夜の中、目的地の入り口に着いた真にはよく見る公園の入り口が何故か遠い深淵の入り口の様にも感じた。
「……」
覚悟はしていた。決意はとうの昔に終えた。
なのに今、自分は足踏みをしている。
心臓の高鳴りは運動をしていないのに平時の速度をとっくの昔に逸脱している。
「───っ」
よくない未来絵図が頭に飛び込んでくる。
どうせ事になれば間違いなく対応してしまう自分なのに事前となるとこうだ。
魔術師たる者、常に死ぬことなんて織り込み済みでなければいけないだろうに、何て情けない。
「───シン?」
「─────────────えあ? あ、うん。何だ?」
「……」
沈黙の問いが投げられて思わず、ははは、と愛想笑いをしながら演技で汗を拭く演技を───実際に拭き取れてしまいおや? と手を見ると結構な水量に濡れた手の平があった。
うっわ格好悪い、と内心で普通に叫ぶ。
あんだけ超青臭い啖呵叫んだ癖にこれでは格好が付かないではないか。
ぱんぱん! と落ち着けという意味で頬を二回叩き、そこで震えている事にも気付いて、もう一度気付の一撃を頬に加えようとし、止められる。
「マスター。落ち着こうとすれば逆に落ち着けなくなるものです」
自分の両の手は彼女の両の手で掴まれていた。
篭手に包まれた手で掴まれた自分の手は冷たい鋼の感触に囚われている。
だが、むしろそれが良かった。
ここで人肌を感じていたら甘えて折れていたかもしれない。
マスターとサーヴァントには奇妙な縁があると母さんが言っていた気がするけど、成程。これも自分を折れさせない為の縁なのかと思うと苦笑が込み上げそうになる。
「ああ……すまない、セイバー。さっきあんなに啖呵切ったのに情けない姿見せて……」
「いえ。むしろ安心しました。それに戦いに恐怖しない人間は破綻しています。貴方の恐怖を笑う者は死の恐怖を味わった事が無いか、恐怖を理解していない異常者です───貴方は何も間違ってなどいません」
暖かな笑顔が手を握っている都合上、かなりの近距離で見せられたので目を逸らすべきかどうか迷って行動停止。
あーーー、と意味不明に呟いて現実逃避するが相手は首を傾げる素晴らしいポーズも追加して追加ダメージ。
駄目だ。この子、男に対しては無防備過ぎる……と言ってもアーサー王だと言うなら……それはそうなってしまうのかな、と心の中で溜息。
英霊、いや英雄の生涯を振り返って良いことなど無い。
ヴォルスングサガの主人公の終わりは悲惨なものであるというのが大抵の結末だ。
だから今思うのは過去ではなく今の事でいい。
ふぅ、と一度深呼吸をし、目線でもう大丈夫だと告げる。
それを了承し、セイバーは自分の横に侍る。
そして自分はその意気のまま公園の入り口に一歩足を踏み入れ───眉を顰めた。
「ふん。何だこの結界。隠す気がないのか間抜けなのかは知らないけど、分かりやすい結界だ。ライダーの真名から察すると魔物の胃袋っていう所かな」
「確かに。魔術に詳しくない私でも察する事が出来ます。これは人を溶かす怪物の行いだ」
セイバーも顔を歪めている。気に入らない、という風に。
騎士達の羨望を束ねる騎士王らしく、彼女はこの人を殺して悲哀を喰らうしかない結界に嫌悪を隠さずに発露している。
ふん、ともう一度鼻息を鳴らす。
セイバーの感情には全く以て同意見だ。
趣味が悪い。
これにせめて罠みたいに敵対者を滅ぼしてやる、という気概のような敵意が込められているのならばやはり不機嫌になってもまぁ、敵の嫌がらせと取れただろう。
敵対者に対して全てをぶつけるというならばそれは正しいとか間違いではなく、生きる為に、もしくは勝つ為の必要不可欠な行いだ。
だが、この結界にそんなものはない。
あるのはただ食料を溶かし、吸収する為の効率的な栄養補給としての機能のみ。
「これが親父達が言っていた結界か。確かにこれなら魔術師ではない人間に対しては毒だし、魔術師であっても長く居続ければ溶かされる、か。どうやらライダーの主従はいい趣味をしているようだな」
多分に込められた皮肉にセイバーは何も言わないが、同意の視線を返してきた。
「セイバー。ライダーの気配は?」
「地理的にはこの公園の中央に。ですが……」
最後に言い淀むセイバーにどうしたんだ? と目線で返事を求めるとセイバーは再度確認をしたという感じに目を瞑り、開けたと同時に答えを返した。
「……人の気配、恐らくライダーのマスターと思われる気配がライダーの傍にいます」
「何?」
この場に入って何度目かの眉の顰め。
マスターと思われる人がいる。
まず間違いなく一般人であるはずがない。
友人を狙うなどと言ってきた下種ではあっても最低限のルールは守るつもりなのか。
この公園にはライダーの結界とは別に人払いの結界が施されており、よっぽど運が悪くない限り一般人が立ち入る事は無い。
逆に言えば結界を張った魔術師自らが誘ってわざと引き入れたというのなら
「……」
殺意が視線に宿る。
その場合ならば、つまり相手側は約束を破った事になる。
まさか人質が自分の見知らぬ誰かなら別にいいだろうなどと思っているのならば
先行した親父達の連絡だけだととりあえず最も近しい美綴家と柳洞寺からは人は攫われておらずとの事だったが、油断は出来ないだろう。
