ハイスクール ファンタジア ~幻想学園高校~   作:萃夢想天

6 / 14
どうも皆様、夏風邪と一週間決闘していた萃夢想天です。
ヤツは強敵だった…………あの罠カードがなければ即死だった(確信)
皆様もどうか季節の変わり目の体調の崩れやすさを侮らないでくださいね。

それでは久々の本編を、どうぞ!





HR6「転校初日、終幕」

俺がこの天文部に入部する意思を決めたことによって、初の部活動が開始された。

 

だが部活動というくらいだから、そこには当然相当量の生徒と顧問がいなきゃ始まらない。

相当量と言えばかなりの人数が必要であるように思えるが、実際は最低五人いればOKだ。

となるとこの天文部(仮)にいるのは俺と女子の四名で計五人、計算上は問題無いわけで、

問題になってくるのはこの場にいないもう一つの要素だけとなった。

 

つまりは、顧問とよばれる部活動の担当教員である。

 

顧問あるいは副顧問がこの天文部を認めて加入してくれればいよいよ正式な部となる。

正式な部活動ともなれば学校からも活動費が出たりするし、色々と得になる事が多い。

むしろ部員が五人という最低条件に達していても、顧問がいなけりゃ部活にはならないと

いうことになってしまう。なのでまだ天文部は(仮)か、同好会状態なのであった。

 

 

「………………あのよぉ」

 

「ん? どした、しょうたろー。トイレなら後にしろよ?」

 

「……………そうじゃなくてよ、魔理沙センセーよぉ」

 

「何だよ言いたいことがあるんならハッキリ言えよ、アタシは今忙しいんだから!」

 

「それ絶対聞く気無いだろ! あと俺は遼太郎だ、いい加減覚えろよ‼」

 

 

そして同好会状態の我らが天文部(仮)の部長こと魔理沙と俺はというと、

今現在二人で先程挙げた問題点を解決するために、職員室の前に来ていた。

部室で問題を語った直後、魔理沙は「よし、なら先生一人借りてくっか!」などと発言し、

勇み足で職員室へと踏み込もうとしたために俺が取り押さえ、今に至るというわけだ。

 

(…………転校初日で何をやってるんだ俺は)

 

 

今までの俺だったら考えもしない行動に出ている事実に少しだけ驚きを隠せない。

俺は前の学校じゃ野球部の活動はしてたものの、ここまでアクティブではなかったと思う。

それにいくらフレンドリーで男勝りだからって、仮にも女子の魔理沙と二人で一緒に肩を

並べて何かをしようだなんて、前の俺じゃ考えられない行動に出てる。どうかしたんだろうか。

そんな事を思っている内に魔理沙はノックも無しにドンドン職員室へ入って行ってしまった。

完全に俺の話を聞く気が無かったことを身を持って感じ取りながら、一応俺もその後ろに続く。

すると、やはりその場にいる多くの職員の先生方から視線を向けられたような気がしてしまい、

居心地が悪くなって自然と俺の足が後退するようにゆっくりと巻き戻ろうとした。

 

 

「全くお前という奴は…………ちょうどいい、おい仙波! 君もちょっと来なさい!」

 

「へっ? あ、ハイ!」

 

 

ところが職員室の真ん中辺りから誰かを叱るような声が聞こえ、その声の主が俺を呼んだ。

いきなり名字を呼ばれて驚きはしたけど、視線を向けてみればそこにいたのは上白沢先生だった。

湧いて出そうになった不安が消えていくのを感じながら、俺は先生の方へと歩いて向かった。

 

 

「ハイ、なんすか先生?」

 

「何ですか、だ。仙波、君は今日の帰りのSHRにいなかったが、何をしていたんだ?」

 

「帰りの___________あ」

 

 

職員用のデスクとセットの回転イスに座っている上白沢先生からの詰問を聞き、ふと思い出す。

 

