Fate/the Atonement feel   作:悪役

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執筆:悪役

餌兼ヘタレシリアス:クロ

恥晒し:総長

より


回帰の脱却

 

──手折られる心臓(ハナ)の音を聞いた。

 

余りにも鮮やかに刈り取られるハナには一切の鼓動すら許されない。

エーテル塊によって作られた心臓のコピーはしかし、紛れもなく少年の命を支える命脈であった。

何故ならその鏡面存在を握っているのはシャイタンの腕。

その腕の使い手は真っ当な打ち合いでは真っ当な英霊にはまず勝てない。英雄と言うには聊か貧弱なれど、命を奪うというただ一点に限って言えば死の天使。

 

一つの時代で暗殺の長になった殺しの代名詞

 

故に握られた心臓を前に遊びも嘲りも不要とばかりに心臓として形を成された直後に

 

「────」

 

一切の慈悲も呵責も無く、その鏡面を握り潰した。

かくして呪いは成就される。

鏡面存在を握り潰されたという事実が呪いとなり、少年の胸の中で今も鼓動を刻んでいる本物に降りかかり、潰された偽物と全く同一の末路に陥る。

心臓が握り潰されるという呪いの成就は恐ろしい事に全く同じタイミング。

コンマ1秒のずれさえない。

さもありなん。

暗殺者が動くという事はすなわち対象の絶命の瞬間である。

故に魔術に愛されようが、運命に愛されようが幕引きをされた人間にここから先の物語は無く、まるで生きた残滓のように少年の前に立っていた桜の顔に心臓が破砕された事によって口から吐き出された逆流した血液が浴びせられ──少年はそのままただ倒れた。

それに対して桜は条件反射のように悲鳴を

 

「………」

 

──あげることなどなかった。

 

目の前でまるで星のように輝いていた少年の命の散り際に思う事など桜の心には一切無かった。

何故なら桜からしたらこの結末は二度目のものだ。

以前は自分に───それこそ間桐に来る前から親切にしてくれたおじさん。

自分に手を差し伸べて、助けたと思い込んで彼は蟲に食われていった。

今回も全く同じ。

自分に手を差し伸べて、助けようとした少年は死を感じたかどうかも分からぬ速度で瞬殺された。

倒れこんだ少年の瞳には光を宿さず、ただ虚ろだ。

 

もうこれはただの死体だ。

 

あれ程、意思に満ち溢れていた少年も死ねばただの骸。

ただそれだけの話である。

 

「───カカッ。見事に務めを果たしたな我が孫娘よ」

 

醜悪な声が聞こえる。

常人が聞いたのならば、魔術を知らぬものですら嫌悪感を抱きかねない程の音を出せる者を、桜は一人しか聞いた事が無い。

先程まで間違いなく誰もいなかったはずの森の影によって生み出された闇からぬるり、と杖を突きながら歩いてくる老人。

 

間桐臓硯

 

老体になった今でも現間桐家の当主であり───年齢はもう一切興味ない。

子供の頃などその見た目の年齢から、何時か寿命で亡くなるはずなどと淡い期待をしていたものだが、今となっては恥ずかしい。

この怪物を人扱いしていた時期があったなんて実に子供らしい失態であった。

そして今も怪物が傍にいる事を忘れて、まるで囚われのお姫様のような感情を再び抱くとは。

 

 

 

何て無様

 

間桐桜にそんな余分な感情は生まれても摘み取られるだけなのに

 

 

 

「アサシン。どうじゃ。確実か?」

 

「───委細問題無し。魔術師殿。我が呪腕は間違いなくセイバーのマスターの心臓を破砕した。セイバーは未だ現界しているようだが、時間の問題であろう」

 

「ふむ。それはちと問題かな。駒は幾らあっても足りん戦争じゃ。消える前に令呪を奪い取るか」

 

加害者である怪物二人は一人の少年の死に対して一切気にも留めていない所か、既に単なる道具になる物を持っている余計なモノ扱いである。

それに対しても桜は思う事は何もない。

 

何もない。

何もない。

何も亡い。

 

 

「だがその前に……裏切り者とはいえかつての同胞の血を受け継いだ小娘に対して義理を働かせるのが大人の務めじゃな?」

 

にやり、と邪悪に笑う御爺様の声がするが、全く以て興味ない。

間違いなく言葉通りの事なんてする気がない事なんて出合い頭の一般人ですら読み取れる事だ。

そしてそれは御爺様にとっては呼吸をするよりも容易い行いだ。

だから、桜は最早、条件反射のレベルで何が起きても、特に希望も絶望も抱かないような、つまりもうどうでもいい、と思った。

だが

 