だが、もしもマスターだというのなら
「宗旨替え───と思うか?」
「正直に申させて貰えば───有り得ないかと。もしくは」
「最早、小狡い事などせずとも勝てる、か? 姦計であったとしても舐められたものだ」
「同感です。まさか現代の魔術師にここまで挑発をされるとは思ってもいませんでした」
お互いの顔に浮かぶのは笑み。
だが、ここにこの二人を知っている者がいればこう例えただろう。
これは獅子の笑み。
獲物を狩る前の怒りと喜びの笑みであると。
「セイバー。宝具に関しては安全性さえ取れれば君の判断で幾らでも使って構わない。無論、使わずとも勝てるなら良し。返礼だ。どうあってもたらふく食わさせてやれ」
「ご随意に。マスター」
公園の中心と言える広場に辿り着いた真を迎えたのは誰もいないという結果であった。
「……」
公園には近くに冬木の名物と言っていいかは分からないが、とりあえず目立つ冬木大橋。
勿論、橋があるならば下に河があるのが見える。
後、あるのは河とは逆の方に林……というには小さな場所だが森林地帯がある。
その中にも多少開けた場所がありそこで子供達がよくサッカーとかをしている光景が見られる場所である。
今、自分達がいる場所は人の手で固く固められたただのコンクリートの広場。
一見すれば誰もいないように見える。
が、セイバーと一緒に二人して溜息を吐く。
自分達が視線を向けるのは河の方でも無ければ広場の奥の方でもない。
先程説明した小さな林を作っている木々の方だ。
セイバーはともかく自分には達人の域の気配感知の技など今は持っていない。
だが、人の存在感を察するとかではない巨大な何かならばスキルを持っていなくても感じ取れる。
ぶっちゃけた話、多少木々で隠れてもライオンの威圧感を感じ取れるようなものだ。それが更に巨大な者ならば尚更だ。
これがアサシンとかなら何とかなるのだろうけど相手のサーヴァントにはこの手の技能は無いだろう。
「ここでまた隠れて奇襲をするつもりならば気配を多少消すか何かをしたらどうだ? 」
「マスターの意見に同意だ、騎兵よ。それでこちらの首を獲れると思っているのならば来るがいい。次の瞬間に転がっているのは貴様の首だがな」
最早、こっちが誰に対して言っているのか分かりきっているだろう、と呆れ返っているというアピール。
こちらの隠す気のない挑発に
「……主従揃って口が達者ですね。マスターとサーヴァントは似通ると言いますが、嫌な類似ですね」
霊体化を解いた紫の長髪が特徴的な女、ライダーが姿を現した。
単騎か、とは思わない。
既に自分でも感じ取れる……とは言っても気配ではなく魔力だが。それで魔術師がいる事を感知している。
それにその嫌味。
理解して言ってんのか、と思い、それを口にしようと口を歪ませた時にセイバーが自分より一歩出てさり気無く制止させられたので息を吸えず、セイバーに先を取られた。
「ほう? つまり貴様のマスターはさぞや貴様に似て陰険で他者の命をゴミと勘違いしている、と認めるのだな、ライダー?」
隣で聞いていた俺ですらドン引く───間もなくライダーから放たれた殺意が空間を圧した。
ああ、成程、だからこちらを戒めていたのか。
慢心だな、と思い、念話で礼だけ言っておく。
「……とりあえず、お互いもう小細工云々を出す段階では無くなったと思っているんだが?」
「……」
……おや?
真は別に人間観察に優れているというわけではないし、英霊が伝承に描かれた姿のまんまというわけではないという事は知っている。
現に隣のアーサー王が典型的な想像から外れた姿だし。
だからまぁ、ライダーの事について理解しているというわけでもない自分の彼女に対するイメージでは……魔術師という輩に積極的に忠義とかそういうのをするキャラではないと思っている。
彼女も彼女でしたい事ならば外道でも何でもするのに躊躇いはないが、どうでもいい事に熱を注いだりはしない。
そんなタイプだと思っている。
そう思っているライダーが躊躇っている。否、
冷酷なイメージはそれこそ被害者側の先入観だったか、もしくは彼女からしたら仕えるに値するマスターだったのか。
まぁ、どっちにしてもぶちのめすのは変わらない結論なのだが。
さて、もういっそこの空気で奇襲を仕掛けるかと考えているとライダーが唐突に木々の方に振り返る。
理由はこちらの耳にも届いた。
草木を踏んでこちらに向かってくる足音だ。
ライダーの顔にはあの鉄面皮からは窺えなかった焦燥らしき色がある。
もしかして、英霊ですら虜になるような傑物なのだろうか、と嫌だなぁ、と思い、木々の闇から現れた姿を見て
「────────────────────」
闇から現れた姿を一瞬で脳内に刻み込むと同時に
長髪ですらりとしていたであろう髪はくたびれ、元はすみれ色に近かった髪だったのか。それと混じるように白髪が目立ち、それらをリボンで纏めている。
顔立ちもやはり年は親父や母さんに近しいのに綺麗ではあったが、同時に疲れたような顔色は隠しきれていない格好。
忘れるはずがない顔
加速した思考は全ての情報、記憶を洗い出す。
