2話
痛みで目が覚めた。
どうやら、先の事故で負った傷は中々の重症のようだ。これでは満足に体を動かせるまでしばらくかかりそうだ。
ん?事故…そうだ、俺はあの時英霊の座に帰るものだとばかり思っていた。あれ程の傷を負えば、修復が間に合わず体の方が決壊するはずだ。しかし、今は痛む程度で済んでいる。
そして気になる事がもう1つ。
イリヤの頭を撫でた際、俺の腕が細かった事だ。それも、俺がまだ唯の人間だった頃のように。
自分の手を見てみる。その次に痛みに耐えながらも体を起こして周りを見ると、手鏡があったので見てみる。
「体が…若返ったのか…」
俺の外見は、世界と契約する前のまだ人間だった頃、より正確に言えば聖杯戦争に巻き込まれた高校時代と酷似していた。
体つきや筋肉も、恐らく同年代と比べればかなり優れた方なのだろうが、サーヴァントと戦うにはあまり脆すぎるものだった。
これは、俺が高校時代の姿で召喚されたという事なのだろうか。
いや違う、今の俺は"高校時代の衛宮士郎を触媒として召喚され、その体を宿主にして意識を保つことができる" というのが正解なのだろう。
ではこの体の本来の持ち主である、いわばこの世界における私のマスター衛宮士郎はどうなったのか。この問いに関しても、直ぐに答えを導き出せた。
彼はもういない、あの事故に遭った時、彼はもう既に死んでいたのだ。そこに彼の体を乗っ取る形で俺が召喚されたのだ。
不本意とはいえ、とんでもない事をしてしまったと思った。
俺はイリヤの笑顔を見た時、彼女を守りたいと思った。しかし、その時にはすでに、彼女の笑顔が向けられるべき対象を殺してしまっていたのだ。
「何が正義の味方だ…俺はまた…」
この一連の事実に気付いた時、頭の中に少年衛宮の記憶が一気に流れてきた。
「ッ…」
ひどい頭痛がする。17年もの記憶と同調することになるのだ、無理もない。
だが、俺がこの先少年衛宮の体を受け継ぎ、彼の代わりにイリヤを守るなら、この痛みは少年衛宮の命を奪った罰だ。
乗り越えなければならない。そうでなければ少年衛宮に、そして何よりイリヤに顔向けできない。
少しして頭痛が和らぐと、徐々にだが、少年衛宮の記憶が馴染んできた。
まず驚いたのが、切嗣が死亡していないという事だ。第4次聖杯戦争は未然に回避されたのか、本来聖杯の器となるべき人物であり、切嗣の妻、もっといえば俺の養母にあたるアイリスフィールも生きている。
これだけでも、俺のいた世界とはかなり掛け離れた世界なのだと分かる。
それ以外の相違点を纏めてみると、
・衛宮士郎は現在穂群原高校2年の17歳
・家族構成は俺とイリヤに、メイドのリズとセラ、そして従妹のクロエことクロの5人で、切嗣とアイリさんは海外出張
・俺がかつて住んでいた家とは違う一軒家に住んでいて、俺のいた家は別荘扱いになっている
・弓道部を続けている
・遠坂とルヴィアが転校生
・親しい友人として、一成・桜・慎二の他に、森山奈々美というイリヤの同級生の姉がいる
・ついでいうと慎二はあんまり変わらない
といった具合だ。
1番肝心の事故だが、俺が下校中にイリヤ・クロとその友達一向に会った時、突っ込んできた車からイリヤを庇って撥ねられたらしい。
こう言うのは不謹慎だが、咄嗟の判断で自分よりイリヤを優先した辺り、どこの世界でも衛宮士郎という人間の根本的な部分は変わらないらしい。全く、あの馬鹿者め。
俺がこうして召喚していなければ、イリヤは、切嗣は、みんなはどれだけ悲しんだのだろうか。
この時、俺はある事を決意した。
"この世界の衛宮士郎となって生きていく"
こうして彼の体を受け継いだのには、きっと何か意味があるはずだ。そうでなくても、世界が衛宮士郎という存在を他人の憑依という形で生かしたのであれば、俺はこれからも衛宮士郎として生きていく義務がある。
彼がこの世界で多くの人間にとって大切な存在であったのなら、俺はこれからもそうあり続けよう。
少年衛宮にできて、俺にできないはずがない。歩んできた道は違えど同じ人間なのだから。
何故俺が召喚されたのか、それは分からない。だが、きっかけが何であれ俺は俺が決めた道を行く。今まで何度も世界の掃除屋として働いたのだ、一度くらい逆らったところでバチの1つは当たらないだろう。
さて、今自分が置かれた事情が分かったところで、そろそろ寝るとしよう。
余裕そうに考え事をしていたが、体の傷の方がそろそろ限界だ。誰か起こしに来るまで寝るとしy
「お兄ちゃん…」
「重症だけど命に別状はないらしいから安心しなさいよ。そんな暗い顔見せたら、逆に心配されるわよ?」
「ハハ…割とありそうだね…」
「もういつまでそんな顔してんのよ…あっ!いいこと思いついた!」
「また面倒な事起こす気?」
「違うって。お兄ちゃんまだ寝てるだろうから、ベッドにお邪魔して添い寝してあげるだけだよ♪なんなら、ついでに既成事実も…
「そ、そんなのズルっ…じゃなくて、ダメーー!!」
「おっと、1番乗りは私だよ〜♪」
「待ちなさい!クロ!!」
2人とも、病院では静かに話そう。おそらく廊下にいるのだろうが、大声で内容がダダ漏れだ。それとクロ、君は一体どこでそんな事学んだのだ。小学生が既成事実という言葉を知ってるのは些か問題があるだろう。
まぁ、細かい事はともかく、2人が俺の事を思ってくれているという事実はとても嬉しかった。
俺は衛宮士郎として生きていく、この決意をもう一度深く固めると共に、どんな顔をしてイリヤとクロを出迎えるかを考えるのであった。
タイトルに「セイバー戦争」とあるように、最終的には全アルトリア顔とエミヤがイチャイチャするSSを目指してますが、セイバー登場はもう少し先になりそうです。
セイバー戦争の文字で興味を持たれた方、申し訳ありません。