魔法少女リリカルなのはTwo girls   作:たまらんち会長

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星の光に祈りをこめて(後編)

 さくらが目を覚ましたのは、ルーシーが彼女の前に着地した直後だった。続いて、それを追いかけていたなのはとフェイトも着地する。さくらを狙うルーシーに立ちはだかりながら、フェイトは後ろのティアナに指示を飛ばした。

 

「ここは私となのはに任せてさくらを連れて逃げて」

「……はい!」

 本当は自分も残ってなのはたちと戦いたいティアナだが、自分がいても何の役にも立たないのはわかっているので、さくらの安全を確保することを優先することにした。だが、さくらはここから離れるわけにはいかなかった。その場から離れようとするティアナの袖を引っ張る。

 

「ま…待って…」

「えっ?」

「お願い…少しでいいから…待ってください……」

「で、でも……」

 ティアナは困惑した。さくらが必死に訴えているのはわかるが、いまの弱々しい声を聞けば一刻も早く治療を受けさせらければならないこともわかる。

 

「お願い…私に…彼女を…助けさせて……」

「助けるって……そんな体で無理よ」

 いまのさくらは、まともに動くことも声を出すこともできない。それでも、さくらの決意は変わらない。困ったティアナはフェイトに助けを求めた。フェイトならさくらも言う事を聞くかもしれないからだ。これ以上、さくらを危険にさらしたくないフェイトも説得しようとしたがその前になのはが、

 

「わかった。じゃ、やってみようか」

「ええっ!?」

 フェイトは驚きの声を上げた。さくらがまともに動けないのはなのはにもわかるはずだ。

 

「ちょっと、なのは…」

 戸惑うフェイトになのはは静かに首を横に振る。

 

「心配ないよフェイトちゃん。きっと大丈夫だから」

「……わかった」

 不安はあるが、フェイトはなのはの言うとおりにすることにした。なのはは、さくらがルーシーを助けたいと言ったことに期待したいと思ったのだが、フェイトもいままでルーシーを倒すことしか頭になかったさくらが、ルーシーを助けたいと思うようになったことは嬉しかった。なのはは、さくらにルーシーが体内のディアスに心を支配されていること、ルーシーを助けるにはそのディアスを破壊するしかないが、それには彼女を回避も防御もできない無防備な状態にする必要があることを説明した。

 

(そうだったのか……)

 どうりでルーシーの様子がおかしかったわけだ。自ら望んでああなったはずもないから、捕まって強制的にということになる。そして、それはルーシーがフォーサイズの襲撃からさくらを助けたあの時の後だろう。

 

(私を助けたから……)

 戦うしかないと思っていた。でも、いまは違う。お互いに相手を助けたいと思うようになっていた。

 

(今度は私が彼女を助ける)

 どうやって?さくらはルーシーの心が完全に失われたわけではないと思っていた。ルーシーの奥底に眠る彼女の心を再び表に出すことができれば、あとはフェイトたちが何とかしてくれる。問題はルーシーの心に直接アプローチすることができるかどうか。さくらは魔剣に訊いてみた。すると、魔剣はちょっと間沈黙してから答えた。

 

「……That is not impossible. but I do not recommend it.Because it will be risky」

「危険って……?」

「When the worst, you may die」

 たとえ生きられたとしても確実に後遺症は残るという。さすがに死ぬかもしれないと言われて、さくらも躊躇しかけたが、それしかルーシーを助ける方法は無いのならとすぐに決心を固めなおした。だが、さくらが死ぬかもしれないと聞いてフェイトが反対した。いまのさくらの状態を見れば当然だ。

 

「駄目だよ、さくら。そんなの」

「フェイトさん……」

 自分を想うフェイトの気持ちをうれしく思いながらもさくらは決心を変えるつもりはなかった。

 

「し、心配しないで…ください。私、決めたんです…私も…死なないし、彼女も死なせないって……」

「さくら……」

「それに…もし…この世に…神様がいるのなら…誰かを助け…たい私の気持ちは通じると…思うんです」

 心配かけまいとできるかぎりの精一杯の笑顔で語るさくらに、フェイトはそれ以上反対することはできなかった。本当はまだ反対なのだが、さくらが決心を変えることはないだろうからだ。

 

「わかった。でも、約束して。さっきの誰も死なせないって君が言ったことを守るって」

「はい……」

 さくらは頷くと魔剣を地面に突き立てて目を閉じて精神を集中させた。ディアスによって強制的に閉じ込められたルーシーの心を再び表に出すには、彼女の精神に直接侵入するしかない。しかし、それにはリーガル・コアの力を使う必要があり、ゼクエスの帝王候補にとっての心臓でもあるリーガル・コアの力を使うことは当人にかなりの負担を強いることになる。ただでさえ満身創痍のさくらにとっては、命の危険すらも考えられる非常にリスクの高い方法である。二人の持つリーガル・コアは、元々ひとつだったものを二つに分けたものであり、ふたつのコアはどんなに離れていても特別な何かでつながっていた。それを利用すれば相手の位置を把握することも可能なのだが、如何せんさくらとルーシーは帝王候補になって日が浅いため、そのことにまだ気づいていなかった。精神を集中させたさくらは、真っ暗な中で前方に光っている物体があるのを感じた。おそらくそれがルーシーだろうと判断したさくらは、ただ一心にルーシーの心に接触することだけを念じた。すると、急に体が軽くなったような感覚に襲われた。いや、軽くなったというよりも浮かび上がるといった感じか。最初は錯覚かと思ったが、そうではなかった。さくらの意思が精神体となって彼女の体から脱け出したのだ。

 

「これって……」

 まるで魂が体から抜け出したような感覚にさくらは少し戸惑った。周りは真っ暗で見えるのは先ほどの光の塊だけだ。

 

「……よし!」

 意を決したさくらは、その光に向かって行った。離れた所からみたらただの光る物体にしか見えなかったが、近づいてみるとルーシーが壁に閉じ込められた状態でいるのが見えた。

 

「ブランケットさーん!」

 さくらは力いっぱい叫んだが、ルーシーは何も反応を示さなかった。

 

「これを壊せばいいのかな?」

 とりあえず壁から浮き出ているルーシーに触れてみる。すると、さくらの脳裏にある光景が浮かび上がってきた。

 

「な、なに?」

 さくらが戸惑うのも無理はなかった。彼女が見ているのは荒れ果てた世界だった。破壊された街、強姦された女性、銃を持って戦う子供…そう、それはルーシーが生まれ育った世界だった。

 