思考速度においてならば間違いなく並みの天才を遥かに凌駕するが、もしもこの時、彼の頭の中を覗く事が出来る人間がいれば絶句していただろう。
その思考速度なぞ
思考時間は現実において二秒。
真はライダーのマスターとして現れた女性に周りが苦虫やら何やらを感じ、そして本人が何か口を開こうとした瞬間に、真は自分の中の考えに頷き
「セイバー。
周りが恐ろしいレベルの絶句に陥ったが別にいい。
もう、これは確定事項だし。
ライダーのマスター、間桐桜は間違いなく先程の一言でこれまでとこれからの全てをご破算にされていた。
もう何も無くなったはずだ。
もう何も手にする事が出来ないはずだ。
なのに、自分から削ろうとしていた相手から最早理不尽な勢いで全ての覚悟を打ち崩す言霊が吐かれた。
「なっ、な、何を言っているんですかマスター!? 彼女は……」
「あーー、勿論、ライダーのマスターだし、まぁ、実際こちらを殺す指示とかも出していたかもしれないけど、昔、母さんから聞いた間桐の家族構成だと確か兄と爺がいるって事だから多分そっちだな。何でも兄の方は母が毎回舌打ちを隠すのが大変だったって言ってたし。うっかりでリアルに舌打ちしたけどって言ってたけどとりあえずそっちが濃厚かな? ……ん? いや、そういえば兄の方には魔術回路が無いって話だったな。じゃあ爺の方だ」
相手のセイバーさんの困惑は演技のようには見えない。
彼もまるで1+1=2みたいな言い方で特別な事は言っていないような表情だ。
でも、そうだとしてもどうしてそんな結論になる。
確かにこちらの家族構成と事情を知っていたら考える事自体は可能かもしれない。
でも、それは
私に欠片でも疑心を抱いているのならば良くてお爺様の駒であるの結論にしかならないだろう。
だけど、彼はこちらを助けよう、と言った。
助けるだ。倒すとか殺すですらない。
ライダーですら硬直する中、硬直を生み出した本人はセイバーさんの小言を丸ごと無視して
「ええと、確か桜さんでしたよね? 貴女のような人だったら多分脅されての事だと思うのでってあーーそっか口に出せば発動するタイプの呪い辺りをされていたら問題ですね。となるとこっちで何とかどうなっているかを考えないと……」
意味が分からない。
間桐桜には少年が言っている事が何も理解出来ない。
彼の言葉は全てこちらを信頼する言葉であった。
彼の言葉は全てこちらを救うという意志であった。
そんなの間桐桜は知らない。
もう全てを取り零したのだ。
もうこれからは何も無いのだ。
だって、その証拠に
「───」
一匹の蟲が自分の横を通り過ぎる。
それだけでもうどういう事か、理解し諦めの心地よさに笑いとも悲しみとも言えないぐちゃぐちゃの表情を浮かべたと思う。
それに気付いた少年は途端に眉を顰めてこちらに何かを言おうとした。
でも、そんなの聞きたくない。
だって、貴方がやっている事は昔、自分を助けようとしてくれたおじさんの二の舞。
希望を見せつけといて伐採される馬鹿な行いなのだ。
今度は自らがそれを伐採する役目だが、同じ事だ。
だから桜はもうこれ以上見るのも聞くのもしたくない、と心底からの心の叫びを現実に映した。
「ライダー! お願い……! もう……!」
続く言葉は無い。
そもそも自分ですら何を言おうとしたのか。
ただ、直前まで迷っていた自分にしては怒りのような殺意が簡単に湧き出た。
完全な八つ当たりのような感情だ。
でも、正しくそうなのだろう。
だって、少年はまるで昔、私が恋した人のようで。
少年はまるで今も私が憧れた のような強さで。
それが余りに羨ましくて、憎らしくて……だから私は己の影で彼を刻もうと思った事だけは自分の意志なのかもしれないと思った。
セイバーは敵マスターの叫びに応じたライダーの鎖の行く先を直感で感じた。
音速突破で飛来する釘剣の行く先は自身のマスターの心臓を真ん中から撃ち抜く軌道だ。
内心で甲高い舌打ちが鳴り響く。
軌道も勿論の事だが、その先の展開を直感で感じ取ってしまったが故の不覚。
だが、単純故に自分が守りにいかないと結局、マスターが死んでしまう事を考えれば虎穴に飛び込むしかない。
即座に少年の眼前に立ち、一閃で釘剣を粉砕し───体中に鎖が纏わり、縛られる結果に陥る。
砕かれた釘剣を囮に纏わりついた釘剣の数は凡そ10と8つ。
そのどれもがセイバーの魔力放出に耐えられぬ代物では無かったが、ライダーがセイバーの勝っている四つの強みを持ってライダーは彼女の足掻きを打倒する。
「
宝具の真名の発動と共に結界が発動する。
風景の色を赤が支配し、空には侵食するかのような魔眼が浮かび上がり、内部にいる存在はその血を啜られる。
マスターである桜を除いて全てを貪り食らう吸血の結界が発現され、セイバーと真は顔を歪める。
二つ目の強みである魔眼も同時に曝す。
3度目の石化の神秘にやはりそれも対抗されるが敵側のマイナスが積み重なるのならば決して無駄使いではない。
そして三つ目の強みと四つ目の強みを同時に発動する───それは瞬発力と怪力という原初の強みであった。
「あああ……!」
ライダーの口から漏れる悲鳴のような絶叫は決して誇張の表現ではない。
