どうも皆様、昨今のホラゲーが怖すぎて仕方ない萃夢想天です。
技術の向上の思わぬ弊害と言いますか、とにかく、VRでホラゲーなんて
考えた奴は命知らずかサイコパスか、あるいはクレイズマッドの三択でしょう。
さて、そんなことは遥か彼方へ置きまして。
自分で思っていたよりも早く更新できそうなことに驚いています。
いえ、本当ならまたしばらくはかかるかなぁと思っていたんですよ。
まぁ私も速く続きを書きたかったので、気持ちの問題もあるのでしょうか。
長々と私が話しても何の得にもならなそうなので、本編へ行きましょう!
それでは、どうぞ!
「___________ろう、遼太郎!」
誰かが呼んでいる。俺の名前を、呼んでいる声が聞こえる。
「遼太郎! せっかく見舞いに来てやったのに、なんで寝てんだよ!」
「…………魔理沙か」
すぐそばでやたらうるさい声が響くと思って目を開けたら、そこには見知った美少女の顔が。
俺の眼が真上から少し右にゆっくり動き、そこにいた金髪の快活な女の子を視界に捉えた。
美少女という枠を、ぶっちぎりで超越しかねない彼女の顔は、今は不満げに膨らんでいる。
そりゃあまぁ、彼女も言ったように、せっかく見舞いに来たのに相手が寝てたら怒るわな。
「なんだよその言い草! 人がどんだけ心配してやったと思ってんだ⁉」
「してやったとか言うなよ………そこはせめて、嘘でも普通に"した"と言ってくれ」
「嘘でした」
「違う、そうじゃない」
可愛らしく憤慨する魔理沙との言葉遊びを楽しみながら、俺は自分の状態を再確認する。
今日は四月の末。つまりは、遠足の日からちょうど三日経った日にあたるわけだ。
当日のことはよく覚えてる。なにせ、今からたったの三日前のことだし、それにあれだけの
非日常が起きれば、嫌でも記憶に残っちまうよな。本当に嫌なことしかなかったわけだが。
あの日、俺は遠足を途中で抜け出したレミリアと咲夜を探して、あちこちを探し回った挙句、
何の因果なのかは知らないが、貴族様のふざけたマッチポンプにまんまと踊らされたのだ。
自分の従者、つまりはメイドの実力を示すために、わざと自分たちを誘拐させたりして、
それに一庶民の俺は巻き込まれたわけで。いや、正確に言えば首を突っ込んだのは俺だけど。
とにかくそこで、銀髪の美少女こと、レミリアのメイドらしい咲夜とそこでひと悶着の後に、
急ごしらえのペアを組んで、見事貴族様の自作自演の試練に臨み、何とかクリアに成功。
したまでは良かったんだがなぁ………。
「それにしても遼太郎、腹は大丈夫なのか?」
「ん? ああ、今んところは痛まないし、問題ねぇよ」
「そっか、それなら安心だな!」
「一応心配してくれてたんだな」
「一応とはなんだ、一応とは!」
魔理沙に尋ねられ、それとなく対応しながら、俺は腹部に巻かれた包帯を軽く触ってみせる。
そう、俺はレミリアを救出した後、ナンチャッテ誘拐犯の一人の暴走を、体を張って止めたのだ。
この言い方をすればカッコよく感じられるだろうが、実際は単なるとばっちりでしかないわけで、
本来ならこの傷を負うのは、あの咲夜だったはずだったのだが、俺が身代わりになったという事。
子供二人に負けたことがプライドに傷をつけたのか、咲夜の件も解決して帰るだけとなった時に、
ナイフを手にして逆上した男が彼女らに向かっていくのを、体当たりを食らわせて防いだ。
ここまでなら俺は勇者だったんだが、そのあとがお粗末だった。
もつれあいながら倒れた男と俺。その拍子に、男の握っていたナイフは、床へと同時に倒れゆく
俺の腹部に吸い込まれるようにして刺さり、あまりの痛みと出血量のせいで気を失ってしまう。
意識が黒い海に呑まれてから実に丸一日の後、俺はこの病室で目覚めたということなのだ。
ぶっちゃけた話、俺は外人にナイフで腹を刺されて、病院送りにさせられたってわけ。
「遼太郎殿、その傷は男の勲章でござるぞ!」
「卓村、お前も来てくれたのか」
「拙者も、事情を知るもの故」
「そうか…………メルランは?」
「用事があって来られぬと」
