「さて、じゃあ肝心の敵についてね」
凛は外が夕闇に沈む中、再び居間に集まった家族とセイバーを見て説明モードに入る。
当然、眼鏡の装備は完璧だ。
これで恐らく知力にプラスボーナスが入るのだ、と隣の夫が思っているとは露知らずに人差し指を立てて説明する。
「と、言っても相手は面倒ではあるけど一番分かりやすい相手ではあったわ」
「……もしかして、というかやっぱりと言うべきなのか分からないけど……間桐?」
面倒そうな顔で確認を取る息子に、お手上げポーズをすると嫌な顔をする。
まぁ、無理もない。
まだ息子には間桐の一族とは接触はさせていない。
何故なら接触させたら、間違いなく
出会ったら絶対に撃つと分かっている
だから間桐の老人についての説明はしていなかったのだが、間桐の魔術に関しては別だ。
知っている限りは教えた。
間桐の魔術としての方向性は支配という概念に染まっている。
それを利用して蟲を支配しているという事らしい。
とは言っても自分も又聞きだ。
詳しい事を知っていたかもしれない父も詳細には教えなかったし、綺礼はただ、あそこにいるのは妖怪だとかなんだ言っていたが。
珍しく嫌悪の響きと一緒に。
ただ……
結婚したとか聞いた覚えはないから、まだ家にいるとは思うのだけど……
「───凛?」
「えっ? あ、ああ、何、士郎?」
「いや……間桐が敵である証拠はっていう話だが……」
「ああ……そうね」
士郎がこちらを心配している気配をは感じるので、大丈夫とアイコンタクトを送る。
あんたにとっても他人事ではないだろうに、と思うが、お互い突いたら息子が心配するのを知っているので無視して話を進める。
「証拠っていう程じゃないけど……まず連絡を取ってみたら全部居留守。試しに使い魔を送って屋敷に入って連絡を取ろうとすれば全部破壊。絶対とは言わないけど、火がない所で煙は立たないわよねぇ……」
「見捨てられたか、敵対かー……まぁどちらかと言うと敵対の方がある意味で気が楽だ。お互い手の内を多少知り合っているから、対策を立てられているとしてもその対策を考えられるし」
どうでも良さげな対応をしながらさらりと状況に対応した台詞を吐く息子もまた可愛げがない。
まぁ、一応、調査結果の続きは出しておく。
「他にも外来の魔術師かと思って、色々と使い魔でだけど探ってみたわ。特にアインツベルン城は念入りに探してみたけど……結界も発動しなかったし、城の内部も探ってみたけどいた感じはしなかったわ」
「リン。柳洞寺などはどうでしょう? あれ程の霊地ならば知られたとしても十分なアドバンテージが取れるのではないかと思いますが」
瞬間、真の視線が鋭くなるのを見た。
セイバーの無意識ではあるが、諸に真の琴線に触れる言葉に内心でちょっと汗を流しながら、それも今の所は恐らく無い、という判断だ。
「あそこは確かに冬木では最上級の霊地だし、確認もしたけど……それこそ土地が土地だからこれについては確実な情報は得れなかったわ。もう少し日があれば詳細には知れるけど……これ以上となるなら直接見に行くしかないわ」
と、まぁ一応、外来も疑ってはいるがほぼ間桐のサーヴァントであると考えている。
何故ならライダーも前回のサーヴァントであり、間桐は呼び出した英霊だったからだ。
英霊を呼び出す聖遺物なぞ、そうある物ではない。
よっぽどの事がない限り、同じ地に同じ英霊が呼び出されたのならば、それは同じ人物が呼んだと思うべきだ。
というか家がそのパターンだし。
「……」
「……」
士郎と再びアイコンタクト。
あの事を言うべきか、どうか。
どうして衛宮に連なる3人がセイバーを狙って連続で召喚出来た理由を。
「……」
正直、言えばどうなるかがちょっと微妙。
セイバーだから信頼は出来るのだけど……でもこれはこれでセイバーにとっては
しかし、黙っているにはこれからの戦いを必ず左右する力だ。
自分らの沈黙に二人が眉を顰めながらも、勝手に会話を続けている。
「でも、そうなるとどっちにしても電撃戦かなぁ……出来ればその前にセイバーの技や俺の魔術を見せときたかったんだけどなぁ……」
「仕方がありません……戦争は何時もこちらの都合を待ってくれませんから」
おやおやぁ? 何やらうちの子とセイバーが物凄く不穏な事を言っている気がする。