「カカカッ、やはり見ていると思ったぞ遠坂の小娘。随分と息子に入れ込んでいるようじゃな」

 

『……間桐、臓硯……』

 

昔、ずっと聞いていたかった声に、殺意の色が込められた音により桜の心構えは全て無駄に終えた。

え? と思わず御爺様の方に振り替えると、そこには一匹の羽虫が飛んでいた。

それ自体は恐らく御爺様の使い魔なのだろうが、それをわざわざあの人の所まで飛ばしている、という事なのだろうか。

そう思っていると

 

「もしやと思い、ライダーの結界の外を探してみると簡単に見つかりおったわ。無論、向こうも使い魔じゃが外に飛ばしている使い魔を中継にしているだけじゃ」

 

聞いてもいないのに勝手に説明に脳では理解するが、感情がその声を否定する。

他の時ならばいい。

いっそ、少年と戦う前ならその声に向き合えただろう。

でも、今、この瞬間に、あの人の声に向き合えるはずがない───

 

『……私の息子は』

 

「見るかね? 心配せずとも五体満足で残っているとも。敵対者の子とはいえ息子と孫娘と形は違えど子を持つ同士。その程度の情はくれてやろうではないか」

 

『───』

 

カカカッ、と笑いながら全く信じられない言葉を吐く怪物に対してあの人は今度こそ沈黙した。

しかし、その沈黙に込められた想いはまるで直ぐ傍に存在しているかのように感じれる。

 

火のようだ、と桜は思う。

同時に氷のようだ、と思った。

 

こちらを焼き尽くさんという熱量で、こちらが持っている熱を奪い去ろうとする矛盾。

思わず震える体を抱きしめる自分に対して御爺様はまるで涼風を浴びているようで、むしろ機嫌を良くしているように思える。

 

「安心せい。流石に貴様らの魔術刻印にまで手を伸ばすつもりはない。無論、令呪まで見逃すつもりはないから腕の一本は諦めてもらうがな」

 

『───間桐臓硯。その前に一つ質問があるわ』

 

「ほ? 何じゃ? 言うてみい小娘。聞くだけなら聞こうではないか」

 

『───此度の聖杯戦争は貴方の仕業?』

 

「───」

 

先程まで機嫌の良かった怪物は一瞬にして凍結した。

虎の尾ならぬ怪物の急所を突いたのを自分所か間違いなく電話のあの人にも伝わった。

どろりとした泥のように纏わりつきながらも引きずり込もうとする底なし沼のような殺意を御爺様は一切隠さないまま

 

「──語る事ではないわ小娘。我ら御三家が為したあの奇跡を己一人の決定で解体した裏切り者が」

 

最早、先程までの機嫌など一切感じさせない殺意しか感じない言葉。

魔術師として敵と応対しているから、ではない。

魔術師としての生き方が魂にまで蝕んでいるはずの怪物から発せられるのは憤怒に分類される殺意。

信じられない事に、御爺様は本当に、心底からあの人が裏切ったという事のみに本気で怒っているのだ。

だが

 

『──裏切ったですって?』

 

相手をするあの人もその程度で怯むような小さい人間ではない事も間桐桜は知っていた。

 

『裏切ったのはどっちよ。貴方ほど長生きした怪物が知らなかったなんて言わせないわよ───冬木の聖杯が、この世全ての悪(アンリマユ)に汚染されていた事を』

 

この世全ての悪(アンリマユ)

 

あの人がどこでそれを知ったのかは知らないが、桜が知っている知識は御爺様からの又聞きである。

曰く、ゾロアスター教における善悪二元論の悪の極致。

拝火教における最も有名な悪魔の王───などではなく(・・・・・・)正体までは不明だが、御爺様が知る限りは名前負けした最弱の英霊であった、という事らしい。

だが、同時にアインツベルンは呼んではいけないモノを呼び出してしまった、と。

それがどういったモノかは桜は実はそこまで深くは知っていない。

ただ、それが聖杯の、冬木の聖杯を汚染していたという事実だけ。

聖杯というには余りにも汚く、おぞましい器に成り下がったという事。

そしてその聖杯を電話の相手が、遠坂凛が、先輩が解体したという事。

 

 

それに対してこの怪物が今までにない程の殺意と怒りに飲まれていた事

 

 

勿論、理由なんて興味が無かった。

持ってもこっちに何かが出来る事なんて一切無いのだから。

しかし、現在は過去の回想を待ってくれない。

 