魔理沙よりも少し遅れて、肥えた体に曇ったメガネの男、卓村が息を切らせて病室に現れた。
鼻息が顔に当たって生暖かく、気色悪さを三割増しに増長させているが、無視しておこうか。
意識が無かった間を含めても、俺はこの病室に移って三日目。だというのに、昨日の午後も
含めて、クラスの男子や魔理沙など、結構な人数が俺へのお見舞いに来てくれた。超嬉しい。
前の学校にいた時なんかもう…………いかん、思い出すだけ辛くなりそうだから止めとこう。
「しかし遼太郎殿、傷の具合は如何ほどと?」
「あー、先生の話だと、安静にしてれば二週間も経たずに退院できるとさ」
「おお! それは良うございましたな!」
「………傷も深くないし、重要な器官や血管とかも斬られずに済んだとは言ってもさ。
情けないと思わずにはいられないんだよな。正直なところ、恥ずかしさの方が勝ってる」
卓村がそれとなく気遣ってくれるのが分かり、少し照れくささを禁じ得なかった俺は、
病院で患者が着ることになってる薄手の服を肌蹴させ、腹部の包帯を擦りつつ笑った。
「何を言うかと思えば。遼太郎殿ご自身が息災なれば、それで充分でござろうに」
「んなこと言っても」
「そーだよなー、確かに情けないとはあたしも思うぜ?
だって、帰る途中に転んで、そこにあった小石が腹に刺さってこうなったんだろ?」
そんな折に、魔理沙が両腕を頭の後ろに組みながら、含みのある笑みを浮かべてそう呟く。
今回の件は、公には一切明かしていない。あの貴族様のした自作自演も、俺の傷の理由も。
何故そうしたのかと言われると、俺自身もよくは分からないし、上手く言葉にできないと思う。
俺はレミリアのことは嫌いだから、別に今回の一件を誰かに話しても構わないと考えているが、
もしそれが多くの人に知られると、たちまちスキャンダルとして大きく取り扱われることは必至。
自業自得だと言ってしまえばそうなんだろうけど、とにかく俺はそういう事にはしたくなかった。
だから俺は、すぐに見舞いに来てくれた卓村に、今回のことの一切を秘匿しようと持ち掛けた。
もちろん、恩を売ろうという事も考えてはいないし、そもそもあのチビがここへ来たことなど
一度もない。形としては巻き込んだ側になってるはずだろうに、酷い奴だとつくづく思う。
けど、それでも俺は黙っててやろうと決めたんだ。念押しするが、チビ貴族のためじゃない。
俺が今回の事を公表しない理由、その対象となる人物が、さらに後からやって来た。
「んお? 咲夜じゃんか、お前も見舞いか?」
「ブヒィ! こここ、これは咲夜嬢!」
「…………………まぁ、そんなところ」
噂をすればなんとやら、ってか。昔の人たちの言葉はやはり、馬鹿にはならないものだな。
魔理沙と卓村の後ろにある入口から、銀髪の三つ編みを揺らして、咲夜が静かに現れる。
しかし、そこで先にいた二人はあることに気が付いたようで、訝しむような視線を彼女へ向ける。
「咲夜嬢、お一人でございますか?」
「ええ、それが?」
「それがって、お前レミリアのメイドはどうしたよ」
「私がクラスメイトの見舞いに来たらいけないのかしら?」
「そ、そこまでは言ってないけどさ………」
そう、咲夜は普段なら必ずと言っていいほど、レミリアと一緒にいる姿しか観測されていない。
メイドが主人と一緒じゃなきゃおかしいとまではいかないが、この二人だけはその例に当て
はまることはないらしく、ほとんど一緒のところしか見たことがないほどだと聞いている。
そんな人物が単独で、しかも転校して間もない異性の見舞いに、やって来ることがあるか。
常識で考えたら答えは当然NOだろう。俺も直接関与してなければ、NOを選んでいたはずだ。
でも残念ながら、俺は当事者なわけでして。彼女が来た本当の理由も委細承知している。
「なら構わないわね。さ、魔理沙。そこだと邪魔だからどいて」
「邪魔って、何のだよ?」
「………梨、立って皮を剥けと言うの?」
「わ、わざわざ果物持参かよ⁉」
「見舞いに来るのに手ぶらな方が、非常識だと思うのだけど」
「せ、正論でござる」