「これは、ブランケットさんの記憶……?」

 ルーシーの心に直接触れたことで、彼女の記憶がさくらに流れ込んだのだろう。さくらはルーシーがいままでどのように生きてきたのか、なぜゼクエスの帝王候補になったのか初めて知った。

 

「争いの無い誰もが平和に暮らせる世界を作る……」

 それが、ルーシーの願い。しかし、そのためにはライバルとなるさくらを死なせなければならない。大を活かすには小を犠牲にしなければならないこともある。そう割り切りながらも常に自分の願いを叶えるために他人を犠牲にすることに疑問を抱き続けてきた。そして、さくらに自分の左目を斬りつけられてようやくどんな崇高な願いであっても他人の命を犠牲にしてまで叶える価値がないことに気付いたルーシーは、さくらと話をしたいと思って接触しようとしたところさくらがフォーサイズに襲われているところに出くわしたのだ。そして、フォーサイズに捕えられたルーシーはディアスによって洗脳されてしまったのである。

 

「そうだったの……」

 初めて知る相手の思い。自分を殺そうとしたことにはまだ許せない気持ちもあるが、それはお互いさまだった。それよりも、もうこんな事は嫌だという気持ちが大きかった。

 

「あなたも戦うのはもう嫌なんだね。その思い、私が……」

 さくらは壁に手を当てた。そして、両手に力を込めた。力だけでなく思いも込めて。

 

 

「あなたが命がけで私を助けてくれたように私も命をかけます」

 そんな思いを抱いたのは初めてだった。さくらの両手がぼんやりと光る。そして、壁にヒビが入った。

 

 さくらがルーシーの心を閉じ込めている壁を壊そうとしている頃、外の世界ではなのはとフェイトがルーシーと戦っていたが、さっきとまるで動きの違うルーシーに二人は苦戦していた。動きだけではない。さっきまでろくに操れていなかった闘気も自在に扱えるようになっていた。なのはが空中のルーシーを多数の魔力弾で包囲した時、ルーシーは闘気によるバリアでこれを防いだ。ミッド式の防御魔法でガードした場合、それと同時又は直後にAIシールドを展開することはできないが、闘気によるバリアならそういう問題は無い。これで、防御面での死角はほぼ消滅した。さらに、闘気は攻撃面をも強化できた。拳や武器に纏わせることでその威力は数倍にもなる。バンパイア・デバイスにまとわせた場合、その物理的破壊力は主の血を与えた時よりも勝る。ただ、一つ問題があってバンパイア・デバイスに闘気を纏わせると、それ以前に与えられた主の血は蒸発してしまうためゼクエスの帝王候補に対しては何の意味も無い。しかし、それ以外の相手に対しては破壊力抜群で、フルドライブモードのバルディッシュの刀身をあっさりと粉砕した。愕然とするフェイトの隙を突いてルーシーは彼女の腹に蹴りを加える。まともにくらったフェイトは地面に落下して大きくバウンドして倒れた。

 

「フェイトさん!」

 ティアナがフェイトのところに駆け寄ろうとしたが、フェイトはそれを制止した。ティアナにはさくらを守る役目があるからだ。そのさくらはさっきからピクリとも動かない。ルーシーに対して何らかのアクションを起こしているようだが、現状ルーシーには何の変化も見られない。フェイトに追い打ちをかけようとするルーシーをなのはがブラスタービットで牽制する。すると、ルーシーは矛先をなのはに変えて襲いかかった。白兵戦では絶対に勝ち目がないと判断したなのははブラスタービットで牽制しながら距離を取った。だが、ルーシーは魔力弾を拡散して撃つことでブラスタービットをすべて撃墜した。

 

「あぶない!」

 なのはに迫るルーシーを牽制しようとティアナはクロスミラージュを構えるが、それを見たなのはは叫んで制止した。

 

「駄目!」

 ティアナがルーシーを攻撃すれば、さくらが危険になる。ティアナは唇をかみしめながらデバイスを下ろすしかなかった。フェイトは落下時のダメージが大きくてまだ立ち上がれていない。闘気によるバリアとAIシールドでほぼ無敵の防御力を誇るルーシーに、なのはは逃げ回りながら時間を稼ぐしかなかった。だが、スピードでもルーシーの方が上でとうとうなのはは至近距離に接近されてしまった。ルーシーが振り下ろす魔槍をなのははレイジングハートで受け止めるが、ルーシーはすごい力で押し切ろうとした。

 

「なんて力なの……」

 さくらよりは大きいとはいえ、ルーシーもまだ子供である。力なら大人であるなのはに敵うはずもないのだが、ゼクエスの身体強化魔法で腕力を強化したルーシーの力はなのはを上回っていた。なのはは必死に抗うが、魔槍の斧は徐々になのはの顔に迫っていた。このままではなのはが殺されてしまう。しかし、ティアナ達にはどうしようもなかった。唯一の希望はさくらだが、まだジッと動きを止めたままだ。一体、何をしているのか、うまくいっているのかそれとも手こずっているのか皆目わからない。だが、ルーシーに何の変化も見られない以上、ティアナにはどうしてもうまくいっているようには思えず苛立ちが募る一方だった。こうしている間にも魔槍の斧の刃がなのはの鼻先すれすれにまで迫ってきていた。

 

「なのはさん、ごめんなさい!」

 堪え切れなくなったティアナは、なのはの指示を無視してルーシーにクロスミラージュの銃口を向けた。ルーシーは気付いていない。ティアナは狙いを定めて引き金を引いた。発射された魔力弾は完全にルーシーを捉えていた。ここでようやくルーシーが気付いたが回避は不可能だった。魔力弾はルーシーに命中するかに思えたが、ルーシーは寸前でAIシールドを展開させた。

 

「あ……」

 魔力弾が防がれたのを見てティアナは自分の過ちに気付いた。ルーシーが自分の方に矛先を変えたからだ。側にさくらがいるためティアナは逃げることもできない。

 

 

「さくらだけは絶対に守らないと」

 さくらをガードするように立つティアナにルーシーは猛スピードで迫った。ティアナはそれを目で捉えることができなかった。そして、気付いた時には魔槍の穂先が顔面に迫っていた。

 

「……!」

 ティアナは恐怖で動けなかった。もう回避はできない。彼女にできることは覚悟を決めて目を閉じることだけだ。ティアナは自分の死を覚悟していた。だが、寸前のところでルーシーの魔槍は食い止められた。

 

「えっ?」

 ティアナが目を開けると、さくらがAIシールドでルーシーの魔槍を止めていた。魔剣を杖代わりにして、まさにギリギリのところでルーシーとティアナの間に割って入ったのだ。しばし、ルーシーと対峙したさくらだったが、やがてフラッとよろけた。

