ハイスクール ファンタジア ~幻想学園高校~   作:萃夢想天

9 / 14



どうも皆様、国民の祝日を謳歌している萃夢想天です!

天気が良すぎて参ってしまいますよ、お外で遊べばよかったかな……。
あまりにも快晴で気候も穏やかだと、部屋にこもっていることが
非常にもったいないことをしているようで、気が滅入りますよ。

以下、割愛。

もともと不定期更新を謳ってはいましたが、思っていたよりも長く
間隔を空けてしまっていたようです。気づけばもう11月、か。


過ぎ去ろうとしている一年に敬礼しつつ、どうぞ!





HR9「遠足のお約束」

 

 

 

 

 

春も(うら)らかな今日この頃、季節は桜の花が風に揺られる最盛期である。

 

ふと見上げればそこにあるのは、今日も変わらず人の世を照らす太陽と、晴れやかな青色に染まる

澄んだ青空があり、今日という日を生きていく俺たちを励ますように温もりを与えてくれる。

自由気ままに吹き抜ける風は髪を優しく撫で回し、漂うのどかな春の香りは鼻孔をくすぐる。

 

そう、俺たちはまばゆい青空の下で、生を謳歌しているのだ!

 

 

「_________謳歌、してるはずだったのになぁ」

 

 

なんて前置きは心の中の物置に放り込み、盛大な溜息を吐いてから後ろを振り返り、

視界に収まる人物を左端から右端まで見やってから元に戻り、もう一度同じ作業を繰り返す。

 

俺たちは現在、幻想学園高校の校舎内にいるのではなく、完全な学校外に来ている。

もちろんサボってここにいるわけじゃない。俺たちがここにいるのは、あくまで学校行事だ。

 

 

「よぉーし、各班一列に並んだ後、班長は班員を点呼して報告!」

 

 

今日も今日とてノリのいい上白沢先生が、いつもより動きやすそうな感じの衣装に身を包み、

その背には薄緑色のリュックサックを背負って声を張り上げている。今日も元気そうだ。

しかしながら俺の方は生憎とローテンションだ。理由は、今俺が陥っている現状にある。

現在俺たち21HRの面々は、普段着ている制服ではなく学校指定のジャージを着ていて、

そのうえで全員学校の昇降口前に集められている。見渡せば、第二学年全クラスが勢ぞろいだ。

もうここまで言えば勘のいい奴なら大体分かるだろう。これから始まる学校行事が、何なのか。

 

 

「ちょっと、班長は貴方でしょう? 早くしたらどうなの?」

 

「…………おう」

 

「ふん。まったく、高校生にもなって何が"遠足"よ。そんな暇もないって言うのに」

 

「お嬢様、我々はあくまでここの学生という身分ですので」

 

「分かってるわよ」

 

「…………はぁ」

 

 

憂鬱な気分に打ちのめされそうになっていたところへ、さらに追い打ちが自分からかかってきた。

それは俺の後ろにいる班員の一人であり、個人的に関係を持ちたくないと思っていた相手だった。

紫というよりも、光沢のある深い青色といったような色合いをした、ウェーブ状のボブカット。

常に高慢な態度を隠そうともしていないシニカルな表情は、まるでどこかの貴族のご令嬢の如く。

一度魅入ってしまったら二度と目を逸らせなくなりそうなほど、純粋で鮮やかな真紅色の瞳。

そして極めつけは、不遜極まるその人物の、クラス全体から見てもハッキリと分かる、背の低さ。

 

21HR、つまり俺のクラスにいるクソ嫌味なブルジョワンヌ様こと、レミリア・スカーレットだ。

 

もちのろんで、その背後に粛然とした面持ちで直立しているのが、彼女のメイドらしい美少女。

名前は確か、十六夜 咲夜だったか? まぁとにかく、俺が嫌ってる連中トップ2なわけで、

そんな連中と同じ班になってコレから一日遠足をしなきゃならない、この俺の苦悩が分かるか?