右手に持っていたバスケットを掲げながら、やけに勝ち誇ったような面持ちをしてる咲夜に
対して、対抗意識でも刺激されたのか、魔理沙も悔しそうな顔をしてから立ち上がった。
「よし、だったらあたしが、とびっきりの見舞い品を持って来てやるぜ!」
「今日は止めた方がいいわね。それに、どうせ病院内の売店で済ませる気でしょう?」
「うぐっ⁉ か、完全に読まれてたぜ………」
そして直後に撃墜された。踊らされる魔理沙も魔理沙だが、踊らせる咲夜も咲夜だな。
三日前に色んな表情や一面を見てきたけど、やっぱり外だと基本的に平坦で冷淡らしい。
だがすぐ熱くなる魔理沙にとっては、咲夜の態度は完全にスイッチを入れる原因となった。
「見舞いとは相手を思う品であるべきなのよ。手早く済ませていいものじゃないわ」
「くっそ~! ああ分かったぜ、だったら明日はすごいもの持ってきてやる‼」
「すごいものとかいらないから、『ひよこ◯こ』をくれ、『ひよ◯っこ』を」
「うるせぇ‼ あたしは『東◯バナナ』派なんだ‼」
「知らんがな」
「では拙者は、伊勢名物である『ほまれの◯福』でも」
「チョイスが古いわ………『赤◯』とか、でもアレ美味いから許す」
いきり立ちながら、四脚型の椅子を蹴飛ばさん勢いで立った魔理沙は、咲夜に鋭い睨みを
効かせてから身を翻し、俺や卓村の制止の声になど耳を貸すことなく、出て行ってしまう。
残された卓村も、このあと何やら用事があるとかで、少し話をしたら去ってしまった。
そして部屋に残ったのは、ケガでいるべくしている俺と、見舞いに来たという咲夜のみ。
「…………まぁ、そこ座ったら?」
「…………そうね」
とりあえず、そこに突っ立って居られても困るし、先ほどまで魔理沙が腰を下ろしていた
椅子に座るように促すと、彼女もそれを拒むことなく受け入れて、淑やかな動作で座った。
それにしても、あの貴族の傍らに侍るメイドが、俺みたいな一般人の見舞いにねぇ。
最初にこの病室に来たときは、何の間違いかと思ってビビったのが記憶に新しい。
まぁ新しいも何も、昨日の午後の話だから、鮮明でなくちゃ逆に危ないんだがな。
「……………………………」
「どした?」
「いえ、別に。梨、持ってきたんだけど、嫌いかしら?」
「まさか。果物はだいたいOK」
「なら良かったわ。剥くわね」
持ってきたバスケットを近くの机に置いて、その中から出した梨を果物ナイフで丁寧に、
かつスムーズにカッティングしている姿を見ると、まさしくメイドなんだなと実感する。
皮を剥き始めてから一分も経たぬうちに、三つあった梨は全てが丸裸にされ、そこからは
もう時間でも止められたのかと思うほどの速度で、定番の"くの字"型に切り分けられた。
そして、これまたいつの間に出したのか、きれいな見た目のフォークと皿によって、
俺の手元にみずみずしい果実が与えられた。病院食は上手くないから、本当に助かるぜ。
「しっかし、本当に頭が上がらなくなりそうだ」
「なによ、いきなり」
「だってさ、昨日に続いて今日もだろ? こうして見舞いに来てくれんの」
「そうね」
「しかも、その、割と助かってるし」
適当な大きさの梨を一個ほおばってから、俺は咲夜が横にいる状況に改めて困惑する。
最初に来た時にも驚いたが、そのあとの彼女の献身ぶりは、まさに従者そのものであった。
ナースさんが来てもやらないだろう、ベッドのシーツのシワのばしや、脱ぎ散らかした衣類の
整頓に加え、今みたいに気を利かせた見舞い品まで持って来てくれる甲斐甲斐しさなど。
今の彼女は至って普通の女子高生らしく、うちの学校の制服で来ているが、これがもしも
本職であるメイドの正装、つまりメイド服だったらと思うと、少々男としてヤバかったろう。
続けて二個、三個と梨を口に放り込んでから、俺は何気なく思っていたことを尋ねてみた。
「なぁ、聞いてもいいか?」
「何を?」
「だから、どうして、俺なんかの見舞いに来てくれるのかって」
「迷惑だったかしら」
「迷惑じゃないけどさ」
「さっきも言ったでしょ。クラスメイトの見舞いに来たらいけないの?」