真実、ライダーは体が崩れ落ちるような感覚と戦っていた。
魔眼に怪力
そのどちらもライダーからしたら切っても切り外せない属性だが、それは決してプラスばかりの力ではなかった。
何故ならライダーは───ゴルゴンの3姉妹の末の娘であるメデューサからしたらそれらは自信が魔性に落ちていく促進剤でもあった。
それはライダーにとっては間違いなく究極のトラウマであり、避けたい未来である。
だが、彼女はそれらをフルで使う事を躊躇わない。
何故なら知っているからだ。
自身のマスターの叫びの意味を。
自分はよく知っている。
被害者のまま加害者になってしまうおぞましい結末を迎える可能性がある彼女の叫びをどうして自分が理解出来ないなどと言える。
そんな未来は彼女にはいらない。必要ないのだ。
もうそんな怪物になるのは自分だけで十分だ。
故にライダーの怪力はセイバーの魔力放出が発動する前に発揮される。
「くっ……!」
小柄とはいえ鎧と剣を構えている英霊が砲丸投げの砲丸の如く吹き飛ばされた。
狙いは林。
意図など考えるまでもない。
木に激突させても英霊にはさしたるダメージは無い。
ただ、マスターから距離を離す為だけに決まっている。
「させるか……!」
空中でトリプルアクセルを仕掛ける体勢でセイバーは構わず魔力を放出する。
ライダーの魔力で編まれた鎖はしかしセイバーの竜の魔力に耐えられずに四散する。
しかし、セイバーは感じ取った直感が見た光景に歯噛みする。
何故なら投げ飛ばしたばかりのライダーが四散した鎖が魔力に戻るのも待たず、自身の鎖で傷を得ながらもこちらに突撃してきたからだ。
「くぅ……!」
空中で、魔力放出を発動した直後であるセイバーは刃で迎撃するしか選択肢はない。
だが、ライダーの覚悟はそんな程度の迎撃では防げないと感じ取ったが故に
「風よ……!」
惜しみなくセイバーも切り札の一つを曝した。
彼女の宝具の一つである
刃に纏わせた風を開放する事によって暴風を発射する
マスターの能力のお蔭でほぼ生前と変わらぬ能力を発揮出来るセイバーの今生の風王鉄槌の効果範囲は20mは軽く届く。
マスターはサクラを助けると言っていたが、彼女はやはりと言うべきか拒絶した。
ならばもう躊躇う理由はない。
自分は特殊な事情のせいで前回と前々回の戦争の記憶を保持しているが故に、セイバーもサクラの事は覚えている。
余り話したりなどしたわけではないが、それでも剣を振るうのに躊躇わないかと言えば嘘になる。
だが、それで自身のマスターが死ぬのならば意味がない。
最悪、自分が憎まれればいい。
故にセイバーは突っ込んでくるライダー事、サクラの事を狙った。
だが
「おおぉ……!」
「……!?」
ライダーはこちらの風王鉄槌に対して当然、何らかの防御をしてくると思った。
もしくは庭での戦闘のように釘剣を利用した回避。
そのどれかだと予測していたセイバーにライダーは何もしなかった。
そのまま風王鉄槌に突撃してきたのだ。
自爆だ。
その結果しかない。
意気込みは買うがこちらも引けないのだ。
英霊の体である自分ならば耐えられると予測したのか? 否、ライダーは現実主義者だ。そんな彼女がこんな無謀に乗るはずが
「令呪を持って命じます! ライダー! セイバーさんが何かをする前に迎撃して……!」
奇跡を望む魔術行使によって、セイバーは不覚を悟った。
迂闊といえば迂闊。
これは聖杯戦争
英雄同士の決闘ではなく魔術師同士の殺し合いだ。
主導権は英霊にあるように見えて、その実、魔術師の方がメインなのだ。
その最たるものが令呪。
人間に対して死神にしか見えないサーヴァントに対する絶対命令権。
しかし、それは三つしかない事を引き換えに英霊に奇跡を行わせる切り札と成り得る。
しかも単純な命令ほど効果は増す。
この場合は、こちらの風王鉄槌が発動する前にこちらを迎撃しろ、だ。
普段の聖杯戦争ならいざ知らず、この異様な規模の戦争ならば長期戦になると思い、安易に令呪を使わないと高をくくったのがいけなかったか。
いや、それ以上に
───かつてわずかな時間とはいえサクラの人柄を知っていたという事が究極の隙となってしまった。
「───」
令呪の発動によって起こるのは小さいながらもそれは限界の突破。
後手であったライダーが先手であるセイバーを追い抜く。
ライダーの狙いは間違いなく一撃必殺。
狙いは心臓。
如何に死に難い英霊であっても霊核を貫かれたら死を免れない。
そして──────
「くぅ……!」
セイバーは木々を幾つも折りながら、どうにか着地を行う。
「……っ」
胸下から出る流血は決して少なくはない。
だが、重症ではあっても致命傷ではない。
本来なら死を受けてもおかしくなかったこちらの負傷は、しかしこちらもマスターの判断によって救われた。
あの激突の瞬間、こちらに突撃したライダーの首に丁度まるで置かれる様に現れたシンの刃が無かったら心臓が貫かれていただろう。
あの状況で、しかも結界の中でそこまで読めていたのか、と我がマスターながら常軌を逸しているが、あれが無かったら死んでいた事だけは変わらない。
「不甲斐ない……!」
あれだけ豪語しておきながら足手纏いのような結果になるとは!
