僕にできるわけがない!【完結】   作:ちひろん

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分からない気持ちなの?

 くらげとフェイトの生活は、大きな問題もなく、順調だと言えた。

 

 ただ、フェイトが同じベットでくらげと寝ようとしてくらげがソファで寝ると断固拒否したり、フェイトが脱ぎた散らかした下着や服にくらげが戸惑ったり、くらげがお風呂に入っているとわざわざ合わせて入ってくるフェイトにどぎまぎしたり、フェイトが使い魔のアルフという犬をくらげに紹介したり、ふさふさの毛をした犬シェットランド・シープドッグように見えるアルフがスタイル抜群の女性に変身してくらげが驚いたり、「フェイトをよろしくね」とアルフから言われて何やらドキドキするくらげがいたり、と要はくらげがどぎまぎしたり、驚いたりすることが多々あった。

 

 だが、くらげにとってそれは、どこか安らげる時間であった。

 くらげもフェイトも多弁ではないため、無言である時間のほうが長かったが、むしろその時間の方が心地よかった。無理に話しをする必要がなく、目が合ってただ笑いあうだけで、心が通じ合えたような気さえした。

 

 けれど、微かな不安はあった。

 くらげはフェイトのことをほとんど知らない。

 魔導師であること、ジュエルシードを集めていること、大きくいえばその二点しかしらない。

 

 フェイトは謎が多い女の子だった。

 くらげと一緒にいるときは笑っていることが多いが、普段は無表情か、もしくは深刻な顔をしていることが多いし、ふとすれば、くらげの背筋が凍るような目つきをすることもある。

 

 ある日は身体中に縄の跡とも、鞭の跡とも言えるような、傷跡をつけて帰ってきたこともあったり、別の日は手に大やけどを負って帰ってきたこともある。そのたびにフェイトは、「見た目ほど痛くないから」と曖昧に笑ってごまかそうとするが、それに誤魔化させるほどくらげは馬鹿ではない。

 

 だが、くらげはそれに対して追求しなかった。

 

 くらげは、いつも「そう…」と返事をするだけで、フェイトが言いたくないことなら、聞かなくてもいい思っていた。

 

 フェイトが辛そうな顔をして帰ってきたときも、苦痛に歪んだ顔で帰ってきたときも、「大丈夫…?」と声をかけるだけで、何もしなかった。

 

 勿論、くらげはフェイトが心配だった。けれど、くらげは今の生活が、毎日が壊れることが、怖かった。だから、今のままでいいと、その不安に目を瞑った。

 

 だから、その致命的な変化を、くらげは見逃した。

 

 その日のフェイトはいつにも増しておかしかった。昼頃に帰宅してからというもの、くらげと目が合ってもすぐにそらし、くらげの問いかけにも上の空で、適当な相槌しか打たなかった。それは、レトルトの夕飯を食べ終わった後も続いた。

 そして、夜の8時30分を回ったとき、フェイトは俯いていた顔をあげて、突然震える声で言った。

 

 「公園まで、散歩に、行かない?」

 

 そんな提案をフェイトがすることは初めてだった。その隣に犬型で座っているアルフは、顔を俯かせて、ただ黙って座っていた。

 何か普通と違う雰囲気がしたが、くらげはフェイトの誘いを断らなかった。

 

 「うん」

 

 その言葉の裏に何かあることに気づきながら、くらげはそう端的にうなづいた。

 

 フェイトはいつものように黒いワンピースの上にジャケットを羽織り、くらげはフェイトからもらった黒いジーパンと黒いハイネックを着て、その上にフェイトと同じようなジャケットを羽織った。

 ちなみに、フェイトがたまたま家にあった服だと言っていたが、サイズがくらげぴったりで、まるでフェイトがくらげのために購入したもののように思えるくらいだった。

 

 二人はマンションから外へ出る。

 昼間は暖かいが、夜になれば気温も下がる。凍えるまではないが、ジャケットでも着なければ、震えがくる程度には寒かった。

 

 心なしか、二人は少し離れて並んで、公園に向かって歩く。

 会話はない、どこか緊張しているような、変な緊迫感があり、それがくらげの口を塞いでいた。

 だが、くらげはフェイトに心を許していた。言葉にする必要はないと思っていたのかもしれない。

 

 フェイトとくらげはマンションの近くにある公園ではなく、少し離れた公園に到着し、備え付けのベンチに腰を下ろした。

 たまに街灯がちらつき、虫の鳴き声とたまに通り過ぎる車の音が聞こえる。くらげの隣にはフェイトが俯いたまま、深刻な顔をして座っていた。その手はキツく握られており、心なしか震えているようにも見える。

 

 くらげは、フェイトの様子がおかしいと思いつつも、それについて、なんと言えばいいか分からず、黙っていた。

 

 そして、急に、虫の鳴き声が聞こえなくなった。

 