 

「さくら!」

 後ろに倒れそうになったさくらをティアナが支えてやる。

 

「大丈夫?しっかりして」

「すいません。平気です」

 さくらは無理に笑顔を作ろうとするがかなり疲弊しているのはティアナにもわかった。

 

「もう終わりました。彼女の心は解放しました」

「えっ?」

 ティアナがルーシーの方に目をやると、ルーシーはコクリと頷いた。敵意が無い証としてルーシーは魔槍を地面に置いた。それを見てティアナがなのはに叫ぶ。

 

「なのはさん!」

 なのはは頷くと地上に降りてレイジングハートを構えた。

 

「レイジングハート!」

「Starlight Breaker」

 ルーシーの意識が回復したとはいえ、ディアスはまだ彼女の体内に埋め込まれたままである。それを集束型砲撃魔法で破壊しようというのだ。なのはは以前に同様の方法で娘の体内のレリックを破壊したことがある。今回は前よりは負担の少ない通常のスターライトブレイカーを放つことにした。

 

「ちょっと痛いけど我慢してね」

 なのはの言葉にルーシーは無言で頷く。非殺傷設定にしてあるといっても、まったくのノーダメージというわけにはいかない。だが、ルーシーは逃げるわけにはいかなかった。自分のために命をかけてくれたさくらのためにも。決意を込めてなのはと向き合う。

 

「お願いします」

「いい娘だ」

 なのははルーシーに向けてスターライトブレイカーを撃った。

 

「うわぁぁぁっ!」

 爆発と同時に悲鳴が上がる。ディアスの破壊は確認できたが、ルーシーは無事なのか。爆煙がおさまり、ルーシーが立っているのが確認できるとティアナが歓声を上げた。

 

「やった!」

 なのはとフェイトも互いに顔を見合わせホッとした表情になった。これでルーシーがジャッカルに操られることはなくなった。その功労者であるさくらに労いの声をかけようとフェイトは彼女のところに寄って行き肩に手を置いた。

 

「よくがんばったね、さくら。君のおかげだよ」

 だが、さくらは何も反応しない。ティアナに体を支えられて顔を俯かせているだけだ。

 

「さくら?」

 ティアナもさくらに声をかけるがやはり反応はない。さっきまで喋っていたのに。不安になったフェイトとティアナはさくらを強く揺すった。

 

「さくら、しっかりして。さくら!」

 だが、さくらの眼は虚ろで二人の声が耳に届いているか不明だった。

 

「さくら!」

 ティアナはさくらの頬をピシャピシャと叩いた。その直後、

 

「ごほっ」

 さくらの口から血が吐き出された。最悪の事態が発生したことで周囲の者たちの顔が青ざめる。リーガル・コアの力を使い過ぎたのだ。さくらの体は限界を越えてしまっていた。

 

「ごふぁっ」

 また、さくらは血を吐いた。それも大量に。

 

「さくら!!」

 フェイトの悲痛な叫びが辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 フォーサイズの時空管理局地上本部襲撃が発生して4時間が経過しようとしていた。一時は総崩れ寸前に追い込まれた地上本部の守備隊も、各地からの増援部隊が次第に到着しはじめたことで徐々に形勢を盛り返しつつあった。フォーサイズの部隊を指揮していたサラをはじめとする幹部たちが相次いで管理局の特務隊によって拘束されたことも大きく影響していた。一方、空の戦いでも八神はやてが指揮する空戦魔導師部隊が到着したことでフォーサイズの無人航空兵器スカイファイターが一時全滅するなど管理局側が優勢になっていた。しかし、フォーサイズは無人兵器を大量に生産していたらしく、次から次へと部隊を送り込んできた。フォーサイズの無人兵器はスカイファイターⅠ型とⅡ型の二つがあり、その名の通り空中を移動する。

 

「でりゃあああああっ!」

 マリア・バークは自分に襲いかかるスカイファイターⅡ型の集団を自身のデバイスであるフォースの魔力刃で次々と破壊した。マリアは両腕と両脚にデバイスを装着しており、両腕に装着したフォースで魔力刃を発生させて敵を攻撃するのだ。この魔力刃は延伸させることができ、100m離れた敵も攻撃できる。さらに、両足のインフィニットセイバーも魔力刃を発生させることができる。これは下腿の長軸上に沿って魔力刃が形成される形になるので構造上延伸はできない。格闘技が得意なマリアは襲ってくるスカイファイターⅡ型を破壊していった。だが、スカイファイターの数は圧倒的でマリアは常に全周囲を注意しながら戦わなければならず、必然と疲労は蓄積されていった。最後の一機を回し蹴りで破壊しても、また別の集団が向かってくるので休む間もない。

 

「ああ、もう!」

 マリアはフォースの魔力刃を延伸させて数機のスカイファイターⅡ型を撃墜した。だが、まだ十数機残っている。Ⅱ型はⅠ型のような射撃兵装は搭載していないが、鋭利な刃を複数取り付けられていてそれで標的を殺傷する。襲い来るⅡ型を阻止しきれずに全身を切り刻まれる者、あるいは全身くまなく刺される者など空戦魔導師部隊の犠牲者も決して少なくなかった。マリアも何回か危ない場面があったが、その度に仲間に助けられて難を逃れている。無論、マリアも仲間が危機の時は助けるが、彼女の装備では自分を守りながら他人を助けるのは限界があった。必死にスカイファイターの攻撃をかわしながらこれらを破壊するマリアの視界に、スカイファイターⅡ型が別の空戦魔導師の背後に突進している様が映った。

 

「危ない!」

 咄嗟に右手に装着したフォースの魔力刃を延伸させてそのスカイファイターⅡ型を破壊したが、フォースの魔力刃は一度延伸すると消えてしまう。次の魔力刃を発生させるまでに数秒のタイムラグがあり、それが時には大きな隙になる危険もある。その隙を突くかのように3機のⅡ型が彼女に迫ってきた。

 

「ちぃっ」

 幸い気付いた時にはまだ距離があったためマリアはそれらから距離を取って右手のフォースの魔力刃を発生させる余裕があった。あとは迫るⅡ型をフォースと両足のインフィニットセイバーの魔力刃で破壊するだけだ。だが、マリアは自分に迫るスカイファイターの形状がさっきまでと微妙に違うことにようやく気付いた。そして、決定的な違いを目の当たりにする。近接殺傷用の武器しかないはずのⅡ型に銃口が備え付けられているのだ。