そういえば俺は天文部へ行く前に、一体何をしていたんだろうか。そうだ、帰りの支度だ。

俺よりも先にあのブルジョワコンビがSHRをやんごとなき事情だかでサボって帰ったのを見て

同じように帰りの支度をしておこうと思っていた矢先に、隣にいる魔理沙に拉致られたんだっけ。

女子に拉致られたというのも男としては情けない話なんだが、相手が魔理沙じゃ仕方ないだろう。

しかしこの話を正直に上白沢先生に話したところで、言い訳にしかならないと思うんだよなぁ。

 

 

「アタシが天文部にスカウトして、ここに部活動しに来ましたー」

 

魔理沙さんよぉ、アンタって人はどうしてそう場の空気が読めないんだ、えぇ?

 

「…………それはつまり、共犯でサボったという訳でいいんだな?」

 

「うっす!」

 

「いや、うっすじゃねぇよ! 何サラッと俺を巻き込んでんだ!」

 

「なんだ、違うのか? 仙波、どうなんだ」

 

「いや、まぁ、確かにSHRの間は魔理沙といましたけど、でもサボってはいません!」

 

「………………………」

 

 

魔理沙の投下した爆弾発言を慎重に解体処理すべく、的確に状況報告を済ませる。

確かにSHRを抜け出したことは事実だが、それでも俺は意図的にサボっていた訳ではない。

あくまで俺は被害者であることをどうにかして上白沢先生に伝えなければ。

何とかして先生に俺の身の潔白を証明しようと思考の海に潜っていると、ある事に気付いた。

俺って男は案外頭が回るのかもしれないと、内心で小躍りしながら気付いたことを口にする。

 

 

「そ、それよりも先生。俺たち二人以外にも、いなかった人いませんでした?」

 

「ん? ああいたぞ、仙波と魔理沙と、あとアリスだな」

 

 

やはりな。帰りのSHRの時間に、アリスさんが教室にいるはずが無い。

何故なら彼女は俺と魔理沙よりも先に、あの天文部(仮)の部室で待っていたからだ!

その彼女が帰りのSHRに出られるはずがない。つまり、こうすればいいわけだ!

 

 

「先生も知ってますよね、昨日俺が自己紹介しに教室に行った時の魔理沙の言葉を」

 

「いきなり何の話だ?」

 

「まぁ聞いてください。あの時魔理沙は俺に『天文部へ来い』と勧誘してきましたよね?」

 

「おー、したした! アタシが昨日来いって、きょーたろーにちゃんと言ったぜ!」

 

「遼太郎な。魔理沙の証言通り、俺は言われたとおりに彼女についていったんです。

_____________天文部への歓迎会を行うから、先に他の部員を待たせてあるって」

 

「…………ほう?」

 

 

俺の話を聞いた上白沢先生がわずかに眉を動かして、何やら思案する表情になる。

よし、ここまではいい。ここまではついさっき思いついた通りの展開になっている。

けど問題はここからだ。俺の無実を証明するために、ここからの一押しが重要になってくる。

今も若干先生は怪しげな顔をしてるが、まだ無理を通せばどうとでもなる感じに見えるけど、

それよりも不安なのは隣にいる魔理沙だ。余計な事言ったり、口を挟んでこなきゃいいが。

 

 

「あれ? アタシそんなこと言ったっけ?」

 

 

おい考えたそばからコレかよ! 冗談きついぜ魔理沙の旦那ァ‼

 

 

「い、言ってたな。言ってたからみんな集まってくれてたんだろ?」

 

「ん? んー、そうだったっけ?」

 

 

あー、怖い。マジでこういう状態の人の横にいるのって本当に怖い。

重荷を乗せて揺らめく天秤の気持ちが痛いほどよく分かる。アレは胃薬が手放せんわ。

じゃなくて、ここからだよ! ここからの一押しに全てがかかってる‼

怖気づくな俺! いける、怯えるな! ここでサボりの烙印を押されれば、初日の印象最悪だ‼

 