己への怒りで魔力が咆哮するが、一瞬で切り捨てて闇の中を突貫してくる流星を弾き返す。
「ライダー!」
弾かれたライダーは即座に衝撃を利用し、木々に着地をし、その勢いを木に叩き付けながらこちらに反転し、再び襲いかかってくる。
首筋に刻まれた裂傷ですら彼女の眼中には無い。
その形相に、今までの冷たさなど微塵も無い。
必死という概念を現わすかのようにライダーは己の全てを注ぎ込んでこちらを打倒しようとしていた。
頭蓋を狙う釘を刃で弾き、腹を狙うボディブロウを一歩下がって躱し、こちらの上段を運動法則を無視した横へのジャンプでまた木に移る。
その時、セイバーの耳に届いたのはライダーの筋肉繊維が千切れる音。
骨格すら間違いなくダメージを負いながら、ライダーに止まる気配は微塵もない。
正しく全てだ。
ライダーはもう死を前提にする所か
セイバーの背筋にヒヤリとした冷たさが宿る。
現状、セイバーは追い詰められているように見えるが、その実、余裕が無いのはライダーの方であった。
結界、魔眼、怪力、敏捷、令呪。
それら全てを使って、尚、セイバーに届いたのは令呪による一撃のみ。
武芸においてはライダーは間違いなくセイバーに遥かに劣っている。
結界はサーヴァント相手には余り効かず、魔眼はセイバーの恐ろしいレベルの対魔力に防がれ、怪力は魔力放出によって相殺される。
ライダーが勝っているのは敏捷のみ。
それが無くなれば堕ちるのは間違いなくライダーの方になるのだ。
故に体を自壊させる勢いで差を埋めようとするのだが───背筋を冷やした理由はそこではない。
ライダーがここまで必死になる理由は間違いなくマスター……サクラの為だ。
勿論、単なる願いの為の可能性も多少残っているが……正直、彼女がその手の事でここまで熱くなる姿は想像できない。
だが、それならば一つ疑問が残る。
まず最初にシンが英霊を召喚する前に暗殺。
これは戦法として正しい。
手段として汚いのを除けば実に合理的且つ友好的な勝利方法だ。
如何にシンが並外れた才覚を持っていたとしても、人間である限り英霊に打ち勝つのはほぼ不可能だ。
生き残れただけでも驚愕に値する。
だが、それに失敗し、現れたのが私だ。
彼女も即座に悟ったはずだ。正攻法では勝ち目がないと。
無論、それを覆すのが英霊であり宝具と令呪なのだが。
それでも賭けの部分が強いのは否めないだろう。
実際、令呪による奇襲はこちらのマスターの機転によって防がれた。
流石に、あの機転はシンでも偶然によるものだったとは思うが、それでも現状はこうなっている。
如何に奇跡を起こす令呪であっても絶対の物ではないのだ。
では、次に起こす奇跡、宝具。
……ゴルゴンの3姉妹のメデューサに該当する宝具……
……ある。
確かにまだ最低、一つ大きな宝具が残っているのをセイバーはシンとの作戦会議でも二人で大いに有り得ると話し合った物がある。
彼女の血から生まれたとされる幻想種の生物───天馬がある。
無論、クラスや知名度によって再現されない宝具などがあるのは確かだ。
だが、彼女のクラスはライダー。
騎乗する英霊として呼ばれた存在だ。
今の所、それらしい乗り物を使っていないのを見るとやはりライダーとして呼ばれたのは天馬が大きいはずだ。
だが、例え天馬であろうとも聖剣があれば打倒出来ると自負するものがある。
ライダーとて己の宝具に対する信頼はあるだろうが……こちらの真名を知っているのならば容易く打ち勝てるなどと思わないだろう。
無論、それこそ令呪による強化で威力を上乗せすれば、という考えはあるだろうが既に1画使っているのに更に使うかどうかも考え物だ。
だが、結局の所、ライダー陣営からしたら私達と戦うのはハイリスクローリターンの苦しい戦いのはずだ。
それをここまで命を捨てるような戦いまでするライダーが、わざわざ勝つのに難しい相手に挑みに来るだろうか?
前回みたいにこの地から離れられないという縛りも無いのに?
まさか自分が時間を稼いでいる間にマスターがシンを打倒せるとでも?
確かに可能性としては無いわけではない方法ではある。
現にライダーの性能は必死で埋めているのを除いても凄まじい。
ここまでの性能を発揮出来るという事はマスターの実力が確かである事の証拠だ。
だが
「……」
ライダーから再び鎖の連続償還による多角攻撃に対して魔力放出による一閃で全てを砕ける自分を確認する。
余り良い事ではないのだが、セイバーは自分がサーヴァントとして燃費が良いと言えないのは自覚している。
剣技の腕はともかく、小柄な女のみでライダーの怪力と競い合うのにセイバーは己のスキルである魔力放出に頼っている。
当然だが魔力を放出するという事はそれだけ魔力を使っているという事だ。
そして魔力を供給するのは当然、マスターの役目。
今も勿論、供給されているのだが……これだけ使っているのに底が余り感じられない。
自分はともかく彼は結界の効果にも対応して、且つサクラの対処にも対応しなければいけないのに余裕すら感じられる気がする。
実際、魔力について言及した時、シンからの返答は
「ん? ああ、別に?
仮にも大英雄に一応値する自分を前にそれだ。
まぁ、流石に本物のギリシャの大英雄に比べれば自分は遥かにマシではあるのだろうとは思うが。
だから、正直、マスター対決で雌雄を決するのは聊か無理がある気がする。
なら、何故ライダーは逃げない。
破れかぶれ? 逃げても無駄だと思った? 矜持が許さない? マスターの命令?
どれも直感と思考が否と告げる。
ならば、と思う。
逆にライダーが逃げずに戦わなければいけない理由とは?
聖杯に託す願い。
実にわかりやすい。保留。
マスターの命令。
以下同文。保留。
逃げ場所が無い故に。
以下同文。保留。
幾らでも上げれる。
だが、その幾らでもの中で最もこちらのマイナスになる理由があるとすれば?