 

「新型!?」

 そう、それはスカイファイターⅢ型だった。スカイファイターの銃弾には強力なバリア貫通効果が付与されている。ダブルAランクのマリアでも3機のスカイファイターの銃撃をバリアで防ぎきるのは不可能だろう。もう、回避する余裕も無い。フォースの魔力刃を延伸させて2機を破壊しても残る1機の攻撃を阻止する術はない。絶体絶命と思われたその時、斜め下から魔力弾が飛んできてスカイファイター1機を破壊しさらに跳弾でもう1機を破壊した。そして、2発目が飛んできて3機目も撃墜した。マリアが弾が飛んできた方向に目をやると、ビルの屋上でネイル・ストライクがデバイスのヴィットを構えていた。彼は数人の陸戦魔導師とこのビルの屋上で戦っていた。

 

「ありがとうございます!」

 礼を言うマリアにネイルは親指を立てる。そして、すぐに別の標的に狙いを定める。まだ敵機は多数残っている。のんびりしている暇は無い。だが、マリアに比べるとネイルにはまだ余裕があった。標的を照準に捉えた瞬間に引き金を引くという早撃ちによって、ネイルは次々とスカイファイターを撃墜していった。しかも、ただ撃つのが早いだけでない。狙いが極めて正確な上に先ほども見せたように跳弾を利用することで1発で2機を撃墜することもできるのだ。しかし、ネイルの真骨頂は何よりも狙撃だった。地上本部が襲撃されたとの一報を受けヘリに乗って現場に急行していたネイルは偶然ティアナとフォーサイズのサラが交戦しているのを目撃した。ティアナが苦戦しているのを見たネイルは援護しようと揺れるヘリの中でヴィットを構えた。その距離およそ2キロ。距離が長くなるほどにちょっとした角度のずれでも大きく標的を外してしまう。さらに、風なども考慮するとこの距離での精密射撃は非常に厳しい。しかし、ネイルはサラが自分の首に突き付けたナイフを見事に撃ち抜いた。間違いなく管理局で最も優秀な狙撃手であろう。優秀なのはネイルだけじゃない。マリアもフロントアタッカーとして優秀だし、その双子のルナも優秀なセンターガードである。だが、ルナはまだここには到着していない。

 

「ルナの奴、こんの忙しいのに!」

 敵機は一向に減らない。マリア一人ですでに50機は破壊している。それでもスカイファイターは雲霞のごとく迫ってくる。ルナの砲撃魔法なら一気に数を減らせるので幾分か楽になるのにまだ来ていない。マリアが怒るのも無理はない。そこには、このままではいずれ自分たちも疲労によって動きや判断力が鈍くなって隙が多くなってしまうという焦りがあった。焦っているのはマリアだけではなかった。はやてにも焦りの色が浮かんでいた。一時は盛り返した管理局だが、次から次へと送られてくる敵の増援に一人また一人と力尽きていった。ヴィータ、ネイル、マリアの奮戦で何とか踏ん張っているが、この3人も疲労には勝てない。昔、傭兵として苛酷な戦場を渡り歩いてきた経験を持つネイルはまだそうでもないが、マリアは動きが鈍くなっているように見えるし、はやてたちが来る前から戦っているヴィータもさすがに息を切らしていた。鉄球をグラーフアイゼンで打ち出してスカイファイターを破壊し、撃ちもらして接近を許した物はグラーフアイゼンで叩いて壊した。しかし、いくら破壊してもスカイファイターの数は一向に減らない。

 

「ったく、これじゃキリがねえ」

 愚痴りながらもヴィータは射撃しながら突進してくるⅢ型をグラーフアイゼンで破壊した。これでこの付近のスカイファイターは全機破壊されたが、すぐさま新たな一群が飛来することはもうおなじみとなっていた。一息つく間もなく次なる団体さんがお越しになった。飛来してくる敵機の数はいつも同じだが、その度に管理局側の魔導士は数を減らし残った者も疲労を蓄積させていくのでヴィータたちは徐々に追い詰められていった。Ⅰ型の援護のもと、突進してくるⅡ型とⅢ型に鉄球を放つ。Ⅲ型が現れるまでは鉄球はⅠ型に打ち出してⅡ型は接近してきたところをグラーフアイゼンで破壊していた。だが、Ⅲ型が現れてからは射撃しながら突進するⅢ型をまず鉄球で破壊しなければならなくなり、Ⅰ型による援護射撃を阻止できなくなってしまった。援護射撃をかわしながらⅡ型とⅢ型を破壊し最後にⅠ型を殲滅する。それはヴィータにとっては造作もないことだが、これがあまりにも長く続くとさすがに疲れが隠せなくなる。そして、敵はただ数任せに攻め寄せるだけではなかった。

 

「また、来やがった」

 相手のしつこさに辟易しながらもヴィータは鉄球を打ち出す。いつもならこれでかなりの数を撃墜できるはずだった。ところが、それまで単純な動きしかしてこなかったスカイファイターがいくつかの小グループに分かれて回り込むような動きを見せたのだ。

 

「なにっ!?」

 スカイファイターはさらに単機で行動するようになり攻撃をかわすようにまでなっていた。

 

「そこだっ!」

 それでも、相手の動きを読んで鉄球を命中させることはヴィータには簡単なことだ。だが、これでますますヴィータたちの疲労が蓄積されていくのは間違いない。スカイファイターはヴィータを取り囲むように展開すると一斉に襲い掛かった。

 

「しゃらくせぇっ」

 襲い掛かってくる敵をヴィータは片っ端から破壊していった。小癪にもスカイファイターはヴィータの死角に回り込もうとする。それまでそんな戦術的な行動はしなかったのにまるで戦いを学習しているかのように動きが洗練されてきている。このままではいずれヴィータすら捉えきれないほどの動きを見せるようになるかもしれない。それでなくてもヴィータは疲労が蓄積されている。そのせいで動きがやや緩慢になっていた。スカイファイターを破壊したヴィータを別の機体が時間差で攻撃しようとする。ヴィータならそれくらい難なく返り討ちにする。だが、疲労で動きが鈍っているヴィータは対応するのが一瞬遅れてしまった。

 

「ちっ」

 攻撃は間に合わないと判断したヴィータは回避することにした。だが、それすらも時すでに遅く、かわしそこねたヴィータは左上腕を斬りつけられてしまった。

 

「ぐっ…」

 幸い浅手だったが、間髪入れず次のスカイファイターが襲ってきた。ヴィータはいったん退いて態勢を整えてから迎撃した。

 

