星界の風章「復讐」   作:いち領民

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星界の風章「復讐」 第二章

惑星マルティーニュのグランドン市に降り立ったサムソンとダリシュは、首相官邸の一室で調査に関しての方法や日程を決めるためのハイド星系政府議会の結論を待っていた。

 

そのとき、サムソンは、ハイド伯爵城館でマルティーニュに来た真の目的を聞いたあと、ダリシュから渡されていたもう一つの記憶片の記録映像を思い出していた。

それには、ジントがダリシュについての出会いや彼がどんな人物であるかということが話されていた。ダリシュの家風の性質上、直接サムソンには、話せないが、親友であるジントが他人に彼の話をするということは、認められていたので、このような手間のかかる形式をとらなければいけなかった。

 

 

「(…まったく、坊やもとんでもない親友をもったものだ。紋章院の『青の牙』と言えば、帝国いや、人類史上最強で最も優秀の諜報機関じゃないか。そういえば、星界軍の情報局の連中も『青の牙』だけとは、揉め事を起こすなとか言っていたな。最も、『青の牙』が情報局と紋章院の縄張り争いなんかに興味を持ったなんて話は一度も聞いていないな。)」

 

そうサムソンが考え事をしていると、すでに髪を茶色に染めてヘアバンドをして空識覚を隠して変装したダリシュが話しかけた。

 

「サムソンさん、久々に降りた地上世界はどうです?このマーティンはなかなか美しい地上世界だと思います。」

 

一応、領民政府の表向きの発表は、サムソンとダリシュはアーヴ帝国の国民として観光に来たことになっていたので、サムソンは家宰という称号でダリシュは呼ばなかった。

 

「そうだな。まぁまぁかな。我が麗しのミッドグラッドに比べれば、幾分落ちるかな。でも、奇妙な生き物がいるということだから、それを料理して、メニューを考えるのも面白いな。」

 

「それにしても、暇ですね。地上世界の議会というのは、相変わらず物事を早く決める能力に欠けていますね。まぁ、いつになったら議会の結論が出るかもわからないので、暇つぶしに思考結晶ゲームをやりませんか?」ダリシュが個人的に持ってきた鞄の中からアーヴ帝国ではポピュラーなゲーム機を出すダリシュ

 

「残念ながらその手のものには、疎くてね。しかも、私の趣味とはまるっきりあわないので、遠慮しておきますぜ。」そういいながら、帝国の諜報関係では恐れられている組織の長の青年がそんなものに興味があることは、面白いなと思うサムソン

 

「大丈夫、単純なゲームですよ。この銃ゲーム専用コントローラーを使って、そのゲーム機に映し出される立体映像に出てくる敵に向かって撃つだけです。それで判定して、自分の銃の腕を試すのですよ。ようは、星界軍の銃訓練のシュミレーターと同じ感じです。」そういいながら、銃ゲーム専用コントローラーを渡そうとするダリシュ

 

「こ、これは、ワルサーP38ではないか。いくらモデルガンとはいえ、ここまでリアルに作ってあるとは、驚いたな。これは、私の趣味をしっているとしかいいようがありませんな。まぁ、暇つぶしには、多少いいかもしれませんな。」といって、銃を見たとたん、急にやる気を出すサムソン

 

「サムソンさん、さすがですね。なかなかの腕前ですよ。僕も参加します。」そういって、二人ともゲームに参加して暇を潰していた。

 

しばらくたってから、軍服を着た二人組みがその部屋に入ってきた。

 

その軍服には真新しくハイド星系軍とかかれてあった。だが、元、人民主権星系連合体のマタイ12師団の兵士だということは明白だった。彼らの挨拶はマーティン語ではなく、連合体の公用語だった。

 

「はじめまして、シュリル調査員、サムソン家宰、私は、ハイド星系軍首相警備隊のミルタン大佐です。こちらは、ウエリントン少佐です。あなた方を一応護衛するために来ました。」顔は日で焼けていて、いかにも屈強な兵士らしく挨拶するミルタンともう一人は、冷徹な目で感情を表面に出さないウエリントン

 

 

「ありがとうございます。護衛までつけてくれるとは、ティル・コリント領民政府代表に感謝しなくてはいけませんね。」含みのある言い方をするダリシュ

 

「そうですな。まぁ、退屈でゲームをしていたので、話し相手をつけてくれたのでしょう。」皮肉を言うサムソン

 

「別に話し相手ではありません。ただ、護衛をいいつけられたので、ここにいるだけです。それと、シュリル調査員、あなた達アーヴの認識では領民政府代表かもしれませんが、ここでは、ハイド星系国家元首です。もし、円滑に調査をしたいならもっと発言に注意をした方がいいです。」軍人らしく高圧的な態度のミルタン大佐