『間桐臓硯。貴方が聖杯がどうなっていたか知らなかった───なんて戯言を許す気はないわ。貴方は間違いなく、原因である第三次か、少なくとも第四次の時は絶対に気付いていたはずよ。それをよくもまぁ、ぬけぬけと裏切り者だなんて……魔術師が命を懸ける。これ自体は別に当たり前だからいいわ。でも死ぬ理由を持って挑んだ商品がろくに使えない不良品だなんて詐欺もいい所だわ」

 

一泊、呼吸の為の空白の時間が置き、再び告発は続けられる。

 

『聖杯戦争はとうの昔にただ願いを叶える願望器を手に入れる闘争じゃなくなっていた。あるのは殺戮のついでに願望を(・・・・・・・・・・)叶える(・・・)悪趣味な悪魔の取引よ。貴方はそれに対して報告するわけでもなく、黙っていた。第五次聖杯戦争であんなに消極的だったのは勝っても意味がないと知っていたからかしら。御立派ね』

 

ふん、と最後に威嚇も残して告発を終えた。

それに対して告発された側は

 

「ふむ……」

 

と、顎を少し掻き

 

 

「───それの一体、何がいけなかった、と?」

 

 

何一つとして問題とは思わないと

 

 

 

老人の姿をした妖怪は誇るわけでもなければ悪びれるわけでもなく、息を吐くのと同じようにあっさりと返した。

 

 

 

 

 

『───』

 

使い魔の向かうからの沈黙。

もしも多少でも人の心情を図れるのならば理解しただろう。

今の言葉には一切の虚飾も無く、欠片も後ろめたさなど感じていないという事を。

前回の優勝者達の行いによって最も最悪な事態───この世全ての悪の流出を抑えられたとしても、第四次聖杯戦争によって起きた冬木の災害は間違いなくおぞましい災害だった。

本体が出たら、それこそ世界が滅びるしかったかもしれないからそれに比べたら確かに遥かにマシではあったのだろうが、それでもあの災害を、あの死を、あの地獄を

 

 

この老人は本心から人口が少し減った、と冬木市の人口-災害で死んだ人数と完璧に割り切った。

 

 

 

「全く、時臣の子倅は魔術師としての教えを刻むのを忘れるとは。そんな肝心な所でうっかりする所のみ永人に似おって……遠坂の小娘よ。貴様、まさか儂を、間桐を、魔術師を慈善家か何かと勘違いしておらぬか」

 

こつん、と杖で地面を叩きながら御爺様はやれやれ、と分かり易く且つ隠す気もない失望の溜息を吐きながら

 

「魔術師とは外道なり。それが根源に繋がるのならば情も秩序も忘却し否定する魑魅魍魎よ。そういう意味では死徒に対して怪物と言える立場ではない───我らも常識(ヒト)から見たら血を啜る人でなしよ」

 

 

 

魔術とは美しいものではない。

 

結果だけ見れば魔術は神秘的で美しいものかもしれないが、結果に隠された過程にはどうしようもないくらいに血で濡れている。

それを正しく体現している妖怪の言葉に遠坂凛は

 

『───御大層な説教は終わりかしら。実に下らない説法だったわ。数百年生きていたら人を舐めなければいけなくなるのかしら』

 

一切揺るがない。

魔術も魔術師も等しく外道? 何を今更な事を賢しらに語っているというのだ、と。

魔術の総本山である時計塔に、否、そんなの聖杯戦争を経験した時には既に理解していた事だ。

一々、説明も説教される気もない、と強い声は全て斬りおとした。

そんな強さに

 

「カカ───カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!」

 

豪笑、大爆笑。

肉体全てを笑う為のみの機能に貶めたような呵々大笑に桜の体が勝手に震える。

桜は知っている。

この妖怪が嗤う時には必ず良い事なんてものが無い事を。

おぞましい程の経験から来る観はやはり悲しい程に外れてくれず───罰は切って下された。

 

 

 

いや全く以てその通り(・・・・・・・・・・)───愛する妹を蟲溜に突き(・・・・・・・・・・)落とした姉の言葉は重(・・・・・・・・・・)みが違うのぅ(・・・・・・)!」

 

 

 

瞬間、使い魔である蟲の目ははっきりとこちらを捉えた。

まるで罪の告発をするかのようにこちらを見る目は無機質この上ない。

でも逆に有り難い。

これで人間らしい───この目の奥にいる人のような目で見られていたのなら見られる前に自分の両の目を抉り取っていたかもしれない。

否、むしろ今尚もって抉り取らない自分の弱さに慣れた絶望を感じ、ああ、どうせなら耳も千切り取ればよかった、と切に願う。

 

