魔法少女リリカルなのはTwo girls   作:たまらんち会長

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 ティアナの放った一撃は浮遊戦艦の巨体を貫いた。内部に閉じ込められていたなのはとフェイトは激しい振動に襲われ、バランスを崩したなのはは床に倒れそうになった。そこをフェイトが支えて助けた。

 

「大丈夫?なのは」

「ありがとう、フェイトちゃん」

 まだ揺れてはいるが、なのはは何とか自力で立った。

 

「さっきの揺れ…多分、ティアナのスターライトブレイカーだね」

「そうだね」

 フェイトもなのはの推測に同意した。それしか考えられない。ここからじゃ外の様子は窺い知ることはできないが、さっきの揺れの大きさからしてかなりのダメージを与えたのは推測できた。しかし、それでもこの浮遊戦艦を完全に破壊するには至らなかったようだ。モノがでかすぎるのだ。

 

「せめてここから出ることができたら…」

 なのはは悔しがるがどうすることもできない。そこへティアナから通信が入った。

 

『なのはさん、フェイトさん、無事ですか!?』

「うん、私もフェイトちゃんも無事だけど、まだ閉じ込められたままなんだ。そっちはどう?」

『貫通させることはできたんですが駄目ですね。大きすぎて致命傷にはなりませんでした』

「そう……」

『いま、突入隊が編成されています。もう少し待っててください』

 通信はそれで切れた。巨大戦艦といっても人間が動き回れるスペースは限られる。なのはたちが閉じ込められている場所が突き止められるのにそう時間はかからないだろう。解放され次第、なのははエリアサーチで機関部を突き止めて動力炉を破壊して戦艦を大爆発させるつもりだ。

 だが、はやては突入部隊の編成を急ぎつつも突入命令を出すのには躊躇していた。なのはたちは知る由も無いが、浮遊戦艦の随所で爆発が起きていて突入部隊が危険にさらされる恐れがあったからだ。かと言って、このままでは浮遊戦艦は地上に落着してしまう。そうなれば、中にいるなのはたちも地上の人たちも死んでしまう。はやては自分が内部に突入したかったが、現場の総指揮を執っている身ではおいそれと最前線に立つわけにはいかなかった。部下だけを危険なところに向かわせるのは辛いが、はやてはそれを命令しなければならない立場である。

 

「隊長、突入隊のメンバーが決まりました」

 マリアが報告してきた。突入隊のメンバーはマリアとルナの双子コンビ以下10名。

 

「なんや、ルナも行くんか?大丈夫か?ルナ」

 はやてが気になるのはルナは先の浮遊戦艦への砲撃で魔力の大半を消耗してしまっていたからだ。

 

「大丈夫です。マリアと一緒ですから」

「えっ?あ、ああ、そうやったな」

 双子であるルナとマリアには二人同時で発動する魔法があった。

 

「わかった。二人にお願いするわ。ええか、時間はそんなにあらへんよ」

「はい!」

 危険な任務であることは二人とも承知していた。本来ならヴィータも突入隊に入るところだが、地上のデストロイドの掃討で手いっぱいだ。すでに、スカイファイターは全滅している。ティアナの砲撃で大穴が開いている浮遊戦艦からも新手が出てくる気配はない。自己修復機能がある浮遊戦艦もこれだけの大穴を塞ぐのは無理のようだ。

 

「ちゃんと全員生きて戻ってくるんやで。突入!」

 はやての号令で突入部隊が浮遊戦艦に突入していく。突入部隊は二手に分かれて行動する。ルナとマリアらの班はなのはとフェイトの捜索と救出、もう一班は浮遊戦艦の動力炉の探索と破壊が任務である。なのはたちのいる場所はティアナからの報告でおおよその位置はつかめている。ルナたちはまっすぐその位置に向かうが行く手をデストロイドの大軍が阻む。デストロイドは一斉にシールドを展開した。これで一般的な射撃魔法での撃滅はほぼ不可能となる。

 

「ルナ!」

「OK!」

 ルナはマリアの前で片膝をついて両腕を上に伸ばして両手を合わせた。その両手にマリアが両手を添える。

 

「「マジカルダブルフラッシャー!!」」

 二人の合わせた両手から魔力波が発射され数十はいたデストロイドを一瞬にして撃滅した。その威力はなのはのディバイン・バスターに匹敵する。

 

「まだ、こんなにいるってことは他のところにもいるってことだよね?ルナ」

「そうだね。急がなきゃ」

 なのは・フェイト救出班は手分けして二人が閉じ込められている部屋を捜索した。そして、班のメンバーの一人が破壊された壁の先に通路があるのを発見した。

 

「明らかに怪しいな」

「執務官殿と高町一尉はこの先に閉じ込められている可能性が高いな」

 それが判ってるのに誰も先に行こうとしない。罠を警戒しているのだ。そんな不甲斐ない男連中にマリアは「ハァーっ」と大きく溜息を吐いた。

 

「ここは私とルナで行くから、あなたたちは動力炉の探索班に加わって。行くよ、ルナ」

「ほいな」

 二人は通路を進んだ。通路は途中で行き止まりになっていた。

 

「なのはさんたちはこの向こうかな?」

 ルナが行き止まりの壁をさする。

 

