ハイスクール ファンタジア ~幻想学園高校~   作:萃夢想天

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どうも、突発的な咳と鼻水に三度殺されかけた男、萃夢想天です。
まさか自分の内から湧き出るモノに命を奪われかけるとは、世も末だね。

さて、不定期更新を謳っているこの作品ですが、少しの間投稿ペースが
上がるかもしれません。上がらないかもしれません(要するに今まで通り)


長らくお待たせした分だけ、今回もバリバリ書かせていただきますよ!
それでは、どうぞ!






HR5 「濃すぎる部員と初部活」

 

 

学校といえば、といった感じのチャイムが授業終了と同時に校内に鳴り響く。

それと同時に机と椅子に縛られていた生徒たちのほとんどは気怠げに息を吐き、談話し始める。

中には授業が終わったというのに黙々と机に向かってる奴もいるが、寝てるか堅物かの二択(どちらか)だ。

たった今五時間目が終了し、本日の授業課程は成し終えたのである。

というのも、今日はまだ四月の序盤で教師側も生徒側も学年が繰り上がってから日が浅く、

互いが慣れるためという意味も込めた準備期間として、しばらくは五時間授業が続くのだ。

当然その間はちゃんと授業をやるのだが、最初の授業は方針を伝えるためのガイダンスと化す。

つまり今後の授業の進め方や成績、評価の付け方などの注意事項を先生が一方的に話して

終わるだけなので、生徒である俺たちにとってはあまり疲労を感じさせる授業ではないのだ。

 

 

「っはぁ~、終わったか」

 

 

そして疲れなど微塵も感じていない者には、当然俺も含まれる。

前の学校で野球部(見習い)として球拾いやグラウンド整備をやらされた挙句学業と両立させる

責め苦に比べれば、50分間椅子に座って話を聞くだけの授業など、物の数に入らんわ!

 

ただずっと座ってたせいで体中の関節部にわずかな痛みを感じるけど、大したことはない。

体を伸ばせばすぐさまポキポキと小気味良い音を立てて関節がほぐれていき、緊張が解ける。

一気に五時間も先生の話を聞き続けたせいで集中力的な面での疲れは出るかもしれんが、

俺の隣に座っている虹川、もといメルランの整っていて澄み切った笑顔を見れば無問題(モーマンタイ)だ。

 

「お疲れ様♪」

 

「お、おう。メルランもお疲れ」

 

「うん!」

 

 

俺の視線に気付いたメルランが労いの言葉を賭けてきてくれた。その優しさが染み渡るぜ。

同じように俺もぎこちなくはあるが同様の言葉を返し、なんと彼女は微笑んでくれた。

マジでいい子過ぎるぞメルラン。これはアレだ、このクラスの清涼剤的な存在に違いない。

だって少し視線を後ろに向ければ対となるほど嫌味な面した高貴なブルジョワ様が…………いた。

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

ここからだと何を言ってるのかさっぱり分からんが、あの小生意気な幼女が何かを命じ、

その言葉に恭しく頭を下げた銀髪の少女の方が帰り支度を済ませ、二人分のカバンを持った。

もう今日の授業が全部終わったから帰る気なんだろうが、帰りの支度くらい自分でやれよな。

なんて考えていたら、ふと忘れていたことを思い出した。

 

そうだ、授業が終わったら帰りのSHRがあるはずじゃんか。

危うく俺も忘れて帰り支度を済ませちまうところだったぜ、危ない危ない。

しかしアイツらは何の躊躇いも無く教室から二人そろって出ていってしまった。

 

 

「アイツら、帰りのSHR忘れてんぞ。連れ戻さなくていいのか?」

 

「あー、あの人たちはいいんだ。特別なんだよ」

 

「特別?」

 

 

疑問に思ったことを口に出したところ、隣にいたメルランがそれを否定してきた。

特別っていったって、アイツらも一応ここの生徒なんだから学校内の規範は守るべきだろ。

そう考えていたら、背後から嫌な感じの熱気がいきなり迫ってきた。

 