この感じはやる。何かをやる。絶対にうちの息子は何かを仕出かす。そういった期待には応えてしまう恐ろしい息子だ。
だから、その不穏な計画を明かしてもらおうと凛が口を開けようとした時に
───結界が作動した。
「……っ!」
二重の驚きが凛を支配する。
一つは当然、昨日の今日で奇襲をしてくるか、という驚きと
「───」
アイコンタクト一つでセイバーが縁側の方に向かった後に、彼女の背中に隠れるように息子も向かったその反応の良さにだ。
まるで歴戦の戦士のような反応に、私や士郎ですら反応が追いついていなかった。
息子のこういう所は前々から知っていたといえ、やはり新たに見ると思わず心配になる。
だが、今は頼りにするべき場面だと思い、自分も追いかける。
既に窓を庭に繋がる窓を開け、その正面の堀の上に───紫の髪をした女の怪物が立っていた。
敵対者に特に変わった部分はない。
とは言っても英霊とは既に完成された存在なのだから、変わるような事をするはずがないと思い、場の支配権を取る為に自分が真っ先に発言する。
「あら? 御機嫌よう? ライダー。たった一日で攻めに来るなんて果敢ね。ここで決着をつける気?」
「まさか。そこまで馬鹿ではありません。今日はそこの騎士様流に言わせてもらえば決闘の招待に来た、という感じです」
性に合いませんが、と一切ニコリともせずにライダーは告げる。
実際、確かに何となくだが彼女に合わない策ではあると思う。
何故なら彼女の本質は人間を食らう怪物だ。
卑怯汚いなどという思う心は余計な物のはずだ。
だから、自分が誰が乗るかという意思表示をしようとして
「おいおい。そんな昨夜、色々とやってくれた相手に決闘なんて言葉を投げつけるのは少々筋が違うんじゃないかな?」
息子が先に勝手に喋りかけた。
思わず息子を睨むが、息子は無視するだけであった。
「まぁ、折角の美女からの誘いだから乗ってやりたいけど、玄関から入ってこない不審者には我が家では刃から呪いと、様々なアトラクションを体験して貰うのが方針なんだが?」
何時の間にか武装したセイバーを前に、魔術刻印を回転させている少年が不敵な顔で怪物に語りかける。
その強気にライダーは成程、と答え
「それは残念です。折角、
その言葉を聞き、わずか1秒で
少年の絶叫が空間を揺るがした。
ライダーの動体視力は全て捉えた。
少年は絶叫しながら、即座に光が彼の両手で創造され、光は刃へと変換された。
それは今まで少年が使っていた双剣。
昨夜から何一つとして変化していない。
変化したのは彼の肉体。
無論、肉体が変化したとかそういう事ではない。
起きた変化はただ魔術による肉体の強化。
昨夜も少年が逃げる時に発動していた身体強化の魔術。
だが、先日は速度を優先にした強化だったのに対して、今回は
昨夜の彼が逃げる為の
そうして投げられた双剣は衝撃すらも押しのけた音速突破の暴力となって投げつけられた。
勿論、ただで喰らうわけにはいかなかったので、回避しようとし
「はぁ……!」
投剣よりも恐ろしい速度で飛翔するセイバーが直線の軌道で突撃した。
逃走した後に聞いた話では、あの小柄から生み出される怪力と速度は魔力放出というスキルから発生されたものという事。
その恩恵によって得た速度は正しく至高の魔弾。
そのお蔭か、敵の攻撃がようやく見れた。
「───」
息を呑む。
何せ、このままだと突っ込んでくるセイバーとは時間差で逃げ場を無くす様に投剣が左右を潰してくるからだ。
偶然と言うには余りにもセイバーの視線に確信が込められている気がする。
実際、ライダーの推理は正解していた。
この連携は決して偶然による一致ではない。
サーヴァントと……否、使い魔と魔術師の間ではラインが結ばれる。
それによって念話という意思疎通の伝達が行える。
これがそれだ。
遠坂真は怒り狂ったまま冷静に念話による連携を持って現在の状況を作っていた。
と、余りにも簡単な出来事のように思えるが、普通の魔術師が見たら卒倒する光景の一つだろう。
魔術とは決して物語などで使われるような安易で安全で安心して使えるようなご都合主義ではない。
命という観点から見れば魔術というのは劇薬でしかない。
怒りながらコントロール出来る様な都合のいい代物ではないのだ。
ならば彼が発した怒りの絶叫はただの演技か?
