹿げている。

でも禿の心配を除けば使い勝手は良さそうだから参考にはさせて貰おうと思いつつ

 

「行け…………!」

 

逃げながら先程、捨てた双剣に命令を叩く。

忠実な双剣は即座に命令を受諾し、クラリスの左右から回転しながら首を狙う。

獲れ、という殺意を、しかし

 

「残念」

 

二つの魔力弾による破壊の結果が失敗を告げる。

宝石で作られた剣が煌びやかに少女の眼前で散る光景を見ながら、次に放たれた言葉通りの表情を浮かべた少女が

 

「その程度?」

 

と可愛らしい声で告げるから俺も非常に素敵な笑顔を浮かべて

 

「この程度」

 

と指先から超特大なガンドを放つ。

一発だけの呪いの弾丸に、本当にその程度か、という表情を浮かべる少女が使い魔に打ち落とすよう命令をしようする瞬間に策は成就する。

 

「え………?」

 

ガンドが唐突に折れ曲がり、曲がった先で更に曲がりを繰り返す。

唐突に何かにぶつかった独楽みたいな軌道を描くガンドにクラリスは反応が遅れ

 

「きゃっ!」

 

と眼前に来たガンドに思わず尻餅をついた。

意外と臆病だったか! と敵のキャラクターを読み間違った事に舌打ちしながら即座に剣を投影し直す。

瞬間、強化された眼に映るのは少女の隠しきれない恐怖。

一瞬、足と思考を止める。

少女の赤い瞳の中に映るのは剣を持って殺意を隠していない遠坂真(じぶん)

今まで自分ですら見た事が無い自分を直視させられ、躊躇するが

 

「…………っう!」

 

全てを受け止めて前に進む。

強化された足ならば一歩踏み込めば届く距離だ。

ここで躊躇えば救われるのは自分の良識だけであって、現実の自分とセイバーは死を迎えかねない。

ここで俺が手を汚さなければいけないのだ。

そう思い、踏み込もうとした瞬間に見たのは今度は恐怖に捕らわれた瞳ではなく、恐怖に立ち向かう瞳であった。

躊躇わない。

即座に前に進もうとしていた体を無理矢理横に転ばす。

強化された自分の身体で行えば軽く10mくらいの距離まで吹き飛んだが、その判断に救われたのを自分は見た。

先程の鳥の使い魔が何時の間にか自分の真上に飛んでいたのだ。

 

「…………くそ!」

 

さっき躊躇したからだ。

それが無ければ殺せていたのだ、と思うと自分の甘さ加減に腹が立つ。

そうだ。

自分は聖杯の譲り合いをしに来たのではない。

聖杯を奪い取る為の殺し合いの戦争に参加したのだ。

じゃんけんやスポーツみたいな勝敗で終わらせる遊びをしに来たのではないのだ。

例え経過が負けていようとも最後に命を奪い取れば間違いなく勝利になる殺し合いだ。

甘さなど不要。

全ての思考を殺しに回し、全ての回路を殺意によって弾丸(まりょく)を込めなければいけないのだ。

躊躇いを捨てろ。

例え、相手がどれ程見目麗しい少女であっても────彼女は自分を殺しに来ているのだ。

 

「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぁあああああああああああああああああああ!!!!」

 

獣のような咆哮を放ちながら前に出る。

殺す為に、前進するしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

けほっ、と息を吐きながら獣のように殺意に染まった少年の疾走を真正面から受け止める。

正直に言うととてつもなく恐ろしい。

あの少年は今までの魔術師とは違う。

アーチャーに甘えて背中に守られていれば勝手に自滅するような普通の魔術師とは違う。

こちらを本当に殺せる魔術師だ。

怒りとはまた違う畏怖を感じさせる形相をした少年は正しく必死だ。

当然だ。

自分は少年を殺そうとしているのだ。

それを回避するためには殺し返す。

当然の掟だ。

今まで自分はどんな理由であっても殺してきたのだ。

殺されそうになるのは当たり前だ。

そんな当たり前の理屈を吹っ飛ばして恐怖を感じる。

 

正しく原初の恐怖

 

自分が死ぬというシンプルだからこそ逃れられない恐怖だ。

それを考えるだけで手が震え、足が竦み、思考は逃げ出す方法だけを考え始める。

でも

 

私にも………あるんだから!!