 

「左様、あの御二方は特別なのでござるよ」

 

「うおっ⁉ またお前か卓村‼」

 

 

迫りくる熱気になぜか正反対の悪寒を感じた俺は即座に体の向きを180度変えた。

すると目の前には、眼鏡を汗とみなぎる蒸気で曇らせてそびえ立つ巨漢がいた。

近寄られた瞬間嫌悪感を否応無しに抱かせるこの男、卓村は手を額に当てつつ語り出す。

 

 

「それを言うならば遼太郎殿も、拙者のことはぜひ厚貴とお呼びくだされと」

 

「言わん。絶対に言わんが、何が特別だって?」

 

「いけずでござる遼太郎殿…………ま、とにかく。スカーレットデビルの御二方が何故

特別扱いを受けられるのかをまずご説明いたしましょうぞ」

 

「いや説明は要らん。簡潔に理由だけでいい」

「本当にいけずでござる…………まぁ良いでござるが。分かりやすくまとめると、

レミリア様は世界経済にも関わりを持つ御方ゆえ、ご多忙の日々を送っておられるのです。

それこそ一分一秒でとんでもない額のお金が動く世界に身を投じておられるのですぞ」

 

「はぁーん、つまり?」

 

「つ、つまり! レミリア様は御家の当主としての責務が、咲夜嬢にはその補佐が!

それぞれわずかな時間も惜しまれるゆえに、特例として簡略化できる学校行事はほんの

わずかではありますが、先程のように参加せずとも黙認されているのです」

 

「…………なるほどな」

 

 

要するにブルジョワマジパネーってことか。つくづく庶民の敵だな。

しかしいくら家のネームバリューが凄まじいとはいえ、一生徒にそこまで許していいのか?

仮にも学校は勉学を学ばせる、上の立場にいるはずだろうに。ま、難しい問題ですな。

俺みたいな平々凡々に生きてる一般ピーポーには、間違いなく縁の無い世界だろうし。

 

 

「まぁそのようなやんごとなき事情を抱えた派閥の長は他のクラスにもおりまして。

そのほとんどが見目麗しき女子生徒なので、我々男性陣は色んな意味で従属状態なのです」

 

「他にもあんなのがいるのか⁉」

 

 

卓村が続けた話を聞いて俺は自分がとんでもない世界の入り口に立たされていると知った。

話を簡単に聞くだけでドン引きできるようなブルジョワが、他にもいるのかよ…………。

軽い絶望に打ちひしがれていると、隣にいたメルランが慌てた様子でフォローしてきた。

 

 

「で、でも! 本当にレミリアさんみたいな人はほんの一握りだけだから!」

 

「ほんの一握り、ねぇ。メルランを疑うわけじゃないが、信じられねぇな」

 

「本当だよ! 今度一緒に他のクラスの人に会ってみよ! ね、ね⁉」

 

「お、おう。分かった、分かったから落ち着けメルラン」

 

 

やたら必死に説得を試みてきたメルランだが、どうも慌てぶりが普通じゃない。

…………まさかメルランまでレミリア並みのブルジョワンヌじゃないだろうな?

好奇心が湧き出た俺はなるべくストレートな表現は避けつつ彼女に聞いてみた。

 

 

「しかしやたらブルジョワ様の肩を持つな。何かあったりするのか?」

 

「えっ⁉」

 

「いや、気のせいかもしれないけどな」

「そそ、そんなこと、ないかな」

 

「……………………」

 

 

怪し過ぎる。そして可愛過ぎるな。マジメルラン天使。

 

もう少し聞き込みをしようかどうかと悩んでいると、不意に背後から肩を掴まれた。

 

 

「おーいりんたろー! 何してんだ、さっさと部活に行こうぜ‼」

 

「おうっ⁉」

 

「あ、魔理沙ちゃん」

 

「ブヒ、これは魔理沙殿。今日も元気活発でござるなぁ」

 

「へっ、あたぼーよ!」

 