「どいて、ルナ」

「どうすんの?」

「決まってんでしょ。この壁をぶち破るのよ」

「できんの?」

「フォースの出力を最大まで出して、この壁を切り裂く」

「そんなことしたらフォースが…」

「時間が無い。どいて!」

 ルナをどかせると、マリアは壁の前に立ち両手を組んで前に突き出した。そして、フォースの魔力刃の出力を最大にして壁に突き刺した。その壁の向こうではなのはとフェイトが救援を待っていた。二人には外の様子を知る術はなく、ルナたちがすぐそこまで来ていることすら知りようがなかった。だが、それで不安になっていたかと言えばそうではなく、救助隊が派遣されたことは知っているから安心して待っているという状況だった。だから、壁からいきなり魔力刃が突き出てもさほど驚きもしなかった。それは、フォースの魔力刃だった。マリアは両手を組むことで二つの魔力刃を一ヶ所に集中させることで威力を増大させたのだ。だが、壁を貫通させるだけでは意味がない。人間が通れるだけの穴を作らなければならない。

 

「ふん!」

 壁は思ったよりも頑丈で人間が横になって通れるぐらいの穴を作るのにも一苦労だった。しかも、出力を最大にし続けている(当然、カートリッジも使用している)ためフォースがバチバチし始めた。このままでは爆発の危険もあった。それでもマリアは止めようとはしない。時間的にも他の手段を講ずる余裕は無いからだ。

 

(お願い、もう少しだけ頑張って)

 苦労を共にした愛機に思いを託す。それが天に通じたのか、フォースは最後まで機能を停止することなく穴を作ることに成功した。その直後、フォースから黒い煙が出てきて、ぷすぷすと音がしてまるで役目が終えたかのように機能を停止した。だが、マリアにはそれを気にする暇はなかった。急いで、なのはたちを救出しなければならない。中に入った二人はなのはとフェイトを発見した。

 

「高町一尉、ハラオウン執務官、ご無事ですか?」

 なのははにっこり笑って、

 

「大丈夫だよ、マリア。二人ともありがとう」

 二人の無事を確認したルナはホッとした表情になったが、すぐにはやてに報告した。

 

『ルナ、マリア、ようやってくれたな。なのはちゃん、フェイトちゃん、大丈夫か?』

「うん、大丈夫だよ、はやてちゃん」

「私も大丈夫。それより状況はどうなっている?」

『さっき、動力炉を発見したという報告があったわ。でも、苦戦しているようやから悪いけど二人も現場に行ってくれへんか?』

「「了解!」」

 はやての指示でなのはたちが機関部に行くと、動力炉はバリアで守られていた。なのはが現場にいた者に状況を尋ねる。

 

「どう?」

「あ、高町一尉、動力炉を発見したのはいいのですが、ご覧のとおりバリアで守られていて…。バリア自体はそんなに強固ではないのですが、破壊してもすぐに新しいバリアを発生させるんですよ」

 なのはは試しにディバインバスターを撃ってみた。確かにバリアは破壊されたがすぐに再生してしまった。バリアの周囲には高圧電流が流れていて、3メートル以内に近づくと黒こげになってしまう。そうとは知らずに近づいて黒こげになった死体が転がっている。その死体を悲しげに見るなのはとフェイト。が、すぐに表情を切り替えてなのははレイジングハートを構える。

 

「私がバリアを破壊するからその隙にフェイトちゃんが動力炉を破壊してくれる?」

 それはフェイトに危険な仕事を任せるという事だ。バリアへのダメージが大きければ大きいほど再展開までの時間は長くなるだろうが、それは誤差ほどの違いでしかないだろう。にも関わらずフェイトは力強く頷く。

 

「わかった。任せて」

 それは二人が互いを信頼しているからだ。なのははフェイトなら限られた時間で動力炉を破壊してくれると、フェイトはなのはならバリアの修復に時間がかかるほどのダメージをバリアに与えられると信じているのだ。そして、二人以外の人間はこの二人ならどんな困難な任務でも成し遂げられると信じて疑わなかった。“最強”の 魔導師はさくらかルーシーだろう。しかし、“最高”の魔導師は間違いなくこの二人だ。

 

「あ、待ってください。高町一尉」

「どうしたの?ルナ」

「私もお手伝いさせてください!」

「え? でも…」

「大丈夫、マリアから魔力を分けてもらいましたから」

 双子のマリアとルナは互いに魔力を譲り合える特技を持っているのだ。

 

「うん、じゃ一緒にやろか」

「はい!」

 二人はデバイスを構えた。

 

「ディバインバスター!」

「ビッグバン・キャノン! …アターックっ!」

 二つの魔力波がバリアを直撃する。バリアは四散して動力炉までの道が開かれる。しかし、ぐずぐずしていたらまたバリアが展開されてしまう。だが、そのわずかな時間でもフェイトには十分だった。

 

「ハアァァァッ!」

 動力炉に突進して一撃する。動力炉は爆発を起こし誘爆が広がる。

 

「退避!皆、退避して!」

 なのはの指示で全員が浮遊戦艦から脱出する。その直後、浮遊戦艦は大爆発を起こした。地上も鎮静化したようだ。全員にはやてからの通信が入る。

 

『皆、お疲れさん。ひとまず任務はこれで終了や』

 

 

 

 

 

