今回はいつもよりも長めです。
「イリヤさん!クロさん!病院では大声を出してはいけないとあれ程言いましたでしょう!!」
「「ごめんなさい。」」
イリヤとクロは今、メイドのセラに怒られている。まぁ病室からでも聞こえる程の大声で会話、途中で競争に発展していたのだからセラが怒る気持ちも分からなくもない。だが…
「セラうるさい、ナースに白い目で見られてる。」
「今はイリヤさんとクロさんへのお説教の方が先です。大体あなたもあなたですよ、リーゼリット。私言いましたよね?受付で手続きをするからその間お二人を見てなさいと。それなのにあなたときたら、『あ、あのジュースおいしそう。』などと余所見して、そんな事してるからお二人を見逃すのです。日頃の生活態度といい、今回の事といい、メイドというものをなんだと思ってるんですか貴女は。これは一度奥様と旦那様にキツく言ってもらう必要がありますね。」
「アイリと切嗣は私に意地悪しない。それと、セラ台詞が長い。」
「台詞が長い?フン、何を言い出すかと思えばそんな事ですか。言っておきますが、これでも要約している方なのですからね?今度一度文章にしてさしあげましょうか?それにあなたは〜」
このままでは埒があかない。この辺りで仲裁に入らないと、セラが面会禁止になり兼ねない。
「な、なぁセラさん?みんな反省してるようだし、その辺で一区切りいれないか?」
「部外者は引っ込んでてください!私は今、リーゼリットにメイドとは何たるかを一からお話しているのです。病人は病人らしく、寝てでもいたらどうですか?」
「なんでさ!それより、もう少し声を抑えた方がいい。病院からつまみ出されるぞ。」
「つまみ出させる?何を言い出すかと思えばそんな事ですか。いいですか士郎さん、先程も言いましたがこれはあの3人のために必要n」
「失礼します、そこの方、少しよろしいですか?」
セラのお説教を聞きつけて、白衣を着た初老の医者がナースを数人引き連れて声をかけてきた。表情はセラで隠れててよく見えないが、横に目をやるとイリヤとクロの2人が怯えていたので、余程お怒りなのだろう。
「は、はい。なんでしょうか?」
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「セ、セラと申します。」
「当病院には入院患者も多くいます。中には耳が弱い方もいられます。なので、もう少し声を抑えていただいてもよろしいですか?」
「は、ハイ!申しわけございません!」
てっきり出入り禁止にされるかと思っていたが、思いの外優しい説得だった
「では失礼します。」
「お仕事中に手間をかけさせて申し訳ございませんでした。」
「いえいえ、"旦那さん"が無事だったのですから、気が緩んで当然でしょう。母娘そろって面会なんて今時珍しいですから、見ていてとても微笑ましいですよ。おっと、親子水入らずの場で水を差すのもあれですな。それでは、失礼します。」
「「「「「ハァ…」」」」」
もう少しキツイことを言われると覚悟していたが、何事もなく終わってホッとした。そう何事もなく。何事も…
「「って、親子!?」」
気が緩んでいたのか、つい大きな声が出てしまった。
「わ、私と士郎さんが夫婦だなんて、そんなまた、だってまだ学生ですよ、えぇ。でも、ネクタイを締めたり緩めたり、キッチンで一緒に料理したり、ついでに後ろから抱きしめられたりなんて、そんな生活も…って何言わせてるんですか!!」
「こ、声が大きい、セラ!後あんま叩かないで、まだ傷が痛むから。」
「も、申し訳ございません。つい舞い上がってしまいました。」
「士郎の奥さんは、セラじゃなくて、私。」
「あなたも何を言ってるんですかリーゼリット!この話はもうお終いです!」
「私もどうせなら、娘じゃなくて嫁の方がいいな〜。イリヤもそうでしょ?」
「な!ク、クロも何言ってるの!?べ、別に私はお兄ちゃんの妹だし!誰が娘だろうが奥さんだろうが、私は勝ち組なんだから!!」