 

いきなり何事かと目を白黒させていたら、メルランと卓村が俺の背後いいる人物と

談笑をし始めた…………って魔理沙って、もしや朝一緒に登校したあの子か⁉

顔を上に向けると、俺の肩を手で掴んでいるために若干前屈みになっている金髪の美少女、

朝たまたま出くわしてそのまま登校したあの子、霧雨 魔理沙が快活な笑みを浮かべていた。

しかしその、なんだ。あのほら、アレだ。顔を上げるタイミングがまずかった。

 

何がまずかったかって? 考えてみろよ、俺より背の低い女子が後ろから肩を掴んでんだぜ?

そんな状態なのに俺が顔を上げてみろよ。椅子に座ってるから彼女の方が少しだけ上にいて、

つまりその、えっと…………女性の象徴的な膨らみが本当に目の前にあったりするわけで。

 

 

「お、おう魔理沙。あの、げ、元気いっぱいだな!」

 

どこが、とは言わないが。

 

 

「おう! 元気はアタシのトレードマーク兼チャームポイントなんだぜ!」

 

「そ、そーなのかー」

 

いかん、さっきから魔理沙が元気ハツラツ過ぎて俺の肩掴んだまま飛び跳ねまくってる。

そうなると自然とあの部分も飛び跳ねまくるんだわ。いやホント、思春期には辛いぞコレ。

このままの状態を維持し続けるのは流石にヤバい。名残惜しさはあるが、ここは涙を呑む!

 

 

「お、オイ魔理沙、止めてくれよ。俺の肩掴んで飛び跳ねたら俺の肩が痛いだろ」

 

「ん? おーそうかそうか! いや悪ぃ悪ぃ、気付かなかったぜ」

 

「確信犯だろお前絶対…………」

 

「そんなことないぜ? 大体、このアタシの体重を支えられないお前の貧弱な肩が悪いぜ」

 

「何つー横暴だよ。てか魔理沙、さっきまた俺の名前間違えてなかったか?」

 

「そーだっけ? りんたろーじゃなかったか?」

 

「遼太郎な。りょ、う、た、ろ、う」

 

スマンスマンと頭をかきながら笑う魔理沙。コイツ本当に分かってんのかな、不安だ。

しかしマジで危なかった。あともう少し目の前で揺られてたら流石に耐えられなかった。

いくら男勝りな喋り方と性格してても魔理沙も女子だ、意識しちまうもんだよ。

どうにか難所を乗り切ったと大きく息をつくと、魔理沙が急に騒ぎ出した。

 

 

「あー! そうだいけねぇ、オイさっさと行くぜ遼太郎!」

 

「は? おいちょっと待て、行くってどこにだ⁉」

 

「決まってんだろ、部活だよ部活! ほら行くぞー!」

 

「オイ待てって! そもそも俺ままだ部活になんかぁあああああ‼」

 

 

いきなり部活がどうたらと騒ぎ出した魔理沙は肩じゃなく制服の襟を背後から掴み、

そのまま一気にダッシュを開始して教室から飛び出す。ってか俺引っ張られてる⁉

男子生徒一人の襟掴んだままダッシュできるとかお前どんなバカ(ぢから)してんだよ!

見た感じ割とほっそりした体してそうなくせに、某ギャグ漫画のア〇レちゃんかお前は!

 

いつ「キーーン!」と言い出すか分からんほどの速度で俺を引きずる魔理沙はその後、

一つ上の階にある部室へ行くために階段を登りきるその瞬間まで全力疾走を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ痛ぇ…………下の制服汚れまくったわ」

 

「はっはっは! いやー悪かったって、そうショボくれんなよ」

 

 

誰のせいだと。

 

 

「そう睨むなって、悪かったよ。今度学食でメシおごってやるから」

 

「………いや、いいよ。流石にそこまでさせるのは何か悪いから」

「お? そうか。なら今度私にメシおごってくれよ! 最近金欠なんだ!」

 

 

…………女子におごらせるのはまずいかと思って優しくしたらこのザマだよ。

つーかそもそも、金に余裕が無いんだったらおごるとか言うなっての。

制服の尻や背中の思いっきし汚れた部分を手で払えるだけ払い、乱れを整える。

対して魔理沙はケロッとしていて、俺が汚れを払っていることに気にする素振りも見せない。

もしかしたらコイツも、相当なじゃじゃ馬でクラスからハブかれてんじゃなかろうな?