否。
それだけはこの場の誰もが感付いている。
あれは演技によって発生出来る様な熱量ではない。
幼い子供はおろか死に瀕した老人ですら背筋を震わせるような
だが、これは少年からしたら一つの筋道が立っている事であった。
この怒りをぶつける為に必殺の筋を通す冷徹さを持っていっているだけだ、と。
前提はあくまでも怒り。
こんなのは本人からしたら芸にすらなっていない行い。
魔術というものに愛された魔術の申し子たる彼からしたら当然の
無論、被害にあっているライダーからしたら溜まったものではない。
ライダーは確かに少年の異常性は察しているが上限まではまだ理解が及んでいない。
考えている余裕もない。
今、必要なのはここをどう切り抜けるかだ。
奇跡的なタイミングによってセイバーを躱すと同時に少年が投げた双剣が激突する。
強化されたとはいえ人間の筋力ならば躱す事は防ぐ事は可能だろうが、一時的に止められた自分は次のセイバーの攻撃に対処出来るかどうか。
ならば背後に飛ぶか。最も愚かな選択肢だ。こちらに飛んできているセイバーがそのまま追いついてくるだけだ。
ならば、上に飛ぶか? 逃げ場のない空中に挑んでどうする。釘剣による移動方法もあれは足をつかえたから出来た方法だ。今の状況では自殺行為にしかならない。
魔眼ならどうだ。これもまた意味がない。
セイバーの対魔力は神代の時代の魔術ですら防ぐ位階だ。
自身の魔眼も他の英霊と比べても恐ろしいと自負できるランクにあるが、セイバーに対しては何の必殺にもならなければ、既に速度に乗っている少女を遅くしても意味がない。
他の宝具に関しては単純に使う時間が足りない。
故にライダーが選べる選択肢はただ一つ。
先程無駄と称した魔眼をバイザーを無理矢理外す事で発現させながら───弾丸の速度で迫ってくる少女に対してその剣に叩きつけるように手元に召喚した釘剣を殴る様にぶつける事であった。
無論、それだけでは叩きつけた腕事持って行かれるだけの未来になるのは理解している。
故にライダーは嫌悪の表情を隠さないまま、しかし生き残る為に最も忌々しいモノに頼り
「あぁ……!!」
絶叫の形をした悲鳴と共に弾けた。
二度目故か。
一回目の石化よりも遥かにマシな重圧の中で士郎は有り得ない物を見た。
「馬鹿な……!」
それはセイバーがライダーに力負けして弾き飛ばされている光景であった。
士郎は知っている。
かつて未熟の頃に契約していた彼女は魔力供給は得れず、大凡考えられる限り最悪なレベルの状態での戦闘で決してバーサーカーであったヘラクレスに対しても押されはしなかった事を。
その彼女が今度は間違いなく魔力、気力共に充実しているはずの彼女が吹っ飛ばされた。
弾き飛ばされた姿勢を見れば分かる。
錐もみ回転になりかけの態勢を空中で無理に捻って足から地面に降りようとしている姿には余裕はあってもわざとの雰囲気はない。
そして改めてライダーの方を見ると……打ち勝ったとはいえそこには力勝負で勝ったような姿では無かった。
「ぁ……くぅっ……!」
ダメージの度合いという意味ならば間違いなくライダーは敗者の姿であった。
セイバーの突撃力を受ける形となって押し返したライダーの右腕は滅茶苦茶だ。
正面からダンプカーを受け止めたせいで、まるで押し潰された練り消しのように元の長い腕を縮ませており、所々からはみ出ている白い色の物体は骨なのだろう。
腕以外も恐らく足や内臓にも衝撃が走ったはずだ。
身の丈に合わない奇跡を果たした結果は半身の損壊。
人間ならばどんなに軽く見積もっても死に体。
むしろ激痛によるショック死を迎えてもおかしくはない状態だがサーヴァントならば英霊によっては耐えられはしても、やはり激痛に侵されるはず。
特にライダーは戦いで名を遺した戦士としての英霊ではない。
故に蝕む激痛は酷いもののはずだが……
「……あ、……いぃ……!」
ライダーはまるでそんなの知らないとばかりに頭を押さえていた。
