僕にできるわけがない!【完結】   作:ちひろん

3 / 49
それは魔法の言葉なの?

 鳴り響くサイレンに、くらげと女の子は顔を見合わせて、辺りの惨状を見た。

 砕けたブロック塀に、剥がれたアスファルト、倒れた電信柱、言い逃れが出来ない状況がいろいろと揃っていた。

 

 「わたしたち、このまま居ると…」

 

 くらげは、女の子が何を言いたいのかを理解して頷いた。このままでは、大変アレである。

 そうして、二人と一匹は、その場から逃げるように立ち去った。

 

 その後、訪れたのは人気の無い公園だった。

 夜も遅く、辺りは真っ暗である。

 女の子は街頭の下にある備え付けのベンチに座り、フェレットを膝の上に座らせた。

 くらげは、女の子から人一人分離れた左側に座る。

 そもそも、引きこもりのくらげは、あまり人と話す機会がない。ただでさえ人と話すのは苦手であるのに、それにもまして女の子である。しかも、先ほど殺されかけた女の子である。

 くらげにはハードルが高過ぎた。

 

 しかし、くらげが座ったあと、女の子はその一人分の距離を何気なく詰めてきた。服越しに、肌が触れ合う。

 くらげは、声に出さずに叫び声を上げた。触れ合う右腕にに女の子の微かな体温を感じ、鼓動が速くなる。くらげは、女の子に気づかれないことを祈った。

 

 「あの」

 

 その女の子の声にビクリと反応する。いうまでもなく、恐怖のためだ。

 女の子はくらげの様子に気づかずに、落ち着きなく、両手の指を絡ませながら言う。

 

 「あの、自己紹介しても、いい?」

 

 くらげは無言で頷く。くらげは頷く以外の選択を教えて欲しかった。

 

 「あの、わたし、高町なのは。えっと、小学三年生で…」

 

 モジモジと指を動かしながら話すなのは。くらげは先ほどからなのはの行動がよく分からなかった。落ち着きがなく、言葉もはっきりと話せていない。呪文を唱えていた時とは大違いだった

 くらげはその場の雰囲気で、ついてきてしまったが、早くなのはから離れたかった。が、とりあえず自己紹介くらいは、と話しはじめた。

 

 「えっと、僕も、小学三年生で、黒神くらげ、です」

 

 なのはは、頬を紅く染めて微笑む。

 

 「いい名前だね」

 「そう…?」

 「ふわふわな感じ」

 「そう…」

 

 くらげは、早めに会話を切り上げて、早くなのはから離れたかった。また、何かの粗相をして、殺されかけるのは御免だった。

 

 と、そこにフェレットから声がかかった。

 

 「お話に割り込んですみません」

 

 そう丁寧に前置きして、頭を少し下げると、話しを続けた。

 

 「まず、助けていただいたことにお礼を。お二人とも、本当にありがとうございました。そして、巻き込んでしまったことを謝罪させてください。本当にすみませんでした」

 

 そういいながら、深々と頭を下げる。

 

 「僕の名前は、ユーノ・スクライア、ここではない別の世界から来ました」

 

 その言葉になのはは驚いていたが、それ以上に驚いていたのはくらげの方だった。

 自分以外に、別の世界から来た人がいる。くらげは、ユーノに親近感が湧いた。

 

 そして、ユーノは先ほどのことについて、説明を始めた。

 

 遺跡発掘の仕事中に、ジュエルシードという古代遺産を見つけたこと、調査団に頼んで運んでもらったが事故に合い、その二十一個が地球へ散らばったこと、まだ二つしか集めていないこと、ジュエルシードは持ち主の願いを叶えるが、力の発現が不安定で、暴走することもあること、そして今回がそれであること。

 

 話を聞いて、くらげはようやくなのはとユーノが初対面であることを知った。

 つまり、ここに居る二人と一匹は、初対面ということになる。

 