 

「__________まぁメルランから事情は聞いてるから、明日は気をつけろよ?」

 

 

おい覚悟決めた途端にコレかよ! 勘弁してくださいよ上白沢センセー‼

 

 

「って、メルラン? メルランが何か言ったんですか?」

 

「ああ、お前が魔理沙に強引に連行されたとSHRで発言した。だから今回はいい」

 

初日の印象が悪くなるのは回避できたみたいだ。それもこれも、またメルランのおかげっぽい。

本当に俺は運がいいとしか思えないな、あんなにいい子の隣に転入できるなんて、ホントに。

しかし分かっていながらなんで先生はわざわざあんなこと聞いたんだろうか。それが分からん。

そう考えていると先生が俺の考えを読み当てたように、人差し指を立てながら語ってくれた。

 

 

「何故聞いたのか、だろ? 一応私は担任だ。だから品行方正な生徒の証言であろうと、

生徒の証言だけを鵜呑みにするわけにもいかん。本人たちにも確認を取るのが当然だろ?」

 

「……………要するに、信用がないと」

 

「棘のある言い方だな。仙波は転校初日、魔理沙は一年の頃から脱走の常習犯なんだから

ある程度警戒するのは必然というものだろうよ。とにかく、今回は許すが次回は罰を科すぞ」

 

 

少し言い方はきつくなっちまったけど、要するにあくまでSHRの脱走者から直接理由を聞くのは

教師として当然だ、ということか。まぁ確かに当然だ、この学校もまだマシなとこはあるんだな。

というか魔理沙、お前一年の頃から目を付けられてる札付きだったのかよ………酷過ぎるだろ。

それにしても色々と抜けてそうだけど優しそうだった上白沢先生の目つきが最後の"罰"の部分で

急に鋭く冷たくなったな。何だろう、大人しい人が静かにキレた時って言葉がしっくりくる感じ。

 

「なぁ魔理沙よ、お前に至っては二年生に上がってから初犯だから許すが、二度目は無いぞ」

 

「ぁお、おう! 分かってる、分かってるって!」

 

「……………『分かってる』?」

 

「わ、分かってます! 分かっております上白沢先生!」

 

「よろしい」

 

 

な、なんか上白沢先生の態度が一変したような気がした。まるで人が変わったみたいに。

先生の変化と共に魔理沙の態度までもが豹変した。あれほど不遜な魔理沙が今では米国海軍で

一年ほど鍛え上げられた海兵のような、それほどまでに見事な敬礼の姿勢を維持している。

人は見かけによらないというが、まさにその通りらしいな。上白沢先生の底が見えねぇや。

 

 

「__________あの、上白沢先生? 少しよろしいでしょうか?」

 

目の前で美人の担任が別人のように恐ろしくなったことに戦々恐々としていると後ろから、

少しやつれたような外見の男の先生が上白沢先生に話しかけてきた。顔が見えねぇけど。

声をかけられた先生は男の先生の方を見るとまたいつもの落ち着き払った感じの態度に戻って

対応した。

 

 

「これは桜井先生。何か御用ですか?」

 

「ええ、実は先程のお話を小耳に挟みまして……………」

 

「先程の、というと?」

 

「霧雨の言っていた、天文部の顧問の件ですよ」

 

桜井と呼ばれた男の先生はどうやら、魔理沙が言いふらした顧問の事で何かあるらしい。

上白沢先生もそこが気になったのか身を乗り出すようにして桜井先生の言葉を促す。

 

「魔理沙の? ああ、天文同好会の会員が部活動規定数を達成したから顧問をよこせ、

と私に文句をつけに来た話の事でしたか」

 

 

魔理沙お前、そんな態度だから教師に目を付けられるんだよ。

 