「うりゃあああっ」

 最後の一機を破壊してヴィータは一息ついた。だが、またすぐ新手が来るだろう。さすがにヴィータも後方に下がって休みたい気分になっていた。もう、ずっと戦っている。おそらく一番働いているだろう。負傷した局員は重傷者は臨時の看護所で手当てを受け、軽傷者は応急手当を受けたあと戦列に復帰した。いつ終わるかわからない戦い。それでも誰一人として逃げる者はいなかった。現時点で25名の殉職者が出ている。さらに手の施しようがなく放置されて死を待つしかない者が十数名。一回の戦闘では近年稀にみる被害の大きさだ。皆、疲労困憊でもう気力で立っている状態だ。

 

「このままじゃ……」

 ヴィータは焦りを感じていた。向こうは増援が何回も来るのにこっちには来ない。これではいずれ戦列が崩壊するのは避けられない。

 

「シグナムたちは何やってんだ」

 いの一番に駆けつけるだろう同胞がいまだに姿を現さない。何かあったのだろうとは想像がつくが、シグナムの身を案ずるようなことはない。シグナムなら多少のことなら自分で解決できるからだ。

 

「何があったかしらねーけど早く来てくれよシグナム!」

 それまでは一歩も退かぬ覚悟のヴィータであった。そのシグナムの到着が遅い事に部隊指揮官であるはやても何かあったと考えていた。しかし、ヴィータと違ってシグナムなら大丈夫などと安易に安心はしていられなかった。はやてもシグナムなら多少の事は心配ないと思っているが、そのシグナムがこうも合流が遅いのは多少どころではない何かがあったのではないかとという危惧があった。しかも、こちらからの連絡に一切の返事がないのだ。フォーサイズによる通信妨害はメイとリンのアーク姉妹によってすでに解除されている。連絡が取れない事はないはずだ。シグナムならいずれ現れるだろうが、味方は疲労で崩壊寸前だ。悠長に待っている余裕は無い。

 

「シャマルとザフィーラも呼んだ方が良さそうやな」

 本部の守りにと残していた二人だが、はやては呼び寄せることにした。

 

「メイ、すまんけどな、シャマルとザフィーラに……」

 はやてがメイに指示をしている途中に横から通信が割り込んできた。

 

『隊長!』

 それは、はやての部下でマリアの双子のルナからの通信だった。

 

「な、なんやルナびっくりするやないか。どないしたんや?」

『大変です!シグナムニ尉が……』

 ルナからの急報、それはシグナムが何者かに襲われて意識不明の重体という衝撃的なものだった。

 

「どういうことや、一体何があったんや?」

 予期せぬ凶報に動揺しつつも、はやては戦闘指揮の最中であるためそれを極力抑えながらルナに詳細を尋ねた。ルナが言うには、彼女とシグナムはルーシーを捜索していた世界が一緒だったため、地上本部が襲撃されたとの急報を受けると合流して一緒に向かうことになったのだが、待ち合わせ場所に来ても一向にシグナムとアギトが来ないので不審に思い探すことにしたという。そして、倒れている二人を発見したのだ。

 

「誰が二人をそんな酷い目に……」

『アギト三士によれば、犯人は薄い赤の甲冑に身を包んだ剣と楯を持った男だそうです』

 ルナが駆け付けた時、アギトにはまだ意識があった。そして、ルナに何があったか伝えた後に意識を失った。

 

「剣と楯を持った鎧姿の男か…何者やろ?魔導師ではなさそうやけどな」

『はい、それについて少し気になることがあるんですが、その男の楯にヘビとリンゴが刻まれていたそうなんです』

「ヘビとリンゴやて?」

 さくらのデバイスの待機モードもヘビとリンゴのブローチで、彼女のバリアジャケットの左胸にもヘビとリンゴが描かれている。これは単なる偶然だろうか。

 

「いや、ひょっとしたらその男が預言にあった『資格無き者』かもしれへんな……」

『はい?』

「あ、こっちのことや」

 ルナはカリムの預言のことを知らないので、はやては適当にごまかした。ずっと『資格無き者』が誰を指しているのか疑問だった。さくらとルーシー以外の人間が該当するからだ。だが、預言には『月を覆いし者、資格無き者の刃に倒れし時』とある。月を覆いし者がルーシーとした場合、彼女を倒せる人間はそう多くない。アギトと融合したシグナムを倒す実力を持ち、さくらと同じヘビとリンゴがシンボルみたいになっている謎の剣士。確定と言ってもいいだろう。

 

「気になるけど、いまはこっちが優先や。ルナ、すまんけどな急いで来てんか。その謎の剣士は後回しや」

『了解しました』

 シグナムとアギトは病院に搬送されたらしい。いますぐにでも駆け付けたいはやてだが、部隊指揮官としての立場上それは許されない。指揮する者の辛いところだ。

 

「なのはちゃんたちはどうなってるんやろ」

 通信妨害は解除されているので連絡は取れるはずだ。あっちの状況はどうなっているのかと確認もしたい。早速、なのはを呼び出す。

 

『あ、はやてちゃん?どうして?』

「メイとリンが通信妨害を解除してくれたんや。それよりそっちの方はどうや?」

『ルーシーって娘は洗脳を解くことに成功したんだけどさくらが大変なことになっているの。急いで病院につれていかないと』

 なのはから状況を訊いたはやてだが、地上と空で戦闘が続いている状態ではさくらを病院に搬送するのは難しい。それに普通の人間の体ではなくなっているさくらを診れる医者がいるかどうか。だが、治療はできなくても、さくらを静かな場所で安静にさせておくことはするべきだろう。

 

「なのはちゃん、その娘つれてここから脱出することは可能か?」

『うん、ルーシーも協力してくれるだろうからできると思うけど、それでどうしたらいい?』

「とりあえずさくらを安静にさせんとな。シャマルとザフィーラも呼んでおくから後は二人に任せてんか」

『了解』

 通信が終わると、はやては戦闘が開始されてから初めてホッと息を吐いた。フォーサイズの最大の目的は地上本部の壊滅ではない。自分たちが洗脳したルーシーのライバルとなるさくらを殺すことである。そのルーシーの洗脳が解けた以上彼らの敗北は決定的である。ここはいったん退いて態勢を立て直そうとするだろう。今回は管理局側の損害も甚大だから追撃はできないが、幹部も多数逮捕できたしルーシーの証言もある。今度こそフォーサイズとレッドコメートの繋がりを解明することができるはずだ。幹部の大半を失ったフォーサイズに前ほどの脅威は無いだろう。だが、フォーサイズのリーダーであるダニエル・ジャッカルにはまだ切り札があった。