 

「そうですか、わかりました。ところで、僕達は、いつここからでられるのですか?地上に降りてきたのはいいのですけど、全く動けないとなると調査できません。議会の承認とやらいつ頃決まりそうですか?あまりも退屈でさっきまで、ゲームをやっていたのですからね。」ニコニコと人のよさそうな笑顔で話すダリシュ

 

「それは、わかりません。我々はただ、あなた方を護衛せよと命令されただけでここにいるのです。もしかしたら、議会の流れによっては、このまま宇宙へ帰すかもしれませんね。」不敵な笑みをするウエリントン

 

「ウエリントン、滅多なことをいうな。それは、議会しだいだからな。我々がしることではないぞ」なぜか必至に否定するミルタン

 

「そういうことですか。だいたい事情はわかりましたよ。サムソンさん。なぜ、これだけ議会の承認が遅れているかということがね。」何かを察したダリシュ

 

「ほほう、どういうことですぜ。私にはわからないので、詳しく教えてくれませんか。」興味深く聞くサムソン

 

こうして、ダリシュは、ハイド星系政府の権力構造について説明した。

ハイド星系政府は、三つの勢力があった。一つはティル・コリント国家主席が率いる政党で反アーヴを掲げながら現実主義であり、領主を認めるがなるべくこのハイド星系、特にマーティンに関しては干渉させない考え方であった。そして、もう一つの勢力は現段階では、野党でエイザック氏が率いる政党でこれは、強硬独立派であった、領主も認めず、アーヴ帝国からすべての政治的独立を目指す政党だった。そして、第3の勢力としてゼータリ氏がハイド星系軍最高司令官として君臨しているハイド星系軍だった。ハイド星系軍は元々は人民主権連合体のマタイ第一ニ師団だった。

それで、今回の状況から推測されると、ハイド星系軍がティル・コリント氏の政府与党からエイザック氏率いる野党と手を結んだ可能性があるということだった。

 

その話を隠さずサムソンに向かって堂々とダリシュが説明していると、突然、怒ったようにミルタンが話に割り込んできた。

 

「シュリル調査員はどうして知っているのですか?アーヴは地上世界の政治的状況など興味がないと聞いていました。」疑心の目をするミルタン

 

「まぁ、仕事ですから。これくらい調べておかないと調査員としては失格ですよ。ミルタン大佐。それにあなたたちは、どう見ても護衛役より僕達の監視役でしょ。わかりきった嘘は言っても意味がないですよ。」またもやニコニコと微笑むダリシュ

 

「ふん、わかっていたのか。薄気味悪いアーヴめ。確かに我々は監視役だ。貴様らがおかしなことをしないように見張るためにな」殺気に満ちた目で睨むミルタン

 

「やはり、監視役だったのですね。私も薄々気付いていましたけどね。まあ、国家元首のティル氏が議会を説得できなければ、我々は宇宙に帰ることになるのでしょうね。」サムソン

 

「うーん、困りましたね。サムソンさん。こうなったら、もう1回ティル星系国家元首と会談しなくてはいけないでしょう。ミルタン大佐とウエリントン少佐、私がティル氏にもう1回会談したいと要請してくれませんか。もし、そこで上手くいかなかったら、今回は大人しく宇宙に帰りますよ。」

 

その発言を聞いて、二人の軍人は相談して、ミルタン大佐は部屋から出ていき、ウエリントン少佐だけ、ダリシュとサムソンを監視していた。

 

その間、さっきのハイド星系政府の政治的状況の情報をどこでダリシュは手に入れたかをサムソンは考えていた。

そこで、彼は気付いた。さきほど、行っていた思考結晶ゲームには、電波受信装置がついていた。そして、敵の倒したときの言葉がやけに色々な種類で多岐にわたっていた。しかも、ダリシュのゲームの腕前では明らかに倒せると思う敵でも見逃していたケースも何回かあった。あのゲームは一種の暗号文を表示するものではないかと。しかし、あれだけ瞬時にあらわれる言葉をゲームをしながら暗号を解読するなんて方法は、星界軍の情報局の常識では不可能に近い作業だとサムソン思った。実際、あのゲームは、星界軍の銃のシュミレーターでいえば、ランクS級以上であり、そんな状況だからこそサムソンは熱中できたし、集中していた。さらに暗号文を分析するとなると、よほど瞬間的考察力と判断力、そして、かなりの銃の腕前が必要だと感じた。

そう、サムソンが結論したとき、ミルタン大佐が再び、部屋へ入ってきた。

 