 地上本部襲撃から半月後、さくらは一番最初に入院した病院にいた。懸命な救命で一命を取りとめたさくらだったが、パワーを使いすぎたことでしばらく体が不自由な状態となっていた。気がついたときはもう病室のベッドの中だった。付きっきりでいてくれたらしいフェイトやエリオとキャロたちが状況を説明してくれた。あの後、管理局はレッドコメートの関連施設をすべて捜索したがダニエル・ジャッカルの身柄確保には至らなかったという。しかし、実態を暴露され幹部をはじめとする主戦力のほとんどを拘束されたうえに、切り札たるディアスのほとんどを使い尽くした状態ではもう彼に再起は不可能だった。そんな事はさくらにはどうでもいいことだ。彼女が気になるのはルーシーの処遇だった。フェイトからルーシーが洗脳されていた事や洗脳が解けた後に、なのはたちに協力した情状を考慮され保護観察付という条件で特にお咎めなしになった事を聞かされ安堵した。残る懸案は、今後のさくら自身の身の振り方である。帰る家はあるが、待っててくれる家族はいない。そこで、フェ イトはある提案をさくらにした。

 

「ねえ、さくら、皆とも相談したんだけど私と一緒に暮らさない?」

「えっ?」

 それは、さくらが思いもしなかった提案だった。彼女とフェイトは全くの赤の他人である。フェイトにさくらを引き取る義理も義務も無い。

 

「どうかな?」

「え、えっと……」

 さくらは返事に窮した。

 

「い、いいんですか?」

「私は大歓迎だよ」

「で、でも、私こんな体だし…きっとフェイトさんのご迷惑になると思います……」

 いまの全身不随は時が経てば回復する。しかし、それでもさくらはこれからの人生を左腕と右足が無いという大きなハンデを背負って生きていかなくてはならないのである。さくらはこれ以上フェイトに迷惑をかけたくはなかった。そんなさくらの右手をフェイトは両手で握りしめた。

 

「君の力になりたいんだ。君の支えになりたいんだ。人ってね、一人だととても寂しいんだよ。寂しいと人は考えや思いが良くない方に行ってしまうんだ。私の母さんもお姉ちゃんを失った寂しさから道を外れてしまった。私はそんな母さんの力になりたい、支えてあげたいと思って頑張ったけど結局は母さんを救うことはできなかった。だから、一人で寂しい子を見ると放っておけないんだ」

「フェイトさん……」

「いますぐに返事はしなくていいよ。まだ退院までしばらくかかるだろうから、それまでじっくり考えて」

 それ以来、フェイトは忙しい合間を縫って見舞いに来た。フェイトだけじゃない、エリオやキャロ、なのはやティアナも見舞いに来てくれた。他にもスバルにヴィータも訪れた。知らない世界で身寄りもいないさくらをなるべく寂しくさせない気遣いだった。それでも、誰も来ていない時間帯というものはどうしても発生してしまう。 その時は孤独であることの寂しさや将来への不安に苛まれる。そんなある日、病室で一人寂しくしていたさくらは窓からの風でカーテンがなびくのに気を取られ、そっちの方に目をやった。そして、それが有り得ない状態であることにようやく気付いた。さっきまで窓は閉まっていたはずである。いまこの病室はさくら以外誰もいない。 一体、誰が…。調べようにも体を動かせる状態ではない。誰か侵入したのか……。しかし、誰もいない…。開いている窓はずっとさくらの視界に入っていた。誰か侵入したらすぐに気づくはずだ。状況がつかめないことに不安になってきたさくらは、ここに至ってようやく自分の隣に誰かの気配を感じた。バッと隣に目を向けると、緑色の長い髪の美女が椅子に座ってリンゴを包丁で剥いていた。

 

「あ、あなたは…」

「久しぶりだな」

 そうさくらに語りかける彼女はさくらをゼクエスの帝王候補にした魔女だった。

 

「随分とひどくやられたものだな」

「…何をしに来たんですか?」

 さくらは魔女から顔を背けて俯きながら訊ねた。

 

「見ての通り、見舞いだ」

 ほれとばかりに魔女は床頭台に置かれたフルーツの入ったバスケットを顎で指す。さっきまでは無かったから魔女が持ち込んできたものに違いないだろう。

 

「あ、ありがとうございます」

 一応礼は言ったものの、彼女にしては似合わない事するなとさくらは思った。こういう事するイメージの女性では無いと思っていたからだ。リンゴをカットし終えて 皿を床頭台に置いた魔女はさくらに訊ねた。

 

「私を恨んでいるか?」

 この魔女によってさくらは人間ではなくなり戦いの運命を背負わされ、挙句の果てに左腕と右足を失う羽目になった。魔女を恨んでも無理はない。だが、さくらは首を横に振った。

 

「あなたは私に生きる希望と目的をくれました。あなたと出会ったからいまの私がいる。確かに辛い事もありましたが、それ以上にたくさんの人たちとも知り合えました。それに、あなたと出会わなくて普通の女の子のままだったとして、いまよりも幸せになっていたかなんて誰にもわからないじゃないですか。だったら、あなたを恨むどうのなんて考えてもしょうがない事でしょ」

 そう言うさくらの目に嘘はなかった。少し見ない間に随分と成長したものだと魔女は内心感心した。やはり、さくらには帝王としての素質がある。魔女はさくらを選んだ自分の目に狂いは無かったと確信した。