「見えるか? 貴様の実の妹じゃぞ? 感動な再開じゃな? ああ、いや高校の時に、それこそ第五次の時に会ってはおったの? ならば今夜は魔術師としての再開としとくかの。いやはや、あの時臣めは本当に素晴らしい小娘を儂にくれおった───何せ幾ら蟲で辱めても受け入れるなんて才能という以外他にあるまいて!」

 

カカカ、と呵々大笑する様に桜は無視して思う。

やっぱりこうなると。

ずっと。

ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。

未来永劫にずっと隠しておきたい事をこの妖怪はいとも容易く勝手に暴露する。

腐肉を漁るのが趣味である毒蟲は尚囀る。

 

「姉である貴様が衛宮の子倅と幸福を求めている間も桜は健気に間桐の為に蟲蔵で犯され続けてのぅ……ああいや、実際は預けられた時から犯されておったのじゃが、哀れな事にどこぞの姉も、どこぞの正義の味方が夢であったという小僧も一切気付かず張りぼての笑みに騙されるとは。いやはや……女とは演技が達者なものよのぅ……クカカッ」

 

『……間桐臓硯』

 

使い魔から響く声に既に色が一色しかない。

最早、何を吐き出せば今、抱いている感情を表に出す事が出来るかを考えた殺意の音色。

それすらも妖怪は心地よいと謳う。

元より妖怪とは人の恐怖と怨嗟から生まれたモノならば、確かにこれは人と妖怪との正しい関係なのかな、と桜は本当に何もかもどうでもいい、と思いながら───

 

「……え?」

 

だからこそ、この場で一人、異常に気が付いた。

 

 

 

 

 

 

使い魔越しに遠坂凛は最早、自分が何を思っているのか理解出来なくなるくらい逆に冷静になっていた。

だって使い魔越しにとはいえ目の前にいる妖怪を見て、冷静にどうすれば殺し尽せれ(・・・・・・・・・・)()かを考えれるという事は冷静の証だろう。

砕いたら刺したり程度では死ぬとは思えないので、最も効率的で効果的なのは燃やす事だろうと亀裂のような笑みにも痛みを堪えているようにも見える顔で殺害手段を考えている。

殺さない、という選択肢はない。

経過が多少違えど結果だけを変える選択肢など恐らく平行世界全てを見回しても無いだろう、と断言出来る。

断言出来ない遠坂凛がいるのならば死んじまえ。意気地なしの私。

隣の旦那も同じ気持ちであると分かっている。

その手から血の滴が落ちているのを見るだけで言葉も視線も不要だ。

元々この会話も交渉何て気の利いた話ではない。

 

 

妖怪からしたら単なる悪意の嫌がらせであり──こちらからしたら覚悟は出来ているだろうな、と伝える殺害予告である。

 

 

だからこそ、最後に残った理性で魔術師としての遠坂凛が妖怪に訊ねた。

 

「なら最後の質問よ間桐臓硯──貴方が聖杯に懸ける願いは何?」

 

その問いに使い魔越しに見える翁はふむ、と頷く。

 

『さて、小娘で裏切り者とはいえ、かつての盟友の子孫。答えねば友誼に反する………と言ってやりたい所じゃが、そう特別な願い事ではない故、そう大仰に構えらるような事ではない』

 

成程ね、と凛は思う。

やはり、目的は根源の渦。

魔術師達が追い求める地平。

『  』とも言われる全ての始まりにして全ての終わり。

確かに魔術師ならば特別な願いではない。

そう思い

 

『小娘よ。今、幾つじゃったかのう?』

 

だからこそ続いて問われた内容に本気では? と馬鹿みたいに呆けた声しか漏らせなかった。

 

『まぁ、具体的な年数は良い。少なくともまだ走る事も働く事も魔術師として鍛え上げれる事も当然のように出来る年数であろう──じゃが儂を見よ。腰は曲がり、視界はぼんやりとし、耳は遠く、脳もまともに働く事が厳しくなる。魔術回路も然り。貴様らが当然としている事など儂には羨むしかない若さよ』

 

意味が分からない話題に眉を顰めるのを止めれない。

見れば、士郎も同じような表情で臓硯の独り言に耳を傾けている。

私も意味があるとは思えないが……しかし間桐臓硯の何かに繋がるやもしれぬと思い、油断だけは消さずに老人の言葉を聞く。

 

