どうも皆様、ストレスで肌荒れしてきた萃夢想天です。
首元と目元が特に酷くてですね、いやホント、ぐぅかゆくて大変ですよ。
他人から見たら某セミの親戚が鳴く頃にでてきた風土病みたいに
見えるかもしれません。あ、考えたら首筋かゆくなってきた…………。
それはそうと、随分と投稿ができずに申し訳ありませんでした。
やはり季節が変わるとやる事も増えてきて、時間が割きにくくて。
万感の思いと共に、それでは、どうぞ!
この俺、仙羽 遼太郎が【幻想学園高校】に転入してから、およそ一週間が経過した。
紫さんと橙と一緒に夕食をとった日から三日、土日を挟めば実に五日もの間、
この新天地での生活を享受していた。それも、想定以上に平和かつ平穏にだ。
「おっす、仙羽!」
「お、おう。おはよー」
「仙羽ー、今度ウチの部活見に来いよー!」
「あ、悪い。俺もう天文部に入部しちゃって」
「天文部って、確か同好会じゃなかったか?」
「いや、俺が入ってちょうど規定人数クリアしてさ、それで」
このように、転入してきた21HRにいる数少ない男子生徒諸君とも円滑に会話が
進められるほどには、交友関係を構築することができたのだ。本当に嬉しい。
なにせ、前の学校じゃあ友人なんて数えるほどしかいなかったし、部活の空気も
どちらかといえば険悪だったから、こういう和気
ちなみにこのクラスにいる男子は、俺を含めてまさかの総勢14人しかいないのだ。
残る24名は全て女子。しかもその中には美少女の名に恥じぬ人物がぞろぞろといる。
言わなくても分かるだろうけど、このクラス内の男子は既に誰が誰を好きなのかという
俗物的な話題を放棄している。理由は単純、選べるわけが無いからだ。
渥美、伊藤、内野、大杉、鈴木、高橋、卓村、富田、長谷川、箕浦、前嶋、山下。
以上がこのクラス内の俺を除いた全男子の名字(ちなみに、鈴木は二人いるが別人)だ。
まだ一週間程度だが、彼らの人柄というか、人となりは何となく察することができる。
性格に難はあっても人それぞれだし、何より明るくて良い奴ばかりで助けてもらってるのも
事実だ。男子の友達は多い方がいい。いや、別に女子の友達がいらないわけじゃないけどさ。
「さぁーて、みんな席に着け。今日は早速、漢字の小テストを行うぞー!」
俺の席に集まってきたみんなと話していると、教室の前の扉から上白沢先生が左手に辞書や
参考書を大量に抱えてやってきた。途端におしゃべりなクラスメイトは静寂の海に沈む。
でもそれは仕方のない事だ。かくいう俺も、その無言の空気に包み込まれた内の一人だし。
上白沢先生は俺たちの担任であるばかりか、国語や日本史、あげく公民まで担当されている。
敏腕と言ってしまえばそれまでだけど、もっと他の先生に任せてもいいんじゃなかろうか。
確かに先生が一人でやってるから、課題や宿題が少なめというのは学生側からしたらありがたく
思うんだけど、身が持たなくなって体調を崩してしまうのではと気がかりになっていた。
ただ、そんな心配をする余裕があったのは、彼女の授業を受ける前までの話だ。
「列ごとにプリントを配る。受け取った者から制限時間五分で解答せよ!」
高らかに告げながら配られゆく白紙を見た生徒が、次々に顔を大きく歪ませていくのが見える。
順番を経て俺の手元にプリントが届き、その紙の正体を拝んだ瞬間に俺も表情筋をヒクヒクと
微かに動かして失笑した。流石は上白沢先生だ、小テストなんて言葉を信じるんじゃなかった。
『第1問、【ふぐたいてん】の【きゅうてき】、ここに【てんちゅう】を下す』
分かるかよこんなもん‼
え、待って? これって高校二年の問題として正しいの? これが基準になってるの?