「ハイ。実は私、個人的に天体観測や星座の観察などを嗜んでいまして。それでもし上に

掛け合って許可を貰えれば、私が天文部の顧問になってあげようかと思いまして」

 

「それ本当か⁉ よっしゃあ! やったな、けーたろー! 顧問ゲットだぜ‼」

 

「遼太郎だ。それとそのフレーズは色々と問題が起こりそうだから止めておけ」

 

「あん? なんでだ?」

 

「何でもだ。それにしても、あの、桜井先生。本当にいいんですか?」

 

 

魔理沙の傍若無人さに真面目に目も当てられなくなったので、話を持ち掛けてきた後ろの

桜井先生に今の話が本当なのかと尋ねてみた。先生は無言のまま、首を縦に上下させる。

そのまま桜井先生は、俺に優しく語りかけてきた。

 

 

「君は転入生の仙波君だったね。私は学生の頃から天体には非常に興味があってね、

この学校の理科準備室の担当にさせてもらったのもそれが理由なんだ。加えて言えば、

霧雨達に部室として準備室を開放してあげてるのもね」

 

「優しいんすね、先生」

 

「同じく星に魅入られた者を、手助けしたいだけだよ。どうでしょうか、上白沢先生」

 

 

柔和な笑みを浮かべる桜井先生はまさに、心から手を差し伸べんとする善人の表情であった。

そんな真っ直ぐな先生の思いを俺同様間近で聞いていた上白沢先生は、薄く笑って頷く。

 

 

「私は構いませんよ。規定数もそろっていて、顧問もいるなら部活として文句ないでしょう。

ただ新学期早々の変更となると少し上と揉めそうですが、何なら私が手を貸しましょうか?」

 

「いえ、それには及びませんよ。じゃあ霧雨、そういうことだから」

 

 

上白沢先生からの了承も受けられたことで、これで正式に部活として活動できるわけだ。

桜井先生の温和な微笑みを向けられた魔理沙は、小躍りしそうなほど喜んでいる。

 

「うっす! いやー、マジで助かったぜ先生!」

 

「礼には及ばないよ。私は仕事で学校を離れることが多いから、部活を見れないことだって

あるだろうから。あぁそうだ、そんな時は仙波君、君が魔理沙を見張っておいてくれないか」

 

「お、俺が? 転入してきて、日が浅いんすけど…………」

 

「大丈夫さ。なんだか君は、やればできる男な気がするんだ」

 

 

桜井先生からの意外な提案に、あまり気が乗らないでいる。だって、これからこの学校の事を

もっと色々知っておかなきゃならんのに、魔理沙の監視だなんて大役が、俺に務まるか不安だ。

俺の不安げな表情を見た桜井先生はやればできると言ってくれたが、大体の人間はそうだろう。

やればできるのは常識だろ、やらなきゃ何にもできないのは当然だ。なんて、屁理屈かな?

 

隣で喜んでる魔理沙の方を横目で見てみると、なんと彼女は俺に向かって笑顔を見せてきた。

何事かと面食らっていると、当の本人は俺の肩に手を置いてにこやかな顔で語り掛けてくる。

 

 

「そういうことだから、よろしく頼むぜ! りょーたろー!」

 

「………………お、おう」

 

 

好奇心旺盛な子猫の如く丸みを帯びたその瞳が、俺だけを見つめて微笑みに形を変える。

彼女から一身に向けられている眼差しを受けて、俺は何とも言えない気分になってしまった。

 

だってそりゃ、ねぇ?