『儂とてただ朽ちる事などしとうない。このまま終わる事なぞ断じて認められん。そう思い、肉を喰らって生きてきたが……肉は何とか繕えても魂は何とも出来ん。魂の領域はそれこそ魔法の領域……かつて儂らが挑み、しかし形とならなかった悲願の彼方の奇蹟よ』

 

確かに、とは思う。

五回の聖杯戦争における収穫を私達は良く知っている。

何も得れず、だ。

アインツベルンは妄執に堕ち、間桐は衰退し、遠坂は未だ届いていない。

その現在の状況こそは今の状況を物語っているのは確かだ。

そしてその為に確かにありとあらゆる手段をもって不可能を可能にするのが確かに魔術師だ。

淡々と語った中に外法の言葉と内容が漏れていたが、魔術師として見ればおかしくはないのだろう。

それをこちらがどう思うかは別として。

そこまではまだ分かる。

まだ理解出来る内容だし、さっきまで推察していたのと間違いはない内容だ。

故に確信はその先。

 

『しかし──終われん。間桐は最早、滅びに向かっている。余程、日本の土は儂らを気に入らんかったらしい。最早、御三家の一つと胸を張って言えるような力など無い。故に終われん、滅びれん。つまり、儂の目的は俗に言わせて貰えばな──』

 

それは

 

『まだ死にたくない。故に死を克服する。それだけの面白味は無いが──しかし人類共通の願いを持っているだけじゃよ』

 

 

「───」

 

絶句した。

余りにも馬鹿げた願いにではない。

魔術師の理念を持ち出(・・・・・・・・・・)しながら(・・・・)その結果に魔術師とし(・・・・・・・・・・)ての願いに触れていな(・・・・・・・・・・)()のが、だ。

しかし、同時に恐ろしい程の納得もした。

ああ、成程。手段と目的を履き違え(・・・・・・・・・・)るなど典型的な愚かな(・・・・・・・・・・)怪物の末路だ(・・・・・・)、と。

故に先程まであった怒りが消火して、同情する意味の哀れみでは無く、本気で下らないモノを見る憐みを抱こうとし

 

「えっ?」

 

瞬間、遠坂凛の動体視力よりも早く、使い魔の視界が切り替わるのを感じ取る。

何故切り替わったまでかは分からないが、どうして切り替わったのかは分かる。

先程まで、相手と会話できたのは間桐臓硯の使い魔が仲介して意思を疎通させていたからだ。

何故ならこちらの使い魔は未だ展開されているライダーの結界に入れない。

入ればその瞬間にこちらの使い魔など即座に溶解されるからだ。

だからこそ、私と士郎は内部に入らず、こうして多少の距離を取り──いざという時は結界にも入れる位置を取っていたのだが、今、恐らくその相手の使い魔とのリンクが切れたのだ。

当然だがこちらの意思ではない。

流石にさっきの痴呆めいた発言で意識を疎かにするほど、遠坂凛の意思も才能も甘くは無い。

故に原因は間違いなくあちら側。

そうなると超分かり易い要員がいる。

 

「あの馬鹿……! だからもっと冷静さを身につけなさいって言ってるのに………!」

 

「凛! 鏡なら何時でも投影できるがどうだ!?」

 

横にいるやかましい馬鹿はとりあえず右アッパーで冷静に吹き飛ばしながら、介入するべきかどうかを考える。

 

ああ、たくっ

 

「本当にあんた、私達の子よね!」

 

 

 

 

 

 

 

目の前で起きた暴力行為に、慣れている桜ですら唖然とするしか無かった。

まず最初に起きた巨大なインパクトは間違いなく心臓を握り潰され、死んでいた人間の復活からだ。

間違いなく死んでいたと断言出来る致命傷から強化の魔術の恩恵による高速さで立ち上がり、そのまま一瞬で間桐臓硯の方に走ったかと思うと

 

「────」

 

何の感慨も躊躇いもなく拳を振りぬいた。

それも強化の魔術をかけた拳だ。

当然、魔術師とはいえ何の対処も出来ていなかった御爺様は拳が当たった箇所が文字通りに弾け飛んだ。

出来上がったのは汚らしい首無し死体。正確に言えば鎖骨の上辺りから吹っ飛んでいるが実に些細な事である。

しかし、少年はそれだけで止まらない。

首が吹き飛んだ事すらも理解していない残った死体を、彼はそのまま蹴り飛ばし、這い蹲らせ──指を向ける。

指には超濃密な魔力。

そして桜の立ち位置では見えないが、少年は実に美しく笑っている(・・・・・・・・・・)