 

「それで、これからどうするつもりだ?」

 魔女の問いにさくらは表情を厳しくした。その問いの意味を悟ったからだ。

 

「…私はもう彼女とは戦いません」

「そうか……」

 それだけ言うと魔女は後は黙った。彼女の役目は帝王候補となりうる人材を探し出して導く事だけで、それ以外は本人の自由意思を尊重することになっていたからだ。 それに、永いゼクエスの歴史の中で必ずしも帝王候補の争いで帝王が誕生したわけではなく何度かの空位の期間もあった。しかし、それらは一代かぎりの空位でその次 は必ずその時代の帝王が即位していた。それがここに来て、先々代、先代と立て続けに空位となる事態となり、もしこの時代でも帝王が生まれない事にもなれば三代続けて空位となる前代未聞の非常事態になってしまうのだ。なにしろ、前例の無いことなのでそれがどのような影響を及ぼすのかは魔女にも神官にもわからない。その事を魔女はさくらに伝えようとはしなかった。あくまで、さくらの自由意思を尊重したかったからだ。

 

「すべてはお前の意思だ。それは置いといて食え」

「いただきます」

 さくらは魔女が差し出したリンゴを食した。さくらの世界で買った物なのかそれともリンゴの味は万世界共通なのかリンゴの味はさくらが知っているリンゴと同じ味だった。その時、病室のドアをガラガラと開く音がしてさくらは慌てた。魔女を見られてはまずい。そこへ窓から強風が吹いてきてさくらと病室に入ろうとしていたキャロとエリオを襲った。そして、三人の視界が遮られている間に魔女は姿を消していた。

 

「すっごい風だったね、エリオくん」

「そうだねキャロ、窓が開けっ放しになってたからだな。さくら、窓を閉めてもいいかな?」

「は、はい、お願いします」

 魔女が状況を理解して自分から姿を消してくれた事に安堵しながらさくらは返答した。キャロが窓を閉め、エリオが見舞いのケーキを差し出した。

 

「はい、お見舞い」

「あ、ありがとうございます」

 さくらはケーキを受け取った。右腕だけはどうにか動かせるまでに回復していた。

 

「あれ?」

 エリオは皿に盛られているリンゴに気づいた。

 

「誰か来てたの?」

「あっ、それは……」

 言いかけてさくらは止めた。うっかり魔女の事を話してしまうところだった。魔女の事を話せば時空管理局は彼女のことを捜査するだろう。さくらはそんなことはしたくなかった。返事に窮しているさくらを見てエリオはそれ以上は聞かないことにした。いまのさくらに自分達以外の人間が見舞いに来ることは有り得ず、いるとしたらさくらの態度からして一人しかいない。さくらをゼクエスの帝王候補にしたという魔女だ。だが、エリオはその事についてそれ以上の追及はしないことにした。さくらとその魔女との間にも何かがあるのだろう。リンゴを差し入れた事からして関係は悪くないようだ。エリオは話を変えることにした。

 

「体の調子はどう?」

「おかげさまでだいぶよくなりました」

 それはさくらの社交辞令だった。体の回復はようやく右腕が動かせるようになったまでしか至っていない。なにしろゼクエスを診たことがある医者がいないので外傷の治療以外は自己回復に委ねるしかないのだ。

 

「早く良くなってね。元気になったら一緒にあそぼ」

「はい、ありがとうございますキャロさん」

「もう。“さん”なんて付けなくていいよ」

「え、でも、フェイトさんの同輩の方にそんな失礼な事は……」

 さくらの発した言葉にエリオとキャロは顔を見合わせた。

 

「ねえ、前から気になっていたんだけど、さくらちゃんは私とエリオくんをいくつぐらいに思っているの?」

「え?フェイトさんとそんなに変わらないんじゃないんですか?」

 自分と同年代と思っていたヴィータがフェイトとほぼ同期だと聞いたので、さくらはこの世界の人間は外見と年齢がイコールではないと誤解したままだった。エリオとキャロは「やはり」とばかりに苦笑いを浮かべた。

 

「さくら、僕たちは君と歳はそんなに変わらないよ」

「そうなんですか?」

 さくらは本気で驚いた。

 

「そう、だから私の事は“キャロ”って呼んで」

「は、はい……キャロ…さん」

「だから“さん”はいらないよ」

「すみません、私他人を呼び捨てにしたことがないんです」

「え? だったら“ちゃん”付けでいいよ」

「すみません、“ちゃん”付けもしたことがないんです」

「仲の良い友達に対しても“さん”付けなの?」

「私、友達いません」

「あ…」

 キャロはまずい事言っちゃったなと思った。

 

「ごめんね」

「いいえ、キャロさんが謝ることじゃないです」

「でも、どうして友達がいなかったの?ごめんなさい、こんな事を訊いて」

「気にしないでください。私、小さい頃に母親を亡くしてそのショックでちょっと他人との距離を離してしまったんです。母のように強くなろうと剣道に打ち込むようになって一生懸命だったから友達と遊ぶとかには頭が回らなかったんです。あの当時の私は強くなることしか頭に無くて、友達とかそういうのは考えないようにしていました。寂しいと思った時はありました。でも、それは弱さだと無理矢理押し込めていたんです」

 さくらはここで一呼吸置いた。エリオとキャロは黙って聞いている。

 