「いけなくはないけどさ、それって本当の理由じゃないだろ」
わざわざ色々と世話を焼いてくれている相手にしていい態度じゃない、それは分かっている。
けど、それでも気になってしまうのは、仕方ないことだろ。まず誰だって疑問に思うはずだ。
内心で申し訳なく思いつつ、さらに追及しようとした時、咲夜が真剣な表情で聞いてきた。
「魔理沙や他の人たちに、そのケガの本当の原因って話した?」
「…………いや、言ってない」
「本当に?」
「言ってないって」
「本当に本当?」
「信用ないな………」
何を聞くかと思えば、俺の腹にまかれた包帯。その下にある傷についてのことだった。
さっき来ていた魔理沙が語ったように、お気付きだろうが理由は当然の如く嘘100%である。
もちろん、他の男子諸君にも同様の嘘をついている。騙しているようで悪いが、仕方ない。
俺が嘘をつく理由、それは魔理沙たちが来てしばらくの時にも語ったが、決していけ好かない
あのチビのためなんかじゃない。本音を言ってしまえば、今目の前にいる咲夜のためなのだ。
「………私がこうして、あなたの世話をする理由、分かってるわね?」
「正直なところ、あんまり」
「あなたが、お嬢様の貴族としての御顔と御名に、泥を塗る行為を働かないためよ」
「要するに、アイツの不利になるような事を漏らさないため、か?」
「ええ」
ああ、なるほど。つまるところ、結局は全部あのムカつく貴族様のためだったってわけか。
確かに今回の一件は、世間に漏えいしたら面倒ごとが起こることは、想像に難くないからな。
ドイツの名門貴族の当主(次期とか言ってた気もする)が、
あまつさえ疑似的とはいえ犯罪を起こさせた上に、俺という平民への実的被害を与えた。
前半ならまだ貴族の道楽で済むかもしれんが、後半の二つについては明らかに民事問題となる。
これらの事態は、確実に名門貴族としての名前と顔に泥を塗り、立場を危うくしかねないものに
なる可能性だってある。それをさせないために、唯一の部外者にして目撃者、そして当事者たる
俺の口封じを目論んだわけか、あのチビは。それにしても、咲夜に恩を売らせるこの方法は、
果たして正解と言えるのだろうか。役得だと思わなくもないが、流石に手が緩過ぎる気がする。
でも、これで謎は解けた。咲夜がこうして、俺なんかの見舞いに来てくれる理由がな。
…………いかん、自分で言ってて悲しくなってきたぞ。
とにかくここは一旦、話の筋を元に戻しておくのが的確か。
「ま、まぁアレだ。俺は他人の秘密を言いふらす趣味は無いから」
「安心していい、ってことかしら?」
「一切他言しない。口止め料も貰っちまったしな」
「梨が口止め料? 随分と安い口なのね」
「庶民だからな、安いのは基本だろ」
小粋なジョークを挟みつつも、俺は咲夜に今回の件は他言しないと明言する。
すると、何がか琴線に、というかツボに触れたらしく、彼女は可愛らしく声をあげて笑った。
初めて見る、彼女の笑顔。
それはとても眩しくて、輝いているようで、思わず見惚れるほどに、美しかった。
彼女の内にある笑いが収まるまで十数秒、表情をやや緩ませた彼女は、俺が食い終わった
皿やフォークを何も言わずに回収して、入れてきたバスケットにしまってから語りだした。
「本当は、もう一つ理由があったの」
「ん? 何が?」
「私が、あなたのお見舞いに来た理由」
「へぇ。教えてくれるのか?」
「…………お嬢様から、厳命されたわ。何があっても、あなたに此度の件は喋らせるな、と。
もしもの事があるようならば、私の持つ何もかもを使ってもいいから、黙らせろってね」
「物騒だな、黙らせろとか____________待て、何もかもってなんだ?」
「その、あの………わ、私の、女のとして身体を使って、とか」
「___________________」
彼女の恥じらう顔と先の言葉を聞いて、俺は二重の意味で絶句した。
おいおいおいおーいおいおい、つまりはその、咲夜に『そういうこと』をさせてでも、
スキャンダルに発展しかねない今回の一件を知る俺を、口封じさせようとしてたって事か?