 

例え死を迎えても叶えたい願いなのだ。

余人にはつまらない願いであったとしてもこちらには命を懸けるに相応しい理由だ。

アインツベルンでただ廃棄され、失敗作と烙印されている自身の同胞を救うのだ。

そうだ。

 

下らなくない。

 

つまらなくない。

 

間違い何て言わせない。

 

そうだ、例え誰に何を言われ、どんな恐怖を抱こうと自分が選んだこの道は

 

 

間違いなんかじゃないんだから…………!!

 

 

だから無様に尻餅付いている自分を叱咤して立ち上がり、殺意を放って迫って来る少年を受け止めるような姿勢になる。

そうだ、これでいい。

相手の命を奪う者がまるで命乞いをするように膝を着いて震えるなんて言語道断だ。

命を奪おうとするならば、最後まで果敢に攻めろ。

それが魔術師になっていたかもしれないクラリスフィール・フォン・アインツベルンでも、ホムンクルスのクラリスでもない、生きると決めたクラリスが決めた人生であると。

 

来た。

 

さっきのガンドのように先に砕いた宝石の欠片を利用した乱反射などは使用できない距離。

クラリスには厳しい超近接戦闘だ。

少しは魔術師らしく撃ち合え、お兄ちゃんめ、と内心毒付きながら全身の魔術刻印をフル回転させて、小手先によるものではなく、ただの魔力量に頼った魔弾を放とうとし

 

 

 

────視界に色鮮やかなルビーが流星のように自分達の間に落ちるのを見た。

 

 

 

 

 

マスター達がいる方角から朱の色が咲いたのをセイバーは見た。

 

「…………っ、シン!?」

 

「…………っ!!」

 

思わず隙を晒して少年の名を叫ぶが向こうも同じようにマスターを案じて動こうとする挙動を取る。

しかし、即座にセイバーは直感で、アーチャーは己が築き上げてきた戦術眼という意味の心眼が警報を鳴らす。

何かがおかしい。

戦場に対して思う言葉ではないかもしれないが、そう思える何かをセイバーは感じ取っていた。

そしてその答えを、アーチャーがセイバーに隙を与えぬまま、周りを見回してポツリと漏らす。

 

「………結界に穴を開けられたか」

 

その意味をセイバーは悟る。

己達の戦場を生むために作られた結界に穴を開ける存在がいたという事だ。

今の所人が近寄っていないのを見る限り、穴というより綻びというレベルなのかもしれないが、つまりそれは一つの可能性を意味する。

 

「乱入者か……!」

 

今の魔術世界にて張られた結界に無理矢理侵入するという事がどういう意味になるかを知らないとは思えない。

無論、ド素人か無知な魔術師の乱入という可能性も無きにしも非ずだが、流石にそんな現実逃避染みた可能性は捨てる。

ならば、有り得るのは

 

「サーヴァント!」

 

それもわざわざ結界を破壊して接近してくるのならばアーチャー、キャスター、アサシンを除いたクラスである可能性が高い。

どれであっても立ち塞がるのならば戦う覚悟はあるが

 

マスター……!