あまりにも難易度の高い漢字テストを見て愕然としつつも、周囲をこっそりとうかがう。
まさかとは思うが、解けないのは俺だけではあるまいという希望を込めてばれないように
目線のみを極力わずかな時間だけ動かして見てみても、誰もペンを動かしてはいない。
いや、何人かは動かしているが、少なくとも見える範囲の男子は微動だにしていなかった。
これが上白沢先生が担当する、現代国語科目だ。
ちなみに他の担当科目である日本史と公民は、こんなものではない。
恐ろしいほどにディープな問題ばかりをピックアップしてくる上に、なにより厳しい。
あの人はこの学園の特徴になりつつある美人の枠に入るが、それでもやはり怒ると怖く、
一瞬だが背後に修羅の影が見えてくる錯覚も引き起こす。まぁ、ただ者じゃないわな。
そのような流れで一時間目が終了し、次いで二時間目の公民がセットで開始される。
無論、担当は上白沢先生で続行だ。さぁ、憲法やら行政やらの難解単語が飛び交うぞ。
「__________つまり、日本国憲法が定める三つの」
言い忘れていたが、上白沢先生は一旦話し始めると中々終わりどころが見当たらなくなる。
教科書の文章を読むだけでなく、そこから分かりやすい解説やら関連語句についても語り
始めるため、彼女が板書をする時か教科書を閉じた時にしか、息つく暇も与えられない。
なのに授業用プリントがしっかりしすぎているせいで、その貴重なクールダウンタイムも、
先生のありがたいお言葉を書き留めることの為だけに使用されることとなり、終わる。
50分授業と言えども、人間の集中力は訓練抜きで最大25~35分辺りまでしか持たないから
彼女の言葉を聞き取る集中力と書き込む集中力、そのどちらかが途切れてしまった時点で
そいつの脱落が決まる。あとは脳が考えることを放棄して、机に突っ伏する秒読み待ちだ。
「……………っと、あっぶねー」
そんなことを考えていたら、いつのまにかウトウトしかけていたようだ。いかんいかん。
あのまま瞼を閉じて睡眠という名の解放者に身を委ねていたら、俺は殺されていただろう。
殺される、というのは比喩ではない。実際にこの一週間、彼女の授業で居眠りをこいていた
不届き者が職員室へ連行されて、精根尽き果てた風体で帰ってきたのは記憶に新しいのだ。
何があったのかを聞こうとしても本人は語る気力すらなく、周囲の者は皆押し黙るのみ。
具体的にどんな目にあわされるのかは知らんが、彼女の授業で眠る事は止めようと誓った。
「という訳で、三権分立の利点と欠点が___________む、チャイムか」
睡魔の誘惑を振り切って十分後、教室のスピーカーからお馴染みのチャイムが鳴り響き、
教室という一つの境地に幽閉されていた戦士たちへの、解放の福音として空気を一新させる。
開いていた教科書を閉じて、残念そうな顔をしたままの上白沢先生が全員に告げた。
「仕方あるまい、この続きは次回だ。さ、次は合同での体育だろう、早く着替えるんだぞ」
彼女のその言葉を聞き、女子は更衣室へと向かい、男子は重苦し気にため息を漏らし始める。
この学園高校は様々な設備が充実しているものの、何故か更衣室の数が足りていないらしく、
女子は専用の更衣室で着替えるのに対し、男子は教室内での着替えを余儀なくされているのだ。
これには普通に驚いた。前の学校には男子更衣室もあったのに、ここには無いのだから。
これほど広くて清潔な学校なのになぜ、男子の更衣室が出来ないのかが腑に落ちないものの、
そういうシステムなのだから仕方ないと諦め、面識を持った男子の中で若干の羞恥を未だに
捨てきれないままに俺は着替えを始めた。
体操服に着替え終わった一同は、運動靴に履き替えて運動場で整列していた。
背丈順に低い奴から並んでいく方式での列では、俺は真ん中より少し後ろに位置している。