あのチビ、マジで最悪だな。分かってたことだが、アイツの事は前より嫌いになれたぜ。
だって普通そんなこと考えるか? よしんば考えたとしても、それを命令として出すかよ。
咲夜がアレに尽くしてる理由が、今度こそ分からなくなった。今までは、俺の知らない
深ーい事情でもあるんだろうと勝手に思ってたが、今の言葉を聞くとそれでも怪しいぞ。
まさか、リアルな意味での性的交渉を持ち出されるとは。いや、マジで言葉が出ねぇ。
「で、でも、その心配もなさそうだから………安心したわ」
「そそそ、そーだな! 良かったな!」
テンパり過ぎた。
「理由はどうあれ、私はあなたが無事に退院するまで、面倒を見るつもりよ」
「お、おう。そっか、世話になるな」
「それくらい、どうってことないわ。あなたは他の男の人と違って、楽しいから」
「楽しい? 俺が?」
「ええ、とっても」
楽しいってのは、俺がテンパってる姿とか、そういうのを言ってるんじゃないだろうな。
だとしても、これだけの美少女に良く思われるのは、男としては悪いどころじゃないし、
むしろ冥利に尽きるってもんだろう。果たして使い方があってるかは微妙なとこだが。
男冥利に、尽きる?
アレ、待てよ? ちょっと待て、男としての本懐を望むなら、これは間違いなのでは?
いかに"たなぼた"状態とはいえ、相手にその選択肢があったなら、選ぶべきだったのでは?
俺だって男だ。性欲だってちゃんとあるし、美少女とそういう事したいと思ったことなど、
ぶっちゃけて言えば数えるのも面倒なほどにある。であれば、身を任せるという選択肢も、
ありだったのではなかろうか。咲夜ほどの人が初のお相手なら、文句なんてあるはずもない。
いわゆるギャルゲーとかだったら、この状況は選択肢一つでかなりいい思いが出来ただろう。
あーやらかした。完全にやらかしたな。にっくき我がファーストを捨てられる絶好の機を!
(…………いやいや、ソレは流石にダメだろ。それをやったら、ただのゲスだよ)
よくあるライトノベルの主人公とかだったら、今の俺みたいな汚らわしい選択肢なんざ、
頭の片隅に沸くことすらなかったろうに。そう考えると、人としておかしいのは俺なのか
主人公たちなのか、よく分からなくなってくるが、この選択は間違ってはいないはずだ。
そうだよ。弱味を握って女性を貶めるなんて、男としてやっていいことじゃないだろう。
確かに咲夜は美人だし、手放すチャンスとしてはかなり惜しいとか思わなくもないけど、
だとしてもそんな手段は避けるべきだ。第一、貴族のメイドと一般市民という立ち位置は、
簡単にどうにかなるようなものじゃないしな。残念だが、まだ卒業は未定か。くそぅ。
「どうかした?」
「い、いや別に?」
「ならいいんだけど」
「おう。あ、そだ。それよりも咲夜さ「咲夜でいいって言ったでしょ?」………んん」
自分の情けなさ(広い意味合いで)を痛感していた俺は、ふと彼女と目が合って顔を赤くする。
現金な奴だよな、俺。遠足が始まるまではあんなに毛嫌いしてたのに、今じゃこの有様だよ。
それにしても疑問に思うのは、彼女のこの対応だ。名前で呼べとはどういう風の吹き回しか。
三日前のあの一件の時に、確かに咲夜でいいとは言ってたけどさ、今度は「さん」も省けと。
いや、嬉しいよ? 何度も言ってしつこいかと思うが、咲夜はかーなーり、美少女だ。
そんな人から、「さん付けなしで名前で呼んで」とくれば、良からぬ誤解を招くことは必至だ。
しかし俺は騙されない。これもきっと、あのチビが咲夜に命令で言わせてるに違いない。
身体で篭絡できなかった場合は、親密度を上げておけ。とか、そんな具合だと俺は推理するね。
もしかしたら、彼女自身の好意があっての発言かもしれんが、流石に俺は身の程を知っている。
一介の一般人相手に、名門貴族のメイドが思いを馳せるような、一昔前の劇にありがちな展開が
起こるとは到底思えない。悪いが俺は現実主義者でね、可能性論は好きだが、夢は寝てみるんだ。
