くらげが触る魔理沙は、次第に生気を失うように劣化していく。どことなく肌は枯れ、髪も白みがさしていく。
生命力が不足していたため、『通常の魔理沙』を活かすことができず、さらに生命力は削られていき、あとは死を待つのみであった。
だが、生きるために必要な生命力が少なくなった『劣化した魔理沙』であればどうか。
今にも途絶えそうであったその息は、次第に落ち着きを取り戻していく。
くらげは、魔理沙から手を離す。
上空では、レミリアとの勝負が終わった霊夢が、フランドールと相対し、圧倒していた。
だが、くらげにとって、そんなことはどうでも良かった。
ただ、目の前の事実に、後悔がつのる。
これで良かったのか、他に方法はなかったのか、魔理沙の努力を台無しにすることでしか助けられなかったのか。いや、きっとあるはずだ。魔理沙を『劣化』させずに助けることはできたはずだ。できないのは僕が悪い。僕じゃなければ魔理沙を助けることができた。僕じゃなければ、僕なんて居なければ。
くらげの想いが、くらげを追い詰める。
しばらくして、そんな呆然としたくらげの横に、霊夢が降り立つ。
霊夢は、魔理沙とくらげを見比べると、言った。
「ありがとう、助かったわ」
くらげは俯いている顔を上げて、霊夢を見る。だが、その目は霊夢を見ていない。霊夢の方を向いただけで、まるで焦点があっていない。
「あんたが居なかったら、魔理沙は死んでたわ」
そんな言葉も、くらげには響かない。くらげの心に渦まく後悔が、それらを寄せ付けない。
霊夢はそんなくらげを見ていた。くらげはただ霊夢の方を向いていた。
そうしてしばらくしてから、霊夢が口を開く。
「あんたは」
霊夢にしては珍しく、言い淀む。
「『世界の敵』なんかじゃないわ」
そうして、くらげの様子を見ながら、確かめながら話を続ける。
「視点の違い、価値観の違いよ。私にとってのあんたは、魔理沙を助けてくれた命の恩人だわ」
くらげを思いやるような、支えるような言葉を紡ぐ。
「あの時点では、あんたのやり方が最善だった。生きていればやり直せる。終わらなければ、始められる。あんたは、ちゃんと魔理沙を救ったわ」
そう言うと、霊夢はくらげの反応を見るように黙る。
やがて、くらげは霊夢の方を向いたまま、ぼそっと言った。
「僕は『世界の敵』じゃない…」
焦点の合わない目は、虚ろのまま、その端から一滴の涙が流れた。
「僕は『魔理沙の敵』だった…」
くらげはそう言うと、そのまま霊夢の方を向いていた。
霊夢はそんなくらげをしばらく見て言った。
「あんた、博麗神社にきて、私と一緒に魔理沙の看病をしなさい。落としたのがあなたなら、救うのもあなたでないと駄目よ」
そんな言葉も、くらげには届かない。
憧れすら寄せた魔理沙を自分の手で貶めたことによる後悔が渦まく。
くらげは、諦めている。
いつだって諦めて、譲歩して、後悔して、理解している。
そんなこと『僕にできるわけがない』と。
「『かわいい子には苦労をさせよ』《トラブル・トラベル》」
そうしてくらげは初めて、自らの意志で、そのスキルを使った。
ぐにゃりと、くらげの周りの空間が、くらげごと歪む。そうして、その世界からくらげは消え去った。
霊夢は、その様子を見終わると、億劫そうにため息をついて、
「馬鹿ね」
と呟くと、魔理沙の様子を確かめて、洋館の方へ振り返った。
屋根の上では、霊夢にお灸を据えられて倒れたフランドールを、他の皆が取り囲んで心配しているようだった。
「ま、いいわ」
霊夢はそう言うと、異変を止めさせるべく、洋館の屋根の方へ飛んでいった。
こうして、くらげはまたもや別の世界に旅立った。
次なる世界は、空間が歪み、曲がり、繋がった世界。
血にまみれ、死を纏い、狂気に食われ、絶望で満ちる。
『型月』の世界で、くらげは自分の片鱗を知る。
草木も眠る丑三つ時、辺りには死が漂い、殺意に身が凍える。
そして、見上げる空には月が一つ。
ああ、こんやはこんなにも つきが、きれい―――だ―――
以上、東方紅魔郷編、終了です。
ようやくここで半分、折り返し地点です。
多分、幕間を挟んで、次からは型月編です。
月姫とか、空の境界とか、Fateとか、その辺が混ざります。
もしよろしければ、続けて、どうぞよろしく。