(最高に最悪な気分だよ、クソが)

 

 

出来ることならば、過去に戻りたい。あやとりと早撃ちしか取り柄のないあのメガネの少年に

毎度悩まされている、青い未来形猫型ロボットの力を貸してほしいくらいだ。いやマジで。

こんなことになってしまった原因は、ちょうど今日から数えて、四日前の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉーしみんな、席に着け。これから、今週の遠足の班決めを行うぞ!」

 

 

すでに疲労と眠気がピークに達しているであろう、月曜日の六時間目のチャイムが鳴り響き、

同時に我らがクラス担任である上白沢先生が、何やら箱のようなものをもってやって来た。

季節は五月上旬。春の暖かくのどかな息吹は、我々学生の勉強意欲を狩る死神と化すが、

もとからそこまで無かったものをこそぎ取られようとも構わない。俺は眠気に襲われていた。

しかし現実がそれを許さない。上白沢先生の授業では(例え総合授業でも)寝れば命はない。

学友が散っていく様をこの目で何度も目撃していた俺は、この誓いだけは破らないと心に決めて

いたので、体内に残っていた眠気を追い出そうと、全身に力を込めてから思いっきり息を吐く。

 

「辛そうだね」

 

「ん、ああ、いや。ただ眠気覚ましに深呼吸しただけだよ」

 

 

すると隣の席に座っているメルランが、苦笑を浮かべながら声をかけてくれた。

自分だって六時間目に差し掛かって辛いはずなのに、なんていい子なんだろうか。

彼女に要らぬ心配をかけさせまいとして、再度全身を力ませて無理やり眠気を吹き飛ばし、

今度こそ目覚めた俺はこれから始まる最後の授業に向けて意識を集中させていく。

教卓の上に、持ってきた箱状の物体を置いた上白沢先生は、黒板へと振り返ってからチョークを

手に取り、何も書かれていなかったその場所に、第一班から第五班までの班を書いていった。

教室に来て開口一番に、「遠足の班決め」と言っていたからそのことだろうと考えていると、

黒板に書き終えた先生がこちらへと向き直り、箱状の物体に手を置きながら話し始めた。

 

 

「さて、ではこれから諸君には、四日後の遠足での班決めをしてもらおうと思う。

ただし、君らに班決めの全権を委ねた場合、日頃交友の深い者同士でグループを構成しかねない。

今回の遠足には、新しいクラスでの顔合わせと友好関係の広域化を求められているために、

仲良しグループだけでまとまられると趣旨に反してしまう。それに、転入生の仙羽もいるしな」

 

 

どうやら先生の話では、普段からまとまっているグループのままで遠足のグループを作られる

ことは、望まれたものではないらしい。しかもさらっと言われたが、俺は転入直後で交友関係が

ここで一年を過ごしてきた皆と比べて格段に狭い。そのことをキチンと配慮してくれるあたり、

上白沢先生がどれだけ生徒の事を考えているかが実感できる。彼女は本当にいい先生だ。

 

彼女の優秀さに無言でうなずいていると、「そこで!」と声を一段高くした先生が、右手で

ポン、と音を立てて箱の側面を軽く叩いた。なるほど、アレの役割が大体だが理解できた。

 

 

「私特製のくじ引き箱を用意した! この中には第一斑から第五班までが書かれた半紙が、

クラスの九割分作ってある。何故九割か、分かるな? そう、このクラス全員で五つの班には

分けきることができないからだ。『38÷5』、高校生なら誰でもできる簡単な計算式だな」

 

「せんせー、残った三人はどーすんだ?」

 

 

上白沢先生の懇切丁寧な説明が語られた直後、窓側の席にいる魔理沙が挙手と同時に発言する。

確かに魔理沙の言うとおりだ。このクラスは総勢38名、どう考えても五つの班では割り切れない。

同じ疑問を持った幾人かが怪訝そうな顔をするも、先生は落ち着いてその説明を追加で語った。

 

 

「その質問はもっともだ。このクラスで割れるのは五班まで。残ってしまった三人は、

申し訳ないが、22HRで残ってしまう二人と班になってもらおうと考えているが、どうだ?」

 

「あー、そっか。アッチは37人だもんな」

 

「そういうことだ。他に質問はあるか?」

 

 

二人の会話から察するに、どうやらお隣の22HRは生徒が37人らしい。ウチより一人少ないのか。

こういうのって、案外クラスごとに統一されてたりしてないもんなんだな。普通に驚きだ。

魔理沙以降は質問といった質問は出ず、そのまま窓側の生徒から順にくじ引きをしていく方針に

なり、いよいよ遠足の班決めタイムが開始された。まだ順番じゃないのに、ドキドキしてきた。

そうだ、今は誰が引くんだ? お、ちょうど魔理沙か。

 

さっき先生はいつも一緒の相手よりも、他の人との交友も深めるためのくじ引きだと言ったが、

個人的には余計なお世話だと言いたかった。だってそうだろ、出来れば仲のいい奴と一緒で

いたいと思ってしまうのは、悪いことじゃないはずだ。だから、今の時点で交友関係がある

魔理沙やメルランの番号が非常に重要になってくる。俺も必ず、同じ班になってやるんだ!