男子14名の中で俺よりも背が高いのは、伊藤と富田と鈴木の三人しかいないため、
必然的にそいつらとの会話が多くなるが、授業の開始と同時に彼らの口が閉ざされた。
「整列は出来ていますね。では、点呼を取りたいと思います」
三時間目である体育の講師を務めるのは、意外にも女性の講師だった。しかもやはり美人の。
春の代名詞である桜よりも先に開花して人々を賑やかす花のように鮮やかな紅梅色の髪に、
どこか中華民族調な印象を抱かせる
それでいて目を引く紅い前髪の隙間には、琥珀のような輝きをした丸い両瞳が開かれていた。
我らが二年次男子他クラス合同体育を受け持つ女性教師の名は、【茨木 華扇】という。
身長はさほど高くなく、見た目も相まって最初は同年代か上の代の女子生徒ではないかと
思ってしまったほどに若々しい人だが、それでもより一層他人の目を引く部分があった。
「よし、全員いるようで。それではまず、準備運動から」
そう言って茨木先生は、左手に持っていたクリップボードを置いて右手で広がるよう指示を出す。
その時にまざまざと見せつけられるのは、先生の右腕に巻き付いている、白い包帯だった。
はっきり言って異様でしかない。右腕全体を何重にも巻くほどのケガならば、そも講師などを
している場合ではないだろう。それに当たり前のように動かしてるし、痛みを感じているようには
見えない。一体何のための包帯なのか、詳しい事を聞かなけりゃ絶対に分からない。
先週の授業で初顔合わせした時にそれとなく聞いてみたんだが、「関係ない」と一蹴された。
確かに関係は無いけど、だからってそんな包帯巻きまくりの腕で色々されれもこちらが困る。
どうしたものかと悩んでいたが、それよりもさらに大きな問題に頭を悩ませることになるのは、
その少し後からだった。その事を思い出し、これから始まる授業に気が進まなくなる。
「ラジオ体操第一を行います。それを終えたら、グランドをまずは10周しましょうか」
そう、これだ。茨木先生はこのように、何でもないようにとんでもないことを言いだすのだ。
考えても見てほしい。学園高校の校庭グラウドのランニングレーンは、1周が約250メートルの
長さになっている。それをさも当然のように、10周、つまり2500メートル走れと言外に平然と
語っていらっしゃるのだ、あの鬼の如き女教師は。ホント、人は見かけによらないよな。
「さぁ、今日も張り切っていきましょう!」
こうして第二学年全5クラスの内、21HRと22HR男子合同のデスレースが、幕を開けた。
「…………ああ"~、しんどいわ、ホント」
時刻は回り回って12時30分。ちょうど昼休みのチャイムが鳴りだした頃だ。
今俺がいるのは、学校の三つある校舎の内の真ん中である中央舎の1階のとある部屋。
まぁこの時間帯から察することは簡単だろう、今いるのは学園高校が誇る学園食堂だ。
冷暖房完備に加え、座席の数はなんと500を超える、教室にして八部屋ブチ抜きの快適空間。
それこそが"食堂"と親しみを込めて呼ばれているこの場所なのだ。まぁ、この学校に来て
一週間しか経ってない俺が言うのもアレなんだが、そこはこの際置いておこう。
とにかく俺は今、その見渡す限りの人だかりから少し離れた座席に座ってくつろいでいた。
あの体育の後に英語なんて、やる気が起きるわけが無いだろうに。マジで馬耳東風だったわ。
「おおー、ここにおられたのですな、遼太郎殿ー!」
「ん、ああ、卓村か」
「左様にござる! おや、遼太郎殿は学食ではないご様子」
「ああ、貧乏だからな。なるべく個人の出費は控えてるんだ」
「そういうことでござったか」
肉体と頭脳へのダブルパンチを思い返していると、俺の座る席に卓村が近づいてきた。
幸い俺が座っていたのは四人がテーブルを囲めるタイプの座席だったため、ふくよかな図体の