 「一週間、いえ、五日もあれば魔力が回復します。そうしたら直ぐに出ていきますので…」

 「駄目」

 

 なのは、ユーノの言葉を遮る。それは、有無を言わせない圧力があった。

 

 「ご迷惑なことは分かっているつもりです。ほんの少しだけで…」

 「そうじゃないよ」

 

 なのはは、ユーノの目を見つめ、

 

 「困っている君がいて、助けられるわたしがいる。それならわたしは迷わない、わたしも手伝うよ」

 

 そう言って、笑った。

 だが、ユーノは慌てていた。

 

 「だ、駄目です! 危険なんです! 今回はどうにかなりましたが、次は死ぬかもしれない!」

 「それでも、手伝うよ。それともたった一人でなんとかなるの?」

 

 なのはの迫力に押され、ユーノは言葉を詰まらせる。

 

 「一人は寂しいよ。一人よりも二人、二人よりも三人だよ」

 

 なのははそう言って、ユーノを見て、微笑む。

 くらげは、勝手にその中に自分を入れられていることに絶望した。

 

 「ね?」

 

 なのははくらげを見る。その目は先ほど初めて会ったとは思えないほど、信頼に満ちている。

 正直、くらげとしては、そんな危険なことに首をつっこみたくはなかったが、ここで頷かない選択肢を、くらげは知らない。

 

 「う、うん」

 

 くらげは、曖昧に頷いた。

 

 手伝うも何も、くらげは今しがた次元移動して来たばかりである。むしろくらげの方が助けてほしいくらいである。

 と、ここでくらげは、言っていないことを思い出した。

 

 「あの、僕も、別の世界から来たんだけど…」

 

 ユーノは、驚いた様子を見せた。先ほどのくらげと、丁度逆の立場だろう。

 なのはも、唖然とくらげを見ていた。

 

 「でも、ここ、元の世界とそっくりなんだ。さっき言ってたけど、ここ、地球なんだよね? 僕が住んでいた所も地球で、道路とか、乗り物とか、僕がいた世界そのものというか、でも次元を超えたことは間違いないはずで…」

 

 くらげは、次元移動を疑うレベルに似ているこの世界に、驚いていた。アスファルト、電信柱、パトカー、自分のスキルのことを知らなければ、単なる場所移動と勘違いしたかもしれない。

 だが、そうでないことは、くらげが一番よく知っていた。

 

 ユーノは、少し俯いて言う。

 

 「なるほど、にわかには信じ難いですが、それが本当なら、くらげさんは平行世界からこの世界へ移動した、のでしょうか」

 

 くらげは、その答えが正しいか、と言うよりも突拍子もない話に答えを見つけ出せる、ということに驚いた。

 

 「あの、元の世界に帰れる、かな?」

 

 くらげは、できるならば元の世界へ帰りたかった。だが、くらげのスキルで元の世界へ帰れる可能性は非常に低い。

 万が一の可能性にかけても良いが、辿り着くまでにいくつも世界を越えなければいけない。今回のように恵まれた世界に来れるのは、二度とないかもしれない。

 恐らく、志半ばで命を落とす可能性の方が高かった。

 ユーノは頭をひねる。

 

 「帰れないのですか?」

 「うん」

 「どうやってこの世界へ?」

 「僕のスキルというか、超能力? でも、一方通行で…」

 

 ユーノは何かを真剣に思考していた。そして、しばらくして、顔を上げた。

 

 「人一人の力で次元移動なんて…、正直、くらげさんが嘘をついているとしか思えない。ですが、先程、暴走したジュエルシードを、ほんの数秒ですが、気配すら消失されたことも事実。くらげさんの言葉を信じるとして、くらげさんのその次元を移動する能力は、奇跡を体現しているといえます。その奇跡は、地球の技術では、いえ、僕の世界の技術でも実現不可能です」

 

