「ここは…どこだ?」
つい先程紛争地域にて召喚され、役目を終え帰還したばかりだというのにこうも短いスパンで再び召喚されるとは。
星の数ほどいる英霊の中で立て続けにお声がかかるあたり、どうやら世界の意思というのは相当なドSなのだろう。
さて、改めて今の状況を確認してみよう。
どうやら俺は召喚早々事故にあったようで、道路とおぼしき場所で横たえているようだ。それと、ひどく身体を打ったようで、起き上がろうとしても電池が切れたように力が入らない。
少し待て、召喚早々事故だと?以前にもマスターのミスで召喚時に部屋を荒らすという失敗をしたような気がするが、ここまで酷いケースは前例がない。
それに、サーヴァントと化した今の俺なら、余程の戦闘でもなければ傷を負うことすらないが、周囲に他のサーヴァントや強力な魔力の反応は無い。ということは、少なくとも今の状況は戦闘で敗北した結果、というわけではないのだろう。
では一体なぜ…
「お兄ちゃん!しっかりして!お兄ちゃん!!」
お兄ちゃんだと?俺の事を兄と慕う人物は1人しか知らない。それにこの懐かしい声は…
「イリ…ヤ…」
「お兄ちゃん!!」
ぼんやりとした視界の中で、俺は確かに見た。
一緒にいた期間は短かったし、当時は敵対関係だったが、それでも唯一の俺の妹であり、同時に姉でもある存在。
「イリヤ…大きくなったな…」
なぜイリヤがこの場にいるのか、もはやそんな事はどうでもよかった。彼女がそこにいる、それだけで充分だった。
よく見るとイリヤは俺の知るイリヤよりもひと回り大きい。それに、周りにはイリヤを励ましてくれている少女たちもいた。恐らく友達なのだろう、俺の知っていたイリヤには残念ながら友達がいなかった。
何もかもが俺の知っているイリヤよりも恵まれたイリヤ、彼女を見れただけで俺は充分だった。
「お兄ちゃん!しっかりして、お兄ちゃん!」
イリヤの顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。こんな俺でも、大事に想ってくれていると思うと堪らなく嬉しかった。
だが、だからこそそんな風に泣いて欲しくなかった。
身体が動かなくなる程の重傷だ、魔力切れで現界できるのもあと僅かだろう。
だから、せめて最後は彼女の笑顔が見たかった。
「イリ…ヤ…」
辛うじて動かせた右手を、イリヤの頭に乗せ、そのまま撫でてみる。サラサラしていて、何時までもこうしていたくなるような髪だった。
「お兄ちゃん…?」
驚いたような顔をするイリヤ。俺の知ってるイリヤよりも、随分たくさんの顔を持ってるんだな。
今目の前にいる彼女は、聖杯なんてものにも、アイツベルンという家に縛られることもなく、今までも、これからも、笑顔の溢れる幸せな人生を送るのだろう。
それがとても嬉しくて、気がつくと自分が笑っているのが分かった。
そんな俺の笑顔につられてか、はたまた俺の望みに気付いたのか、イリヤも笑顔を浮かべていた。
遠い昔に見た、無邪気なその笑顔。
それを見た時、初めて芽生えた。
彼女の笑顔をこの先も守りたい、彼女のために生きたいと。
もしかしすると、俺はようやく自分の命を、救済の対象に入れることができたのかもしれない。
俺をずっと苦しめてきた病気は、こんな簡単な事で治るものだったのか。
もっとイリヤと話したかった。
だが、意識がそろそろ現界だ。この意識が途切れれば、次目を覚ます時は英霊の座なのだろう。
だからせめて最後に、俺を癒してくれたイリヤに、一言お礼が言いたかった。
「イリヤ…ありがとう…」
「お兄ちゃん!!イヤ!行っちゃヤダ!!」
ごめん、ごめんなイリヤ。
俺だってもっと話をしたかった。もっと一緒にいたかった。
だがもう限界だ。
さよならは言わない。恐らくもう彼女と会う事は2度とないのだろう。だから少しでも未練を絶つためにも、俺は目を閉じた。
消えゆく意識の中で、イリヤの友達の中で1人、イリヤにヤケにソックリな女の子がいた事と、手を伸ばした時に俺の腕がヤケに細かった事に疑問を持ちながら。
セイバーの出番はもう少し先になる予定です。
エミヤの説明は、おそらくこのssを読まれる方は既に承知の方が多いと思うので省きました。
もし読みたい、説明して欲しいという要望があれば、書こうと思います。