 

 

「いよっしゃあ! 一番だぜ!」

 

「別に順位があるわけじゃないが………」

 

「なんでも一番になるってのは、気持ちがいいもんだぜ?」

 

「………まあ、何でもいいか。魔理沙が一斑、と」

 

 

そうこうしているうちに、魔理沙の順番が来たようで、彼女の班決めが終了していた。

ふむ、一班か。確率的には現在のところ五分の一程度だから、まだ問題にはならない。

だが、世の中甘くないことを俺は知っている。さて、俺が賭けなきゃならないのは、

ここから先の展開がどう動くかだ。もちろん、願わくは魔理沙たちと同じ班になって、

何の気兼ねもなく遠足の日の思い出を作ることなんだが、さて、どうなるかな。

 

俺が来るまでにあと最低でも十人以上はくじを引く。つまり、その数だけ選択肢が

減っていくということになる。魔理沙がいる班は一斑、残る席はたったの四つだ。

ここから俺までくじ引きの順番が巡ってくるまでに、それら四つの当たり馬券が買い尽くされる

可能性が無いわけじゃない。むしろ、俺まで一枚でも残っていたら運が良い方だろうな。

 

ここから先は、まさに俺の中にある運との駆け引きだ。

 

 

「お、遼太郎!」

 

「ん、魔理沙か。どうした?」

 

 

だんだんと薄れていく望みの行方を気にしていると、教卓までくじを引きに行っていた

魔理沙が、俺を見つけるなり駆け寄って来た。今は一応授業中だろうに。

何か用かと続けて尋ねると、何やらモジモジとためらってから、口を開いた。

 

 

「あ、あのさ、遼太郎も一番取れよ!」

 

「は?」

 

「あ、いやだから、その………い、一班で一緒に遠足………行こうぜ?」

 

 

何と言うことでしょう。匠(脳内フィルター)の手によって目の前に美少女が。

 

ち、違う違う。いや違わないけど、色々違うぞコレは。お前本当に魔理沙か?

制服の裾を右手で軽くつまみつつ、恥ずかしそうにしながらこっちを見つめてくる。

こんな悩殺テクを極めているのが、あの男勝りな魔理沙なわけがない。断固あり得ない。

 

と、現実逃避してみたものの、彼女の提案は実に嬉しいお誘いでもある。

 

彼女自身が俺を公認している以上、それを拒む理由もなければ避ける理由もないわけだ。

しかし実際問題、一緒に行こうと言われても行けない可能性の方が高いのだ。確率論的に。

チラリと黒板に目をやると、既に四班は三人もメンバーが決定しているし、勝ち目は薄い。

けど、諦めきれるか? 中身はともかく外見が美少女な魔理沙に誘われて、無下にできるか?

 

答えは、否だ。

 

 

「任しとけ」

 

「お、おう!」

 

 

親指を立てたサムズアップで応えてみせると、途端に魔理沙の表情が明るくなった。

満足がいく答えを返せたのか、彼女は上機嫌になって自分の席へと足取り軽く帰っていく。

さて、あそこまで言ってしまった以上、逃すわけにはいかないよな。この絶好のチャンスを。

先生の思惑から外れることになりかねないが、それは他の班員でまかなえば文句は無かろう。

 

決意を新たに気を引き締めると、不意に魔理沙が帰っていった窓際から、視線を感じた。

 

単なる視線なら問題は無いんだが、まるで針を、助走をつけて全力投射したかのような鋭く痛い

視線を受けた俺は、思わずそちらを見ずにはいられなくなり、数秒後に後悔することとなった。

 

「……………………」

 

 

視線が送られてきた先にいた人物は、先程着席したばかりの魔理沙の後ろにいる、アリスさん。

 

ああ、そうか。そういえばあの人はそういう人だったな、忘れてたぜ。

今まさに射殺さんばかりに俺を睨む美少女こそ、同じクラスで同じ天文部の、アリスさんだ。

魔理沙に対して何か特別な思いでもあるのか、やたらと魔理沙関連であの人は行動する。

今回もおそらくそれが原因だ。「魔理沙に話しかけられて羨ましい」とか、そんなところか?

