フォルシュ・アロン=フリート・公女・アルネージュは、オニール伯国の惑星レイクの地表に降り立っていた。そこは、広大なる砂漠の星だった。地表の7割が大地でその大半の地域が砂漠だった。
彼女の同行者は、他に4人がいた。その4人のうちの、三人の女性を見ながら、アルネージュは、不満そうに思った。
「(いいわね。暑さを感じないとはね。その点だけは羨ましいわ。)」
アルネージュは、厚い布地を顔に巻きながら、直射日光が照り続ける中を砂漠専用の浮揚車で目的地まで、移動していた。あいにく、その車には、冷房機能が壊れており、まさしく、常に適温状態の中にいるアーヴの彼女にとって、灼熱地獄だと思われるものだった。
「アルネージュ准提督、この惑星ですよね。ルーフにとりつけた通信が消えたのは、そこに情報局の特殊部隊200名を送ったけど、全員、音信不通になったわけですよね。」
額に大粒の汗をかきながらフォシュデールは、尋ねた。
「そうよ。まったく、役に立たないわね。特務(特殊任務専用部隊)課の連中も。身内だからこそ、ふがいないと思うわ。わざわざ、私達がこんな辺境の惑星に出向かなければいけなくなったのよ。これなら、カイザーを追う役目の方がよかったかしら。」
そういいながら、アルネージュは、ダリシュとの作戦会議のやりとりを思い出していた。
アルネージュの回想
「ヘルマスター、ここが、あなたの作戦会議の場所?とても、そうとは、思えないのだけど。」そういって、周りをアルネージュは、見渡した。
ダリシュが指定した場所は、『猫の楽園』といわれている数多くのノラ猫が住んでいる軌道公園の一つに、アルネージュ達は、呼び出されていた。
「ここは、意外に使える場所なんです。猫というのは、なかなか、雰囲気を読むのに長けている動物でね。怪しい人間が近づくと反応してくれるのですよ。まぁ、いわば、この子たちが、警戒網というわけです。僕なら異変の鳴き声とかもわかりますしね。」
そういいながらも一匹の猫のノドをダリシュはさすっていた。
「そうなの。まあ、いいわ。それで、こらから、どうするの?二手に分かれるのがあなたの提案だけど、私はあまり、賛成できないわ。敵が想像以上に手ごわいもの。」
「そうなのですけど、こちらの戦力を集中させておくと、その分、時間がたって、敵に戦力増強の機会を与えることに成ります。そこで、護衛をつけると、以前にもいいました。その子たちも、ここにつれてきました。」
ダリシュは、そういって、クリューノを使って、よびだした。
すると、ダリシュ達がいた場所に、地上世界でもとびっきりの美少女たち近づいてきた。
「ダリシュ君、ミカエル、それにラグエル、レミエル、到着しました。」
そういって、金髪と碧眼で褐色の肌を持つ美少女は微笑を浮かべた。
「いや、ご苦労様。事前に伝えた通り、このアルネージュ准提督とフォシュデール千翔長を護衛して欲しい。」
「はい、了解です。」三人を代表してミカエルが答えた。
「ヘルマスター、本当にこの娘たちが大丈夫なの?とても、腕が利くとは、思えないわね。」
アルネージュはいぶかしんだ。
「アルネージュ准提督、うちらを甘く見ては、あかんで。こう見えても百戦練磨や。
」赤い髪で、薄緑色の瞳を持ち、陽気にその美少女は言った。
「それは、嘘。百戦も経験は無い。」
濃紺の髪と紅い瞳の少女はつぶやいた。
「ふーん、それほど言うなら、勝負よ。フォシュデール千翔長、あなたの腕で彼女達を試してみて。」嬉しそうに命令した。
「それは、命令ですか?」
フォシュデールがため息混じりにつぶやいた。
「ええ、そうよ。」
「では、お嬢さんがた、お相手します。さて、誰から私の相手をしますか?」
「じゃあ、レミエル、あなたフォシュデール千翔長のお相手をしてあげて。」
ミカエルは、そういって、レミエルを指名した。