いや、それは無いか。魔理沙はかなり明るい性格で、クラス内でも中心みたいな女子だ。

少しどころか割と本気でやり過ぎ感はあるが、それでもアレ(レミリア)に比べればまだ常識の範疇だしな。

俺が立ち上がるのを待っていたようで、魔理沙は俺が横に立つと目の前の教室の扉に手を

かけ、まるで自分の自宅に戻ってきたかのような気楽さでその横開きの扉を開け放った。

 

 

「おいーっす! 楽しい部活の始まりだぜ‼」

 

 

何やらまたテンションが上がったらしい魔理沙が声を張り上げて教室内に入っていったが、

それよりも俺は彼女が開け放った教室の扉に、そこに張り付けられている物に目がいった。

 

 

「おい、魔理沙コレ…………『天文同好会』って書いてあんだけど」

 

「お? それがどうかしたのか?」

 

「いやいやいや! お前言ってたじゃんか、"部活"って!」

 

「おんなじようなモンだろ? 大した違いなんかないって」

 

「そういう問題じゃねぇよ! 同好会ってことは、部員足りてないんだろ(・・・・・・・・・・)⁉」

 

 

そう、魔理沙が部活のために入っていった教室の扉には『天文同好会』と張り紙があった。

本来部活というのは、学校側が認可し、承諾を得られた特定の行動をする集団(コミュニティ)であるはずだ。

例えば野球をするなら野球部、水泳をするなら水泳部とそれぞれが承諾されたスポーツ

あるいは活動を集団内で行い、時には学校の管理下で外部との交流や正規の大会などに参加

したりする、そんな集団であるはずなのだ。

しかし実際問題、部活という集団は最低でも5人の部員とそれらを万一に備えて保護する

顧問と称される教員がいなければ成り立たない。その場合は部活ではなく、同好会となる。

これらはあくまで社会的な、広く世間一般で言われるような常識的なルールなのだ。

つまりこの魔理沙曰く『天文部』は、実際には部員も顧問もいない同好会でしかない。

これらの意味するところは、ずばり!

 

 

「なら俺、参加しなくてもいいってことじゃん」

 

 

正規の部活でも何でもないなら、いくらその集団の中で立場が高かろうと強制力は無い。

それに俺はまだ天文部を見に行くといっただけで入部するとは一言も言ってはいないんだ。

ぶっちゃけ星座を知ってるくらいで、正直星のウンチクになんぞ興味はほぼ無い。

一気にテンションを一方的に下げさせられた俺はそのまま方向転換して帰ろうとする。

しかしやっぱりというかなんというか、魔理沙が俺の腕を掴んで阻止してきた。

 

 

「違う。なぁこうたろー、話を聞いてくれ」

 

「…………………」

 

 

掴まれて腕の少し上に目を向ければ、金髪の三つ編みを揺らす魔理沙がいた。

下から覗き込むように俺を見つめるその視線は、状況も相まって懇願しているように見える。

本来ならば強制的に連れてこられた俺にその要求を呑む義務は無い。無いんだが…………。

 

「なぁ、頼むよ」

 

「…………分かったよ。話だけは聞いてやるから」

 

「本当か⁉」

 

「ああ、話だけな。あと俺は遼太郎だ、何回間違えんだよ」

 

「あはは、なんか覚えにくくってさ。次からは間違えないからさ」

 

「言ったな? 次間違えたらすぐ出てくからな」

「気の短い奴だな~」

 

「何か言ったか?」

 

「ゆっくりしていけって言ったんだよ」

 

 

絶対嘘だ。

 

ま、どうせ今はまだ昼をちょっと過ぎたくらいの時間帯だしな。

今から帰っても親父は夜まで仕事だから、誰もいない家で一人よりかはいいか。

俺はそれくらいの軽い気持ちで魔理沙からの要求を呑んでひとまず部室に入れさせてもらった。

「おお………おぉ?」

 

部室に入れさせてもらったはいいが、コレはどういうことだ?