 

マスターの安否を考えるのならば正直引きたい所だ。

騎士としては恥かもしれないが、サーヴァントとして考えるのならば正しく是非もない。

だが、まだそこにアーチャーがいる。

弓兵相手に距離を開ける愚策を行うには、順序が必要だ。

ならば

 

覚悟を決めるしかありませんね……

 

死ぬ覚悟ではない。

マスターに傷を負わせる恥を得る覚悟だ。

彼とてその程度の覚悟はあるモノだと思っている。

冷静にレイラインを辿ると繋がりが確かであるという事実が帰って来る。

無事なのだ。

ならば、そこで彼にも覚悟を決めてもらうしかない。

そこまでを考え、空に一瞬、光が現れたような錯覚を得る。

太陽か、と思うが、それはもっと東にあるのを一瞬で確認した。

では何だと改めて光を見ると、それは光ではなく人であった。

 

 

 

膝を着きたくなるほどの神々しい鎧を纏い、神聖さと絶対なる力を内包した長大な槍を持って一人の男であった。

 

 

鎧を着て膨れているが、見た目は細い体形をしているようだがそこに弱弱しさはない。

髪も肌も必要以上の白さではあるがその眼光にはとてつもない意志の強靭さを内包し、更にはそんな見た目に収まるのが不思議なくらいの力の圧。

間違いなくヘラクレスに勝るとも劣らない最上位サーヴァント。

それが炎を持って宙に浮き、こちらに降りてくる。

 

「………太陽神(アポロン)の系譜………否、ギリシャ(我々)とはまた違う神の系譜であるようだな。どうやら今回の聖杯戦争は存分に私を試す試練となるようだ」

 

ヘラクレスの呆れた口調に男は……恐らくランサーと思わしき男が口を開いた。

 

「それはこちらの台詞だ、ギリシャ随一の大英雄よ。俺とてお前ほどの英雄と鎬を削る事が出来るとは思ってもいなかった。今回の聖杯戦争が規格外とは聞いてはいたが、どうやら規格外なのは参加者も同様らしいな」

 

ヘラクレスが瞳を少し細めるのをセイバーは警戒を一切解かないまま確認した。

だが、理由は解る。

何時からこの男がこちらの戦闘を見ていたのかは知らないが、それでも己の真名を知られるという事は不利になる事はあっても有利になることは無い。

敢えて言うなら、男が本当にこちらの戦闘を見て、真名に辿り着いたのかだ。

もしも別の方法で真名に届いたのならば、それはこの戦争では恐ろしい武器になるのではないかと思う。

そして男はそのまま自然体でありながら一切の隙を見せないまま、こちらにも視線を向ける。

何もかもを見通すような目がこちらの体の奥底を見るかのようだ、と思いながら、受け止める。

 

「その清廉なる剣気に、覇を纏う出で立ち。何より、風に隠されようが抑えきれない人々の願いによって生み出された聖剣────常勝と理想を約束した騎士の王とも巡り合えるとは。どうやら俺は初戦から得難い敵手と出会えたようだ」

 

やはりこちらの事も見透かされていると内心では驚きと、更には風王結界で隠されている聖剣すらも看破されている事に間違いなくこの男は戦闘を見ていた以外で何か、スキルか宝具によって真名………というよりは何か見抜く力があるのだと理解しながら、こちらも敢えて口を開く。

 

「その検察力には感服するが、我らの決闘を邪魔したのだ。名乗れとは言わないが、己を誇示するくらいはしたらどうだ? ランサーと思わしき英霊よ」

 

「最もだ。そしてその推察は正しいセイバー。俺は今回の聖杯戦争で槍兵のクラスで呼ばれた者だ。お前達の決闘を邪魔した無粋は、我が槍を持ってお前達を打倒す事によって礼儀とさせて貰おう」

 

自分達の真名を悟った上での挑発染みた台詞に流石に剣に力が籠るのを自覚するが、先にアーチャーが

 

「…………成程」

 

と頷き

 

────ノーモーションで矢が炸裂した。

 

 

矢がこちらではなくランサーに向かっているのを悟り、見に徹する。

アーチャーの矢に遊びは全く見れない。

実力不足ならばそのまま死、実力者であっても超1流でなければ吹き飛ばされるという一射だ。

さて、それをどうするかと視線での問いにランサーは一切慌てる事をせず

 

槍の一振りにて矢が一刀両断される。

 