すると、その赤い瞳の少女は黙ってこくりとうなずいて、フォシュデールの前に立って、構えをした。
「レミエル、そんなやつ、一瞬でギタギタや。」
陽気にラグエルは、Vサインをした。
フォシュデールとレミエルが対峙する中、ダリシュは穏やかに微笑んでいて、アルネージュは、一瞬でも彼らの挙動を見逃すまいと凝視していた。
そういう状況の中でフォシュデールは、レミエルに対して違和感を感じていた。
彼の経験では、格闘や白兵戦の達人になればなるほど、ある種の闘気みたいな強さを感じた。例え、それを隠そうとしていても、フォシュデールを騙すことは、できなかった。
特にこのような格闘戦においては、なおさらだった。
しかし、レミエルが構えたとき、フォシュデールは何も感じなかった。殺気や闘気は微塵も無かった。まるで、戦闘シュミレーションをしているような気分になった。
そのとき、彼は気がついた。レミエルが人間……いや、生物ではないということを。
フォシュデールがそう感じた瞬間、唐突にレミエルが視界から消えた。一瞬にして間合いをつめて、背後に回ったのである。その動きをフォシュデールは空識覚で捉えると、なんとか、レミエルの左拳をかわした。それが、彼のわき腹の近くを通過したとき、フォシュデールは異様な寒気をおぼえた。
「(一発でも食らえば、即、骨折する。)」
彼の肉体は、レミエルの一撃にそう感じさせた。
レミエルは、1発目をかわされても、表情はかわることなく、拳や蹴りをくりだした。
フォシュデールは、その一撃の危険性を考慮して、素早く間合いを計って、態勢をはかろうとしたが、レミエルはためらうことなく、フォシュデールに接近戦を挑んだ。
「(ち、このままでは、やられる。なら、こっちも一撃必殺で倒すか。もし、彼女が人間で無いなら死なないだろう)」
フォシュデールはそう結論を決めると、レミエルが右の拳でフォシュデールの顔面をとらえようとした瞬間、カウンターで彼女の首筋に痛烈な一撃の蹴りを加えた。しかし、レミエルは、一瞬、動きをとめただけで、次の瞬間には、左の拳でフォシュデールをうちすえようとした。
その刹那、フォシュデールは、敗北を認めた。
「まいった。だから、もう攻撃はよしてくれ」
そういって、彼女から離れると、痛そうに自分の蹴った足をさすっていた。
その言葉を聞くと、レミエルは無言で構えをといた。
「フォシュデール千翔長、どうしたの?情けない。そんな小娘一人倒せないの。」
アルネージュの口調は、あきらかに不満そうだった。
「無理です。彼女、いえ、彼女達は、人間ではないのでしょう。ヘルマスター。どういう体の構造かしりませんが、いくら私でも金属でできた体を素手では破壊できないですから」
そういって、言い訳するようにつぶやいた。
「人間ではない。ということは、機械なの。この子たちは。」
アルネージュは不満げにいった。
「そうですね。アルネージュ准提督、この子たちは、『サタン事変』で機械兵士といわれていた子たちです。オリハルコン製のね。だから、いったでしょう。ある状況においては僕より強いと。」
ダリシュは、アルネージュに向けて悪戯っ子の笑みをした。
「オリハルコン製………、そうね。確かに護衛任務には向いているわね。なにより、頑丈そうだから(なんていうものを用意してくるのよ。ヘルマスターは、本当に敵に回したくないわ。)」
「ということなので、アルネージュ准提督、私、ミカエルと、ラグエル、レミエルをよろしくお願いします。」星界軍式の敬礼をミカエルは眩しい笑顔の表情でした。
「わかったわ。では、ヘルマスター、あなたの言うとおり、二手にわかれましょう。こっちは、ルーフ元千翔長を追うわ。彼は、情報局の人間だったもの。私達の手で捕らえたいから。」
アルネージュの瞳には決意の色がうかがえた。
