「あはははっ」
フランドールは笑い声を上げながら、余りにも稚拙な弾幕をくらげに放つ。
まるで見様見真似で放っているかのようである。
だが、稚拙なのはその規則正しさであるとか、美しさであるとか、そういった観点の話であって、放たれる歪な塊は、くらげが今までみた中で、最も驚異的であった。
「ぐうっ!」
まず、その稚拙さ故に避けやすいその弾幕は、避けているにも関わらず、くらげの横を通り過ぎるたびに、その肌を激しく焼いた。
脅威なのは塊だけではなく、一つ一つの塊自体から放たれる余波のような何かが、くらげを傷つけていく。
避けているにも関わらず、くらげはボロボロになっていた。
さらに、くらげの近くに弾幕の一部が落ち、その激しい爆風により、くらげの身体は、空に飛ばされる。
「うわあああ!」
そして、その身体は洋館の屋根に叩きつけられた。
「ぐうぅぅ!」
背中を強打したくらげの口から、うめき声が漏れる。
フランドールはその前に静かに降り立つと、次の弾幕をくらげに放ちながら言う。
「お兄ちゃん、避けないで『奪え』ばいいのに」
フランドールの言葉に、くらげは襲い掛かってくる弾幕を避けながら、どうにか反論する。
「そ、そんなこと、『僕にできるわけがない』じゃないか!」
「できるよね? だってそれしかできないでしょ?」
『それしかできない』そうフランドールが言った言葉を、くらげは理解できない。
それは、相手のスキルを劣化コピーする『子供の宝箱』《ガラクタコレクション》を指しているのか、それとも『触れた人を劣化させる体質』のことを指しているのか。
スキルは、その人の本質に関係する。
フランドールの言葉は、そのどちらも指しているように思えた。
「奪ってなんかない!」
くらげは、らしくなく、何故かムキになって声を荒げた。
と、完全に弾幕から意識がはなれたくらげの真正面から、力の塊が向かってきた。
「あっ」
その致命的なミスは、くらげの命を奪うには容易いものだった。
「『恋符』《マスタースパーク》!」
その時そう叫んだのは、箒に乗って、くらげを追いかけてきた魔理沙だった。
その声と同時に、くらげの目の前が白く染まる。ただ白いだけではなく、その周りをきらびやかな星たちが飾っている。
それは、魔理沙のスペルカード宣言であった。
どこまでも真っ直ぐなそれは、まさに魔理沙を象徴するかのようで、出し惜しみなく、最大出力で駆け抜けた。
そしてそれは、妖怪であるフランドールの弾幕にすら、届いた。くらげを消し去るはずだった弾幕の一部が、確かに魔理沙の力によって消え失せた。
「すごい! すごくキレイ!」
だか、『全力』と『遊び』では、そもそも勝負にすらなっていない。
魔理沙の全力を見て、楽しそうにはしゃぐフランドールと違い、魔理沙は肩で息をしながら、額には汗が浮かぶ。
「はぁ、はぁ、喜んでいただいて光栄だな…」
減らず口を叩く魔理沙であったが、次の瞬間、驚愕することになる。
くらげの目の前にいるはずのフランドールが、その場を動くことなく、『魔理沙の前にも』現れたのだ。
魔理沙の目の前にはもう一人のフランドールが浮いていた。
くらげの目の前にいるフランドールと合わせて、二人のフランドールが、その場に存在していた。そして、それぞれが同じように変わらない禍々しい気配を放っていた。
「おいおい、嘘だろ…?」
軽口を叩く魔理沙ですら、驚愕の言葉しかでてこない。
「双子…? じゃないよな」
その言葉に、フランドールは嗤う。
「違うよ」
フランドールがそう言うと、魔理沙の目の前に『もう二人』のフランドールが現れた。
「よ、四つ子か」
そんなわけがないと思いながらも、魔理沙がどうにかそう口にした。同時に魔理沙の目の前にいる三人のフランドールが魔理沙に歪な笑顔を向ける。
嫌な予感に、くらげは走り出す。
レミリアと相対している霊夢から、一枚の御札が、魔理沙を守るようにフランドールとの間に割り込む。
それと同時に爆発音が響き、その煙の中から魔理沙が落下する。
『言うは易し、行うは速し』《ピーチクパーチク》で、くらげは屋根から飛び出す。
つい飛び出したくらげであったが、魔理沙に触れないくらげができることなどありはしない。
「死んでも助けなさい!」
霊夢から激が飛ぶ。
くらげは、地面激突寸前の魔理沙と自分に、『浮いた先から落ちる』《フワフワグラビティ》を使用していた着地しる。
くらげは、そのまま魔理沙に駆け寄る。
魔理沙は、息をしているかも分からなかった。
服はボロボロで、身体のあちこちが大きく火傷してる。爆発の余波がどこまで及んでいるか想像がつかない。
「嘘だ…、魔理沙…」
ピクリとも動かない彼女をくらげは見つめる。
微かに聞こえる、そのか細い息は、いつ途絶えてもおかしくない。
足りていない。
魔理沙を生かすために必要な生命力が不足している。
そして、それは急激な速度で失われていく。
「あぁ…」
くらげの目の前で、命が終わろうとしていた。
だが、くらげのその手では、その命を掬い上げることはできない。
だからくらげは、
「ごめん、魔理沙…」
そういって、魔理沙の手に触れた。