 

良く言えば男勝り、悪く言えばガサツ人間な彼女でも、外見は可愛らしく麗しい美少女だ。

そんな魔理沙の笑みが俺に向けられていて、なおかつ期待と手を肩に乗せられている。

これまで男として生きてきて、これほどまでに心を熱くさせる状況は無かったと断言する。

男っ気あふれる魔理沙が見せる女の子としての可愛さが、俺の乾いた心を撃ち貫いた。

もしも今朝、メルランの優しさに感動していなきゃ、魔理沙に惚れていたかもしれん。

それほどまでに今の彼女は、美しく、そして可愛らしく輝いていたのだ。

 

 

「おい仙波、いつまで呆けているんだ。君も早く下校するんだぞ?」

 

「___________あ、あ。はい、失礼しました」

 

「しつれーしましたー!」

 

 

上白沢先生に促されてようやく正気に戻れた俺は、そのまま職員室から退室する。

俺の後ろからついてきた魔理沙も同様に定型句の挨拶をして扉を閉めて廊下へと出てきた。

そのまま二人で部室までのそこそこ距離のある道のりを同時に歩き出す。

 

「…………ご機嫌だな」

 

「んー? そうかー? そう見えるかー?」

 

「ああ、見えるよ」

 

「ははは、そっかそっかー!」

 

 

職員室から出て数歩レベルの距離で、魔理沙は喜びを抑えきれずにスキップしだした。

明らかに浮かれて見えるが、まぁ今まで同好会だったのが正式な部になって嬉しいんだろう。

だからって廊下だからすれ違う人がいるわけで、その全員に変人を見る眼で見られていたのは

魔理沙の名誉のためにも、教えないでおいた方が懸命なのかもしれない。

 

しばらくピョンピョンしていた魔理沙だったが、ふと立ち止まって俺の方を向く。

 

 

「どうした?」

 

「…………あのな、えっと、アレだ」

 

「ん?」

 

「……………あ、あ、ありがと、な」

 

そのまま身長差の影響で上目遣いみたくなりながら、恥ずかしそうにしながら礼を述べた。

いつもみたく快活に明るく飄々と振る舞えばいいのに、なんでコイツはこんな時に限って

そういうしおらしい態度を取るんだ。礼だって朝みたく、軽く言えば良かったのに。

 

こんなの______________可愛らし過ぎるだろうが。

 

 

「…………お、う。で、でも何だよ急に」

「それは、だってお前が入部してくれなきゃこうなってなかったしさ」

 

「そ、そんなの分かんねぇぞ? 新入生が入部希望してくるかもだし」

 

「………同好会は意図的に部活パンフから名前を除外されてんだぜ」

 

「あ、あー。なるほど、そりゃ少し酷いな」

 

「だ、だから、お礼、言わなくちゃって思って」

 

「…………………おう」

 

 

天文部部室へと続く学校の廊下で、俺と魔理沙は立ち止まって何も言えなくなった。

確かに魔理沙の視点からしてみれば、俺が入部したことは良いことだったかもしれない。

でも俺の視点だとたかが部活に入った程度でここまで感謝されるのは、少しむず痒い。

なんかオーバーに感謝されているように感じるが、それは多分気のせいなんだろうか。

いずれにせよ、今は正式な部になる事を部室のみんなに伝えに行くのが先決だ。

 

 

「なぁ魔理沙。お礼は後でいいからよ、今はみんなにこの事を報告しに行こうぜ」

 

「んあ、ああ! そ、そうだな! よし、そうと決まれば競争だぜ‼」

 

 

俺からの提案を聞いた魔理沙が、何やらぎこちなく相槌を打つ。何か様子がおかしいな。

なんて思っていたらおもむろに彼女が前方を向いて関節をほぐし始め、そう告げてきた。

おかしいぞ、今の会話の流れでどうして競争になんか発展するんだ? どうしてだ?

