僕にできるわけがない!【完結】   作:ちひろん

23 / 49
疑問と恐怖と似たもの同士

 霊夢とレミリアの弾幕ごっこは、『死』を前提とした弾幕であった。

 

 赤白いソレは、完全な球体をしており、力が漏れなく制御されていることが分かる。また、その白い輝きは、その中身が恐ろしいまでに凝縮されていることの証拠でもあった。

 

 それは、球体だけに留まらない。その中には光線が交じる。

 

 球体の中に凝縮されていたであろう力が、直線的に放出されたそれは、全てを焼き尽くすレーザー光線のように見えた。

 

 だが、その弾幕を目の前にして、くらげは、心ここにあらずであった。

 

 『世界の敵』

 

 そうレミリアに言われたことが、頭から離れない。

 

 『世界の敵』が何を指すかは分からないが、それは、くらげが世界に対して、『何かする』と言うことにほかならない。

 

 だが、くらげにはそんな力はない。

 もしあるとすれば、『触れた人を劣化させる体質』くらいだが、それにしても『世界の敵』と言えるほどのものではないと思われた。

 では、何を指してレミリアはくらげを、『世界の敵』と呼んだのか。

 

 「おーい、くらげ!」

 

 くらげが見上げると、頭上から箒に乗った魔理沙が、空から降りてきた。

 魔理沙は、地上に近づくと、箒からすっと降りた。

 

 「くらげ、すごいな。まさか、魔法使いの部屋の床を消しちまうなんて…」

 

 魔理沙の驚きは当然のことである。

 魔法使いの棲む場所とは、 魔法陣を書き、結界を張り、 自分が優位に立てるように、予め準備されている場所であることが当たり前である。

 

 くらげは、そんな場所の一部を、その床をまるごと消したのである。

 

 「くらげがすごいって、霊夢が言ってたけど、何か実感しちまったなあ…」

 「あ、ううん、えと、それは違って、あれは別の人のスキルを劣化したスキルで…」

 「でも、くらげはそれを使えるんだろ?」

 「う、うん」

 「じゃあ、やっぱりすごいぜ!」

 

 魔理沙は、ただ、くらげを褒めた。 

 そこには、黒い感情はなかった。

 

 くらげは顔を赤くした。

 

 「あ、ありがとう…」

 

 魔理沙はくらげのお礼の意味が分からずに、キョトンとしたが、すぐにその顔を笑顔にした。

 

 「ま、それにしても」

 

 魔理沙は振り返り、

 

 「こっちの方は、まじで凄いな」

 

 霊夢とレミリアの弾幕ごっこを呆然と眺めた。

 

 レミリアのスペルカードは既に3枚切られており、レミリアの顔にも、少し焦りが見え始めている。だが、霊夢には汗も見えない。

 

 「遠いな」

 

 魔理沙がそうつぶやいたのは、霊夢との実力の差を実感したからだ。自分の差が大きすぎる、遠すぎると感じたからだ。

 だが、その顔に陰りはなかった。

 あるのは遠き目標を見定めた、燃えるような情熱の視線であった。

 

 くらげは、そんな魔理沙を、呆然と眺めていた。それは呆れではない。くらげにとって、やはり魔理沙は眩しすぎる。それこそ、憧れに近いほどに。

 

 魔理沙のように劣等感を抱くことなく前を向くことができたら、魔理沙のように遠い目標にも笑いながら進むことができたら、そんな羨望にも似た憧れであった。

 

 と、そんなくらげに声がかけられた。

 それは、か細い、幼い女の子の声のようで、まるで違って、

 

 「ねえ、お兄ちゃん」

 

 ナニもかもが、異なっていた。

 

 「だあれ?」

 

 その瞬間、くらげは背筋にムカデが這い回っているかのような悪寒とともに、その場から逃げ出した。

 何かにすがるように腕を前に伸ばしながら、もつれる足で転びそうになりながら、ナニが声をかけてきたかも分からずに走る。

 

 それは純粋な恐怖だった。とにかくその場から逃げ出したかった。

 

 だが、そんな気持ちを踏みにじるように、

 

 「追いかけっこ?」

 

 走るくらげの真横に笑顔の少女がいた。

 

 「うわぁ!」

 

 くらげはついに足をもつれさせて転んだ。そして、くらげは思わず見上げてしまった。

 

 『死』

 

 くらげは、ただその少女を見ただけで、それを確信した。

 

 だから、そこに居たのは少女は、少女のようで、そうではなかった。

 

 ナイトキャップを被ったソレは、容姿だけを見れば天使のようであったが、その背中からは羽根ではなく、ひどく禍々しい枯れ木のようなものが生えていた。それには色とりどりの結晶がついていたが、何故か綺麗といった感情はわかない。

 

 ただ恐ろしい。

 その少女の目に映ることが怖くてたまらない。その目に映った自分の、最悪の未来が見えるようで。

 

 くらげはガタガタと震える身体を抑える。

 

 「ねえ、お兄ちゃん、だあれ?」

 

 その少女はその質問を繰り返した。

 

 「あ、ああ、あの」

 

 くらげは恐怖のあまり声が出ない。

 

 「お兄ちゃん、私に似てる」

 「え?」

 

 笑顔とともに発せられたその言葉に、くらげは恐怖を忘れて答えた。

 

 少女らしきモノは、笑顔で言う。

 

 「わたしは『壊す』の上手いよ? お兄ちゃんは『奪う』のが得意?」

 

 くらげは、その言葉を理解できずにすぐ反応できなかった。

 

 「…え? 『奪う』って、何を…」

 「違うの?」

 

 少女は、不思議そうに首を傾げる。

 

 「ち、違うよ。僕は触った人を『劣化』させる、だけで…」

 

 くらげの答えに、少女は笑顔になる。

 

 「だよね! 『奪った』から、そのひとが弱くなったんだよね!」

 

 その言葉に、くらげは固まった。

 『劣化』とは結果である。そうであるならば、その原因は何だったのか。

 

 「でも、わたしよりお兄ちゃんの方がすごくキレイ」

 

 そう言うと、少女は不敵に嗤う。

 

 「わたし、フランドール・スカーレット。お兄ちゃん、一緒に遊ぼ?」

 

 フランドールはそう言うと、くらげの了承も得ずに弾幕ごっこを始めた。

 スペルカード宣言もないそれは、ただの蹂躙のようであった。

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。