「わかりました。では、こっちは、カイザーを追います。それでは、お互いに成功させましょう。」
そういって、ダリシュは黙って様子を見ていたティアラと共に、『猫の楽園』から、去っていった。
再び、砂漠の惑星レイク
アルネージュ達は、6時間ほど、浮揚車に乗った後、巨大な岩壁にある洞窟を見つけて、そこで夜を過ごして休んだ。浮揚車は、太陽電池式のもので、夜は広範囲に移動できないものであった。
「ねぇ、あなたたちは、暑さと寒さとか感じるの?」
そういって、夜には急速に気温が下がっているので砂漠の中でますます機嫌が悪そうにアルネージュは聞いた。
「はい、そういうものは、感じません。ただ、感触というものは、あります。圧力だけですけどね。これによって、物理的な強度とかを認識して行動するのです。もっとも、温度センサーもありますし、そう意味では、気温の差を感知することはできます。」
ミカエルは優等生のようなものいいをした。
ミカエルたちは、情報局所属の従士待遇として、星界軍の軍衣を着ていて、それは、地上世界に下りたときでも変らなかった。そのため、砂漠用の戦闘服を着たアルネージュ達とは、また、違った雰囲気をだしていたのだった。
「あら、そうなの。では、索敵センサーももっているの?」そういいながらも、アルネージュは、寒さに少し震えながら毛布にくるまっていた。
「もちろんや。うちらは、ダリシュが愛を込めて生み出したアークエンジェルやで。そこらへのぼんくら兵器とはわけがちがんや」
ラグエルは、胸を張って得意げに言った。
「そう、なら、私とフォシュデールは、これから休むから、護衛をお願いね。はっきりいって、敵がどの程度の戦力を持っているかわからないから、油断はできないわ。」
「了解です。アルネージュ准提督閣下。」
そういって、ミカエルは、わざとらしくおおげさに敬礼した。
アルネージュが眠って、数時間後、体がゆらされていて、遠くから声が聞こえるのを感じた。
「アルネージュ准提督、起きてください。状況が変化しました。しかも、悪いほうに。とにかく、起きてください。おきろーーーーー」
フォシュデールは、必死になって、肩を揺らしていたが、なれない地上任務の疲労のせいか、アルネージュはなかなか起きなかった。
最後は、耳元で大声を響かせていた。
「うるさーい。たく、わかったわ。どうしたのフォシュデール」
明らかに不機嫌な様子でアルネージュは聞いた。
「こちらに、地上戦力の戦車、自走砲、機関砲車両などが、こちらへ向かっています。その数、約500、あと15分もしないうちに、相手の射程距離に入るそうです。彼女達の監視網で発見しました。」
深刻な表情でフォシュデールはつぶやいた。
「ちょっと、待ってよ。この地上世界には軍隊なんてないはずよ。なんで、そんなものがあるの。帝国に隠していたわけ?」
「わかりません。ただ、言える事は、ここからは、早く撤退した方がよさそうだということです。」
「わかったわ。速く、浮揚車に乗りましょう。それで、どこに逃げた方がいいの?」
「ここから、南西の方向に空港があります。そこで、なんとか、飛行機に乗れれば、逃れると思います。進行方向とはちょうど、逆ですし。」
「……フォシュデール、それって、なんかおかしくない。逆方向に偶然に空港があるとは。」
その提案を受けて、アルネージュは考えた。
「罠ということですか?それでも、500台の戦闘車両に挑むよりはましです。それに、他の方向では、浮揚車の予備電源がなくなって、どうしようもなくなります。」
フォシュデールは、冷静に決断していた。
「二人ともとりこみ中、悪いのですが、すでに、私は、ラグエルとレミエルに撃退命令を出しました。あと1分で攻撃に入ります。」
二人が深刻な表情をしている中、ミカエルは、穏やかな笑みで伝えた。