 

「はぁ? 競争って、おいちょ、待て待て!」

 

「待てと言われて待つバカはいないぜ! よーい、スタート‼」

 

 

俺が止めようとするのも待たず、魔理沙は勝手に競争の開始を一方的に告げ、駆け出す。

置いてけぼりを食らった俺は競争なんかに参加する気は無かったが、遅れて駆け出した。

個人的には制服で走りたくはない。それに、別段魔理沙に競争で負けても悔しくは無い。

ならなんで俺はこうして彼女に続いて駆け出しているのか。その答えは、すぐに見えた。

 

 

「へっへっへ! 遅過ぎるぜ、れんたろー!」

 

「おい魔理沙! バカ野郎、前見ろ前‼」

 

「そんな使い古した足止めで止まる魔理沙様じゃない「うわぁ!」_______ぜっ⁉」

 

「あんの、バカ‼」

 

 

俺への挑発の為に後ろを振り向いた魔理沙は、そのまま上の階を目指そうとして階段へ

速度を落とさずに突っ込んでいく。しかしその時ちょうど目指している上の階から人が

降りてきて、完全に前方不注意で疾走していた魔理沙と激突し、お互い後ろに倒れこむ。

上から降りてきた人は心配ない。まずいのは、後ろに倒れれば階段から転げ落ちてしまう

魔理沙の方だ。このまま後方へと倒れたら、間違いなく彼女の後頭部は下の踊場へ落下する。

そこまでの高さがあるわけじゃないにしても、女子が怪我するのを黙って見ていられるか‼

 

 

「おぉぉらあぁぁぁあ‼」

 

「きゃあ!」

 

 

汗だくになりながらも全力で階段を駆け上がり、落下してくる魔理沙の下敷きになる。

全ての衝撃を相殺できたわけじゃないが、少なくとも床との直撃だけは免れたはずだ。

間に合うかどうかの瀬戸際で目をつぶって飛び込んだ俺は、ゆっくりと目を見開いた。

 

肝心の魔理沙は、ちゃんと俺を下敷きにしていた。

 

言い方は何となくアレになるが、それでも無事でいることに変わりはない。

それに今気付いたが、お互いの体勢も何の問題も無い。これは本気で安心した。

もしかしたらいわゆるラッキースケベという全男子中高生憧れの超ド級の幸運がこの場で

発動してしまって、他者が見たら誤解されること間違いない体勢になるかもしれないと、

今しがた気が付いたわけだが、全くそんな風に見られる格好じゃないことに胸を撫で下ろす。

 

 

「おーいてて。大丈夫か、魔理沙」

 

 

懸念材料が一切取り除かれたことを安堵しながら、彼女の下から起き上がりつつ声をかける。

ところが彼女はしばらくポカンとしたかと思いきや、急に俺の胸ぐらを掴みかかってきた。

 

「お、お、お前‼ 聞いてないよな‼ 何も聞いてないよな⁉」

 

「な、何だよいきなり! 何を聞いてないって?」

 

「何も聞いてないよな⁉ よな⁉ 聞いてないと言え‼ 言え~‼」

 

 

訳の分からんことをわめきながら魔理沙は掴んだ俺の胸ぐらをガクガクと揺すり出す。

あまりに激しい揺さぶりに頭が痛くなりだしたので、何とか逃れようと言葉を紡いだ。

 

 

「み、聞い、聞いてな、いぃ」

 

「フーッ! フーッ! ホントだな! ホントに何も聞いてないんだな⁉」

 

「聞いてねぇって………」

 

 

再三にわたる確認に俺はぼやきつつ首肯し、ようやく胸部の拘束が解放された。

無理やり揺すらされた首と落下してきた魔理沙を受け止めた背部の痛みに顔をしかめ

ながらも、俺は目の前で息を荒げている魔理沙に一言言おうと口調を荒げた。

 

「おー痛ぇ、お前それが助けた人間に対する態度かよ」

 

「………………それは、だって」

 

「だって? だって何だよ」

「………………ごめん、だぜ」

 

 

悪さをして叱られた小さな子供のように委縮して顔を伏せる魔理沙。

ついたった今行われた理不尽な暴行と、俺の言葉を無視して誰かと衝突した人身事故。

その両方に対しての謝罪だとすぐに分かったし、彼女もそれについては反省してる

ように見える。そのまま無言でいると、急に魔理沙の両肩が小刻みに震え始めた。

 