「それがキャロさんやエリオさん、フェイトさんに他の人たち、そして彼女と出会って自分が間違っていることに気づきました。私は母親のように強くなることしか頭にありませんでした。それは実は違っていたんです。私、思い出したんです。母が教えてくれた本当の強さってただ相手を倒すんじゃなくて誰かを守るためにあるんだって事を。母さんもフェイトさんたちも皆、強いだけじゃなくてとても優しい人たちでした。だから、私も自分が間違っていたことに気づけたんです。フェイトさんに言われました。人間は一人では生きてはいけないって。だから私を引き取るって言ってくれたんです。正直、嬉しかったです。でも、こんな私が…とも思ってしまって。どうしようか迷ってます。他人に甘えていいのかなって。私はいろんな人に迷惑をかけました。それもフェイトさんが言う寂しさが原因だとしたら私にも友達という存在が必要だということはわかります。でも、こんな私に友達になってくれる人なんて……」

 目を伏せて落ち込むさくらの方にエリオは手を置いた。

 

「さくら、僕たちがいるじゃないか。僕とキャロは君の友達だよ」

「そうだよ。同年代だってわかったんだから気兼ねなく友達になれるでしょ」

「いいんですか?だってお二人とお会いしてそんなに日日も経っていないのに」

「友達になるのに必要なのはどのくらい付き合ったかじゃないんだ。友達になりたいという気持ちが一番重要なんだ。僕は君と友達になりたい。キャロもそう思っている。さくらは僕らと友達になるのは嫌かい?」

「いいえ、そんなことは」

「だったら、いまから僕たちは友達だ」

「えっ……」

 あっさりと友達ができたことにさくらは戸惑った。

 

「は、はい、よろしくお願いします」

「なんか他人行儀だな。友達なんだからもっと打ち解けていこうよ」

「そうですね、エリオさん…あ、すみませんエリオ…くん」

 エリオくんと呼ばれてエリオは嬉しそうな顔をした。それを見たキャロが私もという顔でさくらを見る。

 

「えと、キャロ…くん?」

「え?」

 キャロは目が点になった。

 

「もう、どうして私が“くん”なの?」

「す、すみません、つい…」

 二人の掛け合いを見てエリオが笑いだす。

 

「もう、エリオくん、笑いごとじゃないよ」

「ごめんキャロ、ついおかしくなって」

「すみませんキャロさん、どうもキャロちゃんというのがなんか恥ずかしくて」

「だったらしょうがないけどできるだけ早く慣れてね。あと、友達なんだから敬語で話すのはもう無しだよ」

「はい、わかりました」

「もう、言ったそばから」

「すみません、いえ、えと…ごめんなさい」

「まあ、そういうのはおいおい直していけばいいよ。焦る必要なんかないんだから」

 なんて優しい人たちなんだろう。さくらはそう思った。他人に優しくしてもらえたのはこの世界に来てからだ。いや、本当はさくらのいた世界にも優しい人たちはいた。さくらがそれに振り向こうとしなかっただけだ。他者の好意に甘える事、他者の力に頼る事、それは弱者のする事だと思っていた。でも、いまは違う。人間は一人では生きてはいけない事をさくらは学んだ。

 

「私は…ここにいていいんでしょうか?」

「え?」

 不意なさくらの言葉にエリオとキャロは一瞬きょとんとなった。が、すぐにその意味を悟った。

 

「それは僕らが決める事じゃないよ。どこにいたいかは自分自身が決める事だ。君はここにいたくないのかい?」

 さくらの言う“ここ”が病院ではなくこの世界の事であることをエリオは察していた。

 

「私は……」

 本音はここにいたい、フェイトたちと一緒にいたいと思っている。だが、それを口にするのにどうしても躊躇いがあった。さくらは自分から願望を口にしない子供だった。すべてのことに受け身なのだ。彼女の中にある攻撃的な面はすべて剣道の稽古のときに集約されていた。それが彼女の強さの秘密でもあった。しかし、ルーシーやフォーサイズとの戦いで、さくらの中にあった攻撃的な性格はまったく消え失せてしまっていた。

 

「さくら、僕らは君にどこにいろとか言うことはできないし、したくもない。それは君自身が決めなけれないけない事だ」

「エリオさん……」

 確かにエリオの言う通りだ。さくらは意を決した。

 

「私は何の取柄も無いし、それにこんな体だからきっと皆さんにご迷惑をかけると思います。それでも皆さんが受け入れてくれるのなら私はここにいたい。いさせてほしいです。エリオさん、あ…エリオくん、キャロさん、こんな私ですがよろしくお願いします」

 さくらは深々と二人に頭を下げた。

 

「頭を上げてよ、さくらちゃん。友達同士でそれはおかしいでしょ」

「あ、そう…だね」

 “そうですね”と言いかけて言い直したさくらに二人は苦笑する。

 

「ご、ごめんなさい。でも、やっぱり御二人の方が年上だから……」

「友達なんだから気にしないでいいんだよ、さくらちゃん」

 それがいままで友達がいなかったさくらには今一つ理解できないことだった。エリオとキャロも口調を無理に改めさせるのはやめておいた方が良いと判断した。いくら時間をかけてゆっくり変えていくと言っても、改めていかなければならないという意識が常在してしまうためそれがさくらの負担となるのが嫌だからだ。