そういうわけで、俺は彼女からの要望には一応応えている。ただ、あくまで二人きりの時だが。
流石に第三者がいる時に、特に顔見知りがいる時とかには、呼び捨てる度胸など俺には無い。
「それで、どうしたの?」
「あ、ああ。えっと、学校で配られたプリントとかはある?」
「委員会連絡以外は何も。あなたの所属してる応援委員会も、まだ活動は先だから」
「そっか。ありがとうな、咲夜」
「…………え、ええ。気にしなくても、いいわ」
自分で尋ねておいて間が空いたのを彼女に問い返され、忘れかけてた本題に入る。
ひとまず、提出するべきものとかが出てないようで何よりだ。宿題とかの話は、事前に卓村や
他の男子たちがLINEで教えてくれてるから、気にしなくてもいい。とりあえず安心だな。
しっかしまぁ、やっぱり名前を呼び捨てにされるのは、抵抗があるのかもしれないな。
呼んでからしばらく反応に困ってたし、顔も少し赤いし。庶民に軽く見られて嫌なのかも。
ちゃんと「さん」付けで呼ぶべきなんだろうか。でも、そしたらまた注意されるしなぁ。
どうしたらいいのか皆目見当もつかん。ま、退院するまでの間だけなら、堪能させてもらおう。
そうして俺たちは、取り留めのない話や互いについての話を少しばかり語らっていたんだが、
咲夜が見舞いに来てから三十分くらい経った頃だろうか、新たに誰かが病室に入ってきた。
ただ、知らない顔だ。俺のいる21HRの生徒じゃない。けど、咲夜に劣らぬほどの美少女だな。
「はいはーい! 病院で暇を持て余しているそこのあなた! 少々取材をよろしいですかー?」
均整の取れた小顔を可愛いと思っていたら、何やら高めのテンションで向かってくる。
確かに恐ろしいほど暇で仕方ないが、取材ってのはなんだろう。それに、さっきから咲夜が
やたらと鋭い目つきで新顔さんのこと睨んでるし。何か因縁でもあるんだろうか。
そんなことを持っていた矢先、咲夜が現れた美少女に対して、攻撃的な口調で問いかける。
「ここは怪我人のいる病室なのよ? もう少し静かにできないのかしら、文?」
「あややや、これは失礼。しかし、あのレミリアさんの従者である咲夜さんが、何故ここに?」
「どうだっていいでしょ、そんな事は」
「どーでもよくありません! 謎は探求し、追及し、解明する! それが新聞記者!」
「俺の知ってる新聞記者と違う………」
文と呼ばれた黒髪の美少女は、先ほどと変わらぬハイテンションでこちらに詰め寄って来て、
ここにいること自体がおかしいと言わんばかりに、険しい表情の咲夜に質問を返していた。
話の途中でついうっかり声を漏らした途端、恐ろしい速度で彼女の首から上がこちらを向き、
何があったかは知らないが、暑苦しさを感じるほどの高らかなテンションで目を輝かせている。
「私は、そういう記者でして!」
「そ、そうなんだ…………ところで、あんたは誰?」
「あやや、これは申し遅れました」
壁があれば壁ドンをせん勢いのまま近づいてきた、彼女のその勢いに気圧されながらも、
まず名前を聞いておこうと思って聞いてみたところ、意外にもあっさりとそれを受諾した。
美少女は己の佇まいを正してから、何故か敬礼のような恰好をしてから、名を名乗る。
「私は、幻想学園高校の新聞部部長、清く正しいがモットーの射命丸 文です!」
いかがだったでしょうか?
平日の真昼間に完成させても、読んでくださる人って少ないんですよねぇ。
多くの方に読んでもらえるのもありがたいのですが、やはり一番良いのは、
どんなに少なかろうと、「面白い」と思っていただける人がいることですね。
さて、次回からは新キャラたる文ちゃんを登場させまして、
ストーリーも大きく進展させようかな、と思っているところです。
今回のように、なるべく速足での更新を作者自身も望んでおりますが、
どうなるかは分かりませんので、ご了承ください。
それではまた、不定期更新される次回を、お楽しみに!
ご意見ご感想、並びに批評も大歓迎募集中でございます!