「…………魔理沙?」

「ごめん、だぜ……………」

 

「魔理沙………………」

 

 

顔を伏せたままだから分かりにくいが、それでも魔理沙の声は震えていた。

彼女のどんな琴線に触れたかは知らないが、何やら雲行きが怪しくなってきた。

そうしてまた俺は無言でいると、ゆっくりと顔を挙げた魔理沙が呟いた。

 

 

「アタシが、アタシが悪かったぜ! だから、だから怒らないでくれよ!」

 

「……………魔理沙、お前」

 

「アタシの不注意だったのは認めるから! だから、天文部は辞めないでくれよ!」

 

そのまま丸い瞳がわずかに潤み、水泡をたたえて小さな嗚咽を漏らし始める。

魔理沙の態度が一変した理由はまだ分からんが、一つだけハッキリした事がある。

 

コイツは、魔理沙は、本当に天文部が好きなんだという事だ。

 

そうでなきゃあんなにはしゃいで部員に伝えようとしないだろうし、今みたいに

本当に心の底から絞り出したような悲痛な懇願はできないだろう。本気なんだな。

 

「魔理沙、よく聞け」

 

「……………………」

 

 

俺は魔理沙をしっかりと立たせ、俺も立ち上がってから改めて話をする。

下から見上げる魔理沙の目は真剣そのものだったが、少し怯えを含んでもいた。

こんなに可愛い女子に怯えられるのは辛いけど、この状況は魔理沙の暴走を抑えるチャンスだ。

ここできつく言っておけば、いくら魔理沙みたいな奴でも少しは大人しくするだろう。

なーんて、考えていた時期が俺にもありました。

 

 

「俺はお前の言う通り、怒ってる。それも、お前に関して二つもだ。分かるよな」

 

「………………ああ」

 

「一つ目は言わなくても分かるだろうが、前方不注意で走り、こうなったことだ」

 

「……………ごめん」

 

「それについては魔理沙を止めきれなかった俺にも少し責任があるから、許そう。

だが俺が許せないのは、もう一つの方だ。分からねぇとは言わせんからな」

 

「…………分かっ、てる」

 

 

そのチェシャ猫みたく丸まった瞳は細められ、端からあふれる水滴を必死に押し留めながら、

魔理沙は軽く息を吸い込んで俺の顔を真っ直ぐ見つめながら、今度はしっかり頭を下げた。

 

 

「いきなり首掴んで揺すったりして、悪かった、ぜ…………」

 

「________違う」

 

 

そして俺は魔理沙が下げた頭を両手で掴んで引っ張り上げて、元に戻した。

いきなり頭を掴まれた挙句謝罪の内容が違うと言われた魔理沙は面食らって驚いているが、

俺としてはその困惑した困り顔を見れただけで、さっきの分はチャラにできちまうよ。

頭上に"⁉"を浮かべている魔理沙の顔を見つめながら、至極真面目な顔で告げる。

 

 

「そうじゃないだろうが」

 

「え? だ、だってそれ以外アタシ何もしてないぜ?」

 

「何もしてないだぁ? よく言うぜ、俺の名前間違えやがったクセに」

 

「……………え?」

 

「追っかけてる時に俺は確かに聞いたぞ、お前が俺のこと『れんたろー』っつったの」

 

「………………そっち?」

 

「おうよ。さぁ謝ってもらおうか? 名前間違えてごめんなさいってな」

 

 

俺の思惑に気付いたらしく、魔理沙の顔に微妙な気配が入り混じるが構うことはない。

真面目とドヤ顔を9:1の割合で混ぜた完璧な表情で押し迫り、魔理沙の謝句を強要する。

やがて耐え切れなくなった魔理沙は小さく笑い、やがて腹を抱えて転げ回る。

ヒーヒー言いながら笑い苦しむ彼女を見て、俺のほんのわずかな怒りも消え去っていた。

しばらくして立ち直った魔理沙は真っ直ぐに俺を見つめ、柔らかな笑みと共に謝罪した。

 