 

「さくら、無理に喋り方を変えなくていいよ。さくらが話しやすい喋り方でいいから」

「あ、ありがとうございます」

 さくらはホッとした顔を見せた。キャロはまだ不満そうだが、無理強いするのはよくない事も理解しているから黙っている事にした。喋り方を気にせずに済むと知ったからか、その後はさくらもエリオとキャロと気兼ねなく会話できるようになった。話は盛り上がり所々でさくらが笑顔を見せるようになった。さくらは気づいていなかったが、それは母親が死んで以来さくらが他人に見せる心からの笑顔だった。初めて見るさくらの笑顔にエリオとキャロの顔も綻ぶ。特にキャロはもっと打ち解けて行けば自然と敬語ではなく友達として対等な話し方をしてくれるようになるに違いないと期待していた。

 

“コンコン”

「はーい、どうぞ」

 ドアをノックする音が聞こえ、さくらが招くとドアが開いてフェイトが入ってきた。

 

「あ、エリオたちも来てたんだ」

「はい、今日は早く仕事が終わったので。フェイトさんこそ、新しい任務が入ったからここにはしばらく来れなくなるって言ってたじゃないですか」

 それを聞いて、さくらの顔が曇る。フェイトに亡き母の面影を見たさくらは彼女を母親のように思えるようになっていた。まだ、その事は誰にも言っていない。まだ 若いフェイトを母代わりにするのは失礼だと思ったからだ。そのフェイトがしばらく来れないと知ってさくらは寂しくなった。しかし、フェイトの仕事の重要性も十分 に理解しているので引き留めてはいけないという分別も弁えていた。もともと他者に自分の意見を言う事を苦手としている娘だ。とはいえ、寂しいのには違いない。極 力、顔には出さないようにはしたが、フェイトの事になると正直に顔に出るようだ。さくらの心情を察したフェイトは彼女の傍に行くと頭を優しく撫でた。

 

「ごめんね、さくら。仕事でちょっと来れなくなるんだ」

「私の事は気にしないください。フェイトさんのお仕事が大変だってことは知ってますから」

「いい娘だ。私は来れないけど、エリオやキャロもいるし他の皆も時間が取れたらお見舞いに来るって言っているから」

「はい」

 理解したように頷くさくらだが、まだフェイトが来れないという寂しさを紛らわせてはいないようだ。それを見てキャロはまだまだフェイトには敵わないと思った。

 

「それに、彼女だっているからね」

「彼女?」

「うん、本当はもっと早く会わせたかったけど、二人の気持ちの整理が落ち着いてからの方がいいと思ってね」

 そう言うと、フェイトはドアの方を振り返った。

 

「入ってきて」

 フェイトの合図で病室に入ってきたのはルーシーだった。

 

「ブランケットさん?」

 さくらは驚いた。まさかルーシーが来るとは思っていなかったのだ。

 

「どうしてブランケットさんが?」

 その質問にフェイトが答えた。

 

「私が連れてきたんだ。ルーシーはまだ会うことはできないって言ったんだけど、このままじゃいつまでも君たちを会わせることができないと思ってね」

「……」

 フェイトの好意にさくらは複雑になった。ルーシーと同じくさくらも相手に会うことはできないと思ってた。もう戦わないと決めた二人。しかし、二人は既に相手に取り返しのつかない傷を負わせてしまった。さくらはルーシーの左目を、ルーシーはさくらの左腕と右足を奪ってしまった。そんな負い目があるため二人は互いに会うことはできないと思い込んでいたのだ。

 

「……」

「……」

 二人は互いを見つめたまま黙っていた。心の準備ができてないまま会ったのだから無理もない。二人とも何か言おうとはするのだが、言葉が出てこない。見かねてキャロが口を出そうとするのをフェイトが制止した。フェイトも二人を会せるのはまだ早かったかと思ったが、このままではずっと二人は会って話し合う機会は無いだろうと思い直し、二人の意思で会話が始まるの待つことにしたのだ。

 

「あ、あの…」

 ようやく意を決したさくらが口を開いたが、言葉が続かない。元々、自分から話しかけることが少ない子だ。ましてや因縁がある相手だ。ルーシーもそんなさくらの性格を知っているので、そのさくらが頑張って自分に話しかけようとしているのを見て自分も躊躇している場合じゃないと思った。

 

「…ごめん」

 考えた末に出たのは謝罪の言葉だった。まずは謝罪すべきだと思ったからだ。

 

「君にはひどい事をしてしまった。謝っても謝り切れない事は自分でもわかる。本当にごめん」

 頭を下げるルーシーにさくらは慌てて頭を上げるように言った。

 

「わ、私の方こそ顔に傷つけて、ご、ごめんなさい」

「ううん、私は君が話し合おうと言っても聞く耳を持たずに斬りかかってしまった。そのために君を危険な目に遭わせてしまった。悪いのは私の方」

 ルーシーはずっと後悔していた。普通の女の子だったさくらを一時的にしろ戦闘マシーンのようにしてしまった事を。もっと冷静になるべきだった。俯くルーシーの手をさくらは握った。

 

「違うよ。あなただけじゃない。悪いのは私も同じだよ。私たちが関係ない人たちを巻き込んで多くの人を傷つけてしまった。だから、謝るのは私たち二人でないとダメだと思う。もう私はあなたを憎まないし、あなたが私にしたことはすべて許します。だから、もう私に気を使うことはしないで」

