霊夢とレミリアの弾幕ごっこは、『死』を前提とした弾幕であった。
赤白いソレは、完全な球体をしており、力が漏れなく制御されていることが分かる。また、その白い輝きは、その中身が恐ろしいまでに凝縮されていることの証拠でもあった。
それは、球体だけに留まらない。その中には光線が交じる。
球体の中に凝縮されていたであろう力が、直線的に放出されたそれは、全てを焼き尽くすレーザー光線のように見えた。
だが、その弾幕を目の前にして、くらげは、心ここにあらずであった。
『世界の敵』
そうレミリアに言われたことが、頭から離れない。
『世界の敵』が何を指すかは分からないが、それは、くらげが世界に対して、『何かする』と言うことにほかならない。
だが、くらげにはそんな力はない。
もしあるとすれば、『触れた人を劣化させる体質』くらいだが、それにしても『世界の敵』と言えるほどのものではないと思われた。
では、何を指してレミリアはくらげを、『世界の敵』と呼んだのか。
「おーい、くらげ!」
くらげが見上げると、頭上から箒に乗った魔理沙が、空から降りてきた。
魔理沙は、地上に近づくと、箒からすっと降りた。
「くらげ、すごいな。まさか、魔法使いの部屋の床を消しちまうなんて…」
魔理沙の驚きは当然のことである。
魔法使いの棲む場所とは、 魔法陣を書き、結界を張り、 自分が優位に立てるように、予め準備されている場所であることが当たり前である。
くらげは、そんな場所の一部を、その床をまるごと消したのである。
「くらげがすごいって、霊夢が言ってたけど、何か実感しちまったなあ…」
「あ、ううん、えと、それは違って、あれは別の人のスキルを劣化したスキルで…」
「でも、くらげはそれを使えるんだろ?」
「う、うん」
「じゃあ、やっぱりすごいぜ!」
魔理沙は、ただ、くらげを褒めた。
そこには、黒い感情はなかった。
くらげは顔を赤くした。
「あ、ありがとう…」
魔理沙はくらげのお礼の意味が分からずに、キョトンとしたが、すぐにその顔を笑顔にした。
「ま、それにしても」
魔理沙は振り返り、
「こっちの方は、まじで凄いな」
霊夢とレミリアの弾幕ごっこを呆然と眺めた。
レミリアのスペルカードは既に3枚切られており、レミリアの顔にも、少し焦りが見え始めている。だが、霊夢には汗も見えない。
「遠いな」
魔理沙がそうつぶやいたのは、霊夢との実力の差を実感したからだ。自分の差が大きすぎる、遠すぎると感じたからだ。
だが、その顔に陰りはなかった。
あるのは遠き目標を見定めた、燃えるような情熱の視線であった。
くらげは、そんな魔理沙を、呆然と眺めていた。それは呆れではない。くらげにとって、やはり魔理沙は眩しすぎる。それこそ、憧れに近いほどに。
魔理沙のように劣等感を抱くことなく前を向くことができたら、魔理沙のように遠い目標にも笑いながら進むことができたら、そんな羨望にも似た憧れであった。
と、そんなくらげに声がかけられた。
それは、か細い、幼い女の子の声のようで、まるで違って、
「ねえ、お兄ちゃん」
ナニもかもが、異なっていた。
「だあれ?」
その瞬間、くらげは背筋にムカデが這い回っているかのような悪寒とともに、その場から逃げ出した。
何かにすがるように腕を前に伸ばしながら、もつれる足で転びそうになりながら、ナニが声をかけてきたかも分からずに走る。
それは純粋な恐怖だった。とにかくその場から逃げ出したかった。
だが、そんな気持ちを踏みにじるように、
「追いかけっこ?」
走るくらげの真横に笑顔の少女がいた。
「うわぁ!」
くらげはついに足をもつれさせて転んだ。そして、くらげは思わず見上げてしまった。
『死』
くらげは、ただその少女を見ただけで、それを確信した。
だから、そこに居たのは少女は、少女のようで、そうではなかった。
ナイトキャップを被ったソレは、容姿だけを見れば天使のようであったが、その背中からは羽根ではなく、ひどく禍々しい枯れ木のようなものが生えていた。それには色とりどりの結晶がついていたが、何故か綺麗といった感情はわかない。
ただ恐ろしい。
その少女の目に映ることが怖くてたまらない。その目に映った自分の、最悪の未来が見えるようで。
くらげはガタガタと震える身体を抑える。
「ねえ、お兄ちゃん、だあれ?」
その少女はその質問を繰り返した。
「あ、ああ、あの」
くらげは恐怖のあまり声が出ない。
「お兄ちゃん、私に似てる」
「え?」
笑顔とともに発せられたその言葉に、くらげは恐怖を忘れて答えた。
少女らしきモノは、笑顔で言う。
「わたしは『壊す』の上手いよ? お兄ちゃんは『奪う』のが得意?」
くらげは、その言葉を理解できずにすぐ反応できなかった。
「…え? 『奪う』って、何を…」
「違うの?」
少女は、不思議そうに首を傾げる。
「ち、違うよ。僕は触った人を『劣化』させる、だけで…」
くらげの答えに、少女は笑顔になる。
「だよね! 『奪った』から、そのひとが弱くなったんだよね!」
その言葉に、くらげは固まった。
『劣化』とは結果である。そうであるならば、その原因は何だったのか。
「でも、わたしよりお兄ちゃんの方がすごくキレイ」
そう言うと、少女は不敵に嗤う。
「わたし、フランドール・スカーレット。お兄ちゃん、一緒に遊ぼ?」
フランドールはそう言うと、くらげの了承も得ずに弾幕ごっこを始めた。
スペルカード宣言もないそれは、ただの蹂躙のようであった。