しかし、これを例えば遠坂士郎が見ていた場合、酷い既視感に襲われるだろう。

何故ならそれは彼の母親も浮かべるのと変わらない笑み。

獲物を食い散らかす狩人(ハンター)の笑みであり、最早怒りの形相ですら表現できない憤怒の表れなのだ(・・・・・・・・)、と。

 

「──The blessings great for you.(汝に偉大なる祝福を)

 

自己暗示の詠唱によって放たれるのはガント……なのだろう。

断言出来ないのは何せ放たれた呪いが砲弾と然程変わらぬ大きさで且つそれで圧縮されており、更にそれがガトリングガンのように放たれていたら最早、呪いなのか単なる暴力なのか分からない。

それらの力の塊は狙い過たずに残った肉体を穿ち、破壊し、弾き飛ばした。

近くにいるであろうアサシンですら介入しない。

いや、ある意味で当然なのかもしれない。

暗殺者にとっての必殺が完全に決まった後に動き出すような埒外を想定に入れていなかったのだろう。

相手が死徒や英霊のような怪物ならともかく天才とはいえただの人間の魔術師を相手に。

故に暗殺者ですら己のマスターが原型の残らない肉塊になる作業を見届けるしかなかった。

少年は今まで浮かべていた笑みを消し、ガントの破壊の影響で打ち捨てられたように倒れている肉塊に

 

「立てよ」

 

と、言い放つ。

いや、言い放つと言って良いのだろうか?

その言葉と目線には一切の情というのが感じられない。

人は何かを語る時、その対象に感情を抱かざるを得ないというのに、今、この少年にはその機能が停止している。

人は当然の事、対象が動物や場合によっては機械にすら行う反応を少年は行わない。

 

 

 

 

 

 

 

そして少年からすれば当然の反応である。

目の前にある肉塊は人でも魔術師でも、ましてや怪物ですらない。

 

人間だったモノが怪物の残骸に、否、残骸の怪物に成り果てただけだ。

 

もうとっくの昔に生きていない。

死んでいないだけのモノだ。

だからあれ程に壊し、砕いてもその分を埋めるかのように肉が再生していき

 

「貴様……何故生き──」

 

「煩い。黙れ」

 

即座にガントで煩い舌事頭を弾き飛ばそうとするが、唐突に視界に広まったのは黒いマント。

アサシンか、と舌打ちする。

流石にキレてネジが吹っ飛んでいようが、人間とサーヴァントの差を忘却する程、馬鹿に染まり切れない。

故に必要なのは当然、剣だ。

古来より変わらぬ定石。

英雄には英雄を持って突き穿つべし。

令呪を意識しつつ、まずは念話で呼び出そうとして────森から砲弾のような速度でこちらの正面に地面を削る………所か吹き飛ばして参上した金髪の少女──セイバーだ。

 

「御無事ですか、マス──」

 

ター、と続けようとしてこちらの口元に吐血した跡を見て、唇を噛み締めるのを見るが今はそれに構っていられる余裕は無い。

森から紫の髪をした女が桜さんの方に駆け寄ったのも視認したからだ。

敵は場合によっては英霊二人、魔術師が二人であるという事だ──が別に構う事は無い。

 

「セイバー。無茶を頼むが、ライダーとアサシンを頼む。俺はその間にあの腐れ切った生ごみを始末する」

 

「なっ──」

 

戦闘続行を促す声に何故かセイバーが絶句する。

狼狽える理由が何なのか分からない為、もしかしてセイバーに大きな負傷でもあったのかと思い、視たが特にそんな事は無く、魔力も十分だ。

戦力差などで怯むような少女ではないと思うのだが、と思っていると念話で

 

『馬鹿な事を言わないでください! 幾ら()の効果があったとしても本来の所有者ではないマスターではどこまで効果が発揮はされるのか分からないですし、代償もあるのかもしれないのですよ!? それにライダーの結界の効果は貴方の体を確実に苛んでいます! ここは一度撤退するべきです』

 

 

ああ、成程、と思う。

確かに遠坂真の体調は絶不調だと断言出来る。

心臓を破壊されて再生するという普通の人間や魔術師ですら体験する事が無い嫌な感覚に精神と体力は擦り減らされ、更にライダーの結界の効果は今尚効果を発揮している。

顔色を自分が握っている双剣に映してみると成程、これは酷いと言える顔色だ。

そういう意味では死人が歩いているのと差異はない状況だ。

だが

 