 

「悪かったな、遼太郎」

「………おう。もう間違えるなよ」

 

「へっ、覚えにくい名前してる遼太郎が悪いんだぜ」

 

「ほー、俺のせいにするのか」

「あー悪かった悪かった! この霧雨 魔理沙が悪ぅございました!」

 

「当たり前だ。俺は優しいだろうが」

 

「そーだなーやさしーなー」

「なんで棒読みなんだ魔理沙お前コラ」

 

職員室を出たばかりの時のように二人並んで歩き出し、軽めの口喧嘩をし始める。

出会って三日も経ってない女子とここまで話せるようになった自分にも驚きだが、

そんな女子にロクな抵抗もない俺とこんなに話せる女子がいる、この学園にむしろ驚く。

両手を頭の後ろで組みながら歩く魔理沙を横目で見ながら、ふと先の出来事を思い返す。

今にして思えば、彼女は一体何をそんなに荒ぶる必要があったんだろうか?

 

いくつかの可能性を考慮してみよう。

その1『落下してきた魔理沙にラッキースケベ』コレは無い。断じて無かった。

その2『落下してくる魔理沙のスカートを覗いた』コレも無い。俺あの時目つぶってたし。

その3『落下した魔理沙を起こす時に重いと言った』言ってない、と思う。多分言ってない。

俺はここまで考えてから、重大なヒントを思い出した。

 

 

(あの時確か、魔理沙は『何も聞いてないよな』って迫ってきてたな)

 

 

何も聞いてないよな、ってことは、聞かれたらまずいことでも言ってたのか?

あの想定外の衝突から落下までの数秒の間に、そんな言葉を発する暇があったか?

よくマンガとかアニメである、残り5秒が数話分の時間に引き伸ばされるアレみたいな

現象が起こってたとか? んなことあるわけないだろうが、どう考えても。

 

ひたすらに答えを導きだそうと考えるあまり、俺は意識を集中させ過ぎていた。

だからだろうか、隣にいるはずの魔理沙の言葉も、よく聞こえてはいなかった。

 

 

「……………ホントに優しいな、遼太郎」

「ん、あ、何か言ったか? ちょっと、考え事してて聞いてなかったわ」

 

 

魔理沙が何か言っていたような気がして意識をそちらに急浮上させる。

流石に何を考えていたかまではバレないだろうけど、バレたらまた揺すられそうだしな。

それで結局、魔理沙が何か言っていたような気がして質問したものの、彼女はこう答えた。

 

 

「アホみたいな顔してるって言ったんだぜ、バーカ!」

 

「お前ぇ…………少しは反省という言葉を知ったらどうだ⁉」

 

「吾輩の辞書に、反省の二文字は記載されてないんだぜ!」

「どこのボナパルトだお前は」

 

 

なんつってな、と二人で冗談を言い合いながら笑い合い、部室へと向かう。

その途中で昼から夕方へと変わろうとしている太陽の光が窓から差し込み、俺たちに刺さった。

眩しさに顔をそむけようとしたところ、その視線の先にはちょうど魔理沙がいた。

ほんの一瞬のことだったからよくは見えなかったが、その時の魔理沙の顔は何というか、

 

 

 

すごく赤くなっていた。

 

 




いかがだったでしょうか?
今回は少し台本とは違うアドリブが入ってしまいましたが、
まぁ結果オーライということになるでしょう!

それにしても、私がこのハーメルンでSSを投稿し始めてから先月でもう
一年経ってしまってたんですねぇ。年は取りたくないもんですよ、ホントに。
皆さんもどうか、一日一日を大切に、ゆとりある日々をお過ごしください。


それでは不定期更新される次回を、お楽しみに!

ご意見ご感想並びに批評も常時受け付けております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。