アースラに戻ったくらげたちを確認したクロノは、フェイトの魔力が残り少ないことを確認し、両手を拘束すると、くらげと同じような部屋に入れた。
その後、クロノ、なのは、ユーノは一度メインルームへ移動することになった。
フェイトの母親であるプレシア・テスタロッサの居場所が、先ほどの攻撃により特定できたため、アースラはプレシア・テスタロッサの拘束に動くことになったためだ。
そのため、フェイトの部屋には、フェイトとアルフ、そしてくらげが残った。
三人は部屋の椅子に座ったが、誰も口を開くことがなかった。
フェイトがくらげに負い目を感じていることは聞かずと分かっていたからだ。
アルフは、フェイトとくらげを交互にみつつ、声をかけるか迷い、くらげはフェイトに何か言わなくてはいけないと思いつつも、俯いているフェイトに声をかけられないでいた。
その気まずい時間はしばらくの間続いた。
それを壊したのは、部屋のドアを開けて入ってきた、なのはだった。
なのはは、目に涙を溜めていた。
そして、何も言わず、フェイトを抱きしめた。
フェイトはその行動の訳が分からずに困惑したが、なのはは少しの間そうすると、ゆっくりと離れ、強い決意を込めた目のまま悲しげに笑うと、部屋を出て行った。
部屋に残った三人は、なのはが出て行ったドアを見ていた。
なのはの行動は理解できなかったが、その強い眼差しは、恐らくなのはがプレシアの確保の支援に向かったであろうことは想像がついた。
アルフが言う。
「私も、行ってくるよ。多分、さっきの転送ポートのとこだろうから」
フェイトがアルフを見る。
「フェイト、私は、あの鬼ババアのことは嫌いさ。フェイトに酷いこと言うし、酷いことするし」
「アルフ…」
「でも、あんな奴でもフェイトの親だからさ。まあ、フェイトのために、無事に捕まってくれればね」
アルフはそういうと、フェイトに向けて少し微笑むと、部屋から出て行った。
残されたフェイトとくらげは、自然と顔を見合わせた。
フェイトは一瞬顔を赤らめたが、すぐに目を伏せた。その様子を見て、ようやくくらげは口を開いた。
「大丈夫だから」
フェイトは、ちらりとくらげをみる。
「僕、使われることには慣れてるから」
くらげがそう言うと、フェイトは目を潤ませて、顔を伏せた。くらげも自分の失言に気付き、同じように顔を伏せる。
しん、とした部屋に、すすり泣く声が響く。
それは、フェイトの声だった。その声がしばらく続くと、声が大きくなっていく。フェイトが座る椅子の足元に、ポタポタと、何かが落ちた。
「ごめん、なさい…」
フェイトが声を絞り出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
そうして、何度も何度も謝る。泣きながら、えずきながら、何度も謝る。
その様子をみて、くらげも眼に涙を溜める。
「僕こそ」
くらげは言う
「分かってたのに…、辛そうだって、分かってたのに、一緒にいて楽しかったから、そうじゃないのは見たくなかった。それを救うことなんて『僕にできるわけがない』って」
くらげの足元にも、涙が落ちる。
「ごめん、ごめん…」
くらげも何度も謝る。
しばらくそうして二人で謝っていたが、どちらともなく、その声に別のものが混じり始めた。そしてそれは次第に大きくなる。
「…っ」
「…ぷっ」
「はっ」
「あはっ」
そして、二人は大声で笑いだした。そのまま笑い続けて、ようやく落ち着くとフェイトが言った。
「二人して、謝って、変だね」
「そうだね」
それにくらげが同意する。
フェイトは深く息を吐いて、呟く。
「わたしも、行ってくる」
フェイトは、くらげに言った。
「え? でもそれは」
「ううん、そうじゃない。母さんを助けるためじゃなくて、母さんを止めるために。もう止めようって。わたしが説得すればもしかしたら…」
「そう…」
くらげはフェイトその行動に強さを見た。
後悔し、反省し、行動できる。それは、くらげにない強さで、まるで主人公のようだった。
だから、くらげは少しでもそれに近づきたくて、
「僕も、行っていい…?」
そんなことを口走った。
だが、フェイトはそれを、くらげの想いをしっかりと受け止めた。
「うん、一緒に行こう」
フェイトはそう言って、頬を染めた。
そして、二人で部屋のドアを開け、先ほどの移動に使用した転送ポートまで急いだ。
フェイトの見張りは居らず、またプレシアの捕獲にかなりの人数を割いたのか、転送ポートにも見張りは居なかった。