「セイバー。その手に握っているのは何?」

 

俺の唐突な質問にセイバーは問うのも忘れて、周りへの警戒を忘れない程度に、しかし己が握っている透明な剣に一瞬、視線を向ける。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

星が生み出した神造兵器。人々の願いの結晶にして最強の幻想(ラストファンタズム)

原初の王の開闢の剣には劣るかもしれないが、それ以外の聖剣、魔剣に対しては真名の通りに勝利しか約束されない剣。

アルトリア・ペンドラゴンが生前も死後も変わらずに最も信頼する宝具である。

それを少年が知らないわけがないのに、ここで問う意味をセイバーは思い当たらず、と考えているのを見ながら

 

「剣だな。中身はどうあれそれは武器だよな。じゃあさ、セイバー────お前はどうして剣を握った?」

 

「それは──」

 

剣を握る理由。剣を取った理由。騎士になった理由。

 

 

──王になった理由。

 

 

それは──

 

「それで誰かを守りたいと思っ(・・・・・・・・・・)たからだろ(・・・・・)? 理想の王、騎士王になったのはより多くの人の笑顔を(・・・・・・・・・・)守りたいからだと思っ(・・・・・・・・・・)たからだろう(・・・・・・)? 違ったら謝るし、土下座もする。けどさ、俺の馬鹿な言葉が正しかったらさぁ……」

 

正しかったのならなぁ、おい、と唐突に指を指す。

セイバーでもライダーでもアサシンでも間桐臓硯でもなく────今も呆然と立って未来に希望を抱く事も出来なくなった人を指さし、そして

 

 

 

 

 

「今も!! そこで! 傷付いて苦しんで泣いている女がいるのに手を差し出さない理由(・・・・・・・・・・)がどこにあるんだよ(・・・・・・・・・)!!」

 

 

 

 

 

 

 

「──────」

 

セイバー所か周りの人間の絶句すら無視して少年は叫んだ。

 

「遠くにいるわけでもなければ、壁があるわけじゃない。手を伸ばせば届くんだ(・・・・・・・・・・)。母さんはどうせ助けが欲しかったのならばそれを主張するべきだったわ、とかほざいてツンデレるんだろうし、俺もその辺は同意だけど母より器が大きいからんなの知った事じゃないんだよ。ここで俺が気に食わないのをぶっ潰して桜さん連れて帰って、母さんと喧嘩させて怒って泣いて喚いて、それで笑わせれば俺の気が済むんだよ(・・・・・・・・・)………!」

 

だからセイバー。

 

「答えろ!!」

 

桜さんを指差していた手を今度はセイバーに向け、指差すのではなく手を差し出す。

令呪が灯ったその腕を躊躇いなく差し出す。

 

「俺の八つ当たりが気に入らないというなら直ぐにこの手を切れ!」

 

だけど

 

「もしもこの意思、この願いが君の意思に沿うようなら────今こそ我が命運を君に託す!」

 

故に

 

「答えろセイバー! 我が捻くれた生き方は聖剣(きみ)に沿うか否か!」

 

 

 

 

 

少年の叫びに、騎士王は、理想の王は僅かの間だが沈黙を自分に許す。

考える事は一つ。

自分の運命というものについてだ。

アーサー王が運命を考えるとは、と思いながら、しかし内心で──するには耐えられないので現実ではぁ、と普通に溜息を吐き、そして愚痴る。

 

「全く────どうして私のマスターになる人は人の話を聞かない人ばかりなんでしょうね………」

 

そう苦笑し────マスターに迫っていた短剣を振り向きもせずに一薙ぎで全てを弾き飛ばす。

その事に随分と舐められたものだ、と鼻を鳴らし

 

 

 

 

「指示を。マスター。この身は貴方の剣ですから」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に遠坂真に対して遠坂真は何も言わなかった。

だから彼女の言葉に、自分はもう一度同じ言葉を繰り返すだけ。

 

「アサシンとライダーを頼む。その間に俺は腐った残骸を叩き潰す」

 

「御武運を」

 

思わずぞくりとする感動のような何かが背筋を震わした。

ああ、成程、騎士王という単語を彼女に宛がった人は確かに正しい。

今の一言の鼓舞に比べれば、千の美女の声音の価値など地に堕ちるだろう。

彼女の為ならば死んでも構わないという魅了の声に、しかし真はそれを遠慮なく打ち払い

 

「凱旋してくる」

 