卓村でも問題なく相席することができる。一人で食うのは寂しいので二人で食うことにした。
余談だが、俺はコイツと二人きりになることを望んでいたわけではなく、本当は天使である
メルランを誘おうとしていたのだ。しかし彼女は、昼食は姉妹そろって食べるという約束を
しているらしく、俺の計画は目論見の時点で破綻していた。その結果が、この現状である。
「ハァ………メルランと食えないとか、よりやる気が無くなるな」
「遼太郎殿は随分とメルラン殿にご執心の様ですな」
「当たり前だろ、あんなにいい子なんだぞ?」
「それは拙者も重々承知。しかしあの平等な優しさこそが、メルラン殿の美徳なれば」
「………多少のわがままに目をつぶれって?」
「そこまでは」
「まあそもそも、一個人の要望でメルランを縛ろうって考えの方がおこがましいけどな」
「同意でござる」
野郎二人で虚しく溜め息を吐く。そしてそのまま俺はパンを、卓村はサラダを口に入れる。
言い忘れたがこの食堂、なんと食券売り場の横で外部から注文している総菜なんかも
取り扱っており、格安の値段で街のパン屋の売り物が売られていたりもするんだ。
あまり出費をしたくない俺にとって、200円以内でパンを三つも買えるのはありがたい。
ってか、どうでもいいけどコイツ、その外見でどうしてヘルシーメニューオンリーなんだ?
いや、だからこそって言ってやるべきなのか。でも、その、なんか似合わないと言えば
それまでだけど、勝手な想像で大食漢かと思ってたぞ。ホント、人は見かけになんたらだな。
「ん?」
「むむ? どうされました?」
「…………いや、なんでもねぇ」
一枚50円のココナッツトーストとやらを頬張ると、不意に冷たい視線を感じた。
気になって周囲を見回すと、簡単に視線の主を見つけられた。同じクラスの、魂魄 妖夢だ。
学食のトレイを手にしながらコッチを睨みつけていやがる。何なんだアイツは。
「………なるほど、妖夢殿にござったか」
「確かに俺はこそこそ話してたが、なんであんなに根に持ってんだ」
「それは、その」
「お前は別に気に病む必要は無いさ。悪いのはどちらかっつったら、俺とアイツだ」
顔を伏せて申し訳なさそうにしている卓村を励まして、俺は魂魄を睨み返す。
すると向こうはより不快気に顔を歪ませて身を翻し、人込みの奥へと姿を消した。
先に睨んできといて、本当に何がしたいのか分からん。前のことでまだ俺に対しての怒りが
治まってないんだろうか。怒りが治まらないのは俺も同じだよ、クソが。
苛立ちに顔をしかめていると、突然卓村が口を開いた。
「遼太郎殿、これから拙者の話すことは他言無用ですぞ?」
「ん? なんだよ、いきなり」
「………妖夢殿と遼太郎殿が決別された時に言いかけたお話を、今ここで。
ですがこのお話は妖夢殿の態度を擁護する意味で話すのではなく、その」
「…………よく分からんが、秘密にしろってことだな?」
「イグザクトリー、ですぞ」
「分かった。絶対に言わない」
「それでは…………」
互いの昼食もそこそこに切り上げ、卓村が気を重くしながら語り始める。
「妖夢殿が学校に居られなかった理由を、遼太郎殿はご存知ですかな?」
「知るわけないだろ、初対面なんだし」
「当然でござるな。ああ、確認しただけでござる。では、まずはそこからお話をば」
「おう」
「………妖夢殿が暮らしている場所は、元は江戸時代より続く由緒ある旅籠旅館だった
らしいのでござるが、今では客も見込めないために孤児院として機能しているのです」
「孤児院………」
「全国の身寄りのない子供や、親を亡くした、あるいは親に捨てられた子供たちを
集めて一つの大きな家族として保護し、適切な年齢になったら縁のある教育施設へと
送り出して教養を学ばせて、晴れて社会への復帰をさせるための場所でござる」
「孤児院、か」
卓村の話を聞き、俺の頭の中で一週間前のアイツと先生とのやり取りが思い出された。