ひしゃげた腕でもなく、潰れた内臓や骨ではなく頭を。
潰れた肉体なぞ知った事ではないと言わんばかりにライダーは無事な左腕で頭を抱え……いや……抱えるなんて優しい表現はされていない。
文字通り左手で頭をすいかのように握り潰そうとしている風にしか見えない。
まるで脳の中に憎い敵が存在すると表現するかのように。
余りの形相に真はおろかセイバーですら手を出すべきか迷っている中、唐突にライダーの鬼気迫る雰囲気が消失しつし、左腕は顔から離れる。
半身の被害は無論、そのままだが……少しずつ治療されている。
敵マスターからの回復魔術も含めた回復の早さに見えるが今はそれはどうでもいい。
ライダーは何時の間にかバイザーを付け直した表情で俺や凛、セイバーすらも無視して真を見ている。
ライダーは何も言わない、
ただ、態度で物語っていた。
───それが貴方の答えですか? と
ミシリ、と息子の方から軋む音が聞こえる。
今、現在、自分の立ち位置は息子から右斜め後ろの位置にいる。
故に息子の表情を彼が見る事は出来ないが、察する事は出来た。
彼の立ち位置から見える息子の手は握り過ぎて白くなっていたし……恐らく口は噛み締められている。
現に今も歯が軋む音が聞こえ、手の平が裂けて流血が始まっている。
思わず手を伸ばしたくなる息子の葛藤。
だが、次に聞こえたのははぁ~~、という息を吐き出す音。
握っていた手からも力が抜け、冷静になってくれたか、と士郎はほっと一息を吐きたい気分になる。
怒りに震えていた体を抑え、俯いていた顔を上げていく動作を見て士郎は、恐らく隣にいる凛も気付く。
あ、いかん。この子───むしろぶち切れている
沸点という意味ならば、正しく若かりし頃の自分と似たレベルの息子はこちらが何かをする前にそのまま血の流れた手を顔の前まで持ち上げ、中指を立てる。
「その罠に乗ってやるよクソッタレ」
間違いなく自分達が頭を抱えなければいけない若さに満ちた台詞であった。
「あ・ん・た・って・子わぁ……!」
リンがシンに対して思いっきり頬を抓っている光景をシロウと一緒にどうすればいいやらという顔で見守っていた。
ライダーは今はもういない。
シンが決闘の提案を受けると言った後、彼女は端的な決闘内容を告げた後に即座に逃亡した。
時間は12時ジャスト。
その時間帯に冬木大橋の近くの公園に私とシンのみで決着を着ける。
それだけだ。
今は時刻は18時過ぎ。
言われた時刻には余裕があるとはいえ、敵の企みや罠を看破するには心許なさ過ぎる時間だ。
提案を受けた少年もそれは分かっているだろう。
この提案が間違いなく罠であり、真っ当な決闘なぞ行われないという事を。
「あんたねぇ! ライダーの宝具の一つに結界型宝具があるっていう話を忘れた!? 昔は慎司だったから威力低かったけど……昨夜や今のを見る限り今度は真っ当な魔術師みたいだからもっと消化と吸収速度が上がっているのは確定なのよ!? そんな便利な代物をあんな分かりやすく場所を指定されているなら使ってくるに決まってるでしょうが!」
「ふがっ、んわぁほぅむ」
「んなの、どうでもいい? どうでもよくあるかぁ!」
抓り度合いが増していくマスターに対してどうしたものか、とセイバーは思っていると横合いからシロウがこちらに語りかけてくる。
「実際問題……どうだ、セイバー? 第5次の聖杯戦争のあの結界……あれの数段上の結界が張られた状態での勝算は」
「はい。恐らく短期決戦で勝負をつけるのならば私もシンも問題はないでしょう。ただ問題は長期戦になった場合は……」
「セイバーは耐えれても真に問題が出てくる、か」
セイバーも多少の記憶は薄れても、覚えている範囲でライダーの結界についてを思い出す。
世界が血の色に染まり、内部の人間を溶解させ、血液の形で魔力へと還元してライダーに吸収させる結界。
実にライダーには相応しい悪辣な結界だ。