───決まっている。
その結論に達した時
「───────あ」
明確に答えが用意されていた。
その後に何と言っていた。
間桐の家族構成に兄と老人がいると。
そして魔術回路を持っているのは老人の方だと。
そしてこの度の聖杯戦争は異例中の異例。
なら可能性は0よりも
「───────────────!!」
声無き絶叫を上げる。
最早自身への怒りが上がり過ぎて己の血と魔力のせいで半ば竜の咆哮に成りつつある叫びに、しかしライダーは頓着せずに突撃してくる。
この時ばかりはセイバーは己の直感を憎んだ。
何故ならどう足掻いても、ライダーを退かせるのに数秒では不可能であるという結論が出てしまうのが分かってしまったから。
魔術師同士の決闘は一方的な戦いになっていた。
「
間桐桜が放つ魔術は虚数の魔術。
目に見えず不確定の術を持って他者を縛り、削る"無い"の魔術。
昔ならいざ知らず、今の間桐桜ならその虚数を持って攻撃とする魔術を放てる下地がある。
桜はそれを持って血を吐くような表情で少年に向かって幾度も魔術を放っていた。
相手からしたら魔眼を持っているのならば恐らく桜色の刃のようにも爪のようにも見えるのを、一気に13も放ち、敵を切断しようとしている。
当然、魔術師でもまともに受ければ寸断出来るそれを
「……むぅ」
少年は困ったような仕草で腰に差している双剣の内の一つでこちらの刃を切り砕きに来る。
触れ合い、抵抗したのは一瞬。
それだけでまるでガラス細工が砕け散る音と共にこちらの刃が砕ける。
神秘はより強い神秘の前には敗れ去る。
「……っ」
それはつまりこちらが魔術師として負けているという証明を何度も見せつけられると桜は彼我の実力差を確かめ、絶望感を味わうが、桜はまだ終わるつもりはなかった。
「
魔術回路の行使に頭痛と吐き気が酷くなるが、桜からしたら今更だ。
魔術というのは間桐桜からしたらおぞましいものでしかない。
故に、一切気にせずに桜の影が公園のアスファルトを侵食していくのにこれで終わって、という祈りを届ける。
だが、理不尽はそれを無視する。
「……
彼は困った顔のまま詠唱と共に彼の背中から三つの刃が飛び出し、彼を囲うようにトライアングルを作り、即席の結界と成る。
3はケルトにおける聖なる数。
結界として使うには基本的に使われる事もあるそれが間桐桜の影の浸食を拒絶する。
「どうして……!?」
桜の悲鳴は決して魔術が通らない事だけではない。
一方的な展開である。
こちらが攻撃の魔術を放ち、あちらが防御の魔術を使ったり、切り払ったりして防ぐ。
こちらの攻撃は今の所、何一つとして通じていない。
虚数の刃は砕かれ、虚数の縛りは持ち前の魔術回路の強靭さに破られ、影は結界によって祓われる。
だが、それなのにこちらには魔術行使による倦怠感を除けば傷は一切ない。
当たり前だ。
あちらは一切、こちらに攻撃行動を起こしていないのだ。
舐められていると評価するのは簡単だが───少年にしても決して余裕があるわけではないのだ。
何故ならここはライダーの結界の内部でもあるのだ。
マスターである桜を除けば如何に魔術師であっても血を抜かれ、溶解していくゴルゴンの吸血結界なのだ。
現に少年は困った表情を除けば血の気が足りていない、明らかに結界の影響を受けている状態だ。
なのに、彼は絶対に自分から手を出さずにずっと困った顔でこちらを見るだけだ。
彼がこちらを見つけた後からずっと。
こちらが攻撃をしようが、無視しようが、何をしようがお構いなしにずっとその表情と視線。
まるであの人の様に。
まるで私がずっとあの人に向けて欲しかったモノを見せつけるように
"どうすればこの人をた────"
「─────っ!」
その目で私を見ないで、と目を閉じて顔を逸らしたくなった。
「
同じ詠唱をリピートする。
届かない事を知っていても、魔力の無駄遣いであるとしても。
とてもじゃないが間桐桜には少年の顔を見続けられない。
もう何も見えないし、聞こえないし、忘れたのだ。
そうでなきゃ今までの全てが台無しにされる。
ああ、そうだ。この少年はそういう意味では間違いなく
────こちらを滅ぼす
むぅ、と遠坂真は本気で困っていた。
現状、圧倒しているし、恐らく倒そうと思えば倒せる段階には入りつつあると思われる。
ライダーの結界がこちらに悪影響を及ぼすくらいである。
まぁ、今、桜さんを圧倒しているように見えるけど、その実、これは必然の結果なのだろう。
まず一つはライダーが恐らく全開でセイバーと対峙している。
そのせいで桜さんの魔力はかなりの勢いでライダーに送られているだろう。
こちらは
宝具を使ったんなら一気に
次にこれは桜さんの魔術を見て感じ取ったのだが……何か桜さんの魔術委は
そもそも何かおかしい。
これ程の才能を持った人が生まれたのに兄の方は一切才能皆無になるのか?
いや、まぁ可能性としては無きにしも非ずではあるのだろうけど……同じ土壌から生まれて且つ父と母という条件も一緒でここまで差が出るだろうか?
最低でも回路くらいあってもいいとは思うのだが。
それによく思い出してみれば、母が間桐は確か日本の土地と相性が悪くて衰退していったという話だった気がする。
……この
圧倒しているように見えるからアレだが、実際、桜さんの魔術は並みの魔術師相手なら間違いなく打ち勝てる神秘が込められている。
見た所、魔術刻印とか無い身で……刻印が無い?