「なんでさ…」
前言撤回。あの医者、最後にとんでもない爆弾を落としていったな…
「それで、お体の方は大丈夫ですか?」
あれから暫くして落ち着いた後、セラが体の調子を訪ねてきた。というより、こちらが本題のはずなのだが…。
「あぁ、傷が痛むが、体はなんとか動かせる。骨折とかはあるのか?」
「いえ、お医者様によると右足と左腕が打撲と捻挫だそうですが、それ以外は特に。全く、あれ程の無茶をしながらこれだけの怪我で済むなんて、一生分の運を使い果たしたのではないですか?」
「あぁ、これじゃもう宝クジは買えないな。」
言動に反して表情は穏やかなセラ。先の医者の話だと、きっと入院の手続きを全部してくれたのだろう。そう思うと、頭が上がらない。
「ありがとな、セラ。色々してくれて。」
「お礼なんていいですよ。メイドとして当然のことをしたまでです。それに、あなたは高校2年生、少し背丈が伸びて頭が良くなったからといって、私からすればまだまだ子どもです。子どもに尽くすのが保護者の有るべき姿だと自負してますから。」
あぁ、この人は誰よりも優しい。この世界の俺は、仕事で忙しいアイリさんの代わりにセラがずっと面倒をみてくれていたんだ。
藤ねぇが俺を見守ってくれていたように、彼女もきっと俺の事を見守り導き続けてくれているのだろう、いつか大人になるその日まで。だから、感謝を込めて。
「俺、セラがメイドでよかったよ。」
「な、何をいきなり言い出すんですか!」
「セラ、照れてる。かわいい。」
「リーゼリット!茶化すのはやめなさい!…コホン。士郎さん、その台詞は、今より大きくなった時に言ってください。その時まで待ってますから。」
彼女の包み込むような優しい笑みを見て、俺は改めてセラがメイドでよかったと思った。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。私が事故に遭わなければ怪我をしなかったのに…」
そう言って、涙ながらに頭をさげるイリヤ。だが、今欲しい言葉は謝罪ではない。
「違うだろ、イリヤ。お前は事故に遭って怪我をすればよかったのか?」
「それは!それは…違う…」
そうだ、それは違う。この世界の俺はそれを防ぐために命を落としたんだ。
「そうだろ?なら、今イリヤは何をすべきだ?」
「あ、ありがとう、お兄ちゃん。」
「正解。」
そう言って俺は上半身で彼女を抱きしめた。
「お、お兄ちゃん!?」
「妹を守るのが、兄貴の務めだからな。」
「〒€%☆$#〜!?!?」
そうだ。そのために俺はここにいると決めたのだ。自分にそう言い聞かせると共に、彼女の髪をそっと撫でる。
「俺はもう大丈夫だから。」
「イリヤばっかりずる〜い!私もギュ〜っとして欲しいなっ♪」
「私も、士郎のこと心配した。もっと慰められるべき!」
そう言いながら、身を屈めて頭を寄せてくるクロとリズ。俺はイリヤから一言いって身体を離し、今度は2人の頭を撫でた。
「2人も、俺の事心配してくれてありがとう。何度も言ってるけど、この通りだからさ。」
「エヘヘ〜もっともっと〜」
「上出来」
嬉しそうに目を細める2人。あまり構ってあげられなくて申し訳なかったが、この様子なら清算できただろう。
さて、色々話したが、1番大事なものを忘れていた。
「ただいま、みんな。」
その台詞を言ったのは、果たしていつぶりだっただろう。英霊になってからも、その後も1人で駆け抜け続けた俺が久しく忘れていた言葉を。
家族との穏やかな日常に戻る魔法の言葉を。
ここから、衛宮士郎の新しい物語をはじめよう。
あらすじ、タイトルを大きく変えてすいません。
ですが、もっと多くの方に満足していただけるよう、精進していく所存です。
どうでもいいですが、士郎とセラの絡みはいいですよね。
ホロウアタラクシアで、2人でお化けから逃げる話はかなり好きです。