セイバーの感性からしたら刃を振るうのに躊躇う理由が皆無なぐらいには。
「解除は俺や凛にも無理だった……ならば逆に防ぐ方法を考えるのはどうだ?」
「無理でしょう。使い勝手に関しては少々難があるかもしれませんが、それでもあれは宝具です。失礼ですが現代の魔術師ではあれを防ぐ手段がないかと」
そうか、と呟く彼の反応を見ると彼も理解しているのだろう。
一度、体験したが故にシロウの方でも分かっているはずだ。
それなのに聞くのは他人の意見も聞きたかったのか、それとも自分の知識には無い方法が無いかと探りたかったのか。
「ですから、私もこの見え透いた罠に嵌まりに行くのは反対なのですが……」
「ああ、それは俺もなのだが……」
そうすると振り出しに戻って頬を引っ張られているマスターの姿に視線が戻る。
結構、伸びる頬を見て、しかしふごふご言っている姿を見るとやる気満々だ。
どうしたものか、と再び思っていると遂に業を煮やしたのか、シンはリンの手を振り払って腕を組む。
そのまま自分不機嫌です、という表情のまま
「先手全て取られたんだから仕方がないじゃないか母さん! それに売られた喧嘩だぞ、何で買わないんだ遠坂の名折れじゃないかっ。ダチを人質に取られ、家にまで強襲して相手の都合を伺う? その前にブッ倒した方がらしいじゃないか!」
「あのねぇ……」
リンが頭を抱えているのがよく分かる。
実際、彼が言っている言葉は若さに任せた、言い方を悪く言えば現実を無視した言い分だからだ。
微笑ましいとも思わない事はないが、それは命を懸けていない時に楽しむ感情であって生死を分かつ現状で感じる感情ではない。
性能だけで勝てるようならばこの世はもっと弱肉強食に満ちた破壊と再生の円環の世界になっていただろう。
現状で推測される罠だけならば確かに突撃しても勝てなくはない。
だが、それは勝てなくはない、だ。
危険率は昨夜やさっきと比べれば倍のレベルで違うだろう。
とてもじゃないがサーヴァントとして認められるような行いではない。
リンも同じ事を思ったのだろう、どうにかして息子の我儘を自制させるような言葉を探し
「それにダチ見捨てて勝って何が誇らしい!? 誰かを見捨てて削って、それを完全勝利だなんて馬鹿げた勘違いするなんて俺は認めない!」
更なる青臭い言葉に全員が停止した。
思わず全員が同時にこの中で一番若い少年に目を向ける。
彼はさっきと変わらず腕を組んで不動の姿勢。
瞳には一切の濁りもなければ、陰りもない。
本気だ。
何一つとして虚飾がない。覚悟という熱量は自分の肌を焼く程だ。
本当に、心の底から
「───」
シロウが息を呑むのが分かる。
何故ならこれはかつての彼の叫びそのものだ。
どこまでも青臭くて、歪で、それでも誰かの為に成りたいと願った若かりし頃の正義の味方の叫びにそっくりだ。
自分からしたらシロウ以上に情熱的かもしれない、と冷静に思ってしまうくらいだ。
衝撃から一番に戻ったのはリンであった。
「───それはどうして? まさか士郎の真似とか言わないわね?」
リンの真剣な声色での危惧を感じた声に息子は一蹴する。
「は? 親父なんて一切関係ないし正義なんて心底どうでもいい発言だけど? 正義なんて秩序なんて俺には難し過ぎるし気にする気なんて無いし。何より自殺してまで人を助ける気なんて毛頭ないけど?」
何やらかつてのシロウを滅多打ちにする発言が繰り出されているが、シロウは心は硝子……と呟いて、リンは無視した。
何度目かのどうしたものか、を思いながらも耳はリンとシンの会話に向ける。
「なら何? 相手の罠に乗っかってまでするその行いは。さっきの発言からしても誰かの為になろうとしているように思えたけど?」
「だから違うって───単に
はぁ? と唸るリンに、あーうん、と説明不足を理解しているのか。
言った本人も少し考えながら喋るように
「えーっとだ。うん、あれだ。あっちはこっちのダチやら日常やらこっちの