「どーした遼太郎? ボーっとしたりして」

 

「あ、いや、何でもない」

 

「変な奴だな」

 

 

少し呆けてしまったところを魔理沙に言われてしまったが、お前の方が変だと思う。

俺が聞いたのは、ここが天文部ならぬ天文同好会の部室であるということだ。

そして俺が知る限りでは、天文部の部室とは様々な星座の表や衛星惑星の見取り図などが

壁一面に張られているような、そんな場所であるはずなんだ。はずなんだが…………?

 

 

「なんで、魔法陣が部屋の壁に掛けられてんだ?」

 

 

扉一枚くぐった先にあったのは、天文を学ぶ部屋ではなく、魔術の儀式場に近い何かだった。

改めて見渡せば確かに月の周期表やら天体の観測図やらがあるにはあるんだが、

それらよりも謎の文字が綴られたやけに古めかしい本や紙やらの方が圧倒的に多い。

コレはいったい、どういう事なんだ?

 

 

「『看板に偽りなし』って(ことわざ)があるんだが、コレはその真逆だね」

 

「ん?」

 

 

いきなり訳の分からん状況に放り込まれてフリーズしかけた頭が、どこからともなく

聞こえてきた少女らしい声のおかげで処理落ちを免れた。危うく脳がバグるとこだった。

しかし肝心の声の主は一体どこなのか、探そうと周囲を見回すと俺の目が三つの人影を捉えた。

どうやら声の主は、この理科準備室的な教室の扉に一番近い席に座っている茶髪の少女らしい。

もしやと思ってその女子の方へと視線を向けると、彼女も気付いて手を振って挨拶してきた。

 

 

「おい萃香(すいか)、偽りなしの真逆ってのはどういう事だ?」

 

「そのまんまの意味さ。全部言わせる気かい?」

 

魔理沙がその茶髪の長髪を持つ少女の言葉に喧嘩腰になると、意外にもそれに応じるように

茶髪の少女も煽るような切り返しで挑発を上乗せしてきた。つーか誰なのこの子。

 

場の雰囲気についていけずに困っていると、茶髪の少女が俺に話しかけてくれた。

 

 

「というか魔理沙、まずはそこの彼にわたしたちの紹介が先じゃないのかい?」

 

「ん、それもそうか。よし! んじゃ我らが希望の新入部員に各自で自己紹介な!」

 

「こういう時はお前さんが紹介してやるもんなんだけどねぇ………ま、いっか。

よぉ新入部員さん、初顔だね。わたしは【伊吹 萃香】って者さ、萃香でいいよ!」

 

魔理沙に不平を言いながらもキチンと自己紹介をしてくれる辺り、かなり根はいい子かも。

なんて密かに考えながら、萃香と名乗った少女は目の前で立ち上がって握手を求めてきた。

もちろん女子からのお誘いはたとえ握手であっても逃したりはしない。

 

 

「ご丁寧にどうも。俺は仙波 遼太郎だ、よろしく萃香」

 

「おっ、いいのかい? わたしと握手したりして」

 

「は?」

 

「いやいやいいんだよ、お前さんが気にしなけりゃさ」

 

 

差し出してきた手に自分の手を組ませると、萃香は意外そうな目で俺を見つめてきた。

なんだ? この辺りだと握手を求めても断らなきゃいけない風習でもあんのか? 嫌過ぎるわ。

そんな風習が仮にあるんならそもそも握手を求めなきゃいいじゃんか、などとどうでもいい

思考に入り浸った直後、瞬時に俺の意識は頭の中から差し出した右手に向いた。

 