「攻撃って、はっきりいって、こっちの武器では射程外よ。それに、500台以上もいるのよ。どうやって?」
「簡単な方法です。こちらの軌道上にある監視衛星から敵の位置の情報を把握して、あとは、そこにむかって投擲するだけです。すでに外では準備完了です。」
ミカエルはにっこりと微笑んだ。
アルネージュが洞窟の外に出ると、そこには、大小様々な岩が置いてあった。その数は、500以上はあると確信できた。そして、それを持って、ラグエルとレミエルは、無造作に投げた。しかし、投げたというのは、わからないくらいのスピードであった。それを次々と投げていった。
「アルネージュ准提督、わかりやすく、ここの監視衛星の映像を出しますね。」そういって、自分の端末腕環に立体映像をミカエルは起動させた。
そこには、驚くべき映像があった。突然、進軍していた戦車や自走砲車両や機関砲車両が次々と爆発炎上していた。それは、地雷からの攻撃ではないことは、明白だった。
詳しく見ると、装甲が貫通したり、それが機関部の損傷で炎上していることが確認できた。
「レミエル、今、何個、投げたんや?うちは、300個ほどや。どうや、すごいやろ。」
挑むような表情でラグエルは、投げこんでいた。
「私も、それくらい。」
ちらりとラグエルを見た後、淡々と言った。
「そうか、なら、今度は、どれだけ、でかいのを跳ばせるか勝負や」
そういいながらも、ラグエルは、楽しそうだった。
レミエルとラグエルは、岩盤でできた洞窟の一部をまるで、豆腐のようにあっさりとくりぬくと、投げやすい形の円形にして、それを両手で投げた。その大きさは、直径200ダージュはあるものだった。
数秒後、その巨大な岩の塊は、戦車を潰してしまった。
アルネージュは、これは、戦闘とはいえるものではなく、一方的な虐殺だと思った。そして、このアークエンジェルといわれている機械の少女達の能力は自分の想像を絶するものだと痛感した。
「ミカエル、どうや、言われた通り、全滅させたやろ。採点は、何点くらいや。」満足そうな笑みをラグエルは、浮かべた。
「そうね。50点というところかしら。私だったら、もっと、大きい岩盤を戦車隊に向かって、投げるわ。そうすれば、一気にふっとばせるもの。監視衛星で見たら密集陣形だったし、この方が効果的だったわ。」
「くー、相変わらず、厳しいやな。そなに厳しいと嫌われるで。」くやしがるラグエル
「……今度は、もっと、うまくやる」反省するレミエル
「ところで、あなたち、結局、どこまで、飛ばせるの。それを。」200ダージュのくらいの岩をアルネージュは、指差した。
「そうですね。燃え尽きなかったら、宇宙空間までいけます。だから、私達の能力だと、投げた岩で戦闘機とかも落とせますよ。それだけの探知レーダーもありますしね。」
ミカエルは、満面の笑みを浮かべた。
「わかったわ……。フォシュデール千翔長、あなたに謝っておくわ。」
突然、横でその様子を唖然としていたフォシュデールに言った。
「何をです?アルネージュ准提督」
「あなたに彼女達にけしかけたことよ。こんな怪物だと知っていれば、しなかったわ」少し、すまなそうにアルネージュはつぶやいた。
結局、その後、アルネージュ達をルーフの発信源が消えたと思われる地点まで、敵らしき者が襲ってくることはなかった。ルーフが消えた地点では、オアシス都市があった。
そこには、数少ない原住民や旅のものが活気のある様子で暮らしていた。そして、アルネージュはその街の宿泊施設の一つに泊まった。ここは、自治区であったために、領民政府の警察組織はなかったので、独自の捜査でルーフを探そうとアルネージュは決めていた。
「ふー、やっと、冷房装置のある部屋に泊まれるわ。それより、速く、湯浴みをしなきゃ。さすがに、これまでの道のりはつらかったし、そう思わない。フォシュデール千翔長、いえ、アドゥール」なぜか、少し頬を赤くしながら言った。