───それは凡そ考えられる答えの中でもっともどうしたものか、と思う答えであった。
本人としては要は俺の都合による俺の為だけの行動って言いたいのかもしれない。
だが、その俺のルールの中に彼は普通に友と日常という言葉を普通に入れている。
つまり、彼のルールの中では周りの人の安否や幸福も含めて全て俺の都合にしているではないかという事だ。
彼にとって他人の危機は自分への攻撃なのだ。
だから、むかつく、と。
怒っている、という。
確かにそれは怒りなのだろう。
正しい怒りだ。
誰かが傷つけられ、苦しまされるのを彼は
それは彼の親が抱いた理想に似ているようで非なるモノなのかもしれない。
だからどうしたものか、という感情は捨てた。
セイバーはリンやシロウよりも前に出、彼と瞳を合わせながら問うた。
「後悔はしませんね?」
少年はこちらの問いを全て吟味しているという意思を感情に乗せながら
「ここで背中向ける方が我慢出来ない」
一瞬だがセイバーと真は視線ではなく精神を持って向かい合う。
セイバーの精神に何一つとして手加減というものはない。
もしも嘘や強がりで対峙したのならばその全てが剥がされる程の意気を持って対峙している。
しかし、大胆不敵とはこの事か。
向けられた気に対して不遜にもポーズを崩さない。
ならばもう決定事項だ。
だが、とりあえず
「どうやら二人の不器用さと頑固さを一番色濃く受け継いだみたいですね……」
苦笑の言葉に3人が3人とも何故か傷ついた顔をした。
夜の家の庭で真は赤いコートを風に靡かせて立っていた。
コートの内部には自作の宝石が至る所に配置されており、腰横には父がわざわざ作ってくれていた帯刀ホルダーもついている。
つまり、これが魔術師遠坂真のバトルコスチュームとなる。
別に赤色が超絶好きではないのだが、母が言うには「遠坂たるもの、赤は纏いなさい」との事で何故かこれに関しては父までが同意した。解せぬ。
だが、まぁ腰横のホルダーについている重みを実感していると微妙に溜息を吐きたくなる。
ホルダーの中に入っているのは双剣。
ライダー相手に使っていた双剣と同一ではあるのだが、あれらは偽物だ。
これが本物。
この世で唯一、遠坂真が生み出した遠坂真の為だけの魔術礼装。
名前は付けていないがモデルが親父の愛剣なので敢えて言うなら偽・干将莫邪だろうか。
本物なので偽と付けるのが矛盾しているが。
服とは別に靡いている髪を押さえつけていると毎度うざく感じるのだが、仕方があるまい。
一旦、外界は捨て置き、自身の内を覗く。
「───」
魔術回路───全快。全て問題無し。使用可能な魔術は全て過不足なく使用可能。
魔力───こちらに関しては少し欠乏。だが、それもセイバーへの供給と召喚時の消費と意味の分からん魔力不足による後遺症みたいなものだ。
8割ちょっとは回復しているので既に彼女から聞いている宝具の発動も数発なら十分に可能だろう。
遠坂真の本領を発揮するのには何も問題は無い。
魔眼も当然異常はない。
聖杯戦争を始めるにはもってこいのコンディションである。
そして後は
「……」
内面を視ながら、胸に手を当てる。
既に両親は先に公園を見張れる場所に向かっている。
父は特に視力がいいというレベルの千里眼を持っているので遠距離から敵を見張るには適任である。
母はどうだろう。そこまで超遠距離の魔術などは流石に見せて貰ってないから不明だが、母なら出来そうな気もする。
だから、ここにいるのは自分と
「どうしました? シン」
自身のサーヴァントであるセイバーのみである。
セイバーはマスターが困ったような顔でこちらを見るのを知覚する。
どうしたのか、と問う前に本人の口から明かされる。
「いや、そりゃ……その……本当に
マスターは胸に手を置いたまま曖昧な表現で問うてきたが、問われた内容については理解出来た。
理解出来たが故にセイバーは苦笑で首を縦に振った。