 

とにかく、このまま魔理沙と同じ班になれば、最悪アリスさんに後ろから刺されるかもしれん。

もしくは当日の朝に消されて、「(班の)中に誰もいませんよ」って存在ごと抹消されるかも。

………こう言うと失礼だが、あんな目をする人物ならば本気でやりかねないと、怖くなってきた。

 

 

「遼太郎!次、私たちの番だよ!」

 

「んぁ⁉ お、おう……」

 

 

送られてくる死線(誤字ではない)をなるべく意識しないようにしていると、隣のメルランから

声をかけられた。そ、そうか、恐ろしいことを考えていたら、もう順番が廻って来たのか。

ふと顔を上げてみると、そこには黒板に書かれた無数の白い名前の文字列。さっきより増えてる。

ん? そういえば卓村の奴はどこだ……………お、アイツは二班か。

 

この時、俺は既に最悪の事態も想定していた。魔理沙やメルランとも同じ班になれない場合だ。

彼女らと一緒に遠足できないのは残念極まるが、別に思いで作りならば他で幾らでもできる。

しかし居たくない奴と一緒になるのはまっぴらごめんだ。故に、最後の望みである卓村の動向も

一応掴んでおきたいと思っていた。となると、卓村と魔理沙は完全に分かれてしまうことになる。

どちらとも一緒に行きたかったのだが、これで最良の未来への道は閉ざされた。さぁ、賭けだ。

 

悩み悩んで三分程度。ついに、俺たちの列の番なった。

 

 

「あ、一班だわ」

 

 

目前で賭けの分が一気に悪くなりやがった。

 

クソ、誰だ! 俺の『転入直後の高校デビュー戦・第一幕』を妨害したバカタレは‼

 

「お、なーんだ霊夢か。ま、いつも通りっちゃいつも通りだな!」

 

「そうね。アンタとの腐れ縁もここまで長引いてるものね」

 

「なーんだよー、アタシの事が嫌いかー?」

 

「別に」

 

 

顔を上げてみると、俺が欲しかった一班と書かれたくじを手にした黒髪美少女がいた。

アレは、霊夢さんだったか? 確か、誰もやりたがらないはずの学級委員長に立候補した人だ。

魔理沙に匹敵する美少女が、同じ一班への入場券を勝ち取っている現実に、やるせなさを感じる。

何となく、ゴールテープを切ろうとした瞬間にコケて、後ろの奴に一着を取られた気分だ。

伝わるかどうか怪しいこの感情にやきもきしていると、ついに俺の前のメルランの番になった。

 

「ん~~~、コレ!」

 

箱の中に手を突っ込んで数秒と経たず、メルランが一枚の紙を手に取って広げる。

その小さなくじには、上白沢先生直筆の『二班』の二文字が達筆で書かれていた。

 

 

「あ、二班だ」

 

「ブヒッ⁉ とと、ということは拙者と、おおお同じ班でござるか‼」

 

「そーみたい!」

 

 

教卓から見て一番手前に居る決定済みの卓村と、たった今班が確定したメルランが喜び合う。

や、野郎ォ、クソ羨ましすぎる! しかもこの選択で、魔理沙とメルランの同一班の可能性、

つまり俺にとって最良の未来がドジャーンになったわけだ。いや、この場合はオジャンか。

 