「確かにそうですね。ところで、アルネージュ准提督どうして、私達が一緒の部屋に泊まるのですか?」
「その方が護衛しやすいとミカエルが言っていたから。それに、二人きりなんだし、階級も敬語もいらないわ。」
「そう、わかった。確かに、外で寝ずの番をやっているみたいだね。まあ、窓の無い部屋で両隣も抑えている。防御陣形をひいて、そこの二人ともいる。確かに効率的かな。」
状況をフォシュデールは冷静に分析した。
「じゃあ、そういうことね。私は、先に湯浴みをするわ」
アルネージュは久々に機嫌よく、浴室へ入っていった。
その様子を眺めて、フォシュデールは、ある疑問が心の中で浮かんでいた。特務艦隊の騒動があって以来、任務上のとき、特に他に誰かがいるときには、上司と部下の態度で接するのだが、二人きりになると明らかに態度が変るのを感じ取っていた。そして、それは、好意的であると彼は判断した。
そして、その判断から今の状況を推測したらその疑問が浮かび上がったのである。
「(まさか………誘っているのかな?あのアルネージュが。もし、これが当たっていたらどうしよう?私にはまだ、彼女をあきらめきれないのに。)」
自分の考えを打ち消して、心を落ち着かせようとして、フォシュデールは、スルグーを一口飲んだ。
「(しかし、据え膳食わぬは男の恥と爺ちゃんも言っていたな。確か、フォシュデール家訓にものっていたきがする。どうしよう………)
フォシュデールは、結局、疑問を抱いたまま、悶々と悩んでいた。
アルネージュが湯浴みから上がると、フォシュデールも逃げるように湯浴みをするために浴室へ向かった。湯浴みから上がった姿に彼の心に動揺を与えたからである。
髪型は、いつもの巻き気の二つに分かれたおさげではなく、ストレートに腰くらいの長さだった。そして、この宿泊施設に用意されていた「ばすろーぶ」を着ていた。しかし、彼女の幼い姿の体にはサイズがかなり大きめのものだった。
そのぶかぶかの「ばすろーぶ」を着る姿にフォシュデールは、心をどきどきさせたのであった。
フォシュデールが湯浴みを終えた後、アルネージュは二つ並んだ隣の寝台に入っていて、目をつむっていて、眠っているようだった。
フォシュデールが寝台に入ると、目を瞑って眠っているはずのアルネージュが声をかけた。
「アドゥール、起きている?」横にいるフォシュデールを見つめた。
「え、ああ、起きているよ。何かようかい?」
「アドゥール…………………何でもない。」
アルネージュは、フォシュデールを見つめたまま、不安で寂しげな表情をした。
フォシュデールは、その表情を見たとき、思わず聞いた。アルネージュがこんな表情をするのは、ほとんどなかったからである。彼女は、いつでも口をへの字を結んで、勝気な態度だったし、どんな苦境の状況でもその態度を崩さなかった。それは、彼女の強い精神力をあらわすものだった。
それが、最近、特に特務艦隊の騒動があって以来、フォシュデールと二人だけのときにふとこのような表情をしたのであった。
「そう、でも、その表情は何かいいたいみたいだけど」
アルネージュの茶色の瞳を見つめて、フォシュデールはつぶやいた。
すると、一瞬、アルネージュは、頬を赤くして、そして、安心したような微笑を浮かべて、フォシュデールとは、反対の方向向いて、つぶやいた。
「アドゥール、私と初めてあったとき、おぼえている?」
「ああ、おぼえているよ。飛翔科修技館で、君の姿は幼かったからね。今も変らないけど」
「ばか。」
「ばかとは、ひどいな。でも、たいがいの飛翔科修技生もそう思ったと思うけど」
「そうね。そういう視線だった。でも、あなたの態度はおかしかったわ。私は17歳で入ったのに、私を見て、すごいなんていうのだもの。そして、握手を求めて、よろしくといったときは、今でも心の中に残っている。」