『ふむ………妖夢、しばらくは良いのか?』
『はい。今日からは下の子達が皆で面倒を見るようにと』
あの時は遅刻の理由としては不十分だった会話も、孤児院というキーワードを得た
ことによって、充分に成り立つものへと変化していった。そういうことだったのか。
つまりあの会話は、孤児院の年長者として下の子供たちの面倒を見ていたがために
学校を欠席せねばならなかったのだということで、それが自分よりも下で任せられる
人物に預けた結果、登校してきても遅れてしまった。と、そういうことなのだろう。
「納得がいった。俺が理不尽にキレられた以外はな」
「そちらは、拙者にもよく分からないのでござる。遼太郎殿はもしや、以前にどこかで
妖夢殿とお会いしているのでは? そのことを忘れているだけとか」
「いや、ない」
ひとまず魂魄 妖夢という人物のおおよその情報は掴めたことで、一区切りをつける。
しかし、まさか孤児院まであるとはな。身寄りのない出身の人間が学校に通うことに
俺は文句を言わないが、それがどうしてあんな態度につながるのかは理解が及ばない。
ただそれでも、アイツに対する怒りがわずかに薄れたことだけは実感できた。
「ま、とやかく言われても相手にしなけりゃいいか」
「それで事がうまく収まれば良いでござるが」
「ならなかったら、まぁ、なるようになるしかないよな」
「………遼太郎殿は意外と楽天家でござるな」
「俺は巨人ファンだ」
「そういう意味ではござらんよ」
その後も卓村といくらか話をして昼食を終え、きたる五時間目に備えた。
時の針は進んで14時30分。そう、六時間目開始のチャイムが鳴り終わったところだ。
五時間目の科学を乗り越えた俺たちを待っていたのは、分厚い六時間目の壁。
ちなみに科学の担当教師は、天文部設立に貢献してくれたあの桜井先生だった。
あの人の授業はなんというか、すごく模範的だった。悪く言えば、教科書通り。
元から苦手意識があったためか、今日の科学はすさまじい眠気との格闘に時間を費やした。
そして現在。21HRの38名は、黒板に書かれた白字を食い入るように見つめている。
全員の視線が集まったのを確認してから、上白沢先生がよく通る声で説明し始めた。
「さて、今日は皆にクラス内役職の振り分けをしてもらおうと思う。
仙羽に分かりやすく説明すると、これはクラス委員長とか係とかを決めるものでな。
各役職を黒板に書いておいた。どの役職に就くかは、自己申告制で決定していく」
ああ、なるほど。役職決めっていうから、どんな
さっき先生が言ったように、このクラス内での役割を決めるための時間ってことだな。
黒板に書いてあるのは、どの高校でもお馴染みの委員会やら係の名前だ。
生活委員に図書委員、体育委員に………へぇ、生徒会と別に風紀委員なんてのもあるのか。
やたら役職の名前が書かれているが、基本的に一人一つに参加すればそれで良いらしく、
それは転入生である俺も例外ではない。さて、どうしたもんですかねぇ。
「では、早速決めていこうか。それではまず、クラス委員長から」
「私がやるわ」
上白沢先生が真っ先に挙げた役職に、凜と澄ましたような声が着任すると立候補した。
誰だ? クラスの代表という、誰もやりたがらない事実上の空席に名乗りを上げたのは。
気になった俺は即座に視線を前方へと向けて、そして目を見張る。
「まあ、お前しかいないよな。頼んだぞ、霊夢」
「どうせ誰もやりたがらないんだし、適当でいいわねよ」
「やるからには責任を持て」
「冗談。責任も何も、クラス委員長の言葉に逆らったらどうなるかは明白でしょ?」
「相変わらずだな」
クラス委員長に立候補したのは、中央最前列にいる黒髪ストレートの美少女だった。
いや、よく見たら髪を後頭部で結わえてないか? ってことは、アレでポニテなの?