 くらげは、ユーノの言葉を聞いて、『一人自由自在に次元移動する人外を知ってるけど』と思ったが、信じてもらえるような状況でないと思い、黙った。

 

 「残酷なようですが、こちらの世界で生きていくことを決断したほうがよいかと…」

 

 くらげは、その言葉に天を仰いだ。

 それは、元の世界との離別という事実に悲観したわけではない。元の世界でのいい思い出など、皆無に等しい。

 だが、まったく無いわけでもなかった。父である黒神舵樹や、姉の黒神めだかからの無償の愛は、くらげの心にちゃんと届いていたのだ。

 

 「そう、かあ」

 

 だが、くらげは泣かなかった。

 それは、悲しくなかったわけではない。ただ、『自分の人生などこんなものだ』と、諦めただけだった。

 

 「では、先ほど現れた時が、その、次元移動の直後なのですか?」

 「うん」

 「では、住む所もないのでは?」

 

 その質問は、今、くらげが一番に考えなくてはいけないことだった。

 なにせ、くらげは無一文である。

 どこぞで野宿するとしても、食事の問題もある。昔のくらげなら、毒が無ければ何でも食べられたが、贅沢を知ってしまったくらげには辛いものがある。勿論、最悪の場合は、その手段をとらざるを得ない。

 

 「そうなんだよね…」

 

 こちらの世界では、生きていくとすれば、一時しのぎではなく、定住先が必要になる。

 どこに住むか、食事はどうするか、学校に行くのか、お金をどうやって稼ぐか、問題は山積みだ。

 

 そんなことをくらげが考えていると、なのはは、顔を紅く染めあげて言った。

 

 「ユーノ君、大丈夫だよ。だって、わたしと、くらげ君は、けっ、結婚するんだもん!」

 

 くらげの思考が一瞬停止した。

 恥ずかしさに顔を覆い隠すなのはと、固まったくらげ、呆然とするユーノがそこにいた。

 くらげは、ハッと我に返る。

 

 「は? え? な、なんでそんな話になってるの?!」

 「だって、わたしのこと、必死に助けてくれたし」

 「あ、あれだけで?! 僕、ほとんどなにもしてないよ?! あんなこと誰にだって」

 「じゃあ、他の女の子でも、同じように助けるの?」

 「いや、それは…」

 

 言い淀んだのは、くらげは基本的に逃走を選択するからだ。決して、なのはだから助けたわけではない。

 だが、言い淀むタイミングは最悪だ。

 

 「わたし、うれしいの。あんなに必死に、助けてくれたことが」

 「でも、結局、やっつけたのは君だし…」

 「大丈夫、これから、一生わたしが守ってみせるから」

 

 くらげは嫌な予感しかしない。

 この危機的状況から、逃げ出すために色々と言葉を探すが、決め手を打ったのは、なのはが先だった。

 

 「それに、わたし、あの、裸、くらげ君に全部見られちゃったし…、そういう時、男の人は、責任とって、結婚、するんだよね?」

 「へ?」

 

 くらげは、ギギギと、錆びついたロボットのようにユーノに顔を向ける。

 ユーノは、くらげの視線に気がついた。

 

 「あ、え、えっと、確かに、そんな話を聞いたことがあるような、ないような」

 

 その答えにくらげは、こっちの世界には、そんなルールがあるのかと唖然とした。

 勿論、そんなルールはない。世間で冗談まがいに言われているのは、元の世界でも、こちらの世界でも同じである。

 

 「で、でもほら、結婚するには年齢が足りないし」

 「じゃあ、婚約、で」

 

 もじもじとするなのはに、くらげは追い詰められていく。

 そうしてくらげは、どうにか打開しようと言い訳をして、

 

 「で、でも、家族も関係する話だし」

 「うん! だから、いまから、うちに来て?」

 

 その地雷を踏み抜いた。




次回は高町家です。
くらげの無事をお祈りください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。