 

「部隊長、あれを!」

 近くにいた魔導師が叫んだので、はやてがその魔導師の指差す方に目をやると巨大な物体が空に浮いていた。

 

「な、なんや、あれは?」

 巨大な浮遊戦艦に見えなくもないが、一体なんだろうか。

 

「部隊長、指示をお願いします!」

 指示を求められてはやては困った。相手がわからないからだ。状況から判断してフォーサイズである可能性が高いが、シグナムを襲った謎の剣士に関係しているかもしれないのだ。もし、その剣士が預言にある『資格無き者』だとしたら、ゼクエスの帝王候補が二人揃っているこの場所の現れるのは不自然ではない。攻撃すべきか、それとも警告を発するべきか。

 

「……攻撃や。全員、あの戦艦を攻撃や!」

 結局、はやては攻撃を命じた。あの浮遊物体が全く事件には無関係である可能性も否定できず、本来なら慎重な対処が求められる。しかし、いまは有事であり特殊部隊であるはやてたちにはそうした有事における超法規的措置が取れる権限が与えられている。ただし、部隊長の全責任においてだが。はやての命令で浮遊物体に攻撃がかけられる。この浮遊物体にもAMFの類は搭載されておらず、攻撃はそのままダメージとなるが、物がでかすぎるのと被弾した箇所が自動的に修復されてしまうのでなかなかダメージを与えられない。それに、スカイファイターはまだ存在している。と、そこへ浮遊物体の下部が開いて大量のスカイファイターが出てきた。それだけではない。コロコロと球体が地上に落ちた。球体は地面に落下すると4本足のロボットに変形して陸戦魔導師部隊と交戦を開始した。このロボットはデストロイドという名前でバリアで相手の攻撃を防ぐ厄介な奴だ。デストロイドの一斉射撃でまた多数の魔導師が傷ついていく。これで、浮遊戦艦がフォーサイズであることが確定した。恐らくダニエル・ジャッカルは中にいるだろう。問題は内部にどう侵入するかだ。

 

「難しい問題やね」

 浮遊戦艦の自動修復が早すぎて、いまのところ内部に侵入できるだけのダメージを与えられていない。突入できるだけの穴を開けて、しかも内部に突入するまで穴が自動修復で塞がれないだけのダメージを浮遊戦艦に与えるには砲撃魔法しかない。それも、それなりに威力のある。だとすれば、なのはの出番なわけだが彼女はかなり魔力を消耗しているし、突入班の核になってもらわなければならない。できれば現時点でのさらなる魔力の消耗は避けたい。なのはほどではないが、そこらの魔導師よりは砲撃魔法が得意な人材。この場にはいないが、もうすぐ来るだろう。少ししてヘリコプターが来た。

 

「お待たせしました、部隊長!」

 ヘリからルナが顔を出す。

 

「待ってたで、ルナ。アレをお願いや!」

 はやてが浮遊戦艦を指差したのを見たルナはすべて心得たとばかりに大きく頷いた。

 

「なのはちゃん、いまからルナが砲撃魔法を撃つからその後に戦艦に突入してくれへんか!?」

『うん、わかった』

「ルナ、準備はええか?」

「はい!」

 ヘリから降りたルナが大声で返事する。遅れてきた分をこれで一気に返そうと気合も十分だ。ルナは逸る気持ちを抑えてデバイスを構えた。後ははやての指示を待つだけだ。

 

 一方、突入準備を整えるなのはだが、フェイトは迷っていた。なのはとともに突入するか、さくらを安全なところまで運ぶか。立場上、フェイトはなのはと一緒に浮遊戦艦内部に突入する義務がある。そんなフェイトになのはが優しく声をかける。

 

「フェイトちゃんはさくらをシャマルさんのところまで連れて行って。私は一人で大丈夫だから」

「なのは……」

 親友の気遣いに嬉しく思うフェイトだが、それに甘えるわけにはいかない。なのはもかなり疲労している。他の局員は無人兵器との戦闘に忙殺されている。実質一緒に行けるのはフェイトぐらいなものだろう。だが、ティアナ一人ではさくらを守るのは無理だ。火力の小さい彼女では新たに出現した4本足の無人兵器のシールドを破るのは困難だろう。すると、ルーシーが自分たちの周囲に結界を張った。

 

「行ってください。この結界は中から外に出ることはできても外から中に入ることはできません。ですから、この娘のことは心配いりません。私が絶対に守りますから」

「でも……」

「大丈夫です。ゼクエスの帝王候補はそう簡単には死にませんから。こうして安静している限りは安心です」

「……わかったお願いするよ。ティアナは念のために残ってて」

「はい」

 ティアナが返事するとフェイトはなのはに目を向けて頷いた。なのはも同じく頷く。

 

「はやてちゃん」

 なのはが準備完了を告げると、はやてはルナに合図を送った。

 

「ルナ、いまや」

「はい!」

 すでに照準は済ませてある。ルナのデバイスにカートリッジがロードされる。

 

「行きます!ファイナルフラーッシュ!!」

 ルナのデバイスからものすごい量の魔力波が放出される。魔力波はスカイファイターを何機か巻き込みながら浮遊戦艦を直撃し、その外壁に大穴を開けて船体を貫通した。撃ち終えたルナはガクッと両膝と両手を地面に着いた。破壊力が大きい分、消耗も激しい。だが、これで突破口が開かれた。自動修復で穴がふさがれる前に突入しなければならない。なのはとフェイトは全速力で突入しようとするが、スカイファイターの大群が行方を阻む。これをいちいち相手にしていたら穴が塞がれてしまう。なのはは一気に片付けようとレイジングハートを構えた。ここで砲撃魔法を使うのはきついがいまは時間が無い。そこに鉄球がいくつか飛んできてスカイファイターを何機か撃墜した。

 

「ここはあたしらに任せてお前たちは行け!」

「ありがとうヴィータちゃん!」

 なのははヴィータに礼を言うとフェイトと戦艦内部に進入した。内部にもスカイファイターが配置されていたが二人はそれらを破壊しながら前に進んだ。すると、今度はデストロイドの部隊が行く手を阻んだ。なのはは着地するとレイジングハートを構えた。

 

「ディバインバスター!」

 デストロイドを一気に殲滅した二人はさらに奥へと進んだ。しかし、エリアサーチを駆使してもジャッカルの居場所は掴めなかった。そうしている間にも二人はスカイファイターやデストロイドの迎撃を受け続けた。

 