「……妹だから? いや、矛盾しているよな」
再び放たれた桜色の刃を今度は相応の魔力を込めたガンドを放って相殺しながら疑問を打ち消した。
確かに基本、魔術を受け継ぐのはなるだけ長男か長女ではあるが絶対ではない。
兄が無才だというのなら尚更に桜さんに受け継いでもおかしくはない。
というかそれがベストだろう。
典型的な魔術師の家系だというのならば尚更だ。
なのに何故受け継がれていない。
あるとすれば魔術刻印はまだ爺の方が持っているか───
「……ん? いや待て……じゃあその場合……」
その才は、その血は一体どこから───?
遠坂真は改めて間桐桜を見た。
母とそこまで変わらない年と思える中、それでも美しさは残したまま、しかしどこか疲れてくたびれているような顔色のまま怒りとも嘆きともつかない表情。
髪はすみれ色の髪の中に疲れが滲み出たかのように白髪が点在している。
その容姿を頭の中で取り換える。
肌に生気を、髪をすみれ、ではなく
そして───────────────────────────────────────────────────────────────────────────色々と絡繰りを理解してしまった。
とりあえず結論としては
案外、というか普通に親父も何か関わっていそうだけど、とりあえず一つ、自分の宿命というか呪いと思ってもいい事柄を愚痴らせて貰った。
「しっかしまぁ……どうしては俺は家族のケツを拭かなきゃいけない役回りばっかり回されるかねぇ……」
「OK。桜さん、ルールをようやく把握しました」
いきなり少年は意味が分からない言葉を再び吐き出した。
パチン、と指を鳴らしたかと思うと、彼が張っていた結界は霧散し、結界の柱であった刃もどこかに消えていた。
突然の行為に桜は少年の意図が読めなかった。
結界を失くすという事は防御能力を下げるという事だ。
この場合、防御はこちらの魔術だけではない。
ライダーの結界の効果も多分、あの結界で減衰していたはずだ。
無論、それらは如何に彼が魔術の申し子であったとしても宝具に対してでは焼け石の水ではあっただろうが、今はその水が大事な状態だったはずだ。
それを自ら解除した彼はやはりさっきよりも増して血の気が失せていた。
だが、本人はそんな事知らぬとばかりに笑って
「俺は桜さんの気が済むまで付き合う。桜さんは何十年も溜めてきた鬱憤を今、ぶつけるだけぶつける。うん、分かり易い」
何が分かり易いんだろうか。
私には全く理解出来ない。
自分はノーガードで耐えるからじゃんじゃん殺しに来いよなんて自殺願望でも無ければ言わない言動をどうして信じられるだろうか。
「……正気ですか?」
「当り前じゃないですか? 俺は遠坂家の常識人ですよ? そういう常識知らずなのはあかいあくまと正義の味方(笑)が担当しているんで。つまり、俺があの家の常識の土台ですよ? 何時も両親の無茶苦茶に子供は震えているんですよ……!」
思わずダウトとツッコんでやろうかと思ったが、止めといた。
今、そんな平和時に行うような事をしたら精神の均衡が崩れてしまいそうだからだ。
だから、桜は返事の代わりに逆に何を狙っているかを見定めようとした。
しかし、彼はまるで宣言を果たすと言わんばかりに全てを晒した。
「貴方の怒りはこれ以上なくというかもう当ったり前じゃないかって言わんレベルの
「───────────────────────え?」
晒された手札は私からしたらオールジョーカー。
怒り、正当な反応、恨み辛み妬み悲しみ、彼の母親、彼の父親。
その全てが正しく間桐桜を重要な部分を形作っている素材であり、致命的な一撃であった。
よろり、と最早躊躇う事無く桜は少年から怯えで引いた。
この少年の鋼の瞳には自分がどういう風に視えているというのだ。
だけど、それでも可能性があるとすれば
「ね……と、遠坂さんから聞いたんですか……?」
「まさか。あの魔術師のようで魔術師らしくない母が俺が死ぬかもしれない決闘の前で迷わすような事を欠片でも言うはずがないですし。まぁ、貴女について黙っていたのは許せないから今度はテレビの説明書も付けましょう」
後半は意味は分からないが、前者は確かに桜が知っている通りの の行動であった。
あの人なら、きっと自分の息子に私の事など言わない。
私を切り捨てて、それできっとお仕舞。
先輩だってそうだ。
誰よりも他人に光あれと願った人だからこそ、他人を、それこそ身内を殺そうとした相手ならば誰よりも歯噛みしながら、しかし躊躇わずに切り捨てる人だ。
でも、それはきっと普通だ。
大事な人や自分の為に、それ以外を切り捨てるなんて当たり前だ。
だから二人を責める資格なんて無いのに……
「ま、無駄に素直になれなかった母が鈍間のせいで貴女が無駄に苦しむ結果になってしまったんでしょう。ったく……助けたいのなら即助けに行けばいいのに無駄に魔術師しているから………いや、母親だからか……まぁ、責めるのは当然ですけし、許してやって欲しいなんて口が裂けても言いませんが、出来れば会話だけでも許してあげて欲しい」
まるで私の代わりとばかりに二人を責め、しかし会ってあげて欲しいと願うこの子は一体何を目的と行動しているのだろうか。
いや、それ以上に
「ど、どうして知らないのに、分かったんですか…?」
もう見る影もないのに。
もう髪はこんな色に抜け落ち、瞳は変色したのに。
どこにも共通点なぞ無いはずだ、と思っている私にきょとんとした顔を数秒晒して
「だって─────怒った顔とかそっくりじゃないですか。桜 さん」
今度こそ。
桜は膝を着いた。
下がコンクリートの地面で会った事など気にも留めずに膝を着く。
そっくりだと。
いや、それ以上に自分の名前の後に付いた呼称。
一部が余りのショックに聞き漏らしてしまったが……ああ、でもそうか。確かにもしも少年が気付いたというのならば自分は確かにそういう風に呼ばれる立ち位置にいたかもしれないんだなぁって思う。
でも、例え気付かれたのだとしても───殺そうとしてきた相手にそんな呼称で呼ばれると思えるはずがなかった。
だからこそ、最初から感じた違和感をようやく口に出すことを許せた。
「どうして……私を助けようとするんですか…?」
ライダーのマスターであった時はこの少年にはこちらに対して敵意しか持ってないかった。
無論、それは当然の反応なので何も言う事はない。
だが、私を見た瞬間にずっと溜めていたその敵意は一気に霧散し、こちらを助ける、とずっと意思表示してきた。
それが分からない。
少年からしたら自分は殺しに来た敵なだけのはずなのに。
最初から自分の事を知っていたのならまだしも様子を見る限り今、真実に到達したという雰囲気だ。
ならば、何故何も知らないただの敵に手を伸ばしたというのだろう?