「本当に許すの?君をそんな体にした私を」

「それはお互い様でしょ」

 片目と手足では割に合わないと思うが、それでも自分を許すと言うさくらにルーシーは感謝した。

 

「ありがとう、なら私も君を許します」

 ルーシーはさくらの手を握り返した。ここで二人はやっと笑顔を見せあった。それを見て、フェイトたちは安堵の表情を浮かべた。フェイトは時間はかかるだろうが、この二人ならきっと仲良くなれると信じていた。互いに相手を命を懸けてまで助けようとしたのだ。その二人が仲良くなれないはずがなかった。

 

「さくら、ちょっと外に行こうか。ルーシーたちも一緒に」

「あ、はい」

 フェイトの提案にさくらは頷いた。フェイトに抱きかかえられ車椅子に乗せられる。車椅子は左腕が無いさくらでも自分で動かせるように右側にリモコン装置が取り 付けられている。もっとも、さくらが車椅子に乗るときは誰かと一緒なので実際に使うことはほとんど無いのだが。病院から外出許可をもらったさくらたちは病院の外に出て公園に行った。さくらにとって入院して以来初めての外出だ。同じ景色ばかりじゃ気が滅入るだろうというフェイトの気遣いだ。それに、さくらとルーシーの和解を演出するには病室は少し殺風景すぎる。

 

「きれいなところですね」

 さくらが感想を述べる。思えばこうして景色を楽しむゆとりは無かった。この世界に来てこれほど穏やかな気持ちでいられたのは初めてだ。生きるか死ぬかの戦いを経験して、さくらは平和がいかに大事であるかを身に染みて思い知った。

 

(フェイトさんたちはこの平和を守る仕事をしている。私もそのお手伝いをしたいけど……)

 それが叶わぬ事なのは自分が一番わかってる。これからの人生を考えると不安でいっぱいだ。でも、悲観はしていない。支えてくれる人たちがいるからだ。そして… さくらは隣を歩くルーシーを見上げた。

 

(私にはブランケットさんがいる)

 たった二人しかいないゼクエスの帝王候補だ。その絆は何よりも固く結ばれているとさくらは確信している。そして、それはさくらにとってルーシーがかけがえのない存在であることを意味していた。さくらの視線に気づいたルーシーが目を向けると、さくらは照れ臭くなって目を伏せた。その時、さくらはルーシーのリーダーが無いことに気づいた。

 

「ブランケットさん、リーダーは?」

 ルーシーはカードをリーダーに読み込ませることで変身する。

 

「ん?ああ、あれね。あれは返したよ」

「返した?」

「うん、もう私には必要ないからね。あれは人を不幸にする力だ。だから私はミッドチルダの魔導士に戻ることにしたんだ」

「そ、そうなの……」

 さくらはがっかりした。たった一人の同胞だと思っていたのに。さくらは寂しい思いになった。その、さくらの手にルーシーはそっと自分の手を添えた。

 

「勘違いしないで。ゼクエスの力を封印しただけで、この体が元に戻ったわけじゃないから。私と君が同じゼクエスなのはこれからもずっと変わらないよ」

「ブランケットさん……」

「私ね、ずっと戦争の無い平和な世界を作りたいと願っていた。だからゼクエスの帝王になろうとした。でも、君と出会って戦っているうちに他人を傷つけてまで得る平和には何の価値も無いって知らされた。そのことに気づかせてくれた君には本当に感謝している。さっき、君が言ったように私たちは多くの人たちを傷つけてしまった。その償いのために、そして私の願いを実現するために私は執務官になる事にしたんだ」

「えっ?」

 さくらは驚いてルーシーをまた見上げて、そしてフェイトに視線を移した。

 

「本当なんですか?フェイトさん」

 フェイトはニコッと微笑んで頷いた。

 

「本当だよ。執務官になるのは難しいけど、ルーシーなら大丈夫だよ」

 まだ、いまいち時空管理局についても執務官についてもよくわかっていないさくらだが、警察みたいなものだとは何となくわかる。

 

「皆さん、すごいですね……」

 さくらはボソッと呟いた。ほぼ同世代のルーシーやエリオやキャロは世のためになる仕事をしている。なのはやフェイトはさくらより年下の時から時空管理局の仕事を手伝っていたという。

 

(私だって、こんな体じゃなかったら……)

 強さに関してはルーシーにも引けを取らない自信はある。最強の魔導士としての自負はルーシーよりもある方だった。それが、肝心の時にほとんど役に立たなかったという自責の念がさくらの中にあった。だが、それで挫けていても何にもならない事をさくらは知っている。こんな体になったのは誰のせいでもない。だから、せめて 自分でできる範囲でやれることをやろうとさくらは思った。

 

(私にもできる事……)

 さくらはルーシーの手を握りしめた。

 

「頑張ってください。ブランケットさんなら大丈夫ですよ。私は応援する事しかできないけど、その代わり精一杯応援しますから」

 それが自分にできる一番の事だとさくらは思った。

 

「ありがとう、頑張るよ」

 さくらの手を両手で握り返してルーシーは誓った。二人は固い絆で結ばれたかに思われた。だが、キャロはさくらの変化に気づいていた。

 