どちらにせよ、このままではまずい。俺が取るべき選択肢は現在、二つのみ。

まず一つ目は、目の前ではしゃぐメルラン(とプラスα)を裏切り、魔理沙を選ぶ未来。

言葉にするとクソ外道みたいだが、実際は単なる班決めだから許してほしい。

さて、こちらを選んだ場合は、先のように魔理沙が喜んで迎え入れてくれるだろうが、

その代償としてアリスさんの殺気に満ちた視線をいただくことになる。でもアリスさんだって

魔理沙と同じ一班になれたからいいじゃないか。俺が責められる謂れなんかないはずだ。

しかし、こちらの案には欠点がある。それは、残る座席があと二つしか存在しないこと。

逆に、魔理沙を裏切ってメルラン(とプラスα)を選ぶ未来へ移った場合だが、こちらはまだ

空いている椅子が三つもある。ここから滑り込むにしては、なかなか悪くない広さだろう。

他の班は現在、三班が一席、四班が二席、五班が空席となっているため、確率論でいけば

もっとも当選する確率が高いのは五班だろう。まだ誰もいない未開拓の土地だからな。

だがそこへ確定してしまえば、男子以外で交友のある奴はほぼいなくなる。かなりマズイ。

 

絶対に五班は避けねばならない。そのうえで、どうにかして一班か二班の切符を得るのだ。

 

 

「__________よし、コレだ‼」

 

 

上白沢先生が見守る中で箱に手を突っ込み数秒、俺は手触りと己の運を頼りに、くじを引いた。

 

 

「………………遼太郎?」

 

「……………遼太郎殿?」

 

「………………どう?」

 

 

既に席に着いた魔理沙やメルラン、卓村らの死線が集まる中、俺は二つ折りされた紙を開く。

 

 

「_________二班?」

 

 

そこに書かれていた文字は、先程メルランが手にしたのと同じ、『二班』だった。

 

つまり、コレはアレか? 俺は、勝ったのか? 賭けに勝ったんだな⁉

 

 

「やった‼」

 

「遼太郎! 私たちと一緒だね♪」

 

「遼太郎殿、おめでとうござりまする‼」

 

やった、マジでやったんだ! 俺は今回、メルランとの遠足コースを確定させたんだ!

喜びが俺の全身を血潮の流れに乗って巡る。本当に嬉しい。最高に近い気分だぜ。

 

しかし、やはり現実は甘くなかった。思い出作り一つでも、取捨選択を迫られるんだからな。

 

 

「…………魔理沙、すまん。一班に行けなくて」

 

俺はメルラン達との感動を分かち合う暇も放り投げて、最初に誘ってくれた彼女へと向かう。

クラスの窓際で複雑そうな顔をしていた魔理沙は、俺が来るのを見てから表情を作り替え、

何かを隠すようにしながら話しかけてきた。

 

 

「いや、大丈夫だぜ。仕方ないさ、くじ引きだもんな」

 

「あ、ああ。そうだけど、やっぱりいっしょに行けたらよかったなって」

 

「………アタシも、一瞬思ったよ。『あの時アタシが、二班のくじ引いてれば』ってさ」

 

「魔理沙…………」

 

 

浮かない顔のまま語る魔理沙の言葉に、俺は割と本気で焦り始める。

今の彼女の言葉を他人が聞いていた場合、どう考えるか。決まってるだろ、そういう間柄だと

誤解される。ほぼ間違いなくな。でも俺と魔理沙はまだそんな間柄じゃない。"まだ"な。

でも聞けば絶対にそう思われるだろうし、俺だって最初はそう聞こえた。耳が幸せでした。

って違ぇよ、そうじゃなくて。こんな会話をもしも、魔理沙に好意を抱く人物に聞かれたら。

そう考えた場合、非常にマズイことになるとは思わないかね?

 

 

「…………………」

 

(怖ぇ! 後ろのアリスさんがマジで怖ぇ‼ 今にも包丁持ちだしそうな顔してる‼)

 

まぁ分かってたけどね。どちらにせよ、こういう空気になることは分かってはいたんだよ。

ただ、これならまだ許される範疇のようだ。もし仮に同じ班になっていたら………まぁ、うん。

ある意味での最悪を回避できて、良かったと考えるべきか? そういうことにしておこうか。

とにかくこれで、未来の安寧は守られた。四日後の遠足がもう楽しみになってきやがった。

既に俺の中はお祭り騒ぎ状態。もはや来るべき日に訪れる、メルランとの時間を思い描いて

いる始末で、自分の後にくる順番なんてまるで考えてなんかいなかった。

 

そして、予想だにしていなかった展開が、怒涛の進撃を開始する。

 

 

「次は、私ね?」

 

「ああそうだ。思いっきり引け!」

 

「思いっきりも何も、箱の中の物は抵抗しないでしょ……?」

 