しかも隣にいるのはあの卓村だ。でもアイツがあれほどの美少女の隣で騒がないってのも
妙な違和感を感じるな。まさか、黒髪ストレートが守備範囲外とは言うまいに。
普段から退屈そうにしている印象しかない人物が、クラスの代表に立候補したことに
驚きを隠せずにいる。え、それで皆いいの? 納得しちゃってるの?
「よし、では次に」
「ハイハイ! せんせー、アタシは体育委員に立候補するぜ!」
「だと思ったよ。では魔理沙が体育委員だな」
「うっし!」
そうしている内にさらに役職の穴が埋まっていく。今度は魔理沙か。
しかし流石としか言いようが無いな。男子が行くであろう体育委員に自ら名乗り出るとは
よほどの人物でしか成し遂げられまい。ま、俺を片手で引きずれるんだからそれくらい
出来ても不思議じゃないか。そう考えるととんでもない奴だよな、アイツ。
こうして自信家たる魔理沙の立候補を皮切りに、クラスメイトが次々に就きたい役職へ
名乗りを上げ始めていき、それに合わせて黒板を白い文字が埋め尽くしていく。
どうしようかと手をこまねいていた時、隣に座るメルランが突然先生に話しかけた。
「せ、先生。私は、その、生活委員に………あの、いいですか?」
「私に聞かれてもな。皆はどうだ? 反対する者はいるか?」
恥ずかしそうに顔を伏せながら名乗るメルランの言葉を上白沢先生が代弁する。
けどまぁ当然のように反対意見は出てこない。まぁ彼女の言葉に反対するようなやつは
このクラスにはいないと思われる。それほどまでにメルランは誰にでも優しいのだ。
しかしこのままではまずいぞ。俺の行くべきところが確実に減っていくのだ。
生徒会? 俺はそんな高尚な人間じゃないからパス。風紀委員も同じ理由でパス。
美化委員? 多分清掃関連なんだろうけど、どうしてか男子が密集してるからパス。
となると、残された札はたった二枚だけだ。図書委員か、応援委員のいずれか。
(………応援ってことは、多分野球部の、だよな)
そこで俺はふと思い出す。自分が前にいた学校で所属していた、野球部の事を。
環境も人間関係も劣悪で、顧問は煙草を吹かして高みの見物ときたもんだ。
当然そんな連中が公式戦や大会で良い結果を修めることなど出来ようはずもなく、
初戦敗退が当たり前。悪ければコールドゲームで早々に退場していったこともあった。
勝てない苛立ちは後輩の俺たちに向けられ、硬式球で無意味なノックをやらされたなぁ。
(そういえば、あんな奴らに対しても応援団は本気で応援してたっけ)
高校生初めての夏の公式大会を思い出し、むせかえる暑さの中でも声と腕を張り上げ
続けていた応援団員の姿も同時に記憶の底から引き出され、わずかな思い出に浸る。
負けを認めてだらだらとプレーを続行していた先輩たちと違い、彼ら応援団の団員は
試合終了の最後の一瞬まで試合を諦めずに、必死になって応援を継続していた。
(野球から離れた俺でも、まだ野球に対するくすぶりはある………か)
前にいた場所で起こった様々な出来事や、引っ越してきてからの低取得の事実も
相まって、野球部として活動するための部費の算出も厳しい事は重々承知している。
それでも、俺の中で野球への思いは消えていなかった。いや、形を変えていたのだ。
今の俺に野球はできない。金銭的な面でも、精神的な面でも多分無理だ。
けれど応援団に入れば、野球に励む彼らを応援する側にいれば、野球に携われる。
間接的にではあっても、仲間を文字通りに応援してやれる。
ここに思い至った瞬間、俺は自然と口を動かして言葉を発していた。
「_________上白沢先生。俺、応援委員に入ります」
「む、仙羽か? そうか! 立候補したのか、そうかそうか!」