この転送ポートが別の場所に繋がっている可能性もあったが、「アルフの魔力の気配がある」とフェイトが言ったため、それを使用して移動することに決めた。
そうして、到着したそこは、かろうじて原型を留めている廃墟のようだった。
止まない地鳴りと、崩れゆく壁、床を所々崩れ落ちていて、その穴からはそこが見えない。
くらげがその穴を覗こうとすると、フェイトが止めた。
「だめ、落ちたら戻れない」
その言葉にくらげはぶるっと震えると、恐る恐るその穴から離れた。
フェイトは、その崩壊していく様子を悲しげな表情で見つめる。そして、「行こう」とくらげを促す。
数え切れないほどの倒された機械兵を横目に、恐らくはアースラの職員と思われる息も絶え絶えの人を尻目に、先を急いだ。
そして、その場所にたどり着いた。
そこには、やや奇抜な服装に身を包んだ女性が、巨大なガラス張りのカプセルのようなものの横に立っており、そのカプセルの中には、一人の女の子が浮かんでいた。
それは女の子は、フェイトに、似ていた。同一人物といえるほどに。
「えっ」
フェイトが、それを見て思わず声を漏らした。
それに気づいた女性は、フェイトの方へ顔を向ける。
「あら、フェイト、何をしにきたの?」
「母さん…」
フェイトがそう呼んだことに、プレシアは反応した。
「もう家族ごっこは終わりよ、フェイト」
「何を言って…」
「あぁ、あなたは聞いていないらしいわね。じゃあ、教えてあげる」
プレシアは、そう言って愉快そうに嗤う。
「あなたは私が愛するアリシアのクローン。アリシアの記憶をあげても、アリシアになれなかった出来損ない」
プレシアは高笑いを続ける。
フェイトは後ずさりをして、ふらついた。目の焦点が合っていない。
「嘘、だ」
「いいえ、フェイト。今までが嘘だったのよ。だって私は、あなたが大嫌いなんですもの」
その言葉を最後に、フェイトはその場に膝をついた。体に力が入らないのか、だらりと腕を垂らし、ぶつぶつとうわ言を繰り返す。
くらげは、フェイトに駆け寄ろうとして、周りの惨状に、見知った人の倒れた姿にようやく気がついた。
なのは、ユーノ、アルフ、クロノ、リンディが、かろうじて息のあるような状態で倒れていた。
「そんな…」
これだけの人数でかかっても倒せない敵なのかと、くらげは驚愕した。だが、正しくはそうではない。
いや、くらげが居ない正しい歴史であれば、全員、倒れることはなかった。
くらげというイレギュラーの存在により、本来の歴史が変わってしまっていた。
ジュエルシードが一つ多くプレシアの元に渡った。
そのために、プレシアが暴走させたジュエルシードをリンディだけでは止められず、負傷したクロノがかばい、どうにか暴走は止められたものの共倒れとなった。
フェイトの魔力がほぼ空になり、くらげへの罪悪感で行動が遅れ、戦闘に参加できなくなった。
そのために、なのは、ユーノ、アルフは機械兵に数で押され、更に現れた巨大な機械兵に苦戦した。そして、相打ちとなった。
くらげと交換になったジュエルシードがなければ、フェイトが魔力切れを起こさずに駆けつけていれば、そんなもしもがあれば防げた事態かも知れなかった。
だが、そんな想像は、こうなっている現実に目を背けるだけで、なんの解決にもならない。
「ジュエルシードの暴走も止められた。もう打つ手は無いわ。私がどれだけこれにかけていたか分かるかしら」
プレシアは、腕をゆっくりと上げる。
「あなた達、命で償いなさい」
くらげはその殺意に身を震わせ、周りを見渡し、助けてくれる誰かがいないことを再確認する。
そして、当たり前のように思った。
『逃げよう』
だが、プレシアの様子を見ながら、後ずさりするくらげの目に、苦しげにうめき声を上げる、くらげを見捨てなかったなのはの姿が映った。
そして、くらげに安らぎをくれたフェイトの姿が映った。
くらげの後ずさる足が止まる。
くらげは、なのはとフェイトを置いて逃げるのか、と自分に問う。二人を見殺しにするのかと、自分に問う。
そして、くらげは思った。
そんなこと、『僕にできるわけがない』と。
次回、クライマックスです。頑張れくらげ。
因みに、前回、大変誤解される書き方をしてしまいましたが、『ただの戯言』《プチフィクション》は二連続使用です。一回分残っています。
あと、前回分の投稿後に、『僕にできるわけがない』なんだから、フェイト助けないほうが良かったじゃん! と大変後悔しました。無念。