メルランと俺が二班に決定してからさらに五分後、ヤツは現れた。

その背後に自身のメイド(らしい)を従え、まるでどこかの国の王妃の如き傲慢さを披露し、

上白沢先生にわざわざ足りない身長の分だけ箱を下ろしてもらいながら、紙を手にした幼女。

そいつはそのまま、右手に持った紙を後ろの美少女に渡して、自分の代わりに開かせた。

 

 

「お嬢様は、二班でございます」

 

「二班? へぇ、それじゃあ転入生と同じってことね」

 

「そのようで」

 

そう、俺はこの時、完全に忘れてしまっていたんだ。

 

班決めのくじ引きはまだ、俺の後ろに大勢続いていたことを。

そして、俺がもっとも関わり合いたくない人物が埋まる空席が、二席開いていたことを。

 

 

「咲夜、あなたも早く引きなさい」

 

「かしこまりました。では先生」

 

「ん、ああ。ほら」

 

 

続いて、受け取った紙を先生に手渡した銀髪の美少女が、箱に手をスルリと忍び込ませ、

何やら目をつぶって真剣な表情に切り替わったと思ったら、いきなり目を見開き紙を引く。

そして誰もが驚く空気の中でただ一人冷静な彼女は、スッと当然の如く確定事項を述べた。

 

「私も二班です、先生」

 

 

かくして、メルランと卓村の三人で楽しむはずだった遠足が、夢の彼方へと飛び散っていき、

代わりに庶民様を舐め腐っているブルジョワンヌ様とその配下の方が、仲間入りしてきた。

 

余談だが、魔理沙たち一班の最後の椅子は、あの妖夢とかいう奴が勝ち取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

といった具合に、四日前に起きた悲劇を思い返し、自分に落ち度が無かったことを再確認する。

そうだ、俺は悪くない。ヴ〇ン先生だってそう言ってくれるさ! 多分な。

 

何が悲しくてせっかくの高校最初のイベントを、たった二人に台無しにされなきゃならんのだ。

俺の運を使い果たした(のかもしれない)のに、いくら何でもこれはあんまりだろうが。

リュック背負って朝っぱらから地元の小山をその足で登り、山頂付近の見晴らしのいい場所で

弁当を広げて昼食を談話も無いままに済ませ、疲労が蓄積された足で山の斜面を降りていく。

俺の半日を返せよチクショウ、このままだとマジで何しに来たのか分からんくなるぞ。

 

「はぁ……………」

 

 

盛大な溜息を一つ。今日一日で、一か月分の溜息吐き出したんじゃないか? そう思えてきた。

 

なんて考えていると、背後から急に、あの癪に障るブルジョワンヌ様に話しかけられる。

 

 

「ねぇ、班長。私たちそろそろお(いとま)させてもらうわ」

 

「ああそうですか、そりゃどうも……………ん、何だって?」

 

「確かに伝えたからね。それじゃ」

 

 

いきなり何を言い出すのかと思えば、レミリアはそう言って一人だけ列から離れていく。

引き留める間もなく出ていくソイツの背を見つめていると、慌てたようにして彼女の配下が

着き従って自分も隊列から離れていった。あのボンボン、学校行事を何だと思ってんだ。

 

「レ、レミリア様⁉ 咲夜嬢⁉ 何処へ行かれるのでありますかー!」

 

「遼太郎…………ど、どうしよう?」

 

 

同じ班の二人も、当然ながら驚いている。まぁ、突然班員が帰るとか言いだしゃそうなる。

もちろん俺だって面食らったさ。いくら常識が無い相手とはいえ、ここまでするなんて

考えてもみなかったことだ。本当に、何から何まで人の神経逆なでしてくれる貴族様だな。

そんな連中が自分から居なくなってくれたんだ、こっちとしては大満足だぜ。

 

「知るか。自分で帰るって言ったんだ、俺の責任じゃないだろう?」

 

「で、でも………一応、遼太郎が班長なんだよ?」

 

「そ、そうでござる! こういった場合の責任は、おそらく遼太郎殿に………」

 

メルランと卓村がやんわりと俺の言葉を否定し、不安そうな視線を投げかけてくる。

しかも、俺が予想していた通りの答えと一緒に。やっぱり、そうなるんだよな。

 

クソ! あのチビ貴族め、やってくれたな! 俺を班長にしたのはこのためか!