 

「へっへっへ~、久々に握手なんて交わしたよ~!」

 

「痛だだだだだぁあぁああ⁉」

 

 

右手が‼ 握手を交わしているはずの右手からゴリュゴリュって不可解な音が‼

何がどうなってんだ、ついさっきまであったはずの右手の感覚がもはや失われてんだが⁉

 

「おーい、その辺にしといてやれよ萃香。遼太郎がすげぇ顔になってるぜ」

 

「おろ、ホントだ。いや悪い悪い、久々だったから嬉しくってつい」

 

「~~~~~~~~ッッ‼」

 

 

横から魔理沙が萃香に何か言った途端、俺の右手への拘束が緩んだ気がした。

気がしたというのも、既に感覚が失われてるから緩んだのかどうか分からんからであって。

声にならない声をのどの奥から絞り出しつつ、俺は右手がしっかりくっついてるかを確認する。

良かった、右手首から先にちゃんと何かある。左手で触れば何かあるのが感触で伝わってくる。

痛みで目が開けられねぇから、この感触が右手なのか右手"だったもの"なのかは分からんが。

 

とにかく久々にここまでの痛みを味わったぜ、こんなの去年の野球部での練習以来かもな。

高校野球は球が硬式になるから、1バウンドして股間に当たると………女性には伝わるまい。

痛烈過ぎて本当に声が出なくなっちまった。人間ヤバいとこまでいくと声も出ないんだな。

 

 

「大丈夫か? 本当に悪かったよ。その、右手、大丈夫か?」

 

「ん…………お、う。大丈夫だ、大丈夫。平気だってこんなの」

 

「そ、そうかい? あの、本当にごめんな?」

 

「気にすんなって、このくらい平気平気…………だと思う」

 

 

問題無いと言い切れないのも辛いが、何より言い切らせないほどの右手の痛みも辛い。

まさか自分よりも10センチ以上身長が低い女子と握手して、こんな痛みを味わうとは

夢にも思わなんだ。コレはアレか? さっき魔理沙で天国を見せてもらった対価だとでも?

 

……………世の中厳しくできてるな、イヤホントマジで。

 

 

「大丈夫ならいいんだけどさ………ま、まぁこれからよろしく頼むよ!」

 

「おう、ヨロシクな…………」

 

 

一瞬だけど萃香の「よろしく」が「夜露死苦」の方に聞こえてしまった。割とヤバいかも。

ってかどうでもいいけど、萃香には枯れ木っぽい二本角が似合うと思う。理由は無いが。

最悪のアクシデントだったが、そんな事もあるだろうと(半ば強引に)言い聞かせてから

改めて部室全体をゆっくりと見渡す。萃香と魔理沙以外には、あと二人ほど人がいるな。

痛む右手をなるべく動かさないように扱いながら歩き、二人のいる方へ近寄る。

すると魔理沙が俺より先にその二人の方へ歩み寄っていき、大きな声で話しかけだした。

 

 

「なーなーアリス~、パチュリーもさ~。せっかくの新入部員なんだぜ?

もっと華やかに…………とまではいかなくても、少しは歓迎したらどうなんだよ~」

 

 

よく見るとその二人は女子のようで、二人そろって分厚い本を読みふけっていた。

ただなぜか真逆の方を向きながら読んでいた二人の間に割って入るようにした魔理沙に、

本を読んでいた二人の内、見覚えのある方の女子が少し強めの口調で言葉を返した。

 

 

「あのね魔理沙、そもそも拉致した相手を新入部員とは呼ばないわよ。

というか、なんで私がいるのにわざわざ男を選んで連れてくるのよ…………」

 

「拉致とは失礼だな! ってか、最後の方よく聞き取れなかったんだけど、何て言ったんだ?」

 

「き、聞かなくていい! 大したことじゃないから!」

 

「そうか? まあいいや。それより遼太郎、アリスは知ってるよな?」

 