「ティル・コリント星系元首は、あなたの要請を受けて、会談をするそうです。それで日時は明日の昼間です。それまで、議会は休むということです。」ミルタン

 

「わかりました。それで、こっちは、個人的要請なのですが、今日の夕食はコリント夫妻と一緒にとりたいです。それで、リナ・コリントさんの手作りの料理が食べたいです。理由は、ハイド伯爵から食べてみろと言われているので、ぜひ、食べたいのです。それに、ここにいるサムソンさんは、料理に関しては相当な技術を持っているので、そのとき、作り方を彼女に教えてもらえば、ハイド伯爵は故郷の味、母親代わりだったリナさんの味を再び味わえる可能性があるのです。これは、全く、個人的要請なので、とりあえず、ティル国家元首に伝えてもらえないでしょうか」真剣な目でいうダリシュ

 

「そうですか、一応は伝えておきますが、許可がでるとは思えませんね。」そういって不信そうに再び、ミルタン大佐は部屋から出ていった。

 

「シュリル調査員、その話が通ると思いますかね。たぶん、無理だと思いますぜ。」サムソン

 

「いや、たぶん、通るよ。これは、あくまでもプライベートの会食だからね。公式的な会見は情報を公開しなくてはならない。でも、プライベートな会食なら話を聞かれることはない。つまり、どんな話をしてもどこからも政治的圧力はかからない。もし、ティル・コリント氏が今苦しい現状ならこの会食で本音を言ってくれるはず。まぁ、それについては、どうでるかわからないけどね。」状況を読むダリシュ

 

「そうですか。そう、上手くはいかないと思いますぜ。」とサムソンは言った。

 

しかし、ミルタン大佐から出た答えは、会食の要請を受けることだった。

 

こうして、二人はその夜、コリント夫妻の会食に招待された。

 

「我々は、我が家にアーヴをはじめて夜食に招待したハイド星系市民となりましたな。とにかく、味が合うとは思いませんが、どうぞ」ティル

 

「ええ、そうですね。でも、私なら大丈夫です。多少、味付けが濃くても食べられます。それに、サムソンさんは、もっと、面白い料理とかもできますからね。」

流暢なマーティン語で話すダリシュ

 

「ええ、私も料理に関してはかなり自信がありますが、リナさんが出した。クィンズ・ベルはなかなかの味です。どうもアーヴの味は薄くてね。こういう味をだしてもらわないと我々、地上世界出身者にはものたりないですな」おいしそうにほおばるサムソン

 

「ありがとう。嬉しいわ。サムソンさんは、ジントの家臣をやっているのですよね。なんだか頼りないと思いますが、よろしくお願いします。それに、シュリルさんは、マーティン語が上手ですね。驚きました。」リナ

 

「ええ、教師が優秀でしたから。実は言うと、私はハイド伯爵いえ、ジントからマーティン語を習いました。彼は僕の親友ですから。」穏やかな笑みを浮かべるダリシュ

 

「…それは、嘘ではないのか?ジントにアーヴの親友ができるとは思わないです。」その言葉を聞き、急にいらだつティル

 

「そうですね。あなたがたの気持ちもわかります。あなた方はアーヴを薄気味悪い生体機械という認識ですからね。あるいは、傲慢な支配者。でも、ジントと王女殿下の二人の様子を短いながら見たでしょう。その雰囲気を感じれば、少なくてもジントは我々アーヴに対する認識はあなた方と違うことはわかるでしょう。」ダリシュ

 

「たしかに、王女殿下に対するジントの瞳は違っていたわ。ジントは彼女のためにアーヴ貴族として生きることを決めたことはわかった…私としてはとても寂しい事だけど。」少し悲しげなリナ

 

「それで、今回、二人に会食をお願いしたのは、ジントからのメッセージがあるのです。ジントは、前の会見のときには昔話だけして、ハイド星系がアーヴに占領されてから自分のどんな人生を送ってきたかを言い出せなかったことを後悔していたので今回、僕がここに来た時、二人にメッセージを渡してくれといわれました」鞄の中から記憶片と映像再生機を出すダリシュ

 

「そうですか、わかりました。では、見せていただきたい。」ティル

 

「私もみたいわ。確かにあのときは、ジントのどんなことをしたか聞いていなかった。」リナ

 

映像再生機にジントの立体映像が現れた。そして、ジントは、デルクトゥーですごした7年間、ラフィールとの出会い、そして、戦争に巻きこまれて、フェブダーシュ男爵でのあしどめ、クラスビュールでの人類統合体から逃亡、帝都ラクファカールの印象、そして、主計修技館時代の話、バースロイルでのラフィールの再会と戦争、ロブナス星系の死線をさまよったことなどを話した。