その問いに、少年はあーー、とかうーーーん、と唸って頭を掻いて
「やっぱり覚えていませんかねぇ? ……あーーいや、いいや。うん。ここで何か言うと押し付けのようになってしまいますし。馬鹿な小僧が馬鹿をしているで納得していてください」
どこまでも勝手な言い分に苦笑が漏れそうになる。
でも、とてもじゃないが笑みなんて見せれない。
むしろ彼がこちらを理解すればするほど罪の重さは増すばかりだ。
自分は止めれない。
どれだけ彼がこちらを気に掛けようと止まれない。
止めれるのならば今頃こうなっていないのだ。
だから、桜は髪で出来るだけ顔を隠して、立ち上がる。
震え切った膝だが立ち上がる意思には応えてくれた。
こちらの動きに少年はやはり困ったような表情のまま
「まぁ、だからわだかまりとか問題とかは俺が出来る限り何とかするよう努力するんで、桜さんはストレス発散にどうぞって感じで。うん、まぁだから───俺を憎むのはいいですけど、出来れば母さんには平手くらいで勘弁してあげてください」
俺を憎むのはいい。
そんな戯言でしか言えないような言葉を昔、この人なら本気で言うんだろうなっていう人がいた。
ああ、だからこそ思った事がある。
この子は本当にあの二人の子供なんだなぁって
胸にぽっかり穴が開いた気分になる。
やだ、どうして今更そんな思いを抱いている。
恋なんてとうに敗れていると知っていたのに、今更自覚するだなんて。
「……平手はいいんですか?」
「ええ。何せ実の息子にガンド撃ってきたり、呪ったり、宝石魔術叩き込んだりする親なので。自分で使った癖に宝石を使わせた事も叱ってくるのでいい薬になるかと。何なら手持ちのクーラーの説明書もお付けしましょうか?」
後半の意味は全く不明だが、あの人は実の息子に何をしているのだろうか。
通りで対人スキルが高いなと思っていたら、この子、違う意味で苦労している……。
でも、そんな言葉の後に彼が顔で表現したのは、ずっと浮かべていた困ったような表情ではなく、本当に年相応の少年の笑顔を浮かべ、ゆっくりと手をこちらに伸ばして
「だから───それらが終わったら帰りましょう。貴女が笑っていたいと思える場所に」
「──────」
心音が肉体を跳ねさせた。
伸ばされた手はよく見ればそれこそ年相応に小さく感じる。
でも、何故かその腕は折れないと思わせる尊さが含まれているようで……ずっとそんな手を間桐桜は欲しがっていて。
もう手に入らないと諦め、正しく夢物語のようなモノがその伸ばされた手に詰められているように感じて。
桜は、その手を
「───
手折られる
咲く為の花吹雪は血液が代わりを務め、地面に血染花を咲かせる。
散った
ああ、本当に何時も通り──────
お待たせしました。また悪役かよと仰られるかと思いますが、今、相方はすっかり腐ってしまって月に封印されているんですよ。申し訳ない。
今回はマスター同士のちょっとした対決と息子の意味が分からない頭の回転率でしたね。そして甘さだけなら恐らく型月のキャラと比べたら恐ろしい程にスイーツな子でした。
実際、この子の頭の中ではもう桜は守るで決定していて覆る事はないという頑固さ。
さて、桜が一方的にやられていておいおい、と思うでしょうし、相方にもツッコまれてしまったのですが、本編の言い訳以外でもう一つ言い訳が……桜自身は魔術師としては破格です。
これは再三と原作で言ってますよね? ですけど魔術師である事と魔術を使っての戦闘になると別物であると悪役は思っていましてね。
そういう意味ならばあらゆる意味で桜は戦闘者には成り得ないんではないかと愚考していまして……ま、まぁ本命はこの後! この後頑張ります…!
出た! エミヤ秘伝奥義心臓ブレイク! やはりお約束は守らないといけませんよね!?
無論、もう一つの桜秘伝奥義目の前から希望が…! も使用したのでこれできのこさんに言い訳できますね…!
感想・評価などよろしくお願いします。
次はホライゾンかなぁ……皆さんはどっちがいいですかね?