背後の微笑を受け取り、俺は躊躇いなく間桐臓硯だったモノに足を向ける。

アサシンは動こうとして動けない。

何故なら背後のセイバーがアサシンに向かって意を放っている。

動けば切り伏せる。

アサシンとて木偶ではない。

マスターの目で視れば確かに直接戦闘するには厳しいステータスではあるかもしれないが、敏捷は早い。ランクにするならAランクに届く程だ。

しかし、それはこちらのセイバーも似たようなもの。

魔力放出も加えるのならばA+ランクに軽く届くはずだ。

つまり、暗殺者はあの時、心臓を潰した時点で殺したと思った時点で敗北に大きく一歩踏み出してしまったのだ。

まぁ、それは心臓を潰されて生きている人間が何らかのトリックでも使わない限りいるわけないので実に仕方がない事なのだが。

ライダーとて動けないだろう。

ここには彼女があんなに必死になる程に大事な桜さんがいる。

ならば、する事はと思っていると背後で轟音が鳴り響き、そして三つの巨大な存在が再び森に疾走したのを察知し、微笑の礼を騎士に贈る。

そうして俺は距離、およそ10m前後の距離で爺の形をした残骸と対峙する。

そのまま名乗りなどせずに魔術を組み上げようと魔術回路に魔力を通そうとすると

 

「クッ──」

 

カカカッ、と気色悪い笑い声が空間を再び響かせて辟易する。

更には気味の悪い目でこちらを注視し、興奮し出すのだから尚更だ。

その上で勝手に喋りだすのだから、よっぽど自殺願望があるらしい。

 

「貴様のサーヴァントがアーサー王であるというのなら貴様のその治癒能力……否、蘇生に近い状態は………! クッ、ハ、ハハハ……! こんな所に! こんな所に我が悲願を叶えられる物があったとは……!」

 

地球様の空気も勝手に消費して喋り出す始末。

更には

 

「小僧。寄越せとは言わん──奪わせてもらう」

 

などと宣う始末。

ふぅ、と俺は思いっきり溜息を吐いて、顔に手をついてもう一度吸って、思いっきり吐いて

 

「ぐちぐちとやかましい。死ね」

 

空いている左手でそのまま遠慮なくガントを放つ。

一秒後に着弾音が聞こえるが、手の平から空いた視界で当たったのが爺ではなく奴が使役する蟲に当たったのを見ながら俺も俺で愚痴を漏らす。

 

「さっきから何だ? 聞いてもいない事をぴーちくぱーちくペラ回して、それで自慢する事が加害者自慢ときた。んなので自慢になると思ったら場所が違う。処刑台で遠慮なく囀れよ命乞いの。それなら多少、心に響くんじゃないか? 電気椅子のスイッチ押す人の心も感動するだろうよ────押しても全く罪悪感に震えないという感動によ」

 

実際、本当にそんな気分。

全くもって何も起きん。

怒りはもう五感に感覚(当たり前)に成り果て、殺意は安定して波にならず、憐みを生むには阿呆過ぎる。

会話しているだけでここまで無駄な徒労をしていると理解してしまう。

うん、だから今もまた何やら喋ろうとしている残骸に対して何か言おうか、と思っていたテンションを断ち切って殺そうとするのは別におかしい事ではないだろう。

 

投影(トレース)──」

 

その詠唱は彼から生み出されたものではない。

彼が子供の頃から見ていた背中が発していた錬鉄の詠唱。

父の言葉(オト)で発せられるのこの言葉の意味は上記に沿った通りの意味。

何故ならこの身もまた────

 

「──開始(オン)

 

 

 

あの正義の味方には程遠いけど────剣で出来ているのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、予告通りにFate更新です。いやぁ、青臭い青臭い。
相方はまた何時も通り更新出来ずに申し訳ない。お詫びにクロが今度フルチン土下座をしてくれるそうできもいですねぇ。皆様もクロに対してこのクズ男が! と応援してあげてください。きっと興奮してくれるでしょうから。

ようやく乱戦になって聖杯世界大戦と言うべきですかね? そんな感じの様相をちょっとだけ表現が出てきましたけど、まだまだ。まだまだですとも。予定では未来でもっと絶望的な乱戦を予定していますからかっ飛ばしますよぅ。
fakeのお陰でこんだけ無茶しても許されるのかと分かりましたからね。いやぁ、前例があるとかっ飛ばしやすいですよねぇ。

では感想・評価などよろしくお願いします。

次回も多分、この調子だとFate更新かもしれないのであしからず。でも悪役なので予定は基本未定なのであります。

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