 

そして、最後にリナとティルに向けて、メッセージがあった。

 

「ティル、リナ、これを聞くと、僕はとてつもなく不幸と思われるかもしれないけど、幸せなんだ。なんといってもラフィールのそばにいられるから。それが、僕の人生の生きがいなんだ。そして、僕は今、軍士で帝国は戦争をしている。もしかしたら、ティルたちより早く死ぬかもしれない。でも、ラフィールのそばにいて、そうなっても、僕は自分の人生については絶対後悔しない。ちなみに、これを届けたダリシュは一番の親友だ。だから、生まれながらのアーヴでも、あまり、露骨な拒否反応はみせないでくれると嬉しいな。最後に、前は言い忘れたけど、二人のことは今でも僕の親だと思う。それは、僕がこれからどんな人生を送っても変らないよ。」

 

こうして、ダリシュが持ってきた記憶片の映像は終わった。

 

「いやぁ、我がハイド伯爵閣下は思ったけど、きつい人生ですな。こんな苦労をしている若者はそういないでしょうな。」サムソンもジントの人生を聞くと、あらためて実感した。

 

「ジント…立派になって。本当はあのときの様子では不安でしょうがなかったけど、ジントが自分らしくいきると決めたら親としては、応援しなくてはいけないわね。ティル」映像を見て、涙を流しならのリナ

 

「ジントの馬鹿野郎。あんな別れ方をしたのに、そして、ニ度とこの故郷の地に踏ませないとしたのも俺だぞ。まったく、お人よしにもひどすぎるぞ…。シュリル調査員、いやダリシュ君、この映像を届けてきてくれてありがとう。ジントには、一言、お前らしく生きろ。それだけ伝えておいてくれ。」ティルも大粒の涙を流していた。

 

「わかりました。伝えておきます。これで、ハイド伯爵閣下に頼まれた僕の役目を終わりました。明日はお仕事の話をしないといけないですが、それについてティル国家元首はなにかありますか?」リナが出した食事はきれい食べきったダリシュ

 

「いや、忘れていた。確かに私はここで仕事の話をするきだった。実は言うと、議会の流れは完全に野党に握られている。だから、議会からの承認はでそうもない。結局、君には協力できないことになりそうだ。」今回の会食の目的を思い出すティル

 

「ティル、こんなときでもお仕事の話をするのね。そしたら、私は邪魔になるかしら。だったら、その記憶映像機をもう1回向こうで見たいわ。いいですか?ダリシュ君」リナ

 

「いいですよ。ついでに、その映像機もあなた方に渡します。コピー防止されていないので、ここの規格の映像機にコピーしたいならできますよ。」柔らかい笑みで答えるダリシュ

 

「わかったわ。じゃぁ、ティル、しっかり、お仕事頑張ってね」なぜか嫌味っぽく言うリナ

「それで、さっきの話の続きなのですが、協力できないということは大人しく宇宙へかえれということでしょうか?でも、そうすると、この惑星軌道上に鎮守府ができても知りませんけど。」ダリシュ

 

「そうなんだが。もう議会の流れはアーヴ自体が我が大地を踏みしめること自体、許せないことなんだ。だから、その問題は先送りということになる。全く、野党の奴らは先を考えていないんだ。でも、奴らは軍部をバックにつけたおかげで、この流れはとめようがない。民主主義なら大勢に従うほかないな。」ティル

 

「そうなのですか、難しいのですね。民主主義とやらは。まあ、でも話は読めましたけど、次の会見で僕がティル星系国家元首に説得されて宇宙に帰れば、面目がたつということなのでしょう。今後の政権を維持するためには必要な決め事でしょうね。」ダリシュ

 

「さすがに優秀だね。話が早く進む。そういうことなんだ。それで、私の説得に応じてくれるかい?」ティル

 

「いいですよ。説得に応じます。そして、その日のうちに宇宙へ帰りますよ。それでは、話もついたことだし、僕達は寝ます。」ダリシュ

 

「いや、ありがたい。では、明日頼むよ。」ティル

 

「では、明日。おやすみなさい。」ダリシュ

「そうですか、では、私も寝ますぜ。」サムソン

 

そういいながら、サムソンはダリシュの様子を不思議に思っていた。まるで、予定通りの行動をしているかのような発言のいいようだった。そして、彼がこのまま大人しく宇宙へ帰るとは思えなかった。なにしろ、紋章院の『青の牙』だから、これからひと波瀾あると予感していた。実際、その予感は的中することになるのだった。

 

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