思わず感嘆の吐息を吐く。

余りにも美しい両断であった。

矢払いというのは高等技術だ。

それをヘラクレスの矢を相手に払うのではなく両断するのは超1流である事の証明だ。

アーチャーもそれを見て、一歩距離を置く。

引いたのではなく、矢を撃つ距離を得る為の一歩なのだろう。

一切の油断はしない、という意味合いも込めた一歩に自身も同じ気を体に込める。

こちらの闘志にランサーも小さく頷き

 

「行くぞセイバー、アーチャー。マスターが戦っている中で俺もさぼるわけにはいかなくてな」

 

その言葉の意味に一瞬、歯軋りを得ながら、魔力放出の為の魔力練りながら、どうかと願う。

 

御武運をシン……!

 

 

 

 

 

 

 

唐突に咲いた炎の花に遠坂真は即座に懐からサファイアを取り出して、逆属性をぶつける事によって相殺しながら真はクラリスから距離を置いた。

クラリスも単純な障壁で防いでいるのを横目に見ながら、真は空中から降り立った金髪の女を見た。

クラリスが人を超えた美しさならば、この少女は逆に人間らしい美しさと言うべきか。

無論、それはクラリスに劣るというわけではなく、ある種の高嶺の花のような美しさを惜しげもなく曝け出し、その表情には己への自信に溢れ返っているのが尚更に美しさを引き出している。

勇ましいという単語がこれ程似合う女はおるまい。

そんな強さを内包する少女にしては可憐な声が戦場でも通る声で

 

「ごめんあそばせ。決闘に横入は無粋であるのは承知ですが、こちらも獲物を求めてジェットでわざわざドイツまで来たのです。奪われるのは余りにも面白く無い」

 

戦場には相応しくないドレスのような服を着ながら、優雅に華麗に、そして鮮烈に立つ姿にふん、とこちらは鼻を鳴らし、クラリスは髪の毛を払い

 

「ほんと、無礼な女ね。私の仲間を傷付けただけじゃなくて不意打ちで攻撃して、更には名乗りさえ上げない。品がないにも程があるわ」

 

他にも仲間いたのか……

 

まぁ、気づいてはいたけど、どうやらクラリスは仲間意識が強いらしいというのは覚えておくべきだろう。

しかし、そんなクラリスの挑発も

 

「まぁ? 殺し合いで不意打ちに怒るなんて。アインツベルンのホムンクルスは純粋ですわね。ですが、それこそ心配ご無用というものでしょう? その程度で終わるようなそこらの力量ではないと分かったから安心して不意打ちを放ったのですから」

 

とっても綺麗な笑顔で凄い挑発返しをかますとクラリスでさえへぇ、と凄い綺麗な笑顔を浮かべる。

女って怖い………俺、この戦争で女性恐怖症になりそう。桜さんが凄い天使に見える。

あぁ………ただ弱い女は御免だが、こうも強いだけの女も辛い。

そう思っていると、ですが、と前置きを置いて金髪を振りかざす少女は

 

「確かに。名乗りの遅れは無礼の証拠。故に遅れましたが名乗りを上げましょう」

 

とクラリスに負けないお辞儀をし、

 

 

 

「私の名はシルヴィアリーチェ・エーデルフェルト。親しい者はシルヴィアと呼んでくれますわ。此度はこの聖杯世界大戦と言うべき戦争に槍と誇りを持って挑戦者となりましたわ」

 

 

 

 

「エーデルフェルトだと……?」

 

聞き覚えがないわけではない。

逆だ。

ずっと家でよく聞かされている家名の名前だ。

何か親父と母さんの友人関係みたいだが、何だか母さんとの仲が凄く悪いという事くらいしか教えられず、何時も母さんは

 

「いい!? もしエーデルフェルトとかいうハイエナ女に出会ったら構わずぶちかましなさい! 殺しても死なない女の家系だからオーバーキルするくらいが丁度いいわ……!!」