俺の言葉の意味を遅れながら理解した先生は、嬉しそうに何度も頷きながらも、
右手に握った白いチョークで黒板に書かれた役職の穴を俺の名前で埋めていく。
応援委員の文字の下には、新たに"仙羽"の二文字が刻まれていた。
「遼太郎、応援団に入るの?」
「ん? ああ、俺も前の学校じゃ野球部だったしさ」
「そーだったんだ! じゃあ、こっちでも野球部に?」
「あー、いや、ここでは野球はやらないことにしたんだ。今は魔理沙部長率いる
天文学部に入ってる。まあぶっちゃけると、天体とか星座に詳しくないんだけど」
俺が応援委員に立候補したのがそんなに驚くことなのか、メルランがたまらず
聞きこんでくる。それにしても、やっぱりメルランとの会話は本当に癒されるな。
隣にいる美少女との会話でハイになり始めた俺は、そのまま黒板を見つめる。
すると残っていた図書委員の空白に、上白沢先生が突然名前を書き込み始めた。
「それじゃあ図書委員は………アリス、頼めるか?」
「………頼むも何も、もう書いてるじゃないですか」
「引き受けてくれると信じているからだ」
「一方的な信頼は、かえって迷惑ですよ」
「そう言うなアリス。本当は体育委員に入りたかったんだろ?」
「ち、違ッ! ああもう! 分かった、やればいいのよね⁉」
「その意気だ」
図書委員の下に名を書かれたのは、意外にもアリスさんだった。
本人は否定しているが、上白沢先生は持ち前のごり押しで有無を言わさないままに
決定させてしまった。と言うか多分、最後の言葉が一押しになったんだと思う。
アリスさんの役職が決定した直後、最後の授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「お、ちょうどいいな! よし、それじゃあ帰りの支度をするんだ」
上白沢先生の号令もあり、クラスの皆は席を立って帰り支度を始めていく。
そんな中で、最後列に座っていた例の貴族様とその従者の女子が立ち上がって歩き出し、
教卓の上で配る書類の整理をしている先生に向かって不遜たる振る舞いで話し出した。
「それでは先生、私たちは忙しいので」
「あ、ああ。そうか、ではまた明日」
「ええ。行くわよ、咲夜」
「はい、お嬢様」
担任の言葉を一言で砕いた女貴族様は、そのまま銀髪のお供を引き連れて教室を去り、
周囲の視線に対して反応を見せることもなく長い廊下を玄関方面に歩き出していった。
あのブルジョワ、さっきの授業もそうだったが、無関心すぎやしないか?
それとも何か、俺らみたいな庶民と一緒にいるのは実は我慢ならないとかか?
いずれにしても、俺の中にあるアイツらへの印象は、最悪最低で確定した。
「さて、配られたプリントによく目を通しておけよ?」
あの二人が特権を乱用して帰宅してから一分後、帰りのSHRが始まった。
そこで先生から配られたプリントを見て、俺の目は点になった後で丸くなる。
そのプリントにはでかでかと、【遠足に向けての注意事項】と書かれていた。
一体何事かと思っていた時、先生が次の言葉を紡いだ。
「来週のこの日、第二学年による遠足が始まるぞ!」
高校二年にもなって遠足をするのか、と俺はうっかり言いそうになった。
いかがだったでしょうか?
なんだか最後の方が適当になりかけていたように見えなくもないですね。
前半で力を入れ過ぎて後半で巻きが利かなくなるのは私の悪い癖でして。
特に言っておくこととかも、現時点ではありませんかね。
それではまた、不定期更新される日をお楽しみに!
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