「一体どこに……」

 いまのところこの浮遊戦艦に武装は見られない。しかし、ジャッカルが見せびらかす為にこれを投入したとは思えない。何かあるはず。それがわからない状態ではジャッカルを捕縛するしか対処のしようがない。焦る気持ちを抑えながら船内を捜索しているとフェイトが何かに気付いた。

 

「なのは、あれ」

「なに?フェイトちゃん」

 なのはがフェイトの指差した方を見ると壁に長方形に亀裂が入っていた。ちょうど人一人がおさまるぐらいの範囲で。

 

「これって……」

「うん、いかにも隠しドアって感じだね、なのは」

「……入ってみる?」

「……そうだね」

 ドアなら近くに開閉のスイッチがあるはず。しかし、どこにもそれらしい物は見当たらない。もしかしたらドアじゃないかもしれない。

 

「どうする?」

「うーん、このまま見なかったことにするのもね」

「わかった。ちょっと下がってて」

 フェイトはなのはをドアから離すとバルディッシュでドアを破壊した。やはり隠しドアだったようでドアの先は通路になっていた。通路は狭いので二人は徒歩で進むことにした。しばらく進むと出口が見えてきた。そして、その先は何もない部屋だった。誰もいない物と言える物もない。本当に何もない部屋だった。

 

「どういう……あっ!」

「罠か!」

 すべては二人をこの部屋に誘き入れるための罠だった。二人は部屋から出ようとするがその前に出口が閉じられてしまった。フェイトがバルディッシュを出口だった壁に振り下ろすも魔力刃が突き刺さるだけで壁を崩すことはできなかった。

 

『くっくっくっようこそ管理局の犬ども』

 背後から声がしたので二人が振り返ると空間モニターに銀色の仮面をつけた男が映っていた。フォーサイズの指導者ダニエル・ジャッカルだ。

 

『いかがかな?ドクター・ゲオ製作の浮遊戦艦は。貴様ら俺がその戦艦の中にいるとでも思ったのだろうが、そこには貴様ら以外に誰もいない。この間抜けめ』

「……この戦艦で何をするつもりだ。もうあなたの企みは潰えている。無駄な抵抗は止めて大人しく投降を」

『ふん、確かに勝ちはしなかったがまだ負けはしていない。俺は負けるのが極端に嫌でな。最低でも痛み分けにでもせんと気がすまん』

「どうするつもりなの?」

 なのはが訊ねるとジャッカルは鼻を鳴らして恐ろしいことを口にした。

 

『この艦を地上に落とす』

「!なんてこと……」

「正気なの?そんなことしたらあなたの仲間だってただじゃすまない!」

『知った事か。それにひとつ言っておく。この俺に仲間なんていない。いるのは俺の野望のための駒だけだ。駒ってのはな、役に立ってこそ価値があるんだ。役に立たなくなった駒にどんな価値がある?』

 ジャッカルの言いようになのはとフェイトは怒りを覚えた。

 

『そんな怖い顔しても無駄だ。あと少しでそいつの動力は止まる。そうすれば地上の奴らもろともお前たちは終わりだ。じゃあな』

「待ちなさい!」

 フェイトが掴みかかろうとするが、空間モニターはぷつりと消えてしまった。こうなっては艦が落下するのを阻止するか、艦そのものを破壊するしかない。前者はそもそも艦の構成がよくわからない現状では困難、後者にしてもこんなでかい艦を破壊するのはかなり難しい。だとすれば、外の連中に危険を知らせて避難させて少しでも被害を小さくするしか手は無いが、外との通信は遮断されている。

 

「なにか手は……」

 なのはは打開策を練ったが、いい案は浮かんでこなかった。焦りだけが先行する。そこへ、ティアナからの通信が聞こえてきた。

 

『なのはさん、聞こえますか?ティアナです』

「ティアナ?どうして?」

 外部との通話はできないはずである。

 

『ルーシーが力を貸してくれました』

 ゼクエスの帝王候補であるルーシーなら可能かもしれないとなのはは思った。これは思いがけない幸運だった。なのははティアナに状況を知らせた。自分たちが閉じ込められている事、浮遊戦艦がいつ墜落するかわからない事、墜落を阻止するには外部から破壊するしかない事、それが不可能なら皆を避難させなければならない事、だが最後の避難は不可能に近い。

 

『いまから皆を避難させるのは無理です』

 けが人や意識を失っている者だっているのだ。とても、全員を避難させるのは不可能だ。かといって、あの巨大戦艦を破壊するにはかなりの威力の砲撃魔法をぶちかますしかない。ルナはさっきの砲撃で魔力を使い果たしているし、彼女の砲撃では壁に穴をあけるので精いっぱいだ。この巨艦を撃ちぬくのは集束系の砲撃しかない。ルナは集束系はまだ習得していない。あとは……

 

「ティアナ、お願いね」

『わ、私ですか?』

 思いもよらぬ指名にティアナは動揺した。

 

「集束の技術はこないだみっちり練習したから大丈夫だよ」

『で、でも、実戦で撃ったことありませんよ』

「大丈夫。これはティアナにしかできない事なんだから。ティアナにならできるよ。自信を持って」

『……わかりました』

 なのはの励ましにティアナも意を決した。クロスミラージュを浮遊戦艦に向ける。カートリッジが装填され周囲から魔力が集められる。集束系の砲撃魔法は火力の小さいティアナにでも高威力の砲撃ができるメリットがある反面、その威力は周囲の魔力量に左右されるデメリットもある。ほとんどの人間が疲労消耗している状態で果たしてあの巨大戦艦を撃ちぬけるだけの魔力が集められるだろうか。

 

「でも、やるしかない!」

 敵味方含めて大勢の人間の命がかかっているのだ。失敗は許されない。と、ここで思いもよらないことが起こった。魔力が予想以上に集まってきているのだ。

 

「な、なんで…あ」

 ティアナはすぐに思い当った。さくらとルーシーだ。最強クラスの魔導師である2人はたとえ意識を失っていたり、まともに動けないくらい疲労していても並の魔導師よりも放出している魔力量が多いのだろう。これなら浮遊戦艦を撃ちぬける。だが、大きな問題が残っていた。なのはとフェイトがあの中にいることだ。二人が浮遊戦艦のどこにいるかわからなければ迂闊に撃って二人を巻き込んでしまう恐れがある以上ティアナはトリガーを引くことができない。

 

「なのはさん、いまどのあたりにいるかわかりませんか?」

『ごめん、わからない』

『ティアナ、私たちのことは構わないで早く撃って』

「でも……」

 ティアナが躊躇するのも無理はない。尊敬する恩師と上司を自分の手で危害を加える事になりかねないからだ。

 