「まあね。握手をもとめたのは、私の家の家風だから、ついやってしまったよ。君が見た目の年齢で入ったと思ったのさ。」
少し苦笑しながらフォシュデールは言った。
「………アドゥール、どうして、私の姿はこんなに幼いと思う。家徴でもないのに。」
そっと、かすかにアルネージュはつぶやいた。
「それは………わからない……………。」
「私がこの姿は私の父親の……嗜好よ……酷いでしょう。私の父親は……」
アルネージュの言葉は、そこで止まった。その声は涙ぐんでいるようだった。そして、普段のアルネージュから想像できないか細く弱い声だった。
しばらく、沈黙した後、アルネージュは決意したようにつぶやいた。
「私の父親は、娘に自分の嗜好をおしつけた。自分が性的欲求を満足させるために、しかも暴力を使って……」最後の言葉には悔しさと悲しみが混じっていた。
「アルネージュ……(そんな………酷い。そんな親、いや親とはいえるものでは……)」
フォシュデールは、アルネージュの衝撃の告白ただ、呆然とするだけであった。彼には、彼女にかける言葉はみつからなかった。
「アドゥール、私が飛翔科修技館に入ったのは、父から逃れるため。そして、戦う力をつけるため。あなたと初めてあったとき、私が質問したこと覚えている?」
「えーっと……。確か、もし、自分の目の前に巨大は敵が現れたらどうする?と言っていた。私はただ、一言いったけどね。叩き潰すだけ。アーヴらしくねって。それがどうかしたの?」
アルネージュの気持ちを察して、優しく尋ねた。
「それが決めてだったわ……あのあと、父親に凝集光銃をつきつけて、2度と私に近づかないでいった。よっぽど、そのことが衝撃だったみたい。あれ以来、私の前には現れていないわ。」
そういって、アルネージュは、フォシュデールの方を再び向いて、笑顔をした。
「(あはは、そうでるか。彼女の過激な部分は、それがきっかけだったとは)」
「それで、私決めたの。この姿になったのは、しょうがないけど、それでも私の敵が現れたら叩き潰す。たとえ、どんな手段を使っても。そして、アーヴらしくね」
最後は、いつもの勝気な笑みを見せた。
「そうか、その意見はもっともだな。」自分のなにげにない言葉がそこまで、アルネージュに影響を与えていることでフォシュデールは少し照れた。
「アドゥール、ありがとう。あのときも……そして、今度も救われたわ。」
そういって、満面の笑みをした。
彼女の笑顔は、輝いていた。
「さてと、衝撃の告白も終わったし、寝ようか。アルネージュ。任務はまだ、終わっていないよ」
フォシュデールは、布団の中で眠りつこうとした。
「待って………アドゥール。私がこの告白をしたのは………その、私、アドゥールに抱いてもらったからなの」
少し顔と目をふせて、アルネージュは恥ずかしそうにつぶやいた。
「……………(やっぱり、でも、どうしよう?)」
「アドゥールには、好きな人がいることは、知っている。でも……それでも、私は…この体は、あの男にしか触られていない。だから、たとえ、心が私のほうになくても、大好きな人に抱いてもらいたい。こんなわがままな願いだけど、アドゥール、お願い。」
その大きな茶色の瞳には、はねつけられたら、どうしようという不安の色が伺えた。
フォシュデールは、迷った。だが、アルネージュがどんな想いでこの告白したかを考えると、拒否することには、彼の優しさではできなかった。そして、優しく安心させるような微笑で伝えた。
「わかった。君のわがままをきくよ(ごめん、サーシャ)」
アルネージュの頭をそっとなでて、そのあと、その小さな体を抱きしめた。
その夜、アルネージュの人生において1番の幸福と呼べる時間を過ごすのであった。