魔理沙と金髪ショートの美少女とが話していたら、急に会話の流れに俺を組み込まれた。

いきなり混ぜるな、危険だろうが! っていうかあの子、アリスって名前なのか。初知りだ。

知ってるよなと言われても彼女のことは何となくでしか知らない。ただ、一つ分かった。

 

 

「……………‼」

 

「あ、ああ。同じクラスだった、よな?」

 

「…………そうね」

 

 

何故だか分からんが、このアリスという美少女はやたら俺に敵意を向けてくるのだ。

昨日の自己紹介の時からやたらと睨まれていた感じはしてたが、思い過ごしだと思ってました。

ですが現状は俺の思ってた通りです。何故か俺に対しての目線がやたら攻撃的なんですよねぇ。

別に俺は彼女に何もしてないはずなんだけど、一体全体何がどうしてこうなっちまったのか。

 

アリスさんの睨みつけをどうにか回避していると、魔理沙がひっそりと耳打ちしてきた。

 

 

(悪いな遼太郎。アイツは悪い奴じゃないんだけどさ、何か最近不機嫌みたいなんだ)

 

(へ、へー。不機嫌ねぇ)

 

(そーなんだよ。なんでかはアタシにもよく分かってないんだけどさ)

 

(…………………)

 

 

魔理沙がこそこそと俺に耳打ちをしてくる中、俺はゆっくりとアリスさんに目を向ける。

するとそこには先程の金髪美少女の姿はどこにもなく、修羅の顔をした鬼しかいなかった。

異常なまでの怒気を孕んだ視線を直でぶつけられた時、俺は何となく理由を察した。

 

 

(あぁ、そっか。不機嫌の理由は多分魔理沙、お前と俺だと思うよ)

 

さっきまでは何ともなかった彼女が、今では殺気を振り撒く悪鬼と成り果てつつある。

ちょっと前に魔理沙と話してた内容もそうだけど、おそらく魔理沙と俺が原因だろう。

不機嫌の理由は想像だけど、俺が魔理沙に近付きすぎているってことなのかもな。

その証拠にメッチャ怒ってる顔してるもんアリスさん。女の子がしちゃアカン顔だぜアレ。

とにかく、これ以上あの視線をぶつけられ続けたら俺は確実に死に至る。

早急に手を打たねばと考え、俺はやんわりと魔理沙を自分から遠ざけた。

その瞬間感じていた殺気と怒気が和らいだように感じられ、恐る恐るアリスさんの方を向くと

修羅も悪鬼もどこにもいなくなっており、いたのは変わらず金髪の美少女だけだった。

コレは本当に危険だな。魔理沙に彼氏でも出来た日には、確実に相手の男は血を見るぞ。

 

 

(と、とりあえずアリスさんにはあまり近寄らないでおこうか………身の安全のために)

 

 

顔が引きつり心はドン引き、しかも右手はスクラップ状態。そんな俺はもう正直、

この天文同好会の最後の一人もなるべく関わり合いになりたくないと思い始めていた。

転校して来てすぐメルランみたいな天使系美少女と関わり合えたと思ったら、次はあの

ブルジョワンヌの申し子とも言うべきレミリアみたいなぶっ飛んだ奴にも関わっちまって、

そこに重度の魔理沙コンプレックスを抱えた不可思議の国のお(やみ)様とかシャレにならんわ!

とにかく最後の一人くらい穏便に済ませてほしいものだと懇願するように息をついた。

するといつの間にか俺の隣に来ていた萃香が最後の一人に対して声をかけていた。

 

 

「ほれほれ自称魔女さん、早くアンタも遼太郎に自己紹介してやりなよ」

 

「……………彼は部員になる気は無いんでしょう? なら別にいいじゃない」

 

「まあまあそう言わずにさ! 自分の事明かしたら死ぬってわけでもないだし」

 

「………あなたは一々極端なのよ。必要ないことをしなくて何が悪いの?」

 

「お前さんが不必要だと感じても、それを必要だと感じる奴もいるのさ。なっ?」

 

「ここで俺かよ」

 