「無論です。貴方が持っていた方が今は有用ですし、私は元々余り、
「そうは言ってもなぁ……」
シンが持て余し気味に自分の体を見ているのが微妙に微笑ましい。
まぁ、しかしだ。
彼がそんな風に思ってくれるのは理解出来る。
勿論、それはとてつもなく魔術師らしくない感傷だが、自分は2代、リンも含めたら3代続いて良いマスターに巡り合った、と思うぐらいには心地よい干渉だ。
初代は知らん。
事情は多少知りはしたが、それでもあのド外道は許し難いので記憶から消しておく。
うむ、切なんとかなんていうマスターはいなかった。
だが、そんな感想は余所に、今のマスターは
既に家に明かりはついていないので、堀の内部である庭には明かりはない。
原初には程遠いが、それでも現代においては夜闇と言ってもいい暗さである。
その中で一人、赤いコートと赤みがかかった長髪を風に靡かせて立っている少年は余りにも自然に夜を纏っていた。
魔眼の調子でも確認していたのか。瞳が鋼の色に変わっているのが更に拍車にかかっていた。
幽玄の美
現代の、しかも魔術師とはいえそれでも少年の姿が一枚の幻想を作っていると錯覚する光景であった。
恐ろしい程に
リンが言うには彼の魔術回路はそれこそ天才である自分よりも理想的との事らしい。
まるでそれこそ自分が考えた理想的な魔術師という妄想が形になったような子どもという事らしい。
だからこそ
かつてのシロウに感じた感覚がツギハギならば、彼に対する感覚はちぐはぐだ。
シロウの才覚はそういう意味では彼の心から漏れた物だったので逆に恐ろしい程の合致を感じたが、逆にシンの場合は彼の心とかは関係ない純粋な持って生まれた物だ。
故に魔術師としての才覚と遠坂真の本質のずれが目立ってしまう。
才能と性格が一致していたのならばこれ程のずれは感じないだろう。
その天才性に適応し、リンのように魔術師でありながら己の道を進めるような魔術師ならば良し。
天才性が無くても、シロウのように努力で進んでいくのも良し。
だが、彼は二人の性質を併せ持ってしまった。
……リンやシロウが心配するわけですね……
彼が寝ている間や彼がいない所でリンとシロウは常に彼の事を気にしていた。
正直に言わせて貰うのならば、随分と子煩悩に、と素直に思った。
だけどそれが成長というものなのだろう。
自分も変則的ではあるが娘を持った父親にもなったのだから。
事情を知らない人間にこれを説明すると相当に意味不明な状態だが事実だから仕方がない。
とは言って親らしい事は全くどころが皆無なのだから誇れる所は全く無いのだが。
とりあえず、今する事はこの真っ直ぐで正しいマスターを死なせない事が自分が召喚された一番の理由だろうと誓う。
本当ならばこんな戦争に巻き込まれた事こそが嘘のはずなのだ。
本人もどうして自分が聖杯に選ばれたのか、と嘯いていた。
全くもってその通りだ───
「行きましょうマスター───貴方が帰るべき場所に」
その言葉に少年は驚いたような顔をし───そして何故か苦笑した。
何故苦笑されたかは分からない。
分からないが……感じ取った事はあった。
あれ程に夜を纏い、青臭いとも言える情熱を持っていた少年の顔が
まるで死後を悟った末期の人間のような
思わず何を、と声をかけようとするのを彼はこちらに背中を向ける事で拒絶する。
タイミングを外された私はそのまま何もできず、ただ彼がこちらを見ないまま放つ声を聴く事だけであった。
「そうだな……行こう、セイバー───とっとと始めて、終わらせよう」
いやぁ、fakeのお蔭でFateが進む進む。でもクロは進まない進まない。
とりあえずまた悪役サイド。少年の超青臭い叫び編です。いやぁ、鳥肌立った立った! うーーーん若いっていいねぇって感じの一話でしたー。
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