(さくらちゃん、ルーシーちゃんへの言葉使いが敬語になっている…)

 さっきまでは普通に話していたのに、ルーシーが執務官になろうとしていると言った時から敬語を使うようになっていたのだ。時空管理局という重要な仕事を始めようとしているルーシーを無意識に目上の人間と判断してしまっているのだ。無意識なので、さくら本人にも言葉使いが変わっていることはわからなかった。キャロは心配になったが、下手に口を出すものではないと思い見守ることにした。

 

「…あのね、お願いがあるんだ」

 さくらの手を握りしめたまま俯いて何事か考え事をしているようだったルーシーが顔を上げて言った。

 

「なんですか?」

「執務官になるのは言葉で言う以上になるのが難しい事なんだ。もちろん、私は挫けるつもりはないし最後まで全力で頑張るつもりだけど、でも心の支えが欲しいんだ」

「心の支え?」

「私には物心つく前から家族はいなかった。仲間はいたけど、皆死んでしまった。そして、私にはずっといなかった存在があった。ずっと欲しいと思っていたけど、それを求める事すら諦めていた。でも、その欲しかったものがいま手に入りそうな気がするんだ。もし、君さえよかったら私の友達になってくれないかな?」

「えっ?」

 いきなりの申し出にさくらは戸惑った。無論、さくらとてルーシーと友達になることは嫌ではなかった。しかし、執務官になろうとしているルーシーにいまの自分みたいな他人の力を借りなければ日常生活すらまともに送れない人間が友達になっていいものなのかという不安があった。

 

「いいんですか?こんな私で……」

「私には君しかいないんだ。ダメかな?」

「い、いえ、こ、こちらこそ、お、お願いしますでありますっ」

「ふふっ、固くなりすぎだよ。あと、もう一つお願いがあるんだ」

「なんですか?」

「君の事を“さくら”って呼んで良いかな?」

「いいですよ。よろしくお願いしますブランケットさん」

 すると、ルーシーは首を横に振った。

 

「私の事は“ルーシー”って呼んで、さくら」

「は、はい、ルーシーさん」

「あと、敬語は禁止だよ」

「え? あっ」

 ここでようやくさくらは自分がいつの間にかルーシーに対して敬語を使っていることに気づいた。

 

「ごめんね、気がつかなかった」

「さくらって意外とうっかり者なんだな」

 エリオがからかうように言い、皆が笑い出した。さくらもルーシーも笑った。

 

(友達か……)

 ルーシーと違って、さくらは友達が欲しいと思った時はなかった。だが、今日エリオやキャロそしてルーシーと友達になった事で自分の本当の気持ちがわかった。

 

(私は本当は友達が欲しかったんだ)

 一人で寂しいと思った時はいくらでもあった。その時は剣道に打ち込んで振り払った。寂しいと思うのは自分が弱いからだと思い込んでいた。だが、違った。強い者でも友達は必要なのだ。

 

(友達ができるってこんなに素晴らしいことなんだ)

 そのことに気づかせてくれたルーシーやフェイトには感謝している。この人たちとならこれからの事もそんなに不安になることもないのではと思えるようになった。

 

「フェイトさん」

 さくらはフェイトを見上げた。

 

「なに?さくら」

「私にもやれる事が見つかりますか?」

「見つかるよ。皆で一緒に見つけて行こう」

 優しく微笑むフェイトに、さくらはもう何も不安になることはないと確信した。自分にもやれる事、それは自分がやりたい事でもある。さくらがやりたい事それはルーシーの応援だが、それだけでなく手助けもできるようになれば友達としてこんなに嬉しいことはない。

 

「私…私もゼクエスを封印します。封印して一から魔法を学びます。こんな体だからあまり大したことはできないと思うけど、それでもルーシーさんやフェイトさん達 の力になれるように頑張ります」

 さくらの決意にフェイトたちは一瞬驚いたが、すぐにその決意を嬉しく感じた。

 

「君ならできるよ、さくら」

「ありがとうルーシーさん。私にこの決意をさせてくれたのはあなたのおかげよ。いろいろあったけど、でもそれがあったからいまの私たちがあるんだね。いまだから言える。あなたは私の最高の友達です」

「うん、一緒に頑張ろう」

 二人は固く握手した。

 

 




これで本編は終了となります。あとは、おまけや番外編や後日談を少々やりたいと思っています。ただいまのところ多忙を極めていまして執筆の時間がまったく取れない状況でしてボチボチとやっていこうかと。
さくらとルーシーを最強の魔導士という設定にして以来、なのはとフェイトをどう活躍させるか悩みどころでした。とくにフェイトは初戦でいきなりバルディッシュを破壊されてしまいましたから。ゼクエスの強さを表現するには必要な演出だと思ってやってみたんですが。二戦目でどうにか名誉を回復させることができました。なのはも出番が少ない割には活躍させることができて最後においしいところを持って行かせることができました。やはりシリーズの主人公を優先すべきですからね。その一方で、さくらとルーシーの強さを演出するための生贄となったヴィータやスバルたちは気の毒でした。
他の方々の作品を拝読していると、何十話も続いているのが多いですね。そこまでの根気が無いから13話で終わってしまいました。この13話というのはアニメがだいたい13話くらいで終わるからそれに合わせてみただけです。
拙作をお読みいただいたことを感謝いたします。
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