ここでこそだろ、と何故か胸を張ってる萃香を見て逆に俺は呆れかえる。

確かに俺はあの女性の言ってるように天文部になんて入る気は無いさ。無かったさ。

でも、何故かは分からないけど。

 

ここにいれば俺は、俺の何かが変わる気がするんだ。

 

だから、俺は。

 

 

「俺は___________天文部に入部する」

 

「「「えっ⁉」」」

 

「…………何のつもりかしら」

 

「別に何も。強いて言えば、他にめぼしい部活が無いから、ですかね」

 

 

本当の理由があいまい過ぎてカッコ悪いため、急造で理由を後付けとして考える。

転校してきた初日で他の部活の事なんて知る由も無いが、なんとかなるだろう。

それに転校してこの土地に来てから、野球を続けようって気にはなれなくなってたし。

 

本を読む手を止めて真っ直ぐに俺を見つめ、微動だにしなくなった最後の一人。

やがて数秒間固まった後、ため息をつきながら再び本を読み始め、興味無さげに呟いた。

 

 

「ま、いいんじゃない? 私は【パチュリー・ノーレッジ】、部内唯一の三年生よ。

そっちでむくれてるのが【アリス・マーガトロイド】ね、同じクラスなら知ってたかしら」

 

「あ、先輩だったんですか。よろしくお願いします」

 

「いいよ、そういう堅苦しいのは好きじゃないから」

 

「そ、そうですか」

 

 

淡々と事務的に語るパチュリーさん、いや、先輩っていった方がいいのかな。

まあ本人が好きじゃないって言ってるし、パチュリーさんでも問題は無いか。多分。

しかしこれで天文部は全員なのか。ってことは、俺を入れてちょうど五人ってことか。

もし俺が加入しなかったら本当に同好会のままだったのかもしれんな。

 

 

「とにかく、これから天文部としてよろしくお願いします」

「いよっしゃああ‼ これでやっとアタシの天文部が輝く時が来たぜ‼」

 

「魔理沙のじゃないから。まあ私は別にいいんだけど…………」

 

 

転校初日で魔理沙に拉致られた時はどうなる事かと思ったが、収まる所に収まったかも。

ただすごい勢いで魔理沙がはしゃいでるな。まあかなり天文部にご執心なようだったし、

俺が加わってようやく晴れて正式な部活になれることがかなり嬉しいんだろうな。

けど浮かれるのはちょっと早い気がする。ここはまだ同好会で、 部活とは呼べない。

 

 

「でも魔理沙、正式な部活になるためにゃちょいと足りないものが多すぎやしないかい?」

 

「ああ、萃香の言うとおりだ」

 

 

萃香が状況を一早く理解して魔理沙に訴えかけ、俺のその意見に同調する。

そう、この天文同好会が天文部になるためには、最低あと二つはクリアするべき課題がある。

一つ目はさほど問題にはならない。問題であり、肝心なのは二つ目の方だ。

 

俺と萃香の言っている意味がよく分かってないのか、魔理沙は首を小さく傾げている。

そんな立案者の姿を見て肩を落としながらも、部の一員になるって言った以上やるしかない。

どれだけ穴だらけだろうが、一度陸を離れた船は対岸に着くまで戻らないのが矜持だからな!

この場にいる全員の意識が俺に向かうのを感じる中で、俺はハッキリと問題を口にした。

 

 

「ここを部にするために、顧問が必要だ」

 

 

今ここに、顧問奪取という初の部活動が始まった。

 

 





いかがだったでしょうか?
やっぱりこの主人公は本音が駄々漏れで書きやすいです(ゲス顔)
読者の方々、特に男性陣には理解をいただけやすい内容になっているかと。
ですが女性の方の目線でもストーリーを書こうと思っている場面もあるので、
その場合はどうしようかと現在模索中であります。ぷりーずへるぷみー。


ご意見ご感想、及び批評なども随時受け付けております。

それでは皆様、不定期更新される日をお楽しみに!
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