 

などと優雅とは程遠い物騒な事ばかり言うので辟易していたのだ。

ただそうであっても逆に母がここまで言うのならばその実力は確かなものなのだろうなと思ってはいたが、ここで縁が結ばれるとは。

 

「やはり遠坂の貴方には聞き覚えがありますか」

 

「生憎と母からはまぁ、聞くに堪えない話ばかりでね。噂ではそっちの母親もそんな感じらしいけど………お前もその口なのか………?」

 

だとしたら面倒だなぁと思う。

そういう家系とか何だとかでいざこざが増えるのは性に合わない。

母はエーデルフェルト死すべし、慈悲は無いと叫んでいたが俺までそうする気は全くこれっぽっちも無い。

だから相手もそうであったら嬉しいんだが、無理かなぁと思っていたが

 

「いえ。私も母のアレはちょっと………いえ、まぁ、気に入らない相手ならばともかく」

 

「…………おお」

 

すげぇ、初めて俺、気が合う魔術師と出会えたかもしれねえ。

向こうでクラリスが不機嫌そうに頬を膨らましていたが、それは置いとく。

これならばこっちがやる気無かったら説得が通用するんじゃないかと思い、希望を見る────が、その後にシルヴィアの燃えるような視線が俺に突き刺さるのを見て自然と回路に魔力が回る。

 

「ですがまぁ、その母の言葉にも正しい言葉がありましたわ────遠坂凛が己の息子を最高傑作と誇っている、と」

 

視線で見ている物が俺自身ではなく、魔術師の俺を見ているのだとその言葉に気付く。

が、少女はそれに一切頓着せずに先を続ける。

 

「膨大な魔術回路に強度。未だ全てを見たわけではありませんが、術の精密さ────確かに。これならば技を競い、披露する価値が貴方にはあると認めれます」

 

肉食動物のような笑みを隠さずにこちらを見る少女にさっきまでの思考を捨てて、げんなりしそうになる。

前言撤回とは正にこの事だ。

やはり話が合わん。

ここまで過激になのに、ある意味で純正な魔術師とか正しい教育をしているのかしていないのか分からない家系だな、と思う。

特に上から目線の敵意がお似合いな事で、と辟易していると横からクラリスが

 

「やっぱり品が無いじゃない盗賊女。お兄ちゃんは今、私と踊っているの。日本だと間男って言うんだったっけ? 女だけど。邪魔をするならハイエナは叩いて潰すのが常識よね」

 

女二人によって空気が物凄い冷え込む中、胃が痛みそうになる。

ああもう、どうして俺の周りの女ってこんなんばっかなんだ、しかもお兄ちゃん呼びを定着しようとするなよ、今頃実家で弟か妹こさえていそうで怖いんだから俺としては。

 

「品が無いのはどちらかしらアインツベルンのホムンクルス。それだけ口が悪いと製作者の顔にも泥を塗りますわよ?」

 

クラリス(・・・・)よ。ホムンクルスならまだしもアインツベルンって次に言うなら貴女から確実に殺すわ」

 

とりあえず二人が冷え込む中、そこに落ちていた自分の荷物を拾って中からお茶を取り出して水分補給をしながら、そう言えばと思っていた疑問を俺はシルヴィアにぶつける事にした。

 

「というかだ。お前、どうしてここに………っていうか俺目当てなようだから聞くがどうやって俺を探し当てれた」

 

クラリスのは解る。

何故俺を殺す相手として求めたかは知らないが、まぁ、遠坂だからマスターに選ばれる可能性が高いとか思ったのかもしれないが、だからこそこちらの目的地を探す手段は理解は出来た。

しかし、エーデルフェルトがまた一々俺の行動予測を立てる為に同じ手段をするのは余りにも日本に縁が無いんじゃないかな、と思うがそこら辺はちょっと読めない。

だから聞いてみたかったのだが、意外と素直に口を開け

 

 

 

 