 途端に辺りを静寂が包む。それは耳が痛くなるほどで、フェイトの途切れがちな、息遣いすら聞こえてくるほどだった。

 そして、その静寂を壊す声がした。

 

 「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ」

 

 驚いたくらげが、声の方へ顔を向けた。そこには、黒い制服のようなものに身を包んだ男の子が立っていた。その手にはフェイトと同じ、金属製の杖が握られている。この状況から考えて、魔導師であることは明白だった。

 そして、その後ろには、なのはと知らない男の子が、悲しそうな顔をして立っていた。

 

 くらげは、混乱した。

 フェイトがくらげを散歩に誘って、公園で魔導師と出会う。

 何が起こっているのか、分からず、くらげはフェイトの方へ顔を向けた。

 

 フェイトは、ベンチに座っていなかった。

 そこには、魔導師の戦闘服であるバリアジャケットに身を包んだフェイトが立っていた。

 その顔は、口は真一文字に結び、くらげを見据えていた。

 

 「…え?」

 

 くらげがフェイトの変化に追いつけないでいると、クロノと名乗った男の子が、くらげに声をかけた。

 

 「黒神くらげ君だね」

 

 なぜ自分の名前を知っているのか、くらげは困惑した。

 

 「君のことは、後ろの二人から聞いている。安心してくれ、君に危害を加えるつもりはない、むしろ」

 

 クロノはそういうと、杖から青い宝石を一つ出すと、目の前に浮遊させた。それは、ジュエルシードだった。

 

 「僕は、君を保護するためにきた」

 

 助ける? 誰を? くらげは、クロノの言葉を理解できない。

 

 「君の立場は非常に危うい。事が解決したところで、その時点で君がフェイト・テスタロッサの側にいれば、その関係性を疑われる。逮捕という可能性も否定できない。だから、この取引は、君の安全を確保するためのものだ」

 

 取引という言葉に、くらげは、嫌な予感がした。心の奥から、吐き気がせり上がってくる。

 

 「フェイト・テスタロッサ! 取引の内容は、昼間説明したとおりだ。こちらはジュエルシード一つ、そちらは黒神くらげ君を引き渡す!」

 

 嫌な汗が、くらげの背中に幾つかの筋を作る。

 くらげの後ろにはフェイトが居る。

 先ほどからフェイトは何も喋っていない。何も否定していない。

 くらげは、目の前で起きていることを肯定したくなかった。だから、フェイトが一言否定してくれさえすれば、それだけで全て信じれると、フェイトの方へ振り向いた。

 

 その瞬間、くらげの両手両足は魔力の塊でロックされた。『バインド』と呼ばれる魔導師が敵を拘束するための魔法である。

 

 誰かが、くらげにその魔法をかけたのだ。

 

 そして、フェイトは、その杖をくらげに向けていた。

 

 

 「ああぁぁ…」

 

 くらげは、嗚咽のような声を吐き出した。フェイトは表情を変えずに、瞬きもせずに、くらげを見ていた。

 目が少し、赤い。

 

 「フェイト・テスタロッサ、そのままだ」

 

 クロノがそういうと、ジュエルシードは、浮遊したまま、くらげから離れた場所まで移動して停止した。ジュエルシードとくらげを、フェイトとクロノが挟んでいる形である。フェイトとクロノ、ジュエルシードとくらげの距離は、十分に離れている。

 

 「よし、ではお互いに対価を受け取る。ゆっくりと、歩け」

 

 その声で、フェイトはジュエルシードへ、クロノはくらげの方で歩く。

 やがて、互いに目的のものに到着すると、フェイトはジュエルシートをじっと見つめて、固く握りしめた杖で、ジュエルシードを受け取る。

 

 途端、くらげのバインドが解かれた。

 急に解放されたくらげは尻餅をつくが、立ち上がることなく、そのまま蹲った。

 

 フェイトは振り返らず、力ない様子で、そのまま飛び立った。

 

 クロノは、独り言のように、話し始めた。

 

 「君の確保、準備万端な状態でのフェイト・テスタロッサの追跡による潜伏先の割り出し。ジュエルシード一つを引き換えにすることは危険だが、場合によってはフェイト・テスタロッサを取り押さえ、所持するジュエルシードを回収することもできる。最善ではないが、悪くない」

 

 そして、蹲ったくらげを見た。

 

 「この作戦は、僕が行うべきだと判断した。文句があるなら、まず、僕に言ってくれ」

 

 くらげは蹲ったまま震える。

 

 「悪いが、君は僕たちが乗っている、次元航行艦『アースラ』に来てもらう」

 

 クロノの断言する言葉に反応することなく、くらげは蹲ったまま、震える声で「はい」と答えた。

 

 

 

 




くらげとフェイトをこれ以上一緒に居させると、最後まで一緒にいるかもしれないので、心苦しいですが、引き離します。

ごめんよ…くらげ…
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