「どうしたら……」

 せめて二人が戦艦のどこにいるかわかれば……。

 

「そうだ、彼女なら」

 ティアナは臨時に捕虜を集めている場所の係員を呼び出した。

 

 

 

 女の子が泣いている。なんで泣いているかわからない。女の子はやがて泣きながら走りだす。だが、泣きながらなので周囲をまったく確認せず道路に出てしまった。そこに一台のバイクが。女の子が気付いた時にはもう目の前にバイクが迫っていた。間一髪、バイクのブレーキが間に合って大事にはならなかった。驚いて尻もちついている状態の女の子にバイクの男が手を差し出す。“大丈夫?一人で立てるかい?”と。女の子はきょとんとした顔で首を横に振り、男に起こしてもらった。

 その後、二人は公園らしき場所のベンチで何かを話しているが、会話の内容はよくわからない。ただ、さっきまで泣いて落ち込んでいた女の子が段々と男に心を開いていく様子はわかった。それと、女の子が自分を“ユウリ”と言っていたことも。そして、最後に男はこう名乗った。“ティーダ……スター”と。

 

「……」

 サラは目を覚ますと軽くため息を吐いた。管理局に投降した彼女は他のメンバーと一緒に臨時に設けられた捕虜収容所に手足にバインドをかけられた状態で拘束されていた。特にする事も無かったのでいつのまにか寝ていたようだ。

 

「またあの夢か」

 なぜ、あんな夢を見るのか自分でもわからない。サラは“ユウリ”という女の子に会ったことも無いし、あの場所にも見覚えが無かった。それと、あの男。ティーダというのは聞き取れたが、あとはよく聞き取れなかった。最後にスターと言っていたのだけはどうにかわかった。

 

「ティーダ……ティアナ・ランスター……」

 似ている。もしかしたら、あの男はティーダ・ランスターという名前かもしれない。

 

「そんなわけないよね」

 夢の中の人物である。現実のティアナと関係があるはずも無い。サラはこれ以上夢について考えるのは止めた。考えても答えなんて出ないだろうからだ。そこに管理局の局員がやってきてティアナが至急に話があると言ってきた。

 

「ティアナさんが?」

 何だろうと思っていると空間モニターが現れて何か切羽詰まった様子のティアナが映し出された。

 

「ごめん、あんたに頼みたい事があるんだけど」

「頼みたい事?」

 サラは困惑した。彼女には敵であるティアナの頼みをきく義理は無い。それはティアナも理解しているはずだ。にも関わらず頼み事してくるのは、よほど切羽詰まった事情があるのだろう。

 

「お願い、頼めた義理で無いのはわかってる。でも、あんたにしかできないことなのよ」

「……わかりました。私にできることなら」

「ありがとう」

「それで何をすれば?」

「あんた、人がどこに隠れていてもわかるって言ってたよね。それってあの浮遊戦艦の中にいる人がどこにいるかもわかる?」

「浮遊戦艦ってあれのことですか?あれ何なんです?」

「あんた、知らないの?あれあんたんとこのでしょ?」

「いえ、あんなの初めて見ました」

 それは嘘では無い。浮遊戦艦の存在は幹部たちにも伏せられていた。

 

「そう、それはまあいいわ。それより、あそこの中に人が閉じ込められているの。あの中のどこに閉じ込められているか正確に知りたいんだけど、わかる?」

「はい、大きな気が二つ感じられます。えっと位置は……」

 サラはなのはとフェイトが浮遊戦艦のどこにいるかをティアナに教えた。

 

「ありがとう、助かったわ」

「いえ、あ、あのティアナさん、お聞きしたいことがあるんですが」

「なに?」

「ティーダって人知りませんか?」

「それ、私の兄さんの名前じゃない。どうして、あんたが知ってるの?」

「えっ?お兄さん?」

 夢の中の男はティーダ・ランスターという名前だったのか。しかし、夢でしかないはずなのに。いや、記憶を失う前にティーダ・ランスターに会ったことがあって、それが記憶を失ってからも夢として残っていたのかもしれない。だとすれば、あのユウリという女の子は記憶を失う前の自分かもしれない。

 

「どうしたの?」

 自分に関する手掛かりが思わず掴めたことでサラは気がボーっとしてしまっていた。ティアナの声にハッと我に返った。

 

「あ、すみません。何でもないです。もし、よろしければすべてが終わったあとでお兄さんのこと教えてもらっていいですか?もしかしたら私、お兄さんに会ったことがあるかもしれないんです」

「それ、本当なの?だから、さっきランスターって名前に反応したのね。いいわ、終わったらゆっくり話をしましょ」

 それで通信は切れた。サラはユウリが昔の自分であると確信した。ティーダが現実に存在していたのなら、ユウリも現実に存在していたはずだ。あの夢ではユウリが自分である確証は得られないが、サラにはわかった。なぜなら、夢の中で女の子はユウリとしか言ってないのにサラは彼女のフルネームが何となくわかるからだ。

 

“ユウリ・ウェルマーク”と

 

 

 

 サラからなのはとフェイトの位置を教わったティアナは二人に危害が及ばないようにクロスミラージュの照準を定めた。

 

「お願い!」

 これで終わりにするという決意と、もうこれ以上誰も傷つかないという願いを込めてティアナは引き金を引く指に力を込めた。

 

「スターライトブレイカー!!」

 引き金を引くと同時にクロスミラージュから魔力波が発射された。魔力波は浮遊戦艦の外壁をいとも簡単にぶち抜きその巨体を貫いた。

 




加筆修正をしていたので遅くなりました。ヴィータの箇所を大幅に加筆しました。元々はヴィータは簡単に何をしていたかを記載していただけだったんですが、せっかくリメイクしたことだし誰かに脚光を浴びせてもいいんじゃないかって。でも、相手が物言わぬ無人兵器ですから文章を見るとヴィータがずっと独り言を言っている状態になってしまったんですが。でも、ヴィータはまだ恵まれた方です。それより不遇なのがシグナムでしょう。まともに言葉を発する間もないままリタイヤですから。敵の強さを表現するのに強い人が犠牲になるのはしょうがないことです。
ヴィータを加筆していく途中で無人兵器を制御する新しい敵幹部の女性や新たなスカイファイターを登場させようかとも思ったんですが面倒くさくなりそうなので断念しました。

本編は次回で最終回の予定です。そのあとは、おまけ的なものをやっていこうかと。
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