俺もあの班決めくじ引きが終わった後に始まった、各班の班長決め会談の時に、

ブルジョワ様が俺に班長を譲ったことを思い出し、今回への布石だったんだと歯噛みする。

班全員の責任者である班長になれば、後で勝手に抜け出るなどの問題行動は取れない。

いや、班員でも普通は取れないが、今回は俺という班長を犠牲(スケープゴート)にすることで普段の素行

から鑑みてもおかしくはない奇行を取ることが出来る。頭まで回るらしいなクソが。

 

 

「…………行かなきゃ、ダメかな?」

 

「ダメだと思う」

 

「同意にござる」

 

「やっぱそうか。あーあ、面倒ごと起こしやがって」

 

 

なんで俺が問題児を自分から迎えに行かなきゃならんのか、ほとほと呆れてくるぜ。

既に二人は山から見下ろして、さほど遠くない住宅街の方まで降りて行ってしまったようで、

正直追うのも面倒くさいと思ってしまったほどだが、一応責任者なので諦めて彼女らを追う。

閑静な住宅街だ。今は平日の昼間なのに、思っていたほど活気がなく、どこか薄気味の悪い

雰囲気に包まれているように感じる。早いところ二人を探した方が良さそうだ。

 

とにかく二人の去った方向を知ろうと、大きめの通路をあちこち探してみる。

色々な建物が立ち並ぶ大通りを、周囲を見回しながら急ぎ足になって回ってみても、

それらしい人影が見当たらない。まさか、ブルジョワともあろう者が、横道を使ったのか?

 

「でも現状、それしか考えられないんだよな…………行ってみるか」

 

思い立ったら即行動、意外とこれでどうにかなることもあったりするもんだよ。

すぐさま脇道の方へと逸れて、俺たちが昇って行ったのとは別方向にある大きな山から

流れてきているという川の方の道へと向かい、とにかく目につく場所を駆けずり回る。

 

人混みの多そうな商店街方面。人が多すぎて特定できない!

人気のなさそうな建設現場付近。あの貴族様がこの騒音に耐えれるか? いや無理だ!

車の通りが少なさそうな、川沿いの狭い通路。ここもきっと外れ________ん?

 

 

「アレ、もしかして貴族様たちか?」

 

 

ふと動かしていた視界を一点に定め、その先にいる人影を遠方から視認する。

遠目からでもウチの高校のジャージは分かりやすい。多分、アレは探してる二人だろう。

 

でも、あの二人以外にも何人か人影が見える。二人と比較して、大人みたいな体格が数人。

しかもどうしてか、首から上が視認できない。いや、視認できないというより、隠してる?

よく見れば、あの二人の前に居る連中は身体を覆い隠すような服装で統一されてるし、

おそらく体格からして男であろう奴らの後ろには、軽ワゴン車が駐車してある。

 

なんだ、妙な感じがするぞ。なんだコレ、どういうことだ?

 

小川のせせらぎが聞こえる向こう側で、二人の男が目の前に居る二人にゆっくり近付き、

片方はレミリアに、もう片方は咲夜に組み付き、そのまま停めてあったワゴン車に飛び乗る。

 

 

「おい、コレってまさか」

 

 

すぐ目の前で起きた光景に、肺が通常以上に酸素を求め、瞳孔が開き、口が乾燥し始める。

居てもたってもいられなくなった俺は、彼女らがつい先ほどまでいた場所へ遅れて近付く。

だがやはり、そこに彼女らの姿は無く、あるのは彼女らのどちらかが持っていたハンカチのみ。

 

信じたくはないが、たった今起こった出来事は疑いようもなく______________

 

 

「______________誘拐、なのか⁉」

 

 

 

 







いかがだったでしょうか?

いやはや、もうすぐ今年も終わりを迎えてしまうのですね。
早かったようで短かったような、そんな今まで通りの年になりそうです。

それはさておき、まさかまさかの超展開です。
誘拐されちゃいましたね、レミリアと咲夜さん。
そして今回を読んだ皆様は、「おかしくね?」と思うやもしれません。
ですがその疑問点については、不定期更新される次回でお答えします。


それでは、不定期更新される次回を、お楽しみに!


ご意見ご感想、並びに批評も大歓迎でございます!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。