「それならば、昨日、唐突にそっちのお母様から連絡が来て、"うちの子が聖杯戦争に関わったから情報くれない?"とか言ってきたのでそこで密かにどこに向かったかを勢いで口を滑らせ、そこから情報を貰いましたの」

 

 

 

 

手元からペットボトルが落ちる。

ヒューーーーと風が耳と体に響く。

そのまま時間を置いてなんて無駄な事をせずに空を見上げて口を開く。

 

 

 

「あのうっかり母親があああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

「────もしもルヴィアさんかルヴィアさんの娘が聖杯戦争に参加していた場合どうするんだ? あの人の事だから自分の娘をけしかけたりしかねないんだが」

 

「………………………………あ」

 

 

 

 

 

頭を抱える少年を見てクラリスは心底同情した。

 

何か周囲の失敗を押し付けられる呪いを受けているような子ねぇ………

 

聞く限り、本当に一切自分の責任がない所が哀れである。

でも同情しても願いの為に倒すのは変わりないけど。

 

余計な女がいるのはアレだけど関係ないわ。邪魔するなら殺す。

 

そう殺意を滾らせ、このまま攻撃を仕掛けようと思い

 

「……え」

 

一瞬、弾丸が装填される幻聴を聞く。

気のせいだと思う思考に、自身の体が拒絶する。

魔術師としての感覚が告げるのだ。

 

 

今こそが戦端の始まりだ、と

 

 

視ればシルヴィアも黙って一点を見ている。

その一点がどこかなんて分かり切っている。

遠坂真だ。

光が雷鳴のように彼の体から一瞬発現される。

魔術回路の回転数が上がっている証拠だ。

だが、それが先程よりも()となると洒落になっていない。

 

「手を抜いていたの……!?」

 

「ばーか────短期でケリを付けないとって思っただけだ」

 

つまりここからが本気の火力勝負という事か。

その事実にクラリスは弱気ではなく勝つ為に距離を離し、金髪の少女は

 

「────Excellent」

 

喜悦の表情を浮かべて、むしろ一歩前に出た。

 

「最高ですわ、シン・トオサカ。やはり至高の舞台には至高の演者が必要! それだけは私が母に本気で嫉妬した事であり────そして貴方に期待した事ですわ!」

 

瞬間、同レベルの魔力の奔流がシルヴィアからも発生する。

己も遠坂真も流石に多少の驚きは得るが、驚愕という程ではなかった。お兄ちゃんもきっとそうだろう。

何故ならこの場に笑って立っているのだ。

そんじょそこらの魔術師風情が笑って立てるような殺し合いを、私達はしていないと自負している。

故にこの女も怪物だ。

 

「────万華鏡の兄弟弟子として手合わせをしましょう?」

 

その言葉にフン、と鼻を鳴らす。

それがお兄ちゃんと同時だったから少しお互い気まずかったが、それをとりあえず無視して

 

「────知っているシルヴィア? 日本では邪魔をする奴は馬に蹴られて死ねっていうらしいよ? ────私は馬程度で終わらせるつもりは無いけど」

 

自分も魔術回路の回転を上げながら、何時でも二人纏めて殺せるよう心掛ける。

そして最後にお兄ちゃんが

 

「人を勝手に自分の世界に取り込むな。こっちだってやる事山沢山なんだよ────地べたの味を体験したいならとっとと来い」

 

その言葉に一瞬で亀裂のような笑顔を浮かべる自分を自覚し、

 

 

 

 

次の瞬間に天使の詩(エルゲンリート)と宝石と刃が交差した。

 

 

 

 




オリジナルを書く息抜き程度のつもりだったのにあっという間に書き終わった……

己の器は二次創作でしかないという事なのか…! 楽しかったけどさぁ!!

ま、まぁ、今回はもう一人大英雄追加です。
まぁ、多分、Fateを知っているならば分かるでしょう。

では疑問や質問、その他評価・感想などをお待ちしているのでよろしくお願いします。
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